哲学的な話が出てきます
照月がゲームにハマった。
飲み会の時にFF9が話に上がった事をきっかけに照月が気になると言い出し、そのまま響の部屋にあるゲーム機でやることになった。
初めの方はストーリー上に出てくるキャラの反応を笑ったり、引いたりしていたけどしばらくすると僕や響の言葉に相槌を打つ以外の反応をしなくなった。
面白くないのかと不安に思ったが、それだけ集中してしまうほどに面白いという事らしい。結局その日は、酒を交えつつも日付が変わるまで照月はテレビ画面に向かっていた。
彼女いわく、いわゆるテレビゲームをやるのは人生で初めてだけどストーリーが非常に面白く先が気になってしまうらしい。口にしていたのはもう一人の方だけど本来の照月も同じらしく楽しんでいるとの事だった。
ゲームをやっている照月を見て、彼女が立場関係を非常に重要視している事に気づいた。一国の姫という立場の割には行動的過ぎるヒロインを子供みたいだと言っていたし、彼女や主人公にしつこく着いてくる騎士に頭が硬いと言いつつも同情していた。
30分前集合が当たり前と言っていたり、立場関係を重要視しているのを見ると彼女はプロの軍人に近いのかもしれないと思った。
次の日以降も照月は任務が終わるやいなや響の部屋へと向かっていくようになった。照月が執務室から消えた事でどうしても執務は忙しくなる。
照月とのゲームの付き合いは響に任せることにした。初めは難色を示した響も買い出しの時にウイスキーを買う約束をしたら、あっさりと了承してくれた。
ゴミ捨て場に捨てられていた時に助けてもらったり、一緒に叢雲に謝って貰ったりと響には感謝しなければならないことだらけだ。
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夕食終わりに響の部屋の前を通ったら、中からワイワイガヤガヤと響と話し合う声が聞こえた。
「このボス強すぎない?」
「レイズ唱えると即死するよ」
「えっ、レイズって蘇生魔法じゃないの?」
「FFのお決まりなんだけど相手がゾンビだと面白いことが起きるんだよ。騙されたと思ってやってみて」
「分かった」
部屋の戸を開けると照月がテレビに向かっていた。その横で響は安物のウイスキーをチビチビと飲んでいる。
「照月、今日は深海棲艦で遊ばないのか?」
「今日はゲームが気になったのでそっちを優先したいです。深海棲艦とは出撃の時に沢山遊んできたので十分だと思っています」
液晶画面から目を離さずに照月が呟いた。
「そうか……」
偶然勧めることになったFF9だけどかなり夢中になってくれているらしい。深海棲艦を拷問する習慣よりも優先しているのは意外だったけど照月にとっても良い事だと思う。あわよくばこのまま狂気から脱却して欲しいと思うが高望みのし過ぎだろうか?
「でも、夜はいつも通りのつもりなので楽しみにしていて下さいね」
「分かった……」
ゲームに照月を取られたみたいで寂しくも感じるけど照月と共通の話題を見つけれていたのは良かったと思う。落ち着いた時に話題にすれば盛り上がるだろうか?
