※この作品はR-18です。

最果ての鎮守府で   作:黒猫クル

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 話の都合で長めです。今回からきつくなります。


覚悟

 2日後、叢雲達が出撃したのを見計らって、ある目的の為に明石の元を訪れた。

 

「明石に何か用ですか?」

「照月の過去を教えて欲しい」

 

 明石がため息をついた。

 

「聞く相手を間違ってませんか? 照月さんについては話せる事は、全部話しましたよ」

「話せないなら調べて欲しい」

「おっしゃる意味がよく分からないのですが……。明石は工作艦ですよ。個人について調べる事は仕事ではありません。それなのになんで私に聞くんですか?」

「だって君は大本営からの監視員だろ? うお!」

 

 急に視界が反転した。腹の上に馬乗りになった明石を見て彼女に投げ飛ばされた事を理解した。

 

「どこでそれを聞きました?」

「風の噂で……いだだだっ!」

 

 人差し指に激痛が走る。

 

「正直に話さないと話すまで指の関節を1本ずつ増やしますよ」

「士官学校同期の憲兵の友人から聞いたんだ!」

「仕事が増えましたね。全く……。私が監視員だと知ってるのは鎮守府では叢雲さんだけですよ」

 

 明石が苛立ちを隠さない態度で呟いた。

 監視員というのは大本営から鎮守府に派遣されるスパイのようなものだ。彼らは見方によっては提督よりも権限が強いぐらいの、影響力を持っている。憲兵は彼らが逮捕や捜査のために用いる兵隊に過ぎない。

 提督が悪事を隠すのを防ぐために提督は監視員が誰なのか知らないし、監視員側としてもバレるわけにはいかない。それが前提条件となっている。

 

 この鎮守府の監視員を憲兵の知り合いから聞いたのは、はっきりいってルール違反だ。照月の過去を調べてくれと電話越しに泣き付いた結果、権限が無いと断られた上で監視員が誰なのかを教えてもらった。

 本人からも絶対に他人に話すなと言われていたし、それを約束していた。彼は間違いなく、罰則を受けることになるだろう。心の中で、すまないと声を出した。

 

「それで、明石に照月さんについてもっと詳しく教えて欲しいと」

「何とかして欲しい」

「無理ですよ。明石は、提督に話した以上の情報は持っていません」

「そこを何とかしてくれ! 憲兵よりも権限が強い監視員なら艦娘の過去も調べられるだろう!」

「確かに可能ではあります。ですが対価は払えるのですか? ものすごく高いですよ」

「幾らだ」

「私の中の相場では800万から1000万円ぐらいですね」

 

 無理だ。払えるわけが無い。銀行強盗をしろとでも言うのだろうか?

 

「勿論、無理な事は分かってますよ。ですが、ある物を渡してくれるなら考えてあげなくもないです」

「なんだ?」

「世間的にはあまり知られていない話ですが5年程前に深海棲艦を匿った士官生がいましたよね?」

 

 背筋が凍りつくのを感じた。

 

「どうしてそれを……!」

「私を誰だと思ってるんですか? ここに来る提督の過去ぐらい調べますよ」

 

 

ー--------------------

 

 

 5年前、僕は沖合に流れ着いていた1匹の深海棲艦を助けた。1匹と言うよりかは1人なのかもしれない。

 この日は偶然、成績不振で教官に怒鳴られ、落ち込んで防波堤で気晴らしをしている時だった。海岸線に白い小さな何かが見えた。何だろうと思いつつもボーッと見つめていると何かがこちらに近づいてくる。

 

 10分ほどしてそれが何なのかを察した。深海棲艦。それも恐らく人型で危険視されている姫クラス。

 彼女は幼い子供のようだった。容姿は5歳くらいで、目は彼岸花のような真っ赤な色をしていて、髪と肌は雪のように真っ白で美しく見えた。

 500m程にまで距離が縮んだ段階で目が合った。目が合った後も距離はどんどん詰まっていき、数メートル程にまで縮む。死を覚悟した。

 

 グー

 

 突然、腹の虫が鳴いたような間抜けな音が響いた。僕では無い。恐らく、目の前の深海棲艦からだ。

 

