チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった 作:水性さん
前のあとがきでも書いたけど、今回はおじいちゃん執事に関する話。けどおばあちゃんが多め。
「スクイナちゃんっ♡あたしを待っててくれたのね!」
ノエリアは魔獣狩りを終えて、シャワーを浴びてから深夜に夫婦の寝室に帰ってくると、そこには上品なネグリジェ姿でタブレットを持ちベッドの上に座っているスクイナが居た。今すぐに自分よりも小さくて柔らかく愛しい妻の体を抱き締めたいのを我慢して、ノエリアはエンチャントされた寝間着に触れるとバスローブ姿から一瞬で着替える。
そしてゆっくり近づくと、スクイナは場所を空けて掛け布団をめくる。お隣どうぞ、という意味だ。ノエリアはベッドに上がると、優しくスクイナに聞いた。
「……触れてもいいかしら?」
「はい」
その返事を聞くと、ノエリアはスクイナにくっつく。妻セラピー中だ。
「今日も疲れたぁ~……」
「お疲れ様です」
「あたし頑張ったから褒めてぇ~……感謝される事はあるけれど、誰も褒めてくれないのよぉ~! あたしは確かにこの国で一番尊くて、生きてるだけでありがたく思われるし思われるべき存在だけれど、誰も褒めてくれないのぉ~!」
「ふふふ、では私が褒めます。リア様は世界一凄くて偉くて、私の大好きな人です」
スクイナはにこりと笑って言うと、ノエリアはスクイナを抱き締めた。大きい体で包み込み、顔を見せないようにして。
「…………えぇ、当然じゃない」
「照れてます?」
「どうかしら。それより早く寝ましょ、もし寝坊したらせっかくの大事な日が短くなっちゃうわ」
そう言うとノエリアは部屋の照明を消した。
「誕生日、おめでとうスクイナちゃん。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
ノエリアは明日を心待ちにし、横になって目を閉じる……その時。
「陛下」
「セバスチャン? 見ての通りあたしはもう寝る所なのよ、用があるなら明日にしなさい」
「いえ、それができないのです。先程手紙が届いたのですが、送り主の相手が相手でして……」
「はぁ……ごめんなさいスクイナちゃん、電気付けるわね」
ノエリアは消した照明をもう一度点灯すると、セバスチャンはベッドの隣に立っており、手紙を持っていた。
「……あたしもう起き上がれないから、ちょっと開けて見せてちょうだい」
「承知しました」
セバスチャンは手紙を破り捨てたいのを我慢して手紙を開くと、セバスチャンはグシャリと手紙に力を思わず込めた。
「どうしたのよ」
「……あぁ、いえ。少々懐かしい文字を見たものでして」
「懐かしい文字?」
「……古代コレディア王国の文字です」
「コレディア? ……大砂漠と大森林の国ね、一体どうしてそんな国があたしに手紙を? しかも古代文字だなんて……あたしと貴方への嫌がらせかしら」
「えぇ、陛下と私をバカにする文が書かれているので間違いありません」
「今すぐ燃やしなさいセバスチャン、ヒエリカの法にある初代皇帝が作った法に基づいて燃やしなさい。王族から届いた上から目線で腹立つ手紙は燃やしていいっていうのがヒエリカのルールよ、何も問題ないわ」
「……陛下、落ち着いて今から私が話す内容を聞いて頂けますか」
「ちょっと何よ、その明らかに悪い話をしそうな言い方は」
聞きたくないのでノエリアは自分の耳を塞ぎたいが、そうも言ってられない。ノエリアは寝たまま仕方なく聞くことにした。
「明日、午前中にコレディア王国のエドガー王が、会談をしにこちらへ来ると書いてあります」
「……は??」
「えっ?」
そして次の日。
「はぁー……」
広ーい寝室にて、ノエリアはだらしなくソファーに座っていた。とても一国の主とは思えない様子である。そんなノエリアにセバスチャンは話しかけた。
「陛下、そろそろ会談のお時間ですよ」
「……ボイコットしたいわ、今すぐに」
「何を仰るんです、もう既にコレディア王国のエドガー王(笑)は会場にいらっしゃるというのに」
「えぇー……あたしあの人キライなのよねぇ、人を品定めする無礼で下品な目付きが……。あたしを利用する気満々で、下に見ているのがバレバレなのよ。あれは人間をそこらの虫だと思ってるわ」
「まぁ、あの人は昔からそういう可哀想な方ですので」
