チュートリアル用のチョロイン幼馴染に転生してしまった 作:水性さん
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「おはよう、勇者クン♡」
目が覚めると圧倒的美少女(視界はほとんど発育がいいおっぱいで顔が隠れているが)に膝枕されており、アレスはビクッとして眠気が吹き飛んだ。いや、おかしい。僕は一体何故ティアの膝の上で寝ているのか、それよりも僕は断った筈だが。
「…………おはようティア」
ただおはようと返されたのだから、ちゃんと返事はするべきだ。そう思いアレスは返事はしたものの、この後どうやって脂肪の塊に触れずに起き上がろうかといつもの無表情で考えていた。
まぁその途中でティアがとっても優しくアレスを起こしたので、考える意味も無くなった。顔に思いっきり当たったが。
「よく眠れたかな? お腹は減ってない?」
「……少し減った」
あれだけ食べてもう既にちょっとお腹が減っている、高燃費な食いしん坊勇者。まぁ食べ盛りでもあるので仕方ない。といっても、アレスの場合は吸血鬼になったので、その食べ盛り期も随分と長くなる事が確定しているのだが。
「やっぱりね。欲しいお菓子を思い浮かべてここから取ってよ、あと紅茶とティーセットも」
そう言われ、アレスはティアの首元にあるブローチからクッキーや一見ガラスのようなお茶セット一式を取り出す。砂糖やミルク、それからティースプーンになんでも正確に計れる砂時計。
「このティーセットはね、魔力を込めると熱を持つんだ。だから事前に湯通しをして温める必要が無いんだよ、やってみて?」
アレスは言われた通りに触れて魔力を込めると、魔法陣が綺麗な模様のようになっているティーセットは温かくなる。それから水魔法でティーポットに熱湯を入れるよう言われ、眷属化したからか前より魔法色が赤くなり、元々橙色だった魔力色は髪と共に赤橙に。その影響で赤橙になった水魔法、アクタを唱えてティーポットに水を注いだ。その後に砂時計を反対にさせて数分。
「よく蒸れたらポットの中を少しスプーンでひとかきして、茶こしでこしながら濃さが均等になるよう回したりしながらティーカップに入れると完成だよ」
「これでいいのか?」
言われた通りにやったアレスにティアは「そうそう、いい子だね」と頭を撫で、アレスは手から離れるか、手を掴んで拒否しようとするが、何故かそうしようとすると体が動かないので早々に諦めた。恐らく眷属化した影響だろう。
「じゃあお茶の時間を始めようか」
「……は?」
「忘れたの勇者クン、外はまだ物語でお約束の大雨状態なんだよ?」
音で既に分かっているものの、ついそう言われてアレスは教会の窓から見える外に視線を移す。外は大量の雨水が地面に叩きつけられ、暴風まで吹いている。雷が降っていなかったことが幸いだろう。アレスは雷が大の苦手なので。
「そうだが……」
まさかそのままお茶会をする事になるとは思わなかったのである。時々自分が想像していた旅の始まりとはかなりかけ離れており、こんな感じで本当に良いのか? と、思いながら猫舌勇者はティーカップの取っ手を摘むと紅茶をフーフーして冷ましていた。しかし、アレスはティアにどこか違和感を感じていた。
「まぁ、別に雨の中でもこの服は魔力さえあれば雨から守ってくれるけど……今のボクには意味が無いし。それに寝ていた勇者クンよりも、グッスリ眠ってる子がそこに居るからね」
そう言いティアは長椅子の後ろ下に視線を向け、アレスはティーカップを置いた後に膝で立つと後ろを見た。
そこに居たのは、スピースピーと寝息を立てている小さめな白と宝石のような水色のトゲを持つドラゴン、ナッツだった。
「ナッツが何故ここに……!?」
「それはね、その子がパニック状態になっていたから、ボクが何とか安心させて保護したのと、キミをあの村から随分離れたここまで運んだからだよ」
