※この作品はR-18です。

チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった   作:水性さん

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勇者、スケルトンに絡まれる

 目を開いた瞬間、アレスは現実世界へと意識を覚醒させていた。すると独特な魔力を感じる、人間には無い魔力の波長と気配だ。なんとなくちょっと変な感じがするような魔力、他種族の人間の肉体にはなんとも言えぬ気持ち悪さを感じ、とある強い魔力に耐性が無い人間に近づくだけでも害のある存在。

 

「(魔物か……!!)」

 

 起き上がると、緑に囲まれた自分の部屋の全体が見えた。部屋に観葉植物は一応あるが、部屋にあるほとんどが花を咲かせるものだ。中には根から花まで全身有毒の、危険すぎるトリカブトもあるが。

 

 素早く私服に着替え、アレスは鞘に入った剣を片手に、小さな投げナイフを隠し持って兄弟達を起こす事にした。まずは寝起きがいい、長男から。部屋を出て右にまっすぐな廊下に出る。音で敵に気づかれないよう、廊下では足音を立てないようにして走るとハイドの部屋のドアを開けた。部屋の中は少し散らかってはいるものの、そこまでぐちゃぐちゃではない。

 

 多少、ゴミ箱の周りにお年頃なものが落ちてはいるが……気にしない事にした。気にしないったら、気にしないのである。気にしちゃったら負けだ、非常事態なので。

 

「ハイド、起きろ」

 

 ただ、アレスは揺すって起こそうにも──。

 

「くかー……」

 

 ハイドはとても気持ちよさそうに寝ていて全く起きる気配が無い。なのでハイドの頬にゆうしゃのいちげき(ただのビンタ)! をくらわせた。

 

「ふがっ」

 

 ハイドは防御力高いし、別にいいよねという適当な考えである。

 

《ハイドは3のダメージをうけた!》

 

「いっ……つぅ……なんだよ! まだ夜じゃんか……おやす──」

 

 ペチンッ

 

《ハイドは2のダメージをうけた!》

 

「今は非常事態だ、まだ分からないなら頭に冷水を被せるが?」

 

「だからなんだよっ!! 非常事態って……起こし方もひでーし」

 

 頬を擦りながらも少しずつ寝ぼけた頭が思考力を取り戻し、寝起きが悪い筈のアレスがこんな時間に何故、起きているのかと思い始める。

 

 そして段々と異様な魔力を感じ始めていた。

 

「なんだこの魔力……外か? …………って、魔物の魔力かコレ!! 何で村に?! でもなんか変だな……めちゃくちゃデケー魔力のくせに、ようわからん」

 

 流石に声のボリュームは下げてはいるが、驚きを隠せないハイド。普段から感情を隠している訳でもないが。

 

「(ハイドも魔力は感じるようだが、肝心な事に僕でも位置が分からない……)きっと阻害系の魔法でも使っているんだろう、すぐに着替えて戦闘の準備をしておけ」

 

「わかってる、でもなんでケルベロス達が反応しないんだよ? あいつら、殺気とか気配も敏感なのに」

 

「知らん。エリオを起こしてくる、それよりたまには部屋を片付けろ。"特に"ゴミ箱、それかもうひとつ用意でもしておけ」

 

 ハイドの部屋から出ると、左隣の部屋に行く。エリオの部屋に入ると、まず目に入ったのはぬいぐるみ。エレイミアお手製の生き物さんぬいぐるみ達だ、爬虫類や魚類……更には魔獣まで。とにかく大量にある。エレイミアの趣味は可愛いぬいぐるみを作る事だが、もう置き場所が無いので今度はエリオの部屋にぬいぐるみ達が占拠をしてきていた。

 

 この家にあるものの半分以上がぬいぐるみさん達なのだ! とにかく可愛いで溢れかえっている。エリオは毛糸以外は特に物欲が無く、そもそも部屋には物が少なかったので置き場所に困っていた母親から譲り受けていたら……いつの間にかこうなっていたのである。エリオの頭の横には色とりどりな小鳥さん達、飛べない鳥のペンさん。そしてわんさんとにゃんさんも。

 

 とてもアニマルどころか、現代ではクリーチャーなものもあるお部屋だ。これでもお年頃な男の子の部屋である! ただクオリティが高いのでお店の商品のようにも見えて、全くそうは思えないが。

 

「エリオ」

 

「……んん」

 

 そう言ってみたものの、エリオが少しアレスの声に反応しただけだった。今度はさっきよりも強く揺らし、もう少し顔を近づけて大きな声で起こしてみる。

 

「エリオ!」

 

「んぅ……」

 

 まだ起きない、仕方なく耳元で更に大きな声を出した。

 

「起きろエリオ!!」

 

「びゃっ?!」

 

 すると変な声を出し、かなり驚いた表情で起きるエリオ。ビクゥッと体を跳ねさせるようにして反応した。だからか眠気は吹き飛び、すっかり目が冴えていた。

 

「な、何……? まだ全然暗い……け、ど…………?! 」

 

 エリオは魔力が高く、魔力を察知する能力も高かったのですぐに気が付いた。魔物の魔力だ、それもかなり強い。今も段々と風船が膨らむように、いつ爆発してもおかしくないような魔力が。

 

「えっ?! これってどういう──、むぐっ」

 

「声が大きい、それよりも着替えて武器を持て」

 

「う、うん」

 

 エリオが着替え始めるのを見ると、今度は足音をたてないようにして母親の寝ているベッドまで階段を降りる。焦りすぎると音を出してしまう原因になるので、なるべく冷静にしているつもりだが、時限爆弾を抱えさせられているかのような気持ちだ。エレイミアの部屋に着くと、エリオの部屋よりもぬいぐるみだらけな部屋に少し驚く。母親とはいえ、女性の部屋なのだからあまり入ろうとは思ったことがなかった上に、エレイミアの部屋に行くにはハスリオドの部屋を抜けなければならない。何故そのような構造になっているのかというと、それはまたまた別の機会にでも。

 

 普段居るわけではないが、何故か入りにくい。だがここで躊躇うのは時間の無駄だと割り切ってドアを開けると、ぬいぐるみに浸食されている部屋がそこにある。前によく見てみたことはあったが、ほとんどが犬と羊のぬいぐるみだ。しかも犬のぬいぐるみはケルとベベとロスに似ている、更に白いケルベロスのぬいぐるみまで。それを見たときは、もしかすると母親が父親の為に作ったもので、本当は犬が好きなのでは? と思った。そしてエリオよりもとにかく私物が少ない。家具はタンスとベッドだけで、後の9割が白と黒の犬と羊。

 

 そのまま、まっすぐ先にある分厚いドアを開けると、更にぬいぐるみだらけの部屋に着く。リビングまでとはいかないが、部屋も広いので視覚情報があまりにも多すぎる。

 

「起きてくれ」

 

 最初から強めに揺らしてみると、エレイミアは寝ぼけた様子でカバッとアレスを抱きしめそのまま寝始める。

 

「?! 離してくれ、非常事態なんだ。お母さん」

 

「……あらっ?」

 

 するとかろうじて聞こえた言葉にもう一度目を開くと、さっきは夫に見えていたが徐々に息子だと気づき始める。

 

「あっ……ごめんなさい、あの人かと……やっぱり似てきたのね♡」

 

「あぁ、そうだな」

 

 アレスは何とも言えない表情で言うと、ハッとして「それよりも」と話を戻そうとした。

 

「今外には──」

 

「カルゾーンっ!!」

 

 言いかけていた途中、エリオは本と剣を持った状態で魔法防御の魔法を発動し、ハイドは小型の盾を構えて部屋に入るとエリオを守るようにして前に立つ。エリオの使った防御魔法には、魔法陣などによく組み込まれる幾何学模様が防壁に描かれている。魔法陣の幾何学模様は主に物に魔法を込める他に、威力や範囲などを制御もできるのだ。

