二週間が経った。
アイツがキレるというちょっとした事件が起きた。
きっかけは響をスカウトしようとしていた他のところの提督がしつこかったこと。
響にはその気が無いと断っている(実際、響もこの鎮守府にいたいと言っている)のにどうしても来ると言って聞かなかったから、仕方なく受けることにした。
私は、どこの提督でも初めて会う時には必ずどのような人間か調べる事にしている。
照月が過去にいた鎮守府の提督という事を知ったから、初めに彼女に話を聞きに行った。照月(もう1人の方だったけど)の答えは善人ヅラした差別主義者という答え。照月の言うことだし隠す必要はないから嘘では無いと思う。
加えて、明石に頼んで調べてもらった(タダで調べてもらえるレベルの物だったけど)ら、外面はいいけど実際にはろくでもなさそうな人間という答えが返ってきた。
あまり好ましくない人間でないことは確定みたいだ。何かしらの策を練っておくべきだろう。事前準備としてアイツを含めた鎮守府の全員に話をした上で、応接間の複数箇所にテープレコーダーを仕掛けた。
アイツが変な対応をしてトラブル事を起こさないようにアイツ用のカンニングペーパーも一晩で書き上げた。私に対して土下座したばかりなのだから大人しく従ってくれると思う。
とはいえ、完全に不安を拭い去れるわけではない。嫌だけどやるしかない。私は数年ぶりに司令官に電話をかける事になった。
「はい。横須賀鎮守府です」
声の高い女性の声がした。大淀だ。
「最果ての鎮守府の叢雲よ。アイツはいるかしら?」
「……少々お待ちください」
留守電が流れ、数分後に目的の人物に繋がった。
「叢雲……久しぶりだね」
「簡潔に話すわ。照月が最初にいた鎮守府の提督が来る。何かあったら頼むわよ」
「照月がいた鎮守府……ああ、アイツの事か。何かあったのか?」
「響を渡せってしつこいのよ。悪いけど渡す気は無いから」
「分かった……。何とかするよ。ところで、叢雲……その……」
「何よ」
「あの時は本当に……」
無言で電話を切った。
謝罪の言葉は聞きたくない。どうしようもない私を直視する事になるから。本当に悪いのは素直に司令官を許せない私なのに。
ぶっきらぼうな対応に感じられたかもしれないけどそれぐらいで丁度いいと思う。司令官に私の事なんて放っておいて欲しいから。
私はどうしようもない女だ。今だって似ているアイツを司令官に見立てて八つ当たりをしている。それに罪悪感を感じつつも辞めれずにいる。
こんな性格の拗れた不感症の女の事なんてどうでもいいはずなのに……。謝罪の言葉もなく被害者という立場を利用して一方的な要求しかしてこない女を気にかけるの?
仮に司令官が他の艦娘と結ばれていたとしても私は文句を言う気は無い。むしろ、おめでとうと祝いの言葉を送りたいレベルだ。むしろその方が清々するかもしれない。
それなのに彼は未だに私の呪縛から逃れられずにいる。呪縛から逃れられずに相手の言いなりになっている。
そして、立場上、それを利用しなければならない私が嫌だった。
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情報に裏付けされた私の予想は見事に的中した。せっかく話し合いの場を設けてやったのに照月が大嫌いな馬鹿は、仮にもこの鎮守府の提督であるアイツをすっ飛ばして、私に直接話をしようとしてきた。
礼儀もクソも無い態度。私やアイツの顔に泥を塗っているって事が分からないのかしら? この時点で苛立ちを感じているのに加えてアイツ用に書いたカンニングペーパーが無駄になった事に腹が立った。
