チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった 作:水性さん
今日はオタクの聖地に行く話。
「レイゼル、正直に答えて」
「え? 何、ノエルどーかした? ……も、もしかして、俺とうとうノエルにドスケベ調教プレイされんの……?」
ノエルはミニスカフリフリ萌え萌えゴスロリメイド服を着て、鞭を持った状態でレイゼルに聞いてきた為、ハァハァと息を荒げてヨダレをダラダラと垂らしながら変態はイマジナリー尻尾を振って喜ぶ。
「う、嬉しいけどさ? はぁ、はぁ……♡ 急にそんな夢みたいな事がいざ現実に二つも同時に起こると、はぁ……はぁっ♡ 心とチンコの準備ができてないから、あと5秒だけ待っ──」
「ちげぇよ、これはなんかいつの間にか鞭持ってたし、メイド服着てたんだよ。……レイゼル、これ知ってる?」
ノエルは今自分が着ているメイド服を指さした。
「今俺とセックスする為に着てくれてんの?」
「ふんッ!!」
ノエルは持っていた鞭でレイゼルを引っぱたくと、変態は何故か「ありがとうございましゅッ♡♡」と礼を言って喜んでいた。レイゼルのリトルレイゼルは万歳をして歓喜に震え、感動のあまりに大量の透明な涙を流してズボンにシミを作る。
「何故かクローゼットに入ってたの!! つい昨日まで無かったのに!! 入ってたの!! で、なんだこれって触ったらいつの間にか着てたの!! 本当にレイゼルは知らないわけ?」
「初めて見た! まー、俺が用意するんだったらもっとエロいヤツ用意して──お゙ほぉッ♡♡」
ノエルは再びレイゼルに鞭攻撃をすると、レイゼルは汚い喘ぎ声を出して喜ぶ。リトルレイゼルは今度は白い涙を大量に流していた。
「とにかく、本当にレイゼルじゃないみたいだね」
「……そもそも俺はノエルがちゃんと自分の意思で、恥ずかしながら俺の為にドスケベコスプレ衣装を着てくれた方が、凄くチンコが助かるからさ? そんないつの間にか着てたみたいな方法は取らないけどなー」
「黙れクソ勇者」
では一体誰なのか……そう考えると、たった一人思い浮かんだ人物が居た。
「……まさか」
ノエルは部屋を出ると、家族が居るであろうリビングに向かった。レイゼルはそのノエルにとりあえず凝視しながら着いていく。するとそこには家族だけではなく親戚一同が揃っており、やって来たノエルを一斉に撮り始めた。
「きゃーーっ!! やっぱり想像通り……違うわね、想像以上に可愛い~~っ♡エルきゅん世界一可愛いわっ♡♡可愛さで世界征服できるくらい可愛いわっ♡♡♡」
「やっぱりおばあちゃんの仕業だった!! というかこれどういう事なの!? 何でメイド服!?」
当然の疑問を祖母(♂)に言うと、ノエリアはキョトン顔で答えた。
「エルきゅんのメイド服アルバムが欲しくなっただけよ?」
さも当然というような様子にノエルは「そうだ、この人こういう人だった……最近は私にこういう衝動なかったから油断してたけど」と思い出すのだった。思いつきでこういう事をする人なのだ、この祖母(♂)は。
(数ヶ月前にできた、うちの子美術館もそうである)
よく幼い頃は急に家に来たかと思えば、服を沢山持ってきて、ノエリアによるノエルのファッションショー&写真会が始まるのだ。今は双子達がその対象にされているが……。
「ちなみにその服、ヒエリカの最新技術のエンチャントが付いてるのよ~! 着るのが難しくて時間がかかる服でも、魔力を込めれば一瞬で着替えられるスグレモノなのよ!」
「それは凄いけど!! これ脱げないのはどういう事!?」