そう言うティアにアレスは驚き、過去にエレイミアから聞かされていた事を思い出していた。
ドラゴンは種族にも寄るが、大体は魔者よりもはるかに寿命が長く、知能がある。ドラゴンの長寿っぷりは、神話の頃からずっと今も生きている個体も居るほどだ。今ペットとして飼われる200年程度の寿命である小型種(性格やら食費などの問題で飼うのがとても難しく、やはり購入額も高いので貴族がよく飼っている)以外はそれ故に繁殖期が訪れるまでの期間がとても長い。なのであまり個体数は多くはなく、高い山や人が住まないような場所に居るので目撃情報があまり無い。
そしてナッツは希少種のホワイト・ドラゴン(しかも通常の個体とは違って目が赤い)で、大型の四足歩行種で魔王が10人居ても足りないくらいの時を生きる。なのでナッツはハスリオドより大きくはなったものの、まだ人間でいうと生後2日目くらいの赤ちゃんだ。
なので鳴き声は「きゅー!」であり、喉を鳴らす時も「くるる」という可愛らしいものだった。ドラゴンが成竜に成長すると爪だけでも、10メートルかそれ以上のビッグサイズになる。個体差によってそこはまちまちだが……ナッツは卵だった頃から生まれつき、何故か目に見えて小さかった。
産まれた後も他の個体より成長が遅く、好奇心旺盛で母親ドラゴンには兄弟たちの中で一番守られて(他の生き物がそもそも縄張りに入ってこないのもあって)安全だったからか、ナッツはありえないほど警戒心が無かった。なので母親ドラゴンが居ない内に巣にやってきた、命知らずな密猟者達に好奇心のままに近づいてしまい、あっさり捕まった。
珍しいドラゴンは高く売れ、剥製にした後オークションにでもかければ大量のソールが手に入る。
ほくほく顔の密猟者達はドラゴンの巣からすぐ様逃げ、適当な村で準備が整い次第ナッツを剥製にしようとしていた。その方が価値が更に上がるからだ。そしてたまたま外に出ていたハスリオドが母親ドラゴンに助けを呼ぶ為に鳴こうとして、口輪をされているせいで上手く鳴けない混乱状態のナッツの鳴き声を聞いた。
幼い頃から普段犬以外の動物や自然に触れ合っていたハスリオドは、意志のある動物の言葉が自然と理解出来ていた。なのでハスリオドはナッツを助ける為に奇襲を仕掛け、助けた事は親にも言わなかった。唯一ナッツの事を知っていたのは、気になって追いかけてきていたハスリオドの双子の兄、リヴェルドのみ。バレて見つかったもののリヴェルドは決して誰にも言わず、ハスリオドは一人でナッツを育てていた。
良からぬ事を考える輩が噂によってやって来て、またナッツを襲うかもしれないからだ。そして良いとはいえない義両親に気づかれれば、無理やりにでもナッツを売る可能性がある。
その為2人は誰にも言わなかった。本当は人馴れをして欲しかったのだが、そういう訳にもいかず村を出るまでナッツの事は徹底的に隠した。人に襲われ、とても怖い思いをしたというトラウマがあるナッツはそれ以来、ロイダンツ家の人間以外には酷く怯え、相変わらず好奇心は変わらないものの……とてもビビりな性格になった。
なのでエレイミアにナッツが慣れたのは勇者3人が5歳くらいになった頃で、とても時間がかかったという。一方で勇者3人はナッツがハスリオドの子供だとちゃんと理解していた為、ナッツの方からちょっとずつ距離を詰めていた。この差は一体何なのか……ちなみにナッツが一番早く3人の中で慣れたのはアレスでその次がハイド、最後にエリオである。エリオが一番遅かったのは、お互いにビビりな所があったからだ。ドラゴンの赤ちゃんでも、人間より充分デカいので怖いのだ。
そしてアレスはナッツが自分の方が大きいのにも関わらず、村の人達やケルベロス達にも怯えながらも鱗を逆立て、体を大きく見せ、威嚇をしていたのを思い出していた。しかしそれはただの強がりで、かなりの逃げ腰へっぴり腰な威嚇だった為、全然気にしない番犬達にはおもちゃにされていたのだが。