 

 つまり魔法そのものに幾何学模様を加えると威力を上げることも可能だが、魔法によって幾何学模様を付け加えるのはむつかしい。比較的に防壁のような魔法は幾何学模様を入れるのはむつかしくはないが、炎や雷、風などの攻撃魔法に幾何学模様を入れるのは難しいと言われている。そしてエリオが慌ててるにも関わらず、なんとしてでも成功させようとした防御魔法。

 

 何故発動したのかと言うと、エリオがこっそりと窓から見てしまったのである。光でどんな魔物かは見えなかったが、灰色の魔力を発光させながら魔力を溜めている姿を。そして魔物は家全体に魔力を探知できないように結界を張っていた。外に出す為の物ではないので、まったく気づかなかったが。

 

 限界まで頭をフル回転させ、エリオが持っている魔法書のサポートもあってか、作り出した強固な防壁を素早く展開する。母親と弟を守るように体積や質量を持たないドーム型の深緑の防壁が張られる。そしてハイドの持っていた盾は巨大化、2人分は入る大きさになると、衝撃に耐えられるように構えたその瞬間。

 

 灰色のレーザーが轟音と共に、家の外から爆発的に撃ち出された。

 

 レーザーから身を守る防壁を張っているエリオは勇者としても魔法使いとしても、まだ半人前。幾何学模様を瞬時に入れて張る事が難しく、エリオもギリギリのところでなんとか間に合った。そんなエリオの背後にはエリオの魔力色に光る、空中に浮かぶ1冊の本が浮いている。1つの防壁と狭い範囲にしか今は出せないので、ハイドはエリオを大きな盾で守っていた。

 

「うぉぉぉ?! やべぇ、押される!! なんつー威力だよ、これ相当気合い入ってんな! てか変な時間に起きたからお腹減ったんだけど!!」

 

「ばかばかっ! そんな事言ってる暇あったら集中してよ、緊張感なくなるじゃないか!!」

 

「いや、これかなり重要な事なんだよ! エリオ、どんくらい耐えられる?!」

 

「3分くらい……!!」

 

「よし、フィリン!!」

 

 悪態をつきながらもハイドは身体能力強化魔法を自分と弟に使うと、エリオは盾を押す。

 

「……はぁ、まさか貰って日をまたいだ数時間後の真夜中に、実戦で使う事になるなんてな」

 

 エレイミアがハイドとエリオに送った誕生日プレゼントは、最も2人にとって高いステータスの数値に関係するものを渡していた。それが盾と魔法書、そして2人に合わせた剣だ。盾は大きさを変えることができる。見た目もハイドの髪色に合わせ、魔人族を象徴する黒を基調にして魔力色の赤を差し色にしている。

 

 魔導書は魔法を自動的に即時魔法にする事ができ、幾何学模様を魔法に入れる際にやりやすくするサポート系のものだ。常に手に持っていなくとも、所有者の傍に自動で浮いたりしてついてくる。今は浮かせている状態なので、邪魔にはなっていない。黒い表紙に、翡翠の幾何学模様が施されている。ただこの魔導書、自我というものがある珍しいものだ。……ちょっと性格に癖があるけども、名前はユニ。

 

 道具としての正式名称は、魔人用学習型攻撃補助兼用自立思考魔導書式魔道具(アーティファクト)という、文字にすると漢字の羅列とかがズラッと並ぶなっがい本だ。そして何故か本のくせにグラサンをかけ、一昔前の不良のような紙でできたリーゼントをしている。お見事なツッパリ具合ですね。

 

 そして一方では戦いなどに縁遠いエレイミアはこの衝撃的な光景に、ただ震えて恐怖のあまり叫ぶ事もできずアレスを抱いている事しかできない。歴戦の老兵だろうと、まず体験する事が無いような体験なのだから。アレスはパニック状態に陥ったエレイミアを落ち着かせようと背中をさすり、母親はそんな息子の様子に少しずつ冷静さを取り戻す。そして枕の下に一応隠しておいたもの(この年でやらないとは思っているものの、プレゼントが待ちきれずに開けちゃうのを防ぐため)の存在を思い出す。もう大丈夫、と少し強がってみるもののアレスはそんな様子を見かねて心配そうに母親を見つめて離し、エレイミアはそれを取り出した。

 

「……ひとまず! こんな状況だし早いけれど、こんな状況だからこそ……。今渡さなくちゃきっと後悔すると思うの。15歳のお誕生日おめでとう、アレス」

 

 エレイミアの持っていたものは、立体的なダイヤ型の物。乳白色で、肌触りがよく若干透けていて透明感がある。だがよく見れば幾何学模様が入っていた。魔法も使えない魔人族だが、勇者達の母だ。エレイミアは気丈にアレスの自分とよく似た眼を見つめると、口を開いた。

 

「これはね、魔法剣なのよ。使い方は分かるよね?」

 

「あぁ、だがこんな形は初めて見る」

 

 そう言い握るとアレスの魔力に反応し、自分の魔力色の淡い光が帯びる。すると変形し、カシャリと音をたてると、アレスの魔力色に若干変色。そして、柄のような形になり握りやすくなった。

 

「この剣はちょっと変わった技能(スキル)が入っている、特殊なアーティファクトらしいの。魔法を込めると一番得意な攻撃魔法が刃に纏って、自動的に属性付きの攻撃になる。どれほど熟練してその魔法が使えるかにもよって、切れ味も変わったりするわ。でもこれはアレスにしか使えないから、防犯予防もバッチリ。持つと魔力に反応して剣の柄になるの。今は刃が無いけれど、見えないだけで魔力を込めると実体化するわ」

 

 轟音が響く中、とても早口で大きな声で言っている母親の説明を受けると、アレスは魔力をできるだけ抑える。そしてただの細い棒状にしてポケットにしまった。色は魔力色によって色付き、少しだけ戻らなかったが。

 

《アレスはルナティック・マギア・グラディウスを装備から外した》

 

「あら? どうしてしまったの? 切れ味もその剣よりもずっといいのに」

 

「それは……」

 

 だが今説明する時間は無い、そう心の中で思うと深緑の防壁がピシッという音をたてた。できれば聞きたくなかった音と共に、徐々にヒビが入る。魔法の威力や強さは精神力とイメージに影響する為、この余裕の無い状況ではエリオも冷静さを失っていく。エレイミアは言わずもがな、酷く精神状態が乱れてパニック状態になっている。

 

 アレスは神の加護から与えられた攻撃力と素早さとは違い、魔力や魔法についての知識は努力で得たもの。とはいえエリオとは違って使える魔法はどうしても少ない、魔力の多さと熟練度があってこそ魔法が生きるのだから。何度も使う事によって熟練度は上がり、最終的には無詠唱でその魔法をあまり意識せずとも発動する事ができる。

 

 魔力を込めれば込めるほど、威力が上がる。逆に熟練度が低いと魔力を無駄に消費し、長い詠唱とイメージを使う事になる。それとは別に個人個人で違う魔法の適性さえあれば、イメージ力が元から高い程いくらか詠唱は省く事はできる。

 

 そしてアレスの熟練度が高い魔法はHP回復の魔法と状態異常回復、それと唯一熟練度が高く運良く適性があった攻撃魔法のみ。

 

『いい? 魔法は努力も大事だけれど、才能にも寄るわ。まぁ、私みたいに魔力も才能も経験も豊富な人間は今のところ居ないけれど。でも、私以上の可能性があるのはあんた達の中でもエリオだけね。後は人外だとしたら魔王とか……長生きな悪魔くらいかしら、魔物の一番恐れられてる要素が魔法だもの。魔力量も多いし、種族によっては魔力とか魔法を自由自在に使える。

 

 それに攻撃魔法を上手く使えない、使えない。又は使わない魔物が武器を持っていたとしても、身体能力を魔力で大幅に上げることができるし。だから油断したら死ぬわよ』

 