「腹が空いているのか?」

 

 声をかけると深海棲艦が無言で頷いた。

 偶然、持っていたコンビニのおにぎりを渡すとバクバクと食べ始めた。

 彼女がおにぎりを3個ほどたいらげた後に話を聞いた。

 

 彼女は道に迷ってしまったことを語った。

 軍人としては、助けるふりをして、上に報告するべきだったのかもしれない。だけど、僕は彼女を匿う事にした。

 自分でも甘いと思うかもしれないけど相手が5歳にも満たない子供に見えたのが理由だ。彼女はおにぎりが好きな無邪気な子供だった。

 

 次の日に、深海棲艦の居る場所を彼女からの情報や戦況の判断から憶測で話すと彼女は、住処へと帰っていた。これで終わりだと思っていたが次の日に同じ防波堤を訪れるとまた彼女を見つけた。ビックリして話を聞いてみると僕の事が気に入ったらしく、毎日のように会うようになった。

 当初はレーダーや偵察機等に引っかからないか不安に思ったが彼女はステルス機能を持っているらしく、偵察機が飛ばない夜を選んでくる為、杞憂だった。

 

 一日が終わるとこっそり、防波堤に彼女に会いにいく。彼女は見た目相応の幼い子供だった。事の善悪がまだ分かっていなかったし、性格は無邪気そのもの。

 それでも少しずつ言葉を交わし、分かり合えるようになり、他人を助けたいという僕の考えにも共感してくれた。ストレスの多い日の中、彼女に会うことが楽しみだった。

 

 しかし、3ヶ月程して別れは唐突にやってくる。自分を担当している教員にバレた。幸いな事に教員の人はある程度は話が通じる人で、彼女に別れを告げるだけでいいと言ってくれた。

 事情を話すと初めは嫌だと泣きながら抵抗されたが、最終的には納得してくれた。

 

 数年ほどして、新聞で彼女が北方棲姫という名前をつけられたということを知った。現在、彼女は危険な個体扱いされている。彼女と直接の交戦で沈んだ艦娘はいないものの、レーダーや索敵網に引っかからず神出鬼没で作戦海域に現れ、艦娘を大破させ作戦を妨害する存在。大本営からすれば鬱陶しい事この上ない敵なのだろう。

 現在、彼女がどこにいるのか分からない。だけど、彼女はどこかで確実に生きている。それだけは確かだった。

 

 彼女との思い出は、辛いことばかりだった士官学校時代のかけがえのない宝物だ。彼女と一緒に撮影した写真は今でも残っている。

 

 

ー--------------------

 

 

「その時の深海棲艦と一緒に撮っていた写真、それと階級章及び士官学校の卒業証書をいただけませんか?」

 

 階級章と卒業証書を渡せと言うのは、提督としての地位や過去を投げ出せというのと言っているのと同じことだ。

 照月の過去を知りたければ、命以外のお前の持っている物の全てを差し出せ。明石は遠回しにそう言った。当然ながらそう簡単に受け入れられるはずがない。

 

「それは……」

「提督は北欧神話のフレイをご存知ですか?」

「いや……」

「教養がありませんね……」

 

 豊穣の神である彼はある日、とある巨人に一目惚れする。彼女を手に入れるために彼は彼にとって最も大切な物である勝利の剣を召使いに褒美として渡すことになる……

 そんな話だった。

 

「何かを得るには何かを失わなければなりません。無理にとは、言いませんよ。提督に唯一残った物全てを差し出せと言っていると言うことは、明石も分かっています。ですが、人の過去を暴き出すのはそれだけ重い事なんです。どうするかは提督自信がお決めになって下さい」

 

 当然ながら、渡せるはずがない。提督としての地位は身内の無い僕が士官学校時代に成績不振で同級生に馬鹿にされ鬱になりかけたりしつつも唯一他人に誇れる物だ。

 北方棲姫との写真だって、僕にとって命の次に大事な物に等しい。

 だけど……

 

「分かった……渡そう」

 

 声が震えていることが自分でも分かった。

 照月の為となれば手段を選んでいられないと覚悟したのは僕じゃないか。その為に数少ない友達の憲兵に泣きついて、無理矢理説得させたし、今もこうして明石と話している。今更なんだと言うのだ。

