今回は照月に出番がなく、叢雲メインです。
叢雲視点→提督視点→三人称視点 の順で視点が変わります
最近アイツがおかしい。
何を言っても落ち込んでいる時を見ない。話を聞いてると思う。ミスなどを指摘すると次の日には改善しているしその場は悪い事をしたという顔をする。だけど、馬鹿等の暴言には馬耳東風だ。以前の落ち込んでばかりのあいつと違って気味悪さすら感じる。
それに、最近照月とやけに距離が近い気がする。最近、響が持っているゲームを3人でやって盛り上がっているから、それが理由だと言えば説明は簡単だが、アイツの心を本気で折りにいったその次の日なのだからなのだからそんな話じゃないと思う。
臆病なアイツが中将という立場が圧倒的に上の人間に反抗したのも違和感を感じる。あの場では私も内心笑っていたし、アイツの事を少し見直したりもしたけど冷静に考えてみるとやっぱりおかしい。
一般的に、臆病な人間が自分よりも強い立場の人間に立ち向かうには大きな労力を要する。それができないから臆病な人間は委縮してしまい、理不尽な要求を受け入れてしまう。
アイツにそうさせるだけの何かがあったとしか思えない。アイツの好きな照月との間に何かあったのだと思うけどまさかアイツがあの子の狂気を全面的に受け入れたとは思えない。あの子の狂気を受け入れるのはアイツ自身が狂っていなければできるはずがないから。
あくまでも私の勘だけど、ろくでもない事が起きている気がする。自分で言うのもおかしいと思うけど私の勘はよく当たるし、今までの経験で不確定要素を残しておくのは大抵の場合、悪い事が起きる。
明らかにしなければならない。
理由は分からないけど最近、響は任務の事以外で口を聞いてくれなくなったから今回は私自身でやる必要がある。
どうせ大した事じゃないし私自身の手で直ぐに解決できるだろう。そうタカをくくっていた……
ー--------------------
照月と生きることについて話をしてから数日が経った。
「これで終わりだな」
「そうね」
今日は早めに執務が終わった。照月は相変わらず響とゲームをやっている。早めに合流しようと席を立った。
「ねぇちょっといい?」
照月の所に向かおうとしたら叢雲に声を掛けられた。
「どうした? 仕事は終わっているはずだぞ」
「話したいことがあるのよ」
「何だ?」
「最近照月とやけに仲がいいわね」
そんなことかと思い彼女と付き合っていることを話すことにした。
「一応、付き合っている身だからな」
「は? 何があったのよ」
叢雲の顔に動揺の表情が浮かんだ。隠していてもしょうがないし、どうせバレる。話した所で何も起きないだろうし、彼女との間に起きた事を素直に話すことにした。
「照月に利用されるだけの存在でもいいから、傍に居させて欲しいと言っただけだ。一方通行の恋だけど照月は笑顔で受け入れてくれたよ。大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
話しているうちに叢雲の顔が死人を見たかのように真っ青になっていった。
「な……何やってんのよ!」
「そんなにおかしい事か?」
「悪いことは言わないわ。今すぐに別れなさい」
叢雲が机に手をついて前のめりになりながら言う叢雲に少し委縮してしまった。
「突然、何を言い出すんだ?」
「アンタ、自分が何をしているのか分かっているの? あの子は狂人よ。このままじゃアンタもおかしくなるわ」
「そんなことは覚悟のうちなんだが」
「覚悟のうちって……何馬鹿な事言ってんのよ! あの子はアンタを都合のいい性処理の道具としてしか見てないのよ! そんな子に人生を狂わされてもいいって頭がどうかしてるわ」
頭がどうかしている。その通りかもしれない。そうでなければ照月を愛せないし、一方的な好意だと自覚しつつも彼女に全てを捧げる事なんてできるはずがない。
改めて照月が受け入れてくれて良かったと思った。
「そうかもしれないな」
「そうかもしれないなって……馬鹿な事言わないで! まだやり直せる。今からでも遅くないから……だから今すぐに照月と関わるのをやめなさ……」
「嫌だ!」
照月との関係を否定する言葉に気づいたら声が出ていた。
「嫌だって……私は全部、アンタのために言ってるのよ!」
意味がわからない。今まで叢雲は僕の事を徹底的に否定してきた。褒められた記憶は殆どない。殴ったり、蹴ったり、暴言を吐いたり……それに僕の事を大嫌いと言ったのはそっちじゃないか。
何かしらの悪意があって言っているとしか思えない。それに、今更僕のためなんて綺麗事を言われて誰が信じるというのだろうか?