「当たり前じゃない。お風呂の時以外、日付が変わるまで脱げないようになってる今日だけ発動する呪いが付いてるの。エルきゅんすぐに脱いじゃうでしょう?」
「なんて都合がいい!!」
こうしてノエルは一日中ゴスロリミニスカ萌えメイド服を着ることになってしまったのである。ヒエリカの皇族という生き物は、軽率に身内をこういった形で辱める習性があるので。
「お、お父さん……助けt」
「よく似合っているぞ」
(カシャシャシャシャシャシャシャシャッ)
「(クソッ!! 助ける気ZEROだッ!!)」
スマホで連写するモンスターペアレントと、見るからにニッコニコで助ける気がなさそうな伯父ーズに助けを求めるのは辞め、ノエルは従兄に助けを求めよう……として気づいた。
「の、ノイ兄っ!?」
「……」
ノイルまでノエル同様に何故かフリッフリのメイド服を着せられていたのである。しかしこちらはロングスカート、まだダメージは少ない。不機嫌顔でムスーッとしながら、いつものお気に入りのチキンを持っていた。
「ノイ兄まで被害に遭ってたなんて……」
ノエルは心の中で「……今度2人で遊びに行こうね」と傷心した者同士で出かけることを決めた。
「うわーーっ!!」
「あ゙ーーーーッ!!」
すると今度は別の部屋から悲鳴と、ドタドタとこちらに走ってくる音が聞こえてくる。
「これ、どういうこと!? あっ!! 姉さん、今日はいつも以上に可愛いよ! 兄さんもメイド服着せられてたんだね!」
「……」
(プピー)
エルマーがゴスロリメイド服になってやって来ると、ノエル同様に親共に写真を好き勝手に撮られる。
「ま、マー君まで……ルトゥは?」
「ルトもこうなってるよ、ただ恥ずかしがって部屋から出てこないと思うけど……」
こうして孫世代全員がゴスロリメイド服を着せられてしまい、ノエルは絶対に「今度ゴスロリメイド服の被害者の会を開こう」と決めた。すると「あら、そうなの? じゃあ行かないと」と言い、ノエリアはルトが居る場所まで転移する。
「「あっ……」」
そして一拍置いて「あ゙ーーーーーーッ!!!!」というクソでかい悲鳴がまた聞こえてきた。疑いようがない純度100%のルトボイスである。
「……ルトゥのあんな声、初めて聞いた」
「僕も……」
もう今日は絶対にルトは部屋の外に出ないだろう。そう思っていると、我らが皇帝様はルトを連れて瞬間移動をしてくる。……再びルトの絶叫が部屋に響いた。
「くぅぅッ……殺せぇッ!!」
「(ルトゥがくっ殺系女騎士みたいになっちゃった……)」
人類が恥ずか死できたらどんなにいいだろう。ここに居る孫世代達は揃って思う。
「という訳で……全員揃った事だし、行くわよ!」
「「ッ!?」」
「えっ……??」
「ど、どこにっ!? まさかこの格好で出かけるの!?」
「決まってるじゃない、何のための衣装だと思ってるのよ。行先は……コミケという名の戦地よ!!」
「……は?」
「母上、それは俺達も聞いていないんだが?」
という訳で皇族全員が夏のコミックマーケットへ行く事となった。
「くっ殺!!」
家族全員でシャッター前のスペースに座り、サークル名「うちの子は世界一可愛い」の売り子として参加させられていた。孫世代は初めての参加だが、親世代はやはり過去に参加した事がある為、げんなりしている。これから起こる事が予想出来ているからだ。
「……ところで母上、今年の夏は何を売るんだ?」
ノクターンは二つの意味で破天荒な母(♂)に尋ねると、ノエリアは本日売るグッズの名を上げていく。
