数日が経った。いつも通りの日々を送っている……はずだけど少し変わったことがあった。
「今日はこれで終わりね。お疲れ様」
叢雲ちゃんが呟いた。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
叢雲ちゃんが部屋を後にした。
「提督、お茶でも飲みませんか?」
「買ってきた菓子があるし、丁度いいな」
2人が談笑を始めた。執務の事、任務の事、鎮守府の事……当たり障りの無い会話が続いていく。
(早く終わってくれないかな……)
言葉にはしなかったけど内心、毒づいた。本来の私には伝わっていないと思う。
変わった事というのは最近、自分の気持ちがよく分からなくない事だ。原因は不明だけど提督が関わっていることは確かだと思う。本来の私と提督がイチャついているのを見ると黒いモヤのようなものを感じてしまう。今の所、実生活に影響は出ていないし気にするほどの物じゃないと思うけど少し気になる。
今だって2人が仲睦まじく過ごしているのを見ていると苛立ちを感じてしまっている。今まではそんな事は全く無かったのに何なのだろうか?
「すみません。そろそろ眠くなってきました」
10分近く毒にも薬にもならない雑談を続けた本来の私が呟いた。
「僕もだな……今日はこれぐらいにしておくか……」
「改めて提督、お疲れ様でした」
「照月もお疲れ様」
やっと2人の会話が終わった。今日は行為はしないらしい。見ていても気分が悪くなるだけだし、大歓迎だ。本来の私は部屋を後にした。
電気がついていなくて暗い廊下に白い月明かりが差している。ストーブをつけていた執務室から出てきた事もあって、寒さを感じた。
「ごめん。提督と話していたら疲れちゃった……代わってもらってもいい?」
本来の私が部屋を出て数分ぐらいした時に呟いた。自室にぐらい自分で帰って欲しいと思うけど一刻も早く休みたいのかもしれない。受けてあげることにした。
(いいよ)
体の制御権が私に移った。
(おやすみ)
「おやすみー」
軽く返事を返すと本来の私の意識が落ちるのを感じた。彼女は寝たと思う。私はそのまま自室に戻る道を歩み続けた。足を踏み出す度に木製の古い廊下がギシギシと音を立てる。
「何なのかな……」
体の制御権が移っても疑問は解けないままだ。
私の中の何かの正体は何だろうか? それがあるが故に私は本来の私と提督の関係に嫌悪感を感じてしまう。思い切って他の人にも話してみたけど提督や響ちゃんに相談してもよく分からないし、叢雲ちゃんは話をはぐらかそうとする。叢雲ちゃんは知っているのかもしれないけど、話す気は無いと思う。
私がこうなってしまったきっかけは提督から2度目の告白を受けたあの時からだと思う。あの時に感じた気持ちは初めての告白を受け取った時とは違う。
初めて告白された時に感じたものは好奇心(本来の私は動揺だった)だった。玩具として提督を見ていた。口にはしなかったけど彼もそれを察していただろう。それでも私の事を好きだと言うのだから妙な話だ。本来の私はともかく、私は提督の事を都合の良い面白い人間としてしか見ていなかった。
少しして提督と私の関係は変わり、提督との関係は本来の私がやるようになった。私が本来の私を煽った事もあって、彼女は提督とデートをした上で素直な気持ちを彼に伝えた。分かりきっていた結論ではあったけど、告白は成功して2人は結ばれた。
その際にわがままを言って、衝動を我慢する代わりに過去に私が過去に助けた子供の事を抑えてもらう約束をしてもらった。二人の関係を壊してしまうかもしれないと思いつつも、自分の中の好奇心が抑えきれなかった。
今となっては、あの時の自分勝手な思いつきを後悔している。本来の私が無理だったのだから、私が我慢しきれるはずがないし、そうなってしまった時という想定を全くしていなかったから。
案の定、抑えられなくなって私は約束を破ってしまった。責任を取って、私が提督に伝えようとしたけども本来の私が提督に自分でその事を伝えた。私のせいで何もかもを滅茶苦茶にしてしまったと思っていたけども彼は本来の私を攻めることは決して無く、約束を破った事自体を無かったことにしようとした。
約束を破った罰を与えなかった提督の行為に不満がないわけではない。だけど、彼の行為によって本来の私は救われた事は事実だ。
二人のやり取りを見て私は存在意義を失ったように感じた。提督が本来の私を何をやっても許すのであれば私が本来の私を庇う必要が無くなる。そうなれば必然的に本来の私を庇うために生まれた私は存在意義が無くなってしまう。そう思っていた。
だけど、提督は違った。私の事をないがしろにしていた事を謝罪し、改めて私に対して好きだと告白をした。その時に感じたのかあの不思議な気持ちだ。体が浮くようなあの気持ちは一体なんなのだろうか?