「何を言ってるんだ? 今まで僕の事が大嫌いで弱みを握ったのをいいことに好き勝手やってきたのが叢雲だろ?」
「そのことは謝るわ。ごめんなさい」
あまりにも都合の良い返事にイラッとした。
「ごめんなさいってな……いくらなんでも都合が良すぎると思うぞ……」
「今回は、わけが違うのよ! いいから言うことを聞きなさい!」
「悪いが聞く気にはなれない」
「人間のアンタには、両親がいるでしょ? 狂ったら悲しむわよ!」
叢雲にとっては何気ない一言だったのかもしれない。だけど、はらわたが煮えくりかえるのを感じた。
「馬鹿にしてるのか?」
「え?」
「両親はもうこの世にいない。死んだ人間が悲しむことも何もないだろ?」
「つっ……悪かったわね……」
顔を背け悪そびれもせずに言う彼女の態度が怒りの感情を逆撫でする。いつの間にか右手に握り拳ができていた。
「君がなんと言おうとも僕は照月との付き合いを変えるつもりはない」
「じゃあいいわ。アンタが照月と別れなければ提督を辞めさせる。これならどうするの? 前にも言ったけどコピーの写真はまだいくらでもあるのよ」
思わず いい加減にしろ! と叫びそうになった。
いつもそうだ。叢雲はいつもこれを脅し文句に使う。いつもなら大人しく引き下がるけど、今回ばかりは、絶対に引くわけにはいかない
正直に言って、照月と別れるぐらいなら死んだ方がマシだ。この会話が終わったら僕は首を吊る事になるだろう。だったら……最後ぐらいは言いたいことを全て言ってもいいじゃないか。
「最低だな」
叢雲の顔を見るのも嫌で彼女から顔を背けた。
「は?」
「何か気に入らないことがあると直ぐに写真をネタにする。いつもは僕を虐める口実にしているけど、最終的には唯一残った物さえも奪うつもりか?」
「何が言いたいのよ」
「要するに君は、無理矢理にでも自分の中のエゴを押し付けたいだけだろ?」
「エゴですって!?」
思わぬ反撃だったのか叢雲の声なら彼女がうろたえるのが受け取れた。
「君の嫌いな人間が勝手におかしくなるだけのことじゃないか。君が首を突っ込むような話じゃないだろ?」
「つっ……」
「クビにしたいなら勝手にしてくれ。だけど、照月との付き合いを辞める気は無い」
ペンを机に叩きつけるように置いて立ち上がった。
「待ちなさい! どこに行く気?」
後ろから叢雲の叫び声が聞こえた。
「照月の所だ。邪魔しないでもらえるか?」
「本気で心配してるのよ!」
「まだ言うのか? どうしても君の小さな自己満足を満たしたいなら好きにすればいいじゃないか。君の望みは叶うし、大嫌いな人間が鎮守府から消えるし一石二鳥だろ? そうなったら、大人しく消えてやるよ。だけど、それをするならクビにされるまでは、好きにさせてくれないか? 照月との時間を君との喧嘩に使いたくないからな。うわっ!」
後ろから肩を引かれ、地面に倒された。
「うるさい! アンタは黙って私の指示に従っていればいいのよ! 提督を辞めろと言ってないんだし、大人しく従いなさい!」
視界の先には激しい怒りの表情を浮かべて僕を見下す叢雲がいた。
「いい加減にしろ! やりたいなら好きにすればいいって言ってるじゃないか! だから、最後の時ぐらい自由にさせてくれ!」
「アンタこそ子供みたいに駄々をこねるのもいい加減にしなさい! 大体、あの子のどこがそんなにいいのよ! 命を捨てる程じゃないでしょ!」
照月を貶す言葉に自分の中の何かが切れる音がした。
「黙れ!」
生まれて初めて出したと思える程の大声が出た。大声に怯んだ叢雲の隙をついて立ち上がった。
「君の大嫌いな1人の人間が好きにしようとしてるだけだろうが! 放っておいてくれ! どうせ僕が発狂しても、首を吊ってもざまぁみろぐらいにしか思わないんだろ? 死んだ僕の事を馬鹿みたいって笑うだろ? ああ僕は馬鹿だよ。何もできない大馬鹿者だ。現実が見えていない大馬鹿者のやる事なんだから好きにさせてくれ!」
「なんで……なんで、そんな事言うのよ……」
叢雲が下を向いて震えながら呟いた。
「なんでって、君が今まで言ってきた事だろ? 僕は視界に入るのも嫌な蛆虫なんだろ? そんな人間の事は放っておいてくれ!」
「そんな事……思うわけないじゃない……」
「じゃあ何なんだ?」
