独立して働いてるエンジニア。プログラミングの天才。
ユフィリア (記憶あり ギリギリ精霊の力持ち 22歳)
大学へは行かず高卒で働いている。親の会社の出世頭。
「いらっしゃい。ユフィ」
「はい。お邪魔します」
『あの日』から。どれだけの月日が流れたのでしょうか。目覚めた時はもう私はパレッティア王国にはいませんでした。そして、その世界がアニスの言っていた『前世』の世界だと言うことには直ぐに気づくことが出来ました。しかし、この『前世』の世界で再開した貴方は私の顔を見るなり、首を傾げたのをよく覚えています。それから、また月日が流れ私とアニスは『友達』からスタートを切りました。
「今日は少し遅かったね?」
「はい。仕事が長引いてしまって」
「月末だもんね。大変でしょ?」
「そうは言っても、増える量なんて大したことはないんですがね。内容が多くて」
「あるある。妙に細かい内容の仕事。めんどくさいよね〜」
隣で料理をする貴方は私の『友達』。
隣で食材を切る私は貴方の『友達』。
その関係を保つ私の顔はまだ偽り。本当の顔を覗かせた時、きっと貴方は私の知る『貴方』に戻るのでしょうか。
「来月には落ち着くみたいなんですけどね」
「そっか。もしかして今忙しい時期?」
「さぁ、どうなんでしょう。結構マチマチなんですよ。私の会社」
最後の夜から私は貴方の居なくなった日々を数え歩いた。なんて事ない日常も、精霊の森が荒れた日も、幾重にも重なった日々を数えていた。『あの日』私のした選択はもう悔やんでも戻れない。それでも貴方を救うにはそれしかなかった。
「そっか〜。私はずっと一人で仕事してるからそっちも楽しそうでいいな〜」
無邪気な笑顔に溶ける貴方の顔は。私の知ってる顔。笑顔の貴方だけは『どちらの貴方』も愛おしい。喪失を、過ちを、幾度となく重ねてきた私は貴方が生きている今だけ良い。ただそれだけで。
「これ、味見して貰えます?」
「は〜い。んん〜♪ おいひぃ!」
…………
「ごちそうさまでした〜」
「はい。お粗末さまです」
アニスは満腹になったお腹を擦りながら、ソファに身を預けました。私は片付けをしようと食器をまとめ、台所へ向かいます。
「あ、手伝うよ?」
「いえ、これぐらいなら一人でやりますよ。今日は私が言い出した事ですから」
「なら……お言葉に甘えようかな」
皿洗いを始めると、アニスが背伸びで声を出しているのが分かる。
「ほんとに、ユフィは初めてあった気がしないよ」
「なんですか急に」
「なんか、私の考えてる事分かってくれてるみたいで気が楽っていうかさ」
「そうですか」
「もうなんか前世から一緒みたいでさ〜」
「そんな。前世なんて……」
やはり覚えていない。私は目を潜める。
でも、それでいいのです。そうなって欲しいと望んだのは私なのですから。
私がそうなって欲しいと、アニスを───。
【もう嫌だよ……お願い、ユフィ。もう私を……楽にして……】
ガチャンッ!
