R-18は無しです。次回は未定ですが早めに書くよう努力します
1ヶ月が経った。
あの日以降、叢雲からの暴力が消えた。仕事の出来が悪くて怒られる事は相変わらずだけど、馬鹿と聞く機会は明らかに少なくなった。
彼女は元彼の提督とよりを戻す事に成功したらしい。彼女がよりを戻して初めて叢雲から「ありがとう」の一言を聞いた時は、僕も嬉しかった。
彼女は近いうちに横須賀に帰る事になったらしい。だけど、帰るまでに提督として必要な事を教えてくれる事を約束してくれた。
自分はまだまだ提督として未熟だし、彼女に教わらなければならないことだらけだから願ってもない約束だ。素直に彼女に感謝したい気持ちだった。
照月との関係は特に進展は無い。本来の照月は未だに表に出てこないし、2日に一度の彼女との肉体関係も相変わらずだ。深海棲艦への拷問も変わりないし、僕が後片付けを手伝うのも同じ。彼女がFF9をクリアした事で執務を手伝ってくれたりするおかげで一緒にいてくれる時間は増えたけど、それぐらいの変化しかない。
相変わらず本来の照月も全くと言っていいレベルで見ない。まだ、別人格に完全に乗っ取られたわけでは無さそうだが、何かあったのだろうか?
聞いたところでもう1人の照月は何も話してくれないけど……
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叢雲が最後の書類を確認するのと時計が22時を指すのは同時だった。
「今日はこれで終わりね。お疲れ様」
叢雲が終わりの合図を告げる。
「お疲れ」
「お疲れ様でした」
「やっと終わった……」
「ぽい……」
叢雲や照月がいつも通りなのに対して、夕立と響は机に突っ伏してグッタリとした顔をしている。まだ慣れていないのだろうか? かくいう自分も疲れを感じているが……
「量、多くない?」
響が呟いた。
「普通よ。響が今までサボっていたから辛く感じてるだけ。そのうち慣れるわ」
「慣れたくないんだけど……」
「給料は増えてるわよ。それに、裏でこっそり夕立と一緒にバイト代貰ってるんでしょ? だったら真面目にやりなさいよ」
叢雲の一言にドキリとした。
「あら、バレてないとでも思っていたの? アンタは、ただでさえ少ない給料で人を吊ろうとするのは辞めなさい。照月に失礼でしょ?」
以前、叢雲に怒られていたし悪いと思っていたけども2人にはその方がモチベーションも上がるし都合がいいと思って、こっそりとポケットマネーを与え続けていた。好意で手伝ってくれている照月に失礼だと言われると言われたがその通りだ。改めて照月に申し訳ないと思った。
「すまん照月……」
「私はそんなに気にしてないんだけど……」
「金の切れ目が縁の切れ目。加えて組織の公平さを乱す事になる。これぐらいの事、分かるでしょ?」
「それもそうだね。提督、鎮守府の為に金銭的な見返りを与えるのは避けて下さい」
照月からも言われてしまった(叢雲がそういう風に誘導したように見えるが) 。照月に言われると、どうしても弱いし叢雲が言うことはもっともだ。2人には悪いが小遣いを与える悪習は無くさざるを得ない。
「分かった……響、夕立悪いな。小遣いは今日から無しだ」
「チッ」
「えー、そんなー」
響が舌打ちをして夕立が文句を言った。
「ウダウダ言わないの! 今まで貰えてたんだからそれで満足しなさい!」
話が終わって叢雲が部屋を出て、響と夕立も部屋から消えた。賑やかだった執務室が急に静かになった。残ったのは僕と照月の2人だけ。お互いに席を立たずに座っていたけど、今日は照月の夜の相手をする日じゃない。その為、彼女もすぐに執務室から居なくなるだろう。そう考えていたら照月が席を立った。
「提督、お疲れ様です」
「照月もお疲れ様。今日もありがとう」
照月の労いの言葉に返事を返していたら、大きな欠伸が出た。響と夕立も疲れていたらしいが、僕も疲れた。少し早いが彼女が部屋を出ていったら、明日に備えて今日は寝よう。
「寝る前に話したいことがあるのですが少し、いいですか?」
「どうした?」
「今週の日曜日、休みですよね?」
「たしかに休みだが……」
叢雲が変わってから、週に1日だけは休みにしてくれるようになった。その日だけは叢雲が執務を全部やってくれる。逆に叢雲も週に1日だけは休む日ができて、その日は叢雲の代わりに照月が秘書艦をやって2人(場合によっては響や夕立も加わるが)で鎮守府を回すことになっている。
その関係で今週は偶然にも日曜日が休みとなっていた。
「良かったらなんですけど、町まで遊びに行きませんか?」
照月からの誘いに少し驚いた。照月からどこかに行こうと誘われるのは初めてだ。僕の方から誘う事は1度だけあったけど、叢雲からの許可が必要と聞いて断念していた。
「かまわないが……叢雲からの許可は取れたのか?」
「休みも含めて既に取りました。変な事を起こさなければいいらしいです」
叢雲は大丈夫らしい。それなら、これ以上気にすることは無い。どこかに遊びに出掛けるならむしろ、こちらから誘いたいぐらいだ。
「それなら大丈夫だな。一緒に行こう」
「ありがとうございます。それと、もう1つ言いたいことがあるんですけど……」
「どうした?」
「今回の件は、今、提督の目の前にいる私じゃないもう1人の私からの提案です」
「なっ……!」
僕の反応が面白かったのか照月がクスリとイタズラっぽく笑った。
今の照月の目は赤い。つまりこの提案をしたのは別人格の照月ではなく、本来の性格の照月というわけだ。どうして彼女が……?
