※この作品はR-18です。

最果ての鎮守府で   作:黒猫クル

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人間が対象ではありませんがグロ注意です


真夏の狂気

 夢を見た。20年前、あの日の光景だ。

 暗い雲の下、僕は、揺れる救命ボートの中で震えている。目の前では、一人の男が必死になってオールを漕いでいる。彼は僕の父親だ。

 

「くっ、来るな!」

 

 後ろを振り向くと駆逐艦イ級がいたぶるかのようにゆっくりとこちらに向かってきているのが見えた。父親のオールを漕ぐ手が少し早くなった。だけどお父さんの努力をあざけ笑うかのようにイ級との距離は、1mまた1mと縮んでいく。

 

「うわっ!」

 

 ドンと衝撃が走り体が宙に浮き、海上に投げ出された。

 突然の事に頭の中が真っ白になる。

 無我夢中で手足を動かして何とか転覆したボートに捕まる事ができた。

 

「うわあああ」

 

 悲鳴がした方を振り向くと父さんがイ級に喰われるのが見えた。海面が鮮血で赤く染まる。

 

「ひっ!」

 

 父さんを殺したイ級がこちらを向く。次は僕の番だ。

 

「誰か助け…て……!」

 

 泳ぐのは苦手だし、濡れた服がすごく重かったけど死に物狂いで手足を動かした。

 

 ドカン

 

 突然の爆発音に、振り向くとイ級の頭が吹き飛んでいた。何が起こったのか分からない。

 

「つかまって」

 

 声がした方に視界を向けるとしゃがんで僕に手を差し伸ばすお姉さんがいた。腰まで届く長い髪の色は茶髪でセーラー服を着ている。

 彼女の腕は柔らかいけど丈夫で強い腕だった。

 

「大丈夫?」

「うん……」

「お願いだから、じっとしててね」

 

 僕を抱き抱えたお姉さんが海面を掛ける。

 すごい速度で走っていた気がしたけど不思議と怖い感じは無くて、むしろ助けられたことへの安心感を感じていた。

 この後、救難艇に届けられてそこで彼女とは、別れる事になる。

 彼女が艦娘だということは後に知った。彼女はいったい誰だったのだろうか?

 

 

ー--------------------

 

 

 

「朝よ! 起きなさい!」

 

 突然の叢雲の怒鳴り声で現実に引き戻された。

 

「叢雲か……おはよう」

「挨拶はいいから起きる!」

 

 もう少し寝ていたかったけど、叢雲が許してくれそうに無い。起きる以外の選択肢は無かった。

 あの夢は久しぶりに見た気がする。あの夢を見た後の目覚めは大体いいはずなんだけど今日はあまり良くないみたいだ。

 

 朝食はスーパーで買ってきたようなレーズン入りのバターロールとインスタントのコーンポタージュだった。

 昨日の夕飯よりは、多少ましに感じたけど量が少ない上に、叢雲に睨まれながらだったから食べた気がしない。食事事情が劣悪だけど何とかならないだろうか?

 

「提督、おはようございます!」

 

 朝食を食べ終わって執務室に戻ると照月が来た。

 ダークグレーの瞳の元気のいい笑顔が可愛らしい。

 

「おはよう」

 

 僕も笑顔を作って挨拶を彼女に返した。

 

「昨日はお疲れみたいでしたがよく寝れましたか?」

「まぁそれなりに……」

「今日も1日、頑張りましょうね!」

 

 一日が始まった。

 

 

ー--------------------

 

 

「じゃあ私達は行くから」

 

 九時頃になって書類を片付けていた叢雲が呟いた。

 

「提督も書類作業、頑張ってください!」

「作戦とかは大丈夫なのか?」

「私を疑う気? 士官学校上がり立てのアンタよりはずっといいわよ。失敗なんてしないから安心して待ってなさい」

「そう言われると従うしかないな……」

 

 どちらが提督なのか分からないな と言いたかったけどそれを言うとそのまま肯定されそうだと思い止めた。

 

ー--------------------

 

 正午の鐘が鳴った。

 叢雲にノルマと決められた分の7割程は何とか自力で終わらせることが出来た。この調子でいけば叢雲達が帰ってくるまでには、余裕で終わるだろう。メモを取っておいたのが良かったのか昨日よりは、進み具合はいいし叢雲達がいなくても何とかなっている。

 

「そろそろ昼にするかな……」

 

 一息着くことにした。

 昼食は、叢雲が置いていった携行栄養食品と水。大して美味くもない上に腹も膨らまない。それに、空腹よりもそれよりも大きな問題があった。

 

「しかし、暑いな……」

 