だというのに会ったばかりのティアに何故ナッツが逃げないのか。アレスはそう思いながら紅茶を飲み、大きめなバタークッキーを上品にサクサク食べていた。
「この
「……危機感という物はないのか」
「キミにはそれを感じる理由があるんだろうけど、ボクには理由が無いね。あ、でもボクが世界征服した時に、村とか街がめちゃくちゃになってたら嫌だな」
そう言いながらティアはバタークッキーを一口で食べていた。それから数分後にナッツが目を覚まし、よく寝たと言わんばかりに「くぁ~……」とあくびをして体を伸ばし始める。
「ナッツ、よく眠れたか?」
起きた事に気がついたアレスはナッツにそう話しかけると、一匹のドラゴンは「きゅーっ!」と嬉しそうに羽をバサバサさせてアレスにスリスリし始めた。
「……砂埃が飛ぶ、それと鱗が痛い。嬉しいのは分かったから一旦止めてくれ」
頬の肉が削り取られそうになるかと思いながらアレスはナッツをよしよしと撫で、それから頭をギュッと抱きしめる。
するとナッツの大きな目から段々と涙が溢れ出し、きゅーきゅー鳴きながら泣いていた。そこでナッツの心の声を聞いたアレスは「あのスケルトンが言っていたのは本当の事だったのか」と思い、紅茶がすっかり冷めるまでナッツを慰めていた。
~・~・~
「……エリオ」
「あれ、ルキ君どうしたの?」
「アレスが行方不明になったのは本当か?!」
「んぐッ……!?」
昼休みの食事中にルキはいきなりエリオに向かってそう聞きだし、ビクッとしたエリオは喉を危うく詰まらせるところだった。
「ま、まだ先生と王様とかにしか言ってない筈なんだけどな……」
「俺の父上はヒッシー王直属の情報を扱う臣下だ、家には王国の事ならなんでも情報に入ってくる。もちろん、この俺にもな!」
ちょっとドヤっているルキだが、エリオは「でも、情報を扱っている家の貴族なのにここで話して情報が漏洩したらダメな気がするけど……」と言い、それにはルキがわざとらしく咳払いをした。
「その様子を見る限り、本当に居なくなったんだな……ふん、アレスも所詮その程度だったという事。大した能力も無いくせに無茶するのが悪いのだ」
普段から自信満々でいかにも貴族らしく周りを自分のアイレベルよりちょっと下あたりに見るルキだが、今はエリオの目には悲しんでいるようにしか見えなかった。
エリオとルキが友達関係になったのも実はアレスがキッカケで、ルキは元々ぼっちの極みを突っ走っていた貴族のお坊ちゃまだった。
クロウリアはコズモで一番栄えており、広い国だ。しかし王様はクズでぶっちゃけあんまり仕事をしないので、国を回す為の臣下は優秀である必要があった。ちなみに一体何故、そんな王様の元で大人しく働いているのかと言うと、王様には代々王家に伝わる、人を操る魔法や純金を作ることができる魔法が使えるからだ。だからこの国の国民達は、王様に誰もが従っているのだ。それはもちろん、勇者たちも例外ではない。
魔法の才能があったルキは将来国の為に様々な事を勉強し、その実力はクロウリス学校から推薦書が届く程だった。その為ルキは貴族の間ではかなり有名人で、誰もが注目する存在……なのだが。
丁度勇者達もクロウリス学校に入学する事が決まり、ちょっと目立たなくなってしまった有名人に。一応注目されはするもののどうしても勇者達の方へ視線は向き、自分に寄ってくる者はどれも取り入ろうとする者ばかり。
下心しかない目をするような奴らが嫌いだったルキは、思惑があって寄ってくる貴族達を徹底的に拒否していた結果、気がつけばぼっち街道まっしぐらだった。
友達が居なくて寂しいとかは全くない、何故なら俺は天才で孤高な貴族の男だからな。……寂しくなんて、ないからな!!