「ん? 大丈夫?」
「はい。すみません。手が滑りました」
「気をつけてね。やっぱり一緒に洗う?」
「私は子供じゃないんですから。ゆっくりしていてください」
「ん〜ふふっ、は〜い」
手元が滑り、皿を落とす。
幸い割れてはいないようですね。
流しに映る私の顔はとても今のアニスには見せられない顔をしていました。
「───はぁ」
聞こえないよう小さくため息。
深く考えるとまた思い出してしまう『前の世界』。
今はもう思い出したくもない。失敗した私達は互いに絶望した。あの世界はどこまでいってもダメだったと。閉ざすように消えた私達は今あの世界がどうなっているのか分かりません。親族も身内も全員消えてしまい、私はただ世界に絶望したアニスの手を引いてひたすらに逃げるように走り回っていただけでした。あの頃に描いた世界の理想が王国の崩壊という形で目の前に広がっていた。【楽にして】その言葉にどれだけの想いが詰め込まれていたか。アニスの絶望をその一言だけで表されていたのがよく分かりました。その時にはもう涙など枯れていると思いましたが、アニスはそれでも国の為に涙を流していました。手に取った刃の冷たい光は今でも覚えています。そして、血にまみれた貴方の体も覚えています。
「ユフィ……?」
「っ、はい。なんでしょう」
「なんかあった? 今日は口数いつもより少ない気がする」
「えぇ、あぁ、疲れたのでしょう。『今までの事に』」
「? 、今日の仕事?」
「はい。そんなところです」
「じゃーお皿洗いは明日にして、一緒に飲もう〜!」
「えぇ、お酒はあまり得意ではありませんよ?」
「なら、ジュースでも良し! はい、終わり終わり〜!」
「あ、ちょ、アニスっ……」
水道を止められ、手を無理やり拭き取られ、アニスは私をソファに押し付けた。
「もう相変わらず強引な人ですね」
「初めて会った時のことを思い出すね〜」
「少し酔ってますね?」
「さぁ? どうでしょう?」
『初めて会った時』。
それはどちらの時でしょうか。
私を攫ってくれた時。
それとも、この世界で出会った時。
今の貴方と今の私ではその言葉の意味も違う。
「でもユフィの前では酔っ払ってもいいもんね〜」
「どうゆう理由ですかそれ」
「だって、ユフィとなら変な気も起こさないし、ずっと語り合えるからね。昔は変な男ばっかり私によって来てたから、ユフィみたいな親友はありがたいよ」
そう思わせぶりな事を直ぐに言うのも『前の貴方』と同じ。だから、私は『それ以上』に踏み込もうとはしないようにしてきた。我慢してきた。でも、貴方がそう言うなら私も親友の距離を縮めてしまおうとも考えるようになってしまったのです。
だからこれは、貴方のせいでもありますよ。アニス。
…………
「女性同士でもそういう事は出来るんですよ?」
「え───」
飲んだお酒の勢いか。それとも二人きりの空間だったからか。その一言からまるで魔法にでもかかったように。ユフィリアの顔が酷く艶やかに見えた。急に意識し出すとさっきまで普通に見れていたはずの顔が、見れなくなり、目線がずっと胸や足、股下の方へと向いていく。見ないように見ないように。すればする程、目は泳ぐ。目線は向かう。沈黙の時間が長ければ長いほど、意識したと見なされる。そういう気分になったと思われる。今から犯されるという感覚よりも自分がそう言わせてしまったという感覚で体が熱くなる。恥ずかしい訳では無い。焦りや動悸のせいで。
「な、何言ってるのユフィ。私は別に───」
「したくないんですか? 今、明らかに動揺しましたよね?」
「い、や……ち……がく、て……」
ユフィリアが近づく音。布が擦れてカーペットが揺れる。匂いを確かめるような狼の瞳。指で絡み取られたアニスの髪にゾクゾクと背筋に何かが走る。
「───、───」
今一言。
後一言。
何か言葉を発した瞬間。自分はこの人に全てを晒されてしまう。それを機に考えるのは今の自分の下着の色と陰毛の処理具合。そして明日の予定。手に持った酒缶の銘柄なんて見えなくて、視界の端にいる怪しく微笑むユフィリアの唇がアニスの瞳に焼き付いて。当たる吐息がアニスの心を溶かしていく。瞳が垂れて、眠気が来る。体の熱と眠くない眠気。酒缶をスルリ、と取られて机に置かれる。絡めた二人の指がアニスの膝に降りてきた。確かめるように指をなぞり、わざとユフィリアはアニスの視界に入らない。耳元でゆっくりと息をするだけ。
