チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった 作:水性さん
今回のハロウィン回はとんでもなく長くなりました。でも内容が中々思い浮かばない&一ヶ月前くらいから仕事の休憩時間中は仮眠を取るようにしたので、とても難産になったぜ……。
だって3回目だからね。
超特急で仕上げたから、誤字脱字チェックはあんまできてないので発見時に編集して更新するよ。誤字あっても現時点ではそのまま載せるよ。
本日は10月31日。そう、世界中が最も空気中の魔力濃度が高まる日。そして魔力の終着点であるヒエリカでは最も魔獣が増え、凶暴で凶悪になる日。しかし今回は番外編である。という事はつまり、既にこのくだらない小説を読んでいる暇人の読者の皆様方にはお分かりであろう。
「ノルちゃんっ! ヒエリカの魔力濃度がまたまた0になったわ!」
今回も相変わらずドアを破壊しながらノエリアはやってくると、ノルトは「またか……」と思いながら、毎度おなじみの「ドアを壊すな」という注意をする気にもなれなくなっていた。慣れというのは恐ろしいものである。ノルトは母(♂)をスルーしながら、コーヒーを飲み今日の朝刊を読んでいた。ただいま、朝の7時台である。もはや
「……全く、今日も何の面白みも無い記事ばかりだ。この俺の記事があれば、話題性も華も付いて少しは良い暇つぶしになるというのに」
「ちょっとノルちゃん聞いてるのッ!? ヒエリカの魔力濃度が0になったのよ!?」
ノエリアはノルトの体をその馬鹿力で揺らし、マグカップの中身は宙を舞う。零れて服にかかる前にノルトはマグカップを転移魔法で移動させ、テーブルに置く。そして宙に舞ったコーヒーも魔法で転移させて、マグカップの中へ移した。
「今年こそは一緒に行きましょう!?」
「……そろそろルトとエルマーを起こしに行く時間だな、ルトがすんなりと起きてくれるといいが」
ノルトは背後から聞こえてくる「ノルちゃん!?!?」というノエリアの声を無視し続け、双子の部屋に向かう。着いた先でベッドを覗き込むと、すやすやと寝ているのが見えた。しかも仲が良い事に、ルトはエルマーの腕を抱き枕にしている。
「可愛い~~♡ やっぱりうちの子は天使ね……世界一可愛いわ」
ノルトもそれには同感しつつも、絶対にノエリアには反応しない。スマホを取り出すと、カシャカシャと音を立てて寝顔を撮り始めた。その途中、エルマーは寝返りをうって右腕がルトの胸の上に乗っかる。
「んん……」
腕の重みで息がしづらいのか不快そうに顔を顰めて寝ているルトは、無意識に邪魔な腕をベシッという効果音と同時に払い除けた。幼いながらにそれなりの力があるらしく、いびきをかいているエルマーをコロン、と左側臥位にさせた。
「きゃ~~っ♡かわいい~~♡」
存分にノルトは写真を撮った後、2人の体を揺らして起こそうとする。
「ルト、エルマー、起きろ。朝だ」
「くかー……」
「んん……」
しかし双子は起きる気配無し。エルマーは爆睡し、ルトはさっきよりも不快そうな表情で幼子とは思えない力でノルトの手を無意識に薙ぎ払った。
「……っ、まさか文字通り骨を折る事になるとはな」
「ノルちゃん、お手々がポッキリしちゃったの!? ……うっそやだ、皮膚が赤黒くなって腫れちゃって指が変な方向にいっちゃってるわっ!! イヤーーッ!!」
そう、普通の人間はこうなるのだ。いやノルトが普通かといえば全くそうでは無いどころか、魔王かのように強く中身もそれらしいのだが……。皇族は防御力が一般人よりも多少はあるとはいえ、あくまで魔法が存在しない世界の体を鍛えている人間程度だ。人外や化け物、ゴロツキなどが沢山居るこの世界で、そんな防御力は何の意味も無い。やはりあの某勇者はおかしいのである。
ノルトは
しかし褒めている場合ではない。もう一度無理に揺らしたら、ルトは更に強い力で薙ぎ払う事だろう。もしエルマーに手がぶつかりでもしたら危険だ。ではエルマーの方を別の場所に移せばいいのでは、という声が聞こえてきそうなものだが、無理である。3歳児とは思えない程の力でしっかりと、それも痛くないようにエルマーの腕を抱き締めている上に、離れさせようとすると服を掴んで絶対に離さないからだ。
絶対に離さないという意思すら感じられる馬鹿力に父・祖母(♂)2人は、うちの子が可愛すぎると遺伝性の親馬鹿を再び発揮させ、馬鹿みたいに写真を撮る。意外性も何の話の展開も無い、ヴェリカ家の普通の朝だ。
「た、ただいま戻りました~……」
すると遠慮がちな大きいとは言えない声が玄関から聞こえてきた。家は屋敷のように大きく、ただの凡人であれば聞こえるはずの無い声だ。しかし皇族にはしっかりと聞こえた。愛ゆえに。愛ってすごい。
その瞬間にガバッと双子は起き上がると、目をカッと開けてベッドから飛び降りて声の主の元へ爆走した。愛ゆえに。愛ってすごい。
「姉さ~~~~んっ!!」
「姉っ」
「ルトゥ、マーく~~ん♡会いたかったよ、一昨日ぶりだね~~♡♡あれ、 前会った時よりちょっと爪伸びた? あ~、0.22ミリ伸びたねぇ~♡♡♡今日も世界一可愛い♡」
一昨日ぶりに帰ってきたこの小説の主人公であり、残念ゴリラパワー系ムッツリドスケベツンヤンデレシスブラファザマザコンロリ体型美少女ヒロインことノエルは、自分の両足にコアラのようにくっつく双子を見て頭を撫で回し、デレッデレになっていた。うちの
そのヒロインの隣で、ジッとスチームを発して周りの湿度を爆上げしながらその様子を見ている柴犬系勇者が居た。
「俺には……?」
「はい」
ノエルはレイゼルの頬をムニムニすると、すぐにイマジナリー尻尾を喜んで振っていた。
「んへへぇ……♡」
なんともチョロい。後からノルトとノエリアがやって来ると、2人はノエルからのハグ待ちをしていた。当然、全てのコンという
「お父さん、おばあちゃんっ!」
2人いっぺんにノエルは抱き締めると、背後から柴犬からの湿度の高い視線が再び向けられるのを感じる。
「俺には……??」
「いいえ」
「ノエルが「はい」か「いいえ」でしか喋れねぇ主人公みたいになった!! やだ!! 俺にも愛情込めて抱き締めてくんないとやだ!!」
「いいえ」
ノエルは駄々をこねて地団駄を踏むデカイ子供を無視すると、今更ながらにマリエッタが居ない事に気が付いた。
「(そういえばお母さんが居ないな……あっ、そういう事か。完全に理解した、お母さんたぶんお父さんと夜遅くまで起きてイチャイチャ(意味深)してたからまだ寝てるんだ……)」
