チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった 作:水性さん
今回は本に関連した話。
〘選ばれぬ者が書見する事なかれ。彼の者は闇の力に飲まれることはあらず。彼の者が闇の知識に触れし時、大いなる力を手に入れるであろう〙
「ふっふっふっふ……はーっ! はっはっはっは!! ついに届い──……手に入れたぞ、闇の禁書目録を!!」
そう言い、キラキラとした目で製本屋に作ってもらったアンティーク調の、案外表紙もページも分厚くしっかりとした黒とエンボス加工やら銀箔が付いた無地の本(これまたアンティークな鎖と南京錠がかけられている)を禍々しい宝箱の中からではなく、ダンボール箱から取り出すと、早速鍵を開けて表紙をめくると先程の文言が目次に書かれていた。
ちょっと奮発して作ってもらってみたのだが、中々の出来だったので、前世の頃から厨二病を患っていた永遠の少年、アグネスくんはとっても喜んだ。
壁に飾ってみたり、360度見回してニヤニヤしたり。
しかしその闇の禁書目録はまだ中身が書かれていない、ただの本なのである。自分で書けるならそうしたいところだが、悲しい事に純粋な少年、アグネスくんは科学的な事や計算などが大の苦手であった。
それに自分で書くのでは、意味が無いのだ。
この本は、前世の頃に思い描いていた
ちなみに前世のその選ばれし者というのが、自己投影しまくった厨二病全開なオリジナル小説の主人公である。……ここで痛いとか言ってはいけない。何故ならその恥ずかしい妄想力で数多くの厨二病な読者に支持され、まだまだ未熟で拙いところもありながらも、編集者の方と頑張った結果、見事書籍化もされていた。なので中学生のライトノベル作家として成功していた人間だったのだから。
(学校でも厨二病全開だったので、友達は一人もできなかったぼっちの中のぼっちで、彼女など夢のまた夢だったが……)
しかし運命というのは残酷だ、最終話が投稿される前に通り魔に刺されてしまった。まぁ、編集者にストーリーのラストはどうなるのかを伝えてあったし、既に小説を書き上げて予約投稿もしていて問題無かったが……。
作者として、読者からの声を聞いたりする事ができなくなってしまった。結構書いた人間側として、応援の声や感想を頂けるのは本当に嬉しいもので、それが最終話ともなれば読者の反応は気になるもの。そこだけは心残りではあったが、転生してなんとビックリ、まさにファンタジーな世界の住民として転生しているではないか!
まぁ、書いていた小説とは違って、滅んだとされる闇の一族の末裔ではなかったし、名前もアスタロト・グリモワールでもなかった。なんなら魔法も闇属性は魔者達にしか使えないし、その魔者達はなんだかアホっぽい(実際には魔法について本能で熟知し過ぎている為、アーティファクトなども簡単に作ってしまう程の技術を持っている)というか、のほほんとしているのだ。
ゲームや自分が書いていた小説では雑魚だったスライムも、何故かとんでもなく強いし、小説に書いていた魔王(イケおじ)もどういう訳か女王(のじゃロリ)になっていた。
それに小説の主人公はThe西洋ファンタジーな国に住んでいたのに、実際の自分は現代日本っぽい、魔法化学が発展したヒエリカだし、第一……。
小説の世界は、まったく、エロ要素が、無かった。
アグネスくんは純情ボーイだった為、前世の母親がよく見ていた恋愛ドラマや少女漫画のキスシーンを一緒に見てよく顔が赤くなって何故か恥ずかしくなって照れたりしていたのだが……。
何故か、この世界はそれ以上にガッツリと性が前に押し出されていた。
過去にちょっとエッチなお色気要素のあるアクション漫画を読んで見たことがあるのだが……過去のアグネスくんにはまだ早かった。
それくらい性に対する耐性がないのに、エロ同人的展開に溢れたこの世界に転生してしまったアグネスくんにとっては、まさに魔界である。
