提督が執務室を出ていってから30分後、私は一人でFF9のラスボス戦をやっていた。
ラストバトルは激戦となった。相手はストーリーに全く関わってこなかったパット出のよく分からない敵。正体はよく分からないけど直前に倒した宿敵のクジャが呼んだのだと思う。
よく分からないけど、とにかく決戦だ。敵の攻撃が激しい。味方がすぐに死にそうになったり、毒のような不利なステータス異常が発生する。そのたびにアイテムや回復魔法を投入して何とか戦線を維持しているけど、このままだとジリ貧だ。艦娘の任務だと撤退という選択肢があるけど、この場面には存在しない。思い切って捨て身の総攻撃をかけることにした。
必殺技を食らわして敵に大ダメージを与える。味方も次々と倒れていく。
あと一歩だ……もう一回……あと一撃で……
「やったー!」
ラスボスに勝ったことの喜びに思わず声が上がった。響ちゃんや提督のアドバイス無しに勝てるか不安だったけどなんとか勝てた。
これから待望のエンディングだ。提督からも響ちゃんからもすごく良かったと聞いているからとても楽しみにしていた。だけど……
「……なんで?」
エンディングのあるシーンで私は疑問を持った。主人公は常識的に考えて有り得ない行動をした。しかも、それが原因で主人公のジタンは一時的に行方不明となる。そのままハッピーエンドかと思っていたら意外な展開だ。
その後の展開は、行方不明になっていたジタンがヒロインとオープニングと同じ演劇の舞台で(加えて、劇中のセリフに合わせる形)現れる。
直ぐにヒロインはジタンの所まで走っていった。途中、女王として大切なペンダントを落としてしまい一瞬、それに戸惑うも彼女はジタンの所に向かう事を優先した。
最終的にはティアラすらも脱ぎ捨てジタンの元へと走る。ヒロインはそのまま舞台に到着し、主人公に抱きついて再会を果たす。
女王の証であるティアラを脱ぎ捨てるということは女王である事の否定を意味するとも取れるから、見方によっては一大事なのにも関わらず、周囲は2人の再会を立ち上がって拍手で歓迎して大円団におわる……という流れで、スタッフロールが流れ物語が完全に終わった。
響ちゃんが言っていたように、ファンタジーの結末として素晴らしいエンディングだった。
「でも……なんでかな……?」
ゲーム機の電源を切ったけど、ジタンのあの時の行動が頭の中から消えない。
「何か分かる? って……寝てるね」
本来の私はエンディングで感動して大泣きした後に疲れたのか意識を失っていた。眠っていたら会話のしようがない。私自身も最後の2人が再会するシーンは涙を流した。
だけど……あの時の疑問が消えない。
響ちゃんに聞こうにも彼女は部屋に閉じこもっているし、話を聞きに行きにいけないし、提督に聞きに行くしかない。それに、よく考えてみると問題のワンシーンと提督は似た事をやろうとしている。彼なら分かるかもしれない。私は執務室を後にした。
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防波堤から眺める海岸線は夕日で金色に照らされて美しく見えた。
「ここでいいか……」
自殺を考えていたあの時と同じ防波堤に腰をかけた。ウミネコが鳴く声と波の音しか聞こえない静寂。少し暑いけど1人で考えるには丁度いい環境だ。
執務室は照月が使っているからここで考えることにした。
照月からの協力が得られないのは残念だったが他人への面倒事を避ける彼女なら当然の事だろう。自分でやるしかない。
薬の効き目は確かだと思うけど、どう仕込もうか? 食事がベストだろうか? スープなどの液体に混ぜればバレないとは思う。単純な計画だけど薬が効き始めたタイミングを見計らって襲う。そうすれば成功だと思うけど……
「いや……いくらなんでもキツイよな……」
僕一人で上手くいくのだろうか? という根本的な不安にため息をついた。
叢雲にバレたり、失敗したら今度こそ命が無い。可能な限り、確実性の高い方法を取るべきだ。響か夕立に頼んで薬を仕組んだ食事を運んでもらおうか……
それに仕組むと言っても本当に叢雲に効くかは疑問が残る。響に薬がたまたま上手く作用しただけなのかもしれない。叢雲を押さえつけるのもどうすればいいのか不安しかない。彼女の方が力が強いし、僕自身が委縮してしまう可能性が高い。
肝心の行為についても不安が残る。照月を何度も抱いていると言っても僕の稚拙な技術で叢雲を絶頂まで導く事ができるのだろうか?