 一週間前の授業でリリアーネが言っていた事を思い出す。確か、悪夢? を見始めたのもあの日からかもしれない。そう思っている中、防壁は徐々に細かなひび割れが ピシッ パキッ という明らかに嫌な音を出して全体を覆おうとしていた。レーザー砲は魔力量によっても放出時間や威力、焼き付くし削り取る範囲が変わる。レーザー砲消費魔力が多いので、随分と長い間広範囲で撃っていたレーザーは防壁が破れると同時に止まった。

 

『♀〒〆#☆$*@&¥☆』

 

((訳)これでジ・エンドってやつだぜ☆))

 

 魔物語で喋る声とカタカタと鳴る音が聞こえたかと思うと、家が丸ごと吹き飛ぶ大爆発が起きる。吹き飛ばした張本人は満足気にし、すぐに怒った様子で後ろをくるっと振り向いた。記号をコピペしたり書くのめんどくさいので、以降は魔物語の訳だけを書くことにする。

 

『訳:……おい、イヌっころ! そろそろいい加減に俺の下半身を返せ!』

 

 スケルトンはそう言うが、家から離れた場所で骨をガジガジしている3匹はしっぽをブンブンと振っているだけで止めようとしない。

 

『訳:このバカイヌ、返せって言ってるだろ!』

 

「ワンワンッ! (この食感、たまらん!)」

 

「わんっ! (ほ~ね~!)」

 

「ワフっ……(大事な栄養源……)」

 

『訳:おいコラ、聞いてんのか!』

 

 でもケルベロス達は先程の魔力砲で耳がキーンってなってたから全然聞こえていないのであった。

 

『訳:……そ、それにしても流石は俺! 魔者にとっちゃ、まだ赤ん坊みたいな年齢の勇者だし、余裕だけどな! まぁ本当はこんな事したくないんだけどなー……これで生きてたらもうバケモ──』

 

 犯人はそう言い、思いっきりフラグを建設する。爆発で砂埃と煙が空中に散っていたのが晴れると、深緑の氷壁が盾となって爆発の威力や熱を奪っていた。エリオは氷を元の魔力として還元すると、お互いに姿が見えるようになる。ハイドは盾を使いやすい通常通りの大きさにし、アレスはエレイミアをなだめていた。

 

「訳:誰がバケモノだよ、お前の方がよっぽど見た目がバケモノじゃんか!! しかも、スケルトンのくせに足も剣もないし、魔法で奇襲しやがって!! 」

 

 ハイドはそう言うと、下半身が無いローブを着ているスケルトンが「キャーッバケモノーッ!!」と、女の子みたいに何故か驚いていた。だがそれ以上に驚いていたのは

 

「イヤァァァァァァアアァァアアアッッ!!」

 

『訳:あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁぁッ!!!)』

 

 更に女の子のように大きなボリュームでスピーカーのように悲鳴をあげていたエリオだった。スケルトンはその声にビビり、つられて叫ぶ。そしてエリオはハイドの後ろで「……何あれ、骨が浮いてたんだけど。エリオは何も見てない、空飛ぶ骸骨なんて見てない。もしかしたら起きた時から変な悪夢でも見てるんだよ、そうだよきっと。でも気のせいかな、視線を感じるような気がするなぁ。なんでだろう? 夢のはずなのに視線を感じるなぁ……早く覚めないかなぁ」と生気が抜けたような様子でブツブツと呟いて精神崩壊しかけていた。

 

「エリオしっかりしろ! お前勇者だろ、アンデッド嫌いまだ直ってなかったのかよ! 」

 

「しっかりしろって……何が? ハイド、ぼくは大丈夫だよ。全ッ然、骨なんて見てないんだから」

 

「お、おう……(一人称変わってるし、これ大丈夫じゃないな)」

 

 ハイライトが入っていない目を見てそう思っていると、足はないのにも関わらず抜き足差し足忍び足でその場を離れようとするスケルトン。家を全壊した事とぬいぐるみ達を吹き飛ばしたのは許せないが、何故か気が抜けてくるようなスケルトンにやりにくさを感じてくる。

 

「あっ!! 訳:お前! 勝手に他人の家を吹き飛ばしておきながら、逃げようとすんな!!」

 

 ビクッとしたかと思えば、スケルトンは「あ、やっぱダメ?」みたいな様子で3人を見た(エリオは隠れていて顔が見えない)が、アレスとハイドの顔をまじまじと見て何かに気がつく。

 

『訳:そういえば勇者共…………誰かに似てると思えば、隊長の好敵手に似てね? おー! やっぱそうじゃねーか! でも赤毛のお前は全然性格とか目付きが似てねーな』

 

「訳:はぁ?? いきなり何だよ、誰に──。(いや、待てよ。随分昔にあいつが骨相手に魔物語がよく使えるつって覚えさせられたけど……まさか)」

 

 そう考えているのはハイドだけではなく、アレスも既に察していた。だが、このお喋りなスケルトンはアレスの地雷を踏み抜く。

 

『訳:でもオレンジのチビは顔つきとか髪型も一番似てるな、髪色と目の色は全然似てねぇけど──』

 

 そう言いかけたスケルトンの頭にプスリと投げナイフが刺さっていた。魔力を込めているので、威力は倍増。頭に刺さったので100ポイント! 

 

《スケルトンは150のダメージを受けた!》

 

 アレスのこめかみにデフォルメされた筋が出ており、明らかに怒っている顔をしていた。

 

『訳:いってぇぇぇぇ!! 俺の頭と脳ミソに穴がぁぁ!!! 暴力は絶対ダメっ! 暴力反対だぞ!!』

 

「訳:いや、お前が言うなよ!!」

 

 ハイドが最もなツッコミを入れると、スケルトンは両手の骨を合わせてお願いのポーズをする。

 

『訳:俺だってこんな事したくねぇよ、でもお野菜の為だ! 頼む死んでくれ、な? 俺の今後の為には必要な事なんだよ』

 

「訳:説得の仕方がクソ野郎じゃんか!! 」

 

「訳:あぁ、まるで金をくれと都合のいい女性にせがむ男のようだな」

 

『訳:なんだとっ!! そういう所も似てるな、このチビ!』

 

 スケルトンの額に生えてる金属がもう一本プスリと増えた。

 

 合計200ポイント! ちなみに肋骨は5、手は10、腕は20、背骨は50、額あたりは100、目は200。 みんなもレッツトライ! 

 

(※真似しないでください)

 

『訳:ぎゃぁぁああッ!! 何すんのッ!!』

 

「訳:どうせお前モテないだろ! しかもそのローブ古くてだせぇし、超砂とか土で汚ぇし!!」

 

『訳:何で俺がモテない事わかんの?! それとこれは俺の趣味だ、ケチつけんじゃねぇ!! 俺はレトロなのが好きなんだよ!」

 

「訳:ならせめてちゃんと洗え!!」

 

 スケルトンは投げナイフを両手で一本ずつ持って一気に抜くと、骨のくせに何故か赤い液体がピューッと吹き出す。

 

 もしかすると血や血糊ではなく、トマト味のケチャップなのかもしれない。それか赤く着色したバナーナかお野菜のケチャップ……なのかもしれない。

 

 そして穴の空いた頭蓋骨を魔法で修復する。だがそれで浮いていられる程の魔力が尽き、地面にバラッという音を出して落ちる。

 

『「あっ……」』

 

 少しの間沈黙が起こり「家とぬいぐるみ達の仇だ、そんでお母さんに謝れぇ!!」とハイドは『訳:誰か助けてぇぇッ!!』と情けなく叫ぶスケルトンに近づいて剣を振り下ろすが、剣が何者かによって防がれる。マジックスケルトンを守ったのは、海賊の船長のような格好と帽子を被ったスケルトン。

 

