※この作品はR-18です。

チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった   作:水性さん

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お兄ちゃん、気分というか情緒不安定気味。

いつもは優しいんだけどね。


勇者、授業を受ける

 

 

「ハイド。……ハイド! ハイド・ロイダンツ!!」

 

 

 実戦魔法の授業を受けている途中、机に頭を乗せて寝ている赤髪が特徴的な美少年が1人。

 

 今彼の名前を呼んでいるのは、実戦魔法学担当の女教師リリアーネ・エスコリオだ。世界で1番名の知れた白藍色の髪と金の眼をした、美人魔導師21歳独身。少し体の曲線が分かりやすく、肌の露出している服を着た美しい女性……なのだが。自分の思うとおりに事が進まなかったり、相手がそうしないとすぐにキレるという困った性格だ。リアルでは絶対に相手にしたくない人種である、性格を知ればほとんどの男性が結婚したいとは思わないような人だろう。

 

 そんな美女が大声でキレ散らかしながら名前を呼んでいるのにも関わらず、ヨダレを垂らして寝ている少年が1人。スヤァ……と、気持ちよさげに夢の中。いびきもなかなかの勇者級だ。席も1番前だが、堂々と寝ているのが、勇者三つ子兄弟の長男、ハイド・ロイダンツ15歳。髪は真紅、目は青眼。森人(エルフ)とは違い、横ではなく縦に長い魔人の特徴をした耳をしている。

 

 

「ハイド、起きて!」

 

 

 右隣には同じく15歳の深緑髪の美少年だが、こちらの方は、目が綺麗な青緑色の碧、そして尖がった耳。ハイドの弟である次男のエリオ・ロイダンツは、兄を起こそうと耳元で大きめな声量を出していた。

 

 だが、効果無し。いびきは止まらず、小さくもなっていない。リリアーネの方を見ると、今にも殴りかかりそうだ。青筋が浮きだって見える。リリアーネのイライラが、更に50%にアップ! 

 

 エリオは自分の唯一の弟であるアレス・ロイダンツ(小説の主役)にハイドを起こしてほしい。という視線を向けるが、熱心に魔法陣の構築式を暗記する為に、板書したノートを翠色の目でじっと見ていた。アレスは派手な橙の髪がとても印象的で、やはり耳は縦に尖っている。エリオはアレスが装備している伊達メガネがゲ〇ドウのように光って見えたが、自分の声に反応することなく完全無視(スルー)をしていた。

 

「(……どうしよう、アレス気づいてるのに無視してるよ。絶対そうだよ!)」

 

 こうしている間にもハイドはZzz……と”Z”を大量に生産している。リリアーネのイライラがもう+ 50%、リリアーネのイライラゲージは頂上までたどり着いてしまった! 

 

 するとリリアーネは自分自身に身体能力の強化魔法をかけると、投手にはとても理想的で美しい投球フォームをとり……そのまま持っていたチョークをハイドに投げつける。表情が鬼のよう、口から何故かシィィィィッという息を吐く音と共に謎のエフェクトが見えた気がした。金の眼は光り輝き、残像を残す……。かのようにも見えるほどの、覇気迫る様子。威圧感はドラゴン級、美人を怒らせると怖い。

 

 勢いよく飛んだチョークはハイドの頭に直撃し、見事にクリティカルヒット。真ん中からポッキリと折れて……というかチョークが粉々に砕けて弾け飛んでいるが、流石3人の中でも防御力が高い勇者。弾丸のように頭が貫かれ、風穴を開けることはなかった。そして魔力に反応して顔を上げたアレスと、一部始終をオロオロしながら見ていたエリオは、驚異的な動体視力で豪速で白い物体を目で捉える事ができていた。が、他の生徒達は主に魔法部門の生徒。なので動体視力はただの凡人と同じ。勇者次男と末っ子以外は、誰も白い棒のような物体が目に見えていなかった。

 

「ふぐぉぉおあああっ!!」

 

 なんか凄い悲鳴が聞こえてきたが、これは絶対に勇者の悲鳴とかじゃない。いや、これほんと。

 

「おはよう、ハイド。気持ちのいいお目覚めはどうかしら」

 

 スッキリしたのか、やけにリリアーネの表情は爽やかだ。久々に本気出しちゃったわ、私ったら大人げないわね。という風に何故かやり切った感も出している。きっとさっき込めたものはイライラだけではなく、日ごろのストレス……例えば彼氏ができてもすぐに振られることと、浮気されるのも含めたものだったのだろう。八つ当たりが過ぎるのは気のせいじゃない。

 

「どこが気持ちのいい目覚めだよッ! 頭にコブができただろ!! てか、美少年の頭にコブを付けるな!!」

 

 涙目になりながら、頭をさすって抗議する。だが、元をたどればハイドが悪いのは明らかだ、しかし顔がいいのと童顔さ故に何故か周りの生徒が罪悪感を感じる。顔が良いってやっぱり罪である。

 

「あらぁ、勇者とあろう者が、毎日魔法のお勉強をちゃんとやらないだなんて。いつかは命懸けで戦うことになるし、命に関わる事なのよ? それにコブ程度、どうって事ないじゃない。勇者なんだから大ケガだっていつか日常茶飯事になるわ。そんなの大した事無いわよ」

 

「俺はチョークを投げつけられた事が納得いかないんだよ! もうちょっと優しく起こしてくれたっていいじゃんか~!!」

 

 ブーイングをしながらハイドは「そんなんだからいつまで経っても、男が寄ってきても独身なんじゃねーの?!」と余計なことを言ってしまう。

 

「私はッ、あんたみたいな口答えするクソガキ大っ嫌いって、言ってるだろうがぁッ!! 黙れ、そして私の授業真面目にやりやがれェッ!!」

 

 再びキレたリリアーネは新しいチョークを投げつけようとしたが、ハイドの左隣に居るアレスは、静かに手を上げて挙手する。その瞬間にリリアーネは時間が止められたかのように、ピタリと動きを止めた。

 

「あら、何かしらアレス」

 

「……授業を続けて欲しいのですが。次からはハイドが寝た時に口が開かないよう、エリオが固定魔法をするので」

 

「エリオがするのぉ?!」

 

「はぁ?!」

 

 急に丸投げされ驚いていたが、エリオとハイドは大きな声でそう言ってしまった為、周りから更に注目を浴びていた。

 

「あっ……」

 

 周りの視線に気づき、恥ずかしそうにそう言ってエリオは俯く。そして納得のいかないという表情をしながらハイドはアレスを見るが、また無視だ。その様子にハイドは苛立ちを感じる。

 

「……はぁ、授業を続けるわよ。まず、この前に基本の炎を出す魔法を実戦したわね。呪文、ちゃんと覚えてるかどうか……ハイドに聞くわよ」

 

「何で俺ぇ? ……えっと、忘れた!」

 

 堂々とそう言い、チョークが先程よりも速いスピードで飛んできたが、ハイドはそれを勢いよく真剣白刃取りの要領で、パンッと音を立てて止めた。なかなか音が大きい。

 

「危なッ?!」

 

「チッ……」

 

「先生、今舌打ちをしませんでしたか……?」

 

 するとリリアーネはそう言ったエリオと目が合う。

 

「じゃあ、エリオでいいわ」

 

「へっ?! ……えっと、その……あの……」

 

 エリオは注目されるのが苦手であり、人から注目を浴びると縮こまったり、声が出なくなり、喉の奥に引っかかってしまう。そして頭の中が真っ白になってしまうのだ。親しい人の前か、先生たちの前だけであればエリオは答えられていただろう。エリオはそのまま黙り込んでしまう。

 

「そういえば、人前はダメだったわね」

 

 真面目に授業を受ける生徒には、リリアーネはけっこう寛大だ。そう、真面目に授業を受けてさえいれば。

 

「次、アレス」

 

「……ヘオンド」

 

 すると、アレスの前に橙色の魔法陣が現れた後、炎が空中で突如現れ燃えている。

 

 魔法は魔人の場合だと色が違う為、個性が現れたりする。それが魔法色だ。エリオは深緑色、アレスは橙色、ハイドは真紅色。何故かアレスだけは魔力色が比較的明るい。それによって魔法の色が変わったりする。

 

「流石アレスね、これくらい簡単だったかしら。この前、炎魔法のヘオンドを実戦でやったけれど、今回はヘオンドよりも強い炎の呪文を教えるわ。それで、炎の基本中の基本である魔法は?」

