チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった 作:水性さん
ポルブ村が焼かれてしまい、アレスと離れ離れになった兄2人はそれから下校時間に学校へ向かい、教師たち全員と今夜の事を話していた。その中には学園の校長である、ロバート・ヲルンも話を聞いていた。
「……そう、とりあえず2人が特に酷い怪我もなくここに来れた事だけでも良かったわ」
リリアーネは頭を抱え、酷くショックを受けた様子で声を震わせながらそう言う。普段の言動や行動で誤解されがちだが、リリアーネは生徒想いの教師だ。教え子が一人消息不明になり、精神的に強くストレスを受けていた。そんな中「……被害は?」と、淡々とクルージオは報告を聞く体制をとっていた。
クルージオは元傭兵であり元冒険者だ。こういう人の命が関わる話や、このような重苦しい空気には慣れている。しかし、表情は平常心を保ちきれてはいない。
「……村全体の人口は148人、避難できたのは64人。死亡人数は……83人です」
エリオはそう答えると「一人分足りてねェんじゃねェか?」とクルージオに指摘される。足りてないというのは死亡人数のことで、アレスの分を入れていないぞ、という意味なのだろうと2人は判断する。
「……アレスはたぶん、生きています。なんとなく、そう感じるんです」
「俺も。 正直心配だけど、心配してるのはアレスが腹空かしてないかなって事くらいだし」
実際にそう思っていたが、この言葉を聞いたクルージオは少し安堵した。ただ、そう言う様子にクルージオは少し違和感も感じていた。
「(こいつらはまだまだ半人前なガキで、人が死ぬような場面見るのは今夜でたぶん初めてだろ。まだ一日も経ってねェ、だがヤケに……落ち着いてやがる)」
冒険者は依頼を受け魔物や魔獣と戦い、報酬を受ける。当然死ぬ人間も少なくはない。特に新人冒険者達のグループは戦闘経験不足により、命を落とす事が多い。逆にベテランの冒険者は強さも経験も申し分ないが、依頼される内容は高ランク。強い魔物や魔獣との戦いで死ぬ事もある。クルージオは何度も仲間が目の前で死んでいくのを見た事があり、新人冒険者が初めて誰かが死ぬ場面、死体を見た新人の反応やその後の様子も当然見ている。
大半は泣き叫び、それでも尚立ち向かうか戦意喪失するか、逃げ出すか。生き残れたとしても戦いが終わった後、冒険者を辞める者も多い。クルージオは何度も見ていたからこそ、雰囲気や様子で察して精神面的にケアをする事があった。しかし2人はやけに今まで見てきた中で比べてみると、随分落ち着いて見えた。
「そういえばハイド君とエリちゃんが見たっていう魔者ちゃんはぁ、どんな感じだったの? シルちゃん、すっごく気になるなぁ~!」
そんな中、シルフィーちゃんはいつも通りっぽい様子で2人に聞いていた。内心ではどう思い、感じているのかは分からないが。一気にその場の雰囲気が気の抜けたような感じになり、リリアーネはイラっとする。
「あー……、ここに紙とペンってある?」
魔物には世界中に存在する生き物のように沢山の種族が存在し、様々な見た目を持つ者が居る。例えばブリとハマチなどの元々は同じ魚だというのにもかかわらず、呼び名が違う場合や、トゲトゲやトゲナシトゲトゲ、トゲナシトゲアリトゲトゲように魔物は幅広く種類が分けられている。ハイドは口で説明するよりも絵に描いたほうが早いと思い、そう言うとリリアーネは非常時に備え、普段から持っていた紙とペンを出す。魔力が足りない時や、魔力を操りにくくする状態異常を受けた時、繊細な魔法を使う時の為に持っている物だ。
そしてハイドは今日の午前深夜に見た魔物を思い出しながら描く。あの日の夜は大鷲が炎を放ち、かなり明るかったものの、いくら轟々と燃えていても、あの巨体では炎の光が届かなかったのだ。しかし、ハイドはどんなに暗い場所であったとしても、過去にサバイバルをしていた島での経験で見えていたのだった。