『(こ、婚前の男女が何で白昼堂々と路地裏で行為をしてるんだ!? いやそれよりも、なんていうものをテレビに流してるんだ!! あ、あれやそれが全部丸見えじゃないか!!)』
転生して間もない幼少の頃、前世の頃の習慣というか、前世の母親が好きそうな恋愛ドラマを夜に見ていたアグネスくんが、思いっきり何故かドラマの有名な俳優と女優が路地裏で無修正のイチャラブセックスをしているのを見てしまい、鼻血を出して気絶して次の日の朝に起きた後、アグネスくんはそう思った。
アグネスくんは貞操観念がしっかりしていたのである。現代において、ちょっとしっかりし過ぎている気もするが……無責任な男よりは断然良いのだろう。
閑話休題。
「……中身、どう埋めよう」
アグネスくんは闇の禁書目録を見て呟いた。そもそもこの闇の禁書目録はルシファー……つまりノエルから貰う筈だったものだ。
そしてもう一つ、小説とは違う要素……それはノエルが男装をしていなかった点と、居ない筈の幼馴染(しかも勇者)と恋人の関係で、既に肉体関係を持っていた事、そして皇族になっていた事だ。
容姿は自分の理想通りだったが、それは女の子としての本来の姿という話で、下種な目で見てくる男が寄ってこないようにノエルが髪を短くして男装をしている訳ではない。両親が古い謎の本を手に入れて呪われ、両親を亡くした孤独の悪魔憑きの子でもなかった。
小説ではそんな不幸に見舞われた少女を主人公が助けて、普段は厨二病全開で痛々しいのに後々ピュア過ぎる恋人関係になって、恋愛シーンでは、母の影響かなんとも少女漫画かのような展開になっていくのだが……。
やはり理想は理想であった。
別に主人公のように頭脳が明晰でもなかったし、前世とは変わらず理系は壊滅的だった。だがそれでも、アグネスくんは理想を追い求めたのである。
その結果、アグネスくんは名門校に入る事ができたし、明日はノエルと同じ部門の生徒として入学する。まぁノエルが在校している事は別に知っていた訳でもなかったが……。だって小説ではずっと戦ってばかりで学校なんて行っていなかったから、たまたまである。
本当なら自分がノエルを幸せにしてやりたがったが、相手が居るのなら仕方ない。本人が幸せなら、それでいいのだ。
だからアグネスくんは小説とは違う事は認め、納得しながら受け入れつつも、それでも自分の理想をできる限り実現させることを目指していた。だからこその、この作ってもらっ──いや、手に入れた闇の禁書目録なのだ。
そしてアグネスくんはたった今決めた。
「(ルシファーに、この闇の禁書目録を完成させてもらおう。完成して彼女から渡された時こそ、この本は本物の闇の禁書目録になるんだ)」
まぁただ、見栄え重視でカッコイイ感じにする為に、ページ数がありえないほど多い本になってしまったが……。頼む時は、自分ができる範囲の何かで返そう。
そう思い、初登校となる明日に備えてアグネスくんは荷物などの最終確認をするのだった。
「(僕の事を覚えてくれているかな……)」
~・~・~・~
「(これ、たぶん夜になったら起きるな……とりあえず、本当は嫌だけど部屋知らないから保健室に連れて行って寝かせないと。そしたらゲイル先生に報告かな)
とりあえず、保健室に連れいくからそこで2人とも反省してて」
「ふぁい……♡」
「はーい……」
死神くんが起きるであろう時間帯を察して後ろを向くと、そこには頭の上にたんこぶを付けて喜んでいるレイゼルが転がり、そして何故かそれを羨ましがっているレイネルがそこに居た。……やったの私だけど。
レイネルは羨ましがっちゃダメだよ、それ。
まさしく血塗れな死神くんの顔を魔法で濡らしたハンカチで拭いて綺麗にすると、お姫様抱っこで抱えた。
顔を下にしたら頭に血が上るしまた鼻血出るかもしれないし。おんぶだとどこに血が付くか分かりにくいし、本人が気絶しているからつかまることも出来ない。それに後ろに倒れちゃうし、背の低い私が前かがみの状態で運ぶとなると……腰に悪い。
ただでさえレイゼルのせいで普段から腰にダメージを負っているのに……これ以上ダメージを受けるのにはごめんだね。それに腕の筋力には自信がある。これもレイゼルのせいだけど。