セバスチャンはそう言うと、全く立つ気の無いノエリアを引っ張り、無理やり立たせる。
「……というか、そもそも今日は!! スクイナちゃんの誕生日なのよ!? なのにどうして今日に限って会談なのよ!!」
「この日しか直近だとオフが無いので、仕方がないのではないでしょうか」
「ならリモートでいいじゃない!! それに、どうせ話す事はゴキブリとの同盟の解消をやめろって話でしょう!? あくまでこれあたしの一存だけで決まった訳じゃないから、無理に決まってるじゃない!! うちは民主主義よ!!!!」
「まぁ陛下の過激ファンという名の国民達が、陛下の理想を尊重したいがあまりに、ある意味では陛下によって政治が動いている状況なんですけれどね。
数ヶ月前にネットサーフィンをしていたら、仕事を休みたい会社員のSNSアカウントの投稿に「どうしてヒエリカには6月に祝日が無いのかしらね……次の月曜日は仕事せずにみんなその日はゆっくりベッドの上で過ごすのもいいんじゃないかしら」と陛下が引用投稿したら、実際に国民のほとんどが休み、今産婦人科には沢山の夫婦が駆け込んできましたし」
「ベッドの上で過ごすの意味が違うわよ!! どうしてみんなそっちの意味で捉えたのよ!! いいことだけれど、子供はできたらもっと大変なのよ!! とりあえずみんなおめでとう、でもちゃんと休みなさい!!」
「陛下も休む為に早く会談を終わらせましょう、后妃様とのお時間が無くなりますよ。ほらご自身で歩いてください」
「うぅ~……なら行く前に癒しが欲しいわ。ノイきゅんとかエルきゅんとか、ノイきゅんとかエルきゅんとか、ノイきゅんとかエルきゅんとか……」
余程行きたくないのか、足を動かそうとしないノエリアにセバスチャンは「仕方ありませんね」と思いながらもノエリアをニッコリしながらお姫様抱っこして運ぶ。とんでもない体格差抱っこである。
「ちょっとセバスチャン何するのよ、誰かに見られるじゃない」
「大丈夫です、人に見られる前に降ろしますので。監視カメラに映りはしますが」
「今すぐに降ろして頂戴何をしてるの早く行くわよセバスチャン」
「承知いたしました」
下ろした瞬間にノエリアはキリッとした様子で部屋を出ると、仕事をしに向かった。
「……それより、いいの? 嫌だったら中に着いてこなくてもいいのよ、貴方なら外からでも様子は分かるんだし」
「いえ、問題ありません。昔はもう二度と会いたくは無いと思ってはおりましたが、今は大丈夫です。それに現在皇族に使える側近にして執事は私一人、示しは必要でしょう」
コレディア王国とは、遠く離れた大砂漠と大森林の国。とても激しい環境の差に住むコレディア王国では、独特な文化と社会が成り立っている。大森林には獣人族や人々が多く住み、砂漠には一部の民族が暮らしている。大きな川の付近に城を囲むようにして城下町があり、海へと続く川を利用して貿易などを行っている。
自然に囲まれたその国では、空気中に含まれる魔力量が他の国に比べてとても少ないが、沢山の緑豊かな大森林では沢山の生き物が産まれる。それはつまり、過酷な生存競争に勝たなければならないという事を意味する。その為に生き物達はどんどん進化し、ヒエリカの魔獣と同じくらいかそれより多少劣る強さの一般生物達が次々と爆誕した。
よってコレディア王国は弱肉強食の国であると言われている。
しかしヒエリカと違うのは、国の王は民を守る事は無い。むしろ弱い存在は早く消えるべきだという考えを持っており、有能でもなく強くもない存在は、生きる価値も無いという考えの元、目障りだったからという理由で民を兵士達に殺させたりもした暴君であるという事だ。
ノエリアは会談を行う客室に何食わぬ顔で入るや否や、突如何かが頭の方に豪速球で飛んでくる。千里眼で既に投げる体勢をとっていたのが見えていたセバスチャンは、飛んで来た物をノエリアが避ける前にキャッチする。
投げられた物は懐中時計であり、朝の9時7分が指し示されていた。会談が行われる時間は9時であり、ノエリアは普通に遅刻してきたのである。
だがノエリアはいくら嫌いな相手だとしても、遅刻するような事はしない。しかし今回はそもそも自分より先に相手が失礼な事をしてきたのだ。
会談の話も本当に急に決まったというか、勝手に決められた事であり、急に相手の方からこちらのスケジュールを手紙で聞きもせず、決めてきたのだ。