 執務室に戻り、約束の品を明石に手渡した。

 

「確かに受け取りました。また1週間後に来て下さい」

「ちょっと待て! 約束が違うぞ!」

「直ぐに教えるなんて誰も言ってませんよ。それに明石にも現時点では情報が足りない事は事実です。今ならお返ししますがどうなされますか?」

 

 まだ逃げれるという遠回しな言い方。だけど、引くという選択肢は無かった。

 

「いや……いい……」

「承知しました。今から1週間は、地獄になると思いますが覚悟してくださいね」

「どういうことだ?」

「艦隊が帰ってくれば分かりますよ。提督のご健闘をお祈りします」

 

 この時は知らなかったけど明石は神話の続きをあえて口にしていなかった。

 勝利の剣を失った事により、世界滅亡の日であるラグナロクにおいて彼は巨人のスルトに敗れることになる。

 この事は僕の暗い未来を暗示していた。

 

 

ー--------------------

 

 

「ねえ、聞きたかったんだけどいい?」

 

 艦隊が帰ってきて一時間ほどした頃、叢雲が呟いた。

 

「何だ?」

「胸元の階級章どこにやったの?」

 

 冷や汗が流れた。予想された問いが返ってきた。どう答えるべきだろうか? 頭の中を様々な言葉が巡る。

「早く答えなさいよ。まさか。無くしたなんて言うんじゃ無いでしょうね?」

 

 叢雲が僕を睨みつける。正直に話すしかないと思った。

 

「明石に売った」

「はぁ!? ちょっと待ってなさい!」

 

 数分後、腹を抱えて笑う叢雲が執務室に戻ってきた。

 

「アハハハ。傑作だわ! 元々馬鹿だと思っていたけど筋金入りだわ。想像以上。アハハハ」

 

 叢雲の嘲笑う声が棘のように心に突き刺さる。

 

「なんとでも言え」

 

 精一杯の強がりに突然、腹部に金槌で叩きつけられたかのような痛みが走り、吹き飛ばされた。

 仰向けの僕を見下すような態勢の叢雲を見て彼女に蹴られたのだと理解した。

 

「何を……」

 

 蹴られた部位を抱えながら呟いた。

 

「これが見えるかしら?」

「それは……どうして持ってるんだ!?」

 

 叢雲の手には1枚の写真があった。明石に渡した物だ。

 

「明石から高値で買ったのよ。大本営に送り付けたらどうなるかしら」

「返せ!」

 

 咄嗟に叢雲に飛びかかったが交わされた上で背中からカウンターの足蹴りを食らい壁に叩きつけられた。

 

「ぐぁっ……!」

「提督、どういう事ですか?」

 

 照月の冷たい声がした。本能が警鐘を発する。

 

「コイツは過去に深海棲艦を匿っていたのよ。その証拠がこれ。写っているのは北方棲姫かしら? 凄いわね。確認されている深海棲艦の中でもトップクラスの危険個体よ。アンタのせいでどれだけの人が死んだんでしょうね」

「違う! あの子は人を殺したりしない!」

 

 僕の知る限りではあるけど今の所、彼女との交戦で戦死した艦娘はいない。それは事実だ。

 

「何言ってるのかしら? 任務の最中に北方棲姫にやられた艦娘の数は凄いわよ。人を殺さないわけがないじゃない」

 

 やられたというのは撃破されたという意味だと思う。だけど、反論する力は無かった。

 

「それは……」

「どっちにしてもアンタに提督の資格は無いわね。今までは、手を出したくても出せなかったけど提督じゃなくなったのなら話は別。思いっきり可愛がってあげるわ」

「がぁっ!」

 

 再び彼女の蹴りが腹に入り、激痛が走る。

 

「照月! 貴方も手伝いなさい!」

「えー。私は嫌だよ」

「照月……」

 

 照月の声に彼女が助けてくれるかもしれないという淡い希望を持って彼女の方を見た。

 

「何ですって?」

 

 照月の場違いな、のんきな声に叢雲の苛立ちを感じた。

 