ノエルは察しの良い娘なので、未だ全裸でスヤスヤと寝ているであろう母親の事は話題に出さない事にして、今回実家に帰ってきた理由を伝える事にした。
「あっ、そうだ。今日ってハロウィンだけど、今年は学校で一般公開の仮装パーティーを開く事になったのって知ってる?」
「あら、そうなの?」
「あぁ、知っている」
「そうなの!? ノルちゃん、どうして教えてくれなかったのよ!」
答えはもちろん、聞かれなかったからである。
「今年は友達がね、一緒に楽しもうって誘ってくれたんだ! それで服も用意してくれたみたい、私に着て欲しい仮装があるんだって」
「そうか、楽しんでこい」
ノルトは随分とあっさりした感想を言い、ノエルは思った反応が来なくて頭上にはてなマークを浮かべた。いつものノルトなら事前に服を用意している為、着て貰えない事に対して多大にショックを受けるとばかりにノエルは思っていた。
「う、うん……」
「ノ゙エ゙ル゙、ぎゅーじでぐれないど俺死ぬがらッ!! 俺死ぬがらッ!!」
その後ノエルはギャン泣き状態で縋り付くようにしてノエルを抱きしめてくるレイゼルを仕方なく抱き締め返してやり、頭を撫でてやった。
「んへへぇ……♡」
《レイゼルは秒で機嫌を良くした! なんてチョロい……!》
~・~・~・~
「はァァァァァァァァァァァァッ!!」
まるで限界オタクかのような奇声を発しているのは、液漏れを起こさないようにする地味に神過ぎるエンチャントが付いたGペンを走らせている王女……ヘレンであった。
「ヘレンちゃん、落ち着いて……周りの人が驚いてるから……あと私が恥ずかしいからやめて……」
「(推しの生へそ出し!! なんてエッッッッッッッッなの!!!! 本当にけしからんわ、流石私!!)」
「とってもドエロ──じゃねェ、可愛いですよノエル♡」
ノエルは狼の格好をしており、髪色に合わせたのか黒を基調とした白い狼娘となっていた。つけ耳と尻尾はアーティファクトなのでまるで本物かのように、恥ずかしげに揺れている。
首にはイカつい首輪と鎖、そしてどこかの誰かさんの目を彷彿とさせる、青いサファイアのように見える大きな魔石、それからいつもの生首が付いていた。この生首は「しゅき!!」とずっと何故か喋っている。この仮装はヘレンが趣味丸出しでデザイン案を出し、レイゼルの協力によって作られたものだ。なのでどこかの誰かさんは対象的に黒い狼であり、白を基調とした格好をして……ノエルの腹を凝視していた。そしてどこかの誰かさんの姉は、同じく黒い狼の格好をしている。
そしてヘレンは……毎週日曜日に放送される、女児向けアニメのキュアキュアなピンク担当っぽい格好をしていた。首には大きな宝石のあるネックレスを身につけており、見るからにお金がかかっている。流石そこは王女と言ったところだ。
「へそ出し……ノエルの、へそ出し……へそ……へそ……へそクンニしてぇよぉ……」
「頭大丈夫?」
ノエルは大分気色悪い事を言って、付けしっぽをブンブン振ってヨダレをダラダラさせている変態にそう聞くと舐めようとしてくるので、即頭を掴んでミシミシさせた。
「あ゙ッ♡のえりゅのつけ爪がくい込んでりゅッ♡♡」
もう既にレイゼルのレイゼルはフルレイゼル状態であり、いつものように頭を変形されかけていた。その足元では「にゅーーっ!!」と、キノコくさい精霊がコウモリの羽を着けてレイゼルを傘でベシベシとムチ打ちのように攻撃し……レイゼルに蹴っ飛ばされ、空の彼方まで吹っ飛び星となった。
「に゙ゅぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」
「ニョッキぃぃぃい!!!レイゼル、あんな可愛いキノコの精霊になんて事を!!」
「いや、あいつキノコくせーしうぜーし……」
「離れろボケカスクソ弟ッ!! ……大丈夫ですかノエル、この気色悪い上に人としてどうかしてる弟は何処かの路地裏にでも捨てておきますね!」
「もう慣れたし、いつもの事だから大丈夫だけど……ちゃんと私のおへそじゃなくて目を見ようか。それより、死神くんはどうしてそんなに距離を……??」
ノエルはそう言うと、全員が何故か妙に遠い場所で厨二全開な死神仮装をして、ヘレンが居ることによって女児向けアニメの幹部にしか見えないアグネスに視線を向ける。
「お、おおおおおおおッ、推し達がっ……オシタチガッ……オ、タ、ガッ!!」
まるで息を吸えていないようで、途中からカッスカスな声で言葉になっていないアグネスはノエル……ではなく、ヘレンの隣で仕事として堕天使の仮装で護衛をさせられ、変態の痴態に対して「やはり強制的にでも別れさせるべきだろうか」と考えて、スンッとして、まるで女児向けアニメの敵サイド(ボス)かのようなノルトと、ハロウィン仕様のぜっきょーチキンを持った、ミイラの仮装をしているノイルを見ていた。
そしてノイルは今回、海外からやって来た他校の生徒としてお呼ばれされている。今回のハロウィンパーティーは海外との交流も含めたものであり、画期的なアーティファクトを作った生徒達によるお披露目会でもあった。ノイルはその発表会に参加する事になり、こうして来ていた。発表会が無かったとしても、パーティーの参加はしていたが。
「死神くん、落ち着いて。確かにお父さんとノイ兄程顔が良いイケメンはこの世にそうそう居ないし、そうなる気持ちも分かるけれど、落ち着いて」
「ノエル、俺は??」
そう聞いてくるレイゼルにノエルは無視すると、ノイルはぜっきょーチキンでプピプピする。
(ピーピーププピーピープピープピーピーピープピープピーピーププププピーピープピーププププピープピーピーピープププピーピープピーププピーピーピープププピーピーピープププピーピープピープピーピープピーピープピーピーププピープピーピープピーピープピーピープピーピーピープププ)
それを聞いたアグちゃんはバタリと倒れ、推しからの多大なるファンサを全身に受けて気絶した。
「死神くん!?」
すると遠くから「エルきゅ~~ん!」という若干野太い声が聞こえてくる。もしかしなくとも、あの人だ。ちなみにこの皇帝、一人で来ている。他の皇族の皆様方は今、ヒエリカに居るので来ていないのだ。
「おばあちゃん、今年はスケルトンなんだね」
「そうなのよ! 可愛いでしょう?」
ノエリアはそう言うが、着ている本人は筋肉の塊なので最も対極的な仮装だ。女性的な衣装デザインであり、あまり筋肉が目立たないように作られている。……体の厚みは流石に隠しきれていないが。ちなみにこの仮装はノエリア本人の希望を取り入れてデザイナーによって作られたものだ。もし何の希望も無いまま作らせた場合、惜しみなく筋肉を強調させた、デザイナーの趣味丸出しなピッチリ系の服となっていただろう。