冷静に考えてみればあの時の提督の答えは質問の答えになっていない。あの時は勢いに流されてしまったけど私の存在意義を証明した事にはなっていないし、彼は私に対して持っていた感情をぶつけただけだ。提督は私を必要だと思っていても私は私自身を必要な存在だとは思えない。提督の答えは詭弁の類なのかもしれない。そうと分かったところで何かが変わるわけじゃないけど……
だけど、その日以降、私の中の何かが変わった。提督と一緒にいると不思議な気持ちになる。上手く言葉にできないけど、提督と一緒にいると幸福感に近い物を感じる。本来の私に譲りがちだけど、本当は彼と一緒にいたいと思ってしまう。何なのだろうか?
私自身の存在意義。それがこの問題を解く鍵なのかもしれない。
以前、生きるという事について提督と話した事を思い出した。あの時に提督は生きるということは、生きる事に価値は無いという不条理な事実に抗い、生きる意味を探す事という話をしてくれた。その時に少しだけそういう生き方なら、私も生きていけるのだろうか? と考えてみたけど私自身の生き方への結論は出なかった。
「聞いてみようかな」
あの事を提督ともう少し話してみれば、私の中の気持ちの正体が分かるかもしれない。そう思った。踵を返して執務室へと向かった。
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「失礼します」
ノックをして執務室に入ると提督が机に向かって読書をしていた。
「ん? 照月、疲れてたんじゃ……と思ったがもう一人の君か」
「提督、少しいいですか?」
「どうした?」
「提督は以前、生きる事は不条理だと言っていましたがその事についてもう少し詳しく話してくれませんか?」
「詳しく……か……」
私の要求に提督が少し困ったような顔をした。
「すまん。僕の口じゃ上手く説明できないから……本を貸すから読んできてもらってもいいか? その本の内容について話す形にしたいんだが……」
「いいですよ」
「ちょっと待ってくれ……えっと……あったこれだ」
彼は本棚を探り、5mmにも満たない薄い文庫本を取り出した。
「読み終わったら、その時に話そう」
「分かりました。読み終わったらお願いしますね」
彼から本を受け取ってポケットにしまってから執務室を後にした。
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自室に戻って電気をつけると以前、本来の私が提督とのデートで買ったムンクの『マラーの死』の複画の少女が私を見つめていた。私としては気味の悪い絵だと思うけど、本来の私はなんで買ったのだろうか?