「まずはいつもの写真集でしょ? アクキーとアクスタも外せないから、裏が剥がれないようにしっかりと加工されたアクキーを多めで作ってもらって、手間がかかるから本当はもっと数を用意したかったぬいぐるみ、普段使いにもしやすいデザインと機能性のボールペン、シャーペン、消しやすくて分裂しない消しゴム、ノート、印鑑ケースに筆箱! それとやっぱりこれも外せないわ、オタクが集めがちのマグカップ! それからマグカップと一緒に使えるカトラリーセット! あと可愛いデフォルメ絵が効いたシール、UVカット機能があって吸水性と放熱に優れた夏に嬉しいあたし達をイメージしつつもデザインのある前開きの上着。痛バを作るのに最適な大きさと、針が曲がらずしっかりとした作りで勝手に外れない缶バッチ、ピンバッジ。色んな機種に対応して形が変わるオシャレなスマホケース、魔力を込めると自動的に清潔で洗いたてみたいになる洗濯不要のハンカチ、タオル。それから……ここでしか手に入らないデジタルデータ付き限定ブロマイドよ!」
「多いな……」
「それと行列に並んでいる間も楽しめるように、大きなスクリーンを出してセバスチャンに作らせた2時間くらいの動画も流すわ!」
「もはや映画だな」
「いい加減に恥ずかしいから今年で辞めてくれ」
ノルトは呆れたように言うと、ノエリアは「辞めないわッ!!!!」くわッ!! とした顔で言う。
「ノルちゃん、いい!? これはヒエリカにとってとても大事なイベントの一つなのよ!! ノルちゃん達をこんなに自慢できるチャンス、他に無いんだから!!!!」
「……ただ自慢したいだけなら、こういうグッズを作るのはもう辞めてくれと言っているんだ。他の誰よりも多くの才能と魅力を持っている俺達や孫達をこうまでして自慢したくなるのは分からなくもないが」
「(あ、分からなくも無いんだ……)」
ノエルが心の中でそうツッコミを入れ、チョーカーだと思いたい首輪に繋いだリードを手渡ししてくるレイゼルからリードを受け取る。……あれ? と思ったが、気のせいかもしれないと思う事にした。
「はぁーっ♡はぁーっ♡」
「レイゼル、息うるさい」
ノエルはレイゼルのリードを引っ張ると、引っ張られた変態は「あっ♡♡」という声を上げて喜ぶ。
「ちょっと大人しくしてて」
「わんっ♡」
完全にレイゼルは犬になりきっていた。
「よろしい」
そしてノエルはそんなレイゼルの顎の下を撫でながら、感じる違和感に「ん……?」と思う。……あれぇ? なんだかヘンだぞ??
しかしノエルさんはその違和感に気づかない。
それもその筈、皇族は魔力に大きな影響を受ける。本来皇族はヒエリカに居る事で、戦闘能力などの本領を発揮するのだ。魔力は精神の力、本来であれば自己肯定感爆上がりの、皇族式褒めて伸ばす教育だけで皇族らしい精神になる筈が、ノエルはフェリラに居た為、元来の性格やその他の大きな要因などもあるが、皇族らしい部分が抑制されていた。
だが今はヒエリカに居り、たったの数日などではなく避暑地として、もうすぐで1ヶ月ほど滞在しているのだ。皇族により近くなっていくのも当然の事である。
「エルきゅん……レイきゅんのご主人様としてまた一歩成長したわね」
「まだあれを飼い慣らすのには時間がかかりそうだが、この調子なら主人としてあれに舐められる事も無くなるだろう」
「し、してない! 成長なんてしてない!! 絶対にするつもりも無いからね!?」
しかし悲しきかな。ノエルは皇族なので祖母(♂)と父のような特殊な趣味が無くとも、行動が無意識に成っていくのだ。例えば何故かそんな趣味は無いのにも関わらず、いつの間にか鞭を持ち歩いていたり。……まるで呪い。そしてこの世で最も特殊である意味恐ろしい呪いと言えるだろう。
