※この作品はR-18です。

チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった   作:水性さん

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勇者、家に帰る

 三兄弟たちは今日の授業が終わり、今日も貴族令嬢たちに見送られながら魔法で家に帰る。帰った瞬間から、アレスは伊達メガネを外して前髪を戻した。

 

【アレスは伊達メガネを装備から外した】

 

 そして場所は村の入り口。今日も三人というよりも、そのうち一人の帰りを待っていた者が居た。

 

「三人ともおかえり、今日もどうだった?」

 

 長いプラチナブロンドをサイドテールにして右側に結んだ、空色の眼をしている少女が勇者三人を笑顔で出迎えた。3人の幼馴染で気が強い性格をしている少女で、彼女の名前は フォル・ラデリと言う。顔は中性的で、エリオより背は低いが、ハイドよりは背の高い少女だ。少し備考として、高い順番からエリオは160センチ。フォルは154センチ。ハイドは150センチ。アレスは140センチ、とういうふうにものすごく背の低い主役。

 

 学校生活はもうすぐ2年になるが、童顔も相まったそのせいで新入生にはよく年下に間違えられた事がある。家系のせいとはいえ、ここまで低いのにも理由があった。本来ちゃんと成長したら、ハイドと同じくらいの背なのだが……。それはいつか分かるので、待っていて欲しい。

 

 昔の幼かったフォルは髪が短く、その時から気が強かった為、よく男の子に間違えられていた。しかし心や言葉遣い、声はちゃんとした女の子のものなので、会話をしてみればすぐに判る。そして両親は学者をしており、結構学者の中では名高い歴史学の学者だ。フォルが生まれる前から神についての歴史を探求する為に引っ越してきたが、何故田舎に学者が来たのか。その理由が、今日歴史の授業で登場していた村。ポルブ村は今まさに勇者達が住んでいる村の事だからだ。

 

 家は村の中では離れている方だが村自体はそこまで大きくなく、村中の住人達全員仲がいいのでご近所さん同士のような感覚をしている。ロイダンツ一家がポルブ村で一番大きな家を建て、別の村から引っ越してきたときはほとんどの村の人々が暖かく迎え入れてくれたが、その際に勇者たちは……というよりもハイドは村の中を探検している時にフォルと出会った。それから成り行きで兄弟たちを紹介する形でエリオ&アレスとフォルは知り合い、今の幼馴染関係に落ち着いている。

 

 そして幼馴染なので今日は一体何の日なのかをしっかりと覚えており、プレゼントとして渡すための物をバッグに入れて隠し持って緊張しまくっていた。今日はエリオとハイドの誕生日。普通に考えて学校でモテる勇者たちは、令嬢たちからそれはもう盛大に祝われるようなイベントではあるものの、2人は豪華そうなプレゼントを一切貰ったことがない。それは当日の生活のしにくさや持ち帰る際、中身に問題が発生することを懸念したからである。実用性が無い高価な物を貰っても要らない上、例え実用性のあるものを貰っても高価すぎて気持ち的に使いにくいからである。壊したら申し訳ない気持ちでいっぱいになりそうだからだ。

 

 学校では誕生日のことは言わないようにし、そういう雰囲気にはあまり関わらず話題にも出さないよう徹底して気を付けていた。しかしフォルはその話を知らなかったので、今年もエリオとハイドがプレゼントを全く持っていない様子に頭の上では”?”マークが浮かんでいた。

 

「今日も貴族の女の子達が俺たちを見て、ものすごく喜んでた!」

 

 そんな様子に気づくことなく、少しドヤ顔で答えてみせるハイド。しかし心中では幼馴染にただ自慢したいわけではなく、別の意図が存在していた。

 

「そういう自慢は要らないわよ。毎日言うのよく飽きないわね」

 

 前はジト目で言っていたが、フォルはもう慣れて呆れも通り越し、何度も同じことを言う子供の話を「はいはい」と言って聞き流す母親のような態度だった。一方ハイドはそんな態度に、少しも思うことがなかったわけでもない。

 

「……フォルだってそうじゃんか! 学校の帰りは必ず待ってるしさ」

 

「アンタの話(自慢)を聞いてあげる為に、いつも待ってあげてるのよ」

 

 なんだかんだでいつも待っていてくれる幼馴染である。

 

「明日は儀式の日だけど……ハスリオドさん、今日帰ってくるんだっけ。私、あの人苦手なんだよね……なんていうか、雰囲気とかちょっと怖いし。それに……」

 

 そう言いかけたが、フォルは口を紡ぐ。

 

「あいつの話はあんまりすんな」

 

 ハイドはそう言い、普段とは違った険しい表情になった。どこか憎んでいるようにも見える。雰囲気が普段と違う様子から、フォルはかなり驚いていた。

 

「まぁ、そんな事よりさ! 明日、儀式で神様の役やるだろ? 女神様の」

 

 かと思えば、普段の明るい表情に戻る。豹変したと言っても過言では無いくらいに、普段からのハイドからは想像もできなかった表情だ。

 

「そ、そうだけど」

 

 フォルは少し動揺したが、普段通りのハイドに戻ったので少し安心する。

 

「儀式って神殿の中じゃん? それに儀式する人だけしか入れないだろ? そしたら衣装見れないし、始まる前に見せて?」

 

 全ての知識を得られる存在は神と人の仲介者、又は神の子やら化身、神と同等の存在だと様々に言われている。なので神が着ていたと思われる衣装を模したものを着て儀式をすることになっている。が、何故か女神側の衣装が露出するような格好なのである。

 

「嫌」

 

 よって、ハイドには即答で当然な拒否の返事が返ってきた。

 

「一生に見れるか分かんないのに?!」

 

「だってアレスには明日見せることになるし、終わった後はいくらでも色んな人に見られるでしょ? ま、アンタには絶対に見せないけど!!」

 