「うん、それでね……私の友達が何故か気絶しちゃったんだけれど、どうしよう」
「あら……でもヒエリカ人にはよくある事よ? きっと沢山の供給でキャパオーバーしちゃっただけだから、その内起きると思うわ」
え、そうなの?? ヒエリカ人の人ってそんなにしょっちゅう気絶するんだ……大丈夫かな。
ノエルはそう思いながら、とりあえずアグネスを揺らすとノエリアの言う通りにすぐに意識を取り戻した。
「あ、本当だ」
「ね、あたしの言った通りでしょう? アグちゃん、おはよう♡久しぶりね、サマーホリデー以来かしら!」
……が、目を開けると見目麗しいスケルトンの仮装をした皇帝陛下(しかもおはようボイス)が自分を覗き込んでおり、再び意識を手放してスヤァした。
「ノルトさ~んっ♡」
すると、ムッチリドスケベなボディを持ったナチュラルヤンデレサイコマザー、マリエッタはサキュバスっぽくはありながらも露出は控えめな悪魔の格好でノルトにくっついた。こうして最凶にして最恐の悪魔みたいな夫婦は揃ってしまった。そして双子も一緒に居り、走って夫の元へ一目散に駆け寄る母同様、双子も大好きな姉の元へ弾丸のように走って飛びつく。
「姉さんっ!!」
「姉……!」
「今日もとっても素敵、世界一カッコイイわ! あっ、でもカッコイイだけじゃなくて、凄く可愛い♡」
「あぁ、当然だ。そうでない筈が無い、今までにそうではない事があったか?」
マリエッタはスリスリとノルトにくっついて、ノルトは腰に手を回して抱き寄せる。今日はお互いにしっかりとした会話すらしていなかったので、こうして周りの目がある中でイチャついていた。双子もノエルにくっついて、ジッとノエルをガン見して一丁前に嫉妬するレイゼルに向けて「見せもんじゃねぇぞ、あっち行け」とばかりに中指を立てて威嚇しながらもスリスリする。するとマリエッタはギュッとノルトの服を握り締めた。……引き千切りかねない様子で。
「……でも起きた時に傍に居なくて私凄く、本当に凄く寂しかったし悲しかったの。ノルトさん、どうして行く時に私を起こしてくれなかったの? ノルトさんが一番最初に会話をする相手は私なのに、どうして起こしてくれなかったのかしら?? それにおはようのキスは必ずしないと私の一日はずっと始まらないのよ????」
マリエッタ氏、激おこである。蜂蜜のような眼の色は病み色の真っ黒に染まり、常人であればチビってしまう程の殺気を間近にして受けている精神異常者の夫ことノルトは、普通にツッコミを入れた。
「いや、起こしたぞ。だがエマが寝ぼけて俺にキスをしたまま二度寝したんだ」
その発言にマリエッタははパチパチと瞬きをして、それから頑張って思い出そうとする。しかしノルトの目には全く思い出せていないように見えた。期待値は限りなく0に近い。
「そ、そうだったかしら……」
「やはり覚えていなかったか。そして今日俺はヘレン王女の護衛として仕事をしている、あまり構ってはやれないぞ」
「いえ!! お気になさらず!! むしろ私の事は壁だと思っていただければッ!!」
むしろヘレンにとってはとてもありがたい事であった。ヘレンはノルトとノエルの親子の関わりが見たいが為に、今回は理由でかこつけてノルトを仕事という名目で護衛させ、ノエルを誘ったのだ。顔が良い男女がお互いに病んでイチャついているのはヘレンにとって最高のネタになるのだ。これだけで原稿用紙32枚分は堅い。ヘレンはとても王女とは思えない残念なニッチャリ顔をした。既に新刊の構想が湧き上がっている様子。更に双子達のおかげで姉弟のほのぼの系のネタも手に入った、秋は豊作間違い無し。
「それでは護衛の意味が無いだろう、給料が出ているからにはその分は働く。
「(予告状……?)」
とはいえ、親子が全員揃ってしまった。ノエルは今日、いつものグループで楽しむものだと思っていた為、このような状況は想定していなかった。お互いの保護者同伴ならば納得はするが、自分の家族全員と友達。自分はともかく、少し気まずさを感じないだろうか。それに、いくら大好きな家族とはいえ親に友達と遊んでいるのを見られるのはなんというか、恥ずかしいという気持ちがあった。家族とのテーマパークならいいが、友達とワイワイしてはしゃいでいる所を親に見られるのは……。ノエルはそう思っていると、ノルトと目が合った。
「だが、何も
「!」
ノルトは双子に手招きすると、双子は嫌そうな顔をしてギュッとノエルにしがみつく力を強くした。
「今日のお母さんの作るおやつ、半分になっても構わないのならいいが」
双子はビクッとすると、渋々と双子はノエルから離れる。おやつパワーは強かった。それにノルトは言ったからには絶対にやる男なので、ただの脅しではないところが双子にとって絶大な効力を持っていた。とはいえ、皇族の子供にとってのおやつは普通の子供が食べる量よりも圧倒的に多く、普通の子供にとっては半分に減ったからといって少ないという事は全くなく、むしろ多過ぎるくらいだ。普通の子供が毎日それだけの量を食べていれば、確実にふうせんのようなワガママボディとなっていた事だろう。
「えぇっ!? そんなッ!! 推しCPのイチャイチャと親子のイチャイチャを見るチャンスがッ!!」
「ヘレンちゃん、王女様としての自分を思い出して」
「今更じゃね?」
レイゼルのくせに最もなツッコミをすると、ノエルは「それはそうだけれども、やめろ」と思いながら、ほぼ凹凸の無い胸にセクハラをしてくる手を、何故か呪いのアイテムかのように装備から外せない鞭で手を叩き落とす。
「あッ゙♡」
《レイゼルは喜んでいるようだ》
「その代わり、家族でのハロウィンパーティーは夜に家でやろう。ヒエリカでもいいが……その場合は、すれ違う人々全員から菓子を渡されるだろうな」
「ヒエリカって、ハロウィンの日にはお菓子貰うんじゃなくていっぱいあげる感じなんだね」
そう言ったノエルに親以外の全員が「違う、そうじゃない」と思いながらも、心の中だけに留めておいた。
「楽しんでこい」
ノルトはノエルの頭に手を伸ばすと、それを見たノエルの付け耳はヒコーキ耳になり、しっぽはブンブンと振っている状態になる。嬉しさ大爆発中だ。その様子を見たノルトは思わず笑みがこぼれてノエルの頭を撫でる。
「うん」
とても仲が良いその親子……のやり取りを見ていたヘレンはガリガリとGペンを走らせていた。
「うぐわぁぁぁぁぁぁぁあああッ!! 良いッ!!!!