 

 すると、勢いよく手を上げる少年が1人。

 

「はい!!」

 

「じゃあルキ・マスト君」

 

「ヘオンです!!」

 

 ドヤ顔でアレスを見ているが、本人は視線には気づいているものの無視している。

 

「まぁ、答えられて当然よね」

 

 そう言って、ハイドの眉間をグリグリと指で押す。

 

「だから何で俺」

 

「……前に、私が教えているのは詠唱を必要としない、魔法の名称を言うだけで発動できる無詠唱魔法と言ったわね。炎の基本的な魔法と言えばトオン系だけど」

 

 

 しれっとリリアーネはルキの言った答えを訂正せず、正しい方の魔法の名称を口に出してから説明し始める。

 

 

「一番威力の弱いトオンでも詠唱が必要よ。魔法を安定させるためにね。そして日常で使う、火を起こす程度なら魔力が完全にない人以外は、誰でも詠唱無しでできるわ。けど、戦いの場では少しの詠唱でも遅いの。勇者の戦いにおいては特に」

 

 リリアーネはハイドから指を離すと話し続ける。

 

「だから、速く高威力で。魔力の消費がその分多いけれど、魔法は使っていくうちに魔力が肉体の限界まで筋肉みたいに増えていく。前々回までは炎・氷・水・雷・土・草・風・無・光・闇のあらゆる属性についての魔法学、魔力で作った陣の構成とか知識、魔力の扱い方に慣れて制御する事を学んでいたけれど、これからはそういう実戦的な魔法を教えていくわ。

 

 いい、魔法は前にも言ったけれど、使っていくと使った魔法と属性に対する熟練度が上がっていって、レベルが最高の域に達すると詠唱無しで魔法が使えるようになるし、ただの初歩的な魔法のトオンでもへオンとして使えるわ。だから私はこれからアンタ達全員がなるべく多くの属性がそのレベルに達するように、全力で鍛える」

 

「……だから、今日はそんなに怒るのかよ」

 

 ハイドはそういい、多少反省しながら頭をさする。

 

「じゃ、ヘオンドの次を教えるわね」

 

「無視か!! あっ……ヤバい」

 

「エリオ!!」

 

「わかってるよ、ルキ君!」

 

「「カルゾーン!」」

 

 エリオとルキはそれぞれ深緑と黄色の魔法陣を展開すると、魔法で出来た大きな黄緑色をした光の壁が現れる。この魔法は学校で習うのは大体半年後であり、なかなか使うのが難しい。

 

 何故成功したのかと言うと、エリオは幼い頃に誕生日プレゼントとして貰った、本の知識があるからだ。ちなみに朝にアレスが読んでいたのがその本である。アレスには使えないものがけっこう多い。ルキは貴族出身だが、エリオほどではないが、魔法に関してはアレスよりも優秀なので、使うことができる。

 

「……"ヘオダーン"!!」

 

 すると、灼熱の薄水色の炎が放たれる。魔力が強い為、ヘオダーンは高威力で出ている。

 

 教室は魔法耐性の魔法付与(エンチャント)を施されているので焼け焦げたり溶けたりはしない。ノートとペンは燃えて使い物にならなくなり、自分達の身が危険であることには変わりない。

 

 手加減しているとはいえ、リリアーネの魔法を完全に防げるのは、三十星のバッチを持っている者の中では、エリオとルキだけだ。

 

 見事に魔法を防ぐことができたルキは、得意げな様子でアレスにもう一度視線を送っているが、全く相手にされていない。

 

「あ、危ない……」

 

「さぁ、やってみなさい。まぁ、私の場合は魔力が強すぎて、普通のヘオダーンよりも威力が強いけれど」

 

「できるかッ!!」

 

 ハイドはそうツッコミを入れると、油断していた為、更に威力が上がったチョークが額に命中。イケメンにあるまじき「ほぐぁあ!」という謎の悲鳴を出して、痛む部分を手で押さえていた

 

「私に指図すんじゃないわよクソガキがァ!! いい?! 返事は「はい」か「yes」か「喜んで」!! まだ抵抗する気があるなら、私に逆らえないようにしてあげるわッ!!」

 

 その後ハイドはリリアーネの授業が終わるまで、ずっと頭をさすっていたという。

 

「あーっ、やっと終わったぁ……」

 

「は、早く教室移動しよう?? 距離あるし……」

 

「そーだな」

 

「……」

 

 3人は席を立つと、長い廊下を歩いて階段を上がる。1つの部屋がとても広く、部屋の天井が高いため、自然と階段の段数や廊下の長さが比例して、かなり遠い。なのでずっと座っていた身体には、丁度いい運動になったりする。ただ貴族令嬢たちには度々話しかけられ、距離もあるのでやはり不便だが。

 

「何でこのガッコ、校舎同じにしたんだろーな、部門ごとに校舎分ければ良かったのにさ」

 

「……それには同感だが、仕方ないだろう。国際クロウリス学園は、国外からも生徒が集まる。それを利用し、交流を持つのが狙いだが、学校(ここ)は、貴族が戦う術(すべ)を学ぶ場所でもある。貴族の出やそれ以外にも、生徒には親に言われて他の家に取り入る者もいれば、出世しようとする者も居る。それを王が政治に利用する為、校舎を各々の部門と分けることはせず、同じにしたんだろう。様々な人脈がある方が、政治には都合がいいからな」

 

「あの王サマ、よっぽど金が欲しいんだろうな」

 

 いきなり主人公、めちゃくちゃ喋りだしたぞ。と、思ったかもしれないが、アレスは基本的にあまり会話はしないが、同意するときはちゃんと意思表示くらいはする。そしてハイドの何気ない疑問に答えているだけの事だ。

 

「てか、待て。あと10分かよ!! 遅れる!!」

 

「走れば間に合うかも!」

 

「移動が大変だな、ホントにさー!!」

 

 

~・~・~・~

 

 

「……」

 

「……皆の者共、おはようさんじゃ……」

 

「「おはようございます」」

 

 

 普段なら挨拶を元気に言うのだが、その場に居る全員は明らかにテンションがだだ下がりになっている教師を疑問に思い、生徒たちは少し気になっていた。

 

 

「……ところでさっき、儂メガネどこかに忘れちゃったんじゃよね……。どこに行ったか知らんかのぉ……?」

 

 

 担当はおじいちゃん先生のオデルフ・ヴェロ。年老いて背が低く、長い髭を三つ編みにした容姿をしている。唯一学校の教師の中で長命なエルフであり、種族の誇りを守るために普段からエルフたちに伝わる、伝統的な服装を着ている。かなり長い時間を生きているのだが……そのせいかゆとても厄介な性格をしている。

 

 

「あの、オデルフ先生。今メガネ付けてますよ……?」

 

 

 エリオはそう言うが、オデルフは頭を振る。

 

 

「いや確かにメガネはこれじゃが……」

 

「じゃあ、スペアですか?」

 

「違うんじゃ」

 

 

 オデルフはまた頭を振る。

 

 

「では、何の……?」

 

「よくぞ聞いてくれた」

 

 

 すると様子が変わったので、エリオは「あ、地雷踏んじゃったかな」と冷や汗を垂らす。

 

 

「……儂の、儂のッ!! 可愛い孫がッ!! 昨日儂の誕生日プレゼントにくれた、イカしたメガネがないんじゃよぉぁぁぁあ!!! 儂、超ショックなんですけどぉー!! あぁぁぁ!! このまま失くしたって知られたら、絶対に嫌われるぅぅ!!! 嫌じゃぁぁあ!! それだったら死んでやるわァァァァッ!!!」

 

 

 そう言い、教卓に突っ伏してバンバンと拳で叩いていた。約一名を除き、生徒たちは顔が引きつっている。エルフの誇りはどこへ行ったのか。

 

 

「え、じゃあ何で持ってきた?」

 

 

 ハイドはそう言うと、オデルフはハイドに顔をバッと上げ、顔をハイドに向けたまま、何故かポ〇モンのマッス〇マのように直線的に、まっすぐと机の間を通り、曲がる時は体の向きを変える為にいちいち少し止まってやってきた。

 

 

「(うわ、怖っ……)」

 

 

 そして、鼻と鼻がくっつきそうなほど近い距離に立ち、両肩をガッシリと掴む。目はこれでもかと見開き、ハイライトは消えている。

 