「何でだよ!? 幼馴染じゃんかぁ!!」

 

 するとフォルは若干頬を赤くさせ、愚痴と多少の怒りをぶつける。

 

「……だって、あの衣装……無駄に露出度が高いのよ! それに決まってから教えられたし!! その上、アンタに見られるのなんか、恥ず——。屈辱的!! どうせ変なこと想像されるんだわ!!」

 

「じゃあアレスとかエリオは見られても良いのかよ?! ……てか、アレス居ないじゃん」

 

「……あ、本当だわ。いつの間に居なくなったのかしら」

 

 エリオは周りを確認し、家に帰ったのかな? と思いながら、兄と幼馴染の痴話喧嘩を観察していた。

 

「とにかく! 他の人でも別に良いっていう訳じゃないけど……アンタは特に! 絶対にダメ!! 見たらぶん殴るから!!」

 

「それ差別だろ!」

 

「うっさい、この前私の寝顔覗き見して、その上私のパンツ見て喜んでた奴に見せる訳ないじゃない!!」

 

 寝顔を覗き見した事に関しては、たまたまハイドが偶然木の下で寝ているフォルを見つけただけだ。風邪を引きそうだと思い、起こさないように自分の着ていた上着を被せようと、様子を見ながらゆっくり近づいていたところで起きてしまったのである。多少見ている時間が長かったのと、視線を感じたからなのかもしれないが。

 

「いや、覗き見してた訳じゃなくて見てただけだろ! それにあの日風強かったじゃん!! なのにやけに短いスカート履いてるのが悪い!!」

 

「ほんとサイテー!!」

 

 フォルは顔を真っ赤にして、更にヒートアップする。ちなみにパンチラ事件では、右手の親指をグッと立ててサムズアップをしていた赤髪の少年が居たという噂の風が。

 

「あと男は誰でも変態だし、見るだろ」

 

「変に開き直るんじゃないわよ!!」

 

 するとフォルはハイドを平手打ちではなく、グーで肩にパンチした。

 

【ハイドは1のダメージを受けた!】

 

「いってぇ!! 俺、一応ステータスで防御力が1番高いのに、一応女のフォルに殴られてダメージ受けてんだけど?! ゴリラかよ! てか肩パンはやめろ!!」

 

「二言余計よ!!」

 

【ハイドは2のダメージを受けた!】

 

「痛てぇから、とりあえず殴るのやめろって!! ほんっとお前狂暴だな、そんなんじゃモテねーぞ!」

 

 しかし、フォルは殴るのを止めない。とはいえ、ただ怒っているだけでハイドに対して引いている訳ではないようだ。

 

「(……2人とも、何で付き合ってないんだろう)」

 

 エリオはただそう思い、それ以上見続けるのは止めた。

 

 3等分に分けられた勇者の魂の内ひとつを持ち、神から与えられた高い初期ステータスがある上に反応速度と身体能力に優れ、日々訓練をしているハイドであれば、避ける事もフォルの腕を掴んで抑える事も容易にできる。

 

 だがそうはしないのは、あえてダメージを受けているからだ。……自業自得ではあるが。そして一方フォルは、ハイドには特に露出が多いらしい衣装を見られるのが嫌なようだった。しかも嫌悪ではなく明らかに照れている様子で。

 

 その上ハイドはあぁ見えて、異性に対して可愛いという言葉を使うのはフォルだけであり、ものすごく一途だ。

 

 誰がどう見ても相思相愛、お互いに友達以上恋人未満な状態なのである。

 

 だが先程エリオが見ていた様子の通りに、2人はいつも喧嘩のようなものをしている関係なのである。幼い頃から飽きもせず、ずっと。いつもハイドが悪いのだが、あまりにも酷い喧嘩をエリオは見た事がない。

 

 というのも本当に嫌われるような事はしていない、ただハイドが「きゃーっ! の〇太さんのエッチ!!」な感じの事とかを多少はしているが。エリオはそのまま家に帰ろうとその場を離れる、きっと今回もまた。なんだかんだで、仲直りするのが分かっていたからだ。

 

 ……だが、エリオは分かっていた。何故、つい思った事をそのまま言ってしまうハイドがフォルに対して「好き」と一度も言った事が無く、想いを伝えないのかを。

 

 エリオは家までの帰路をただ、歩き始めた。すると村の人達はエリオに気が付くと笑顔で声をかけていく。

 

 ポルブ村は様々な種族の人間が住んでおり、人種差別が無い村だ。なのでロイダンツ家は数十年前にここに引っ越してきたのだが、村の人々は大昔からこの村に住む人間は差別をしてはいけないという決まりがあり、それが強く浸透している。この村に居る魔人族や人々は、世の中に蔓延している差別に気疲れした者たちや、その子孫が多い。田舎なので移り住む人は少なく、人口も150人ほどだが村としては多い方だ。

 

 引っ越ししてきた人は、近所の人達によって盛大に歓迎される。家に向かう途中、村の住民たちはエリオを見つけると次々に笑顔で「おかえり」と言い、明るい声と表情で笑っている。それに対して「ただいま」といつも返す。その時点でとても友好的だが、食べ物をおすそ分けされることも少なくない。それほど近所や村の人たちは一つの家族のような感覚だ。

 

 すると一人の少年がエリオに気が付くと、嬉しそうに走り寄った。

 

「エリオ兄ちゃーん! おかえり!」

 

「ただいま、サン!」

 

 エリオは小さい子からのお出迎えに思わず笑顔になり、午後の授業で蓄積した疲労が抜けたように感じた。そしてサンの後から二人の子供が追いかけてきたのか、走って向かってくる。

 

「あっ、エリオお兄ちゃんだ!」

 

「ただいまぁ〜! ……じゃなくて、おかえりなさ~い! えへへ、言いまちがえちゃった~」

 

「レナ、ジーン、ただいま!」

 