「王女、うるせェぞ」
レイネルは騒ぐヘレンにじとーっとした目を向け、それからマリエッタのドスケベムチムチボディに抱き締められてよしよしよしよしと頭を撫でられていたノエルを見ていた。ノエルの顔に大きな胸が押し付けられており、紳士諸君からするとなんとも羨ましい状態となっている。……ノエルは乳圧で窒息しかけているが。
双子も再びノエルを抱き締めると、しばらくしてからようやく離れた。
「じゃあ楽しんできてね」
「あっ! 待ってアタシもアタシも──ってノルちゃん!? アタシもエルきゅんにギューってしたいのに! 腕を引っ張らないで頂戴!」
ノエリアはノルトによって引きずられながらもノエルに手をブンブンと振り、そのまま連れていかれた。するとノイルはリュックからお手製のマスク型アーティファクトを取り出して装着すると、ノエルの手を握ってここぞとばかりにくっつく。
「〘まずは何処に行く? 屋台、アトラクション、出し物……色々とあるようだが。僕はノエルが行きたい場所に行きたい〙」
「グッハ!!」
「ヘレンちゃん、確かにノイ兄の声はイケボだけど抑えて」
ノエルは興奮したヘレンにそう言うと、ノルトが言った気になる言葉について聞いた。
「そういえば、お父さんがさっき予告状って言っていたけれど……何の話なの? もしかして、怪盗とかが出てお宝を盗みに来るとか?」
「それはですね、ノエル様もお察しの通り……なんと出るそうなんですよ」
その為に護衛もとい、お父さんに守らせていたのか。そう思うと、首にかかった大粒のルビーと金でできた、王族の色を身に纏うヘレンを見る。怪盗といえばお宝、きっとコレを盗みにヘレンちゃんに接触するんだろう。そう思い込んでいると、ヘレンはその視線に気がついて「違うんです」と言った。
「え?」
「怪盗が盗みに来るのは、こういう宝石などが定番ですが……その、怪盗が盗みに来るのは……」
全員がヘレンをじっと見て言葉を待ち、ここでアグネスは意識を取り戻して起き上がった。
「わ、私のっ……」
「「私の?」」
ヘレンは顔をとても赤くさせ、そして顔を手で覆って答えた。
「しょ、処女、らしいのです……」
「怪盗ってなんかオシャレ風に言ってっけど、ただのレイプ魔じゃねェか!!」
「よし潰そう、そんな
「〘どうやら生き地獄というものを味合わせる必要があるようだな〙」
「んー、殺した方が俺は手っ取り早くて良いと思うけどなー」
「い、一体何の話なんだ……!?」
よしとりあえず襲いかかってきたら殺そう。
ノエルはそう思い、ヘレンにくっつくようにしてまずはアトラクションの方へ行く事を提案し、全員で向かった。状況を飲み込めていないアグネスにもう一度説明をして。
「なるほど、そうか……そういう事だったのか。ならば、この血濡れの死神──闇と死の力でもって怪盗とやらを罪の炎で焼き尽くそう」
「あぁうん、お願いね。ヘレンちゃんの貞操がかかってるからね」
そしてアトラクションエリアに着くと、そこには魔法で急遽作られた薔薇園の迷路、コーヒーカップ、メリーゴーランド、そして何故か回るのがやけに遅く、揺れている観覧車があった。
「……なんか、ショボくね? アニメとかならジェットコースターとか、車走らせるやつとか、でっけー船とかお化け屋敷とか色々あんじゃん」
「思ってても言うんじゃねェよ」
「今回のパーティー自体、学園長の思いつきで開かれたものだそうですし、安全や時間、技術面を考えるとこれが限界だったのでしょうね」
「そうなんだ……その割には観覧車あるけれど」
内部事情を知った所で、ノエルは改めてアトラクションエリアの遊具達を見回した。
「じゃあ皆どれやりたい?」
ノエルはメンバーにそう聞くと、隣で興奮した柴犬勇者が手を上げて「はいはいはいはい!!」と、自己主張した。
「俺ノエルとティーカップとメリーゴーランドとか観覧車に乗って、いかにも恋人同士のデート♡がしたい!!」
「〘やはり気が変わった。ノエル、最初は迷路にしよう〙」
「そうだねノイ兄」
いとこ二人は迷うことなく薔薇の迷路に向かうと、レイゼルはorzのポーズになって嘆いた。
「何でだよぉぉぉぉおおお!!!! 依怙贔屓だ!! というか贔屓するなら何で恋人である俺じゃねぇんだよぉ!!」
「また今度ね」
ノエルはそう言うものの、レイゼルはまるで小さい子供のように駄々をこねた。実に情けないのと迷惑この上ない。
「やだぁぁぁぁぁぁあああ!! 俺は絶対にノエルとイチャラブデートするんだぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
「いや、だって今日は皆と遊ぶ訳だし……。今度は二人でテーマパークとか行った時はレイゼルが乗りたいアトラクションとか、やりたいミニゲームとか、絶対付き合うから」
「……嘘じゃないよな?」
「当然」
疑う顔でくっついてくるレイゼルの頭をノエルはわしゃわしゃと撫でると、レイゼルはすぐに機嫌を取り戻していつものようにだらしない表情で喜んだ。やはりチョロい。
「んへへぇ……♡」
「テメェこの野郎、クソ羨ましいッ!! その場所と約束オレに代わりやがれェ!!」
「今のはデートの約束ですね!? あ゙ーーッ!! 助かります!!」
「(おおおおおおおおおおおおお、お、推しと!! 推しと一緒に!! 推しと一緒に遊べる!!!!)」
(プピィッ)
そんなやり取りを見たヘレンはGペンのスピードがレベルアップし、嫉妬したノイルはムッとした顔をして思わずチキンを握り締め、レイネルはキャンキャン騒ぎ、アグちゃんは推しとアトラクションを楽しむというこの状況でそれどころではなかった。
しかしノエルには少々薔薇の迷路を楽しむ上で少々、いや大分大きな問題があったのである。
「(……大変だ。よく考えたら私、分かれ道になった時に勘で正解のルートが分かってしまう)」
迷路というのはやはり迷ってナンボ。散々迷った末にゴールするのが醍醐味なのだ。しかしノエルは少しも迷うこと無くゴールする事ができてしまう。一人なら全然問題無いが、今は友達やレイゼルと一緒に居るのだ。初見で迷うことなくRTAをするのは一体如何なものか。