アレスが居た島はほとんどすべてが毒でできた島で、ハイドが居た場所は一年中暗闇に覆われた島だった。だからハイドはどんなに暗い場所でも、高性能な暗視スコープやゴーグルよりもハイスペックな技能を自然と習得していた。その名も”色彩の眼”、光が一切入ってこない深海の海の色や砂や魚、ブラックホールの中も眼で見ることができる。そして技能を使っている時は目のスペックが良くなる為、どんなに遠い所でもハッキリと見えたり、どんなに小さな粒子でも見えたりする。ちなみに暗い場所以外でその技能を使おうとすると、光や色が見えすぎてム〇カ状態になってしまい、最悪の場合失明する場合もある。その場合は回復魔法をやれば問題ない。
ちなみにもしエリオがその技能を覚えていたとしても、いざ絵を描く時にはクオリティに期待してはいけない。何故ならエリオは壊滅的に絵が下手だからである。画伯、しょ○こお姉さんが描くス○ー並の画力だ。そしてエリオは3人の中で一番魔法を扱う事に長けており、魔力の調整も実はリリアーネ以上だったりする。なのでアナログなやり方である、紙に書いて魔法陣を書く方法をほとんどした事がなく、図形を書こうとすると線がとてもガタガタなのだ。
こうして説明をしている内にハイドはサッサッと描いた絵をシルフィーちゃんに渡すと、シルフィーちゃんは目を見開いてプルプルし始める。
「……何で、こんな"魔獣"が村に」
「魔獣?」
「えっ、魔物じゃないんですか?」
「そう、ズーっていう怪鳥。本当はライオンの頭を持った大鷲のハズなんだけど……新種かなぁ?」
2人はあの大鷲が魔物だと思っていたので、そう言ったシルフィーちゃんに驚く。彼……いや、かの彼女は魔物を専門に研究する学者ではあるが、魔物に近しい存在である魔獣にも詳しい。
「……随分前に、魔者ちゃんと魔獣の区別がどうなっているかは授業でやったよね」
「あぁー、たまに生き物が死んだ死体に魂が体から離れずに長い間入ったまま、空気中に闇の魔力とか魔力が多い場所で晒されてると……生き返ってバケモノとして生まれ変わったのが魔獣で、魔物は邪神が作った生き物っていう話だっけ」
「そう、魔者ちゃんは邪神から産まれた存在だけど、魔獣は数千年くらい前から自然に産まれるようになった邪神の副産物的存在。人々にとってはどれも危険だし邪神が影響してるから全部魔物って言われちゃってるけど☆」
本来魔力は魔者にしか持たない力であり、人間は魔法が使えなかった。そして魔獣は魔王か強い魔物にしか作る事ができない生き物なのだが、この世界は何億年という勇者と魔王の長い戦いが今も続いており、世界中で魔法が使われている。なので本来は空気中に魔力は存在せず、使った分だけ外に放出され、空気中に漂うようになったのだ。
以前人間達は女神に祈りとして聖歌を歌う事で、今では光魔法を使うのに必要な神聖力を授かり、生命力を聖力に変換して魔法を使う魔物達に対抗していた。
しかし先の話で説明したが、長い年月を経て魔力が空気中を漂い、聖力は何故かすぐに消えてしまう為、空気中に残る事は無い。魔力は人間にとって猛毒のようなものだったが、人間は対策をしたりして徐々に微量な魔力を吸っても耐性ができたのか、害が無くなるようになった。
そして息を吸う事でどんどん魔力を体の中に取り込んでいき、どんどん進化していった。魔力が酸素と共に肺から吸収されて血管を通り、心臓へ送られる。心臓には魂が宿っており、これは人間だけに限らず取り込まれた魔力はよく似たエネルギーである魂に引き寄せられる。なので心臓に魔力は留まり、魔力は心臓を覆うようになる。その溜めることができる魔力の量は個人差が影響をしているが。
自然と魔力が人間が持つ精神エネルギーとして魔力は備わった物となり、魔力を持った人間が産まれるようになった。ただ魔法が使えるようになっただけで、魔物は持っている魔力を生み出す器官や能力は無い。
……ただ魔人族を除いては。これも魔人族が差別をされている理由の一つでもある。