「何で、お姫様抱っこ……? 俺は一度もされた事無い……ずるい。ずるいずるい、ずるい!! 俺だってノエルに優しく抱き抱えられて姫プされたかった!!」
「レイゼルくらい頑丈ならする機会もないし、するとしてもどういう状況なの。というか、お姫様抱っこをされるのにどうして羨ましがる訳。恥ずかしいと思うでしょ普通。あと姫プの意味が違う」
「それに!! たぶん同じくらいの年齢の人間を、抱っこして!! しかもお姫様抱っこで!! 初めてだろ、それ!! 俺は初めて見た!!」
「……確かに、そういえばそうだね」
「ノエルの!! 初めては!! 俺が良かった!!! ノエルの抱っこ処女は!!!! 俺が良かった!!!!」
「抱っこに処女もあるか!! というか、人がいる前でそう言う事言うの止めろ!! ねぇヘレンちゃん、ヘレンちゃんもそう思うよね!?」
私は同意を求めるようにヘレンちゃんに視線を向けると、ヘレンちゃんは顔色を悪くさせてこちらを見ていた。
「か、か……」
「か?」
「かか、か……」
「え、ヘレンちゃんどうしたの、大丈──」
「解釈違いですッ!!!!!!!!」
そして私の心配を他所に、クソデカボイスをヘレンちゃんは口から放つ。……あまりの勢いに吹き飛ぶかと思った、それはもう、アニメとか漫画チックに。
「か、解釈違いって……な、何が?」
「そもそもレイエルでしょう!? ですのに、何故ノエル様は他の殿方を抱えていらっしゃるのです!? えぇ、私が物理的に力の強い女の子に弱いことは認めます!!」
「(なんの話!? というか、何に対して認めてるの!?)」
「たったそれだけの属性でご飯を3杯は頂けるくらいには美味しくいただけます!! もちろん精神的に強い女の子も!! なので一応私はエルレイも頂けるのです!! 例えば子供の頃、食べられなかったふきのとうを久しぶりに食べてチャレンジしてみたら「あれっ? 昔ほどじゃないけど、ちょっとだけ美味しい、かも? いや、でもまだちょっと早いかな」みたいな少しだけの美味しさを感じる程度ですけれども!! 私は、レイゼル様に押されてドギマギして、デレているノエル様が見たいのです!!!! ノエル様が「勘違いしないでよね、別に私はレイゼルがうるさいから構ってあげてるだけなんだから」みたいなツンデレしているところが見たいのです!!!!」
「何その例え!? というか、ヘレンちゃん願望が!! 願望が出過ぎてるよ!! ここお外だから!! 王女の威厳保って、今更だけど!!! あと、私はそこまで典型的なツンデレセリフは言わない!! 素直じゃないのは認めるけど!!」
「なので助ける為だとはいえ、レイゼル様ではなく他の殿方を!! その細腕で抱き抱えるのは最大級の解釈違いです!!!!」
「人命救助に解釈違いって言われても……じゃあ、誰か死神くんを連れて保健室に連れて行ける人居る?」
私はそう聞いてみるも、レイゼルは当然ながら「ぜってーやだ、女の子ならまだしも」と拒否し、レイネルの方は「ごめんなさい、まだ保健室の場所が分からなくって……それに私、男の人を抱えられるくらいの力が無いんです」とあざとく言い、ヘレンちゃんはそもそも王族で死神くん(170cmくらいの体を鍛えている男子)を運んで行けるほどの力は無いし、魔法の免許証持ってないから除外。
「ヘレンちゃんとレイネルは仕方ないからともかく、レイゼル? クラス違うけど同じ学科の同級生だよ?? レイゼルの事だから、純粋に助けようと思う気持ちは無いだろうし、せめて偽善でもいいから助けてあげようとか思おうよ」
「んー、いくら金出せるかによって考える!」
「クズじゃねェか」
そうツッコミを入れるのはレイネルで、全くもってその通りだと思う。助けてもらうのに課金必須の勇者って、嫌過ぎるな……。
「そんなんだからレイゼルに友達ができないんだよ」
「俺はノエルさえ居ればいいから別にー? というか、友達居なくて困ったことねーし。あと友達とか親友と書いて恋敵って言うんだろ?