突然、後ろのドアが開いた。
「いたいた。夕食は食べ終わったでしょ? こんな所で何やってんのよ!」
叢雲の怒鳴り声に冷や汗が出る。
「あっ……すまん」
「執務はまだ終わってないわよ。油売ってないで早く執務室に戻りなさい!」
叢雲に引っ張られて執務室に戻り本来の任務へと戻った。
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初めは中世ヨーロッパ風のファンタジックな子供向けの絵本のような世界だと思った。
だけど実際の話の内容の中身は戦争や虐殺といった流れが出てくる暗い話だった。
狂っていくヒロインの母親のプラネ王女。生物兵器の黒魔道士兵に一方的に嬲り殺しにされる兵士や市民。召喚獣に焼き払われる村。黒魔道士兵の残骸をリンチにかける市民……
気分が悪くなる描写が沢山出てくる。
それなのに主人公は明るく、困っている人を放っておけないお人好しで軽いと感じる事も多いけど見ていて元気が出る。
他の登場人物も皆、それぞれの個性があって1つの話を作っている。敵である黒のワルツと飛行船で迫力満点の追いかけっこをしたり、女王の狂気についていけなくなった親衛隊の女性隊長(何度か戦う場面があるが彼女には絶対に勝てない)が女王を見限って主人公達に協力したり……半分ぐらいしか進めていないけど既に見所がたっぷりだ。
「ここら辺で中盤かな」
響ちゃんが呟いた。
「まだ半分なんだ」
「見所はまだあるよ」
「えっ、本当に?」
「ネタバレになるからあまり言えないけどここからは話のテーマが変わってくるからね」
「へー、そうなんだ」
響ちゃんが言うにはここから先に更に見所があるらしい。これから先のストーリー展開が楽しみになる。
ふと、仲間の1人であるビビが目についた。
彼は仲間のメインキャラクターの一人であり、人型兵器である黒魔道士兵の試作型だ。9歳ぐらいの見た目で内気な性格をしている。可愛らしい仕草が多かったり、素直な子供みたいな感じがすることもあって私自身も彼に愛着がある。提督や響ちゃんからこのゲームの顔枠だとも聞いた。
黒魔道士兵は作られた物で命が無いロボットのような存在だ。だけど、1部の個体は自我を持っている。命が無いのにも関わらず自我を持つことになった彼らはまるで人間のようだった。
命が無くても意思や感情があればそれは生きていると言えるのだろうか?
私たち艦娘に命はあると思う。だけど作られた物という意味では、液晶画面に映っている黒魔道士兵と変わりない。彼らと私たちの命があること以外の差は何なのだろうか?
「ねぇ、どう思う?」
本来の私に聞いてみた。
(ごめん。私、難しい事分からないから何も言えないや……)
「はぁ……そういうこと苦手だよね」
「照月?」
響ちゃんからしたら独り言を話しているように見えたのか声をかけられた。
「ねぇ、響ちゃん」
「どうしたの?」
「生きてるって何なのかな? 今、本来の私に聞いてみたんだけど分からないって言われちゃった」
「急に哲学的な事を言い出すね……何かあったの?」
「艦娘と黒魔道士兵って何が違うのかなって思って……」
「なるほどね」
響ちゃんが少し考えるように琥珀色の液体の入ったグラスに口をつけた。
「私は自我を持っていることだと思う」
「自我?」
「うん。自分の意思で行動できるかで別れると思う」
「それって自我が無ければ生きていないってこと?」
「私はそう思うよ。例えば植物人間みたいに自我の無い人間は私は死んでいると思う。医学上は生きているとしてもね」
「そうなると……自我の無い状態の黒魔道士兵は生きてないって事?」
「そうだね。死人が生き返っているみたいで変な話だけど、彼らは自我を持つようになって初めて生きていると私は思う」
「なるほどね……」
響ちゃんの言うことには一定の説得力があった。だけど……何かが違う気がする。
「照月は、このゲームのビビのキャッチフレーズ知ってる?」
「何だっけ? もしかしたら知らないかもしれないけど」
「生きてるって証明できなければ死んでしまっているのと同じなのかなぁ…… だよ」
「あー、なるほどね……」
響ちゃんの言いたいことが少しわかった気がした。他の黒魔道士兵と同じように試作型のビビにも当然ながら自我があっても命は無い。
「ちょっとずれた答えになってるけど私はビビが死んでいるとは思えない。だから、こう考えている。照月はどう思う?」
「うーん……私から聞いておいてだけど分からないかなぁ……あっ、でも私もビビが生きているとは思うよ。だけど、自我の無い黒魔道士兵も生きてないと言うとちょっと違う気がしてね……」
「それは照月の受け取り方次第だと思うよ」
「うーん……難しいね。提督はどう考えているのかな?」
「キリがいい所だし、聞いてみたら?」
「そうだね。今日も付き合ってくれてありがとう」
丁度セーブが終わった所だったし、ゲーム機の電源を切った。
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執務室に向かう途中、ちょうど執務が終わったのか叢雲ちゃんとすれ違った。
「執務は終わったの?」
「何とかね。全く……照月がゲームばかりやっているせいでこっちは大忙しよ」
「アハハ……ごめんね」
苛立ちを隠さない叢雲ちゃんに誤魔化すように笑いながら言った。
「そういえば聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
「何?」
「最近、アイツとやけに距離が近くない?」
「そう? 気のせいじゃない? 私は提督を都合の良い相手としか思ってないよ」
私の答えが気に食わなかったのか叢雲ちゃんの表情に嫌悪感が浮かんだ。
私としては、提督を受け入れたことを除けば私から距離を縮めたつもりは無い。縮んだように見えるのは、向こうが勝手に近づいてきたのを私が都合良く利用しているからそう見えるだけだ。
私にとって提督はあくまでも都合の良い人間でしかなく、言い方を悪くすれば提督は私の性奴隷のような立ち位置に近いと思う。提督もそれを分かっているし、その上での付き合いだ。
「今の照月はそうかもしれないけど本来の方はどうなの?」
(話さないで!)
