次回からきつくなる予定です
1週間が経った。
休み無しの激務が続いている。
朝、6時に叢雲にたたき起こされ、それから就寝までずっと執務をする。解放されるのはいつも深夜の0時から2時だ。
叢雲の目が無い出撃のある日は、昼に少しだけ時間に余裕ができる時もあるけど夜の事を考えて、少しでも睡眠をとるようにしている。
他の鎮守府の提督がどの程度の労働をしているのか知らないけどいい加減、疲れた。気の休まる時が無いし、毎日のように眠気や疲れを栄養ドリンクで誤魔化しているが、限界は確実に近づいている。
相変わらず、照月とは隔日で性行為をしている。自分としても少しは慣れてきたと思いたい。ただ、主導権を握ろうとしてもどこかで必ず逆転されてしまい、そのまま気絶するまで搾り取られる。
気持ちいいことは気持ちいいし、照月と繋がれることへの嬉しさもあるけど、次の日に響くし、少し勘弁して欲しいと思う時がある。拒否権は与えてもらえないのだが……
彼女が深海棲艦を拷問する趣味は相変わらずだ。直接見たわけではないけど肉体関係を求められる日は必ず鎮守府に悲鳴が響き渡る。
数日前、噂で聞いていたフラ戦の件を検証するために本人と叢雲の了承の上で偵察用ドローンを使って戦闘風景を見学した。
彼女は、砲撃に怯みもせずに単艦で敵の隊列に突っ込んで行く。
相手は、軽巡ホ級を中心とした軽巡1駆逐5の水雷戦隊。当然ながら照月に砲撃が殺到する事になるが彼女は、砲撃を全てギリギリの所で交わす。
旗艦である軽巡ホ級が照月の砲撃に怯んだ所を急接近した彼女の手によって、一撃で首から上がもぎ取られ、撃破されるのが見えた。
首の無い残骸がグラりと崩れる。
残った駆逐艦イ級達はパニックになった。旗艦が一撃でやられたのだから無理もないだろう。戦闘を放棄し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
照月がそれらを逃がすはずもなく、間近にいた1隻の鼻頭を殴って気絶させると残りのうち1隻に目をつけた。
逃げるイ級に対し砲撃を命中させる。致命傷ではないけど速力を奪う狙い澄まされた一撃。
照月は、速力を失ったイ級にゆっくりと歩いて追いつくと、まるで子供が小石を蹴るように蹴り飛ばした。
イ級が2m程、吹き飛んで海面に叩き付けられる。蹴り飛ばされた先でまたゆっくりと歩く照月に追いつかれて蹴られる……その繰り返しだった。一連の遊びは、イ級が絶命するまで続いた。
一連の連投の中、壊れたテープレコーダーのように彼女は笑っていた。
戦場の彼女は、無垢な子供に悪魔が乗り移ったかのように見えた。
照月の中の闇は未だに見えない。姉妹艦の冬月が死んだことへの復讐かと思ったりもしたけど憶測の域を出ない。僕の調べた限りでは作戦は成功した事になっているし復讐というのであれば既に果たせているはずだ。
未だに分からないことだらけだけど、一つだけ分かったことがある。あくまでも僕の予想だけど、彼女は少しずつもう人の人格に乗っ取られつつある。赤い目でいる時間が少しずつ長くなっている気がするし、夜に求められる時間も増えている。
いつになるかは分からない。今日かもしれないし明日かもしれないし1年後かもしれない。だけど、そう遠くないうちに彼女は、自分を削り切り発狂するか死ぬだろう。
嫌だ。そんな事、許せない。
僕は、みっともない男だ。提督のくせに部下の強気な叢雲に毎日のように扱き使われてるし、照月とも鎮守府の上下関係とセックスぐらいしか繋がりを持てていない。だけど、彼女が死ぬ事だけは考えたくなかった。
照月は、この鎮守府で初めて会った艦娘だ。性行為の相手が欲しいという彼女自身の都合もあるだろうけど、周りから暴言を吐かれても宛にされていない事を堂々と言われている状態だったけど彼女だけは、自分から僕を助けてくれた。
何とかして照月を破滅の道から救いたい。
そう思ったのはいいけどなんの進展もなくただ時間だけが過ぎていった。
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「朝よ! 起きなさい!」
いつものように叢雲の怒鳴り声で目が覚めた。相変わらず全身が痛い。昨晩も激しく搾り取られた事が頭を過ぎる。
「おはよう……」
「はい、早く用意をする!」
隣を見たが照月は既に起きていたらしくいなかった。昨日あれだけやったのに彼女の元気さが羨ましい。
「この所、目覚めが悪いわね。もっとしゃんとしなさいな」
「文句があるなら照月に言ってくれ……」
「体調管理も仕事のうち! 責任転嫁しないの!」
痛む体と眠気に我慢しながら起き上がる。
朝食は菓子パン1つとインスタントのコーンポタージュだった。慣れてきたけど相変わらず食事の最中の叢雲の視線が鬱陶しい。黙って早く食べろとプレッシャーをかけてくる。
気持ちは分からなくもないが急かしすぎなのではないだろうか?