「……あっそ」
何故かその理由に私が若干喜んでしまったのが悔しい。
~・~・~・~
気付いたら死んでいて、気づいたら転生をしていたわ。
私の人生はまぁよくある転生モノだから、転生モノに飽き飽きしているであろう人達にはこんなテンプレを通り越して天ぷらにして揚げて食べて頂くのはもはや拷問でしょうけれど。
だけどあえて説明するとしたら、前世の私はちょっと周りよりも愛が重く、よく浮気されたり、付き合った男に振られる時は「ちょっと俺にはお前の愛を受け止めきれない、ごめんな」とか、なんか無駄にカッコイイ言い方で振られる女だったわ。くそったれ。
そんな女が転生した世界は、何故か男同士が付き合う確率が高過ぎる世界だった。
つまりここはBL世界。
一応普通に男女のカップルも居るものの、希少な存在。
現代であれば人口はますます減るばかり、というかとっくに人類は滅んでいそうではあるものの、転生した世界は元々剣と魔法のファンタジー世界が何百何千と時が経ち、完全に現代化して前世の時と全く変わらない世界と名前、言語や文字や文明だった為、正直「なんだか男同士のカップルが多いわね」と、思うくらいにしかほとんど異変を感じる事はなかったわ。
この世界では前世での科学とニアリイコールであり、まぁ多少イマジネーションも必要という非科学的な部分も合わさった、科学的なのかそうじゃないのかよく分からない技術ではあるけれど、前世に比べて随分と便利で夢が現実になったという意味では色々な意味でとても豊かになったと思う。
私自身、夢見がちで一度ハマるとのめり込む性格は前世は恋人しかほとんど人生に価値を見いだせなかったものの、この世界に転生したおかげで自分でも気づくことの出来なかったクリエイティブな部分と趣味を見つける事ができた。
別にそうでなくてもいいし、魔力の消費的には無駄。
ひたすらにどうすれば視覚的に美しい魔法を出す事ができるかという美しさと、美しいだけではない実用性を魔法で表現し、実行する事に、私はハマってしまった。
だけど私の人生が、とても鮮やかで鮮明に色付いたのは間違いなく、幼稚園の頃から一緒だった私の幼馴染の影響が強い。
『きららちゃんのまほう、きれいだねぇ!』
『……そ、そうかしら?』
『うん、ぼくこんなにきれいなまほうをみたのは、はじめてだよ!』
これが
そして、恋をした瞬間。
だって好きな人に好きな物を褒められて、名前を呼ばれるのは、とても幸せになれることでしょう?
いつだって私が人を好きになる理由は、そういう単純なもの。だけど、そういうもので私はいいと思うわ。
閑話休題。
この魔法という存在のおかげで今人口は保たれ、その気になればいくらでも人は増やせるし、男同士でも子供ができる。
私はそんな世界に転生してしまった。
私は今世も女として転生し、同性愛者という訳でもなく、好きになった幼馴染はやっぱり異性で、男性。
その男の子は
……私は前世を思い出す前の幼女時代、幼心になんとなく察した。はっくんは絶対に猫(意味深)になる運命なのだと。
私がある程度年齢を重ね、10歳になるとふと、"まるで何かをしようとしていたけれど忘れてしまって、数秒してからまた思い出す"といった感じで、それと似たような感覚で前世を思い出していた。
思い出してすぐ、ここ絶対BL世界だと気づき、よくはっくんの周りを観察してみたら……。なんと既にはっくんは周りの男子達からやけに熱の篭った目で見られていたり、男子同士にしてはやけにスキンシップが多いじゃれあいが多かったのである。
私が腐女子ならば眼福の極みであり、白米をほぼ無限に食べる事ができていたのだろうが、あいにく私ははっくんを異性として好きになってしまっていた。
恋して、愛して、フォーリンラブして、男女問わずはっくんに近寄る者共に牽制してしまっていた。
そう、前世を思い出すよりも前からずっと「はっくんは私のものよ」と言わんばかりに、いつでもどこでも大体ニコイチ、ポテトとハンバーガー、米とおかずのように、体の一部かのようにはっくんに引っ付いていた。
まるでチョウチンアンコウのように、物理的にも常に腕を組んでくっ付いて。……まぁ、オスとメスが逆だけれど。
私が記憶を思い出してもはっくんから離れる事はなかったけれど、中学に上がる時はくっつくのを止めた。というか、止めさせられたわ。
『きらちゃん、中学生になるんだし、その……も、もうくっつくのは恥ずかしいからやめて欲しいな』
『恥ずかしい? よく分からないわ。別にいいじゃない、私達は白と黒、光と影のように表裏一体と言っても過言じゃないのよ。今更離れるなんて、考えられないわ。というか、考えたくないわ』