「だって今までは叢雲ちゃんが提督を殴りたくても出来ないから照月が仕方なく代わりにやってあげてたんだよ。私は、今の提督の事は嫌いじゃないし、殴りたいとは思わないんだよね。今の叢雲ちゃんならできるんだし、やりたいなら叢雲ちゃん自身がやってよ」

 

 しばしの間、叢雲が照月を睨んだが彼女は顔色1つ変えない。

 

「分かったわ……。代わりに夕立を呼んできて。それで妥協するわ」

 

 沈黙が続いたが少しして叢雲が折れた。

 状況は変化していない。叢雲がイラついた分、むしろ悪化した気すらする。

 

「それぐらいならいいかな。じゃ、私は失礼するね。提督は後で聞きたいことがあるので色々話して下さいね」

 

 執務室のドアが閉まった。

 

 

ー--------------------

 

 

「罪悪感紛らわすために他人を巻き込む当たり叢雲ちゃんらしいよね」

(助けないの?)

「助けたいならしばらく体を返すからそっちが行ってよ。傷を背負うために生まれてきたからって、何でも私にかんでも押し付けないで」

(そっかー……)

「面倒事には関わりたくないのが本音でしょ?」

(それはそうだけど……)

「気になるのは提督がなんで深海棲艦を匿っていたかそれだけだよね? それだけ知れればそっちも満足じゃないの?」

(まぁそうだけど……)

「分かったら、頭の中で騒がないで大人しくしてて」

(はーい)

 

 廊下で照月が呟いた。

 

 

ー--------------------

 

 

 滝のような土砂降りの雨の中、目が覚めた。僕は鎮守府のゴミ捨て場に捨てられている。

 

 全身が激しい運動をした後の筋肉痛のように痛い。口の中は乾いていてしょっぱい様な変な味がする。状況から察するに気絶した自分に興味を無くした2人がゴミ捨て場に放置した物だと思われる。

 

 あの後、叢雲にサンドバッグの如くボコボコに殴られた。途中から夕立も加わってからは記憶があまり無いけど、叢雲が僕の過去を嘲笑うかの如く写真を踏みつけられたのを見た事だけは、覚えている。

 辛いことだらけだった、をを士官学校時代の唯一の心の安らいだ思い出。それを真っ向から否定され馬鹿にされる苦痛。光景を思い出すだけで涙が流れた。

 

「クソ……」

 

 1人で悪態をつく。明石が言っていた事はこの事なのだろう。人間と艦娘の間には身体能力の差がある。普段から戦場で戦う訓練をしている人間としていない人間だから当たり前だろう。加えて、そこに艦娘の身体能力を強化する艤装が着くと手がつけられなくなる。

 

 それから身を守る物が提督としての立場のはずだが僕の場合は全く機能していない。

 結果として艤装が無かった分、マシではあったものの一方的に殴られることになった。

 無法地帯と聞いていた物が余計に酷いものになった。今後は、叢雲から日常的に浴びせられてきた暴言に暴力が加わるだろう。

 

「やぁ。生きてるかい?」

 

 涼しい声に目を開けると傘をさしてこちらを見下ろしている響がいた。

 

「響……か。君も殴りに来たのか?」

「理由も無しに殴ったりはしないよ。助けもしないけど」

 

 意外な言葉が飛んで来た。彼女も照月と同じ立ち位置なのだろうか?

 

「助けて欲しければ……どうすればいいんだ?」

「助けを求めてくれればいい。そうすれば怪我の手当てぐらいならする」

「助けて……くれ」

「了解。痛むかもしれないけど我慢して」

 

 響は僕を背中に背負い、両膝を抱え持ち手足を掴むと小さな体に似合わぬ力で軽々と立ち上がり、鎮守府に向けて歩き出した。

 

 

ー--------------------

 

 

「響ー何やってるっぽい?」

 

 鎮守府内の廊下を歩いている途中、後ろからした夕立の声に寒気がした。

 

「見れば分かるだろ?」

「ごみ捨て場からゴミを拾ってきちゃダメっぽい。夕立が捨ててきてあげるっぽい」

 