「話が終わったので失礼しますね。おやすみなさい」
「おやすみ……」
バタン
執務室のドアが閉まる音がするのと同時に急に時間が動き出した。今、起きた事が信じられない。
ここしばらくの間見ていなかった本来の照月が……?
彼女が何を考えているのかは分からないけど、願ってもない機会だ。彼女との関係の為に生かすべきだと思う。
行ける場所が無いか今のうちに調べておこう。すぐに寝るつもりだったが、スマホの電源をつけた。
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照月と約束をした日がやってきた。前日のうちに用意しておいた服に着替えて、集合場所である鎮守府の正門に向かった。外はいい天気で雲一つない気持ちのいい朝だ。早朝で秋の始まりなだけあって、長袖長ズボンなのに少し肌寒さを感じる。ここ数日は緊張で不眠症気味だったから、眠気覚ましには丁度良いのかもしれない。
約束の1時間前に正門前についた。心臓が爆発音のようにうるさくてとにかく落ち着かない。
恥ずかしい服装をしていないだろうか? 忘れ物は無いだろうか?
服装が乱れていないと思う。財布は……ある。携帯も持っている。腕時計(安物だが)も付けている。忘れ物も大丈夫なはずだ。
緊張で胸が締め付けられる感触から早く開放されたいという気持ちと照月が来てから上手く立ち回れるだろうか? という不安に心が支配される。1人で早く来ておいてだが、照月が来る時間が待ち遠しいような、来て欲しく無いような不思議な感じがする。
「うっ……」
ふと、嫌な考えが頭の中を過ぎった。自分が照月の誘いを都合良く解釈し過ぎてるのでは無いか? というものだ。
僕は、照月からの誘いをデートと解釈したけども照月はただ単に誰かと遊びに行きたいだけなのかもしれない。僕以外の複数の人……叢雲はともかく、響や夕立に声をかけている可能性は十分にありうる。
自分以外の誰かと一緒に行くのかと聞いておくのを忘れていたことを強く後悔した。もっとも、誰かと一緒の方が自分としては気楽かもしれないけど……
「提督。お待たせしました」
後ろから照月の元気な声が聞こえた。
彼女の服装は茶色のチェック柄のワンピースで黒いキャスケットを被っていた。茶色い色が彼女の茶髪とよく合っている。彼女の私服を見るのは初めてだから物凄く新鮮に感じた。
「照月……早いな……」
時計を見ると約束の時間の30分前の時間で秒針が丁度12の中心を指した時間だった。丁度の時間に来るあたり流石だと思う。
「30分前行動が当たり前ですから。それに、提督もかなり早いのでは?」
「それもそうだな……」
「大分早いかもしれませんが早速、行きましょうか」
彼女が僕の手を引いた。
「ちょっと待ってくれ。行くのは、僕だけか?」
「何言ってるんですか? 一緒に行くのは、提督だけに決まってるじゃないですか。デートって言った方が分かりやすいです?」
「……!」
声が出なかった。先日の照月からの誘いはデートへの誘いだった。
「そんな事はいいですから。ボーッとしていると置いていきますよ」
「ま、待ってくれ!」
慌てて彼女を追いかけた。
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「行ったわよ」
2人の一連の行動を見ていた叢雲が携帯を片手に呟いた。
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バス停は鎮守府から数分ぐらいのところにある。コンクリートに舗装された道沿いにある。
2人でバス停のベンチに腰をかけた。
今、僕の右隣にいる照月の瞳の色はダークグレー。つまり、本来の照月だ。
彼女を見るのは何ヶ月ぶりだろうか? 直接会うことも話しをする事も本当に久しぶりだ。
別人格の照月も好きだけど、彼女の事はそれ以上に好きだ。僕は、彼女のお陰で今日を生きる事ができている。彼女には2度命を救われている命の恩人でもある。
「バスが来るまで時間がかかりますか?」
「そうだな……」
時計を見たら、バスが来るまではまだ時間があった。
「待つしかないですね……」
沈黙が流れる。何か話すべきだと思うけど話題が見つからない。
チラリと彼女の方を見た。彼女は笑顔でどこかを眺めている。何を考えているのだろうか?