「ノエル、俺のアナル処女はいつでも準備万端だからなっ♡いっぱいノエルの為に慣らしといたし、メスイキできるようになったから安心して俺をマゾ肉奴隷として……はぁはぁ♡いっぱい俺のアナル使ってぇ♡♡♡俺、頑張るからっ ♡♡あっ、やばぁ……♡想像しゅるだけでチンコがもうっ♡♡♡」
「去ね」
ノエルはレイゼルという名のド変態を
「殺せぇ……姉ぇ、殺してくれぇ……!!」
「ルトゥ、私も今殺して欲しいから無理」
「いや、でも……今しか着れないってポジティブに考えれば──や、やっぱり無し!!」
目が死んでいる一番被害がデカいノイルを見たエルマーは慌てて言い直すと、周りをキョロキョロと見回した。
「(……皆こっち見てる)」
ヒエリカ国民のほとんどが自分達を見ている事に羞恥心ゲージが溜まっていくのを感じながらも、その視線や反応が推しを見た時のそれである事に気がつく。
「(僕達が皇族だからこういう視線って事かな……それにしては、どちらかというとアイドルを見た時みたいな様子だけど)」
そして姉達の方を見て、エルマーは思う。
「(今日も姉さん達は可愛い!)」
~・~・~・~
「絵は上手いと思うけど、絵柄がちょっと古いし読みづらいよ。あとここのコマ、要らないよね? でもまぁ、すぐに売れるようになるよ。この漫画に出てくる"キャラクター以外"ならね。応援してるから頑張って」
「あ、あはは……応援、ありがとうございます……(なんなの、あのキモオタ!! 編集者気取りで上から感想だけ言って立読みしておいて? 買わずに?? 上辺だけの応援してるですって???? 世界一尊い推しCPの同人誌よ!? 推しなさいよ!!!!)」
某隣国の王女、ヘレンは立読みと余計なコメントを残してまだ見ぬ宝を探しに旅立った害悪キモオタに、殺意を漲らせていた。
ヘレンは一か月前、なんとヒエリカにはコミケがあるという事を知り、今まで趣味で毎日描いていたレイエル同人漫画を本媒体で売る事にした。サークル名は「推しCP尊い」にして、ヘレンは満を持して全年齢対象(この世界では現代日本のR15レベルの物は全年齢対象として判定される)の同人誌を出品した。
……が、思ったよりレイエル同人誌の売れ行きが悪いのであった。その代わりにちょっと脚色の入った、ノルトとデートをした時や、ヴェリカ家+勇者と一緒に年越しした時の実話漫画の方が売れた。
一体どうしてなの!? ……まさか天変地異でも起こっているのかしら!?
ヘレンはそんなアホな事を考え、一体どうしてヘレンの中では世界で最も尊いCPの実話を元にした本を手に取られないのかと考える。
しかしそれもその筈、そもそもヒエリカのオタク達は皇族達を唯一無二の
そんな推しを、絵に描く? 本物が居るのに? というか、完璧にそのまま絵に描くなんてこと、できるか?? 推しを完璧に表現するなんて、できるか?? 否、無理である。それこそまさに、写真でなければ不可能だ。
という訳で、実はヒエリカのコミケでは皇族に関する漫画やイラスト集などの同人誌はとんでもなく珍しく、それを出品しているのはヒエリカの暗黙の了解やルールを知らない者、つまりヒエリカ国民では無い者か……余程自分の絵に自信を持っている痛いヤツということになるのだ。
つまりヒエリカ国民は原作厨であった。ただこの場合は小説や漫画ではなく、推しだが。
「……懐かしいわね、私がまだTwi○terで無名だった頃の苦い記憶が蘇るわ」
ヘレンは前世で初めて二次創作の同人誌を出した時の事を思い出す。あの大量に残った本達を抱えて帰った時の虚しさと悲しさ……あれほど惨めなものは無い。
「(はぁ……とりあえず今世では初めてだったから30部作ったけれど、あと26……どうしようかしら)