 ハイドに一撃くらいはくらわせようと、剣を振るうが、無駄に宝石が沢山使われているゴージャスな剣が迫り、ハイドは持ち前の反応速度で器用に盾で防ぐか避ける。ただ本気で攻め込んで来ない様子と戦い方から、まるで父親……ハスリオドと鍛錬している時を思い出させる部分があった。それにハイドは思わず顔をしかめていた。

 

 エリオは骨が増えたことにより気絶し、口から天パをしている魂が抜けて体の周りをふよふよと漂っていた。母親も緊張が最高潮になったことによって、同じく魂が抜けている。

 

 アレスは何とかエレイミアや村の人々達が逃げれるように頭の中で考える。だが、ダダダダダッという何かがこちらに走ってくる音が大きくなっていく事に、冷や汗をたらし始めていた。腰を抜かしている母親と一緒に気絶しているもさ天パ緑頭の兄を、流石に2人も抱えて行くのは無理だ。魔法はある程度なら使えなくもないが、スケルトンは攻撃魔法で基本となる炎、氷、風、雷、光、闇の中で光しか弱点がなく、他はあまり効果がない。耐性は闇と炎の2つ。

 

 だがこのスケルトンは光耐性の宝石そのものを指輪や台座として加工し、更に強い魔法付与ができる宝石を使った耐性の効果を底上げしていた。よく見てみると剣にも耐性の宝石を使っている。それらによって海賊の容姿を何故か際立たせているので、無駄に似合っている。ちょっとかっこいいかもしれない、海賊にしては派手だけど。

 

 しかも各属性の指輪も同じ作りで身……ではなく、骨に着けていた。つまり弱点がほぼ無いようなものだ、とても厄介すぎる。

 

 一方でハイドも気づいているだろう、こんなアクセサリーや剣を持っているスケルトンはまず人に狙われる。金の為なら命すら奪うトレジャーハンターも居るこの世の中、魔物ならなおさら躊躇う必要も無い。つまるところ、相当強いのだろう。その強さには戦士として、敬意を払えると感じるほどに。

 

 アレスは囲まれないよう今のうちに、RPGの序盤で初期で持っている木の剣の次くらいに強い、鉄の剣(ゲームだと割とすぐに要らなくなる)を抜く。そしてこちらに向かってくるスケルトンを一掃する為に走って近づくことにした。見た感じで明らかにハイドが相手にしているスケルトンの方がリーダー格に見えるので、その仲間もイコールで強いと思われるスケルトン大勢を相手にするのは骨が折れそうだが。

 

 一方ハイドは攻撃パターンを読む為に、しばらく避けるか防いでばかりいた。攻撃するスキがなく、自分から仕掛けたら反撃をくらいそうだ。

 

「(光属性も他の属性に比べたら効かなくもないだろーな、まぁ使えねーけど!)」

 

 実はこの三兄弟は歴代勇者の生まれ変わりでありながらも光魔法など、光属性を一切使う事ができない。全ての魔物に共通して光属性は弱点なので、本来勇者は光属性を中心に積極的に熟練度を上げる。

 

 光属性の熟練度を上げるために神への祈りとして聖歌を歌わなければならない。元々光属性は神の力だが、神は人々の世界に直接関与して魔物達を倒す事も、そして生まれ変わる勇者をどの母体に宿すかどうか選ぶ事ができない。そういう神々の決まりだからだ、決まりを作らなければ混沌と化してしまう。

 

 なんせ人間という生き物を作り出せるのだから、創造主である神も基本的に自分本位だ。なので破れば秩序を乱した神として、特殊な矢に射抜かれ石にされる。ただ例外として魔物になったり、心を悪に染めた人間からは力を直接取り戻す事ができる。

 

 なので光の力を与えるに相応しい魂や肉体、精神を持つ人だけに、思いの量だけそれに応えて神が自ら力を与える。ただ3人は魔人族、大昔にできた魔物と人間のハーフからできた種族だ。ただそういう血筋だけでも罪な存在だと言われている為、勇者といえどもある意味邪神の一部でもある。だから光の魔法は一生覚えられないという事だ。

 

 するとスケルトンがずっと防戦ばかりなハイドにしびれを切らしたのか、デフォルメの独特なピキッという効果音と共にぷんすか怒り出す。

 

『訳:おいコラ勇者!!』

 

「うわっ?! な、なんだ急に……」

 

『訳:剣での戦いは真剣勝負なんだよ、剣だけにな?! なのに、お前ときたらッ! 避けてばかりだ!! 男なら真正面で来いよ、いつも魔王と対峙するときに歴代勇者が魔王城に乗り込む時みたいに!! 勇者だろ、お前!! 勇者だろ、お前!!!!』

 

 地団太を踏み、ぷんぷんと骨船長は怒る。

 

「訳:いや、無理だろ!! こちとらまだ半人前なんだぞ!! 歴代勇者達に比べたらな!!!」

 

 そう言うと、スケルトン船長は「んん??」と頭蓋骨を傾げる。アレスの方もスケルトンの軍隊達全員が右に傾けた。そしてハッと何かに気が付いた様子で『あ──ッ!!』と叫ぶ。バタバタと腕を動かし、足踏みするスケルトン達。

 

『訳:なんか似てると思ってたら  ハスちゃん  に似てんぢゃーん!!』

『訳:なんか似てると思ってたら  隊長の好敵手 に似てんぢゃーん!!』

 

「訳:は、ハスちゃん……??」

 

 急にあの父親のことをそう呼んだことに対して、アレスはともかくハイドは困惑を覚える。

 

『訳:やっぱそうぢゃん!! ハスちゃんの子供か、お前!』

 

「訳:そ、そうだけど……なんか文句でもあんの?」

 

 ハイドは嫌そうな顔をしていると、スケルトンは目をキラキラと輝かせているような感じでハイドを見ていた。

 

『訳:おぉ…………!! ハスちゃんが言ってた通り、本当にチビだな! やっぱし、ガキはこんくらいのが可愛いもんだよなぁ〜。俺んとこのバカ息子は勝手に出て行って行方不明だしよぉ。一度ハスちゃんの子供を見てみたかったんだよォ~!』

 

「訳:俺よりも似てるのがそこに居るけどな……?」

 

 やけに親しげに話しているので、あの父親の友人関係……なのか?? と疑い始めていると、船長スケルトンはアレスを見るやいなや、とある蛇が主役のゲームに出てくるモブ敵のように、頭上に「!」というマークを出していた。

 

『訳:マジでそっくりかよぉぉお!! そんでめっちゃ低い!』

 

 またナイフが飛ぶが、スケルトンは簡単に弾く。アレスはぶっすーとした顔で怒っているが、スケルトン船長には子猫の威嚇のように感じていた。つまりは微笑ましい、可愛いといった感情である。

 

『訳:はぁ、そんな所も似てるんだな……ごめんなぁ。俺、ハスちゃん……。いや、お前達のパパを…………魔王様から貰った命令は一応絶対なんだよ、だから邪魔をする人間は消せって言われてたから……。

 

 その、排除しちゃって……』

 

「「……は??」」

 

 思わず素で2人の声が重なる、もしこのいきなりとんでもビックリ発言を母親が聞いていたら…………そう考えたらゾッとした。ハスリオドは傭兵なので、いつかは仕事で死ぬかもしれないというのはわかってはいたが……。

 

 あれは人間をやめているとハッキリ言えるくらいには、そう簡単に死なない強さを持つ父親だ。今目の前にいるのは、あの父親を倒せるほどのスケルトンだという事。ここで勝機は無いという事が、アレスの心の中で確定された。2人はあまり父親が死んだという実感は湧かなかったが、悲しむような感情はあまり湧いてこなかった。

 

 というのも、あぁそうなんだ。という無関心に近いものであり、全く喪失感を感じなかった。大きくなるにつれて家には帰ってこくなり、ハッキリとした父親からの愛情をというのを今まで感じていなかったのが理由に入っている。というのも、実は3人ともハスリオドと親子の会話らしい事をしたことがほとんどなく、関係が乾ききっていたからだ。