 夕立が襟を掴んだ瞬間、少し前の光景が目の前に蘇った。叢雲は怒りを僕にぶつけているのに対し、夕立は反応を楽しむように笑いながら僕に暴力を振るっていた。たしか、ゴミ捨て場に捨てようと言ったのも彼女だった。

 また、あの時のようにされるかもれない。本来、痛みで震えないはずの体が恐怖に震えた気がした。

 

「夕立……やめてくれ」

「うるさい、ゴミはゴミ箱にっぽい!」

「見苦しいよ」

「えっ?」

 響の呟きに夕立はキョトンとした声を出した。

 

「君は、相手が抵抗しない上に叢雲が後ろ盾にいるから好き勝手しようとするんだろ? 叢雲がいなくても彼を殴れるのかい? 仮に殴ったとしても相手に殴り返される覚悟はあるのかい?」

「響……何言ってるっぽい?」

「どうしても殴りたいなら私が相手になろうか?」

「えっ、それは……」

「相手に殴り返される覚悟も無い日和見主義者は黙って大人しくしてなよ」

 

 夕立の表情が歪んだ。

 

「つっ……! 叢雲に言いつけてやる!」

「好きにしなよ」

 

 響の言葉に夕立は逃げるようにして消えた。

 

「響……すまんな」

「気にしないで。見苦しいのが嫌なだけだから。言っておきたいんだけど夕立は止められるけど叢雲と照月は無理だよ。あの二人は明確な意志を持ってやってるから」

「そうか……」

 

 その明確な意志の正体が何なのかが少し気になったが、聞く気力は無かった。

 

 

ー--------------------

 

 

「酷くやられたね」

「ああ。そうだな……」

 

 体中が絆創膏塗れになるとベッドの上に寝かされた。濡れていた服を脱がされた関係で今は下着1枚しか着ていない。 

 外を見ると夜のとばりが下りて真っ暗だった。真っ暗の中にバケツをひっくり返したような雨が降っている。

 いつもなら照月の相手をしてる時間だ。彼女は今、何をしているのだろうか? 今日ばかりは相手をするのは勘弁願いたいけど……

 響を見ると1人で椅子に座って歌を歌っていた。

 

「Вставай, страна огромная,Вставай на смертный бой」

 

 彼女が歌っているのはソ連軍歌の聖戦だった。

 

「聖なる戦いか……。前々から聞きたかったんだがソ連軍歌が好きなのか?」

「仲間への弔いだよ。気に入らないならかえるよ」

「いや、そのままでいい。あの曲結構、好きなんだ」

「分かった」

 

 聖なる戦いは人類史上最大の戦いとなった独ソ戦中に作られた軍歌だ。

 負けたら民族としての絶滅が確定する総力戦。それを表すのにピッタリな歌詞となっている。曲自体も威厳を感じる物となっていて、コンサートで流れる時は聴衆が暗黙で起立することもあるらしい。

 僕個人としてもかなり好きな曲で、海軍兵学校時代はよく聞いたものだ。

 立て掛けられている1枚の写真が目についた。響を中心として複数人の艦娘が映っている。

 

「写真が気になるのかい?」

「少し……な」

「過去の戦友だよ。もう皆、死んでしまったけどね」

 

 一瞬、無表情な響の顔に悲しみの表情が走った気がした。

 もしかしたら、ではあるけど彼女が人を避ける理由に関係があるかもしれない。

 

「もしよければ何だが、過去に何があったのか聞いてもいいか?」

「いいよ。大したことじゃないけどね」

 

 響の話は悲劇的なものだった。

 元々、彼女は赤色海軍を中心とした鎮守府にいて、仲間達とそれなりに楽しく過ごしていた。しかし、ある日彼女のいた鎮守府が深海棲艦の大規模な奇襲を受ける。提督も含めた皆が戦死した中、響だけが生き残る。

 

 彼女は日常はいとも簡単に壊れることを悟り、以後、人と関わることを避けるようになる。サボタージュを繰り返していたのもその影響らしい。

 この鎮守府では叢雲が人付き合いは好きにしていいが任務だけはしっかりやれば衣食住の保証を提案され、響はそれを受け入れた。という話だった。

 

