※この作品はR-18です。

転天 SS   作:扇 漱真

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転天のss書いてた時のネタ帳みたいなやつです。
ずっとここで貯めてたんですよね。


転天 ネタ帳まとめ

「あと…一年…」

「人の形でいられる時間…ね」

 

「皆には、言わないで欲しいの」

「もう気づいてるわよ。『あの子』はね。」

 

「私は…君だった。だから今度は私が君になるのかな…?ライラナ」

「魔学を研究するだけがアニス様の人生じゃないのよ」

『あぁ、あぁ、可哀想に可哀想に、貴方にはあの子以外何も無いのでしょう?』

「彼女と戦った事も、ドラゴンに成った事も、言い訳にしないでくださいッ!貴方の涙が見たくて、私は王になった訳じゃありませんッ!」

 

 

「私は『今』を大切にしたいんだ。こんな体になっていて、私はユフィよりずっと早く居なくなるっ…」

「それなら、私も貴方と共に消えます…!アニスのいない世界なんて…私はっ……!」

 

「俺らもアニスフィア王姉殿下の為に出来ることを探さないとな」

「私もアニスフィア王姉殿下には笑顔でいて欲しいと思っていますよ」

「『お嬢様』のしたい事だと言うのなら私も応援致します」

 

「アニスが生きているという事を、私に感じさせてください」

 

 

 

 

 

 

 

「アニス様。これいつまで続ける気?」

「私の試験だよ?私の好きにさせてよ。ティルティ」

 

「魔石を取り込みすぎれば人の形を保てなくなるわ。あの手の甲にできた鱗、この症状から見てあと一年同じ生活してたら、アニス様はもう…」

「あと…一年で…?」

 

「明日は晴れるといいね。イリア」

「……」

 

 

 

 

「お願いですからッ…!これ以上余計なことはしないでください!私の手間が増えるだけなんです!」

「ッ余計なことって何さ!私は私で出来ることをしてるんだ!」

「自分の体で魔学の実験!?それの何処が安心出来る魔学ですか!いいですか、アニス!貴方は一度死にかけているんです!その事を自覚してください!」

「だから…っだからそうならないようにするための実験なんだって言ってるでしょ!なんでわかってくれないの!」

 

「本当はわかってるんですよね?ユフィリア様の事」

 

「アニスフィア様を思うが故なのは、皆わかっていると思われます」

 

 

 

 

「少し話をしましょう。ユフィリア様。最近の貴方はどうもおかしいわ」

「…ティルティには、関係ありませんから」

 

ティルティの言葉など聞く耳も持たず、私は彼女を追い越そうとする。どれだけ醜いと、何を思われても構いません。私は私の存在意義の為に出来る事をするだけです。

 

「っ───!」

 

バシン!

 

肩を捕まれ無理矢理ティルティの方を向き直されたと思った瞬間、彼女から平手打ちが飛んできました。突然の事で驚いて、ティルティの顔を見ると、怒りの余り息が荒くなっているのが分かりました。

 

「アニス様を言い訳にしないで」

「!?」

「最近はどうもおかしいと思ったけど、貴方、アニス様の不利益になりそうな者を消してるでしょ」

「……」

「そう。それに対して言い訳をしないってことはそういう事ね。随分と人間らしいのね。精霊契約者って。感情が消えるんじゃなくて?」

「ッ…貴方に何が分かるというのですか!」

 

私らしくない。らしくない事を言って、思っているのはわかっています。でも、そうしないと、あの人をまた目の前で失いかけるかもしれないのです。その可能性を潰して何がいけないというのですか。

 

「助けられなかった!何もしてあげられなかった!アニスが苦しんでいるのに!私は情けなく吠えるだけで、見てる事しか出来なかった!」

「だからって、そうならないように誰か消すのは違うでしょ!無闇矢鱈に誰かを消してきた先にある夢が本当にアニス様の為になると思ってるの!?考え直しなさい!ユフィリア様!」

「違う…!違うんですティルティ!私は、アニスの為に───っ!?」

 

『私はユフィと一緒に居るの、好きだよ?』

 

もしそれが、アニスの望まないことだったら?

もしそれが、アニスの夢とは程遠いものだったら?

もしそれが、アニスの為すらならないとしたら?

それなら私は何のために…?