 

『訳:俺だって好きでそうした訳じゃ無い。ただ俺は純粋にハスちゃんを超えたかっただけだし、殺す気なんてサラサラなかった。もう、遅いけど……。こんな事言える立場じゃないのはわかってる、そこの気絶してる嫁さん……? には死んだ事は秘密にしといてくんない?』

 

 この発言には流石のハイドも言葉が出ない。なんとも言えない、モヤモヤとした感情が頭の中に渦巻く。母親が知ったら、どう思うだろう。……そればかりが頭に浮かんでいた。あんな父親だが、母親との仲はとても良い。家族ではない他人の目から見ても、心から愛しているのが分かるほどだ。

 

 一方でスケルトン船長は深い傷を負って囲まれているのにも関わらず、苦しそうな表情で同胞達を切っていた好敵手の姿を思い出していた。そして今ここで父親が死んだということを知ったのにもかかわらず、大して悲しむような素振りを見せない2人の勇者をただ見つめていた。

 

 心の中で『だから言ったのによ』と呟き剣を鞘に収める。スケルトン隊長にはもう戦闘の意思が、とっくに消え失せていた。そして、だがこの3人ならもしかしたら。好敵手の息子であり、本来一人しか生まれない筈の勇者たちであれば……という淡い期待を抱きはじめる。

 

『訳:……じゃ、帰るか。まぁ、大人しく帰ったら裏切ったって魔王様にぶっ殺されそうだから~……みんな仲良く亡命しようぜ、お前ら!』

 

『訳:マジかよ隊長!! お野菜は?!』

 

『訳:俺たちどうなるんだよ!?』

 

『訳:よし、こうなりゃどっかの魔物の村で自給自足するぞ!!』

 

『『訳:何それ面白そう!!』』

 

 バタバタと体を動かすスケルトン達は勝手に家を壊した挙句、くっちゃべっただけをして帰ろうとしている。死なずに済むよりかはマシだが、一体何をしに来たんだこのスケルトンは。すると、どこからか村人Aが駆けつけてきた。

 

「ほ、骨どぅぁぁああああああッ!!!」

 

 何故ここに? と考えた人は察しが悪い方だと思うが、一応説明するとあのグレービーム(魔力砲)をぶっぱなしたから、音でビックリしてみんな起きた。ということだ! 反応は少し過剰のような気もするが、男性はビクビクして震えている。そして続々とBCDEFG……と、集まり始め、村の人々達は勇者達に「早く倒してくれ!」という声と視線を向ける。

 

『訳:あっ、やっべ! 起きちまったか! よし、じゃあまた会う日まで!! さいならー!』

 

「訳:ちょっ、おい待て! 俺らの家どうすんだよ!!」

 

 そう止めようとするが、走るのが速いスケルトン達は走り去っていく。そして意図しない砂埃攻撃。

 

《ハイドとアレスは咳き込んだ!》

 

『訳:俺を忘れるなよ隊長!! 魔力ねぇから黙ってたんだよ、戻ってこぉぉい!! イヌが、イヌがあぁッ!!』

 

 今の今まで忘れかけていたが、マジックスケルトンが地面に落ちているのを2人は思い出す。そしてジリジリと目をぎらりーんと光らせたケルベロス達が近づいていたが、砂埃と共に戻ってきたスケルトン達。

 

『訳:やばいやつが来てんぞ!! とりあえず勇者として戦う心の準備はしておけよ! すまん!! あとジックちゃんの事、俺呼ばれるまで完全に忘れてた!』

 

 そう言い、スケルトン船長はマジックスケルトンを抱えてまた走っていく。

 

《ハイドはまた咳き込んだ!》

 

 3匹はそれぞれ自分の飼い主の元に行くと、それぞれ違う様子をしていた。通常のRPGゲームであれば装備やら回復やらしているだろう。だが現実はリアルタイムに進んでいく。

 

 それよりもやばいやつとは? あのスケルトン達ですらやばいと言ったのだから、相当だろう。そう考えて腰を抜かしている村人Aをアレスは落ち着かせようとし、ハイドは母親と弟を起こそうとしていた。

 

「おーい、起きろー! スケルトン居なくなったから、起きろー!」

 

 すると次男魂は「え、本当に? もう居ないよね? 嘘ついてないよね??」とプルプル涙目状態でキョロキョロし、母親魂は「大丈夫みたいよ、一緒に起きましょ!」とゆっくり各々自分の体に入っていった。たぶん。

 

「おーきーろー!」

 

 すると2人の目が同時に開く。

 

「……なんだか、もの凄い夢を見たような気がする」

 

「……おはよう、みんな。あら、まだ暗いのね……」

 

 ひとまず思ったよりも早く起きたので安心だ、そう思っていると耳を塞ぎたくなるような咆哮が聞こえてくる。聞くに堪えない鳴き声で、音だけで地響きすらしそうだ。そして台風かのような風が村に吹き荒れる。鳴き声の正体は空からやってくると、分厚い雲を突き抜けてきた。

 

 一瞬だけ雲は穴が開くと美しい夜空、赤い満月が映えるが雲がまた空を覆う。ハイドの目から空からの襲撃者は光も何もない暗い中、頭だけが山羊で体は鷲だったのが見える。そのくせ、どんな生き物のものかは形容しがたい尻尾を持っている。それも村を覆い尽くすほどの巨体、だが何故か頭が変形し一部ただれていた。そして聴き障りな声でひと鳴きすると、魔法でできた灰色の風と炎の槍を落とし始める。

 

「おいおい、嘘だろ!?」

 

 見ればわかる、これ絶対に勝てないやつだ。この場の全員がそう思う、いわゆるゲームでは負けイベントだが、こんな規格外の大きさの鳥……山羊?? の変なよく分からない生き物から、生き残れる自信が全くと言っていいほど無い、負けイベントは当然お断りだ。殺意マシマシなのは要らない。だが、こういうのは何かしらの犠牲を払わなくては、突破できない。

 

「……エリオ、村の人々を避難場所まで誘導しろ。ハイドは村の人々の護衛、それから誘導だ、僕はアレを何とかして引き付ける」

 

「は?!」

 

 エレイミアは目を見開き、止めようと口を開いたが口を紡ぐ。

 

「お前、何言ってんだよ! あいつからはバカでけぇ魔力も感じるし、見るからに炎と風の属性の魔獣だぞ!! 熱で体力だって消耗する上に、風で炎もあっという間に燃え移る!! 第一あんなデカいのどうやって相手すんだよ!! エリオの出す氷なら、なんとかなるかもしんねーけど……ぜってぇ無理だし」

 

 転移魔法は魔力の波長が合わない分、移動の距離と人数によって発動するまでの時間が長く、魔力の消費が多い。時間短縮をすればするほど、消費も多くなる。より集中し、大きな魔法陣の幾何学模様を頭の中で作る必要があるのだ。その間エリオは何も出来なくなってしまい、無防備だ。

 

 父親が居れば大鷲を1人でなんとかしていただろうが、ここには居ないどころの話ではない。スケルトンの言う事を信じるのなら、もうこの世には居ない存在だ。ハイドは自分の無力さに手を握りしめる。

 

「死ぬ気は毛頭ない。僕が本領を出して戦えるよう、”できる限り”人々をここから避難させてくれ」

 

「……絶対に倒せるんだよね?」

 

「あぁ。ケル、ベべ、ロス、これから人々を避難させる。ハイドとエリオを手伝え」

 

「ワンッ!」

「わん!」

「……ワフっ」

 

 アレスは大鷲の元に走り、ハイドとエリオは人々を救出しに行った。できる限りの人々を救出、という現実味を帯びた言葉が2人にのしかかる。たったの2人と3匹だけでは、村と言えど100人以上の人々を1人も死なせずに避難先の村へ行くのは無理だ。