 そして次々と家の中に帰っていない子供たちが、エリオのもとにやってくる。この村は何故か同年代の子供はほとんど居ないが、年下の子供がとても多い。自然と3兄弟はこの子供たちのお兄ちゃん的存在であり、勇者なのでちょっとしたヒーロー的存在だ。

 

「「「おかえりー!」」」

 

「ただいま!」

 

 するとアレスも子供たちに捕まっていたのか、女の子2人に引っ張られながらやってくる。

 

「ねぇ、鬼ごっこしよ!」

 

「エリオ兄ちゃんとアレス兄ちゃん鬼ね!」

 

「授業で疲れているんだが……それと帰ったら勉強をしようと──」

 

「「「え~!」」」

 

「前もそう言ってたじゃん!」

 

 夕方とはいえ、まだまだ遊び盛りな子供たちには足りないらしい。アレスに気が付く前も楽しそうに遊んでいた。エリオは少し考えたような素振りを見せているが、既にやることは決まっている。

 

「じゃあ一回だけ。それならアレスもいいよね?」

 

「……あぁ、一回だけならな」

 

 なんだかんだで2人は甘く、つい昨日もそう言っていた。

 

「よーし! 10秒したら追いかけるよ! 最後まで逃げ切れた子には、今度バニラアイスクリーム作ってあげるね」

 

 そう言うと、子供たちはレーションを拾い食いする某蛇の敵兵のように「!」マークを出す。……何故かアレスもアイスに反応した。

 

「アレスはいつも食べたい時にエリオに作らせて、美味しそうに食べてるでしょ? 材料までちゃんと持ってきて」

 

「……」

 

「…………」

 

《アイスを欲しそうにこちらを見ている!》

 

「……◎⊃☆¥★♪ §○$ゞ」

 

((訳)……材料があったらね)

 

 やっぱり弟にも甘いエリオ(お兄ちゃん)だった。魔物語でエリオはそう言うと、アレスから猫の耳と尻尾がぴこんと生え、ピーンと尻尾が伸びているような幻覚が見えてくるような気がした。周りに花が散っているようにも見え、いつもよりも表情が柔らかい。周りには小さすぎる変化なので、家族以外に気づくことは無いが。すると子供たちはブーブーと文句を言い始める。

 

「でも、いつもすぐにつかまっちゃうからずるい!」

 

「エリオ兄ちゃんの作ったアイス食べたい!!」

 

「……確かにそうだな、これでは絶対に食べられないことは確定しているようなものだ」

 

「ならハンデとして魔法アリ、何でもアリな鬼ごっこにしようか! でも危ないものは禁止だよ」

 

「「「わーい!」」」

 

 すると本気を出した子供たちは何が何でも生き残ろうと決意を固める。とはいえ、制服でエリオとアレスの重力はかなり重くなっている為、既に大きなハンデを受けている状態だが。

 

「カウントダウンいくよ〜! 10、9、8」

 

「「「わ~!」」」

 

 子供たちは蜘蛛の子を散らすように走っていくと、あっという間に居なくなっていった。これで手を抜くと怒られるのだから、しっかりと追いかけるしかない。

 

「5、4、3」

 

 そして2人は追いかける為に走る態勢にし、カウントが0になるのを待つ。

 

「2、1!」

 

 カウントを終えた瞬間、走り出すと同時にアレスが思いっきり前へずっこける。走り出したエリオだったが、思わずアレスの方に駆け戻っていた。

 

「だ、大丈夫?!」

 

「あぁ……だが、いきなり初手からトラップを仕掛けてくるとは……」

 

 子供は意外とよく見ている為、意外とドジなアレスの足元に何の変哲もないソフトボールくらいの石を置いていたのである。

 

「いつの間に置いたんだ……? 油断は禁物だな」

 

「しゃがむから普通は気がつくと思うけど……」

 

 そして気を取り直した2人は、子供たちの位置を探るために神経を研ぎ澄ませると、大人とは違ってまだ小さい魔力とその流れを感じ取る。どちらかが言うまでもなく二手に分かれ、再度走り出した。

 

 だが、エリオとアレスはまだ気づいてはいなかった。子供たちは欲しい物(ブツ)を得る為に、どんな手段(ズル)を使うのもいとわないほど真剣(マジ)になっているという事をッ!! 

 

 

 悠久の時からしたらミドリムシくらいの時間は流れ、数分後! 

 

 

「ホワ゛ァァァァァァァァァァアアアアアアアッ!!!」

 

 一応声変わりしている15歳には出ないような、音割れしそうな高音を口から吐き出している勇者が1人。まるでその声は、キーボードをたたき壊す少年が発した奇声のよう。そして深緑の勇者の背後には、深き森から誕生した全ての命を分解する者。深淵の中からこちらを覗く、這い寄る漆黒の混沌。生命体G、つまりあのあれ 。

 

 その中でもヌシ的存在、巨大あれを持って少年はエリオを逆に追いかけまわしていた。ビジュアル的に苦手な人が居るだろうという事で、かなり解像度が荒すぎる状態で提供いたします。その他には激おこジャイアントかまきりやらをつまんで、追いかけている男の子も。

 

 一方その頃、主役はというと──。

 

「……」

 

 穴に落ちていた。というのも、落とし穴にまんまと引っかかったのである。子供でも簡単にできる魔法で作られているが、しっかりと見た目では分からないようになっている。魔人であるアレスには、魔法でできたトラップは魔力の残骸で気づいたりするものだが……。いわゆるこれはお約束というもので、とにかく罠にハマりまくっていた。それはもう、ワザとか? と疑いたくなるほどには。

 

 そして結果──。

 

「ふえっ……ひっく……」

 

「エ、エリオ兄ちゃん……お、俺のアメあげる!」

 

「うん……あ゛りがど…………」

 