「っ……」
ユフィリアは待っている。アニスが蕩けて崩れてしまうその瞬間を。ほんの少しでもユフィリアの方へ体を傾けたらアニスはこれからユフィリアのものになってしまう。
「わ、たし、は……」
酒の匂い。甘ったるい女の香り。ユフィリアの香水。酒と唾液の匂いが混じった吐息。顔を伏せているアニスはどんどん心の中で何かが膨れ上がってきた。
もじもじと足をすり合わせ何かを隠している。
絡み繋いだ二人の手。
アニスはもう逃げられない。
ユフィリアはもう逃がさない。
自身の肩に添えられたもう片方の腕。ゆっくり下に降りてきて、アニスの胸元へ近付いてきた。まだ触れない。最後の一歩はアニスから。
「ダメ……だよ……ユフィ……」
胸元にある手を止める。
「何故?」
今度は顎をすくわれる。
「こんなの……だめだよ……」
「ダメなら……ちゃんと抵抗してください」
そう言って、視線をユフィリアのへ向けたアニスはゆっくりと組み伏せられた。
「まっ、待って……ユフィ……」
「やっぱり怖いですか?」
「うぅん……違う、部屋……暗くして欲しい……」
拒まれたと思ったら、アニスはユフィリアの手を握る。
そして、合意の取れたセリフ。
「恥ずかしい、から……」
「そうですね。電気、スタンドライトにしましょう」
…………
「んっ……っ……は……あ……ん……んぅっ……っっっ……」
抑えた口から零れる声と排熱する吐息。見つめ合えばキスで塞がれ、離れればユフィリアの指がアニスの体を伝っている。脇腹、腹部、下腹部、胸、鎖骨と頬と臍。アニスにとって『久しぶり』の感覚。初めてでは無い。前にどこかで感じてる。だから受け入れられた。拒むことは無かった。抵抗もしない。ユフィリアなら自分を大切にしてくれる。そういう風に『分かって』いたからだ。
首筋にやってくる舌がくすぐったい。
押し付けがましいキスも、得意げな下触りも、慣れてそうな掬い上げも、アニスは『前から前から知っている』。
「アニス───」
「ゆ、ふぃ……」
嗚呼。『知っている』。
その瞳も、顔も、息遣いも、全部知っている。
体をなぞる手の動きも、キスマークを刻むその唇の切なさも、濡れているその瞳も、全部『知っている』。
「ユ、フィ……」
見下ろされて、蕩けていく。自分の体とユフィリアの微熱で溶かされていく。服の中に入る手が自分を犯そうと迫ってくる。
『知っている』感覚が、アニスを溶かしていく。ずっと忘れないようにしていたものを思い出させてくれる。今目の前にいるのが自分の大切な人で、一生を約束した人で。確か、そうだった気がする。頭の中で思い浮かべようとしてもノイズが走り、上手く思い出せない。それでも、ふわふわと浮かんでくる。目の前の人の記憶。曖昧なピースが組み合わさっていく感覚。
「ユフィ……?」
「はい。アニス?」
そして、見慣れてるはずの部屋が見慣れない違和感の景色になる。
「ここ……何処? 王宮じゃ……ない、よね?」
「っ!?」
ユフィリアの顔付きが変わった。普段のアニスから絶対に出てこないセリフが出てきた。ぼんやり蕩けているアニスは自分の言った事を理解していないようだが、ユフィリアは自分の顔を見せないようにアニスを目を塞ぎ、アニスの隙間に指を這わせる。
「んぁっ! ……ちょ、ユフィ……そんないきなり……っ……ひぃん!」
指を膣に入れて掻き乱す。アニスの声が部屋中に響き渡る。アニスの水音もずっと大きく聞こえるようにユフィリアは指を掻く。目を塞ぎ、体を舐め、自分の好きな人を貪る。何も考えられないように。何も思い出させないように。この記憶は自分だけが持っていればいい。アニスにはもう不安な世界へは行かせない。ただ幸せに生きて欲しいから。
「あっ……! ま、まってユフィ! ほんとにっ……ぃ……激しいのっ……だめっ、だからぁぁ……!!」
言葉で抵抗するがヘコヘコ腰を浮かせている。指が膣を掻く度に腰が浮く。舌をだらしなく垂らして犬のように息をする。
「すごぃぃ……っ! ユフィの指、気持ちいいよぉ……!!!」
セリフにもう躊躇いがなくなった。アニスの頭の中がソレで夢中になってしまった。