「(まぁ、躓いたら教えれば──)」
「よーし、じゃあ誰が一番早くゴールするか競走しようぜ!」
いや一体何故競うのか。ノエルは「なんでよ」と思いながら、このセリフを言った黒柴ことレイネルに視線を向ける。
「ノエルと一緒にあの観覧車で2人っきりになる権利を賭けて」
その瞬間、主に3人が反応した。それはもちろんレイゼル、ノイル、アグネスの男子達だ。それはもう見事に食いついた。腹を空かせたクマのように食いついた。
「よっしゃー!! やるぞぉ!! ぜってー一番乗りになってノエルとイチャイチャするッ!!」
「とうとうこの俺の真の力を解放する時が来てしまったか……」
「〘ノエル、安心してくれ。何処の馬の骨とも分からない奴らとは絶対に密室で同じ空気を吸わせたりはしないからな〙」
「ノイ兄まで……!?」
全員、気合いは十分だ。そして薔薇の迷路入口に着くと、アトラクションのスタッフが立っていた。
「何名様でしょうか?」
「「5人ですッ!!」」
「えっ」
「あ、すみません6人です」
柴犬姉弟は興奮しながら1人除外した人数を言い、後ろに居たアグちゃんは「まさか俺は除外されてないよな?」という視線をブンブンと付けしっぽを振っていた柴犬達に向ける。即座にノエルが訂正したので事なきを得て、ナチュラルにハブられそうになったアグちゃんはホッとした。
「迷路内では不正の防止と途中リタイアをする方の為に、転移魔法でのショートカットをしようとした際にはスタート地点に戻る仕様となっております。そして安全の為に攻撃魔法を使うのは厳禁です、行使した場合はペナルティとして強制退場、そして二度と迷路への参加が認められませんのでご了承ください。では行ってらっしゃいませー!」
「よっしゃイクゾォ!! ノエルとイチャイチャすんのは俺だぁぁぁああ!!」
「あっ、おいテメェ!! こういう時は同時に行くモンだろうがァッ!!」
スタッフからは迷路に挑戦するにあたっての注意事項を聞くと、レイゼルは即座に走り出し、レイネルは追うようにして迷路に入っていった。それに続いてノイル、スタートダッシュに遅れたアグネスも慌てて迷路に入っていく。
「行ってしまいましたね……」
「そうだね……とりあえずヘレンちゃんには護衛が必要だし、一緒に行こうか。いくらお父さんが何処かで見てくれていたとしても、天井付きの迷路じゃヘレンちゃんの姿も見れないだろうし。あっ、もし例の犯罪者が出てきたら絶対に私が守るからね!」
「とても心強いです」
そしてノエルはヘレンに手を差し出すと、ヘレンはノエルの手を取って握ると、迷路の中へ入っていった。迷路の壁となって生えている薔薇はどれも美しく、大きい。赤、白、黄色、ピンク、オレンジ、青、紫、黒……色とりどりだ。間近で見ようとノエルは顔を近づけると、どう頑張って壁の向こうを茨の隙間から見えないか見ようとしても、しっかりと見えないようになっている事に気がついた。
「ちゃんとこういう所もしっかり対策されてるんだ……さて、じゃあサクッとゴール目指して行きますか」
ノエルは迷うことなく、勘を頼りにゴールまでヘレンを導くようにして進む。進む途中、何処からか「やべぇ、完全に迷った!! ……ノエルぅぅぅぅぅぅぅ!!!! ざびじぐなっでぎだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」「うるせェ黙りやがれェ!!」という柴犬共の声が聞こえてくる。それらを無視しながらノエルは進むと、その途中で行き止まりに当たった。その壁は他の壁とは違い、薔薇が咲いておらずに茨のみとなっている。
「行き止まり……ですね」
「うーん、こっちの筈だと思ったんだけれど……あ、もしかして」
ノエルは勘を頼りに薔薇の咲いていない茨の壁に手を伸ばすと、シュルシュルと茨は動き、新たな開けた。
「まさかこんなギミックが! ……それにしても、この迷路難しくありませんか? まぁまぁな距離を歩いていると思うのですが」
「迷った先の行き止まりでおそらくヒントがあるんじゃないかな、私達は迷ってないからそのヒントを見てないけれど。……それにしても本当に広いね、つまりそれほど学校の敷地は無駄に広いって事なんだけれども」
そしてクソ広い迷路を探索してから30分以上が経過した頃。ノエルとヘレンは進む内に段々と何処からか聞こえてくる「ノエルぅぅぅぅぅううう!!」という声がボリュームアップしていき、鼓膜にダメージを蓄積させられていくのを感じながら歩くと、やがて迷路のゴールへと辿り着いた。
「着いたー!」
「お疲れ様です! 本当に広い迷路でしたね……痛っ」
「ヘレンちゃん、大丈夫?」
反応からして、靴擦れでもしたのだろう。ノエルはそう思いヘレンの足を見ると、やはり足の皮が剥けて赤くなっているのを見つけた。普段履かない、仮装用の靴なので靴擦れしてしまったようだ。
「ちょっと待ってね……
転移魔法でノエルは消毒液と絆創膏を持ってくると、それらをヘレンに使う。傷口が滲みたのかヘレンは少し苦悶の表情をすると、それから絆創膏を貼った。その絆創膏はデフォルメされた猫の絵があり、なんとも可愛らしい。
「この絆創膏ね、お父さんが買ってきたやつなんだよ」
「ノルト様が!?」
「うん、ルトゥとマー君が歩き始めるようになった時、2人は家の中をずーーっと歩き回っていたから外で歩かせる事にしたんだって。そしたら盛大に2人揃って転んじゃって……でも丁度お母さんが料理中に指を珍しく切っちゃったから絆創膏が無かったらしくて。それでわざわざヒエリカに行って買ってきたのがこの柄付き絆創膏」
「絆創膏を買う為にわざわざ国外を……愛ですね」
「ヒエリカ製の物は全部質がいいからね、それにお国柄で医学がすごく発達してるから安心出来るって」
「そうでしたか……でもこれ、どう見えても安そうな普通の絆創膏にしか見えないのですが」
ヘレンは「もしやノルト様が双子に可愛い柄付きを貼りたかっただけなのでは??」と怪しんでいると、ノエルは持っていた猫ちゃん絆創膏をペタリと貼った。