それに加え、あろう事か話の内容は私の過去をアイツの前で明かした上で私を勧誘しようとしてきた。人を馬鹿にするのもいい加減にしろと言いたくなる。
本当に私の過去を知っていたらそんな事を口が裂けても言えないはずだ。私の事を他人に話した横須賀のクズにもムカついたが1番ムカついたのは、他人を下に見る態度だ。
この馬鹿は他人の地位や立場しか見ていない。礼儀知らずで、相手に寄り添うことが出来ていない独善的な指揮官。照月が嫌うわけだ。あの子がやらかした時に態度が豹変したと聞いてはいたがその通りなのだろう。
この時点で決めた。コイツは絶対に潰すと。絶対に響を渡すわけにはいかない。会話の中で、外に待機させておいた照月に合図を送り、呼び出す。
案の定、照月を見た瞬間、馬鹿は本性を表した。照月が暴走しないように注意しながら、言いたいように言わせていたが、ここでアイツが突然切れた。
予定外の出来事だったし内心焦ったけど正直、少し見直した。理由は、アイツが私の言いたいことを言ってくれたから。加えて相手側の提督が暴走する原因を作ってくれた。
相手側は暴言のオンパレードで、しまいにはなだめようとした秘書艦の電にも暴言を吐いた。滅茶苦茶だ。いくら、善人ヅラをしていても本性を表すと人間はそういう事を普通にする。
笑いたくなるのを堪えながら幕を閉じることにした。私はあえて、丁寧な言葉を使い、相手の興奮を煽る。最後の最後にはクローゼットに隠しておいた響を出してトドメだ。
悔しそうな顔をして、逃げるように馬鹿は外に出ていった。どうせ、メンツが潰されたとか、やり返してやるとかろくでもないことでも考えているのだろう。
当然ながらそんな事を許す気は無い。不安に押し潰されたような声で私に謝るアイツの前で録音していたテープを再生した。
全てが私の手の上だった事に驚くアイツに、今後の教訓になればいいと思ってパワハラへの基本的な対処法を教えた。後で少し甘かったと思ったけど、たまにはこれぐらいしてあげるのも悪くないだろう。
この日は何もかもが上手くいった。アイツに対しても私に歯向かう事への良い牽制になったとも思う。
だけど、私は一つ大きなミスをしていた。アイツが突然目上の人間にキレたことを疑問に思うべきだった。目の前の成功に目が曇っていた。
少し考えれば気づけたはずなのに……この時点なら間に合ったかもしれないのに……なんで、気づかなかったのか疑問でしかない。
少しして、横須賀の馬鹿や人権団体やマスコミに送り付けたテープが原因となり照月の元提督の馬鹿は私達に嫌がらせをするまでもなく、あっさりと失脚した。
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1週間が経った。
アイツの様子がおかしい事に気づいた。私が強く言ってもその場は落ち込んだり謝ったりするけども病んでいるような光景は見なくなった。
それに加え、照月と過ごす時間が長くなっている。自分の中の疑問を晴らすために声を掛ける前日に照月の遊びの片付けを手伝っている光景を見た。片付けながら笑顔を作り照月と話をしている光景に正直に言ってゾッとした。
初めてそれを見た時に吐いていたのが嘘みたいだ。
何とかして情報が欲しかったけど照月は話してくれないし、響は絶対に断るし、明石もこの件について調べて欲しいなら今の私に支払い不可能な金額を寄越せと言って言う事を聞いてくれない。
照月は問題外として明石は遠回しに話を聞く気は無いと言っているのに対し、響からは敵対的な物を感じる。
私が何をしたというの? まさか、今更アイツに肩入れしだしたなんて事はないわよね……?