考えていると不安ばかり浮かぶ。もっと楽観的に考えてぶっつけ本番ぐらいのノリの方が良いかもしれない。だけど、ミスがあれば何もかもが台無しになる。それこそ、彼女に物理的に殺されかねない案件だし、誰も幸福にならない。今度こそ何もかもを諦めなければならなくなる。
「一人でできる事じゃないな……」
独り言をぼやいてため息をついた。僕一人でやるにはあまりにも壁が多すぎる。だけど、叢雲を何とかするのには今このタイミングしかない。
照月が言ったように黙らせておくのが一番楽で確実なのかもしれない。だけど、それは僕の信念に反する上に響に合わせる顔が無くなる。絶対に取りたくない選択肢だ。
だけど、現実を考えると叢雲を脅迫した方が何かと都合がいいのも確かだ。現状の利益だけを考えるとこの選択肢が最善だろう。僕のやろうとしている事は叶いもしない理想を追い求めているにすぎないのかもしれない。
僕は、どうすればいいのだろうか……?
「提督、ちょっといいですか?」
後ろからした声に顔を向けると照月がいた。
「照月か。どうした? ラスボスが倒せないのか?」
「エンディングまで言ったんですけどなんでかなぁ……と思う所があったので……」
「思う所?」
「主人公のジタンがクジャを助けた理由が分からないです」
意外な質問が飛んできた。
「あのシーンか……ゲーム屈指の名シーンだぞ」
「そうなんですか? 照月には何が何だかわからなかったです。ジタンは、誰かを助けるのに理由はいるかい? と言っていましたが照月にはよく分からなかったので……」
「難しい質問だな……」
照月が疑問に思っているシーンはこのゲームを最後までやったことのある人間なら、必ずと言っていいレベルで印象に残るシーンだ。
クジャは作中の1連の事件の黒幕で、主人公達を手の上で踊らせ、全てが彼の計画通りとなる。
しかし、彼よりも上位の存在(直前に主人公達に倒されていた)により自らの寿命が近いと教えられると自暴自棄になり、世界を滅ぼそうとした。ラスボスも彼の負のエネルギーが現れるきっかけを作ったという説があるぐらいだ。
迷惑この上ない存在であり、性格はナルシストな策士。照月が嫌っていたし、僕自身もあまり好きでは無い。 嫌いな人の方が多いと思う。
ラストバトルの後、主人公のジタンは宿敵であるクジャを助ける。しかも、自らの危険を顧みずだ。クジャが「何故助けた?」と聞いたのに対しジタンは、「誰かを助けるのに理由はいるかい?」と答えるのが1連のシーンだ。
シーンの直後、2人は閉じ込められてしまい、クジャがどうなったかは分からない。だけど、死の恐怖を感じて孤独だった彼は救われた。それだけは事実だ。
まとめると、照月が疑問に思っているのはジタンの行動力や本来、殺したいほど憎い相手を助けるという場面に皆が感動する名シーンだ。嫌な相手には復讐するべきだという考えの照月には理解しにくいのだろうか?
「難しいですか? 」
「強いてみれば助けようとした事、その事に意味があるというか……」
「どういう事です?」
「普通、あの条件でクジャを助けようとは思わないだろ?」
「そうですね。照月ならトドメを刺しに行くか放っておいておしまいだと思います」
彼女の突拍子も無い一言に頭がグラりとした。思えば照月から慈悲という言葉を感じた事は無い。彼女がそれだけ戦場で真剣に戦っていたことの現れだとは思うが……
「トドメを刺すって……相変わらず凄い発想をするな……。たしかに普通は見捨てる場面だ。だけど、ジタンは彼を助けようとした。彼は普通の人ならやれないことをやってのけた。だからこそ凄いし、そこに皆が感動するんだ」
照月が首を傾げた。
「ちょっと何を言いたいのか意味が分からないです」
「少しづつ話をしていこうか。一般的に困ってる人間を助ける事は良い事だろ?」
「そうですね。それは、分かります」
「だけど、嫌な奴が困ってたとして助けようとするか?」
「それはしないですね。ざまぁみろぐらいにしか思わないです」
「ジタンは嫌な相手であるクジャを助けるという良い意味で普通の人ではできない事をやった。だから凄いんだ」
「それは分かりました。でも、クジャを助けますか? 私、凄く嫌いなんですけど」
嫌悪感を隠さない表情の照月が呟いた。
「ジタンは困っている人がいると放っておけない人間なんだ。アレキサンドリアの女王になったばかりのタガーを助けようとしていたシーンがあっただろ?」