 年下に謝られガチ泣き状態でエリオは飴を貰い、アレスは土に汚れている状態だった。一人も捕まえられなかったという訳ではないが……結局捕まえていたのはアレスだけで、実質一人で追っている状態だった。自然と鬼ごっこがエリオが原因となって自然と終了していた。だが、実力的には子供たちが色々と勇者たちに勝っていたという事で、泣きながらもアイスを作る旨を子供たちに言っていたが、子供たちは今それどころではなかった。

 

「……気分は良くなったか?」

 

「よぐなっだ……」

 

 子供たちはおどおどした様子でエリオを見つめると、謝り始める。

 

「みんな、エリオお兄ちゃんを泣かせるつもりじゃなかったんだよ」

 

「アイス欲しくて……」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 1人がそう言うと、子供たちは一斉に謝り始める。エリオは「いいんだよ、エリオが虫が苦手なのを克服できないのが悪いから」と涙声でいうが、子供たちの表情は晴れない。

 

「……ぼくたちのこと、キライになった?」

 

 ジーンは不安げな様子でそう聞くと、エリオは笑ってみせる。

 

「……まさか! そんなわけないよ、みんなで今度アイス食べようね! ハイドも呼んで、いっぱい食べよっか!」

 

「「「うん!!」」」

 

 それから明日は何をして遊ぼうかと話し始め、エリオが気が付いたころにはアレスはまた居なくなっていた。明日はかくれんぼをすることが決まり、今日の出来事について話していた。すっかり心がボロボロだった状態から復帰して家に帰るころには、夕日が差してくる頃だった。

 

「「「じゃーねー!」」」

 

「またね!」

 

 

 そして帰る途中の頃。番同士の小鳥が2羽エリオの頭に止まり、イチャイチャしながらまったりとし始めたり、近所の人が飼っている猫たちが寄ってくる。

 

「にゃ~」

 

「にゃぁお」

 

「今日はおいしいご飯を分けてもらったんだ、良かったね」

 

 そう猫に話しかけて撫でると、お猫様はゴロゴロと喉を鳴らし始める。家の敷地に近づくと、自分を出迎える白が多めな黒の混じった毛色の狼犬が走ってくるのが見えた小鳥や猫たちは驚き、逃げるように離れていった。かなり犬にしては体が大きく、狼犬にしてもかなり体が大きい。もしかすると、ただの狼ではなく魔獣の血も少なからず入っているのかもしれないが。二足で立った状態だと、家族よりも大きいわんこなのである。もはや熊並み。

 

「ワンワン! (エリオだー! おかえりー、メシくれ! 腹減った!!)」

 

「はっはっはっ! (帰ってきたー! おかえり、ご主人!)」

 

 ロイダンツ家と村を守る、我が家のイッヌ達だ。どうやら家族を出迎えに(一匹はご飯の催促だが)来たらしい。そして犬は全部で3匹だ。家族全員が動物が好きで、3人は森やら近所に住んでいる動物達によく好かれたりする。だからか、気付けば小さい頃から動物達の言葉が分かるようになっていた。

 

 いつも3匹の世話をしているのはエリオで、いつの間にか傍に消えていたアレスもしっかりと、自分の犬の世話をしに来ていた。丁寧に犬用ファー〇ネーターのようなブラシでブラッシングをしていて、換毛期なのでブラシには多くの毛がもっさりと付いていた。どうやらケルとべべは先にブラッシングしてあるようで、結構な量の毛の山ができている。

 

 ちょっと心の中で、今日はケサランパサランの量がやっぱり多いなと思いながら。

 

「ただいま! ケル、べべ、ロス!」

 

 この犬達は最初に呼んだ順番から、ハイドとエリオ、アレスの犬だ。そして犬は飼い主に似るというが、性格がよく似ている。

 

 そして名前を付けた時に、地獄の番犬みたいになったのは……偶然である。

 

「ケル、お腹減ってるんじゃない? ちょっとまってて」

 

 エリオはドッグフードを出すと、3匹分の犬用食器に入れた。

 

「クゥ~ン……(今日は肉が入ってない日か……ちぇーっ)」

 

 ケルはチラッ、チラッと見てお肉ちょうだいアピールをする。が、エリオは申し訳なさそうな表情をした。

 

「ごめんね、今年は魔獣の出現が凄く多いらしくて、猪とか鹿とかの狩りができないんだって。前は子供たちも森に行けてたのに、最近は村の人達に止められたし……。やっぱり、そろそろなのかな」

 

 エリオはよく食べている2匹を撫でて、そう呟く。

 

「(……本当は剣なんて持ちたくないし、旅にだって出たくない。ただ、平穏に過ごして大人になって……いつかは結婚して、幸せに暮らす。……そんな何気ない、平穏な日々を過ごしたいだけなんだけどな)」

 

 だが人類が消えてしまう運命を救う為の存在として、3人は勇者として産まれた。その役割からは決して逃れられない。例え今までに前例の無かった三つ子の勇者であろうとも、世界(人類)が逃がさない。

 

 そしてまるで暗示とか洗脳をされたかのように、何故か魔王を倒さなくてはと思ってしまう……この湧いてくるような思考があるからだ。

 

 それがきっと女神が勇者という存在を作った時、役目から外れないようにそうしたのだろう。

 

 エリオはそれがどこか、怖く感じていた。

 

 一方アレスの方は、ブラシにくっ付いていた黒と白の毛が混じったケサランパサランを手で取る。そしてこんもりとした毛の塊を地面に落としていた。だがその様子はなんだか、心ここに在らずといった感じである。

 

「ワフッ(ご主人、今日はどうしたんだ? なんだか、変だぞ。手が止まっている)」

 

「……あぁ、すまない。少し考え事にふけっていた」

 

 今日の鬼ごっこといい、昼頃といい。今日の主人公は調子が悪いようだ。

 

「それって、夢の事だよね」

 