右手の甲に暖かいものが触れた。
「……!」
触れた物を見て心臓が喉から飛び出そうになった。僕の右手に触れた物は照月の左手だった。
「どうしました?」
「いや……その……」
「仮にも付き合ってる身ですし、手ぐらい繋ぎましょうよ。もしかして……嫌……ですか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ大丈夫ですね」
照月が僕の手をギュッと握りしめるのを感じた。心臓の動きがより、1層激しくなった気がする。頬に汗が伝う。鎮守府を出た時は肌寒いと感じていたのが嘘のようだ。
「提督はどこか行きたい場所がありますか?」
彼女からどこに行きたいのか? と話を振られるのは意外だった。照月の意図が分からない以上
、行く場所を調べても無駄と結論を出していたことを後悔した。
「僕は、照月が行きたいところなら……」
口にしている途中で過ちに気づいた。参考になるかもしれないと思い、少し前に叢雲とデートの話を聞いていた。
その時に「どこに行くか?」、という質問に対して「どこでもいい」は言われる側も困るという話をされていた。曰く、どこでもいいと言うのは聞く側も同じだと言う。
もっとも、叢雲と照月の場合とでは相手に対する心理が違うだろうが……
「どうしました?」
照月が怪訝な顔でこちらを見つめた。
「すまん、なんでもない」
何かしらの答えを示さなければならない。何か良いものは無いだろうか……?
短い時間で必死になって頭を捻った結果、ネットで調べている時に面白そうな映画の広告を見た事を思い出した。
「映画館がいいかな……」
「何か見たいものがあるのですか?」
「ちょっとネットで見かけた広告で気になった物があって……」
気になっていた映画はホラー映画だった。
舞台は親子4人のアメリカの平和な家庭。3人目を流産した悲しみを和らげる為に夫婦がその家庭に1人の孤児の少女を迎え入れる。しかし、その事を境に変な事が起き始める……そんな話だった。
軽く調べて見たら都合のいい事に町の映画館でも上映しているらしいから、休みの日にでも1人で見に行こうと思っていた所だった。
映画の大まかな内容を話していて不安になってきた。
それなりに怖そうなホラー映画をデートの中で見て良いものなのだろうか? 雰囲気を壊さないだろうか? それに、照月が行ってみたいと言ってくれるのだろうか?
心の中を暗いものが覆っていく。
「面白そうですね。照月も見てみたいです」
照月の一言に心の中の暗い霧のようなものが晴れるのを感じた。
「いいのか?」
「はい。面白そうなので気になりました。最初は映画館でいいですか?」
「そうしよう」
不安は杞憂な事を知ってホッとした。映画の当たり外れはあるかもしれないけどレビューサイトでの評価は高かったから大丈夫だと思う。
ふと、照月はどこに行きたいのか気になった。彼女の外出の意図は何だろうか?
「照月はどこに行きたいんだ?」
「照月ですか? ショッピングモールに行ってみたいです」
「三丁目にある大きな所か?」
「そうですね」
ショッピングモールは街の三丁目にある3階建ての建物だ。町にはスーパーでの買い出しぐらいでしか行く事が無い上にスーパーからも離れた場所にあるから行ったことがない。映画館からの距離はそこまで遠くなかったと思う。
「気になる物があるのか?」
「一度も行ったことが無いので行ってみたいです。叢雲ちゃんから外出禁止令を出されてから建てられた場所なので……」
「なるほどな……買いたい物とかはあるか?」
「その場で気に入った物ですかね……。言ったことの無い場所ですし……」
「行ったことがないのは自分も同じだな」
いつの間にか、時間が経っていたらしい。話しているうちにバスが来た。
「来ましたね」
「そうだな」
人が少ないバスの中、2人で1番前の席に座る。
不安と緊張の中、照月との一日が始まった。