どうしてこんなに尊いCPの良さが分からないのかしら……」
ヘレンは俯いて溜息を吐いていると「あっ」という声が聞こえてきた。
「……その声は我が校友、ヘレン王女ではないか?」
「(あら? この声、もしかして……)」
聞き覚えのある声にヘレンはゆっくりと顔を上に向け……そして精神的ダメージを受けた。
「~~ッ!!」
「何故また俯く我が校友よ」
The厨二病のコスプレをした血濡れの死神こと、スーパーピュアグッボーイなアグネスくんであった。
「それよりも、久しぶりだな。まさかこのような混沌の地で相見えるとは……」
「お久しぶりでございますね、アグネス様……」
「ところで、王女が描いていたあの原稿用紙……とうとう世界の頂点である
「えぇ、えぇ! そうなのよ!! 世界一尊いCPを、オタクの聖地で広めたくて本にしたの!! でも、何故か売れないのよ!!」
それを聞いたアグネスは「ん??」となりながらも答えた。
「それもそうだろう、よりによってルシファーとあの勇者だからな。そもそもここでは制約と宿命の血を受け継ぐ者の史録は必ず小説でなくてはならない。ただの人間ごときには恐れ多いからな」
「……それは、どういうこと?」
ヘレンはアグネスにそう聞き、アグネスは「そんな筈は……」と思いつつも、ヘレンに聞く。
「王女よ、まさかとは思うが……フェリラ王国の王女でありながら、自ら無知だと言うのか?」
「えっ??」
「……」
アグネスは一応周りを確認して、それからヘレンの耳元でついにネタバレをした。
「ルシファーはこの国の、元皇太子の実子……つまり皇女だぞ? そんな高貴で神に愛された方々を、絵に描き売るなど……不敬にも程がある。いくら絵が上手くとも、あの方々を完璧に描く事は不可能だ。例えそれができたとしても、本人達以上に魅力的に描くことも、できると公言する事もできないだろう」
「えっ……」
「本当にあの二人をここで広めたいなら、漫画ではなく小説でなければ──」
「えっ、えっ……ほぇ…………??」
その結果、ヘレンの脳内ではビックバンかのような衝撃を受け、アグネスからの情報で新たな
「ばなな」
「(壊れた……本当に知らなかったみたいだ)」
アグネスはこの王女、ひょっとしてかなり鈍いのでは? と思いながらも、魔法で便箋セットを取り出したヘレンにしっかりと釘を刺しておく事にした。
「ルシファー本人はその事を知らない。もしワザと気づかせようものなら、逮捕されるぞ」
「た、逮捕!? ど、どうして!?」
ヘレンは手紙で本人に聞く気満々だったのだが、それができない事に驚く。
「ルシファーには自由に生きて欲しいという、アーノルト様……ノルト様の意向だ」
「色々な意味で嘘でしょッ!? で、でも、いくら隠してもいつかは気づく筈!! ノエル様は勘が鋭い方です、気づけない筈がありません!! それにノエル様が皇──」
「あれ、ヘレンちゃんと死神くん?! な、なんでこんな所に!?」
その瞬間、アグネスは人生で最も素早い速度でヘレンの口を手で塞いだ。そして声の主を見て呆然とする。一方ヘレンは口を塞がれたままコロンビアのポーズをして「ん゙ーーッ!!」という奇声を上げていた。
「る、ルシファー……」
「うっ、うっ……まさか知り合いが二人もここに居るなんて!! どんな同人誌売ってるかなって気になって回ってたら、まさか知り合いが居るなんて!! 行く前に「まぁ大丈夫でしょ」って慢心しなければよかった!!!!」
噂をすれば何とやら。ノエルは自分の名前がどこからか聞こえ、好奇心のまま勘を頼りに進んだ結果……行かなきゃ良かったと後悔した。
「……その格好は?」