「ごめん。話せないや。本来の私が話さないでって叫んでる」
「そう……」
叢雲ちゃんが不満そうな顔をした。
「ゲームをやるのもいいけど程々にしなさいよ」
「うん。分かった。叢雲ちゃんおやすみー」
「おやすみなさい」
軽く挨拶をして別れた。
最近、叢雲ちゃんの機嫌が悪い気がする。出撃の最中はいつもピリピリしているし、提督の前じゃなくても不満そうな顔をしている。何が気に入らないのだろうか?
叢雲ちゃんの心理は分からないけど、一つだけ分かることがある。今は何もかも叢雲ちゃんの思い通りに話が進んでいない。何となく兆候を感じ取っているだけだと思うけど近い内に彼女は絶対に大きな後悔をする事になる。
気の毒だと思わない事も無いけど、これから何が起きても全部叢雲ちゃんの自業自得だ。感情論を押し通し、挙句には他人を巻き込んでまで素直になれなかった彼女が悪い。
最近の響ちゃんが叢雲ちゃんを避け気味なのはそれが原因だし、提督が私に強く依存している原因も同じだ。
まぁ叢雲ちゃんがどうなるかなんて私に危害が及ばない範囲ならどうでもいい事だけど……
念の為、彼女の心が折れた時の事を考えておくべきなのかもしれない。提督の秘書艦は私が務めることになるとして、大変な時は響ちゃんに付き合って貰うことになるだろう。場合によっては夕立ちゃんにも付き合って貰うことになるのかもしれない。
不安はあるけど、そうなってしまったらやるしかない。提督は未熟だけど提督として確実に成長はしているし、仕事は真面目にやるから何とかなるとは思う。もしかしたらだけど、上手くいって結果的に彼の自信に繋がるかもしれない。
とはいえ、叢雲ちゃんが暴走しなければの話だし理想論にすぎないけど……
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執務室のドアを開くと提督が申し訳なさそうな顔をして私を出迎えた。
「照月。付き合ってやれなくて……すまないな」
「響ちゃんが付き合ってくれたので大丈夫ですよ。始める前にちょっと聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「どうした?」
「提督は生きているというのはどのようなことだと思いますか?」
「生きるという事か……」
提督が考え込むような仕草をした。
「昔読んだ哲学の話だけどいいか?」
「大丈夫ですよ」
「上手く説明できるかは分からんがなんで生きているかを考えるためじゃないか? という話だ」
「どういうことですか?」
「君には言いにくいかもしれないが極論を言えば照月も僕も叢雲や響、夕立も生きていることには意味はない。それは、分かるか?」
「えっ、私は本来の私のために生きているつもりですよ」
「……話を変えよう。本来の照月はどうだ?」
考えたことの無い質問だった。
「あっ、えーと……」
(無いと思う)
戸惑う私に本来の私が頭の中で呟いた。提督に話しを合わせようとしているのでは無い。本音なのだと思う。素直に彼に伝える事にした。
「本来の私が無いと思うと呟きました」
口にして意識がグラりと揺れるのを感じた。本来の私は生きている事に意味が無い。なんで、本来の私は意味もないのに生きているのだろうか?
「今は本来の照月が起きているのか……。これも、本来の君に聞いて欲しいんだがだからと言って今ここで自殺するか?」
(えっ?)