というふうに自分を慰めていた事もあった、そんなある日。たまたま一人で居るアレスを見かけた時に、ルキは同類の匂いを感じ取っていた。
アレスは勇者でありながら兄弟が居る時以外は基本的にぼっちで地味、兄達より目立たない(そう見せかけているだけだが)
それに対して社交的なハイド、常にそんなハイドの後ろに隠れるエリオとは違い、アレスは我が道をゆくマイペースな子だった。そんなアレスにルキは衝撃を受けた。
時々兄弟達と別行動をしては、自分と同じようにぼっち街道を突っ走っているではないか! まさか、仲間か!? 同類なのか?!
それからというものの、ルキはアレスとお友達になる為、自分の有能さを見せつけ自分の方が上だと言うことを知らしめ(全く相手にはされないが、ウザがられている訳でもない)友達になった方が得だと思わせようとしていたり、たまにアレスに「い、今なら俺の手下にしてやらない事も……無い、勇者とはいえただの庶民。この上流階級の人間である俺の手下になれるのだ、光栄に思うといい!」と言いに行ったりする。もちろんこの言葉の意味はお友達になってください、だ。とても回りくどくて、分かりづらいし空回りしているのだが。
そしてアレスにマウントを取るルキの様子が、エリオには『ふん、どうだアレス! この俺の有能さは! お、俺の友人になれば、い……いつでも! 天才な俺がお前を助けてやらないことも、無いぞ! 分からない所もちゃんと分かるまで、特別に! 特別に教えてやる! だからさっさと友達になると言え! ……言えと言っているだろう!』というふうに見えて仕方なく、エリオはもしかしてアレスと友達になりたいんじゃ……と思い、珍しく人見知りなエリオの方から話しかけたのである。
そしてエリオがアレスの事を本人が知らぬ所でルキに伝えたり、フォルに続いて素直ではない性格の一人であるルキを応援したりアドバイスをしたりするようになり、いつの間にか友達関係になっていた。一応ルキにエリオという友達はできたが、ルキはまだアレスを手下(友人)にする事を諦めてはいなかった。
「ところで、ハイドはどうした? いつも傍で食べているだろう」
「うん、そうなんだけど……ハイド、アレスを探す為に来年に卒業をして旅に出たいみたいなんだ。だから急いで食べて図書室に行っちゃった」
そう言うとルキは「え゛っ」というような驚愕した表情をする。
「来年卒業……!? ただでさえ一年で三重星まで制覇するのは極わずか、アレスに至っては四重だが……そもそも一番早くても3年だぞ!? 」
「本当は学校の図書室の魔導書とか沢山読んだり、沢山勉強する為に余裕を持って3年間通うつもりだったんだけどね……」
「余裕を持って……!?」
なら一等星になるまでの時間を最速目指して
「いくら勇者だからといって、あの不真面目なハイドがそんな事できるのか? いつもリリアーネ先生の授業で寝てるとはいえ、筆記テストも実技テストも毎回平均より少し上。努力すればできなくはなさそうではあるが……」
「うーん……確かに普段ハイドは授業中に寝てる事あるけど、実はあえて平均点を予想して状態を維持してるだけなんだよ。レポートとか論文は先生が驚く程本当に凄いから、授業態度とかあんまり良くなかったりテストの点数が平均点でも三十星になってるんだ。ただそのレポートとかはそれ以外の人に見られたくないから、先生に頼んで最優秀者としての公開はされてないけどね」
「……は?」
「ハイド、エリオ達の中で一番頭が良いんだ。むしろアレスが昔からちょっと物覚えが良くないというか……。その分、沢山努力して今では頭が良いから、エリオが1番頑張らないといけないけれど」
「そ、それは本当の事なのか!?」
驚くルキにエリオは頭を縦に振ると、エリオは半年前の事を思い出す。
『ハイドであれば、1年と経たずに一等星になれるだろう。何故やる気を出さない』
『だって……だってさぁ~、嫌なんだよ~~! ヤダヤダヤダ!!』
半年前、小さい子のように駄々をこねるハイドにアレスはじとっとした冷たい目でそう問い詰めた。
『あのボンレスハ──じゃねぇ。王様に言われたから一等星になったら卒業したらすぐ旅に行かなきゃなんないし。一週間以内に200km以上村から離れないとクロウリアから強制追放されるし!