「あぁ」

 

 アレスはチラリとエリオに目を向けると、すぐロスに視線を戻す。

 

「アレスは……何の為に、戦うの?」

 

 エリオはいきなりそんな突拍子もないことをアレスに質問として投げかけると、その質問の真意がよく分からないという様子でアレスは「何故そんなことを聞くんだ」と言う。

 

「深い意味は特に無いよ、ただ……なんとなく気になって。いつもアレスは……最近は特に、"何かに焦っているみたい"だから」

 

 そう言われたアレスは少し目を見開き、泳がせていた。

 

「エリオはね、家族が……お母さんとお父さんとハイドとアレスが好きだから、守りたいから世界を救いたいだけなんだけど……たぶん、ハイドも大体エリオと同じだと思う。アレスも、そうだよね」

 

 そう聞かれたアレスは少し考えた後に「……あぁ」と答える。

 

「ただ……正直、よく分からない。確かに僕は家族の為に、そしてこの無条件に湧いてくる謎の使命感の為に、僕は必死になっている。だが……どうにも、それだけではないような気がするんだ。胸のあたりがつっかえて、モヤモヤしているような感覚で、よく分からないが」

 

「……そうなんだ」

 

 アレスはそう言うとブラシを毛に通し、間に挟まった抜け毛の塊をしっかりと取ると、アレスはロスを離してエリオが出していた餌を食べさせていた。家の中のゴミ箱に捨てようにも、この大きな毛玉から万が一毛が落ちてしまっていたら、今日帰ってくる父親が怒り狂うだろう。

 

 元々ハスリオドは3匹を飼うことに猛反対していた。別にお金に困っている訳でも犬が苦手という訳でもない。その理由として犬の毛に過剰に反応してしまうアレルギー体質だからだ。二度目だが、犬が嫌いという訳ではない。むしろ、幼い頃からずっと何の気兼ねもなく触ってみたいと思っていた。そしてハスリオドは可愛らしいモフモフなイッヌが嫌いな人は、きっと親か自分の腕を食われでもしたのかもしれないというもの凄い偏見を持っている。

 

「(ハイドを待ってるのかな? 炎の魔法は得意だし……いつも毛の処理はハイドがしてるし……。でも、まだ戻ってこないよね)」

 

 エリオはそう思っていたが、アレスはしゃがんでいた状態から立つと体に毛が付いていないか確認し、毛の山を持つとスタスタ家のドアへ向かおうとする。

 

「アレス?! ダメだよ、家の中に毛を持って行っちゃ!!」

 

 次男は末っ子の毛玉を持っている右手首を掴む。……が、

 

 毛の山を持っている筈の両手には、1本も毛が付いていなかった。というより、あの巨大なケサランパサランが手品のように消えていた。

 

「あれ……?」

 

「既に処理と確認はしておいたが……まだ付いていたか?」

 

 アレスは自分の体に毛が付いていないかをまた確認する。

 

「……ううん! 気のせいみたい、ごめんね。ちょっと強く言って」

 

「いや、いい。今日は……帰ってくる日だ、普段よりも神経質になったんだろう。それよりも、エリオの方にこそ付いているぞ」

 

 そう言い、アレスはエリオに付いたイッヌの毛を取る。そしてアレスが家のドアノブを握ったところで、ハイドがやってきた。が、手には何も持っていない様子から、エリオとアレスは「渡せなかったんだな……」と察していた。もし貰っていたら、この長男は嬉しそうにプレゼントを抱きしめるようにして、大事そうに持っていただろう。

 

「悪い、遅くなった! ……てか、エリオ目ぇ腫れてんじゃん。アレスとか汚れまくりだし」

 

「あ、あはは……。これには、浅い事情が…………ちょっと、悪夢にあっちゃって」

 

「……気にするな」

 

「いや無理だろ」

 

 エリオは何故か死んだ目をして遠くの方を見ているし、アレスは明らかにショックを受けている様子。気にするなと言われても、何かを思い出して落ち込んでいる二人を見たら、絶対に気にしてしまう。

 

「ワンッ! (ご主人(じーん)っ!)」

 

 すると、ケルが遊んでほしそうにハイドに飛びつく。が、それを持ち前の反応速度で回避した。

 

《ハイドはケルのとびかかりを避けた!》

 

「あっぶね!! あっぶねぇ~ッ!! ビビったぁぁ!!!」

 

 ハイドはとても焦ったようで、少し息が荒くなっていた。

 

「ワンワンっ! (遊ぼ、遊ぼー!)」

 

 ケルはぶんぶんとしっぽを千切れんばかりに揺らし、とても期待しているような目でハイドを見ている。そんな愛らしい様子にハイドは若干……いや、もの凄く心が揺れ動いた。

 

「うっ……ごめんな、明日遊んで沢山撫でてやるからなっ……!!」

 

「クゥーン……(わかった……)」

 

「今日アイツさえ帰って来なければなぁ!! 沢山遊んでやれてたのに!!」

 

 エリオはそれにしても、さっきのケサランパサランは一体どこへ……そう思っていると、アレスは家のドアを開けた。

 

「ただいま、お母さん」

 

「たっだいまー! お母さん!」

 

「……」

 

 なかなか個性あふれる言い方だが、主役はまだ朝の事で悩んでいた為に何も言わない。よほど気になっているようだ。その結果、落とし穴にかかりまくった訳だが。

 

「お帰りなさい、今日の授業はどうだった?」

 

 グラストには珍しい黒い髪をかき上げ、針と布生地から視線を上げる。どうやら長時間も裁縫をしていたらしく、少し疲れたような顔をしていた。

 

「何を縫ってたの? 疲れてるみたいだけど……」

 

 エリオは心配した様子で聞くと、エレイミアは嬉しそうに微笑んだ。

 