しかし魔法は正式名称である魔法科学と言うように、元々は魔物達の力であり魔物達にとって科学であり、化学のようなものだった。
一般的に科学的な知能を持たない動物は魔法や技能を使う事ができず、そのまま一生を終える。そして人間に比べて強い感情と魂を持たない為、魂が抜けやすく変化しやすいのだ。そもそも魂というのはエネルギーの塊であり複雑、だが性質などの変化や欠けたり不安定な状態に陥ることは無い(一部除く)だが普通の動物などの場合は別だ。
心臓を覆った魔力が多いと、死んだ後も魂が魔力に阻まれて心臓に留まり、外部の空気中に漂う様々で小さな魔力に晒され続けると次第に魂は変化し、魔力を吸収していく。
その変化をする際に発生するエネルギーはとても強力で、これを何かに生かせないかと魔法科学者が研究をしていた事があった。エネルギーがあまりにも強力すぎた上、エネルギーが外に漏れてしまった。高エネルギーの魔力はまるで放射性物質のように肉体に重大な影響を及ぼし、魔力の拒絶反応によって数日後には科学者全員が死んだ事件がある。
そんな高エネルギーは死んだ筈の肉体を蘇らせる程で、とても危険なのだ。だから邪神はそれを利用し、強大であらゆるポテンシャルを秘めた吸血鬼を作りあげたのではないかと言われている。人間はほとんど魂が変化しないので、蘇ることは基本的に無い。しかし理論上は可能と言われているので、一部の魔法科学者は今も実験を行っているという。……が、人間の魂は動物の物より高エネルギーで、動物を人工的に魔獣化させる時に発生するエネルギーの実験の二の舞になったことは言うまでもない。
なので魔獣を作ることが出来る魔物達、特に欲に眩んだ魂を食う悪魔や悪魔王、そして魔物達の魔王は本当に魂に干渉する事に長けているのだ。ちなみに勇者3人の従姉妹であるオリヴィヴェールは、深い事情があってポーションなどを売りながら悪魔達を狩るハンターをしている。
……と、ここまで説明してきたが、何故生き返った生き物が魔物と一括りにされず、魔獣と呼ばれるのかについて話そう。
それは生き返ったとしても自我や心を持たない、その名の通り"魔力によって誕生した獣"だからだ。しかし魔物も過去には感情が無かった、ただ魔獣は知能が無いので魔法を使う事ができない。だが魔力はどんどん心臓に溜まり続け、いつかは時限爆弾のように破裂してしまう。魔獣と呼ばれているのはそれが理由であり、この世界では死んだ生き物は必ず、そして死体を見つけたら魔力を空気中に還す為、炎の魔法などで火葬をする事になっている。人間はスケルトンやアンデッドにもなる可能性があるので、やはり火葬をする。大昔は違っており、結構自由だったが。
「でも魔獣には普通、心は無いんですよね?」
「残忍だったけど一応心みたいなのはあった感じがしたし、魔法を使ってきたし。魔物とあんま変わんないじゃん」
エリオとハイドがそう主張すると、シルフィーちゃんは小さく頷く。
「……そうだね、でもこの魔獣は魔王ですら作るのに3世代の魔王が毎日魔力を注ぎ込まないと作れない筈で、例え魔力が豊富な土地にあったとしても……1億年に1度産まれるか産まれないかぐらいなんだよ。何台も前の勇者と魔王との戦いに数回だけ現れた魔獣で、ただ何となく上空を飛んで通っただけで多くの人々や木を吹き飛ばす程。大体、体長は1kmで、翼を広げると4倍くらいかな」
そう言うとその場に居た教師達全員が引くが、ハイドはそこに待ったをかけた。
「でも、俺達が見たのはそこまでデカくなかった。村を覆えるくらいの大きさだからデカい事には変わらないけど、小さい村だから……やっぱりおかしいだろ」
そう聞くとエリオは気づき、リリアーネはハッとして「……この魔獣、もしかしたらたった一人で造られたんじゃないかしら」と言い、シルフィーちゃんも「そうそう! シルちゃんもそう思ってたんだよ~!」と同意した。
「おいおい、どういう事だ? 俺様にもどういう事か分かりやすく説明してくれ」
「ワシにも教えてちょ」