 暑い。真夏ということもあってひたすら暑い。半袖Yシャツ1枚でも汗が流れる。執務室の風通しは悪いし、外は炎天下だ。こまめに水分は取っているけどこのままだと暑さにやられてしまいそうな気がする。

少しぐらいいいかと思い、涼みがてらに鎮守府内を散歩することにした。

 

 

ー--------------------

 

 

 セミがやかましく鳴いている。外も風一つない灼熱地獄だったが執務室の中にいるよりは幾分かマシに感じる。

 10分ほどフラフラと歩いていたら工廠を見つけた。全体的に錆び付いていたけども人の気配を感じた。ドアを開けると中に工具が無造作に転がっていた。

 

「どなたですか?」

 

 後ろからの声に振り向くと1人の少女が立っていた。彼女はセーラー服の下に長袖を着ていて髪はピンク色でお下げ風に纏めている。

 

「失礼しました。新しい提督ですね。工作艦明石です。どうかお見知りおき下さい」 

「よろしく」

 

 工作艦明石。それが彼女の正式名称らしい。士官学校で教わっていたから名前だけは知っていた。最果ての鎮守府であるここにいるのだけは、意外だったけど……

 

「いやービックリしました。この鎮守府には着任して一月ほどですがここまで来た提督は初めてでしたから」

「そうなのか?」

「はい。明石が来た時の提督から数えて三人目なのですが初めてですよ」

「艦娘を集めて挨拶をしてもらった時にはいなかった気がするけど。何かあったのか?」

「提督への挨拶は、叢雲さんに来なくていいって言われてるんですよ。どうせ居なくなるし関わることも無いからって」

「そうなのか……」

 

 話し方から推測して照月のように友好的な艦娘に感じた。彼女が相手なら鎮守府の事情を詳しく知っているかもしれない。

 

「出来ればでいいんだが鎮守府について詳しく……聞かせてくれないかい?」

「叢雲さんに口止めされてない範囲であればいいですよ」

 

 彼女の話を参考にメモをとった。

 

叢雲

 

 この鎮守府のリーダー的存在。

 提督を半殺しにした罪で送られる。本来なら死刑だが該当の提督からの擁護及び穏健派提督からの反対意見で死刑は免れここに送られる。

 過去に何かあったらしく提督という人間を忌み嫌っている。

 この鎮守府では創設当初からいる最古参で着任したのは照月と同時。

 艦娘としては、何でもこなせる優等生。

 

響

 

 任務を定期的にサボタージュする罪で送られた。

 他人との関係を持つことを嫌う。

 しかし、この鎮守府ではサボタージュはしなくなり、任務は真面目にやり、それ以外の時間は自由気ままに過ごしている。

 

 

夕立

 

 白紙(叢雲に口止めされているらしく、明石が何も教えてくれなかった)

 

 

「最後に聞きたいんだけど……照月は何をしたんだ?」

「うーん……教えるのもいいんですけど近いうちに分かると思いますよ」

「どういう事だ?」

「嫌でも知ることになるって事ですよ。一言付け加えるなら彼女が鎮守府で1番の危険人物な事ですかね……」

 

 照月が危険人物? わけがわからない。照月は常にニコニコしていて言葉遣いも丁寧だし、僕に対しても友好的だ。口がきつくて常にピリピリしている叢雲の方がよっぽど怖い。 彼女の何が危険なのだろうか?

 

「ところで時間は大丈夫ですか?」

 

 時計を見ると艦隊が戻ってくる1時間前を指していた。

 

「あっ! ヤバい!」

「食あたりには、ご注意を」

 

 僕は慌てて執務室へと走り出した。

 

「食あたり? 変な事を言うな……」

 

 明石の最後の言葉が少しだけ引っかかった。

 

 

ー--------------------

 

 

 艦隊は時間通りに帰港した。

 

「艦隊が帰港したわ」

「叢雲……ひとつ聞いていいかな?」

「何よ」

「照月が後ろに引きずっている奴らは何なんだ?」

 

 響や夕立がドラム缶を引きずっているのに対し、照月だけはドラム缶に加え、海面上に少しだけ見える真っ黒な何かを引きずっている。

 それと、やはり照月の瞳に赤みがかかっている気がする。気のせいだろうか?