『お願い、きらちゃん……』
『…………えぇ、分かったわ。他でもないはっくんのお願いだもの、そのお願いは私とはっくんの関係をより良く保つ為にも、叶えてあげなくちゃね』
私は物理的にくっつくのではなく、はっくんの後ろを着いていくようになった。まぁ、数日でそれも止めろと言われてしまった為、今では気づかれないようにして他の虫が付かないように見守るようにしている。
世間一般的にはそれはストーカーと呼ばれる行為だけれど、私ははっくんを守っている用心棒みたいな幼馴染である訳で、決してそんな不名誉な呼び方をされる種族の人間では無いわ。
というか、ストーカーという犯罪者はあの可愛いが擬人化したようなはっくんを害する、トップレベルで私が忌む存在なので、もしそんな輩が学校に居たら警察に突き出すか、私が直接二度と太陽の光を拝めないようにしてやろうかと思っている程におぞましいと思っている。
過去に実際、はっくんを付け回していたショタコンの汚い中年男性を私が牢屋にぶち込んでおいた経歴があり、私はそんなストーカーとかいう犯罪者とは違うのよ。
もしそんなレッテルを貼ろうとしている輩が居たとしたら、見てみたいところだわ。しっかりと見て、お話をする必要があるわね。拳で。
それにしても、くっつく事は止めても幼稚園の頃からずっと呼んでいたそのあだ名は止めないのね。……はっくん、なんて可愛いのかしら。
こうして長々と私はテンプレの天ぷらを焦がしてしまいそうに揚げていたところなのだけれど、私は電柱の裏で今、嫉妬の炎で焦がされそうになっていた。
「おはよう、
「~~、~~~~」
私の視線の先に居るのは、最近はっくんに馴れ馴れしく近づく男、来栖玲音。ちょっと女子人気の高くて背も高く、顔の良い男らしいわ。私にはまるでその辺の石ころと同じで、全く魅力的には感じないけれど。
そもそもはっくん以上に魅力的な男は居ない、絶対に居ないわ。
だからその辺に吐き捨てられたガムと同程度の男からはっくんを、はっくんのお尻をなんとしてでも守らなければ。絶対に、守らなければ。
その為には邪魔な男の前に出て、話しかけられる可能性があるけれど、仕方ないわね。
「はっくん、おはよう。とてもいい朝ね」
「あっ、きらちゃんおはよう!」
「夢乃か、おはよ」
……やはり興味の無いどころか、邪魔で仕方の無い男に話しかけられるというのは想像以上に嫌悪感が伴うものね。思わず唾を吐き捨てたくなったわ。
「はっくん、今日も貴方はとても素敵よ。思わず抱き締めたくなるくらいに」
「……恥ずかしいからやめてね?」
「冗談よ、私は貴方の嫌がる事はしないもの」
近い招来私からはっくんを寝とろうとするであろう男から無視された、と言わんばかりの表情を向けられた気がするけれど、私にはどうでもいい事。その辺に落ちている蝉の死骸と同じくらいどうでもいいわ。
「ところで、昨日の夜7時に放送された番組は見たかしら」
「うん、見たよ! 昨日はマジックアートだったね」
「実はそれに触発されて、私も今日新しい魔法の演出を考えてみたのよ」
「そうなの? 見てみたいなぁ!」
私が今はっくんが話している会話は、前世の時に見ていた、某俳句とアートの名人への昇格を目指す番組ととてもよく似た番組である。そこに出ている芸能人もよく似ている。
ただその番組には魔法によるアートが追加されており、昨日は魔法を使ったアート、つまりマジックアートと俳句の2時間スペシャルだった。
はっくんと私はまるで運命の糸で結ばれているかのように、その番組がお互いに好きなのだけれど……流石幼馴染、流石私のはっくん、とてもセンスがいいわね。愛してる。
「そうね、なら今度久しぶりにはっくんのお部屋にお邪魔しようかしら」
「えっ、僕の部屋……?」
するとはっくんは驚いたような表情をして、困っている顔をし始めた。
「……あぁ、ごめんなさい。はっくんもお年頃な男の子だもの、流石に幼馴染とはいえ恥ずかしいものの一つや二つ、あるものね。例えば、エッチな本とか。ごめんなさい、年頃の男子高校生に対する配慮が欠けていたわ」
「僕の部屋にはそんなもの無いよっ!? ただ、僕の部屋は凄く物が多くて……その、きらちゃんには恥ずかしくて見せられないくらい多くて、片付けきれてないんだ」
恥ずかしそうに頬を掻きながらそう言うはっくんに、私はトキメキを覚えつつ、納得した。
どうりで、はっくんの部屋のカーテンが一年中閉じている筈だわ。