だからお母さんと一緒に居る時間もちゃんと取らせてくんないし。それにいつも3人で居るのに、1人で行く事になるから……寂しいんだよ。だからいいじゃんか、一緒に卒業してもっ!』
『確かに、そうだね。もしエリオがハイドの立場だったら、寂しいと思うし……。同じ事、しちゃうかも』
『……否定はしない』
『だろ!? それに正直言うとさ、お兄ちゃんとしては心配な訳! アレスは食いしん坊でそこら辺に落ちてる変な色のキノコも食おうとするし、エリオは方向音痴ですぐ道に迷うし! それに……寂しいって気持ちもあるけど、なんか離れんの嫌だし。だからヤダ!!』
それには2人が少しハイドに呆れるのではなく、肯定した。いくら勇者でいつかは必ず旅に出る事になるとはいえ、育ててきた母親との時間も取れない。その上、旅立つ日がバラバラになり、別行動をする事になる。
それは分かっているが、いざそう考えるとやはり一緒に育ってきた片割れと離れるのは寂しい。そして感情とは別だが、何となく傍に居ないといけないというか、本来そこにあるべき物が無いような感じがして、落ち着かないのだ。
既にこうしている今も、エリオはなんだか落ち着かないでいる。
「うん。それとハイド、あぁ見えて寂しがりで弟にいつも構ってほしがりなお兄ちゃんだから」
~・~・~・~
「おぉ、雨が止んだみたいだね勇者クン! ここから君の冒険が始まるんだよ、今すぐにレッツでゴーしなくちゃ!」
「……」
紅茶セットを水の魔法アクタで洗いながら、アレスは自分よりもテンションが高く、張り切っている様子のティアを見ながら「やけに機嫌が良いな」と言う。
「ボクは待ったりするのと、退屈な事が大嫌いだからね。さぁ、勇者クン! この子の背に乗って大空へ向かおう! 読者の皆も待ちかねて、何人かもう見るの止めた人もいると思うし!」
「……そうだな」
アレスはそう答えると、ナッツに近づいてしゃがみこみ、頭を鱗の向きに沿って撫でる。
「これからずっと……僕が代わりにナッツの背中に乗ってもいいだろうか?」
言わずもがな、その代わりというのはハスリオドの事だ。一番父親に似ている自分が、背に乗る事によりナッツにとって第二の親であるハスリオドの事を、思い出してまた悲しむかもしれない。ドラゴンは高い知能がある分、人間と同じように感情豊かなのだ。
「きゅっ! ( いいよ!)」
だがアレスが心配していたよりも、案外平気そう……というよりもむしろ喜んでいる様子のナッツ。早く乗れと言わんばかりに服を口で引っ張ってくる。仕事上、ハスリオドは護衛対象をナッツの背に乗せる事もあるからか(その時はビビり散らすナッツに乗るまでに時間がかかるが、とても安全である)幸いにもドラゴン用の鞍は二人乗りできるようになっていた。
「あぁ、ありがとう」
アレスはナッツを一撫ですると、背に乗ろうとしたがふと気がついた。
「……ティア、今更だがここは何処だ?」
「勇者クン、ようやく気がついたの?」
そう言われ、アレスハイドティアに一体ここは何処なのかを再び聞く。だがしかし……。
「さぁ? ボクがあの村に来る時、たまたま見かけた廃墟にキミをこの子で運んだだけだから」
「……」
「でも一応キミのブローチに
アレスはすぐにブローチから地図を取り出してみるが、それはアレスがよく知っているような紙製のものでも皮製でもなく、薄いツルツルすべすべした透明な魔法石の板。通常の魔法石は物によってガラスや水晶程度の硬さしかないものもあるのだが、少し魔法で解析してみると、どうやら黒曜石やダイヤモンド、それ以上に硬いようだ。どことなく現代のタブレットのようにも見え、似た大きさをしている。裏に複雑な魔法陣が彫られており、アレスは少し魔力を流し込んでみた。