もちろん当然今日は絶対に無理だと即伝えたのだが、どうやら相手はこちらの情報を集めていたのかスクイナの誕生日を知っていたらしく、とても堅苦しい形式に則った物ではなく分かりやすく次に送られてきた手紙の内容を説明すると「お前その日暇だろ、そっちに行ってやるよ」という旨の内容が届いたのだ。あの夜の内に。
ノエリアはその手紙をセバスチャンに聞かされた瞬間、即手紙を燃やした。そして「あのクソガキ絶対に〆る」と言って珍しくブチ切れていた。
「陛下は時間に遅れてきた事に大層ご立腹であらせられております」
「……」
そんなノエリアがブチ切れた相手は、立派なツノとコウモリのような翼、鱗に包まれた尻尾と、美しい黒髪と爬虫類特有の目を持っていた。そして感情を隠さず明らかに端正な顔を不機嫌にして、あまりお世辞にも格式が高いとは全く言えない客室の硬めソファー(有名な家具などを売るヒエリカの大手小売業、マトリで買った100ソル)に座っている。コレディア王国の国民達がたった100ソルのソファーに自国の王が座らされていると知ったら、泡を吹いて倒れるだろう。恐怖で。
しかしそんな彼こそが、コレディア王国の王にして、竜人族のエドガー王である。
「遅れてしまい大変申し訳なかった、エドガー王。重ねて大したもてなしの用意もできなかったことも、どうか重ねて詫びさせて頂きたい。その代わりにはならないかもしれないが、どうか受け取ってはもらえないだろうか。気に入らなければ捨ててくれて構わない」
ノエリアはハンドサインでセバスチャンに合図を出すと、その意図が分かったセバスチャンは転移魔法で笑顔を貼り付けながら、コレディア王国のセバスチャンにヒエリカで有名な菓子折を渡した。渡したのはクルミもなかだ。
その名の通り、代々皇族にペットとして飼われているクルミを模した白あんのもなかだ。可愛くて美味しいと、国民達や海外からやって来た旅行者達から人気の商品である。
宮廷料理人、そして近しい身内しか知らないのだが、実はエドガー王はかなりの甘党であり、毎日3時には甘いお菓子を食べている。セバスチャンはそれを知っていて、渡したのは魔石ではなくあえてお菓子をチョイスした。
それは「てめぇはこれでも食って帰れやガキ」という意味である。
そして渡す際、セバスチャンはじっとエドガー王に見られているのを感じ、貼り付けた笑顔の仮面を重ねてもう一つ貼り付ける。
「しかし、こちらにも予定というものがある。次回からはなるべく、余裕のある時に連絡を頂きたい。
あたしは魔獣狩りに忙しくて、貴方は玉座で寝てるのに忙しいものね。言葉にはそんな裏が隠されているが、一体これに気づけた者は何人居るのだろう。皇族ガチ勢のセバスチャンは勿論気づいたが。
「では本題に入らせてもらおう、今日は一体どんな話題をしたくてここに来たのかを話して欲しい」
「……、…………。……」
ノエリアはそう言うと、シーンとした音の無い音が鳴る。しかし実は現在、ノエリアには分からないだけでエドガーは喋っているのだ。僅かに口を開け、動かしながら。これはサイレントボイスというものであり、普通の人間には聞こえない超音波を発しているのだ。主に獣人族や水人族などが発する事ができる。
そのエドガー王の言葉をコレディア王国のセバスチャンが代わりに伝えた。
「陛下は「本来ならば下等な人間ごときが俺を直視する事すら烏滸がましく、死刑に値する……が。貴様は俺と同じく神に作られし者であり、神に血を分け与えられ、一身に神の寵愛を受けた者。よって貴様は俺と同等な存在であるとして、俺が無駄にした時間の事は不問とする」と、仰っております」
しかし、本当はそれだけではない。もっとそれ以上にノエリアを侮辱している発言をしているのだ。そして直接声を聞かせないのは、お前には声を聞かせるほどの価値は無いという意味に他ならない。
『このような者が神に作られし存在の子孫とは。落ちたものだな、初代皇帝の方がまだ礼儀はあったぞ』
「(ちげぇよ、あの時ヒエリカはまだ国として認められてから1年も経ってなかった。そんな中、コレディアの王の兵器だったお前が使いとして来たんだろ!! ただでさえ魔獣の事で手一杯だったあの頃の時代で、問題と戦いを起こしたくないからノルンはお前の前で跪いて頭を上げる事をしなかったんだよ!!