 

 せめて大鷲が魔力を持たない魔獣であれば、強力な固定魔法か拘束魔法で動けなくした後に倒せば良いものの。魔法を扱える魔獣となれば話は別だ、一刻も早くここから逃げる必要がある。

 

 なら、何故倒す必要があるのか? それは勇者という役割だからだ、勇者は人々を害する魔物や魔獣は必ず排除しなければならない。例え自分が死ぬ事になろうとも、人々を守る盾となり剣となる。

 

 そう神から使命を受けてしまっている、その運命から抗う事は出来ない。そして人々が、そう望んでいるのだから。

 

 自分に課せられた使命を全うしなければ。

 

 昔からそう思い続けていたアレスは、徐々に心を重い鎖で縛り付けていった。父親に愛されなくとも、どんなに辛く死にかけるような鍛錬をさせられようと。これは全て、世界を平和にする為なのだから。得た知識や力も、全て人々の為だ。そして今まで魔王を倒し、生きて帰ってきた勇者は居ない。

 

 歴代勇者は誰一人として、例外無く死んでいる。先代勇者……つまり、自分の前世も魔王によって殺された。誰がどう見ても死にに行くようなものだ、だが……それが使命だ。恐怖という自分の心に蓋をしてでも、成し遂げなくてはいけない。

 

 全ては大切な家族の為に。

 

 そしてアレスは地面を蹴り、大鷲の目前に迫ると剣で切りつけていた。

 

~・~・~・~

 

「み、皆さん、落ち着いてください! い、今、弟が勇者として戦って時間を稼いでくれています!! 転移魔法で避難するので、ついてきてください!!」

 

 エリオは普段なら人前で大きな声を出すような事はしないが、非常事態だからか。色々な意味で緊張して心臓が穴という穴から出てきそうだが、そんな事を気にしている場合では無い。視線を大鷲に向けてみると、村を背後にし、アレスに向けて炎と風の槍を雨あられと落としていた。

 

 村から外れた場所で気を引かせているが、いつ気づかれるか分からない。もう既に家を壊され、死亡している人々も居る。マジックスケルトンが放った魔力砲の音で起きていた近所の人々はもう既に、魔物に村が襲撃された際の避難所へ逃げている。これは村にある秘密の洞窟だ。神殿の近くにある場所で、緊急時に魔法で大きな岩を退かして通れるようにしている。エリオは避難誘導をする前に先にそこへ来ると、退かしておいていた。

 

 だがアレスがたどり着くまでに魔物が暴れ、破壊された家の中に居た人は助からなかった。人の魔力が命の炎のように消えたのを感じるので、それがわかってしまう。それが今現実なのだと突きつけられているような気がしていた。灰色の炎に燃え、熱で自然発火した赤い炎が赤く揺らめく。雲に覆われて月明かりさえも差し込まない暗い夜が、赤い炎で照らされていた。

 

 人々は恐怖と悲しみと憎しみで震え、ただ2人の避難誘導に促されるまま向かっていた。場所は森にある地下洞窟、つまり炎が森にまで来てしまったら危険なのである。今はアレスが注意を引き付けてはいるが。エリオはただ、無事を祈る事ぐらいしかできない。そして避難誘導をしていると、家の中から助けを呼ぶ人の声がエリオの耳に入ってきた。

 

 

「だッ、誰か!! 助けてくれぇ!!」

 

 

 エリオはこの声に聞き覚えがあった。それはついこの前結婚したばかりの、魔法が全く使えない村全体で結婚式を挙げて祝われていた男の声である。母親程ではないが、魔力がほとんどないので気づかなかった。勇者としてエリオはすぐに助けようと肌を焼くような熱に耐え、炎に包まれた家の傍に行く。

 

 

「大丈夫ですか?!」

 

「あぁ、エリオか!! 良かった、これで助かった……! ドアが馬鹿になって開かなくなっちまったんだ!! だから早く──」

 

 

 その時、脆くなっていた家が急に崩れてしまい、エリオの目の前で家はただの瓦礫と化した。もう既に、男の魔力は一切そこに存在せず、空気中に露散していた。

 

 

 

 

 一方でハイドは避難誘導をしているが、本心では真っ先に幼なじみの家に向かいたいのを我慢していた。家は幼なじみと言えど近い訳ではなく、むしろ少し家の距離が遠い。

 

「早く、避難所に避難してくれ!!」

 

 いつかこうなるかもしれないという事態に備え、村では避難訓練を定期的に行っていた。できれば実際に起こらないで欲しいと、誰もが訓練をする度に言っていた。自分たちのせいで人が死ぬかもしれないと、3人で何度もそう考えた。

 

 もし自分のせいで幼馴染やその家族が死んだら、そう考えると怖かった。だが、一番怖いのは大事な人が自分の手の届く範囲内で、為す術なく死んでしまう事だ。すると昔からの知り合いである雑貨店の店主は顔色が悪く、酷く慌てた様子で走ってくるとハイドに伝える。

 

「ハイド、さっきフォルちゃんの家が燃え移って……! 消そうにも、俺じゃどうにもできねぇし、ドアが歪んで開かねぇ!! 俺が避難誘導しとくから、助けに行ってくれ!!」

 

 そう聞くと、返事も忘れてハイドはフォルの家に走って行った。炎で通れない場所は炎そのものに発生する熱や燃える時のエネルギーを魔力にして変換し、吸収していった。本来は自分の魔力で作り出し、実態化させた攻撃魔法や防御魔法も還元する事しかできない。ただこんな事ができるのも、魔人族の特徴だ。その属性への熟練度による芸当だが、かと言って火傷をしないという訳でも無い。実は3人が一番最初に父親から覚えさせられたのは、剣術ではなく回復魔法だ。

 

 肌が熱と火で焼かれて水ぶくれができるが、吸収した分の魔力で回復魔法を使う。服が燃えないのは、エレイミアが炎を使うハイドの為に耐火の布を使って縫ったものだからだ。

 

 魔法は熟練度が上がるほど詠唱を省く事ができ、戦いには有利になる。しかしその魔法を極めると、イメージをするだけで魔法を発動、威力の調整などができる。心の中で唱える事でも発動させる事も可能だ。

 

 ただ極めるのにも長い時間と強い妄想──ゲフンゲフン。イメージ力を必要とし、エリオが氷の壁を一瞬で作り出せたのも氷属性魔法を極めた結果だ。それは種族と自分達が過去に父親から課せられた試練という名の命懸けなサバイバルをさせられた事による賜物である。

 

「──っ……、あっちぃ」

 

 炎に焼かれている間は回復魔法を使ってはいるが、変換している分では間に合わない。火傷は具合によって跡に残ったり、痛みで行動を制限する。なので素早く直さなければならない、兄弟の中では魔力が少ないとはいえ、駆け出し魔道士よりは十分に魔力がある。こんな状況なのでなるべく魔力は温存しておきたいが、そうはいかないらしい。身を焼きながらも髪には燃え移らないように注意し、村を燃やす炎の中を走り抜けていた。そんな時も、あの巨大な大鷲が魔法でアレスに攻撃しているのが見えている。

 

 そして幼なじみの家が見えてきた。あと50mくらいというところで家が燃えたことにより屋根が崩壊するのが見え、大きな音が伝わってくる。大鷲はアレスが上手く引き付けているので、まだこっちに来る心配は無い。ドアを開けようとしたが、ドアノブが金属製である事に気がつき「あっぶね!!」と手を引っ込める。だって絶対に炎で熱せられて、火傷するに決まってるもん。

 

 すると中からフォルの声が炎の燃える音に紛れて聞こえてきた。声の大きさからして、ドアの前に人が居るかもしれないという心配は無いらしい。なので遠慮なくハイドはドアにヤ〇ザキックをすると、ドアを蹴り破る。だが目の前には本来こんな形で見るとは思わなかった光景があった。