彼女の視線を無視してベットの上に寝そべって蛍光灯をつけた。傍から見たら姿勢が悪いけど誰も見ていないし、どうでもいいだろう。ポケットから小説を取り出し、表紙を見た。
提督の貸してくれた本は『異邦人』という名前の小説だった。銀色のカバーに赤字で作者の名前が大きく書かれている。
私は読書をたまにする。本から得られる知識は悪い物じゃないし、深海棲艦に対するストレス解消の手段を増やすことができるから。それに対して、本来の私は活字を見ると頭が痛くなるらしく手を触れようともしない。彼女には軍人としての知識しかなく、教養は欠けらも無いと言っていいと思う。叢雲ちゃんの手伝いに付き合わされていたから、何とか執務だけはできるようになったけど……
乾いてカサカサとしているページを捲った。
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数日後、本を読破した私は執務終わりに提督に声をかけた。
「提督、読み終わりました」
「読み終わったか。どうだった?」
「なんか……よく分からない話でした」
提督が貸してくれた小説は変な話だった。主人公のムルソーは空虚な人間で、感情をあまり感じられない。話は彼の母親が死んだ電報を受け取ったところから始まり、彼は母親の葬儀をしたその日のうちに映画を見て笑い付き合っていた女と関係を結ぶ。少しして、彼は友人の家のトラブルに巻き込まれて人を殺害し、動機を「太陽が眩しかったから」と答える。彼には死刑判決が下されるが彼は人生に対して幸福を感じていた……
わけが分からない。
ムルソーは母親の死に特に関心を持たず、涙を流すことは無い。それどころか葬儀の場で煙草を吸ったり、うつらうつらしていたりする。葬儀の次の日に女と関係を結ぶのも無神経と言えるし、女の「私のこと愛してる?」という質問には「愛してない」と答えている。
拳銃で殺人を犯すシーンも風景描写だけで、心理らしい描写は見当たらない。衝動的に殺したかのようにすら感じる。裁判の場でも彼は自己防衛を主張し、反省の姿勢を見せれば助かったのかもしれないのに自己弁護を一切せず、反感を買う。その際、母親の葬儀やその数日間の間に無関心な態度を取り続けていた事も引き合いに出され、凶悪な殺人犯という烙印を押されてしまう。
死刑判決を受けたその日のうちに牧師に罪を悔いる事を勧められるが彼はそれを激しく罵る形(彼は無神論者でもあった)で拒絶する。牧師を追い出した後に彼は檻の中で彼は幸福を感じる。彼は多くの人間に憎悪の声を上げられながら処刑されることを望む。
読みやすい話ではあったけど抽象的な話が多く、その手の描写ではどうしても手が止まってしまい、時間がかかってしまった。それに、主人公の行動動機や心理がよく分からなくて、どうしてもよく分からないという感想が出てしまった。
「まぁ……そう思うのも無理はないな。主人公の心理が分からなかったか?」
「そうですね。艦娘である私(私自身がそもそも別人格ですが)に親はいませんが生みの親が死んだら悲しむ物ということぐらいは分かりますし、その次の日に遊んでいるのは理解不能です。殺人を犯したシーンも自己防衛かと思っていたらそうじゃないみたいですし……極めつけは最後のあれです。何なんですか? 死刑判決に対して幸せを感じるって?」
「分かりにくい話だし、初めから一つ一つ話していこうか」
提督が椅子から立ち上がった。
「まず、主人公のムルソーは他人とは違う人間だこの事は分かるな?」
「はい。彼からは感情を感じられるシーンが殆どありませんでした」
作中に彼の心理描写は殆どない。それ故に空っぽな人間にも感じられるぐらいだ。
「彼は周囲の事に無関心で鈍感だ。それ故に母親の死に特別な感情は感じないし、次の日には女と遊ぶ無神経さを見せる」
「その行動に理由は無いと?」
「そうだな。強いてみればそうしたかったからと言った所だろう」
彼は何も考えずに欲望のままに生きている人間という事なのだろうか? それなら分かりやすい。
「では、殺人を犯したのは殺意があったからという事ですか?」
「いや、それは違うな。彼に殺意は無い」
提督の言葉に?が浮かんだ。
「どういう事ですか?」
「あくまでも僕個人の意見だが理由は無かったんじゃないか?」
「え? わけがわからないんですけど……」
「あくまでも僕の意見だ。裁判で話していた 「太陽が眩しかったから」 という意見も本音なのかすら分からない。何となくという感覚に近いんじゃないか?」
頭痛を感じた。
「すみません。頭が痛くなってきました」
「コーヒーでも飲むか?」
「砂糖とミルクを多めでお願いします……」
提督がコーヒーを2つの紙コップに入れて机の上に置いた。頭痛を堪えながら彼の持ってきた甘くてぬるいコーヒーを飲むと頭の中が少しだけスッキリした気がした。
頭の中は多少マシになったけど、疑問は一向に晴れない。何となく? それだけの理由で? 主人公の思考回路が理解できない。そんな理由で殺されるなんてたまったものじゃない。何かしらの理由があるはずじゃないのだろうか?