実戦で魔法をよく目にする機会があったが、機会があっただけでクルージオは魔法についての知識は無い。オデルフおじいちゃんも同様だ。
「……うーん、例えば3人で合作をして絵を描いたとしようか。絵を描く人は世界中に沢山居るけれど、人によって描き方も画風……つまり魔力も、親子でも全然違ったり、似ていても微妙に違ってたりするんだよ。でも3人が描くのはその内のだれかの画風に寄せて描く絵なんだ、完全に真似てその人が1人で描いたんじゃないかって思うくらいの完成度でね」
「でも、完全に似せるのは無理だろ」
「そ! どうしてもどこかで自分の画風が出ちゃったりするものなんだよ。自分の個性が出ちゃったら自分の画風になって違和感が出るから、それはもう失敗作になる。キャンパスを用意するところから始めないといけないんだ。魔獣でも同じ事で、そもそも知能を持たせるのは並大抵の事じゃできない。
合同魔法だって、ピッタリ合わせないと発動できないし発動もしないでしょ?」
「そういえば前に魔道士達が魔法を使おうとした時、何も起こらず不発に終わってたが……似た事を言ってたような気がするな」
誰かと協力をする魔法を合同魔法と言うのだが、昨日の授業のようにエリオとルキは共に合同魔法を使う事が何度かある。しかし合同魔法は事前に展開する魔法の式はどういうものにするか、というのを打ち合わせて2人で練習する必要がある。なのでピッタリに合わせる事の難しさは、エリオとリリアーネはよく分かっていた。どちらかの魔力が少しでも多くても少なくても失敗して、発動することは無い。
つまり失敗したらそれまでということであり、それまで注ぎ込んできた魔力は全て空気中に霧散する。そもそも吸血鬼は魔力によって人間を眷属にする事ができるので、別の物に変換させたり生み出したりする事は得意なのだが、ズーの場合は難易度がハードより上のルナティック状態なのだ。
「魔力を注げば注ぐ程、できあがる魔獣は強く大きくなる。でもこのズーは知能があって魔法が使える、心臓も大きいから溜められる魔力も多い筈……でもどうして知能と引き換えに、大きさと力を? 魔法が無くても充分強いけど……も~、どうしてこんな所にマリンヌちゃんが風邪ひいちゃったかな~~! 魔者ちゃんに関係する事は勉強したから知ってるけど、魔獣の事は専門外なんだよ~~!」
マリンヌとはシルフィーちゃんと同様に魔獣を研究している学者であり、教師をしている女教師の事だ。フルネームはマリンヌ・イント。
そんな時ハイドが挙手して「んー、合ってるか分かんないし個人的な意見……というか聞いてて思ったのと思い出した事があるんだけどさ」と自分の意見を切り出す。
「昨日、シルちゃんが魔王の一族は吸血鬼だって授業で言ってただろ?」
「あ、ちゃんと覚えてたんだ、偉い偉い!」
「 前にアレスがさ「もっと魔力が欲しい」って言ってたんだよ。何でって聞いたら「その方がもっと実験と戦いの幅が増えるからだ。それで何かを突き詰めていたり、才能があったらそれを伸ばしたくなるのは当然だろう?」って言ってたんだよ。それでさ、邪神に加護みたいなものを受けた吸血鬼とかが今のじゃなくて、次の魔王がもし髪が邪神みたいに銀色で魔力も凄く強かったら? 才能の塊だったとしたら? 親はたぶん、色々と試したくなるだろ。俺もお母さんに楽器とか絵とか家事、ダンスとか……他にも色んな事教えられたし」
するとエリオは何かを思い出しかけて「……そういえば、前世の何処かでそんな子に会った事があるような、気がする……」と呟く。それにハイドは「実は俺も、なんか会った事あるような気がするんだよな。顔は思い出せないけど」と同意した。
「それで今まで誰もできなかった事とかやらせようとしたりさ、この魔獣は試作品で自我もある上に性格がアレだったから、今まで使われてなかったんじゃねーの?」