 

「儂の孫めちゃくちゃ可愛いから。もう天使かと思うくらい可愛いから。そんな孫からのプレゼントじゃぞ? 最高か。いや、それよりも孫から貰ったものだったら、常に持っておきたいじゃろうが。眺めていたいじゃろうが、このたわしがッ!! あ、違った。このたわけがッ!!」

 

「あー……、それよりも近いんだけど。それで、どんなメガネをしてんの? まずそれ聞かないと分かるものも分かんないって」

 

 

 完全に授業ではなく、私情の話なのでアレスは無表情が少し不機嫌な顔になる。

 

 

 しかし、オデルフが説明した内容は……。

 

「口では説明しづらすぎる、変な緑色のメガネ。じゃっ!」

 

「分かるかッ!!」

 

 

 すると誰かが机を拳で叩き、机の木板がミシッと音を立ててひび割れ、拳の形に凹む。机は時間と共に元に戻るので心配無い。

 

 

「……オデルフ先生、授業を始めて欲しいのですが?」

 

 

 やったのはアレスだ。普段表情はないが、今はとても不機嫌そうな顔でそう言う。

 

 

「あぁ、すまんすまん。儂としたことが」

 

「そう言って、いつも──。むぐっ」

 

 

 エリオは思った事をつい口に出して失言してしまう兄の口を塞ぐ。

 

 

「今日は昔話について授業をするぞ、教科書134ページを誰か読んでくれんか」

 

「俺がやります!!」

 

 

 すると、同じ授業を取っていたらしいルキが挙手し、自信満々に教科書を読む。

 

「ポルブ村には神話などの歴史、全ての魔法に関する知識を唯一知ることができる”祭壇が神殿の中にあり、村民は100年に一度に祈りを捧げます。選ばれた村の男女2人がそれぞれ邪神と女神の役になり、祭壇に魔力を流し込みます。すると反応した祭壇は知識を得るにふさわしいかどうかを判断し、脳に直接作用すると、その肉体の限界まで知識を刻まれると言われています。しかし現代から過去の記録を直接脳に入れられるという事は、脳と精神に強い影響を及ぼします。膨大な情報は脳に影響が出てしまうので、それ以外の人々は立ち入る事ができませんし、入ろうともしません。そして耐えられた者だけが神話を伝えられると言います。その為、未だに神話の全貌は未だに明らかになっていません。現時点で判明しているのは、神が住む天界から白金の髪を持つ神が無の世界に降り立ち、まずこの世の理を創り、広大な大地と海を創り上げた。

 そして、その後に生き物や人を創造した。だが降り立ったのは善なる神だけではなかった。白銀の髪を持つ邪神は闇を好み、神を憎んでいた。神が創造したものを壊し、それを見て楽しむ為に自分の存在を形と力として、一部を積み上げられた骸に残した。そして骸は歪んだ生を得ると、私利私欲の為に奪い合い、土地は荒れ果て、人を糧として本能のままに殺す魔物にへと変貌した。魔物達は長い年月で進化していき、今では数え切れないほどの種族が存在している。……と」

 

「よし、これは誰でも知ってる話じゃな。そして、魔物は大昔に比べて、圧倒的に強く進化していった。毎年、何人のクロウリア国民、世界中の人間が襲われているか……誰か、答えられる人は居るかな?」

 

 

 するとアレスが静かに挙手し、ルキは負けるものかと自信満々に、バッという効果音が出そうなほどの勢いで、手を上げる。ルキは何故かアレスに張り合おうと突っかかる事もあれば、こうして我先にと挙手することが何度もある。先程もあったように、全く相手にされていないのだが。

 

 

「が! 今日やりたいのはここじゃないんじゃよなぁ~」

 

「(((じゃあ何で聞いたんだこのジジィ)))」

 

 

 この授業を受けに来た生徒は、ほぼ全員そう思った。

 

 

「今回は勇者の、そこの三兄弟に関係する内容じゃ」

 

「「「!」」」

 

 

 三つ子はその発言に反応し、少し寝かけていたハイドの眠気も飛んだ。

 

 

「さてロキ君、また読んでくれんか」

 

「オデルフ先生、俺はルキです」

 

 

 すかさずルキはツッコミを入れる。

 

 

「冗談じゃよ、ジョーダン。じゃあ、148ページを読んでくれ」

 

「わかりました……。勇者は、魔物達の凶暴さ、心の邪悪さを体現したような存在の、魔王が現れる時に誕生します。善なる心を持った人々や、神々が作り出した大地を魔物達から守る為に存在し、女神から魔王と魔物を倒す使命が課せられています。歴代の勇者達は幾度も魔王を倒し、世界を平和にしていましたが、魔王の血筋が存在し続ける限り、魔王は現れ続けます。そして勇者には勇者である証として、特殊な技能(スキル)を持ち、手の甲に神を象徴する十字架と個人で違う生き物のシンボルが痣として現れます。勇者が誕生している今、魔王が率いる魔物軍勢がいつどこで、私達の世界に侵略してくるかはわからないのです」

 

 技能(スキル)というのはその名の通り、技術や戦いの時に使う能力などの事だ。魔法具(アーティファクト)を造る際にも、そういった技能(スキル)が必要だったりする。

 

 

「……いつか近いうちに魔王の居る魔界への道は必ずこの世界のどこかに現れる。絶対に、じゃっ! そして勇者は逆境を何度も乗り超えてきた。そのことから、勇者は奇跡を起こすと言われておる。勇者にしか持たない固有技能(ユニークスキル)がその由縁とも呼ばれておるよ。それで今、魔王が何代目かわかる者はおるか?」

 

 するとやはりここで2人が手を上げる。が、自由人なオデルフおじいちゃんはマイペースムーブをかましていく。

 

「でも儂が言いたいから言っちゃうもんね、正解は41712805203代目じゃ」

 

「「いえ、41713105203代目です」」

 

「え、儂間違ってた……?」

 

 聞いてきたくせに結局自分で謎のドヤ顔をして答えた上、しっかりと間違えたので恥ずかしい様子のおじいちゃん先生。そろそろ定年退職をした方がいいのではないか、とアレスは思ったが今は授業中だ。授業中に考えるべきではないはないと判断して、なるべく気にしないようにした。

 

「……おっほん。先代魔王はとても好戦的で、先代の勇者もかなり好戦的な女性だったそうじゃが、勇者はみな別人で家系や血筋は全く関係なく生まれ変わる。じゃが魔王は大昔から変わらずに、血筋で王位継承者が決まる。教科書にもそう書いておるが、なぜこうも戦いが続き……魔王の血筋が途絶えないのか。なぜ勇者は何度も生まれ変わり、なぜ今回の勇者は3人なのか、なぜ勇者は誰一人として生きて帰ってきた者が居ないのか。実は、なんにも分かっていないんじゃ」

 

 歴代勇者達は、転生する事に前世の頃よりも力を増して強くなる。その力で、勇者は魔王を倒す。しかし、生きて帰ってきた勇者は誰一人として居ない。

 

 この世界にとって勇者という存在は、実質的に人類が生き延びる為の生贄のようなもの。つまり、クロウリア国の王様は3人をこの学校に通わせたのは"魔王と一緒にさっさと死んでもらう為"でもあるのだ。

 

「何か質問はあるかな?」

 

 するとアレスは挙手し、自分の利き腕である左手の甲にある痣を見ながら質問をする。自分の勇者の証である紋様は蛇と水、そして折れた十字架の痣だ。あまりにもくっきりしすぎているので、タトゥーにしか見えない。

 

「……ハイドとエリオ、そして僕の手の甲には勇者の証である紋章が、生まれたときから痣としてついています。ですが、なぜ個人でシンボルが違うのでしょうか? ……なぜ、十字架が折れているのでしょうか」

 

「一説によると、生き物は紋章と魂を受け継いだ者の鏡だと言われておる。おぬしの前世だった前の勇者も、蠍(サソリ)が紋章の一部として刻まれておったぞ」

 

「会った事があるんですか?!」

 

「あるぞ、わしが若い頃にの。本当に綺麗な人じゃった。でも、好戦的でもの凄くえっちなお姉さんだったのは随分経った後から知ったんじゃけど……いやいやそんな事より!」

 

 しかしその場の思春期男子(三人以外の大多数)は心の中で「そこをもっと詳しく!!」と思ったが、授業中なので声には出さなかった。

 