ぐりんぐりん。臍の中を指でなぞりながら、キスをして、クリを掻いて、膣内を弄くり回す。さっきのセリフを閉ざしたがるように。認めたがらないように。ユフィリアはアニスを狩る。
「───、───!!」
忘れろ。忘れろ。忘れろ。
思い出すな。アニスの声も閉ざして、ユフィリアの煮えたぎる心を閉ざして、苦しめるようにアニスを犯す。声を漏らす事すら許さない。今は自分の事だけを考えて欲しいから。あんな世界はもう要らない。アニスを蔑ろにした世界。魔道具を自分達の物にして、私達を裁いた世界。私だけが生き残る必要はなかった。私がアニスをその苦しみから───。
「っは……! あっ! んぃっ……! も、もう、むりぃ……! ッ……っっ……! んっ……っっ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
腰が浮いて来たと思ったら、アニスはそのまま潮を吹いてイキ果てた。
呼吸を荒くして熱を逃がすアニスにユフィリアはそっと額にキスをする。
…………
「っはぁ……はぁ……」
「んっ……ぁ……ユ……フィ……っ」
親友の距離を少し縮めてみたら、貴方は愛しい壊れ物だとまた気付かされました。前から貴方はずっとそうでした。自分と戦って、挫けることなく、夢を追い続け、その姿を誰よりも近くで見て知っていたのに、あの世界はアニスを捨てた。
「酷いよユフィ……私、初めてだったのに」
顔を赤く染め、今更ながら胸を腕で隠す。貴方の初めてを貰ったのも二回目。貴方は終わった後はいつもそうして恥ずかしがる。
「すみません。嫌でしたか?」
「…………」
私が聞き返すと、アニスはクッションを抱き締めて頬を赤に染めました。
「いやだったら……さいごまでしないし……」
恥ずかしそうにクッションで顔を隠すアニスはどんなものよりも可愛く、愛らしく見えました。そのまま包むようにベッドへ倒し、乱れた髪を直すように撫でる。
「シャワーは朝にしましょう。体は痛くないですか?」
「うん。大丈夫……なんだけど、さっき私変な事言わなかった?」
「え? 何か言いましたか?」
「う〜ん。なんかいっぱいいっぱいで朧気なんだけど、なんか全然違う所にいるような感じがして……」
やはり、先程のセリフは聞き間違いではなかったようですね。しかし、覚えていないのなら幸いでした。言われた時はかなり驚きましたが、どうやら、私が触れてしまったからなんでしょうか。私が触れれば触れるほど記憶が起こされてしまうのでしょうか。
「気のせいでしょう。初めてだったのですから、感覚に慣れていなかっただけですよ。さぁ、休みましょう。明日はゆっくり出来ますから」
「うん。そうだね。なんか眠くなってきたし」
「はい。おやすみなさい。アニス」
「うん。おやすみなさい。ユフィ」
もし、そうなってしまったとしても私はきっと貴方を求めるのでしょう。貴方を手にかけた私自身が貴方を求めているのだから。ずっとそばに居たいと願うほどきっとそれは遠くなる。『前の世界』ではそうなるはずだったのに、そうならなかったのですから。
だからもう一度、この世界でやり直す。私の貴方の物語を。この記憶は私がずっと閉じ込めたままで。
「……っ……っ……」
貴方を抱き締めて、涙を流している私はきっと愚か者。朽ち果てること無く、この世界に飛び込んできた。『前の世界』では首を跳ねられ、体を引き裂かれた。アニスと共に焼かれて消えた。だから今度は『この世界』で私は貴方を守ってみせる。
枯れるほど流して。朝が来た。隣で眠る貴方の顔はそのままでいつも朝が来る度に私の時間は空っぽの時間。いつまで経っても埋まらない。白日夢の中にいるようで。私はきっとふわふわと浮いている。それもまた大精霊になったように。無限の時の中の空っぽの時間。私は貴方の記憶を消し続ける。もう二度とあんな世界には立ち入らせない。この記憶は私の中だけでいい。子供のような寝顔の貴方を守るためにはこうするのが1番だった。あの世界での理想はもう無い。だから今度はこの世界で貴方を守る。それが今の私のやるべき事。
貴方を殺めてしまった私の贖罪。
確かに今、私達は空を飛ぶことは出来ません。
でも、叶うのなら貴方に翼をあげたいと思うのです。
私の孤独を剥がしてくれた貴方の言葉。
もし、今の道で行き詰まることがあったとしても、私は貴方とならまた歩んでいける。