「落ち着いたか?」
提督が自分のコーヒーに口をつけた。彼のコーヒーはブラックだった。
「少しは……」
「話を戻すぞ」
「はい……」
「結論だけ話すと作中に彼の殺人の動機は書かれていない。彼が言ったように文字も通り「太陽が眩しかったから」かもしれないし、特に理由は無かったのかもしれない。作者としては解釈は読者に任せるという意味かもしれないな。その事を踏まえて裁判の時の話に移るがいいか?」
「ちょっと待ってください。最終的な解釈は読者任せなんですか?」
「明確な殺人の理由が書かれていない以上、そう思うしかないと思う。そこで僕は、殺人に理由は無かったと解釈した。主人公は現実に無関心な上に鈍感で僕らとは違う世界で生きている人間だしな」
「そうですか……」
私達とは違う世界で生きている人間。その一言に納得せざるを得ないのかもしれない。そうなると提督が解釈したように殺人に理由は無かったのだろうか?
「僕の解釈をその通りだと受け取って貰っても良いが、照月も考えてみたらどうだ?」
「考えていても話が進まないので、とりあえずは提督と同じ解釈で考えます……」
一瞬、悩んだが悩んでいても答えなんて出るわけが無い。提督の言うように殺人に特に理由が無かったという解釈もある程度の説得力が無いわけでない。彼の意見をそのまま採用する事にした。
「裁判の事に話を進めるがいいか?」
「はい、大丈夫です」
「裁判で彼は自己弁護をしない。その解釈も人によって違うと思うが、僕は彼が嘘をつくのを拒否したからだと思う」
「えっ……自分の裁判なのにですか?」
「今までの彼の行動を考えてみたらそう思えないか? 分かりやすく言えばその場の空気に合わせるのが嫌な人間なんだ。彼は関係を結んだ女に堂々と「愛していない」と言っているだろ? それに、母親の葬儀の場でも迷いはしたが煙草を吸った」
「言われてみればたしかにそう思えなくもないですね……ってこれってもしかして、解釈がいくらでもできる小説なんじゃないですか?」
「そうだな。だけど、共通して言える事はある」
「何ですか?」
「最初に確認したが、主人公が周囲と異なる人間であるという事だ。彼は周囲に関心が無く無頓智だ。それ故に彼は周囲から孤立する。社会はこういう理解不能な人間を嫌うからな」
「たしかに、裁判では孤立してましたね。それに社会がいわゆる模倣的な人間とかけ離れた人間を嫌うのは当たり前の事です」
社会的に合わない人間を排除しようとするのは昔からある事だ。それだからこそ差別は無くならないし、本来の私も周囲から孤立していた。
「彼は、孤立するが故に裁判で除け者扱いされ、死刑判決を下される。裁判の場での彼の扱いを覚えているか?」
「えっと……」
「発言の機会は殆ど無かったんじゃないか?」
「あっ……!」
提督に指摘されてハッとした。裁判で主人公は発言の機会を殆ど与えられていない。
彼は母親の葬儀の場で涙を流さず、居眠りをし、次の日には映画で笑い、女と関係を結んでいる。裁判でその事を引き合いに出され、こじつけで彼は冷酷な凶悪犯として扱われてしまう。実際には他人と違うだけなのに……。
裁判は彼を無視した形で進んでいく。裁判の焦点は主人公の人間性になり、判事や弁護人が彼の性格を勝手に語って、勝手に話を進めていく。弁護人は彼が話そうとしたら「主人公が話さない方が都合がいいから」と話を遮っていた。
「裁判の2日目なんてかろうじて話せたのは殺した理由としての「太陽が眩しかったから」ですね」
「そうだな。そのセリフ自体に意味があったかどうかは不明だが……自分に関係ない所で裁判が進んでいく様子には苛立ちを感じていたな。それは分かるか?」
慌てて手にしていた本を開いた。
「えっと…… (時々私は皆の言葉をさえぎって、こういってやりたくなった。「それはともかくとして、一体被告は誰なんです。被告だと言うことは重大なことです。それで私にも若干言いたいことがあります」) の部分ですか?」
「そうだな。彼は彼自身の裁判にでもあるのに関わらず、裁判は実質的に彼抜きで進められる。彼は憤りを感じるがそれは決して解決されず彼には無慈悲な死刑判決が下される」
「酷い話ですね」
自然と口から言葉が出た。
「まぁ勝手な話だよな。不条理な小説だからしょうがない面はあるが……」
被告人の意思が無視されて勝手に話が進んでいく話の流れに嫌悪感を感じた。