「見た目はね、とりあえず……迷路を最初にゴールしたのは私以外だとヘレンちゃんって事になるよね?」
「そう、ですね?」
「じゃあ行こうか」
ノエルはヘレンの手を繋いだまま観覧車がある方へ向かうと、観覧車の乗り口に着く。そしてそこに書かれていた看板は、観覧車ではなく……。
「なにこれ」
「え、えっと……どうしましょうか」
そこに書かれていたのは「
「……なるほど、これ目的だったか。かと言って後々何か言われた時に面倒だし、変な争いがまた勃発しそうだし……仕方ない。ヘレンちゃん、乗るよ」
「えぇっ!? こ、これにですか!???」
「いや、まぁ周りからは「コイツら交尾したんだ」みたいな目で見られるかもしれないけれど……別に本当にスる訳でもその気もないし、ただ景色見るだけだし。それに一周するのに1時間かかるみたい、皆は全然来なさそうだし待つのに丁度いい時間かなって」
「そ、そうですね……」
とはいえ、いきなり即席とはいえラブホに推しと行くような状況になってしまい、ヘレンは何故かちょっとドキドキしていた。いくらお互いにその気が無いとしても、緊張はするのだ。しばらくして順番が来ると、2人は乗る前に魔法で中を洗浄してから入った。流石に他人の体液に触れるのは気持ちが悪いので。とはいえ、こんな常軌を逸した馬鹿げた乗り物に平然とまではいかないが、乗れている時点でこの世界に染まってしまっている事に2人は心の中で少しばかりショックを受けた。
「……なんだか、こうして2人だけで話すのってあんまり無かったよね。いつもは皆が居るし、レイゼルはいつもくっついてくるし」
「そうですね、少し新鮮な気がします」
「それにしても、こういう時って何をすればいいんだろう……ただ景色見てるだけなのは……話す? 何話すかも特に決めてないけど……」
ノエルはそう言うと、ヘレンは頭の中で「もしかしてこれ、普段は聞けないような事を喋ってくれるフラグだわ!! 過去編とか!!」と、テンションが急激に爆上がりした。
「いえ!! むしろ本望です!!」
「え、あ~……じゃあ、何話す?」
「では、ノエル様とレイゼル様が初めて会った時の事を!!」
「そういう話って、レイゼルが何度か話してそうな気がするけれど……」
CP厨であるヘレンであれば、必ずと言っていいほどレイゼルから聞いたであろう初めて会った時の話。ノエルは当然知っていると思っていたものだが、ヘレンは苦笑いを浮かべた。
「……実はですね、レイゼル様には最後の最後までどういう出会いだったのかは聞けていないんですよ……」
「あー……理解した」
きっと聞いているこちらが恥ずかしくなる程にいつものようにノエル語りをするだけで、肝心の出会いの内容を言っていないのだとノエルは察した。というか、話が途中で脱線するのだろう。それか又は、その時に感じた想いを自分とノエルだけの物にしたいという思いがあるのかもしれないが。
「うーんとね、まずあの頃の私は庭の外側……まぁ、村に生えた木の下で小説読んでたんだ」
「家の中やその敷地内ではなく……?」
「こう言うのも変だけれど……家の中に居るのが、ちょっと怖くて」
ヘレンはその言葉に疑問に思い、理由を考えてみるも中々思い浮かばない。何故なら家の中には、あの両親が居るのだ。ノエルの性格と家族に対する過剰な愛を考えると、むしろ外より中に居る方が多いだろう。だからこそ、分からなかった。
「その頃の私は……正直言うと、お父さんとお母さんが怖かったんだよね」
「えっ!? (あ、でも確かにあの夫婦は揃ってヤンデレだものね!! ちょっとスイッチが入ったら怖くなるわよね、そういう所!! 確かに、束縛も激しそうだし家の外に居たくもなるわ、納得!!)」
ヘレンは頭の中でそう結論付けると、それを勘で気づいたノエルは「うん、絶対何か勘違いしてる……。でもわざわざ前世の事から説明して空気を重くさせる訳にはいかないし、そういう意味ではありがたいけれど……」と、心の中で訂正したい気持ちを胸の内で抑えていた。
「まぁとにかく、いつも私は冒険物語の小説を楽しく読んでいたら、ある日ずっとこっちを見てくる視線を感じるようになって」
「つまりその視線の正体がレイゼル様という事ですね!!」
「そういう事だね。それから雨の日以外、ずっと毎日そこで本を読んでいたら必ずずっと私を見てきて……気になって仕方ないから「そんな所でずっと私を見ていないでこっちに来たら」って言ったのが始まり」
「きゃーーっ!!」
ヘレン、大興奮。ようやく推し同士の出会いを聞けて、非常に歓喜していた。
「あの時のレイゼルはそれはもう本当に可愛かった……。どうして今はあんな変態に育ってしまったんだろう、出会った頃は私にマトモに話しかけられないくらい顔を真っ赤にさせて緊張しまくってたのに……一体どうして」
「良!!!!!!」
昔の綺麗なレイゼルを思い出し、ノエルは遠い目をしながら話し続ける。
「あの時は一緒に森の中探検したりして遊んでたかな、結構楽しかった。それである日初めて魔獣に遭遇しちゃって」
「えっ、大丈夫だったんですか?!」
「うん、思えば初めて私が魔獣を倒したのってその時かな。凄く怖かったけれど……プルプル震えてるレイゼル見てたら守らないとって、無我夢中で炎魔法使って木っ端微塵に爆散させてたよ」
「もう既に強さの片鱗が……」
それからノエルはずっとヘレンに昔の事を話し続けて、そのエピソードを聞いた限界オタク王女は「この子レイゼル様の事好き過ぎでは??」と思いながら、無自覚に全てがレイゼルとの思い出を語っていたノエルの言葉を、逐一何処からか取り出したメモに書き残していた。
観覧車が一周し終えて降りると、そこにはゼェゼェと疲労困憊で死にかけている3人が居り、話題となっていたレイゼルは座り込みながら涙目状態になっていた。無様に泣き叫ぶ前兆である。ノイルは早くにゴールしたのか、疲れていない様子だ。
「あっ、お疲れ様みんな」
「なん、で……はぁ、はぁ……ヘレンと……」
「ズ、ズリィぞ、王女……!」
「〘……〙」
「ま、正しく、闇の迷宮だった……」
