動物虐待レベルではありますが過激な描写が出てきます
頭はそんなに良くないけど戦闘技能だけは姉妹一。それに加え、一般的にグロテスクと言われ、皆が避けている奇怪な映像には耐性があるけど、変に思われたくないからその事は隠している。
それらを除くと秋月型二番艦としてこの世に命を受けた私はごく普通の艦娘だった。
朗らかでよく晴れた日、姉妹全員で歩いていると道路の向かい側に1匹の三毛猫を見つけた。彼女とは、私の姉妹全員に可愛がられている子で毎日のように餌をあげたり遊んだりしていた仲。
私達に構って欲しいと思ったのだろうか? 彼女が道路を横断しこちらに走ってくる。
「危ない!」
咄嗟のことに声を上げたが遅すぎた。私が叫び声をあげた瞬間に暴力的で巨大な鉄の塊が私の目の前を突き抜けた……
「…るつき! 照月!」
「えっ?」
秋月姉さんの声で我に返った。
「何をやっているの?」
「何って……あれ?」
私は……何をしていたのだろうか? 猫の前にトラックが走って来るのを見てからの記憶が無い。
秋月姉さんは今にも怒りを爆発させそうな表情で私を睨みつけていて、他の妹たちは、真っ青な顔色で私の事を見つめている。
普段は皆に優しい秋月姉さんが初めて見せる表情や他の姉妹の状態からただ事ではない気がした。
手の中の違和感に気づいた。視線を向けると手袋に赤い液体がついている。
何だろうと思い、手の力を緩めると何かが下に落ちた。
ポトリ
「きゃあああ!」
落ちた物に秋月姉さんを覗いた姉妹全員の悲鳴が上がる。手の中にあった物は、何かの目玉だった。直径2cmぐらいの大きさで黄色くて真ん中が真っ黒に塗りつぶされたかのような色をしている。
もしかしてこれは……猫の目玉?
思わず尻もちをついた。
「私……何をやっていたの……?」
「姉さん……何も覚えてないのか……?」
冬月の言葉に私は無言でうなずいた。
「照月。落ち着いて聞きなさい」
秋月姉さんの話によるとトラックに轢き殺された猫の元まで無言で歩いていき死体を弄っていたのだという。声をかけても車が近くを通っても反応が無く、上の空のように見えたらしい。しばらくして、手を血まみれにした私が戻ってきて現在に至るという話だった。
「本当に何も覚えてないの?」
「うん……」
体がガタガタと震える。自分のやったことが信じられなかった。戦うために生まれてきたとはいえ私は、まだ虫一匹殺したことが無いし、ましてや実際の動物の死体をこの目で見た事すらなかった。気持ち悪いとは思わないけど、その行為を自分がしたのがとにかく嫌だった。
なんで。何で私はあんなことをしたの? 思い出そうとしてもどうしても思い出せない。
「大丈夫?」
私が動揺していたのを心配したのか秋月姉さんが声をかけた。
「うん……」
「私達が片付けておくから先に帰って、休んでいなさい」
「分かりました……」
その日の夜に聞いた話だと死んだ三毛猫は、宿舎の近くに埋められたらしい。埋められた話を聞いた時に何故か強い失望感を感じた。
これが全ての始まりだった。
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二ヶ月ほどしたある日、宿舎の外に私は不思議な物を見た。
絶命した蛙が串刺刑にかけられた人間のように木に刺さっている。
「何あれ……」
初月が気味悪そうな顔をして呟いた。
「今調べて見ましたが、モズのはやにえと呼ばれる物らしいです……モズという鳥が保存食としてこの時期に作ると……」
少ししてスマホで調べたのか涼月が呟いた。
それは、動く事もせずにただじっとして木枯らしに吹かれている。
冬が近く、木についてる葉が殆ど無く死を連想する光景。寂しげで虚しい景色だったかもしれないし、グロテスクで気味の悪いものかもしれない。だけど、私にとって、それは1枚の絵だった。私にも……
(あれ?)