「私のおばあ──中身が乙女なおじいちゃんに着せられた」
ノエルは祖母(♂)から渡されたオシャレな丸いトレーで顔を隠しながら言うと、それを聞いた瞬間にアグネスは察した。ヘレンはちょっと考えてからノエルの声がやけに低い祖母に通話した時を思い出し、その相手がヒエリカ皇帝である事に気がつく。
「(……えっ? あの人、孫にゴスロリメイド服着せるタイプのイケメンなの?? そう、なのね????)」
そう思い、ヘレンはノエリアを思い出す。ヘレンは一応フェリラ国の王女なので、実はフェリラにやって来たヒエリカ帝国皇帝ノックスとして振舞っているノエリアを見た事があるのだ 。なんなら会話をした事もある。
しかし声や様子で気づかなかったのは、その時のノエリアはあくまでノックスとしての自分であり、普段とは違う男らしい声の出し方と皇帝としての振る舞いをしていたからだ。
いつもの茶目っ気と親近感を感じさせる態度と親バカはなりを潜め、周りを圧倒させ従わせる存在感と、同じ人間とは思えない程の神々しくも美しい容姿。
「(そんな人が普段は通話した時みたいな感じで、今回は孫にゴスロリメイド服を……????)」
ヘレンは再び、頭の中がショートした。
~・~・~・~
その日、長いウェーブがかった髪を一つにまとめ、ノエリアは格式と価値の高いモーニングスーツを身にまとってフェリラ王国の城へやって来た。
その日フェリラには他国から王族などが集まり、世界的な外交として会食を開いていた。
当然城には国のトップ達が集まる為に護衛達は自らの君主によって大勢連れて来られ、警備もやりすぎな程に配置された。しかしヒエリカのみが護衛はおらず、連れているのは執事と后妃だけであった。
それは何が起きても自分で守り抜けるという、絶対的な自信と周知の事実。相対して分かる、圧倒的強者の佇まい。
ノエリアが会場に現れた瞬間、当時10歳のヘレンは空気が一気に変わったのを覚えている。
『(……なんて綺麗な人、それでいて神々しいわ。本当に同じ人間? それにしても背たっか……)』
ノエリアはスクイナを連れて ウィリアムの元へ行き、挨拶をしに行く。真っ直ぐと歩く方向を見るその翠の目は比喩などではなく、本当に宝石のような輝きをしていて美しく、その奥には強い意志が感じられた。
それにしても、何処かでこの目を見た事があるような? そう思いながらヘレンはじっと見ていたノエリアと、しっかり視線が合う。
『……』
『!!』
その時、ノエリアに美しい微笑を向けられてヘレンは『古の夢小説にはニコポって言われていたお決まりのテンプレ展開があったけれど、もしかしてされてた側ってこういう感じなのかしら!?!?』と思った。
そしてノエリアはあの醜い国王に視線を戻して、ゴキブリを見た時のような顔をせず、外向き用のおすまし顔と雰囲気を作り上げて(ノエリアはつり目である為、雰囲気も合わさって無表情だとかなり冷たい印象になる)ウィリアムに近づく。マナーとしての挨拶なので、普段ならわざわざ会いに行くような事はしないが。
『お招き頂き感謝する、ウィリアム国王陛下』
『おぉ、我が盟友ヒエリカ皇帝陛下ではないか。今日も美しいな』
何を当然な事を。そんな陳腐で
本心はそう思いながらもノエリアは『当然だ』と答える。するとウィリアムはまるで何かを探すかのような素振りで視線を動かすと、ノエリアに聞いた。
『美しいと言えば、今日はノルーア皇女の姿が見えないようだが……』
『娘は皇族としての責務を全うしている最中だ、皆まで言わずとも分かるだろう?』
はぁ? うちのノルーアちゃんをゴキブリ風情に会わせる訳無いでしょう?? 頭沸いてるのかしら????