 

「深海棲艦の駆逐艦イ級ですよ。帰り道にはぐれていたのを見つけたので2匹生け捕りにしてきました」

 

 照月が黒い物体の1つを片手で持ち上げた。

 大きさは160cmぐらい。実物を見るのは初めてだったが真っ黒な肌で覆われたサメをおもわせる容姿は間違いなく駆逐艦イ級だった。

 あの日の光景が目の前に甦った。

 

「つっ……」

「大丈夫ですか?」

「すまん。なんでもない……生け捕りなんて大変なはずだろ? 凄いな」

「慣れれば簡単ですよ。この子達弱いですし、先端の鼻みたいな所を強く殴れば気絶しちゃいます」

「それは知らなかったな……」

「私は、今からちょっと用があるので失礼します」

 

 どこかへ向かっていく照月を見届けた直後、夕立の顔色が青いことに気づいた。

 

「夕立、顔色悪いけど大丈夫か?」

「気にしないで欲しいっぽい……」

「夕立、無理しない方がいいわよ。部屋に戻って大人しく寝てなさい」

「分かった……」

 

 叢雲の優しい声に夕立がうなずく。

 出撃前の夕立は、元気そうであんなことはなかったはずだ。一体、何があったのだろうか?

 疑問は解けないまま夕立は姿を消した。

 

 

ー--------------------

 

 

「ふーん、終わったの。少しは、やるわね」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 書類の内容を流し読みしていた叢雲の顔が曇った。

 

「でもダメね。後ろの3割ぐらいは滅茶苦茶じゃない。筆跡を見た感じだと焦ってたみたいだし余裕こいてどこかでサボってたんじゃないの?」

「すまん……工廠に行っていたら……」

 

 叢雲がため息をつく。

 

「工廠に行っていたって事は明石に会ったのね。まぁいいわ。とりあえずは、ミスを直すところからね」

 

 ギャァァァァー

 

「なんの音だ!?」

「はぁ……始まったわね……」

「なんの事だ?」

「気にしない方がいいわよ」

 

 ギャァァァァー

 

 また悲鳴がした。嫌な予感がした。

 

「すまん叢雲。少し留守にする」

「あっ! ちょっと待ちなさいよ!」

 

 叢雲が止めるのも聞かず、悲鳴がする方に向かって走った。

 

 

ー--------------------

 

 

 

 悲鳴は、第2倉庫の方から聞こえてくる。ここは昼休憩の散歩の時は見ていなかった場所だった。

 

「なんだこれは……」

 

 赤さびの生えた倉庫のドアを開くとそこは、拷問部屋と言っていい光景が広がっていた。

 2匹のイ級が吊るされていてそのうちの1匹が拷問の対象となっていた。

 片方の目は摘出されたような跡があり、もう片方の目には30cmぐらいの鉄串が刺さっている。

 足の片方が切断され、そこを止血と言わんばかりに照月がガスバーナーで炙っていた。近くには刃の厚さが5cmぐらいあるナタのようなものが転がっていて赤黒い血糊がベットリとついている。

 

「あっ、提督、お疲れ様です」

 

 頬や髪を返り血で濡らした赤みを帯びた瞳の照月が笑顔でこちらに振り向いた。

 

「照月! 何をやってるんだ……!」

「えっ? 何って捕まえた深海棲艦で遊んでるだけですよ。今回は両足を落としてみようと思ってます。こんなものでいいかな……と」

 

 照月がガスバーナーの火を止めた。焼かれた部位は消し炭のように真っ黒になっている。

 

「生きてるうちにもう片方もやっちゃいましょうか」

 

 彼女が刃物を手にした瞬間、目を背ける。

 少し後に悲鳴が聞こえ生暖かい物が服にかかった。魚の腐ったような匂いがした。

 

「この子達、小さいけどいい声で泣くんですよねー。ちょっと前に、歯をペンチで引っこ抜いて、抜いた跡に電気を通してみたんですけど。尻尾を踏まれた猫みたいな声で叫んでて。また聞きたいなぁ……こっちの子はもうダメそうだからあっちでやろうかな?」

 

 照月の方を向くと恍惚の表情を浮かべていた。

 もう1匹のイ級が震える。深海棲艦の表情は分からないけど、彼が怯えているという事だけは分かった。

 

「まっ、今遊ぶのはこの子なんだけどね」

 

 照月がガスバーナーを点火し鉄串に当てた。熱せられた鉄串はたちまちのうちにマグマのようなオレンジ色になる。熱が鉄串の中を伝わっていき肉の焦げる匂いがした。

 イ級の反応が物足りないと思ったのかガスバーナーを地面に置いた照月が刃渡りの長いナイフを手に取る。

 

「えい!」

「ギャァァァァァァ」

 

 ナイフは、バターを切るかのようにイ級の腹を切り裂いていく。

 照月が出来た傷口に手を突っ込むのが見えた。ビクビクと動く赤黒い塊や血で汚れた細いホースの様な腸が引きずり出された。

 胃の中のムカつくような感触が込み上げてくる。

 