「この前、三人とも服が小さいって言っていたから。まずは稽古用の新しい服を用意しているの。アレスは特に背が伸びないから……ちょっと大変だけど、私はとっても嬉しいのよ」

 

 すると、アレスの表情がムッとした顔になる。実は背が低いことを気にしていたり、しなかったり。いや、これは絶対に気にしている。

 

「(この子たちは生まれた時から勇者としての重荷を背負わされて、色々な人たちから幼いころも期待と差別の眼差しを向けられてきた。つらい思いも、沢山。けれど逃げずに、ずっと向き合ってる。……本当に大きくなったわ)」

 

 しみじみとエレイミアはそう思う。

 

 本当は普通の少年として育ってほしかった。いつかは結婚し、孫もできるだろう。だが歴代勇者達は誰一人として、帰ってくることはなかった。歴史上で誰も生還していない勇者として生まれたことを知った時、どれほどの絶望を感じただろう。

 

 世界の危機だという事はわかっている、だが旅立ちの日は無情にも一刻と近づいてきている。その時が来てしまったら、きっと……いや自分は絶対に引き留めてしまう。そうエレイミアは確信していた。

 

 いい加減覚悟を決めなくてはいけない。……ただ、今だけは。この幸せに触れていたい。

 

「ハイド、エリオ。15歳の誕生日、おめでとう。着替えたらご飯の支度をしちゃうわね」

 

(何故アレスは今日が誕生日ではないのかというと、日付が変わったころに出産したので、一日ずれて誕生日が違うからだ)

 

「食べたら誕生日プレゼント渡すから」

 

 そう言うとハイドは喜びを顔にみなぎらせ、目を輝かせた。

 

「じゃあ秒で着替えてくる!!」

 

 そういうと、ドタドタという音を鳴らして階段を駆け上がる。エリオも楽しみのようで、上機嫌な様子で兄の後に続く。一方アレスは普段とは違い、珍しく喜んでいる──。訳ではなく、むしろ表情がどこか暗い。

 

「やっぱり、アレスもあまり喜べないわよね。あの人が帰ってくるから……」

 

 夕飯を食べ終わった後、8時頃に父親が帰ってくる。そう思うとアレスですら、少し恐怖を感じる程。だが、それとは違って別になんだか胸騒ぎがしていた。あの内容を覚えていない夢が、酷く気にかかる。今日は自分にとって、何かが変わる。

 

 そう不確かな、普段はまったく頼りにしていない『勘』に確信する程には。

 

「明日はアレスの誕生日だから、その時に渡すわね」

 

「あぁ、分かった。…………あまり、無理はしないでくれ」

 

 アレスはそう言い、2階に上がっていくアレスの背中を見つめていた。

 

「本当に、あの人にアレスは似てきたわね……ハイドは義兄さんに似て、エリオは私に似てきたし。よーし! もうひと踏ん張りしなくっちゃ」

 

 エレイミアは少し嬉しそうにキッチンに立つと、具沢山の2種類あるシチューを皿に盛り付けていた。

 

 

 

 ———──────────────

 ———────────

 ———──―

 

 

 

 その土地には合わない白い砂が大量にばら撒かれ、それは不自然な形で山になっていた。夕日が赤く平原を照らし、吹く風は風は少し冷たい。大きな群れというよりも、軍隊の100体の死者達が、平原のど真ん中で一人の男を取り囲んでいた。男は大量の血を流しており、周りの地面は夕日よりも赤く、黒ずんだ色に染まっていた。

 

「……#*、&♪ ☆⊃◆×+$¥∀◎§△♂〒□&仝……」

 

((訳)……はぁ、まさかこんな所で戦力の大部分を削がれるとはなぁ……)

 

「ゞ@#、? §△¥$+⊃。□◎♪ $○◆=¥♪ ……$☆、◆∀? ◇★ゞ、@#? §△#♪ ◆=」

 

((訳)まぁ、何とかなるか。勇者達は確か……14、15? の筈だ、全然旅にも出てない)

 

「¥♪ $、☆◆∀#¥。◎★⊃×♂〆ゞ〒☆仝=▽、#¥$+⊃◆¥♪ $☆◆∀!」

 

((訳)つまり、弱っちい。それにまだまだ赤子だから、簡単に殺せるだろうよ! )

 

「¥。♪ $☆◆! ∀◇¥! ★@#、#♪ #□◎、♪ ○◆= ◎★⊃×、♂〆ゞ〒☆仝=▽#§△¥$? ⊃! □◎♪ ○◆=¥♪ $☆◆∀? ◇★#◆、=¥♪ $☆◆∀♪ ¥!?」

 

 お前ら! 為す術なく、まだぷにぷにの体な勇者達を殺して、人間共が絶望する顔が見たくねぇか? きっとゴブリンにも負けないくらい真っ青になって、不細工な顔してるぜ!?)

 

 ケタケタと、沈みかけた太陽の光を浴びながら骨を鳴らし、下品に笑うスケルトン達。

 

「△§&=@*〒&∀!」

 

「◎⊃☆¥★♪ §○$ゞ、仝♂&♪ ☆⊃◆×+$¥∀◎§△♂〒□&▽〆、#×+$¥∀×!」

 

((訳) そりゃ傑作だ!)

 

((訳) 今まで何故か雑魚として扱われてた俺達が、人間共を恐怖の縁に叩き落とせるなんて、楽しみだぜ!)