そんな気持ちでノエリアは意訳すると『今あたしが忙しい中わざわざここに来てあげたから、代わりにお仕事してるのよ。そこまで言わないと分からないのかしら??』という感じの台詞を言った。ちなみに一方ノルーアは魔獣を退治している訳ではなく、恋人のフロムとイチャイチャ(意味深)している真っ最中である。
皇族は恋人や伴侶とイチャイチャする事も立派なお仕事なのである。何故なら、仲が良ければ良いほどに国民達は「このCP、推せる……!!」となって愛国心が爆上がりするので。
間違った事や嘘は言っていないし、本人が本当にそう思って言っている為、ウィリアムは自分のスキルに引っかからず、その仕事がイチャイチャ(意味深)であるとは気づかなかった。
『それは残念だ。……あぁ、そうだ。今日は娘も参加していてな、紹介させてくれ』
『ご息女をか、多少興味はあるな』
地雷娘か、そうでないかを知り、子供同伴の社交会に参加する際にうちの子に近づけさせても大丈夫か否かを決める為に。エリザベスという前例がある為、ノエリアは一度実際に会ってから判断をするようにしている。
(何を勘違いしたのか、たまに他国の王族達が自分の息子や娘を嫁にどうかと言ってくる馬鹿と阿呆も居るが、そもそも皇族はヤンデレの伴侶しか選ばないので、一夫多妻や多夫一妻制度の他国の王族ではそもそも考え方が違っていたりして合わない。というか、ヤンデレなんていうこの世界では数少ない一途過ぎる人間は中々居ない。この世界は夫婦であっても、お互いに公認のセフレが存在していたりもする。なんならセフレと一緒にハッスルする事もある。そんな世界なので、基本的に皇族は自国の国民と結婚するケースがかなり多いのだ。つまりノルトとノエルは珍しいパターンだ)
さて、一体どんな子なのか……まぁ見定めさせてもらおうじゃない。……それにしても、それらしい魔力を持った子が周りに居ないようだけれど……何処にいるのかしら。
そんなふうにノエリアは思いながら待っていた。
『ヘレン、こちらに来なさい』
『はい、お父様!』
心の中でヘレンは『話しかけてくるんじゃないわよ、竿役クソ汚ぢ!!』と憤慨しながらも、優雅に振り向いてあくまで可愛らしいお姫様の仮面を完璧に身に付けていた。しかし、振り向いて見えた先は、とんでもねぇ高身長の長髪イケメン。思わず『かぁーーッ!! 顔が良いーーーーッ!!』と、叫びたくなる衝動が込上げる。しかし今のヘレンはどこからどう見ても完璧な王女、そうでなくてはならないのだ。故に必死に我慢した。
『この方はヒエリカ帝国の皇帝、ノックス陛下だ。ご挨拶しなさい』
『はい、初めましてノックスこう帝へい下。わたしはヘレン・ヘレン・ミシュド・ロルバーグと申します、以後お見知りおきを』
完璧なカーテシーをしてヘレンは自己紹介をする。そんなヘレンにノエリアは内心『この子、さっき見た子ね。それにしても……壊滅的に似てないわね、というか……そもそも違うじゃない』と思いながらも自己紹介をする。
『初めまして、ヘレン
『失礼ノックス皇帝陛下、今……ヘレンを殿下と?』
ウィリアムはノエリアの聞き捨てならない発言にそう聞くと、ノエリアはあえて少し驚いた表情をした。
『違うのか? オリバス王子よりも、私にはヘレン王女の方が優秀に見えるが』
『はは、この子は優秀だが、性格が政治に向いていないものでな。将来はオリバスの右腕として国を任せたいと思っている』
『(はぁ~~!? 何であんな可愛げも品性も無い兄の右腕にならないといけないのよ!! ぶち殺しますわよ!?!?)』
ヘレンはそう思ったが、あくまでニコニコとしていた。
『そうか、それは残念だ。私は良いと思ったのだが、そういう事なら仕方ないな』
ノエリアはヘレンに目線を合わせる為にしゃがむと、周りの王族達がザワザワとし始める。
『ヘレン王女、是非良ければ機会がある時に私の孫の遊び相手になってはくれないだろうか』
『(この見た目で孫が居る事実に頭が必死に否定してくるわ……)
光栄でございます、こう帝へい下』
『そうか、それは良かった。ではお近付きの印として何か贈ろう』
『えっ!? そ、そんな、おそれ多いです……!』
ノエリアは仮面が外れかけているヘレンに、内心では『素直で可愛いわね~♡ポメラニアンみたーい♡』と思いながら、セバスチャンに用意するよう指示する。するとセバスチャンは、本来であれば身内や宮廷魔法士でなければ城の中で自由に転移魔法を使う事はできないというのにも関わらず、平然と転移魔法を行使した。
そして一瞬で本来は銀などを使うチェーンや金属部分を、見た目はガラスや水晶で作ったブレスレットを持ってきた。若干うっすらと虹のような色合いをしており、宝石などははめ込まれてはおらず、穴が空いている。
『これが何か分かるか?』
『もしかして、ヒエリカのま法石ですか?』
『あぁ、そうだ。よく知っているな』
きゃーーっ! 物知りさんなのね~♡ ちゃんとこの子はお勉強してるのね、何処かの王太子と違って偉いわーっ!!