今では、最初の頃は大して気にならなかった照月との夜の営みの音や声も忌々しく感じる。もしかすると、私が照月に嫉妬しているのかもしれない。嫉妬したところでどうしようもないのだけど……
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「ねぇちょっといい?」
例の事件から一週間ほどした後に執務の終わりにアイツに声をかけた。
「どうした? 仕事は終わっているはずだぞ」
「話したいことがあるのよ」
「何だ?」
「最近照月とやけに仲がいいわね」
「一応、付き合っている身だからな」
アイツの思いがけない一言に嫌な予感がした。
「は? 何があったのよ」
「照月に利用されるだけの存在でもいいから、傍に居させて欲しいと言っただけだ。一方通行の恋だけど照月は笑顔で受け入れてくれたよ。大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
話を聞いていて血の気が引いていくのが自分でも分かった。
「な……何やってんのよ!」
「そんなにおかしい事か?」
狂ってると言いそうになったのを堪えた。落ち着け……取り乱しちゃダメだ。
1度、深呼吸をした。コイツを止めなければならない。止めないと取り返しのつかないことになる。加えて、照月を悪く言う事だけは絶対にダメだ。格上の提督に反抗した時みたいにアイツの逆鱗に触れることになる可能性があるから。
「悪いことは言わないわ。今すぐに別れなさい」
「突然、何を言い出すんだ?」
アイツの顔が歪んだ。
「アンタ、自分が何をしているのか分かっているの? あの子は狂人よ。このままじゃアンタもおかしくなるわ」
「そんなことは覚悟のうちなんだが」
「覚悟のうちって……何馬鹿な事言ってんのよ! あの子はアンタを都合のいい性処理の道具としてしか見てないのよ! そんな子に人生を狂わされてもいいって頭がどうかしてるわ」
「そうかもしれないな」
ダメだ。話が通じない。狂っているとしか思えない行為を肯定するだけのアイツに得体の知れない気持ち悪さを感じた。
「そうかもしれないなって……馬鹿な事言わないで! まだやり直せる。今からでも遅くないから……だから今すぐに照月と関わるのをやめなさ……」
「嫌だ!」
「嫌だって……私は全部、アンタのために言ってるのよ!」
「何を言ってるんだ? 今まで僕の事が大嫌いで弱みを握ったのをいいことに好き勝手やってきたのが叢雲だろ?」
私の言葉が空回りしているのを感じた。でも、アイツが言っている事は正しい。アイツに謝るのは癪だし悔しいけど……ここは一旦謝るべきなのかもしれない。
「そのことは謝るわ。ごめんなさい」
「ごめんなさいってな……いくらなんでも都合が良すぎると思うぞ……」
まずい。アイツから向けられる苛立ちに謝罪が裏目になった事を察した。これじゃあ、開き直った方がマシだった。
「今回は、わけが違うのよ! いいから言うことを聞きなさい!」
主導権を握ろうと思ってつい、感情的な声を出してしまった。
「悪いが聞く気にはなれない」
「人間のアンタには、両親がいるでしょ? 狂ったら悲しむわよ!」
「馬鹿にしてるのか?」
「え?」
「両親はもうこの世にいない。死んだ人間が悲しむことも何もないだろ?」
やらかした。アイツと親が死別しているのをすっかり忘れていた。親という普遍的な物で相手の感情をを揺さぶろうとした私の安直さを呪う。
「つっ……悪かったわね……」
自分の失言に耐えきれずに顔を背けた私をアイツが睨んだ。顔を逸らしたのは失敗だった。アイツからするとそっぽを向いたように見えたかもしれない。
踏みつけた地雷の大きさとアイツの態度にまずいと私の直感が警告を告げる。
「君がなんと言おうとも僕は照月との付き合いを変えるつもりはない」