「女神様のシンボルである十字架が折れている点から、儂が思うに……十中八九、お主らが魔人族だからじゃろうな」

 

「……わかりました」

 

「他に誰か質問あるかの?」

 

 すると誰も手を上げない。オデルフはそれを確認すると……。

 

「じゃあ今日は授業これで終わり! じゃが、他の生徒達の授業が終わるまで、静かに……孫からのメガネを全員で探すんじゃぁぁあ!!」

 

 と気迫すら感じるような勢いで言い、授業を強制的に終わらせてしまった。

 

 教室中ではブーイングが起こるが、オデルフは教師の権限で「バッチの金色と結晶を減らしたいなら別にいいけどッ! 儂、マジでやっちゃうもんね!! マジじゃからねッ!!! 本気と書いてマジって読む感じじゃからねッ!!!!」と、言ったので仕方なく、全員で探すことになった。

 

 これぞ職権の乱用。

 

 そして結局メガネは職員室の自分の机の中に入っていた。忘れないようにと入れておいたのを忘れていたという。それを知った時の全員の疲労感と「今までの苦労は何だったんだ……」という苛立ちが一気に膨れ上がった。

 

 

 そして次の授業では1人の教師が教卓に立っていた。

 

 前ではなく、上に。周りにキラキラオーラを放っている。この女性(?)の本名はカディン・シルフォン。名乗っているのはシルフィー・カディで、ほぼほぼ逆である。容姿は躑躅(ツツジ)色の髪、小豆色の眼をした魔人の若い男性……ゲフンゲフンいや、女性だ。魔物についての研究をしている学者……なのだが。例に漏れず、今の時点で変わりものであることは一目瞭然だ。まず、恰好が白とピンクに包まれた甘々なロリータ服で、ツーサイドアップをこれまた甘々な薄ピンクのリボンで結んでいる。そして両腕には白く可愛らしい大きめなテディベアを抱いている。

 

 見た目は完全にかわいい背の低めな女の子だ。

 

「それじゃあシルフィーちゃんの授業、はっじめるぞぉ〜☆ 今日はねぇ〜! ……なにすんだっけ(小声)やっっべぇ、ド忘れしたわ~、マジやっべぇ~(超小声)

 

 ……どーしよぉ! シルちゃん大ぴーんち!」

 

 しかし声はすこ〜し女性にしては低いし、骨格の違いや肩幅、喉仏なども出ているので、よく見てみると男性である事が分かる。しかし魔人にこの世界の人々は厳しいので、この学校の教員をしていることは凄いのだが……教師陣の中でも一番変わっている人だとも言えるだろう。

 

 ちなみにこの人は爽やかで王子様みたいな男が好みとのこと。ただ基本的には色々なタイプでもイケるようで、男前な殿方をかわいらしい容姿で騙し、ありえない力(魔力)で童貞を美味しく頂いたのだという。よくこの危険人物が牢屋入りにならないのかは、クロウリス学園の七不思議のひとつとも言われ、謎に包まれに包まれている。

 

 いつかは素敵でかっこいい王子様が現れるといいな☆ ……とのこと。

 

 

「……ハッ?! すぐに思い出したシルフィーちゃんって、やっぱり天才かもぉ〜! 今日はぁ~、魔人族の人たちのルーツである”グラスト”と、それに派生して作られた吸血鬼について話してくよぉ☆」

 

 

 そう言い教卓から降りると、チョークを持つことなく魔法で浮かして動かしていた。魔人は魔法に長けている種族で、生まれたときから魔力量が多い。しかしカディ──、いやシルフィーは特に魔力量が多く、魔導士になった方がいいと周りから言われながらも「えぇ~、でもシルフィーちゃんはぁ~魔者(・・)ちゃんらぶだからぁ~☆」と言って学者になったそうだ。昔からブレない。

 

 

「グラストは人間の死体から作られた、ゾンビみたいな魔者なんだよ☆ でも本物のゾンビとは違って完全に生き返ってて”今は”自我もちゃんとあるし、魔者ちゃんとは少し別の存在として今もちゃんと生きてるんだ! その証拠に、寿命もエルフと同じくらいに長いしね。まぁ、魔者自体が元々女神さまが作った生き物とかの死体を使って邪神が作ったらしいんだけどね」

 

 

 そう言いながら、ササっと魔法でシルフィーはイラストを描いていく。趣味は絵を描いたりすることだったりするので、よく解説をしながら絵を描いたりする。つまりはさ〇なクン方式だ。

 

 

「グラストは一番人間に近い魔者だけれど、魔力を多く持つ魔者ちゃんなんだよ☆ だから魔方が得意なんだ。グラストは人間に一番近い魔者で、魔人族は魔者にちょっと近い人だね。はい、ここで問題! グラストには一番の特徴があるんだけど、それはなぁに?」

 

「ハイッ!! 魔力に色がある事と耳が縦に長く、魔力色という個人で違う魔力光を持ち、髪が魔力色で染まっていることです!」

 

 

 するとここでも選択した授業が同じのルキくんが答える。元気が良くてよろしい。

 

 

「せいかーい! あともうひとつ特徴があって、過ごした環境によっては耐性を得ることがあるよ☆ 普通は魔法で作り出したものは自然界と同じように炎は朱色、氷や雪は白く見えて、大量の水なら青とかに見えるけど……。グラストやその子孫である魔人族がそういう魔法を使うと、例えばハイド君なら本当に真っ赤な、深紅の炎が。エリオ君だと深緑色の氷、アレス君は橙色の水ができるんだよ☆」

 

 

 そう言い、シルフィーちゃんは黒板に絵を描きながらブリリアントカットの形をした、巨大な宝石のように見える氷を空中に作って見せる。綺麗な躑躅(つつじ)色をした氷が輝いたかと思えば、躑躅(つつじ)色の球体型な水へと化し、躑躅(つつじ)色の炎によって一瞬に蒸発して無くなった。

 

 

「まぁ、魔法は技術と知識が必要だけど、元々は邪神が使っていたイマジネーションの力だから、魔人族じゃなくても好きな色とかがあったらその色にしちゃってもいいかもね♪ でも、グラストは次に紹介する吸血鬼ちゃんを作るために、もの凄く数が減っていったんだ。元々体は人間と変わらないから人々に奇襲されたりして殺されたりしたから数は少なかったけど、今はもう純血のグラストは居ないよ。一部のグラストは人間と暮らすようになって、シルフィーちゃんと今回の勇者はその子孫ってわけ! 

 

 まぁ、一応薄まってグラストより魔力は弱くなってるけど、これ以上は研究結果でどうやっても薄くならないことが判明したんだ☆ 不思議だよね! もしかしたらそういう魔者ちゃん特有のフシギな血の影響かも?? でもだからといって、魔人族の人達がちゃーんと研究した結果、魔者じゃないって事がしっかり証明されてるから、差別とかであんまり虐めちゃダメだよ? 

 

 ぶっちゃけ訓練も何もしてない魔人族の魔力でも普通の人間の2倍以上あるし、魔法の技術も魔法を扱う素質と才能もある。元々クロウリア城のセキュリティだって、魔人族の学者が作ったものだし。一致団結してクロウリア城を襲ったら一晩で陥落しちゃうし、普通にカツアゲされそうになっても自衛できるしね☆」

 

 そう言い、貴族や平民の少年達が驚き、勇者達に視線を向ける。恐怖と尊敬、中にはやはり差別の念が混じっており、3人はそんな目で見られる事に慣れてはいたが、いい気は全くしない。

 

「でもそれをしないのは、リスクが高すぎるからなのと、元々ちょっとネガティブな性格の人が多いから。ただでさえ悪い社会的地位も更に低くなるだけだし、怖くて戦いたくないから、何もしてないだけ。

 

 だからいつか魔人族の人達が差別に対して攻撃的な姿勢になったら、大戦争になって普通の人間の国は滅びると思うよ☆ だから早く差別を促すような教会の声とか、王様の発言とかは無くした方がいいんじゃないかな~って学者として言ってるんだけど……シルフィーちゃん自身が魔人族だから、なかなか話を聞いてくれないんだ。じゃあ次は吸血鬼の話ね☆」

 

 

 そう言い、牙の生えた赤い目をしているイケメンの絵を描き終わったシルフィーちゃんは吸血鬼についての説明をし始めた。

 