一応魔獣は魔力が多ければ人間でも作ったり、体や人形などを操る魔法の熟練度が高ければ自在に魔王のように魔獣を利用する事ができる。そして自我や心が無い者であれば、簡単に操れるのだ。しかし自我がある肉体は特に操るのが難しく(一部の条件を満たしていれば別だが)魔力消費量も多い。なので魔王は主に自我の無い魔獣を作って、歴代勇者達に戦わせていたのだった。
「んで今になって出したってことは、アイツを操れる手段ができたってこと。作る時にはただデカい魔力を移して、誰かが代わりに作ったんじゃね? 材料だけ出して、組み立てるのは別……みたいな? それなら後から魔力を入れることはできないし、大きさが少し小さい不完全な状態なのも納得いく。それにアイツ、なんかケガの治りがすっげー早かったし……そういう技能も入ってるんだろ」
「技能も持ってるの?! 確かに……魔獣は元々の素体が肉食の動物で獰猛であればあるほど、魔獣もより強力で強い。だから魔王や魔者ちゃん達が作った魔獣にはよく、ドラゴンや肉食動物とかが使われているけれど……なるほどね。素体のコストを下げて、強力な魔獣を作る練習と実験をしてたんだ。
そうなると、次の魔王には……もう人類はいよいよ勝てないかもしれないね。近い内に絶滅待ったナシだよ、大人しく降伏して奴隷にでもなった方がまだ人類は生き残っていける確率は高い。まだ利用価値があるからね」
そう言い切ったシルフィーちゃんに、さっきからずっと黙っていたロバート校長が口を開く。
「それは……勇者が3人居ても、の話かな?」
「そうですよ、校長先生。だってそんなことできるなら、その気になればとっくに皆コレかコレじゃないですか」
そう言うと首を掻き切る仕草と、枷か縄で縛られたかのように手首を合わせる。
「だが、ここでリリアーネ君とクルージオ君が尽力を尽くし、知識と体を鍛えあげれば──」
ロバート校長は希望を求めるかのように反論をしようとするが、そこで待ったをかけたのはオデルフだ。
「お言葉ですが、校長先生。確かに大昔から魔王に勇者が勝利し、勇者は人類の平和を守ってきました。実際にそういう伝説がいくつもあり、記録も残っています。しかし、勇者が魔王に敗れ、人類が更なる窮地に陥った歴史も数回だけではなく何度もあるのです。魔王が存在する限り勇者は何度も産まれ変わりますが、その間は人類には戦える人物は極小数しか居なかった。
何故なら、勇者は必ず魔王を打ち倒し、また以前のように平和な日常に戻る。だから自分達は安全な場所に隠れていようと、誰もがそう思っていたからなのです」
「!!」
「命惜しさに戦う事を恐れ、勇者だけが魔王と魔獣達に立ち向かっていました。その結果、勇者が敗れた時代は大地が荒れ果て、魔王の魔力によって沢山の魔獣が産まれ……新たな勇者がその魔獣達を倒し、得た膨大な経験値で魔王を倒す。
こうして何度も歴史が繰り返される」
「ぶっちゃけ、商業とか観光が発展してる街とかの安全性とか……たかが知れてるでしょ。近年、魔獣がよく出没するようになって、平和ボケした国の兵とかの警備も一応強化されてるらしいけど……。シルちゃんから言わせてもらうと、魔王と魔獣をナメすぎ。歴代勇者は産まれ変わる事に強くなっていっているけど、それは代を重ねてきた魔王の一族や魔獣も同じ。
元々弱肉強食の魔者ちゃん達は、力を得る事と力を競い合う事を至上とするし、元々向上意欲がとにかく高い。何億年前みたいに魔者ちゃん達に心が無かった時代で今みたいに強かったら、魔王がそんな魔者ちゃん達を操ったら……あっと言う間だよ。
今は魔者ちゃん達は強くなりたくても、戦いたくても、別に殺し合いはしたくない。だから実際に勇者が戦うのは主に魔獣と魔王で、魔者ちゃん達全体じゃない。もし魔者ちゃんと戦う事になったら、それはただ自分と同等……又は自分より強い人と力を競いたいだけか、あるいは魔王に何かしら"弱みを握られていた"か……」
ハイドはその話を聞き、深夜に来ていたスケルトンの事を思い出す。
普通、好物であるお野菜の為とはいえ……自称好敵手であり本当はしたくなかったと言っていた魔物が、本当に野菜の為だけにそんな事をするのか?