叢雲の態度は日が経つにつれ硬化している。真面目にやってるつもりなんだけど何が気に入らないのだろうか? 最近は、何をやっても文句を言われるし、彼女のそれは生理的な嫌悪感に近い気がする。
改善点があるなら言って欲しい。僕の能力不足や不器用さが原因となると文句の言いようがないが……
「提督、おはようございまーす!」
食べ終わるのとほぼ同時に照月が来た。相変わらず笑顔が眩しい。ただ、瞳は赤みを帯びている。今、目の前にいるのは、もう1人の照月だ。
「おはよう……」
「おはよう。今日も元気がいいわね」
「叢雲ちゃん。今日も頑張ろーね!」
いつもの地獄のような1日が始まった。
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深夜の二時に叢雲が執務を切り上げる旨を言い、やっと仕事が終わった。
毎日のように終わりの見えない書類仕事だが叢雲の話によるとあと3分の1程らしい。ようやく終わりが見えてきた感じがする。書類の山が片付けば少しはましになるだろうか?
「はぁ……やっと解放されたか……」
疲れのあまり机に突っ伏した。
「提督、お疲れ様です」
ねぎらいの言葉をかけた照月の瞳の色は、ダークグレーだった。本来の彼女だ。
「照月もお疲れ様」
「今日も大変でしたね」
「そうだな……」
いつも嫌な顔をせずに手伝ってくれる照月に申し訳ないと思った。本来、部下であるはずの叢雲に毎日のようにこき使われ、暴言を吐かれても怯えてビクビクするだけ。
まるで立場が入れ替わったようだ。叢雲と僕どっちが上なのか分からない。こんな提督の仕事に付き合いたいはずがないだろう。今日だって叢雲から大量の罵詈雑言が飛んできたのに言い返すことすらできていない。
自分にもっと、実力があれば……自分がもう少し強ければ、こんなことにはならなかったのではないだろうか?
「照月、ごめんな……こんな頼りない提督で……」
気づいたら声が出ていた。
「急にどうしたんですか?」
照月が怪訝な顔でこちらを見つめる。
「いつも叢雲からこき使われているだろ? 毎日、書類仕事だけはやるけど指揮を執るわけじゃないし、本来、命令される側のはずの艦娘に指示を出される上に、いつも叢雲に怯えている。立場上は提督だけど提督らしい事が何も出来てない自分が情けなく思えてきてな……」
話し出すと止まらなかった。加えて照月に自分の弱い所を見せてしまった情けなさに涙が頬を伝う。
「うーん……でも、それって悪いことですか?」
「逆に悪くない理由があるのか?」
「確かに提督が上司として頼れる人間だとは照月も思いません。ですが、叢雲ちゃんから与えられた仕事は真面目にやってますし、横暴な態度を取ったりもしません。照月から言わせていただくとそれだけでも十分だと思いますよ」
仕事は真面目にやる物だし、子供のように振る舞うべきじゃない。当たり前のことじゃないか。
「そんな事、提督として当たり前のことだろ。今日だって君に手伝ってもらってようやくノルマ達成とかそんなレベルだったし……」
「ノルマに関しては叢雲ちゃんがキツすぎるだけなんじゃないかなぁ……? 毎日、あれだけ文句を言われた上であれだけの仕事をやらされて折れない人間の方が珍しいです。照月が見てきた中だと提督以外の人は皆、今ぐらいの時期には心が折れてましたよ」
照月の意外な言葉に心が少し軽くなった気がした。
「そうなのか……?」
「あくまでも照月個人の意見ですけど提督は提督が思ってる以上に立派です。だから、もっと自分に自信を持った方が良いと思いますよ」
鎮守府に着任してから初めて聞いた賞賛の言葉。何かの解決にもなるわけでもないけど心の中の闇が少し晴れた気がした。
「照月」
「どうしましたか?」