体が勝手に動いた。外に向かって歩こうとしている。
「照月姉さん、どこに行くのですか?」
「ごめん。涼月、ちょっと外行ってくるね」
涼月からの問いに、思ってもいないのに口が勝手に開いた。
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体が勝手に動く。フワフワとした感触に体が包まれているけど、初冬の寒けを感じ、風の吹く音を聞き、目から伝わる視覚を見ている。まるで夢の中にいるような気分だった。
外に出た私は、蛙を2匹捕まえた。木の枝を拾い尻に当たると思われる部位に突き刺す。
ブヨブヨとした萎んだゴムボールみたいな体に突き刺すのは難しかったけど、尻から口まで貫く形に持っていけた。
作ってる最中は面白いと思っていたけど、できた作品はみすぼらしい物に感じた。本物に対して何かが足りない感じがする。
ゾクりとしないし、あまり綺麗なものに感じられない。なんでだろう?
そして、なんで私はこんなことをやっているのだろうか? ダメだ。頭が回らない。ただボーッとしながら、もう1匹の蛙に手を伸ばした。
「姉さん!」
後ろからした声に振り向くとランニング姿の冬月がいた。
「あっ、冬月」
「何をやっているんだ……」
冬月が困惑の声を上げる。
「モズのはやにえを見ていたら私も作って見たくなってね。それでやってみてるの」
(えっ?)
自分が何を言ったのか理解できなかった。私は、あれを綺麗だとは思ったけど作りたいとは思っていない。
冬月の顔が歪む。不快感を表にした物だった。
「辞めないか? 我が姉ながらだけどおかしいと思うぞ」
「えー、そうかなー?」
「いいから辞めるんだ!」
「あっ……」
冬月に蛙を取られてしまった。危機を感じたのか大きくジャンプするとどこかに行ってしまった。
「冬月、何するの!? あーあ、せっかく捕まえたのに……」
「生き物は、いたずらに殺すものじゃない。命ある物は尊ぶべきなんだ」
「命ある物? それじゃあこの前みたいに死骸なら遊んでもいいの?」
私は何を言っているの? 確かに今までに何度かそう思うことは何回かあった。だけど、非常識過ぎるし口に出さないようにしていた。
「それは……」
答えに窮したのか冬月が閉口した。
「皆、可哀想って言うけど私にはよく分からないんだよね。あれを気持ち悪いって言うのも無いみたいだし……」
(辞めて!)
頭の中で私の悲鳴が鳴り響く。
今の私は、過去に心の中でうっすらと思っていたけど隠したかった事を口にしている。心の中を次々と暴露される感触。激しい嫌悪感が私を襲った。
「気持ち悪いと思わないのか……?」
「全然思わないよ。あの猫の死骸、もっと触ってみたかったなー」
自分で口にした言葉に背筋が凍りつく。私があの時に感じた失望感は死体への興味だった。
「姉さん……頭は大丈夫か?」
「えっ?」
「十人十色とは言うけど姉さんは異常だと思うぞ」
「そうかなぁ……? 冬月は、死体を触ってみたいとか思ったりしないの?」
「するわけが無いだろ!」
冬月が拒絶感を隠さない声にビックリしたのか、急に体の感触がいつものように戻った。
「冬月……」
「姉さん?」
声の調子の変化に気づいたのか冬月が声を出した。
「私……何をやっていたの?」
「また……覚えていないのか?」
「いいから……全部話して」
冬月から聞いた話は私が見て感じてきた物、そのままだった。
「本当に何も覚えてないのか?」
「うん。何も覚えてないの……気づいたら冬月が怒ってた……」
嘘をついた。自分で自分を管理ができていないなんて、艦娘失格だ。他の人にバレたくない。それに、何かが言っていた私の中の物が事実だと言うことを気づかれたくない。
「そうか……一応、秋月姉さんに報告するけどいいか?」
「いいよ」
秋月姉さんから色々と問い詰められはしたけど、幸運な事に隠したかった事はバレずにすんだ。バレなかったことに胸を撫で下ろしたけど軽率すぎる判断だった。