 

「吸血鬼はその名の通り、主に人間の血を吸って生きてる魔者ちゃん。まぁ血を吸わなくても生きていけるけど……ヴァンパイアとかドラキュラ、ヴァンピールっていう風にいろいろ言い方があってね? 大昔はかなり居たらしいけど、今はすっごく珍しいんだ〜☆ 髪の色はグラストみたいに色々あるけど、夜に生活してるから光を反射しないようにする為に黒色が多い。

 

 暗い夜に隠れて生活するのに、凄く都合が良いしね。他にも魔力色が黄色でも、黒い絵の具を混ぜたみたいにして髪が黒っぽくなったりするよ☆ 青なら紺の髪、とか。

 

 あと魔者ちゃんは強ければ強い程に魔力が暗くなっていって、魔人は逆に魔力色が明るくなればなるほど魔力が多いんだ☆ 種類は分けると3つあるけど、今存在する吸血鬼は2つかな」

 

 

 その話を聞き、勇者2人は次男の方を見る。本当に美男美女ばっかりらしいし、一度見てみたいなぁ〜☆ というシルフィーちゃんの声は聞こえていないようだ。エリオは「えっ、えっ、何?!」という表情になり、ハイドが小声で話しかける。

 

 

「エリオって俺たちの中じゃ一番魔力多いよな?」

 

「あぁ、その筈だが……どう見てもハイドより髪色が暗い」

 

「う〜ん……たぶん、アレじゃないかな? 前に聞いた歯ブラシの話……」

 

「あ~、なるほど」

 

 

 読者の方からすると訳が分からない話だが、この話が次に出てくるのは勇者が帰宅してからの場面なので待っていてほしい。ゲーム的に言うと、あと10くらいのステージ移動をしたら見れるが。

 

 

「邪神が魔者ちゃんたちの頂点である魔王として相応しい魔者を作るために、生きたグラストを眠らせてアンデット化させてから品種改良的なことをして、吸血鬼が生まれたよ☆ だけど、改良するには成長するポテンシャルを秘めていたとしても、元は人間の体だから限界があってね。失敗して不完全な吸血鬼化で血に飢えた元グラストの吸血鬼が沢山できたんだ。ざっと、129710000体くらいだね」

 

 

 めちゃくちゃ多いと思うかもしれないが、このコズモという世界は地球より何十倍も大きい。しかし重力は不思議と地球と全く差が無い。そして広さに比例して沢山の生き物と人々や魔物が生きている。なので世界的に言うと、これは少ない方だ。

 

 

「改良の末にそのまま体が耐えきれなくなって死んだりもした個体は多かったって、大昔の書類には書かれてるんだ。シルフィーちゃんも一回だけ、その現物を見たことがあるよ☆ 劣化保護の魔法がかけられてたけど、正直すっごくボロボロだったな!」

 

 

 そう言い、シルフィーは黒板に更に絵を描いていく。

 

 

「でも生きていたとしても、大体は不完全な吸血鬼になった。弱点が多くて、太陽の光を浴びただけで灰になって即死。聖力が掠っただけで、赤く熱された鉄に体を焼かれるほどの激痛。光属性の魔法付与(エンチャント)が付いた魔法具(アーティファクト)に近づくと弱体化、持つだけで体が徐々に灰になっていく。銀のナイフを心臓に突き立てられれば即死。灰になるまで燃やすと死ぬ、出血多量で死ぬ……とかね! 

 

 あ、聖力と光属性の魔法の違いって皆分かってるよね? まぁ田舎に住んでる子でも知ってるから説明しなくても良いよね☆」

 

 

 説明をした太陽や銀のナイフ、魔除けに使われる光属性が付与された十字架などを描くと、黒板がいっぱいになってしまった。なのでシルフィーは魔法でどこからか新しい黒板を出すと、その黒板も空中に浮かせて更に描いていた。しれっと凄いことをやっているシルフィーちゃんである。

 

 

「常に喉が渇いてて、完全な同族の血や肉を喰らって完全な吸血鬼になろうと、同族を襲ったりもしたんだって。あとは吸血鬼らしく少しの間だけでも苦しみから解放されるために人を襲ったり……その結果、死んでしまった人々は不完全な吸血鬼の吸血によって吸血鬼化。

 

 まさに伝染病みたいだよね☆ 完全な吸血鬼はそんな風には増えないけど。でも、ある日……完全な吸血鬼たちが団結して、不完全な者たちを皆殺しにし始めたんだ☆ ……と、ここでまたシルちゃんからのク~イズ☆ 真の吸血鬼たちはなりそこないの吸血鬼たちを見事に絶滅させたんだけどぉ、どれくらいの期間で駆逐したでしょ~か?」

 

 

 そして急にシルフィーは「じゃあそこの明らかに顔グラがないモブ君!」と言い、モブAに答えを求める。

 

 

「え、えぇっ?! ……10年、ですかね?」

 

「ぶっぶ〜! もっと短いよ、なりそこないの吸血鬼でも戦闘部門の子が5~6人くらいでやっとだもん」

 

「じゃ、じゃあ2年……?」

 

「ざんね〜ん! 正解はぁ~」

 

 

 そして黒板に答えを書く。書かれたのは3日という文字で、見ていた生徒たち全員が戦慄した。

 

 

「なんと、3日でしたぁ〜☆ それで残った吸血鬼の数はたったの数千。それくらい、邪神の力に耐えられた完全な吸血鬼は本当に少ないんだ。そして更にその中で優秀で、更なる改造に耐えれた吸血鬼が”魔者達を率いる方の”魔王の一族なんだよ。ヴァンパイア一体だけでほぼドラゴンにも匹敵するくらい強いんだ。それで、これから吸血鬼の能力とか弱点について説明していくね」

 

 

 シルフィーは更に絵を描いていき、イケメンが動物や美女に変身する様子を描く。

 

 

「吸血鬼はね、高度な擬態能力とリリアーネちゃんと同等、もしくはそれを上回る魔力を持ってる。不完全な個体とは違って血を吸っても増えないし、人間みたいに子供を産んで増えるんだよ。

 

 あとは死んだ人間を完全な吸血鬼にさせて眷属にしたり、生きた人間を眷属にして吸血鬼化させたり。全く別人になって人間そっくりな姿に、蝙蝠に白い子犬、黒い猫ちゃん……スライムとかスケルトンとかの特殊な魔者ちゃんは除いて、他の魔者や動物にも姿を変えられるよ☆ だからもしかしたら、人に紛れて生活してる吸血鬼も居るかも? 吸血鬼同士はすぐに判るみたいなんだけど、それが何でかはまだ判明されてないんだぁ☆

 

 あとは満月の光を浴びれば空を飛んだりとか、驚異的な再生能力と高い自然治癒能力。それで完全体の吸血鬼は不完全体よりも圧倒的に強くて、弱点が光属性の魔法くらいしかないよ☆ それ以外は木っ端みじんにするか、灰になるまで焼き尽くすしかないんだ。

 

 しかも吸血鬼は元々体を変化させる能力があるから、普段使う攻撃魔法や環境によってはグラスト以上に適応できるんだ! だから火山地帯に過ごしていたら、炎耐性じゃなくて炎無効の技能(スキル)を持ったりするよ☆ でもその代わり、ただ過ごしているだけだと無効の技能(スキル)を得る事はできないんだ☆ つまり条件があるって事! その為に、魔法に対して熟練度を上げないといけないよ☆」

 

 

 するとここで「そ、れ、でぇ~?」と区切り、不完全体と完全体とはまた違う吸血鬼の絵(イケメン)を描くシルフィーちゃん。

 

 

「元々生きてた人間が吸血鬼によって後天的に吸血鬼にされると、光属性の魔法が効かなかったりするんだ。それに吸血鬼ではあるんだけど、能力が限られたりするね。例えば、色んな生き物に変身できなくなったり! 一応自分の性別とか、体の大きさを頑張れば変えたりはできるらしいよ☆ あとは変身した吸血鬼と見分けがつかなくて、同族だって分からなかったり!」

 

 

 今度は吸血鬼のちょっとした歴史を描き始めるシルちゃん。

 

 