「アンタが死んだら私……悲しむわよ……だって……私、アンタの事、好きだから……」
叢雲からの思わぬ一言に心の中が空っぽになるのを感じた。
「は?」
叢雲が顔を上げた。涙目だ。
「好きだから本気で心配してるのよ。ねぇ……お願い。提督をやめろとは言わないわ……今までの事も全部謝る……写真も返す。でも、照月と別れて。せめて、照月と距離を置くだけでもいいから……」
叢雲の目から涙が零れた。
彼女は両手を広げてゆっくりとこちらに歩いてくる。言葉も気持ちも何もかもが理解できない。体の知れない気持ち悪さを感じた。
「止めてくれ!」
彼女の手を振り払った。
「叢雲、悪いが僕は君の考えが理解できない。滅茶苦茶だ。僕が狂ってることは否定しないが頭がおかしいのは君も同じなんじゃないか?」
パシン。
「つっ…」
目の前に飛び散る火花と頬の痛みに叢雲にひっぱたかれたことを理解した。
「もういいわ……。好きにして……!」
叢雲は逃げるように執務室から出ていった。
理解できない事への戸惑いもあったが、背を向ける叢雲に勝てないと思っていた相手を初めて言い負かしたという事実に強い高揚感を強く感じた
ー--------------------
衝動的に執務室を飛び出した叢雲は泣きながら自室に向かう途中、廊下で響に出会った。
「響……助けてよ!」
「無理」
涙声の叢雲に響は冷たく吐き捨てた。
「何でよ!」
「私じゃ提督を止められない。それに、キツイことを言うけど分かってるの? 提督をあそこまで壊したのは叢雲だよ。自分でやった事の落とし前ぐらい自分でつけたらどうかな?」
「そんな事言わないで……!」
「前にも言ったけど全部叢雲の自業自得だよ。元々壊れかけていた彼を完全に壊したのは叢雲、彼を虐めすぎた結果、照月に依存させたのも叢雲。そこら辺、わかっているの?」
「なんでそんなこと言うのよ……!」
叢雲も響の言っていることの理屈は理解できている、しかし、彼女の感情がそれを受け入れることを拒否した。
「気づいてたか分からないから言っておくけど、提督が執務室を飛び出したあの日、彼は防波堤で自殺しようとしてたよ」
「嘘……なんでその事を私に言わなかったのよ……!」
叢雲から涙声混じりの怒鳴り声が上がる。
「私は二人の仲を邪魔するのが嫌だから。それに、言ったら提督と照月の仲を邪魔する方に走っていただろ? 文字通り叢雲のエゴでね」
「エゴって……!」
「提督が自殺するのは私が止めたけど、そのまま 、私を事態を矮小化した茶番に付き合わせたよね? 叢雲は、提督を馬鹿にしていたよね? 向こうから頭を下げさせれば後は何とでもなるって考えていたよね? 私に彼が大切にしていた写真を破ったことを黙っていたよね? その上、今度は照月と別れさせたい? いい加減にしてくれないかな……?! 自分が何をやっているのか理解できているの!? 人を巻き込むのは辞めてくれない!? 私だって茶番に付き合わされるのは嫌なんだよ!」
響の口調は段々と強くなり、最後には怒鳴り声に近い物となっていた。普段の表情の乏しい彼女からは決して見られない激しい怒りだった。
「そんな事言ったって……私、知らなかったから……」
普段は絶対に見ることのない響の怒りと気づいていなかった現実に叢雲は小動物のように震えていた。
「彼が病んでいた事を知らなかったとは言わせないよ。照月の過去を知るまでの一週間、毎日死にそうな顔をしていたことぐらい気づいていたよね? その上で無慈悲な事実を叩きつけられて放心状態の彼を全否定したらどうなるかぐらい予想できなかったの?」
「つっ……」
否定のできない事実。叢雲はそれを見て見ぬふりをしていた。自分に都合の良い方向に向かっていくと無意識のうちに思い込んでいた。
「言っておくけど、照月と無理に別れさせたら今度こそ提督は自殺するよ。彼と照月の関係を受け入れるのか叢雲自身の手で彼を殺すか。好きな方を選びなよ」
「ばかぁ……!」
誰に言ったのかは分からない。叢雲はそう叫ぶと涙を拭きながら響の前から立ち去った。
「と、言いたいことは言ったけど放置しておくのは流石にマズイかな」
1人残った響がいつもの感情の乏しい表情で呟いた。
書き溜めが無くなってきたのでしばらく休載するかもしれないです……