「(そんな筈は……そんな、筈は………………あんの? いや、流石にそれは無いだろ。……たぶん)」
あのすかすかな頭の中身がパッパラパーな感じのするスケルトンの事だから、やりかねないような気がしてきたのだ。
「そして、ギルドの冒険者や傭兵共の仕事は魔獣と戦う事や、行商人や貴族の護衛が多い、だから魔者と実際に戦った事があるのは極小数だ。
更に……一番いい戦力になる筈の、コイツらの父親であり……あまたの魔獣を倒し、暗殺者に狙われた王族の護衛も一人でこなせる程の実力を持つ傭兵王、ハスリオドはつい昨日大勢のスケルトンによって死んだ。
ハッキリ言って、悔しいが俺じゃハスリオドには及ばねぇ。
それとコイツら兄弟……特にアレス、それからハイドは年齢の平均身長より随分チビだ、とにかく背が低すぎる」
いきなり身長の話を持ち出され、ハイドとエリオはビクッとする。
「「(何でいきなり身長の話に?!)」」
もしここにアレスが居たのなら、モ○ハンの卵やら大砲やら鉱石を運搬している時に落としてしまった時の"ガーン!! "という音が効果音として流れてきそうだ。アレスほど過剰にショックを受けたりはしないが、兄2人もやはり年頃な男子としては伸びない背を気にしていたりするのだ。
前に自分を慕ってくる貴族の女の子達が「自分より背の低い殿方は、異性として見れませんわ」と言っていたのをたまたま聞いた時、ハイドは「俺、めっちゃ背が低いんだけど!? というかあと10cm伸びるかも分かんねぇし!!」と口に出して言いたくなった事がある。ちなみにその時、傍に居たアレスはオーバーダメージを受けた事により、いつものドジに拍車がかかり階段を踏み外した。ハイドが助けたのでケガをする事はなかったが。
声に出していたら紳士としてあまり相応しくない事であり、たまたま聞いてしまったとはいえ、盗み聞きをされたと言われれば「やっぱり勇者と言えども、魔人族は魔人族だ」とちょっとした事で人種差別の対象として、入学当初のように問題が起きかねない。
その事についてはまた話が脱線しそうなので、また次の機会にする事にする。
「……今はすっかり慣れているけど、確かにそうね。初めて3人を見た時、まだ10歳もいってないんじゃないかと思ってたわ」
「儂は孫より年が上な事を知って、その時は入れ歯が思わず飛んじゃったのぉ……あれは見事な避けっぷりじゃった」
「その中で1番高いエリオでもまだ低い。それにもうこれ以上伸びる兆しもねぇ」
グサグサッ! 矢か槍に刺されたかのように2人は精神的ショックを受ける。勇者達の心のHPはもう一桁。
《身長150cmの勇者と身長160cmの勇者は精神的ダメージを300受けた! こうかはばつぐんだ!》
これ以上受けたらもう立ち直れない、2人はそんな事を思いながらもクルージオの話を聞いてきた。
「一方で俺は190越えだ」
いきなり圧倒的な身長(ステータス)を言われ、低身長勇者達は瀕死状態に陥る。もうやめて、勇者達のHPはゼロよ!