「あーあ、壊れちゃった。つまんないなぁ……」

 

 右足に柔らかい何かが当たった。緑色の粘液を帯びたような何か……尻もちをついてしまった。

 イ級の眼玉だった。

 

「さっきから見てますけど気になるんですよね? もう1匹で提督もやってみます?」

「うわぁぁぁぁ」

 

 狂気を帯びた彼女の笑顔に僕は背を向けてこの場から逃げ出した。

 

 

ー--------------------

 

 

「いたいた」

 

 近くの水道に向かって胃の中の物を吐いていると叢雲に声をかけられた。

 

「執務室に戻るわよ。まだ仕事が残ってるでしょ?」

 

「叢雲……」

「何? 大の大人が今にも泣き出しそうな顔しててみっともないわよ」

「何なんだあれは……」

 

 叢雲がため息をついた。

 

「照月のアレを見たのね。あの子の趣味よ。出撃に出たり遠征に出たりすると深海棲艦を捕まえてきてああやって玩具にするの」

「止めないのか……?」

「無理よ。私が止めさせようとしてダメだったもの。どうしても抑えられないって言ってたわ。だから放っておく事にした。後片付けだけはさせているけど」

「そうか……」

「長い事、艦娘をやってきたけど間違いなくあの子がダントツでイカれてるわよ。戦場ではあえてトドメを刺さずにいたぶるし、何なら生け捕りにして持ち帰ろうとする。天性のキチガイよ」

「……」

 返す言葉が見つからなかった。

 

「気になっていた子がキチガイで残念ね」

「気づいていたのか……」

「当たり前よ。アンタ、あの子の事ばかり見てるんだもの。誰だって気づくわ」

 

 意地悪そうに言う叢雲の皮肉と照月への小さな好意がバレていたという現実に口の中に苦い感触が走った。

 

 

ー--------------------

 

 

 4時間が経った。

 昨日とは違い、照月はいなかったけど調子としては悪くないと思う。外では虫が合唱会を開いている。太陽が沈んだこともあって暑さは大分マシになった。

 叢雲がたまにここが違ってるとか字をもう少し綺麗に字を書けと言う以外には言葉が無く静かに書類作業が進んでいく。このまま何事もなく1日が終わってくれればいいが……

 

 執務室の扉が開いた。

 

「カレーができましたよー」

 

 照月だ。カレーの盛り付けられた皿を2つ持っている。1つは大盛りでもうひとつは少ない。

 

「照月が作ったのか?」

「はい。照月特性の夏野菜カレーです! 畑で採れたばかりの野菜を使っています。私はこれで失礼します」

 照月が執務室を後にした。

 

「区切りもいいし休憩にしましょうか。私は少ない方を貰うわ」

 

 僕は、大盛りにされたカレーを机の上に置いた。

 カレーの香ばしい匂いが空腹を刺激する。昼食があんなものだったこともあったし腹の虫が鳴いた。だけど……

 

「食べないの? さっきのやつの影響がまだ残ってる?」

 

 照月が作ったカレーだが、手を付ける気分になれなかった。深海棲艦が拷問されているのを見てしまったのも理由の一つだけど1番は死体の後始末としてそれが料理に使われているような気がしてしまった。

 

「まさかさっきのイ級の肉が使われてるなんてことは……」

「馬鹿みたいな事言うんじゃないわよ! そんな事あるわけないじゃない!」

「それもそうだな……」

 

 恐る恐るスプーンでカレーを掬い口をつけた。

 

「美味いな」

 

 甘めに感じたけど美味しいカレーだった。豚肉が使われていて野菜は良く煮えている。気づくと皿の中身は空っぽになっていた。

 

「食べ終わったし、再開するか」

「まだ休んでていいわよ」

「いいのか?」

「ぶっ通しで疲れてるでしょ? 私がやっとくからもう30分ほど休んでなさい」

「それじゃあ、言葉に甘えさせてもらうかな」

 

 布が破けた硬いソファーに腰を下ろした。ずっと机に向かっていたからか疲れを感じた。そのままボーっと当てもなく壁のシミを見つめる。

 

「ん?」

 

 急に視界がボケた。目をこすってみたが治らない。

 瞼が鉛のように重くなる。強い眠気を感じていることに気づいた。

 

「あれ? おかしいな……やけに眠く……」

 

 扉が開く音がした。

 

「叢雲ちゃん。提督は落ちた?」

「はぁ……やっぱりやったのね。悪いけどもう少しかかりそうよ」

「照月……体何を……」

 

 睡魔に耐え切れずに意識を投げ出した。

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