「生きている意味がないなら生きていてもしょうがないだろ?」
(……)
本来の私は黙ってしまった。だけど、言いたいことは何となく分かる。
死んでもいいけど今死にたいとは思わない。矛盾したような話だけど、これが提督の質問に対しての相応しい答えだと思う。そうでもなければ説明がつかない。
「でも、こんな理由で自分から死にたいとは思わないよ。いつ死んでもいいとは、思っているけど……と言っています……。実は、生きる事に意味が無いのになんで本来のわたしが死なないのかを疑問に思ったのは今の私も同じです」
本来の私は否定の言葉を口にしなかった。当たっているのだと思う。
「なんで死にたいと思わない?」
(なんでだろ……)
「分からないみたいです。一般的には死にたくないからで片付きそうですが私の場合は、ちょっと違う気がしますし……」
本来の私が分からないのに私自身が分かるはずがない。私は生きる意味が無くなったら死ぬつもりだ。存在意義が無いならどう生きていけばいいのか分からないから……。
「自殺について踏み込んだ話をするか。自殺するというのは、人生は生きる価値がないという事の現れだ。君の姉の秋月の自殺も自分の事よりも妹の涼月の事を思ってのことだろ?」
(そうだね……)
「そうですね……秋月姉さんは涼月の為に死にました。自分自身の事よりも涼月の事を優先した故の決断だと思います」
私という自我がはっきりと形成される前の事だったから秋月姉さんとあまり話はできなかったけど本来の私の記憶からどういう人だったかは何となく分かる。
私の勝手な想像だけど秋月姉さんは死ぬことを恐れていたと思う。だけど、同時に自分自身が生きる事の無意味さ(無意味よりも酷く妹に頼りきりで生きていると考えていたかもしれない)を理解していた。
秋月姉さんを生きさせていたのは死への恐怖だけだったのかもしれない。そして、秋月姉さんは自分自身よりも涼月の事を大切に思っていた。
死ぬ事への恐怖よりも無意味な自分の命を犠牲に涼月の邪魔にならない事を優先し、それが自殺という形で現れた。そんな所なのだろう。
「不条理だと思わないか?」
「不条理ですか?」
(不条理……?)
「生きていることには意味がない。だけど、今の時点では死にたくないし、生きていたい。おかしな話だろ?」
不条理。もう1人の私が抱え持つ矛盾にその言葉が妙にしっくりと当てはまるのを感じた。
「たしかに言われてみると変な話ですね」
「その哲学だと人生の意味は生きる不条理を超えた所にあるからだと言っていたよ。たとえ無駄だとしても皆が生きている意味への答えを探す。だから生きていられる。そんな話だった」
「なるほど。だから、提督は生きる事というのは生きる意味を探す事というわけですね」
「そうだな」
私が初めて提督という人間を見直したことに対し、本来の私は考えたい事があるのか黙ってしまった。
「ちなみに提督は答えを見つけれたのですか?」
「一応はな……」
「お聞きしてもてもよろしいでしょうか?」
「その……もしかしたら……誰かと出会う為だったのかも……」
(……!)
ため息をついた。私に会うためだったとでも言いたいのだろう。来た時からそうだったけど、この人が変な所で強がったりカッコつけたがるのは相変わらずだ。
「提督。申し訳ございませんが流石にダサいと思います」
「すまん……流石にそうだよな……」
提督が力無く笑った。カッコイイとおもったのが下らない一言で台無しだ。本来の私は違うみたいだけど、提督を都合の良い相手としか思っていない私はそう解釈してしまう。
「でも、生きている事に意味が無いからこそ生きるという考え方は、私も気に入りました。ありがとうございます」
本来、聞きたかった事とは少しズレた答えなのかもしれない。だけど、考え方としては気に入った。
「役に立てたなら良かったよ」
提督が笑顔で言った。
仮に本来の私が消えてしまったとしても、私の生きる意味が失われてしまったとしても生きる意味が無い事に抗う、または何か生きる意味があれば、私も生きていけるのだろうか?
その場で少し考えてみたけど答えは出なかった。