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その日から私は1ヶ月ぐらい置きに奇行を繰り返すようになった。記憶は残っていたり残っていなかったりする。
ある日は、蟻の巣穴に水を流し込み、溺れて藻掻く蟻たちを見て笑っていた。また、ある日は、捕まえたトンボの羽をむしり取って地面に落とし、踏み潰した。また、ある日は、見つけた小動物の死骸から内臓と骨の一部を切り取って、宿舎まで持ち帰った。
意識が無く体が勝手に動く時と意識が残ったまま体が勝手に動く時がある。
何回か繰り返していくうちに兆候だけは何となく予想がつくようになった。まず、意識が無い場合。この時の私は突然意識が途絶える。失神に近い状態だと思う。
次に意識が残ったまま体が勝手に動く場合。この時の私は、フワフワ浮いているような感覚に襲われる。体だけが勝手に動き、目から得られる情報や手から伝わってくる触感をそのまま感じ取る。
どちらも意思があるらしく、他人からの質問に答えたり、笑ったりする。喋る言葉は私の深層心理だったりそうじゃなかったりする。ただ、非常識だったり私としても隠しておきたかったりすることを平気で言うから困る。
加えて、私じゃない何かが行う行為自体にうっすらと興奮をを感じている私が嫌だった。
いつの間にか妹達に避けられるようになり、奇行を見ても何も言わなくなっていった。特に冬月が酷く、半径1m以内に入ってくるなと言う。私だって好きでやってるわけじゃない。体が勝手に動くだけなのに……
そんな中でも秋月姉さんだけは私の相手をしてくれた。ただ、秋月姉さんだけが真摯に相手をしてくれた。
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初めての奇行から1年ほどしたある日、秋月姉さんに宿舎の空き部屋に呼び出された。何なのだろう?
「座りなさい」
指定された部屋に入ると秋月姉さんが薄く照明の着いた部屋の中で紫色の座布団の上に正座で座っていて、その前に私用と言わんばかりに座布団が敷かれていた。何となくだけど嫌な予感がする。
「秋月姉さん、用事って何?」
「照月に聞きたいの。変なことをした時に本当に何も覚えてないの?」
嫌な予感が当たった。
「覚えていないよ」
「本当に?」
「うん」
「私の目を見て話なさい」
秋月姉さんは、真面目な顔で私を見ている。彼女の透き通るような碧眼に全てを見透かされたような気がした。
「覚えていないって! 姉さんしつこいよ」
「嘘をつかないで! 照月が嘘をついている事ぐらい分かるんだよ」
一瞬、カマかけかと思ったけどすぐに自分で否定した。秋月姉さんは確信を持って、私が嘘をついていると言っている。私を追い詰めるような態度と強い口調にそれが現れていた。
「嘘は着いていないって……!」
「照月。絶対に怒らないし、誰にも言わないから正直に話しなさい」
落ち着いているけど強い声。誤魔化しは通じないことを悟った。
「本当に誰にも話さないでくれる……?」
声が震えているのが自分でも分かった。
「うん。約束するよ」
「分かったよ……」
私は、自分の中に抱えていたものを全て話した。意識が残っている時と残っていない時があること。自分で自分が管理できてないことがバレるのが嫌で嘘をついていたこと。奇行をする度に興奮を感じていたこと、そして何よりも嘘をつき続けるのが辛かったことを……
なんでこんな事になっているのだろう? 話しているうちに目から涙が零れた。
「照」
私が全てを話し終えると秋月姉さんが私を抱きしめた。
「辛かったね」
「ごめんなさい秋月姉さん……」
「大丈夫。何があっても私は照月の味方だよ」
秋月姉さんの優しい声が傷ついた私の心を包み込む。秋月姉さんに、よしよしとあやしながら撫でられると安心感があった。