「吸血鬼ってね、血を吸っても魔力が増えて強くなるのと、お腹が膨れるだけしか効果が得られないんだぁ〜。だから力が別に欲しい訳じゃない吸血鬼にとっては、美味しくて高い牛のお肉とか高いお酒とか……まぁ、そんな嗜好性のあるものだったらしいよ☆ だからご飯は普通に人間と同じものでもいいし、ぶっちゃけ血を飲むのは人間に恐怖感を植え付ける為とか、魔力を回復させる為とか、人間をちょっとでも減らす為に邪神がそういう作りにしたのかも。

 

 でもやっぱり人間の血が好物だから、人間とか捕まえて奴隷にしたりする吸血鬼も居たし、被害は吸血鬼の数が少なくてもまぁまぁ多かったんだよね。あとは好みとか使い道によっては生きたまま眷属にして吸血鬼化させたり、時々家にやってきたお腹を空かせたサキュバスとかインキュバスに精力を吸わせたり。結構魔者ちゃんたちって強さ関係なく、持ちつ持たれつ精神で仲間意識が強いから、異種同士でもそういうこともあったみたい。そんな被害があったから何百年か前に、生まれた子供には体液とかが魔者ちゃんたちにとって不味く感じる魔法をかけることが義務付けられてるよ。特に勇者には強く魔法をかけられてるんだ」

 

 

「……じゃあ、吸血鬼とかグラストについて質問したい人は居るかな?」

 

 

 するとアレスが挙手する。

 

 

「魔王は他の吸血鬼とは何が違うんでしょうか」

 

「おぉ〜! いい所に気がついたねぇ〜☆ さっすがアレス君! 魔王は吸血鬼の中でも特に珍しい、吸血鬼の最上級種である『リミットオーバー・ブラッティヴァンパイア』って言われてるんだぁ〜☆ ちょっと長いよね。魔王は代々魔王の一族がなるんだけど、リミットオーバー・ブラッティヴァンパイア……略してリミヴァには特別な技能(スキル)があって、更に魔王には特別な技能(スキル)を持っているんだ。それは『闇の支配者』☆ 闇の支配者は闇属性の魔法を使えば使うほど、闇属性の魔法の威力が上がっていくんだよ☆ だからいつか勇者であるアレス君たちが魔王を倒す時が来たら、光属性の魔法付与(エンチャント)が付いた武器を使ってね☆」

 

「はい」

 

「それで、魔王にしか使えない技能(スキル)が、『全ての魔者を統べる者』っていうんだけど……」

 

 

 一体どんな技能(スキル)なのだろうか? そう思いながら勇者三人含む生徒たち全員がシルちゃんの方に注目する。

 

 

「魔者ちゃんたちが魔王の魔力色と同じで光る棒を振ったり応援されると、パワーアップするんだ☆ 魔王は魔者ちゃんたちのアイドルだからね☆」

 

 

 そう言い、ペンライトのような物の絵を描く。

 

 

「(((予想してたものとなんか違うぞ……)))」

 

 

 するとシルフィーは黒板に自分好みな王子様っぽいムキムキなイケメンの絵を2つ描くと、勇者たちはびくりとして冷や汗を掻いて目が死んでいた。というのも、3人にとって”できれば”一番会いたくない知り合いとかなり似ていたからだ。しかし絵は顔と髪型はそのまま同じものだが、髪は白いチョークで色鉛筆のように線を引いていく。

 

「はい、じゃあ次のお話! 人間にそっくりな容姿をしたグラスト系の魔者で、髪が白い子が本当にたま〜に親の遺伝と関係なく産まれることがあるんだけどぉ〜。何万、何兆分の一で生まれるとっても強い魔力を持って生まれる白銀の髪を持つ魔者ちゃんは珍しいんだけどね、実はアルビノっていう訳じゃないし、そもそもアルビノは自然じゃ(・・・・)存在しないんだ☆」

 

 つまりは、自然ではなく人工であればいつかは可能だという事。これを実行しようとするような好奇心が強い者ほど、恐ろしいものは無い。

 

 

「奇形が産まれるのも0.01%以下だし。体の特殊な体の細胞か何かで、悪い部分はどんどん自然と殺されて死んでいくみたい。アルビノは白くて綺麗って思うかもしれないけど、人間だってアルビノな人は肌が凄く弱くて、太陽の光も自由に浴びられなかったり、視力がよくなかったりするじゃない? 魔者は夜に活動してるし。暗いところで隠れてるのに白いから、ちょっと月明かりとか魔力光とかにあたっただけで髪が反射しちゃうし、明るい夜にはもっとバレやすいでしょ? 朝に活動するなんて、太陽の光が基本的に苦手な魔者たちにはそれこそ自殺行為だもん。そもそも目の構造が普通とは違うから、眼鏡をかけても意味がない」

 

 

 話を戻したころ黒板には髪が白のチョークで描かれたものと、黒板の地の色のものができあがっていた。そして未だに3人は目が死んでいる。

 

 

「邪神は白銀の髪をしていて、闇の力を操るって伝わってる。だから邪神が気に入った子供に力を与えられた結果……髪が邪神と似た髪をして生まれるそうだよ☆ でもせっかく生き延びる為にアルビノが出ないような働きがあるのに、邪神に似た色になっていいの? って思うかもしれないけど……全然大丈夫だよ! だって、隠れる必要が無いくらいに遺伝とか関係なく強いし、光が当たっても一切光を髪が反射しないんだ☆ この世に存在するもので、絶対に光を少しも反射しない物は本来だったら無い。それに光を吸収する色は黒、だから普通なら凹凸が分からないくらいに平面に見えてしまう、ベンタブラックのような色である筈なんだけど、何故か髪は白く見える。本来光を反射せず、吸収する物は黒く見えるべきだし、再現することは不可能だって言われてる。だけど、魔力で強くなれる魔者ちゃんってすごいし、不思議だね! だからぁ、”邪神の子供”な~んて呼ばれたりもするんだぁ☆ だから、時々魔者だって勘違いされて殺されちゃう人も勇者が生まれてからは出てきたから、本当に物騒な世の中だよね☆ 」

 

 そう言うと、黒板消しを魔法で浮かせては綺麗に消し始める。そう聞くとハイドとエリオとアレスは罪の意識のようなものを感じてくる。

 

「ピリピリして生活するより、もっとハッピーに生きればいいのに! そう、シルちゃんみたいにね☆ それに、知識が無い人が勝手に勘違いするのが悪いんだから、勇者たち3人は気にしなくていいんだよ」

 

 そう言って笑って見せると、シルフィーはポーズをとり始める。

 

「あ、そういえば新しいお洋服買ったんだけど、どうかな?! 似合ってる?」

 

 そう言うと、クルリと綺麗に回って見せるシルちゃん。消している間はこうして、ちょっとした会話をしていたりする。

 

「……うん、すっげー似合ってる。かわいい!」

 

 ハイドはしっかりと褒めているが、エリオもアレスもちゃんと心の中ではそう思っている。一年生は未だに慣れておらず、周りの生徒たちはほとんど貴族だ。例え教師だろうと、魔人が着ているという理由で服ですら褒めようとしない周りと、大昔から全く変わらない風潮に、アレスは今日も不快感を感じている。

 

 

 そして最後にまとめ! と、大きく黒板に書く。

 

 

「じゃあ、今日のまとめ! グラストはもう今は居なくて、吸血鬼はグラストの派生。それで人の生き血を啜(すす)り、力をちょっとだけ得る。恐ろしく強い力を持ってて、ドラゴンと同じぐらい危険な存在で数が少ない。でも人間とかなり関わってて、髪が白銀に近い吸血鬼はとっても強い。あとはイケメンと可愛い女の子がいっぱい! いつかシルフィーちゃんも”女の子同士”でお話ししたり、イケメンと……ぐふ、ぐふふ。うへへへへ……。あっ、やべぇよだれが」

 

 乙女にあるまじき表情(雄顔)と気味の悪い笑い方、それと最後の素でスリーアウトしていらっしゃるシルフィーちゃん。全員が「うわぁ……」という顔で引いていた。

 

 

 午後は3時間の訓練で、現在は昼休み。そして未だに今日あった事について思い出したのか、未だに少し不貞腐れているハイド。鬱憤がかなり溜まっている様子。

 

「ったく、もうちょい優しく起こしてくれてもいいよな~、それにメガネ探しって。この学校の教師、おかしいだろ……」

 

 それでもここの教師は優秀である。

 

「だ、だからってリリアーネ先生の前であんなに、堂々と寝てられるのは、ハイドだけだよ」

 

 エリオは周りを少し見てみる。すると、食堂でも令嬢たちが勇者三つ子兄弟を、まるで推しアイドルを見る時のような目で見てくるのがわかり、身震いをした。

 

「(やっぱり、人の視線には慣れないなぁ……緊張する、怖い……!! それにアレスも、貴族の女の子たちと関わると怖い目に合うって前に言ってたし……!)」

 

 エリオの身体がまた震える。これでも次男。頑張れエリオ。これぐらいで精神的に負けるな、勇者として!! 