心の中ではそう言いながら、ノエリアはヘレンの腕にガラス細工のようなブレスレットを通すと、穴に魔力を込め魔石を作った。
『これは王女の身を守る物だ。そこらに居る護衛より役に立つ事は保証しよう、だがそれで絶対に安全であるという事は無い。出かける時は、腕の立つ宮廷魔法士に護衛を頼むといいだろう。
例えば……一人娘を持つ30代の美丈夫で、ワークブルク学園に入学したその数日後に一等星になり剣技・魔法大会を6年連続で優勝した元戦闘部門の宮廷魔法士が良いな』
『ず、ずい分と具体的ですね……』
『きっとこれからも守り抜いてくれる筈だ、絶対にな』
ノエリアはそう言いながらヘレンの手を握り、それから手を離して立つ。
『さて、私達はそろそろ帰るとしよう。長居をしたら周りの参加者達はこのパーティーを楽しめない筈だ、私としてはそれは本意では無い。失礼する』
『もう帰ってしまうのか、ここには来たばかりだろう? 折角だ、あと15分くらい少し楽しんでいけばいいだろうに』
『后妃をあまり他の男の目に晒したくないのでな』
『相変わらずの愛妻家だ、私にもそう思える程の女性と巡り会いたいものだな。またお越しください、ノックス皇帝陛下』
その言葉でノエリアとスクイナは背を向け、会場の出口に向かう。スクイナの早歩きに合わせた歩幅でノエリアは歩いていると、背後から思い出したかのようにウィリアムから声を掛けられる。
『そうだ、次回はもっと豪華で惹かれるようなパーティーを用意しておくと、ノルーア皇女に伝えておいてくれないか』
『……私も言い忘れていたが、そういえば娘から伝言を貴様に残していたな。今回は忙しかった為に参加できなかったが、次回はできる限り参加したい。と言っていたぞ』
つまりこの言葉は「行けたら行く」をもうちょっと長く、相手を傷つけない言い方をしただけである。つまり、行かないのだ。それは当然だ、暇な時間な一秒でもあれば、家族や恋人と一緒に居る時間に当てるだろう。ボンレスハムに割く時間など、コンマ1秒の暇も無いのだ。
皇族夫婦はヘレンに強烈な印象だけを残し、さっさと帰って行った。その時ヘレンはこう感じたのである。
『(新しい推し……できちゃったわね)』
そして心の中のヘレンは満面の笑みを浮かべ、チラリと手に握らされた紙切れを盗み見る。
〘もし何かあったら、この魔法陣を使って私を頼りなさい〙
おまけ
「(あらっ!? つまりノエル様と出会う事は伏線で運命だったのかしら!?)」
「ヘレンちゃん? おーい、聞こえてる?……って、この売ってる本はまさか……!? ヘレンちゃん、ナマモノ売っちゃったの!? 元になってる私とレイゼルに相談しないで!? ……まぁ、R18ではないみたいだから、良いけど……なんか恥ずかしいな」
「この俗世において、最も深くもあり歪みを秘めた愛を書き記した書物は、人の欲望から産まれる罪深き物。しかし人とは欲望が形を成した生物、止めた所で知らぬ内に誕生するのは必然というものだぞルシファー。……しかし闇に取りつかれ、自制心が欠けてしまっているようだが」
意訳(オタクは推しCPが居れば止まれない生き物だから仕方ない。でも、流石にもうちょっと配慮した方がいいとは僕も思う)
「あーっ! ノエル居た!! って、ヘレン? 何でここに居んの?」