「……?」
しかしぼんやりとアレスの魔力色である赤橙色に光るだけで、何も起こらない。
「まぁ地図はまだ使えないから何も表示されないんだけどね」
後からそう言われ、アレスはジトーッとした目でティアを見つめるがティアはそんなアレスを楽しげな様子で見ていた。またからかわれる主役。
「この地図を使うにはまず他の地図を手に入れて、この地図に情報を移さないといけないんだ。……一言でぶっちゃけると、オープンワールドゲームにありがちなやつだよ。ただ、その代わりに情報が分かっている場所はボク達が一体どこにいるのか、どこの方角を向いているのかも分かるし、ナビゲートしてくれるから凄く便利だけど……逆に情報が分かっていないと表示してくれない」
「つまり村か街を探し、地図を手に入れながら経験値を得る旅をしていけばいいのか」
「そういう事。それにボクの故郷である魔界に行く為には、この地図を完成させる事が前提事項だし。その途中でボクの夢である世界征服実現の為にも、旅の先々で予め人間たちをボクの支配下に置いておくのも悪くないからねぇ」
「……そうか」
本気なのだろうかとアレスは思いつつも魔法の地図をブローチにしまい、ティアに左手を差しのべた。
「太陽の位置からして、今は午後の3時頃のようだ。そろそろ行かなければ、日が暮れてしまう」
「……あぁ、本当だ! どこかの眷属が、ご主人様の膝の上で気持ちよく眠ってたせいでこんなに遅くなってる!」
そう言いながらティアはどこからか懐中時計を出して、アレスの手に自分の手を乗せる。
「……それはすまない、今は地図より今日寝る場所を探さなければ。この廃墟はとてもかび臭いからな、あの出来事がなければ……僕は臭いのあまりに眠れていなかっただろう」
だが膝の上で寝かせたのはティアの方ではないか。なんて言葉はレディーに対し紳士として相応しくはないと思い、アレスは口には出さずにティアをナッツの背に乗せ、落馬ならぬ落竜をしないよう、鞍にある安全ベルトをティアの足や腰にしっかりと着ける。アレスもナッツに乗ると、同様にベルトを着用した。その後でティアはぎゅっとアレスを抱きしめて掴まる。ティアがやはり押し付けているようで、思いっきり豊かな胸がアレスに密着しているが……。くっつかれた方のアレスはティアのからかうような視線に気づいていたので(やっぱり意識はそっちに行ってしまうものの)しっかりと手綱を握っていた。
が、ここでアレスは重要な事に気がついた。
「……よく考えてみると僕はナッツの背に何度か乗り、ゆっくりと走らせたことはあるが、空を飛んだ事は一度も無いな。ナッツ、僕はまだ慣れていないから、ゆっくり走ってく──」
「きゅーっ! (しゅぱーつ!)」
2人が落ちなさそうなのを確認したナッツは、一鳴きして屋根の抜けた所へいきなり走って行くと、アレスの体がぐんっと後ろに倒れそうになった。
「んふふ、レッツゴー!」
「ナッツ!? 待て、待ってくれ!! いきなり飛ぶのはまだ──」
ナッツは地面からジャンプするのと同時に勢いよく羽ばたく。ナッツはまだ幼体ではあるが、やはりドラゴン。人間よりも大きな体が飛び立つ姿はとても力強く、とても壮観である。
一瞬にしてゴマくらいの大きさにまで飛んで行った。