「うわぁぁぁぁん!」
秋月姉さんの前で泣き崩れてからは、一晩中泣いた。
艦娘として秀でていることはなく、普段は頼りない姉の秋月姉さん。だけどこの時は、秋月姉さんが姉で本当に良かったと思った。
「秋月姉さん。私、頑張る。自分で自分を制御してみせる」
「大丈夫。照月ならできるよ」
秋月姉さんは、笑顔で私の手を握ってくれた。
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しばらくして、秋月姉さんが私が奇行に走る直前の外部的な兆候を見つけたと言ってくれた。奇行に走っているときの瞳が赤みを帯びているらしい。私自身が確認を取れたわけじゃないけど妹達も納得してくれた。
加えて、秋月姉さんが受け入れたのが良かったのか、日が経つにつれ、私がおかしくなる頻度は減っていき、フワフワとした感覚に襲われても意識を失いそうになっても、自分でもなんとか気を保てば制御が出来るようになっていった。
そのおかげか涼月も初月も姉妹としては付き合えるようになった。
だけど、冬月だけは私との距離を縮めようとしない。なんでも、モズのはやにえの事件の時に生き物を殺すのも死骸をいじるのも同じと言われたのがショックだったらしい。必然的に私も冬月とは距離をとるようになり冬月の事は嫌いになった。
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秋月型姉妹の別れの日。人数の多い電車の待合室の中で、私達は別れの挨拶をする事になった。
「秋月姉さん、お元気で!」
「照月も元気でね」
「涼月。秋月姉さんをお願いね」
「はい。お任せ下さい」
秋月姉さんと涼月だけは同じ場所だった。変に優秀なせいか他人を見下したり嘘をつく事が多い涼月だけど秋月姉さんの事は慕っている。涼月なら、秋月姉さんを任せても大丈夫だろう。
「初月も元気でねー」
「姉さんも体に気をつけてくれ」
初月はいつもの笑顔をみせてくれたが彼女の事は、少し不安に感じる。初月は体の性別と心の性別が違う病気、いわゆる性同一性障害だ。
姉妹全員が知っているのにも関わらず、初月が直接それを打ち明けたのは秋月姉さんだけだ。他の姉妹が居ない新しい場所でも上手くやって行けるのか不安が残る。初月の病気を受け止めてくれる人がいればいいんだけど……
「冬月は……」
冬月に声をかけようとして止めた。冬月はそっぽを向いている。私の言葉を聞く気がない事が態度に現れている。私としてもとやかく言う気は無いし、面倒事は嫌だ。
秋月姉さんと涼月が消えてその後に初月が消えて、私と冬月だけが残った。次は私の番だ。
「照月姉さん」
私が立ち上がると冬月が私に声をかけた。
「何?」
「お元気で」
冬月が顔すら合わせずに呟いた。
私に声をかけたくない冬月なりの最大限の妥協なのだろう。私にはそう感じた。
「冬月も元気でね」
冬月との別れの挨拶は素っ気ないものだった。
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一般的に、艦娘にとって着任する鎮守府には当たり外れがある。提督の権限が非常に強い関係上、ハズレを引くと悲惨なことになる。皆には着任ガチャなんて言われていたりしている。
私の場合は、着任した鎮守府は当たりと言っていいところだったと思う。提督は若手の優しくて有能な人で次々と戦果を挙げて行った。
私も表面上は礼儀正しく模倣的な艦娘を演じた。
誰とも分け隔てなく話し、任務は真面目にやる。演習は相手が誰であれ、相手に敬意を払い常に全力で挑む。演習で気にするべきことは勝ち負けではなくそこから得られたものだと思っているから、考えとしては普通に間違っていないと思う。
ただ、演じると言っても限界がある。自分を演じるのは大変だし、あの時のようなフワフワとした感触が表に出そうになったり、突然意識が飛びそうになる。