聞こえないのをいいことに、エドガー王は好き放題言っていた。
その声が聞こえるセバスチャンは耐えるようにして密かに強く拳を握り締めた。そんな様子のセバスチャンにノエリアはすぐに気が付き、声をかける。
「セバスチャン、言いたいことがあるのならハッキリと言え」
「……ですが」
しかしセバスチャンは言う事を躊躇った。それは無理もない、何故ならエドガー王は大昔に仕えていた王を打ち倒し、反抗する者達は全て屠り、今の座を手に入れたからだ。もしエドガー王がこれ以上不機嫌にでもなれば、一体国にどれ程の影響と問題が出るか。それをセバスチャンは危惧していたのだが、ノエリアは不敵な笑みを浮かべて言った。
「この世界では例えどんな身分の者であろうと、余程理不尽なものや人権を害するものでなければ、今滞在しているその国のルールや法律に常に従わなければならない。
ヒエリカではどんな身分であろうと、その命の価値は全て同じであり、法を犯さない限り自由という憲法で決められた権利を持っている。そしてエドガー王もまた、我が国の海域に入った瞬間からその法が適用された。皇族にかけられた法がな。
そして皇族には名誉毀損はあれど不敬罪というものが無い事を、忘れたか?」
つまり、この国に来た瞬間からエドガー王は離れるまで法に触れない程度のどんな言葉や行動、態度にも耐えなければならない、精神耐久テストが強制的に開始されてしまったのである。
「……では、申し上げます。ヒエリカは民主主義ですので、よく勉強をなさってから後日また陛下に時間の余裕がある時に訪問日を文面上にてお伝えください。本日はご来訪頂き、ありがとうございました」
さっさと帰れ。セバスチャンは言外にそう言った。
「ヒエリカのセバスチャン、陛下に対し無礼ですよ」
「不敬ではないと言っているだろう」
セバスチャンの発言にノエリアは心の中でニッコリした。セバスチャンが自分の言いたかった事を全部言ってくれたので、ノエリアは「もうこれあたし喋らなくていいわよね、帰っても大丈夫かしら」とか思い始めた。
……その時、エドガー王はノエリアにも聞こえる声を発した。
「王に対し何たる口の利き方だ。本来なら貴様のような劣等種など、生きている価値も無い。存在する事自体許されん。つくづく貴様が俺と同じ血を分けた兄弟だという事実が腹立たしい。自ら城を出る為に、竜人の誇りを捨てた愚か者が。……しかし、随分と老いたな。今のその姿、貧弱な貴様に似合いだぞデリック」
発されたのはセバスチャンを嘲る言葉であった。しかし、ここで黙っていないのが皇族だ。例えそれが他国の王であろうと、その気高き精神が屈することは無い。……やり返す方法はヒエリカの気候のように陰湿だが。
「……エドガー王、忘れているようだがここはヒエリカだ。皇帝である私と同じ空間に居るという事がどういう事か、分かっているのか?