「すまん。辛いことを思い出させたな」

「いいんだ別に。話したって過去が変わるわけじゃないし。私は死んでいった皆の分を生きる、そう決めただけ」

「聞きたいんだが関わるのが嫌ならどうして僕を助けたんだ?」

「誰かを助けるのに理由がいるかい?」

 

 そう呟いた響に息を飲んだ。彼女は照明に照らされて美しく見えた。

 だけど直ぐに嘘であることに気づいた。。彼女の発言は矛盾しているし、とあるゲームの名言をそのまま口にしたものだ。

 

「助けてくれた時の発言と矛盾してないか……? それと君は、FFIXが好きなのか?」

 

 響の言った一言はFFIXの主人公の名言だ。しかも、言う相手がヒロインではなくエンディング直前にムカつく宿敵相手に言うのだから聞く人の印象に残るセリフになっている。

 僕個人としては、FF屈指の名言だと思う。

 

「1度言ってみたかっただけだよ。FFIXは隠しボスのオズマを倒すくらいにはやりこんかな?」

「かなりやりこんでいるな……それと、話を戻すようで悪いが何で助けたんだ?」

「提督に興味を持ったからだよ。他人のために自分の全てを投げ出す人間を初めて見た。だからそれが気になった。それと意外と長持ちしてるのが面白く感じてね」

 

 彼女は好奇心旺盛な眼でこちらを見ていることに気づいた。

 

「照月の事、知っているのか?」

「鎮守府の皆が知ってるよ。叢雲が皆に広めてた。本人は……と言っても、もう1人の方だけど、人間として好きだけど、恋愛感情とかそういうのはよく分からないって言ってたかな」

「そうか……」

 

 響の好奇心。それが、僕を救ったわけか。

 自分の好意が照月に知られたことはショックだったけど、彼女は恋愛というものをそもそもあまりよく分かっていないらしい。嬉しいのか嬉しくないのかよく分からない複雑な感情になった。

 

「それに加えて、提督に倒れられると少し、困るからというのもあるかな?」

「どういうことだ?」

「実は、提督が来る前の執務は私達も手伝わされてたんだ。叢雲との約束で仕事が無い時は何しててもいいって言われてるんだけど叢雲にやれって言われた時は断れない事になってる。今、提督に辞められると自由時間が減るんだよね」

「意外と真面目なんだな……」

「約束は約束だからね。それで、今日はここで寝ていくかい? 叢雲も照月もここまでは来ないと思う。今晩だけになると思うけど」

「いや、執務室に戻るよ。変な誤解を受けかねないし、叢雲に何を言われるか分からないからな……」

「そっか。提督の健闘を祈るよ」

「響、今日はありがとうな」

「Пожалуйста(どういたしまして).」

 

 僕は服を軽く着て、部屋を後にした。

 

ー--------------------

 

 

 執務室のドアを開くと照月がいた。赤い瞳のもう一人の照月だ。

 

「照月……!」

「ここにいれば来ると思ってましたよ」

 

 咄嗟に身構えた。今日は彼女と寝る日だし、夜の関係をせがまれるかもしれない。加えて、深海棲艦を助けたという事実から殴られるかもしれないという心配が少なからずあった。

 

「お疲れ様です。怪我もありますし、今日だけは特別に我慢します」

 

 彼女の一言に軽い安堵感を覚えた。

 

「その代わりに教えて欲しいです」

「なんだ……?」

「提督はどうして深海棲艦を助けたのですか? それだけ聞きたいです」

 

 照月が赤い瞳で僕を見つめる。子供が分からない事を教師に聞きに行く時のような眼だった。下手な嘘をつくべきではないそう判断した。

 

「分からない……けど、相手が子供に見えたからだと思う」

 

 正直に話したつもりだけど、殴られるかもしれない恐怖感に冷や汗が流れた。

 

「理解できませんね」

 

 照月の返答は素っ気ない一言だった。

 

「見た目がどうであれ、深海棲艦は敵です。照月の場合は身内が殺されている事もありますし、助けようなんて思わないです」

「そうか……」

 

 何か反論したいと思った。だけど、僕はその為の言葉を持ち合わせていない。彼女の言葉を黙って受け止める事しか出来なかった。

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