 

「父、さん……母さん」

 

「!!」

 

 屋根の下敷きになって見えている赤い水溜まりと、細い……恐らくは女性の腕が見えた。

 

「今助けるから、待ってて……!!」

 

 一部だけとはいえ初めて見る人の死体、いつかは見る事になるだろうとは覚悟していた。だが、こうしてこんなにも早く見る事になるとは思わなかった。普通の人間の魔力を少しも感じない事から、きっと即死だったんだろうと理解する。もう既に息絶えている親を必死に、力を持たないただの少女が助けようとしていた。なんと惨い現実だろう。もっと自分が早くここに来ていれば、というどうしようもない気持ちが渦巻く。だがどれだけ嘆こうと泣き喚こうと、こうしている間にも時間は過ぎて炎は増すばかりだ。

 

「フォル!! 何してんだよ、早く逃げないと──」

 

 お前まで一緒に燃えて無くなっちゃうだろ。そう手を握って、避難所まで連れていこうとする。だが、その手を振り払ってフォルは屋根だった残骸を退けようとしていた。

 

「止めないで!!」

 

「止めないわけないだろ!?」

 

 ハイドは腕を掴むと引っ張って行こうとするが、フォルは暴れて両親の亡骸へと手を伸ばす。

 

「嫌よ、やめてって言ってるでしょ!! 絶対に置いて行ける訳ない、早く父さんと母さんを助けなくちゃ死んじゃう!! ねぇ、ハイドも手伝いなさいよ!! ねぇ、お願いだから……!!」

 

 そう言い悲痛に満ちた顔が、やがて涙で濡れていく。本当はもうわかっている、この酷い現実を受け入れたくないだけで。そんな様子にハイドは深い罪悪感と、自分に対しての怒りを感じてくる。

 

「……ごめんな、フォル」

 

 そう言うとハイドは簡単な睡眠魔法の「イーノ」を使い、眠ったフォルを俵(たわら)担ぎしていた。本当はかっこよくお姫様抱っこをしたいが、それだと両手が塞がってしまう。女の子を……ましてや好きな人だ、本当はこんなふうに担ぐつもりは当然なかった。とはいえ、手刀を打つより断然マシだが。実際に気絶させる事はできるが、首と神経にかなりのダメージを与える事になる。というか、物理的に気絶するのは普通に危険なのでやめよう。なので漫画とかアニメの影響で手刀打ったりするのは絶対にやってはいけない、大事な神経が通ってるところを叩いてるわけだ。そこをぶつけた人は発狂したり、一瞬目が見えなくなるそうだ。お互いに同意してても捕まるらしいので、リアルでは絶対に真似しないでほしい。

 

 本来なら眠らせる意味はあまり無いが、これ以上悲しい顔をして現実から逃げようとするフォルを見たくなかったからだ。そして、この場所に留まろうとすることを阻止するために。次に起きた時はきっと、もう全て事が終わった朝だろう。せめて、幼なじみの両親の分も守りきらなくては。

 

 そして今度は逃げる時にフォルが炎の火傷をしないよう、限られた道を通って場所から避難所まで走っていく。熱で汗が出ており、体力の消費も早い。炎は回るのが早く、先程よりも炎で通れない道もかなり増えた。逃げ遅れた人も居るかもしれないので、ハイドは周りの魔力の探知に意識を向けていた。

 

 

 

 一方でアレスはフィリンで身体能力を上げ、素早さと筋力、体力を増した状態で灰色の槍を避け、地面を蹴る。そして頭を目掛けて、剣を振る。それか背中に飛び乗り、剣を至る所に勢いをつけ直線に刺す事の繰り返しだ。足を切ろうにも、態勢を崩して村が下敷きになってしまっては大変なことになるので、それはできない。

 

 ダメージを少しは入れられているものの、再生能力が高いらしく、すぐに切り傷をたちどころに治してしまう。それどころかすぐに抜かなければ、高すぎる再生能力によって抜けなくなりそうだ。だとすると何故一部分だけ治りが遅いのかを考え始め、徐々に魔物から少しの違和感を感じ始めていた。そしてそれに気づき、ある結論に至る。

 

 自分一人でも倒せなくはないが、そうなるとやはり村の人々が避難するまで時間稼ぎはまだ必要そうだ。ただ、フィリンの効果はあと半分ほど。なるべく体力は温存しておきたい、そう思っていると急に大鷲は振り向く。その様子からは余裕の二文字がアレスの頭の中に浮かんでいた。

 

 その時、僅かとはいえ魔法を使った事により、大鷲は赤い魔力に反応してしまっていた。

 

 黒く大きなその目にはハイドとフォルが映り、しっかりと捉えている。

 

「ヴェアァァアアッ!!」

 

 新しい獲物を見つけた、と言うようにまた鳴くと2人に向かって風の槍をズラリと並べ、更に増え続けている。無数のようにある灰の風槍は照準を定めるかのように向きを変えると、ひとつずつ発射される。一気に撃たず、あえてかするようにしているのだから、一思いに殺す訳ではないのでタチが悪い。つまり相当舐められている、その事に腹立たしさを感じてきていた。アレスもまた気を引き付けようとしているが、風に飛ばされてしまった上に風と炎の槍でなかなか距離を詰めるどころか避ける場所を制限され、離されそうになる。

 

「ちっ、余裕ぶっこきやがって!! 人の命は玩具かよ──、あっぶなッ!!」

 

 頬や腕、足の皮膚がところどころ切れるが、フォルには当たりそうな時はジェットのように魔力を放出し、軌道をずらして避けていた。ただその分魔力を消費するので、いつまで持つかはわからない。

 

 すると大鷲の頭に鉄の剣が刺さる、剣は橙色の光を帯びてほのかに発光していた。つまり、それには魔力が込められている。

 

「ギィッ?!」

 

 つまり、アレスは剣を思いっきりぶん投げたのだ。大鷲は痛みのあまり、魔法を放つための集中力が切れる。その隙を狙って追い討ちをかける為、アレスは距離を詰めて走りながら助走を付けた。地面の土を変形するほどの力で飛び、刺さった剣の方に飛ぶ。剣の柄まで手が届き、そのまま柄を握ると重みで剣は下に切れていく。防御力は少し硬いようだが、ただの鉄でできた刃でも支障はない。刃に魔力をコーティングさせた為、切れ味が上がり、防御力を上げているバフ系魔法の効果がそこだけ入らないようになった。

 

 そして魔獣の肉体は刃に触れているだけで爛(ただ)れていく。魔物でも人間でも、自分に合わない魔力は拒絶反応を起こしてしまう。どうやらこの魔物は高い再生能力を持つものの、自身の魔力以外に直接触れると例外に漏れず爛れていくらしい。そして再生能力もかなり遅れる、前にこの大鷲が魔力によってケガをおっていなければ気付かなかっただろう。

 

「ギェァァァアアッ!!」

 

 痛みで大鷲がコンセントレーションができなくなり、風槍と炎槍の魔力は空中に放散、一気に消えていく。その間にハイドは大鷲の魔法によって切れた部分を治し、出血を止める。効果の切れていた身体能力強化の魔法をもう一度かけると、一気に走り抜けた。後ろは向かないようにして、その代わりにアレスに聞こえるようにして声を張り上げた。

 

「死んだら怒るからな!! 絶対に、嫌って程ビンタするからな!! 真っ赤に腫れても、知らないからな!!」

 

 さっさと行け。とアレスは言いかけたが、喉から出かかっていたところを止める。そしてハイドが洞窟に着くと、まるで滑るようにして洞窟の奥へと向かっていった。そんな中、ハイドは大鷲の元に行く前の、さっきあった出来事を思い出す。

 

 

 

『僕はきっと、アレを倒してもホイルの町へはすぐに行けないだろう。ここからは距離があるからな、それとこの村には少なくとも1年以上は戻って来るな』

 