「なら、はっくんのお部屋を片付けた後で見せてあげるわ」
「本当に汚いから、本当の本当に駄目!!」
……やけに、必死ね。気になるけれど、執拗い女と思われそうだからここら辺でやめておきましょう。
「じゃあ私の部屋で見せてあげるわね」
「うん!」
なんて可愛い笑顔なのかしら、思わずはっくんの唇を舐めまわしていやらしいキスでも交わしたいところね。
だけれど、幼馴染というのは普段から物理的にも精神的にも、住んでいる距離も近い上ものだから、異性同士であっても女の子である私の住んでいる家にある私の部屋に、はっくんが行くというイベントは、今まで684回ほどあったわ。
そして部屋で過ごした時間は約1年間。
一方で私がはっくんの部屋へ行った回数は29回……。
私の部屋に行くというイベントは、もはやはっくんの胸がドキドキする程の大きなイベントにはなっていない。
はっくんに私を見てもらいたい所だけれど、距離が近過ぎるというのが仇になってしまうのが悲しいところ。幼馴染という関係なのだから、仕方の無いことと割り切るしかないのね。ハリネズミのジレンマならぬ、幼馴染のジレンマ。
「何時がいいかしら、私はいつでもいいけれど。なんなら、夜寝静まった頃に私の寝顔を見に来たっていいのよ。夜這いでも構わないわ」
「へっ!?」
「冗談よ」
嘘よ、本当は純度100%でそう思っているわ。
「冗談でも女の子がそんな事言っちゃダメだよ、男はみんな狼なんだから!」
「はっくんだから言っているのよ、もし私が罰ゲームか何かで他の男に言う事になったとしたら、自ら上顎と下顎を一生離れ離れにさせて死ぬわ」
……。
…………。
待って、今私……無意識にはっくんに告白じみたことを言ったんじゃないかしら。うそ、恥ずかしい。私はなんて事を言ってしまったの。
「ならいいけど……とにかく、駄目だからね!」
……気づいて、無いようね。はっくんの鈍感さに助かったけれど、意識されていないみたいで悲しいわ。
それから私は来栖玲音が私のはっくんに話しかけれないよう、絶えず話題を作っては、はっくんとの会話を楽しんでいた。私とはっくんの間に、他の男なんて要らないのよ。
そう思っていたある日、具体的には今日の午前9時30分に行われたホームルームで、はっくんを狙う男が増えた。
「今日は転校生を紹介するぞ〜、入ってこ~い」
担任の先生は適当に転校生の事を話して教室に転校生を入れさせる。そして入ってきた人物に女子達は黄色い悲鳴を上げた。世間一般的には、綺麗な分類の顔立ちをした男が入ってきたから。私は全く興味ないけれど。
私はいつものようにはっくんを見ていたその時、転校生がはっくんの前に立った。
「一目惚れした、どうか俺と付き合って欲しい」
「は????」
「えっ!?」
「なぁなぁノエル、何読んでんの?」
「最近ヒエリカで流行りなラブコメのラノベなんだって、頼み事の報酬として死神くんに借りたんだ」
「ラノベ……??」
「ふっ、この世で最も純粋で歪んだ物になり得る愛について書かれた書物は、いつの時代も闇を抱えた人間の娯楽として消化される運命──」
「今度私の持ってるラノベ貸すよ、レイネルが好きかどうかは分からないけれど」
「えっ……」
魔界にはライトノベルという物が無く、基本的に魔者達にとっての楽しみが食事なのであまり娯楽を知らないレイネルは頭を傾げ、ノエルは口元の端に血が垂れつつも、何とかアグネスルーしていた。
「いいんですか? ありがとうございますっ!」
「は?? 別にノエルの私物貸さなくていいだろ、買わせればいいだけだし」
「そうだけど、面白いとか好きかまだ分からないのにいきなり買うのはハードル高いでしょ」
「絶対貸すなよ!? だって、俺がノエルから物借りたらぶっかける(意味深)自信しかない!!」
「……絶対にレイゼルには物貸さないから」
ノエルは固く、そう誓った。
次回、時を3年後に進めます。あ、でも時々時を戻すかも。
実はアグネスくん、ラブコメ結構好きだけど、書いてるとなんか恥ずかしくなっちゃうから自分でラブコメ書けない。でも恋愛要素が大好きだから、厨二全開の小説の中にピュアな純愛入れちゃう。恥ずかしいけど、ギリ耐えられるくらいのは入れちゃう。
~ノエルたそが読んでたラノベの人物紹介~
夢乃 綺蘭々
本人曰く、ストーカーじゃない。はっくんと絶対結婚するマン。
猫李 琥珀
実は部屋の中はきらちゃんの写真とグッズでいっぱい。
来栖 玲音
実は綺蘭々に近づく為に琥珀と一緒に居る、ヤンデレヤクザの若君。
転校生
この度めでたく一目惚れをした、超金持ちのヤンデレ御曹司。