それは即ち、この状況を常に我が国民達が見ているという事を」
するとセバスチャンはタブレットを取り出し、配信の映像が映った画面を見せた。そこに映っているのは、エドガー王とノエリア、セバスチャンの3人。まさにこの部屋の中だ。
皇族には人権が無い。そして人権が無いと言われる理由の一つが、寝室、脱衣所や入浴室、トイレなどの部屋以外には皇居の至る所に監視カメラがあり、常に国民達がリアルタイムで見られるようになっているのだ。そしてヒエリカの法では、皇居での生活を国民達に開示し、外出時には何処で何をしたのかを必ず後で情報を国民に開示しなければならないというものがある。
つまり、海外の王族に皇族の法が適用されるという事は、ヒエリカに居る時には絶対に何をしたのかを報告しなければ、法律違反となってしまう。
国民達が皇族に対して絶対的な信頼を持っているのは、常人であれば決して安心できないような、気が狂いそうな環境を平然と過した上で、スキャンダルを全く起こさないからだ。
(その影響でヒエリカでは海外のパパラッチが圧倒的に多く、外出時のスクープを狙っている者が大勢居る。のだが、全て本人達にはバレており、民度の高い国民には邪魔される。そしてスクープらしいスクープも無い)
そしてこの世界ではもし海外で犯罪を犯すと、その海外での法に則り裁判が行われる。そして、招集拒否をすると有罪判決を受けた際に罪が重くなり、転移魔法で強制招集される。
自国の国であれば、そもそも裁判など起こり得ない。しかしここはヒエリカ、王であろうと等しく罰を受ける決まりだ。
「先程エドガー王は、私の執事に対し名誉毀損が成立する発言を国民たちの前でした訳だが……。さてどうする、セバスチャン。この罪は親告罪だ、お前が声を上げれば裁判で必ず勝てるぞ」
ノエリアはそう言うと、セバスチャンは哀れんでいる表情で答えた。
「いえ、大丈夫です。もしエドガー王が刑務所に入れられたら、コレディア国の方々がとてもお気の毒ですので……」
こんな事で捕まる情けない王様が統治する国に住んでいるという事実に、という意味で。
「私のお仕えする陛下は常に、国民達に安心と安全、そして信頼を与えてくださるので心配するような事は最初からありませんが」
それから「まぁ俺の親友が築き上げて、その子孫達が代々継いだ国と意思を一心に背負う、うちの陛下は? そんなダサい事をやらかしたり? 人前で言ったりしねぇけど?? で? お前は?? お前こそその身分に合った振る舞いしてんだよな??」という意味が込められた悪い顔でドヤァした。
ヒエリカに住む人間は戦闘能力はあるが、肉体攻撃よりこういった精神攻撃をしてくる。しかも明らかで直接的な悪口や汚い言葉を言わないのだから、余計にタチが悪い。咎める事もできない。
「そうか、お前がそう言うのなら
時間の無駄だから、さっさと話しなさい。ノエリアはそんな意味が込めて言うと、エドガーはやっと要件を話し始めた。
「……フェリラ王国との同盟解消を、考え直してもらいたい」
「あぁ、その事なら率直に言うと無理だ。
我が国は私の執事が言ったように民主主義なのでな。同盟の解消についても、私が決めた事ではない。あくまで私の国民達が決めた事であり、国民達の意見が最も重視される。まずはヒエリカ国民達を説得し、国民達の半数以上の署名などをさせてからまた改めて訪問していただきたい」
その言葉を聞いたエドガーには「まぁ無理だろうが」と言う、ノエリアの副音声が聞こえたような気がした。エドガーのイライラゲージが更に上昇!
「だがヒエリカでは相手を慮る国だ。よって今回の事はそちらの国に合わせて決めよう。まぁそれでも決めるのは国民達ではあるが、そちらの意見に賛同しないとも限らないからな」
「……」
一体何を考えている?