 

「仕方ないだろ、俺はじっとしてるより体動かす方が向いてるんだからさぁ」

 

「けど寝ちゃダメだよ……」

 

「でもさー」

 

 すると、先程から黙っていたアレスが口を開く。

 

「……自業自得だ。夜遅くまで鍛錬し、座学の途中で寝ているようではな」

 

「えっ、そうなの?」

 

 初めてその事をエリオは知り、ハイドはアレスの言葉にまた苛立ちを感じる。

 

 ただ、こういったのにも理由があり、エリオの注意を令嬢たちからこちらに引かせるための話題だった。顔と目の色が自分と近い事以外は、髪も性格も似ていないとはいえ、兄弟だ。エリオの精神状態ぐらいはわかる。

 

「……知ってたのかよ、それにこういう時は話しかけてくるよな。お前って」

 

 棘のある態度と言い方をしてハイドはそう言うが、アレスは何も答えない。

 

「「……」」

 

 周りの空気が鉛のようにエリオは感じる。何故かハイドは9歳の頃からアレスに対して、父親が帰ってくる前日にだけこのような態度をしているのにエリオと、言われている本人のアレスはは気がついていた。その理由はわかっている、ただ……どうすることもできない。時間が経つにつれ、エリオにとっては鉛以上の何かが、自分を潰そうとしているように感じていた。エリオはそんな空気を変えたくて、気まずい雰囲気の中、授業中に少し気になっていることを聞いてみることにした。

 

「そういえば……最近、2人とも機嫌悪いよね。ちょっと前だったらアレスはハイドに起こして貰えたし、アレスはエリオより寝起き悪いのに……」

 

 そう言うと、アレスはスプーンですくったスープを口に運ぼうとして動きが一瞬止まり、ハイドはパンをちぎる手が止まる。

 

「……ここのところ、あまり眠れなくてな」

 

「あー……俺は、つい。アレスが……似てるから。別に嫌いとかじゃなくてさ、つまり……八つ当たり。ごめんなアレス、多分俺しばらく機嫌悪い」

 

「分かっている、気にしていない」

 

 すると、エリオは朝の事を思い出す。アレスは自分よりも寝起きが悪い為、いつも最後に起きるが……そういえば、今日はエリオやハイドよりも起きるのが早いな。と気がついた。そして普段なら、机が凹むぐらいの強さで叩くのはアレスに限ってありえない事だ。それにハイドも、兄弟に向かって刺々しい言い方は怒っている時にしかしない。これは相当……。

 

「2人ともストレス溜まってる?」

 

「……悪夢を見る。内容は覚えていないが」

 

 エリオは怪物に追いかけられる夢を少し想像してしまい、その考えを払うように頭をブンブンと横に振る。ただ、悪夢というだけでここまでアレスが不機嫌に? しかも内容を覚えてないのに? 

 

「どうした?」

 

「ううん、ちょっと想像しちゃって。でも夢でよかったね」

 

 だがアレスは、気にしている様子でスープを飲む。

 

「……だが起きた後、いつも嫌な汗が出る。涙が出ているときもあったな」

 

 アレスはここのところ起きた時、気分が酷く悪い状態になる。今朝は起きてすぐ、吐き気を感じて実際に吐いてしまった程だ。

 

「…………ただの夢。だと、いいんだが」

 

 そう言い、アレスは席を立つ。その時にエリオはアレスを少し見上げた。

 

「(あれ、そういえば周りに人がいないような?? 視線も感じないし……)」

 

 そして部屋に1つ、必ずある大きな砂時計が視界に入っているのに気がついた。

 

 よ〜く、それを見てみる。

 

 

「って……あぁぁぁ!!!」

 

 

 すると次の授業までの時間を現した、砂時計の魔法砂がもうすぐで落ちて、無くなりそうなところが見えた。

 

「 もうすぐ訓練!! 始まっちゃう、遅れたら大変だよ!! 行かなくちゃ!」

 

「えっ?! うっわ、マジか!! ヤバい、クルージオ先生に殺される!!」

 

 2人はサーッと顔色を蒼くした。

 

「アレスも急がないと──って、いつの間にか居ない!!」

 

 エリオは周りを見てみるが、アレスはお前は瞬間移動でもしたのか? と思うほどの速度で、その場を去った後であり、既に訓練所へ行っていた。

 

 ハイドは昼食を朝食の時のように、口の中に詰め込んだ後、直接スープを皿に口を付けて流し込むように食べた。

 

「畜生アイツ裏切りやがって兄弟なんだからそこは一緒に遅刻しろよ勇者三兄弟とかっていつもセットみたいに言われるしなんだかんだでいつも一緒だったじゃんか何でこんな時だけ置いてくんだよあんの薄情者覚えてろッ!!」

 

 ほとんど言葉を切らずに早口でそう言いながら、弟を置いてダッシュしていた。

 

「ま、待ってよハイド! エリオ、クルージオ先生にしごかれて死んじゃうよぉ!!! 弟を置いていくなんて、ハイド酷い!! 」

 

 2人とも急いで行ったが……。

 

「それで、俺様の授業に遅れてきたって事か?」

 

 訓練が鬼と学校内では有名な、武器の達人クルージオ・ストリム。この先生はこの国では珍しい黒髪な男性だ。表情は謎の陰によって見えないが、黒いはずの目が赤く光っているように見える。

 

 だが顔が良い。

 

 とても顔が良い。

 

 何故かこの学校は、教師の平均寿命が低いものの……。顔がいい人ばかりで、変な人ばかりなのである。ハイドはプルプルと子犬のように震え、エリオは脱兎のごとく逃げ出したいと思いながらも、兄と同様にカタカタと震えていた。2人の小さめな体が更に小さく見え、犬と兎の耳がそれぞれ見えてくるようだ。

 

「「すみません……」」

 

「お前らには特別に俺様のスペシャルメニューを受けさせてやる、追い出されないだけ感謝しろよ。俺様はやる気がない奴や、ついてこれない奴は基本的にどうでもいい。勇者だからってのもあるが、俺様が一目おいてやってんだ。徹底的に扱き倒してやる」

 

「…………あの、内容は?」

 

 エリオは震えたまま恐る恐る聞くと、ニコォ……と目が笑っていない笑みで笑うイケメン。恐怖でしかないので、2人は小動物のようにプルプルしている。

 

「気になるよな? この俺様が考えた訓練だ、そりゃ当然だがな。さっさと死ぬ気でやれ」

 

 クルージオはさらさらっと紙に訓練内容を書いて渡し、2人を見る。ただ、体が壊れる程のものではなく、クルージオが2人の体の限界を見極め、個人で違う内容が書かれた紙を渡していた。

 

 訓練がいつもよりキツい、というのには変わりない。2人とその周りだけ真っ白になったように感じる。

 

「「……ハイ」」

 

「……」

 

 アレスはそんな2人の様子をただ見ていると、クルージオと目が合う。

 

「お前には今日も、俺様の特製メニューを用意してやったからな。とくと味わえよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 特に表情を変えることも無く礼を言うアレス。ただ彼にとって、これでもまだ優しい訓練。授業が軽いという意味では決してなく、終わるころには倒れこむ程だ。ただ単に言葉の意味が少し違う。現時点でアレスは訓練がしやすいように普段通りの前髪をして眼鏡を外していた。

 

 そして、数々の国で兵士達がやる訓練よりもキツい授業(訓練)が始まった。

 

「よ〜し、じゃあまずは準備運動だ。気ィ抜いてやったりしたら、ここから叩き出すからな。エリオはこれ持ってろ」

 

 そう言うと、クルージオは魔法付与(エンチャント)の効果を高める赤い宝玉(オーブ)をエリオに持たせた。宝玉(オーブ)は掴めるほどのお手頃サイズで、あまり大きくはない。その辺に落ちている石ころと同じ大きさだ。

 