「彼が死刑判決を受けてからの話に移るがいいか?」
提督がコーヒーを飲み干してから呟いた。
「はい大丈夫です」
「死刑判決を受けた彼は牢屋に送られる。そして、牧師から罪を悔いよと言われるが、彼はそれに対して激怒する」
この理由は何となく分かった。主人公が神を信じていないことはすぐに文中から読み取れたから。
「主人公が無神論者だからですか?」
「そうだな。無神論者に説法を聞かせてもイラつかせるだけだろう。牧師を追い払った後に、彼は牢屋の中1人で幸福を感じる。彼は死刑執行の日に人々に憎悪の声を浴びせられながら処刑されることを望む」
この作品を理解していく上での最大の壁に当たった事を自覚した。
「1番分からないところですね。死刑判決を受けたのになんで彼は幸福を感じていたのですか? 死にたがり屋の変人ですか?」
「これについては、僕も明確な解釈があるわけじゃないな……。ネットで以前、見つけた他人の意見で個人的に気に入ったものでいいか?」
「お願いします」
「1つは不条理に抗って生きたいように生きる事ができたというもの」
「どういうことですか?」
「主人公は死刑判決を受けた。だが、それ故に彼は孤立状態の社会から開放され自由になれた。というものだな。ここの自由は一般的な意味とは違って、社会的な規範な価値観から開放されたというものだ」
「死ぬ間際の自由という物ですか?」
死ぬ間際の自由という心理状態は何度か小説で読んだことがある。死が決まっているが故に何にも縛られずに自由に物事を考えられるそんな心理状態だ。
「そうだな、それに近いと思う。もう1つは……分かりにくいかもしれないが死刑判決を受け、世界から切り離されたが故に世界への繋がりを感じたからと言うやつだな」
世界との繋がりという言葉に引っ掛かりを感じた。
「繋がり……ですか?」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。続きを話して下さい」
「彼は死刑判決を受け、現実世界とは切り離された場所に置かれた。だか、彼は元々社会からはかなり遠い場所にいる人間だ。元々は社会の圧力や期待を受けていたが死刑判決を受け現実世界から切り離される事によってそれらから、開放された。それ故に現実世界から切り離されたはずなのに逆に今までよりも現実世界を近く感じるだからこそ、幸福を感じたという意見だな」
世界との繋がりを近く感じたからという言葉に親近感を感じた。提督と一緒にいる時に感じる不思議な物の正体が分かった気がする。
私は孤独な人間だ。孤独故に世界と繋がりを持てずにいる。だけど、提督はそれを受け入れてくれた。小説の主人公とは違うけど、提督が受け入れてくれたから私は世界との繋がりを感じる事ができている。だからこそ、提督と本来の私が一緒にいると嫉妬心を感じてしまうし、私自身も提督と一緒にいたいと思ってしまう。これが、不思議な物の正体なのだと思った。
「とここまでだが……すまん、小説の話も終わるし僕が話せるのはここまでだな……分かりやすく話せたかは分からないが……何か聞きたいことはあるか?」
「いえ、大丈夫です」
「また聞きたいことがあったら気軽に話してくれ」
「お付き合いいただきありがとうございました!」
自分の中の物が解決できたおかげか自然と元気な声が出た。提督に小説を返してから「失礼します」と言って執務室を後にした。
提督の話は難しかったけど、理解できたし私自身のためにもなったと思う。
それに、自分の生き方を貫いたが故に幸福を感じたという考え方も面白かった。本来の私が死んだら私も死のうと思っていたけども、私も私なりの生き方を見つけるべきなのかもしれない。それが幸に繋がるか不幸に繋がるかは分からない。
だけど、自分で選んだ人生を自分で生きるのも悪くないかもしれないと思った。
ー--------------------
「ふぅ……何とか話せたな……」
執務室に残った僕は椅子に持たれかかって、安堵感を感じた。照月に上手く解説できるか不安でこの数日間、暇があると毎日解説サイトを閲覧して勉強していた甲斐があった。
照月の様子から恥はかかずに済んだと思う。彼女があの小説の何に感銘を受けたのかは分からないけど、気に入って貰えたなら良かったと思う。
次回は作風や登場人物がかなり変わった話になると思います。