「それはそうですけど……今回の相手は敵ですよ。嫌な相手以前の問題では?」
「ジタンにとって敵味方は関係がない」
「そういうことですか……うーん……でも、命を掛けるほどですか?」
「ジタンにとっては、目的を達成するにあたって命を懸けることは障害にならない。命を大切にするからこそ、それができる。そういえば分かるか?」
照月がハッとした表情を見せた。
「あっ……なるほど、そういう事ですか……そう言われてみると凄いですね」
上手く説明できたかは分からないけど、納得してくれたらしい。内心、ほっとした。
「そうだな。僕もあんな人間になりたいよ」
今思えば僕の憧れの人間はジタンなのかもしれない。僕よりもずっと明るいし、能力もあるし皆に好かれている。
人を助けたいという感情だけで実力が伴っていない根暗な僕と比べると大違いだけど……
「提督は、ジタンに憧れて叢雲ちゃんを助けようと思ったのですか?」
すぐに心の中で否定した。僕が、叢雲を助けたいと思ったのは理由があってのことだ。
「違うな。叢雲に関しては潰れられたら困るというのもあるが……何も知らない俺がアイツを傷つけた事を悪いと思ったのが強いと思う」
「でも、叢雲ちゃんは、個人的な理由があったとはいえ提督を蹴ったり殴ったりしてましたよね? そのことはいいんですか?」
「納得のいく理由があるなら、しょうがないと思う。むしろ心無いことを言いまくっていた自分を殴りたいぐらいだ」
「そうですか……」
変わっている。照月にそう言われた気がした。
「あと、放っておけないと思ったからな」
「放っておけない?」
「可哀想だと思った。アイツは過去を未だに背負って生きている。初めは向こうが勝手にへこんだだけだから放っておこうと考えていたが過去を知ったらそうも言ってられなくなった」
「照月に対する物も同じですか?」
照月の一言に心臓がドクンとした。
「そう……かもしれないな」
その通りだ。照月への僕個人の好意もあるけど孤独な照月を放っておけなかったという面も強い。今はそれ以上に勝手な願望で彼女と一緒にいたいという気持ちの方が強いのだが……
軽い羞恥心を感じて照月から眼を反らした。
「提督。叢雲ちゃんの話、私も協力させてくれませんか?」
意外な言葉が飛んできた。
「えっ、いいのか?」
「嫌な人を助けるという気持ちに興味がわきました。照月も協力させてください」
勿論、断わる理由なんて無い。
「こちらからお願いしたいくらいだ。一緒に作戦を考えてくれないか?」
「いいですよ。この手の事なら任せて下さい」
照月が胸を張って言った。
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私は面倒事に関わるのが嫌いだ。
本来の私もそうだし、巻き込まれると大体ろくな事にならないから。それに、私自身が他者から見ると面倒事を引き起こす人間なのにこれ以上増やしてどうすると言うのだろうか? 触らぬ神に祟りなし。私も本来の私もそれを貫いてきた。
だけど、今回は話が別だ。完全にゲームの影響だけど、提督のやろうとしていることに興味が湧いた。
提督も自分だけだと難しい事は分かっているみたいだから丁度良かっただろう。義務感を感じつつも自信がなくて立ち止まってしまうのはいつもの事だけど……
提督は要領が悪いし、臆病だし、根暗な人間だ。私個人の意見としても提督は上司として有能とは言い難いし頼れないと思っている。だけど、人間としては悪い人じゃないし、自分が無能だと分かっているからこそ、自分よりも下の人間の話を無下にせずによく聞く。提督のような高い地位にある人間は下からの意見を無下にする場合が多い事を考えると、1つの才能だと思う。私としては欠点をそこまで致命的な物とは感じない。
この鎮守府では提督としての有能さよりも人の話を聞く才能が求められる。人の話を聞かなければ心の闇を暴く事なんてできるはずがないから。叢雲ちゃんは、それが分かっていた。だからこそ、他の艦娘の過去を話させることができたし、彼女たちを更生して送り出すことができた。提督でもそれができるかもしれない。
提督は自分の決断で決めるよりも自分よりも下の有能な人間の提案を事後承諾する役目が合っていると思う。直接的な指揮能力や場合によっては独断が必要になる激戦区の鎮守府には絶対に似合わない人だけど、ここのように戦況が穏やかな場所なら十分だと思う。
もしかしたら……叢雲ちゃんが求めていた人間は彼なのかもしれない。そう思った。