 エリオは宝珠の効果を発揮するために、魔力を込める。すると魔法付与(エンチャント)された自身が着ている制服が更に魔力を消費し、他の生徒も同様に形状が変化していく。そして、身体が重力増加の効果も強くなったため、ズシリと重くなったのを感じた。落としても割れたりはしないが、エリオは宝珠を持っている手がグッと下に落ち、落としそうになったことにかなり焦っていた。

 

「おわ?! 何だこれ、おっも?!」

 

「今日は制服に付けられた装備技能(アーマースキル)を強化する宝玉(オーブ)を使っての訓練だ、精々頑張るこったな」

 

 エリオは今日の筋トレメニューと魔力に余裕があれば、魔法の練習をこなすのと同時に模擬戦することになっている。一方ハイドとアレスは普段よりも更に重くなった体で、制服の形状が戦闘モードに切り替わり、変化した制服で結構激しめな模擬戦をしている。一方的な攻防だが、埒が明かない状態だ。普段より体の動きは遅くなっているが、それでも他の生徒たちよりも速い。

 

 そしてハイドはステータス的にみると、大盾の役割が適任ではあるが──。

 ハイドは前に説明した通り、鳥〇明氏がデザインする某人気RPGゲームに登場する勇者、又はタイトルの名前が主人公ではなく姫の名前で伝説になっているRPGに出てくる勇者像の、剣と盾を持って戦うスタイルだ。

 

 タンク向きなステータスを持つキャラクターなどは、通常だと大きな盾に槍などを構えて戦うが、ハイドは槍を使わずに、いつも武器は剣を選んでいる。使用しているのは自分に合っている木剣なので使いやすく、盾の邪魔になることはあまりない。なので少し異色ではあるものの、タンクというより防御力も高いアタッカーという事になる。

 

 一方アレスはアレスで、通常よりも長めで細身の木剣だ。筋力と身長が足りないので、そういった木刀を使っている。しかし、戦闘時には完全に使いこなしているのにも関わらず、それ以外では長いので持ち運びづらそうにしているが。

 

 ガコッ

 ガッ

 

 木剣と盾がぶつかり合う音はとても激しく、段々と激しくなっていく。

 

 魔力付与(エンチャント)がかかっている為、普段は相手を惑わせるような動きで相手を翻弄させ、隙を出させるような戦法はできない。なので極力無駄のない動きでアレスは剣を振るうが、攻撃を何度もハイドに防がれ受け流され、素早い連続攻撃も防がれる。そしてハイドはアレスの攻撃を読み、盾に木剣がぶつかる瞬間に盾を押し出すようにしてから木剣を弾いた。その瞬間、お互いの動きがスローモーションのように見える。

 

「!」

 

 ひるんだ隙に横へ木剣で薙ぎ払うようにしてハイドは木剣を振るうと、アレスはなるべく少ない動きで攻撃を躱そうとするが若干当たってしまう。増加した重力によって、体が思ったよりも避けきれていなかった。

 

「(体力と身体能力はハイドの方が高い、それに重力が段々と重くなっていく……。今回でこのような訓練は初めてだ、体力もあとどれぐらい持つかが分からない。だが力と素早さ、瞬発力だけならこちらの方が上だ。すぐに終わらせなければ負ける)」

 

 渾身の一振りを避けられ、ハイドは少し動揺する。それを見逃さずにアレスはハイドが盾を装備している左腕側に素早く移動して踏み込む。剣を持つ方に回ってしまっては、身体能力が高いハイドに攻撃されてしまう。なので例え防がれたとしても攻撃をされない為、なるべくリスクがない行動を選択した。自分の素早さを活かしてハイドの死角に入ろうとする。しかしその行動を読んでいたハイドは、体を捻るようにして右足で蹴った。

 

 だが、裏の裏を搔いていたアレスは素早く後ろへバックステップをし、地面を蹴ると空を跳ぶ。

 

「はぁぁっ!!」

 

 そして重力と勢い、そして力を乗せて木剣を振り下ろす。しかし攻撃は防がれ、ハイドは攻撃を防いでみせた。

 

 ロイダンツ家は代々反応速度や動体視力、身体能力、持久力が高く、沢山の猛者が誕生してきていた。しかし、小柄で筋肉が付きづらく、筋力も他の戦士に比べて少ない。身体の大きさや遺伝の関係上、どうしても背が高く力押しをしてくる相手には、怪我もしやすく非常に不利になる家系であった。

 

 では何故ロイダンツ家の人間は強かったのか、というと身体能力や人間を超えているようにも感じる程の反応速度や、後世の為に残してきた戦闘技術で相手を圧倒してきたからだった。そしてどうでもいい情報を付け足すとしたら、ロイダンツ家の血を引いている者は全員美形。ちくしょう、羨ましい。

 

 ハイドは兄弟の中で一番反応速度が一番だったので、アレスの渾身の攻撃を防げていたのである。そのまま盾で木剣を弾き、大勢を崩したアレスにカウンターとして攻撃を入れようとする。

 

 ……が、アレスの持っていた木剣はバキッという嫌な音を出して、盾と接触している部分から派手に折れる。

 

 折れたところが跳ね返ってアレスの額に当たり、バランスを崩した。

 

「っ……!?」

 

「ちょっ?! 」

 

 そしてアレスの体重と重力を抑え切れなくなったハイドはアレスの下敷きになって、2人は重なるように倒れていた。

 

「ぐっ……」

 

「いってぇ……。もうちょい学校側は丈夫な備品を用意しろよ、こんな訓練すんだからさぁ……」

 

 学校の備品とはいえ、なかなか耐久力のある木で作った木剣だ。むしろこの勇者2人の打ち合いに耐えられた方が凄いのである。

 

「てか重い、潰れる……内臓口から出そう、死ぬぅ……」

 

「……今退く」

 

 アレスはなんとか離れようとすると、先程の額に当たった折れた木剣でケガをしていたので、血がぽたりとハイドの頬に落ちた。

 

「血ぃ、出てる」

 

「……そうだな」

 

 アレスは上から退くとハイドは木剣を持ち替え、ハンカチを出しては血で汚れているアレスの額を拭う。

 

「”ヴァリカー”」

 

 拭い終わった後はすぐに回復魔法の名を唱えると、傷はすぐに塞がる。だがハンカチをしまって木剣をまた持ち替える際にズキリと腕が痛み、ハイドは木剣を落としてしまっていた。

 

 筋力が付きづらい家系で、まだ未熟。なので先程の攻撃をハイドは防げたものの、その衝撃でケガをしてしまったのである。

 

「……すまない”ヴァリ”──」

 

「いい、自分でやる」

 

 ハイドはそう言い回復魔法を断ると魔法を使うために精神統一をし始める。

 

「だがハイドは魔法があまり得意では──」

 

「だから、自分でやるって言ってるだろ!!」

 

 怒った様子でハイドは言い、アレスは何故怒っているのかがわからなかった。ただ、昔のようなハイドに戻っていたような感覚を覚える。まるで認めたくない部分を否定するかのように。

 

 そしてハッとした様子でハイドは眉を八の字にさせ、とても罪悪感を感じている様子の表情で謝りだす。

 

「あ……ごめん、な。……やっぱり俺でも旅に出ることになるのは不安だからさ。ほら、歴代の勇者たちもさ、こんくらいの年で旅に出てたって言うじゃん? やっぱ、彼女ナシで早死にしたくないし!」

 

 だが、今はきっと先程の模擬戦で体が戦闘態勢になっているから、普段よりも神経質でつい怒鳴ってしまっただけだろう。そう思い、ハイドが回復するまで顔を洗って待っていた。今生徒の中で自分の攻撃を防げるのはハイドだけだ、それ以外は相手にもならないので、待つしかない。その間ハイドはやはり僕を嫌っているのだろうかとアレスは少し考えていたが、まるで答えは見つからなかった。

 

 そしてその様子を、クルージオは注意することなくじっと見つめ、エリオはトレーニングとして剣の素振りをしながら、心配そうに見ていた。

 

「ところでエリオ……どこ見てんだァ?」

 

「えッ」

 

 今先生もじっと見てましたよね? という言葉が左から右に過(よ)ぎる。

 

「魔法を纏わせたまま素振りプラス200回」

 

「…………ガ、ガンバリマス」

 

 




謝れるの偉いね。


ちなみに実質、エリくんの生まれ変わりはゲイル先生です。
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