失敗した。反射的にとった行動も悪手の一言でアイツをイラつかせるだけでかえって状況を悪くしている。
でも、まだ大丈夫……主導権はまだ私にある。私にはあいつの弱みという伝家の宝刀があるのだから……
「じゃあいいわ。アンタが照月と別れなければ提督を辞めさせる。これならどうするの? 前にも言ったけどコピーの写真はまだいくらでもあるのよ」
叫んだ直後に逆ギレされた事を思い出して内心冷や汗をかいたけどアイツが黙って私から顔を背けるのを見て内心ホッとした。アイツは立場を分かっている。
アイツにとっては照月との仲よりも提督という立場の方が大切だ。アイツに唯一残っていて、現在かろうじて繋がっている提督という立場を諦め切れるはずがない。提督を辞めさせられてまで照月との関係を選ぶなんていう馬鹿げた選択肢をとるわけが……
「最低だな」
「は?」
予想外の反応に間抜けな声が出た。
「何か気に入らないことがあると直ぐに写真をネタにする。いつもは僕を虐める口実にしているけど、最終的には唯一残った物さえも奪うつもりか?」
「何が言いたいのよ」
「要するに君は、無理矢理にでも自分の中のエゴを押し付けたいだけだろ?」
「エゴですって!?」
それが何か? と開き直って軽く流すべきだったのかもしれない。だけど、気づいた時には感情的な声を出していた。
「君の嫌いな人間が勝手におかしくなるだけのことじゃないか。君が首を突っ込むような話じゃないだろ?」
「つっ……」
君の嫌いな人間……その一言がトゲのように突き刺さった。
「クビにしたいなら勝手にしてくれ。だけど、照月との付き合いを辞める気は無い」
アイツが椅子から立ち上がる予想外の行動に、一瞬狼狽えた。
「待ちなさい! どこに行く気?」
「照月の所だ。邪魔しないでもらえるか?」
「本気で心配してるのよ!」
「まだ言うのか? どうしても君の小さな自己満足を満たしたいなら好きにすればいいじゃないか。君の望みは叶うし、大嫌いな人間が鎮守府から消えるし一石二鳥だろ? そうなったら、大人しく消えてやるよ。だけど、それをするならクビにされるまでは、好きにさせてくれないか? 照月との時間を君との喧嘩に使いたくないからな。うわっ!」
止めなきゃ……! 気づいたらその思いだけで私はアイツを引き倒していた。
「うるさい! アンタは黙って私の指示に従っていればいいのよ! 提督を辞めろと言ってないんだし、大人しく従いなさい!」
「いい加減にしろ! やりたいなら好きにすればいいって言ってるじゃないか! だから、最後の時ぐらい自由にさせてくれ!」
「アンタこそ子供みたいに駄々をこねるのもいい加減にしなさい! 大体、あの子のどこがそんなにいいのよ! 命を捨てる程じゃないでしょ!」
照月への悪口をまずいと気づいた時には遅かった。
気づいた時にはアイツが「黙れ!」と怒鳴り声を上げていた。怒鳴り声に怯む私をよそにアイツが立ち上がった。
「君の大嫌いな1人の人間が好きにしようとしてるだけだろうが! 放っておいてくれ! どうせ僕が発狂しても、首を吊ってもざまぁみろぐらいにしか思わないんだろ? 死んだ僕の事を馬鹿みたいって笑うだろ? ああ僕は馬鹿だよ。何もできない大馬鹿者だ。現実が見えていない大馬鹿者のやる事なんだから好きにさせてくれ!」
壊れてる。どうしてここまで自分で自分を卑下できるの? 私が八つ当たりをしたから? 私が大嫌いって言ったから? 大切な物を壊したから? 辞めそうになった時に足元を見て馬鹿にしたから?
視界が滲んでいくのを感じた。
「なんで……なんで、そんな事言うのよ……」
「なんでって、君が今まで言ってきた事だろ? 僕は視界に入るのも嫌な蛆虫なんだろ? そんな人間の事は放っておいてくれ!」
言葉の一つ一つが突き刺さる。全部、今まで私が言ってきた言葉だ。
涙がポタポタと地面に落ちるのが見えた。
全部……私が悪いの?