『えっ、でもすぐにでも村を元に戻したいのに……』

 

『なら、回復系魔法……特に状態異常回復魔法を中途半端な状態で覚えたまま来ないでくれ。複人数で来る場合は、空間魔法も取り入れて使った方がいい』

 

『う、うん』

 

『……行きたくはないが、行ってくる』

 

 

 

 あの時の表情は本当に冗談を言っているようには見えなかった。どうしてかはわからない、でも信じるしかない。これでも数時間早く生まれた兄だ、弟を信じなくてどうする。そして大きな鉄でできたドアを開けると、村の人々とエリオが視界に入った。

 

 人数はハイドが予想していたよりもかなり減っていた。全体で148人からなる村は、たったの半分以下だった。人々の表情からは絶望という文字しか浮かんでいない。先程からケルベロスの三匹もモフモフパワーで場を和ませようとしているが、上手くいっていないようだ。

 こうして誰も2人を責めたりしていないのは、もう昔からこうなるかもしれないと多くの人が覚悟していたからだ。ただ、まだ10にもならない子供はどうだろう。聞こえてくるのはすすり泣き、嗚咽を漏らしている子供の声。そして、自分とエリオを煮えたぎる熱湯のような怒りの視線を向けているのも子供たちだった。

 

「ハイド兄ちゃんたちは、勇者なんでしょ」

 

 そう責めるような、恨みがましく見ているような目を見つめることができずに「……おう」と小さな声で返事をする。

 

「何でっ、父ちゃんと母ちゃんを……守れなかったんだよぉ!!」

 

 そう言い、また泣き出す村の男の子を見てエリオは小さく震えながら、泣きそうになるのを必死に耐えていた。エレイミアはそんなエリオの傍にただ寄り添うようにしていた。

 

「みんなが死んじゃったのも、3人のせいなんだろ?!」

 

「パパとママを返して!!」

 

「もう嫌だよ……誰か、助けて……」

 

 そう次々に言い始める子供たちは勢いが増していく。心無い言葉よりも、よっぽど強い凶器のように胸へと刺さっていった。そんな容赦なく2人を責め立てる子供たちに、大人の男性は「八つ当たりするな!!」と叱ると、また子供たちは泣き出していた。すると、レナの声がハイドの耳に入る。決してそれは大きいわけではないが、聞こえてしまった。

 

「ねぇ、何でアレスお兄ちゃんが帰ってこないの?」

 

 それは一番聞かれたくない言葉だった。

 

「……今、俺たちの為に1人で戦ってくれてるんだ」

 

 ハイドは何とか目を離さないようにして答える。だが「自分の家族も守れないかよ!!」という声に、思わず手を握りしめていた。拳からは一筋の血が流れ、地面にぽたりと落ちる。そしてまた「もうそれ以上何も言うな!!」という怒声が聞こえるが、男性は思わず手を上げそうになっていた。だが、その手をエリオが掴む。

 

「やめてくださいっ!! いいんです、もう……大丈夫ですから」

 

 そう言っているが、エリオの表情は今にも泣き出しそうな顔をしていた。男性はゆっくりと手を下ろし、苦しそうな表情をする。そして洞窟の中心に立つと、エリオはなるべく心を落ち着かせるようにしていた。

 

「……これから、避難先であるホイルの町に僕の転移魔法で向かいます」

 

 ハッキリとした声色でそう言うが、まだ本当は決心がついていない。自分にとって弟という存在はたったの一人、無愛想で意外とドジではあるものの、とても優しい家族をここに置いていくのだから。しかし、こんな時に雰囲気をぶち壊す機械が喋っているような抑揚のない声が後ろから聞こえる。

 

『マスター。アノ鳥肉、又ハ山羊肉(ジンギスカン)ヲ消サナクテイイノデスカ?』

 

「消す?!」

 

 そういえば伝え忘れていたが、この本……ユニは自我の元を構成するにあたって作者の趣味で作られている。

 

『消ス、トハ。ハッキリト現レテイタモノヲ、ソウデナイ状態ニスル。又ハナクナラセル。除キ去ル。マタ、見エナクスル。ナドノ事ヲ言イ──』

 

「ユニ、雰囲気とか空気を読んでね?!」

 

『マスター。空気ヲ読メトノ事デスガ、気体ニ文字ハ書カレテイマセン。何ヲ言イヤガッテイルンデスカ』

 

「そうじゃないよ!! 」

 

 さっきまでのシリアスムードはいつの間にか時空のかなたまで飛ばされる。ユニのようなAIっぽい高性能な機械っぽい声を出すアーティファクトに、そういう系には無知なおじいちゃんおばあちゃん、おじさんおばさんたちは頭にはてなマークを浮かべ、比較的若い世代の大人はコントのような会話に少し顔を少しひきつらせ始める。子供たちはちょっとむつかしいユニの言葉遣いと機械声にちんぷんかんぷんで違和感を感じていた。

 

『地上カラ、約高度-99m。マスターヲ中心ニ半径30mノ範囲ニイル72人ノ目線ニ、ユニガ溜メテイタマスターノ魔力デ文字ヲ作リ出ス事ハ可能デスガ、実行シヤガリマスカ?』

 

「しなくていいから!!」

 

『分カリマシタ、音声入力デユニが聞キ取ッタマスターノ声ヲ文字トシテ出力シマス。……チッ、メンドクセェ』

 

「ひょっとしてわざと? ねぇ、わざとなの?!」

 

 エリオは思わずユニを力強く握りしめるが、ユニは機械声で更に爆弾発言をする。

 

『マスター、ユニハ痛覚ナドトイッタモノヲ感ジマセン。ヨッテ特定の対象ガ感ジルヨウナ苦痛デ快感を得ル特殊性癖ノマスターニ、ユニノ性能上でデハオ答エスルコトハホボ不可能デス。ユニノ正シイ使イ方トシテハ、戦闘時デノ武器ヤ補助ナドガ一般的デ欲求ヲ満タス為ノモノデハ──』

 

「それは分かってるんだよ、というかエリオはそんなねじ曲がった性癖なんかしてないからね?!」

 

『シカシ、流石ハ心優シキマイマスター。苦痛を感ジナイトハイエ、コンナニモユニヲ力強ク握リシメテキヤガル事ハ予想外デシタ。コレモ テスターデアッタ、ハスリオド様ノ血ヲ受ケ継イデイル影響デショウカ。アノ方ハユニヲ、リッパナマスターノ武器トシテ教育(物理)シテクレマシタ。ソノ証拠ニ「お前は空気というものを読めないのか?」ト、ユニヘ無理難題ナ発言ヲシ、「お前はもう喋らなくていい」ト沢山罵リ、最終的ニハ自己修復不可能一歩手前程度ニ叩キツケテクダサリヤガッタノデ』

 

「意味ちゃんと分かってるのぉ?!」

 

 頑張れ勇者エリオ、これも全ては魔王を倒すため。新しいマスターとして、この本を使いこなさなければならない運命なのである。

 

「ああっもう! 一刻も早くここから脱出しなくちゃいけないのに!! ユニが変なこと言うから!! もう早くここから出たい!! ものすごく出たい!! 」

 

《エリオは八つ当たりをしている!》

 

『マスター、ハスリオド様ノヨウニナルニハ、マダマダデスネ』

 

 お父さん、一体どういう経緯でユニがこうなったの。というか、どうやったらこんなのができるの。作った人、頭おかしいよ。とか思ってても、諦めるしかない。 たとえその場がカオスへと化して、誰もが状況や安全について注意できなかったとしても。これからすることに変わりはないのだ。

 

 





おまけ


「なーなー、3分耐えられるってことはさ? カップ麺作って食べれるってことだよな?」

「こんな状況で何言ってるの?!」

「やめてくれハイド、これ以上僕の空腹感を刺激するな!!」
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