「だって一番乗りが私と観覧車に乗れる権利が貰えるんでしょ?」
「あ゙ーーーーッ!! ノエルとイチャイチャしたかったーー!!!!」
レイゼルは案の定泣き叫び、嘆きながら膝立ちでノエルを抱き締めた。
「だから、また今度ね。……それで4人の中で一番乗りだったのは誰?」
「〘当然、僕だ〙」
ノイルはドヤァしながらノエルに言うと、それからしょんもりした。なんだかんだ、やはりノエルと一緒に観覧車に乗りたかったようである。それを見かねたノエルはコーヒーカップのある方へ指さした。
「じゃあ、せっかく一番だった訳だしコーヒーカップの方を一緒に乗る? この観覧車、一周するのに1時間もかかっちゃうし……」
「やだぁぁぁぁぁぁあ!! 俺ど乗っで!!!!」
「ちったァ大人しくしやがれェ!! 1時間かかる観覧車よりは全然マシだろうが!!」
ギャンギャン騒ぎ、涙と鼻水で汚いレイゼルを転移魔法で持ってきたティッシュでノエルは拭く。
「レイネルの言う通り。それに賭けにレイゼルが負けただけの話でしょ、敗者は大人しく勝者に権利を渡さないと」
「俺、もう負けねぇがら!!!!」
なんか有名な某跳躍漫画雑誌に出てくる最強の剣豪を目指す誰かさんみたいな事をレイゼルは言っているが、この中のほぼ全員が微塵も感動する事はなかった。
「あー、うん……そう」
ノエルはティッシュを魔法で焼却してとりあえずご機嫌取りとして頭をいつものように撫で回した。
「んへ、えへへぇ……♡しゅきぃ♡」
やはりレイゼルはチョロい。そして機嫌が良くなると余計な事をするのがこのレイゼルという変態なのである。
そして場面を切り替え、10分ほど前の出来事。魔王城にて。
「死ぬ!! 死んでしまうのじゃぁぁあああ!!」
「クロウ、お嬢が相手して欲しいって言ってるぜ」
「貴方が相手をしてはいかがでしょうか」
ネロは今日も今日とてダラダラと過ごし、急遽会議だと言われて来ていたハーピーの長、クロウはティアラのワガママに付き合わされていた。ちなみに集まった長はクロウのみであり、他のメンツはもうすぐで昼の12時なので既に寝ている。
「このままだと妾は暇に殺されてしまうのじゃッ!!」
「死なない死なない、お嬢もその辺の床に寝そべって床の気持ちになってみるのもいいんじゃないか」
「つまらぬ!!」
ギャンッ!!
幼女魔王、ティアラはバタバタと地団駄を踏み、することが無いという苦痛に耐えかねて全力で駄々をこね、暇がっていた。
「唐揚げ弁当と3万キロの散歩はとっくに終わってしもうたし、リヴァイアちゃんと魔界の海を6周探検したし……暇じゃ」
「ならダンジョンは? この前新しいやつできただろ」
「それはもうできた初日に踏破されてますよ」
ダンジョンというのは、ティアラが暇を潰す為の
しかしこのダンジョンは魔者達があくまで暇な時に造る物。無理に作らせている訳ではないのだ。ティアラが魔王として支配している魔界での方針は、好きな時に好きな事をやって好きに生きる、でも好きに生きてて誰かに迷惑をかけない。という、かなりフリーダムなものなので。
「ネロ……何か面白い事……」
「さぁな」
芋虫のように床の上でうつ伏せになったまま移動してゴロゴロしているネロを押し潰すかのように乗っかると、ティアラはネロの魂を見る。
「……あーーっ!! 今嘘ついた!! 妾を騙しおって!! 柔軟剤じゃぞ!!」
「それ言うなら重罪だろ」
ティアラは「吐け!!」とネロの体を揺らすが、ネロはティアラに体を揺らされる拍子に頭を床にゴンゴン打ち付けられていたが、言ったら絶対に付き合わされることになるので、口を開く気は無かった。畳と頭が一部潰れても、言った場合の事を考えるとこちらの方が全然マシだった。
「……お嬢、今ので畳が壊れたぜ。ついでに汚れもした」
「おぉ! やる事ができた!」
嬉しそうにティアラはネロを退けて壊れて血で汚れた畳をそのまま剥がすと、魔法 で転移させた畳の材料を使い、魔法で畳を作り始めた。どうやらそれほど暇だったらしい。数十分程すると畳は完成し、ティアラが畳を敷き終えた時。
「!」
まるで隠そうともしない、強大な魔力の塊が城の前に現れる。その魔力はティアラにとって、とても頼りになる上に大好きな人の物であった。
「お兄様!」
ティアラはすぐに魔法で転移すると、まずはまるで隠していない魔力を発したアルダに飛びついて抱き締めた。
「……ティアラ、久しぶりだな」
「お兄様、まだ一年しか経ってないよ?」
アルダはティアラを抱きしめ返すと、優しく頭を撫でる。
「俺にとってはな。ここよりずっと時間の流れが遅い世界で、1000年ほど滞在していた。その世界では瘴気から産まれる魍魎という名の生物が蔓延っていてな、人間達に加護を与えるのに奔走していた」
「しょうき……?」
初めて聞くエネルギーにティアラは頭を悩ませていると「世界が生み出した、負のエネルギーの事です」という声と共にもう2つの大きな魔力が現れる。その方を見ると、髪が限りなく白に近い銀髪の黄色を基調とした中華ロリータを着ている少女と、某不思議の国に迷い込む少女かのような服をモチーフにした甘ロリータを着ている銀髪ツインテールの少女が居た。
「レアお姉様、アリスお姉様!」
「久しぶりですね、250年振りでしょうか」
「……久しぶり」
ティアラはレアとアリスにも抱き着いて頭を撫でてもらうと「ねぇ、しょうきって何?」と聞いた。
「瘴気とは世界が生命を生み出した時に使われたエネルギーが、その過程でロストし変換されてしまった負のエネルギーのことです。人間が瘴気に触れると人体に重大な拒絶反応が起きて、短時間で死に至ってしまうんですよ」
「あれ? でもそんなの見た事無いよ?」
「……
アリスはそう言うと、レアは自慢げに「まぁ私は空間の神なので、そのような失敗は致しませんが!」と、ドヤった。ちなみに今や新しく作られる世界のほとんどは、レアによって創られている。
「それより、早く表側に行くぞ」
「うん! ……でもどうして?」
「今日この世界の表側ではハロウィンなんですよ」
それがどうかしたのだろうか?