「そんな事……思うわけないじゃない……」
気がついたら声が出ていた。
「じゃあ何なんだ?」
言いたくない。答えたくない。それを言うと今まで被ってきた仮面が剥げてしまう。それに、言った所で伝わるとは思えない。だけど、言わなきゃ……
「アンタが死んだら私……悲しむわよ……だって……私、アンタの事、好きだから……」
覚悟を決めて私の中のものを口にした。
顔に熱いものが走る。顔を上げるとアイツはキョトンとした顔をしていた。
「は?」
「好きだから本気で心配してるのよ。ねぇ……お願い。提督をやめろとは言わないわ……今までの事も全部謝る……写真も返す。でも、照月と別れて。せめて、照月と距離を置くだけでもいいから……」
口から出たのは自分でも理解ができない支離滅裂な言葉。馬鹿みたい。こんな物で止めれるはずがないのに……
「止めてくれ!」
手を伸ばそうとしたら、嫌悪感を顕にした顔をしたアイツに手を振り払われた。
「叢雲、悪いが僕は君の考えが理解できない。滅茶苦茶だ。僕が狂ってることは否定しないが頭がおかしいのは君も同じなんじゃないか?」
パシン。
否定できない言葉にいつの間にか手が出ていた。
「つっ…」
「もういいわ……。好きにして……!」
もういい。見てられない。私は逃げるようにして執務室を飛び出した。
ー--------------------
部屋に戻る道で響とすれ違った。
「響……助けてよ!」
何故かは分からない。私は叫び声をあげた。
「無理」
響が足を止めて冷たく言い捨てた。
「何でよ……!?」
「私じゃ提督を止められない。それに、キツイことを言うけど分かってるの? 提督をあそこまで壊したのは叢雲だよ。自分でやった事の落とし前ぐらい自分でつけたらどうかな?」
「そんな事言わないで……!」
「前にも言ったけど全部叢雲の自業自得だよ。元々壊れかけていた彼を完全に壊したのは叢雲、彼を虐めすぎた結果、照月に依存させたのも叢雲。そこら辺、わかっているの?」
私だって分かってる。だけど、なんでそんなに厳しく言うの? もう少し言い方があるじゃない……!
「なんでそんなこと言うのよ……!」
「気づいてたか分からないから言っておくけど、提督が執務室を飛び出したあの日、彼は防波堤で自殺しようとしてたよ」
自殺と聞いて背筋に冷たい物が走った。
「嘘……なんでその事を私に言わなかったのよ……!」
「私は二人の仲を邪魔するのが嫌だから。それに、言ったら提督と照月の仲を邪魔する方に走っていただろ? 文字通り叢雲のエゴでね」
エゴの一言がとてもキツイものに感じた。
「エゴって……!」
「提督が自殺するのは私が止めたけど、そのまま 、私を事態を矮小化した茶番に付き合わせたよね? 叢雲は、提督を馬鹿にしていたよね? 向こうから頭を下げさせれば後は何とでもなるって考えていたよね? 私に彼が大切にしていた写真を破ったことを黙っていたよね? その上、今度は照月と別れさせたい? いい加減にしてくれないかな……?! 自分が何をやっているのか理解できているの!? 人を巻き込むのは止めてくれない!? 私だって茶番に付き合わされるのは嫌なんだよ!」
響の声は呟く様なものから段々と強くなっていき、最後の最後は私への怒りとも言える強いものになっていた。
普段は絶対に聞くことの無い響の怒りのこもった声に強い恐怖心を感じた。
確かに私はアイツの大切な物を壊した事を知られると断られると思ったから黙っていた。黙っていた事のツケが今この場で帰ってきた。
あの日以降、響が私を敵視する理由がやっと分かった。響は私の人を舐め腐った態度を何よりも嫌っていたんだ。アイツの大切なものを壊した事を都合が悪いと思って黙っていたこと。下らない私優位の終わり方になる茶番を演じさせてアイツをバカにしたこと。
私の何もかもが嫌なんだ。
思えば今までも響は私がアイツを殴るのを冷たい目で見つめていた。呆れたような冷たい瞳で……私を攻めるように。
いずれこうなる事が分かっていたのかもしれない。
「そんなこと言ったって……私、知らなかったから……」
「彼が病んでいた事を知らなかったとは言わせないよ。照月の過去を知るまでの一週間、毎日死にそうな顔をしていたことぐらい気づいていたよね? その上で無慈悲な事実を叩きつけられて放心状態の彼を全否定したらどうなるかぐらい予想できなかったの?」