エドガーは警戒するようにじっとノエリアを見ていると、とある提案を言い渡された。
「コレディア王国の弱肉強食に
そしてヒエリカは猛獣達が町に降りてきては蹂躙するコレディア王国のように、弱肉強食とも言えるだろう。もし私が負けるような事があれば、国民達はおそらく私に失望する筈だ。
どうする? ……あぁ、エドガー王は久しぶりの戦闘だろう。怖ければ断ってくれても──」
「いいだろう、神に創られし竜人の力を特別に見せてやる。完膚無きまでの敗北と屈辱の苦汁を味わわせてやろう」
挑発的なノエリアの表情と発言に煽り耐性皆無のエドガーは思わずそう答え、ノエリアはこの日初めて笑った。……その笑顔はとても闇のように暗く、ニヤァっとしたものであったが。そして画面の向こうの国民達は歓喜した。
「(翠の眼を見ると嫌でも思い出す、あの全てを見透かしたような男の眼とふざけた発言を!!)」
『またいつでもお越しいただけると幸いです。……最後に、一つ貴方に予言を言ってもよろしいでしょうか』
『……』
『いつか貴方はコレディア王国の誰もが畏怖される王となり、支配するでしょう。……しかし、私の子孫にはお気を付けください、間違えればきっと貴方を跪かせ……貴方自身でさえ気づかなかった扉を開く事でしょう』
ではここで、初代皇帝が作ったもう一つの法律を読者の暇人な皆様にご紹介しよう。
皇族は生意気な態度をとってきたガキや輩には、自身は豚であり皇族は主人であるという事を分からせてもいいとする。これは躾であり、鞭で叩き罵倒しようとも罪には問われない。
……なんとも酷い法律だが、国民達はこれを誰も無くそうとはしなかった。何故ならここは、エロと自由の国のヒエリカ。そして皇族はみんなのアイドル、そんな推しからお仕置されるのなんてご褒美以外の何物でもないからだ。
~・~・~・~
「さぁ、復唱しろ。空を飛ぶトカゲ風情がご主人様に向かって無礼な態度と発言をしてしまい、大変申し訳ございませんでした。これからは一生ご主人様の奴隷として仕えさせて頂きます、と」
「んお゙ッ……♡ そりゃを飛ぶ、トカゲ風情がっ♡♡ご主人様に向かってぇ゙ッ♡♡無礼な態度と発言をしてしまい、大変申し訳ございましぇんでしたぁッ♡♡♡これかりゃは、はぁっ……♡♡一生、ご主人様の奴隷として仕えさせて頂きましゅぅぅっ♡♡♡」
戦闘の結果、エドガーは初代皇帝、ノルンの予言の通りに完堕ちしていた。これぞ即落ち二コマというものだ。エドガーは全裸土下座(挿さったでっかいバイブも添えて)で、見事にアヘっていた。なんとも酷い光景であり、国全体で晒し上げられているのだから救いようがない。
「よし、では私にはこれから、大事な(妻に愛を伝えるという)仕事がある。明日からは私の豚であり奴隷として、セバスチャンの仕事を手伝うように。だがその前に、お前の哀れな国民達に別れを伝えて来る時間をやろう。良かったなセバスチャン、お前の後釜ができたぞ」
「……はい、えぇ、えっと、その、あの、どうやら、そのよう……ですね。………………マジか」
ノエリアはつい素が出たセバスチャンに指示を出すと、全裸土下座(どんな男も女もメスにできると言われる魔法のバイブを装備しながら)の完堕ちエドガーと、泡を吹いて気絶しているコレディア王国の側近は、そのまま強制帰国された。
その直後、ノエリアは魔力感知で唯一無二の妻を感じ取ると転移した。
「スクイナちゃぁん!! ごめんなさい~!!!! 本当はあんなクソガキよりスクイナちゃんと一緒に誕生日パーティーを楽しみたかったのぉ!! でもあのトカゲがあたしの事馬鹿にするからぁ!! ついうっかり分からせて、約束破って勝手に豚を新しく作っちゃったのぉ!! 折角の誕生日なのにぃ!!」
「…………許しません」
怒りぷんぷん状態のスクイナにノエリアは「いやぁ~!!!! あたし毎日スクイナちゃんと同じベッドで寝れないと死んじゃうのぉ!!!! お願い、考え直してぇ!!!!」と、まるで皇帝としての威厳もねぇ声と態度で妻に許しを乞うが、スクイナはぷいっとそっぽを向いた。