 

 やけに立派な海賊の服装をした隊長スケルトンの目の前には、血をとめどめなく流しているハスリオドが居る。呼吸を荒くさせ、視界も霞んで今はなんとか剣で自分の体重を支えてはいるが、今にも倒れそうだ。しかし、その場で笑っているのは新入隊員のみであり、隊長スケルトンはただハスリオドを見ていた。

 

「くっ…………かはっ、◆=¥♪ $☆◆∀……#◎⊃、☆¥★♪ §○$ゞ仝……。♂▽〆#*&♪ ……☆⊃◆×、+$¥∀……◎§△♂〒□」

 

((訳)お前達は本当に馬鹿な種族だな……脳ミソが、無いだけはある……。人間の寿命を……魔者と、同じに……するな)

 

 血を吐きながら、息も絶え絶えの状態でそう言うと、部下のスケルトン達は慌てだす。

 

「♂¥?! $#@#! ×♪ ¥、×♀#! ♪ ★@#? §△#♪ ◆=◎⊃!?」

 

((訳) マジ?! おいおい! やべぇ、嘘だろ! 魔王様に俺達怒られるんじゃね!?)

 

 昔、魔王がスケルトンに産まれたばかりの勇者の抹殺へ行かせてからスケルトン達は魔物基準で『数十年くらい経ってもまだ歩けないんだし全然いいだろ! 勇者なんて余裕だぜ!』と、勘違いをしながら余裕ぶっこいていたのである。ようやくやる気を出して『今日こそぶっころがしに行くか! あ、間違えた。ぶっ殺しに行くぞ野郎ども!!』と元気よく言って今に至るのだが……。

 

「#♪ ¥! ◎★⊃×、♂〆ゞ〒☆仝=▽#……◆∀、□+〇♀*&@!」

 

((訳) やべぇぢゃん! どうすんだよ隊長、このままじゃ……俺達、お野菜食えなくなっちまう!!)

 

 このスケルトン達は何故か野菜が好物で、ご覧の通り愉快すぎる性格をしたヤツらなのである。魔王も魔王で思ったより罰が優しすぎるような気もするが、全身がスマホのバイブ機能のように震えて恐怖していた。そして骨だというのに汗を掻き、くだらないような発言を重大な事のように言っている。声も上ずっており、足はガタガタガタガタガタガタ……。と震えていた。

 

「¥&*⊃×♂*ッ!! 」

 

((訳) 餅突けお前らッ!!)

 

 声を張り上げるようにしてスケルトン隊長はそう言うと、隊員たちはビクンとして驚く。初めて聞くような声の出し方に、スケルトン戦闘部隊の部下たち全員が大好きなお野菜のことでガタガタしていたのを、自然と止めていた。

 

 沈みかかっている太陽はスケルトン達を照らし、平原の地平線の向こうへと消えていく。影は随分と大きくなってしまっていた。そんな中、ハスリオドは脂汗をかきながら考える。

 

 何故、こいつらは太陽の下に居られるんだ? 以前までは太陽が沈みきるまで、絶対に会わなかった。そもそも、アンデットは太陽の光に当たっていられる筈が無い。

 

 そう思っていると、その考えはお見通しだと言わんばかりに体長はハスリオドを見てドヤ顔をする。

 

「◆……¥&〇♀⊃〆@#=。*〇♀⊃〆@? ¥♂×◎♂×、◎◇☆∀▽■△=◇△=☆∀▽■ゞ! ∀◇⊃、*#&〇=ゝ☆∀▽■◎×¥!!」

 

((訳) フッ……好敵手(ライバル)よ。今こう思ったな? 俺達が何故、こうしてずっと歩いて来れたかを! そして、今日の俺はめちゃくちゃイケメぇンでイケブォ☆ だと!!)

 

「……ゞ〒、☆仝=……▽#」

 

((訳)…………いや、最後は……無い)

 

 そう言い、ハスリオドは剣をついて体を支えた状態で膝をつく。しかし、この状態でも地に伏せる事は無い。

 

「¥=◎&……◇∀▽♂■@$。♀☆、★〒○§@〆◆◎、@★☆§■♂◇×! ◎@〆§★$! ……◎★◇♂☆?」

 

((訳)最後のは冗談だぞ……そんなはっきり言わなくても。実は俺達、超やべぇ日焼け止めをほっせぇ指で頑張って塗ったから、平気なんだよな! 俺達、日焼け凄くて本当に燃えるし!)

 

 もうハスリオドには普段から大きな声のスケルトン隊長の声も、聞き取りづらくなっている。そして、声も出せなくなってきていた。

 

「……@★☆§■♂、◇★……〒○§@〆#。…………◎⊃◆◎@〆§★、$§@〆×……?」

 

((訳)……ようやく、俺に……勝てたんだぞ。…………少しは喜んだら、どう…………なんだ……?)

 

 そう言うと、スケルトン隊長はいつも通りの陽気さが消え去った様子になり、はっきりとハスリオドに人間の言葉で聞こえるように言った。

 

「……そんなん、笑えもしねえよ」

 

「そう、か……」

 

 そう答えるとゆっくりと死を受け入れるように、目を閉じていた。隊長スケルトンはつんつんと、突っついてみるがハスリオドは既にこと切れている。

 

 よっこらせとハスリオドだったものを横に抱えるが、今はもう人形のようにだらりと四肢を揺らすだけだ。だがそれも少しすれば、このまま死後硬直して固まってしまうだろう。そうならない内にスケルトン隊長はその場の近くにあった木に素早く下ろすと、寄りかからせた。

 

 親になって死んでもやっぱ、70代の子供(魔物の寿命を平均すると人間でいうところの十代)にしか見えねぇなぁ。そう思いながらクシャリと頭に触れてみる。以前であればよく手を払われていたものだが、それが無いことに一体のスケルトンは哀傷していた。

 

「……仝ヾ▲$〆、♂◎§■☆。&¥○◆、∀#◆□*⊃」

 

((訳) ……とりあえず、おいお前。ここで待機)

 

「仝?! *¥§@♂!!」

 

((訳) はぁ?! 嘘だろ隊長!! )

 

「♀¥、ゝ∀○……ゝ■⊃ゝ☆§、∀○*〆$¥@?」

 

((訳) いや、だってさ……。ハスちゃん、可哀想ぢゃん?)