「そして更にこいつらは筋肉も筋力も、他の剣士や生徒と違って少ない」
しかしそう言われ、2人はクルージオが言いたい事をようやく察する。
「コイツらは、冒険者や傭兵達では知られているかの有名な、傭兵一族であるロイダンツ家の人間だ。ロイダンツ家の人間は低身長で、鍛えても筋肉が付き辛い。だが昔聞いた話によると、戦う事で先祖の魔物の血が他の魔人族よりも濃く、薄れる事がない。だから普通の人間よりも老けにくく、肉体が若い期間が長い上に代々身体能力が並外れている。
だからロイダンツ家は剣術や魔法を代々子に教え、本や書物を残しているらしい。今はそれが残ってるかは知らねぇが……。
老いは戦うヤツらにとって、切っても切り離せないモンだが、それを気にしなくていいからその部分だけは勇者の肉体としては最高と言える。
ただ、その代わりに力負けする。背が高い方が当然だが、体重を乗せた攻撃も強くリーチもその分有利だ。身長が低いからこそできる戦い方を知らない俺には、正直言ってコイツらを……鬼神とも呼ばれた前の勇者以上に強く、最大限まで体のポテンシャルを引き出し、デメリットをカバーするやり方を教えられるとは、到底思えねぇ」
そう言い、クルージオは昔の傭兵時代と1年前の事を思い出す。傭兵はフリーランスのように個人で依頼され雇われる事も多いが、ギルドというより会社のようなアリゼーデ・サネリーという組織に所属している者が多い。それぞれ依頼の難易度によって高い順からS、A、B、 C、D、E、というふうにランク付けされており、傭兵達に実力の合った仕事をさせる。
強さと最高ランクであるSを任務達成した数によって傭兵には称号が送られ、名の知れた傭兵組織であるアリゼーデの中でも、最も強い者は傭兵王と呼ばれる。
実はクルージオはハスリオドとSランクの仕事をした事があり、最初ハスリオドを見た時は本当に「本当にコイツが傭兵王なのか?」と思ったのだが、いざ戦いとなりクルージオはハスリオドの戦いぶりに驚愕した。
あまりにも無駄がなく、洗練されていて大胆であり、とにかく動きが読めない。そして何より、相手の力を利用して、最小にして最大限の攻撃をするのだ。
力押しをすることができないからこそ、真っ向からではなくロイダンツ家に伝わる速く走れ、なおかつ体力を消耗しない走法をしながら少ない動きで避けるか逸らし、受け流す。相手の不意を突いたり翻弄をするような動きで相手の懐に入り込み、的確に素早く弱点を突く。
ただただ、圧倒された。同じ仕事仲間でありながらも、その時最も新人の中で強く、たったの1ヶ月以内でSランクの傭兵に上り詰めていたクルージオが圧倒されたのだ。戦いの最中だというのに、つい意識がそちらに向いてしまうほどに、ハスリオドの戦いぶりは凄まじいものだった。
ハスリオドと仕事をしたのはその最初で最後ではあったが、クルージオはその時の光景をよく覚えていた。そして数十年後に再び、あの日の戦い方を彷彿とさせる出来事が起き、毎日のように見る事になるのだった。
勇者3人が入学した当初は今より更に背が低く、筋肉が付いていたのにも関わらず体も細かった。なので勇者ではあるものの見た目で判断し、思いっきり3人を侮っていた平民の出の青年が居た。そんな青年は一番背が低かったアレスに一騎打ちを申し込んだ事があった。
『これが噂の勇者サマ……か? おかしいな、13歳だった筈だろ? ただのチビ助じゃねぇか』
『……』
ぽんぽん、とアレスを小さい子供扱いするように、頭をわしゃわしゃと撫でる青年。それにハイドは「あ、やべぇ……」という表情をし、エリオはあわあわとしながらも、あまり得意ではない回復魔法の準備をし始める。アレスはいつもの無表情で青年の手を払い、毒舌を吐いた。
『僕を背丈で判断する、顔グラフィックすら用意されていないお前のようなエキストラは、大体相手の実力を見誤ってすぐに死ぬ。剣を握るのを辞めた方が身の為だ、どうせ命乞いをしながら魔獣に食い殺される役になるのがオチだからな』
『よ、よく分からねぇが、俺を馬鹿にしてんのか!?』
『……何故そういう思考に至る?』
アレスは内心イライラしながらもなるべく冷静でいるようにするが、顔グラのない青年はそれに噛み付く。
『あ~~ッ!! うるせぇ!! そこまで言うなら俺と戦え! まさか俺が怖くて意味わかんねぇ事言ってんじゃねぇだろうな!? 』
『これはただの忠告だ、何故理解できない。その場の感情に任せ、すぐに剣を振るより棒っきれでも振り回していたらどうだ?』