「つっ……」
その通りだ。気づいていたはずだった。気づいた上でアイツの心を折る事に夢中になっていた私は見て見ぬふりをしていた。
「言っておくけど、提督と照月を無理に別れさせたら今度こそ提督は自殺するよ。彼と照月の関係を受け入れるのか叢雲自身の手で彼を殺すか。好きな方を選びなよ」
「ばかぁ……!」
そう叫んで私は逃げるように自室に向かった。
響との話が終わってやっとアイツが何故ここまで照月にこだわるかが分かった。アイツは空っぽだ。アイツには身内も名誉も何も無い。何も無いからこそ、自由に動ける無敵の人。何も無いからこそ自分が狂う事や死を恐れずに照月を愛する事ができる。例えそれが一方通行な物だったとしても、自らの破滅をもたらす劇物だったとしてもだ。
今のアイツには照月への想い以外の物が何も無い。だから、照月との関係を命よりも大切にしようとした。照月の為に格上の相手にも逆らったし、本来敵わないはずの私にも強く反抗した。
私はそれに気づかなかっただけの外野の人間にすぎない。アイツから見たらただの邪魔な存在だ。
間違いない。あの馬鹿は照月に依存している。自分が死んでもいいと思うぐらいに。それを作ったのは私。
私は歪んだ愛情でアイツにキツく当たっていた。厳しくて理不尽な私に対して照月は、狂ってるとはいえ普通に喋る分には優しいし、怒ることはまずない。その上、照月の両方の人格はあいつの事を人間として好いていた。
少し考えればどうなるかは簡単に想像がついたはずなのに……。自分の感情を優先しすぎるあまり、めくらになっていた。
何もかも響が言った通り。全部私の蒔いた種だ。
もっと早く折れると思っていた。心をへし折るつもりだった。だけど、想像以上にアイツは頑固だった。
やっぱり私自身の手でアイツを切るべきだろうか?
嫌……やりたくない。
でも、やらないと……アイツが……
自室に戻ったけど思考がまとまらないまま時間だけが過ぎていった……
ー--------------------
どれぐらい時間が経っただろうか? 考えの末、辿り着いた先は自己嫌悪と後悔。それと照月への激しい嫉妬だった。
あの子が羨ましい。なんで、照月は感じるのに私は何も感じないの? どうして照月は愛されるのに私は愛されないの? どうして照月の体は恵まれているのに私は貧相なの?
そもそもこんなところにいるのもこの体のせいだ。憎い。この体が本当に憎い。
どうして私だけ……
コンコン
ドアをノックする音がした。
「叢雲。ご飯を持ってきたっぽい」
夕飯? 布団の隙間から外を見てみると日が沈んでいた。アイツと喧嘩したのが16時頃だったからかなり時間が経っていたみたいだ。
「ありがとう。外に置いといて」
ドアを開くと携行栄養食とインスタントのコーンポタージュといういつものウンザリするぐらい食べ飽きた食事が置いてあった。
「相変わらずマズイわね……」
大泣きしたせいかコーンポタージュは少しだけ味が濃く感じた。たいして美味しくもない栄養を取るだけの食事だったけど気力を取り戻すのには十分だった。
馬鹿みたいだと思った。自分の体や照月を呪った所で何かが変わるわけじゃないのに。それ以上に今はやるべきことがある事を忘れていた。
やるしかない。アイツにエゴと言われても構わない。どんなに嫌われても構わない。照月と一緒に壊れる事だけは絶対に許してはいけない。
私は甘すぎた。心を鬼にしなければならない。
ここから先は完全に悪意のある強制だ。今から私はアイツを殺す。殺してやる。
アイツが狂う光景を見る事だけは絶対に嫌。狂う光景を見るぐらいなら殺した方がマシだ。
これから、私は新しい罪を負うことになる。罪に罪を重ねる許されない行為。汚れすぎて元の司令官には一生顔を見せられないだろう。だけど、しょうがない事だ。
自己満足の罪滅ぼしだけど最後の最後にはアイツに自由にさせてやろうと思う。罵られようが殴られようが刺されようが抵抗はしないつもりだ。殺されてもかまわない。私は、それだけの事をやったのだから。
私は覚悟を決めて部屋の外へと出た。
お詫びとお知らせ
申し訳ありません。R-18シーンの執筆コストが高いのと書き貯めが消えた為、1ヶ月ぐらい更新が止まります。必ず完成させるのでそれまで待って下さい……