「ありがとう」
「どういたしまして。また落ち込むような事があったら気軽に相談に来て下さいね。照月は提督の事は好きですし、何時でも相談に乗りますよ」
好きと言われてドキリとした。恋愛感情などではなくあくまでも人間又は上司としてだろう。だけど、彼女の笑顔は落ち込んでいた僕の励みになるのに十分だったし、慰めて貰えたのは嬉しかった。
「どうしたんですか? 顔を赤くして……」
「すまん……何でもない」
「叢雲ちゃんに怒られちゃいますし、体調悪いなら早く寝た方が良いですよ」
「そうだな。ありがとう。今日は休ませてもらうよ」
「改めて、お疲れ様でした!」
照月は元気な声を出した。
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改めて彼女が好きなことを自覚した。
僕は彼女が好きだ。狂気を帯びていたとしても彼女の笑顔が好きだ。彼女のいつも元気な所が好きだ。
彼女を失いたくない。笑顔を守りたい。彼女の狂気を止めなければならない。
だけど、具体的な行動には移せずにいる。どこから手をつけたら良いのか分からないし、今の僕は毎日の執務をこなす事で手一杯だ。どうすれば良いのだろうか?
時間は有限だ。自分か彼女のどちらかが壊れる前に行動しなくてはいけない。手段は選んでいられない。
やろう。
右手に握りこぶしを作る。僕は、行動を起こす事を決意した。
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次の日、遠征帰りの赤い目のもう1人の照月に声をかけた。
「照月……ちょっと話をしてもいいか?」
「どうしました?」
「深海棲艦を拷問するのを辞めないか?」
「どうしてですか?」
「どうしてって……倫理的に間違っているからだ。悪いけど幾ら憎い相手や敵だからって拷問はやるべきじゃないし、肯定するわけにはいかない。それに本来の君もそんな事をしたいと思ってないはずだ」
「そうですか……提督も叢雲ちゃんと同じこと言うんですね」
空虚で儚い物を感じる声で呟く照月にうっすらと嫌な予感がした。
「私がおかしいから辞めろって言うんですか?」
「おかしいからって……当たり前の事じゃないか。何を言ってるんだ?」
大人しく聞いていた照月が急に豹変し、怒りの表情をあらわにした。
「私だっておかしいことぐらい分かっていますよ! たしかに、私は狂ってます。叢雲ちゃんにも頭がイカレてるって言われてますし、姉妹にも避けられてましたし、夕立ちゃんにも怖がられています。だから私に消えろというのですか!?」
初めて聞く彼女の怒鳴り声に しまった と思った。
「いや……そういうわけじゃ……」
「今の私の人格と遊びは切っても切り離せないものです。提督は、この意味が分かりますか?」
マズイ。何が地雷だったのかは分からない。
ただ、彼女の逆鱗に触れてしまった事は確定的な確実だった。
「提督は、私の事を照月にとってのガン細胞のようなものだと思っていませんか? 私は照月にとっても必要だからこそ存在してるんですよ」
「照月にとって必要……? どういうことだ?」
照月は僕の疑問に答えずに、話を続けた。
「提督が悪い人じゃない事は知っています。ですが、人の事情も知らずに分かった気で話をしないで下さい。おこがましいですし、迷惑です」
「すまん……」
僕の謝罪に対し、照月は何も言わずに僕に背を向けた。これ以上話す気は無いと言う意思表示なのだろう。引き下がるしか無かった。
こうして、彼女を説得しようとする試みはあっさりと失敗した。
この日の夜の行為は、僕への一切の配慮が無い物となった。初日のように首を絞められたし、立てなくなるまで搾られた。彼女を怒らせてしまったことを強く後悔した。