その後は頭に血が上った青年はアレスに向かって走っていき木剣を振ったのだが、アレスはサッと避けた後、冷ややかな目で青年を見つめていた。青年は最強の剣士を目指しており、クロウリス学園の中でも新入生としてはかなり強い方ではあったが、上には上が居る。青年はすぐさま次の攻撃をしようと剣を振るものの、またアレスに避けられ、少し距離を取られる。
青年は不審に思ったがここで「怖気付いた」などと思わないあたり、伊達に最強を目指してはいない。
そしてアレスは足を地面に踏み込み青年に向かって走り、反撃をしに行く……と見せ掛けて止めた。
要するに、フェイントだ。
右に行くと思わせて、左に。左に行くと思わせて右に。前かと思えば後ろ。前に行かないと思わせて前に行く。反応速度が高い相手には、前に行った後はまた別の動きをする。そうする事で、相手を惑わせ隙を出させ一瞬にしてその隙を抉り取るようにして突く。それがロイダンツ家が代々受け継いでいった戦い方であり、しっかりとそれが3人に生きていた。
しかし、相手や状況などによってはその戦い方が通用しない、又はできない場合があり、その戦い方だけしか知らなければすぐに命を落とす羽目になる。だからクルージオはつい昨日、重力の負荷を上げたままアレスとハイドに打ち合いをさせたのだった。
エリオは元々魔法特化なので剣を振って戦うより、普通に魔法を使った方が強く、2人に比べて素早さと筋力、それから体力が劣り、唯一魔法関係以外で勝っているのは体の大きさだ。なので筋力を付け、体力や素早さを上げるためにひたすら素振りと走り込みをさせていた。しかしそれではスタートラインからだいぶかけ離れている。エリオがそこから追い上げる事ができるのならいいのかもしれないが、そうとも限らない。
魔法士は剣士とは違い、後方に居る大砲のようなものだ。一撃は強いが、次の魔法を放つ時の速度、そして魔法のレパートリーも本人の力量次第。それに戦う時は常に一歩下がった状態で戦う為、本来は前に出るべきではない。
自分が3人に何が出来るのか? 何を教えれば正解なのか? ずっとクルージオは考えてきたが、未だに答えは出ない。
それにリリアーネが「……それは私も同じね」と悩むクルージオに向けて言った。
勇者3人が一年生の頃、魔法に対する知識をリリアーネは片っ端から叩き込んでおいた。まぁ、3人は父親が用意した大量の魔導書を幼い頃から絵本の代わりにして読んでいたのと、貴族がやらないような命懸けなサバイバル特訓により魔法に対する知識と保有魔力量は、魔力が多い貴族よりも初対面の時からあったが。
そして今年からは実践もするようになった。だけどそれはあくまで、数をこなして体と頭に覚えさせて不発を防ぐ為と、魔力保有量の上限を上げる為。そして魔法は現代における化学ではあるものの、それと同時に精神の力(イマジネーション)でもある複雑なもの。常に平常心を保ちながら魔法を使い続ける為に実践を行う。
しかし、3人はサバイバル特訓で魔獣相手に実戦を毎日のように経験した事がある為、ほとんどやる意味が無い。
ただ学校である以上、3人に授業を合わせる訳にはいかない。それはその他大多数を穴の空いたふるいでただ落とし、他の才能を捨てているようなものだ。自分が教えるやり方は本当にこれでいいのか? これで合っているのか?
リリアーネはいつもそう考えていた。
「そうそう! シルちゃんも悩んじゃうんだよね、3人が学校で習う範囲をとっくに勉強していたり、前世の頃に知ってたり知らなかったりでどこを教えればいいのか分かんなくなっちゃうよ~!」
「儂も儂も。歴代勇者の事は本人達の方がよく知っとるから、儂が授業する必要なくない?」
「なまじの実力と知識があるから、本当に扱いに困るわ。一人、たまに寝てるのが居るし」
すると大多数の視線が行くが、本人はピーピーと知らん顔をして口笛を吹く。無駄に上手いのがちょっとウザイ。
「あ、その事だけど俺、今年で卒業するから」
すると全員がバッとハイドに視線を向けた。
「もちろん、アレスを探す為にな!」
「ちょっ、ハイドくん!? それ、ものすごく大変だよ!? 一等星になる為の試験はいつでも受けられるけど、それまで勉強する量は凄く多いのに……!!」
一等星というのは、五十星までバッチが所有者の魔力をバッチに集めて結晶化させ完成させた状態の事だ。一等星になると学校内で様々な権限を得られるだけではなく、いつでも学校を卒業することが出来る資格を持つ。だがあくまで卒業する事が出来る資格を持っているだけなので、まだ学生として勉強をしていたい場合は各部門の修業年限まで学習できる上、その資格は剥奪される事もある。
その後、ハイドが数か月で一等星になり、本当に1年で卒業して旅に出る事になるのはまた別のお話。