 

 と、一応子持ちの隊長スケルトンが部下たちの方を向き、茶目っ気たっぷりにそう言う。効果音はきゅるるんっ(はぁと)が付きそうである。

 

「*∀#&○*〆∀ッ!! ……♀仝$¥@?」

 

((訳) 隊長マジ優しいッ!! ……でも何で可哀想?)

 

「@ー、§〆ゝ¥♂……☆&#〆$◆、□⊃ヾ○*∀!!」

 

((訳) あー、それはだな……てか早く行くぞ、こいつを除くお前ら!!)

 

 そしてやけに愉快な、怪しいスケルトン軍隊が一刻一刻と近づいてくるのであった。

 

 後にこのあんまり脅威にならなさそうなスケルトン軍隊が、素朴で平和な村を恐怖の縁にたたき落とす事になる……? 

 

 だが、見た目こそ恐ろしいがその様子はまったく、愉快なヤツらだ。段々と可愛く見えてくるだろう。

 

 いや、だからこそ恐ろしいのかもしれない。……たぶん? 

 

 そしてダダダダダッという足音を出して「血祭り〜! 血祭りだ~!」という不穏な言葉を魔物語で、骨を鳴らしながら言っていた。ただスケルトン隊長は、内心でこれからすることと、起こること。そして遥か昔のことで逡巡していた。

 

「仝ヾ*、◎〇¥@◆♀§〆〜ッ!! ♂☆∀□&ゝ*@!!」

 

((訳) 隊長、俺を置いていくなよ〜ッ!! 可愛い子ならまだしも!!)

 

 そしてこの状況の一部始終を、上空から一匹のドラゴンが羽ばたきながら見ていた。

 

 

 

 更に遠く離れた平原にて。

 

 常人ならありえない速度で、息も絶え絶えになりながらも逃げている、珍しい髪色の少女が居た。

 

「はぁッ……、はぁッはぁッ……あー、もう! キミはホントいっつもしつこいなぁ!!」

 

 そう言い、山羊の頭をした奇妙な大鷲の魔物から逃げ続ける。ざっと小さな村を覆えるほどの大きさだろうか。だが大鷲は人を殺すのも容易いというのにも関わらず、攻撃する様子も無く、大きな足と尻尾で少女を捕まえようとしていた。

 

 少女は大鷲の視界から一瞬にして消え、足は空を掴むだけ。そして大鷲が気付いたころには背後に回っており、地面を蹴って大鷲の目線より少し上の距離を軽々と跳んでいた。

 

「まおう、き~~っく!」

 

 そしていわゆる、ラ○ダーキックさながらの飛び足蹴りを、なんとも気の抜けるようなセリフを言って斜め下に落ちるようくらわせた。

 

「ギェァァァ!!」

 

 ベキャッと頭蓋骨が割れる鳴ってはいけないような音がし、山羊の頭には似合わない酷い断末魔が聞こえる。そして少女の身に黒に近い灰色の光のようなものが纏われ、それらはまるで吸収するかのように体に入り込んだ。しかし、少女はゼェゼェと未だに荒い息を整えている。

 

「はぁ、はぁ…………やっぱり派手にキックするんじゃなかった……」

 

 ならなぜしたのか。

 

 本人はそう言っているが、その少女が立っている場所は大鷲の上。大鷲はピクピクと痙攣するように動き、瀕死の状態になっていた。少女の履いているヒールが食い込んだところから火傷のように大鷲は皮膚がただれ、毛が抜けるとその部分は紫色に変色していた。これは魔力を注入させた影響であり、他人の魔力は人間だろうと魔物だろうと、拒絶反応を起こす。そして、魔力色に変色するのである。

 

「……はぁ、はぁ…………はぁ……早く、行かないと…………! もう、太陽が……!!」

 

 少女は瀕死の大鷲に追い打ちをかけるよう、勢いよく踏みつけた。

 

「ギッ」

 

 今ので完全に骨が粉々に砕けただろう、だが大鷲はしぶとく生きている。脅威的な技能(スキル)だ。少女にとってはただ大きくて飛ぶのが速いだけの鳥としか思っていないが、今の状況ではそれがとても厄介である。自分の魔力を外に漏れないよう、更に中に注入するようにしてグリグリする。力が強すぎるあまり、血が出て穴体に穴が開くほどで、更に魔力が広がっていった。疼くような耐えがたい痛みに、うめき声が大鷲の口から漏れ出る。

 

 大鷲は現時点で動いてはいないが、少女には魔力の流れを感じていた。

 

「……やっぱり、魔法が使えないのは不便だなぁ。魔法じゃないと殺せないのは……本当に嫌になるほど厄介だよ。ボクは急いでるのに……急がないといけないのに……!!」

 

 少女は大鷲から降りると、また超人並みの速さで走り始める。大鷲からは既に50m以上は離れ、太陽が与える影響がかなり減っていることに気づく。太陽がある方角を向くと、太陽は8〜9割ほど沈んでいる。

 

「……本当に嫌な天気」

 

 朝と昼はとても晴れ晴れとした、いい天気だったというのに。今ではとても分厚い雲が、平原から見える空の全てを覆おうとしていた。

 

 これから起こる事を暗示しているかのように、徐々に時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 

「うっまー!」

 

「ハイド、もうちょっと落ち着いて食べてよ!」

 

「まだまだ沢山あるから、沢山食べて大きくなるのよ。ほら、アレスはもっと食べなきゃ」

 

「……背のことについてはあまり触れてほしくないんだが」

 

「あ、ごめんなさい。でもちゃんと食べなきゃ」

 

 




ハスちゃんはノルトパッパとは真逆で、とんでもなくネガティブ&自己肯定感無し、そしてとんでもなく不器用な性格です。

ただ共通しているのは愛がくそ重い事と、親に虐待されてた過去があるって所と、妻に猛アタックして結婚してる所。
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