ちなみにこれはパーティーの飾り付けがされたリビングでの出来事だ。息子達はそんな母(♂)にそれぞれ「母上、五月蝿いぞ。ケーキが不味くなる」「痴話喧嘩は他でやってくれ、気が散る。俺は俺のケーキを食うのに忙しいんだ」「気持ちは分かりますが……普通に帰らせたらこんな事になっていなかったでしょうね」と好き勝手に言い、娘は四つん這いの夫にあーんをして食べさせ、孫はチキンくんにちっちゃい自作のパーティー帽子を被せ、前には小さなお皿に小さく切ったケーキを置いた状態でケーキを笑顔で食べていた。
一応これはスクイナの為のケーキなのだが、皇族にとって甘い食べ物は米と同じくらいの存在。魔力を使う為に糖分は必須であり、これはマリエッタが作ったウエディングケーキ並に大きなバースデーケーキだ。いっぱい食べねば損というものである。
そんな様子を見て、セバスチャンは1人思う。
「(明日は荒れますね、はい……)」
という訳で、悠久の時からするとアメーバ程の時間が流れた、次の日のこと。
「きょ、今日からっ♡奴隷として仕えさせて頂くエドガーでしゅっ♡♡はぁ、はぁ……♡よろしくお願いしましゅっ♡♡♡」
「やだ、何? 奴隷の癖に贅沢な名前使っちゃって……。これから貴方はトカゲよ、これからはあたし達の為に全てを捧げなさい空飛ぶトカゲちゃん」
「はぁんッ♡♡ありがとうございましゅ♡♡♡」
「……」
《セバスチャンは遠い目をしている!》
気持ち悪いだとかドン引きするレベルを通り越すと、もはや恐怖。セバスチャンは変わり果てた燕尾服姿の兄を見て、無になった。
いや確かにコイツのことは嫌いだけど、そこまでするとは思わないじゃん?? えぇ、こわすぎ……これから死ぬまでドMになったコイツと仕事しないといけないのか……つら。
セバスチャンはそんなふうに思った。
とりあえず、セバスチャンは自身に加護を与えて、常に推しを観察できるようにしてくれた空間の神に祈っといた。……助けて、と。
皇帝はもちろん、皇族はどんなノーマルであろうと調教したら等しく豚にさせる能力がある。……ちなみにその能力は神様(アルダくん)由来です。
アルダくんはうちの子が好き過ぎて、恋愛とか興味無いから吸血鬼の特性上、伴侶にしかスケベな事に対して興味どころか性欲が湧かないので、パンセクシャルだけどほぼアセクシャルになってる。
同じ魔力を使うタイプの神で皇族と似たような高潔で努力と向上の精神持ってて、常識的な性格じゃないと好きにならんので……。
(アルダくんは本当に性別とかにほとんど頓着が無い。自分の姿を気分や状況で女の子に変えたり、ティアちゃまに女装させられたりしてるけど、そんな母親を見て「楽しそうだな」って思うくらい。なので、他の世界に居る一部の使徒からは男勝りな軍服着た女神だと思われてることもある)
そんな訳で、アルダくんは調教とかはしない。あとただでさえ色んなのが寄ってくるのに、もっとやべぇのが近寄ってきそうなので。アルダくんは人間問わず、動物や神から異様にモテる。神からは7人からガチ恋されてる。その中に運命の神、アスターも入ってたりします。
あれ?番外編のクリスマスでお互いに罵りあってなかった?
って、しっかりと小説を読んでいる人は思ったかもしれないけれど、あいつはめんどくさくて屈折した感情をアルダくんに向けてるんだ……。
物語の最後にちらっと空間の神について書いてあるけど、セバスチャンの設定は後天的に千里眼の能力を手に入れたって事に変更になってます。
貰った時に言われたのが「兄様の使徒(甥)に仕えているのなら、サポートできるだけの能力を持つべきです。なので兄様の妹として、貴方に加護を与えます!」っていうセリフで、見事推しをずっと見ていられるし、すぐに駆けつけられる能力を手に入れた。
ちなみに、セバスチャンなら転移不可の空間であっても転移できます。まさに暗殺向き。