それと、私の中の何かとは別の嫌な物が溜まっていった。
破壊衝動。そう言葉にするのが正しいと思う。とにかく近くにある物を壊したくてしょうがない。対象は、小動物だったり物だったり深海棲艦だったりする。姉妹全員で生活している時はこんな事は無かった。原因は多分、ストレスだと思う。秋月姉さんから離れて、新しい環境に慣れなきゃだったし、平穏を演じるのは予想以上に大変だった。
平穏を演じるとストレスが溜まりそれが破壊衝動に繋がりそれを抑えるためにストレスが溜まる負の連鎖。
次第に自分の中の衝動が実生活に影響を出し始めた。不眠になり手が震える。吐き気がしたり頭痛がして次第に任務にも気が入らなくなっていった。周囲の心配に対して愛想笑いで誤魔化し続けるのも疲れる。
勿論、それを爆発させたらどうなるかは分かっている。分かっているから必死になって抑えた。
だけど我慢するのは本当に辛く、誰かに打ち明けることでもない。私は、少しずつ確実に消耗していった。
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ある曇った日の事。電ちゃんと2人で市街地を歩いていたら犬に吠えられた。吠えていたのは30cmぐらいで茶色い毛皮をした小型犬。キャンキャンと柵に手をかけて吠えている。馬鹿にされた気がした。
ダメ。我慢しなきゃ……。手に力がこもる。
「照月ちゃん、大丈夫なのですか?」
私の様子を不穏に思ったのか、電ちゃんが私に声をかけた。
「うん……何でもないよ……」
キャンキャンと犬の声が頭の中で木霊する……
「黙れクソ犬!」
ガシャン!
犬のいた柵を思いっきりの力で蹴り飛ばした。
いけないと分かっていたけど止めることが出来なかった。電気が流れるような強い高揚感が全身を駆け抜ける。
「照月ちゃん!?」
犬が30㎝程吹き飛んで悲鳴を上げる。投げつけてやろうと近くに落ちていた石ころを手に取った。
「照月ちゃん、辞めるのです!」
一緒に歩いていた電ちゃんが叫び声をあげて私の前に立ちふさがった。
「何で辞めなきゃいけないの?」
自分で非常識な言葉を口にして、まずいと感じた。
今の私は私じゃない。意識はあるけど体が言う事をきかない状態。フワフワとした感覚は無いけどあの日、モズのはえにえを作っていた時の私だ。
「何でって……可哀想なのです!」
「可哀想? 何言ってるの?」
(辞めて! そんな事言わないで!)
心の中で叫んだけど無駄だった。
実際の私は、目の前や犬がストレスの塊で可哀想だなんて微塵も思っていない。だけど、そんな事を口にしたくなかった。
「とにかく、ダメなのです!」
「電ちゃん」
私の柔らかい声に電ちゃんの顔から血の気が引いた。
「悪いけどちょっとどいてくれない? 電ちゃんを巻き込みたくないんだよね」
「は……はい……」
この時の私がどんな顔をしていたのかは電ちゃんにしか分からない。だけど、彼女の心をへし折るのには十分だったみたいだ。彼女は顔面蒼白で尻もちをついた。
視界の邪魔な彼女をどかすと、柵から犬を引っ張り出した。向こうが噛み付いてきたから壁に向かって投げる。
そのまま我を失っていたのか後の事は、あまり覚えていない。ただ、私が正気に戻った時には電ちゃんの姿はなく、犬は徹底的に破壊されていた。
返り血塗れになった私と散らばる肉片。おぞましい光景だったけど、下腹部に熱い物を感じた。
鎮守府に帰ると提督にうんざりするくらい怒鳴られた。彼の目はゴミを見るような目でいつもの優しさが嘘のように感じた。
必死になって謝ったけども反省してないと思われたらしく、何週間か独房に放り込まれた上で、激戦区の他の鎮守府(丁度、そこの提督が防空駆逐艦を求めていたらしい)に送られる事になった。そのまま死んでこい。そんな意味なのだろう。
秋月姉さん、約束を守れなくてごめんなさい。
独房の中で、一人で泣いた。