ティアラはそう思い、自分の城中に飾られたカボチャやゴースト、コウモリなどの飾りを見回した。ハロウィンは人間の文化なのでそれを模倣して、毎年お菓子を大量に作り、仲良く貪り食って雰囲気を楽しんでいるだけなのだが。何故なら魔者達は仮装しなくてもそのままでいいので。
「ハロウィンパーティーをやるそうなんです」
「パーティー! すごく面白そう!」
「今日は俺とレアの子供達がパーティーに行くらしい。だから俺達も一緒に行くぞ」
「行こ……」
という訳で吸血鬼兄妹はパーティーに行く事になった。
「じゃあお嬢を頼むぜ、俺はここで帰りを待ってるからな」
「……今度帰った時、母上に怠惰に満ちたお前の仕事ぶりを伝えておいてやる」
アルダは魔法陣を展開させると、妹達と共に
着いた先では大勢の人間が魔者のような格好をして仮装しており、本物の吸血鬼である4人は今なら擬態しなくとも「よくできた仮装」と思われるだろうと判断した。
「(……さて)」
そしてアルダは妹達を巻き込んで連れて来た理由の方へ視線を向ける。その理由というのは当然──。
「おぶへッ!!」
「えっ」
「!」
「あらっ!?」
へそ出しの格好をして、変態という名の勇者にペロペロと物理的に舐められそうになっていたうちの子を拝む為である。仮装したノエルを見たほぼ同時に、頭を撫でられた事に気分を良くして、目の前にあったへそに発情していたレイゼルが目に入り、アルダは反射的に変態のこめかみにブーツ底をめり込ませていた。
そして吹っ飛んだ先で亜空間へのワープゲートを広げると、レイゼルをこの世界から強制ログアウト&垢BANさせる。ついでに「ザマァ!! ノエルのへそというへそはテメェじゃなくオレがシワの隅まで舐め回すんだよォ!!」という、頭のネジが飛んでいないか心配しそうになる発言をしたレイネルも。
邪魔者が居なくなった事にアルダは心の中でニッコニコで喜ぶと、死んだ表情筋は全くその感情を表現せずに、無の顔でただノエルを抱き締め、頭を撫で回した。
「えっ、えっ!???」
「……やはり聖力を使う神というのは、屑ばかりだな。
いきなり目の前に現れ自分を抱きしめてきた美少年、そして何処かに消えたレイゼルやらこの状況にノエルや周りは困惑した。訳の分からない状況だが、それでも一つだけアルダの因子を直接受け継いだノエルは本能的に理解していた。
この少年は自分達の神であり、親であり、加護を与えた主であると。
「……神様?」
「あぁそうだ。この1000年……一目でも我慢した甲斐がある。俺の子供はやはり世界一愛らしい、俺の事を
アルダがそう言うと、ノエルは魂が震えて喜ぶような感覚を覚えた。ノエルにとって初対面の相手だというのに、何故か心が嬉しさで満たされていくのを感じていた。
「あ、ありがとう……ございます」
レイゼル製の感情を感知して動く付け耳は撫で待ちの犬のように倒れ、付けしっぽは暴れ散らかし、激しく揺れる。
「作った奴は気に食わないが、その服はよく似合っている。流石俺の娘だ」
アルダの言葉にノエルはまるでノルトに言われている時かのような感覚になると、不意にアルダの視線がノエルの胸元に集まる。無表情ではあるが、ノエルにはアルダがとても不快に感じている事に勘で気づいた。そしてアルダは胸元に触れると……そこにあった青く輝く魔石は、眩い光を放つ。
キラキラと輝く青が見えたかと思えば一瞬で黒い翠に光り輝き、魔石はノエルがよく見る翠へと色が変わっていた。その翠の魔石は……完全なる独占欲そのものだ。
「……」
じっと翠になった魔石を見ると、アルダは満足そうに(無表情だが)していた。ノエルは魔力に込められた圧倒的な魔力量に驚いて魔石とアルダを交互に見ており、アルダはそんな視線の意図に気づかず「そうか、嬉しいか」と勘違いしていた。
そしてアルダはノイルに目を向けると、ノイルにも頭を撫で回した。身長が足りない為、吸血鬼の空を自由に浮遊し飛ぶ事ができる能力で高さを補いながら。
気が済むまで撫でた後、よし、これでもういいだろう。平等に撫でた筈だと親バカヤンデレ神は考えて、また再びノエルを撫でる。
その光景を見ていた魔力を感じ取れない人達には「なんか魔石の色が変わったな……あとめっちゃ撫でるなぁ、誰だろ。とりあえず皇族関連に違いない! 似てるし!」としか考えていなかった。
妹達は「相当ジェラシー感じてたんだ……」と思いつつも、このままだと永遠と撫で回していそうな兄を止めるべく、同じ次元に姿を現す。
「兄様、せっかくのパーティーだというのにずっと愛でているだけでは来た意味がありません!」
普段は冷静で頼りになるが自分の使徒の事になると全く周りが見えなくなる兄に、いつもぽやーんとした双子の妹、そして末っ子の代わりにここはちゃんと注意しなくては。そう思い、レアはここぞとばかりにお姉ちゃん力を見せようとする。
「……でもレアもずっと、千里眼で使徒の様子見てた」
だがアリスの言う通り、レアは兄の暴走を見つつ、ヒエリカに居る仮装をした叔父ーズを背後から限界オタク化して見ているセバスチャンの様子を見ていた。
「ち、ちちち違います! 私の使徒として、ちゃんと兄様の使徒の
アリスはじとーっとした疑わしそうな目でレアを見ていると、ティアラの腹から唐突に大きな音が聞こえてくる。
「……お腹減ったのじゃ」
それもそうだろう、今はもう昼頃なのだから。とはいえ吸血鬼は本来食事をあまり必要とする事はなく、空腹感も基本的に感じる事は無い。しかし父親の血の影響でティアラは空腹で今にも干からびそうになっていた。
「えっと……一緒に食べる?」
「食べる!!」
ティアラはノエルの言葉にすぐに元気を取り戻すと、一行は吸血鬼兄妹達を仲間に、新たにパーティーを楽しむ事となってしまったのである。あまりにもフリーダムな神々に、自由の空気がその場に満ちる。ノエルの心に、パーティーを楽しもうとケツイがみなぎった。
後編に続くッ!!
実はですね、本当はちゅぷ氏からもう1枚の絵の線画を貰えるという話になっていたんですが……そっちの方とこっちも小説が間に合わず。とりあえず、何とかハロウィン回は何がなんでも投稿しなければと思い、前編と後編に分けました。つまり時間稼ぎですねッ!!
今年のハロウィンはなんとしてでも間に合わせたかった。だって毎年間に合ってないしッ!!投稿できたんだから間に合ってるよねッ!!
本編の方も頑張って書いてる途中なのでお待ちくだせぇ。