 

「ぁ…」

 

ほつれた人形の方にその場に崩れさる。押し殺してきた何かが溢れてきて、どうしようもなく心が騒ぎ出しました。いっぱいいっぱいの気持ちで痛む胸を握り、もしそうならなかった時のアニスの顔を想像するだけで、私は息が荒くなりました。涙が零れ、瞬きを忘れ、心が足りず、ただ蹲る。ティルティは分かっていたのでしょう。これが病気ではなく、私が行き過ぎた考えを持ってしまったということを。

 

 

 

 

「………」

 

それは突然目に入りました。

小さなカゴに入れられた、小さな女の子の命。生まれて、1年経つか経たないかぐらいの女の子。抱きあげれば、それはもうすぐ終わる命。それでも、この子は笑っている。私を見て笑っている。

 

「貴方…もしかして…」

 

と、私は周りに精霊を呼ぶ。だが、そこに浮かぶ精霊が見えていない。なるほどそういう理由ですか。

綺麗な金色の髪に青い瞳。魔法が使えない王族の忌み子。王族は基本的に魔法が使える一族。それが使えないともなれば、捨て子になるのも必然か。隠蔽工作にしては雑ですが、私にはどうする事も出来ません。

この小さな命にはここで朽ちてもらう事を願います。

 

「あ〜う」

「………」

 

そんな目で見てもダメです。

 

「あうあ〜ぅ〜」

「っ………」

 

私には子育てなんて…。

 

「きゃっ♪きゃっ♪」

「っ〜〜〜〜!」

 

 

・・・・・・

 

 

「で?結局拾ってきたって訳?」

「……はい」

 

残忍な者になりきれず。私は結局彼女を拾ってきてしまった。面白いもの見たさで来たティルティに今は抱かせています。その間に私は哺乳瓶にミルクを入れている。

 

「ユフィリア様が子育てねぇ…」

 

ニヤニヤとこちらを見ているティルティに少しだけ顔を赤くして、彼女を寄越すように促す。だが、彼女はティルティの腕の中が気に入ったのか、離れようとしない。むしろくっついて、ポヨポヨと彼女の胸に顔を埋めている。

 

「あらあら、ユフィリア様には無いものをお探しのようで?」

「ぐっ……」

 

この巨乳め…別に大きいだけでなにが変わるなんてないはずなのにこういう時に限っていつもいつも差を感じないといけないのはなんなのですか別に私だって好きで小さい訳じゃないんですから少しぐらいその肉を分けてくれたっていいじゃ───

 

「あ〜う!あうあうあ!」

 

すると突然私の方を向いてその小さな手を伸ばす。

 

「ほら、ユフィリア様の方に行きたいってよ?」

 

ティルティから彼女を受け取る。それは、何の変哲もない、ただの人間の命。人間の匂い。人間の体温。

元気に哺乳瓶の中身を飲む彼女はとても人らしい。

 

「ふふっ…」

 

つい笑みが零れてしまう。人の母親とはこういう気持ちなのでしょうか。人の範疇から外れている私にはまだ分かりませんでした。

 

「へぇ、ユフィリア様ってそんな顔するのね」

 

ティルティが不気味なものを見るような目で私を見つめる。ちょっと失礼だとは思わないのですかね。ですが、それはそれで恥ずかしいのでわざと咳をして誤魔化した。

 

「別にいいじゃないですか、それぐらい」

「はいはい。んで?その子の名前は?」

「え?」

「貴方…もしかして名前も知らないで1週間近くその子のお世話してたの?」

「だっ……て、名前を呼ばなくてもまだ大丈夫ですし」

「呆れた…そこまでやっておいて名前も決めてないなんて。その子に失礼でしょう?名前、決めてあげなさいよ」

「名前、ですか…」

 

そう、私はまだこの子の名前を知らない。

 

 

・・・・・・

 

「ちょ!待って!アニス!」

「かぁさん!あっちになんかある!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「王女陛下は気分が悪いようです。ディナイアル卿。今日の所はお引き取りください」

「ユフィリア…?」

「随分必死ですね。貴女達の言う国の政治とやらも、王女をこんな状態にまで追い込んでしまうとは」

「何が言いたいのですか?」

 

眉間に少し皺が寄ってしまう。この男。やはりこの機を狙っていた…?いや、アニスが記憶喪失である事は他の国には漏れてはいないはず。なら…何故…。内通者か。そこまでは考えてはいなかった。

 

「いやなに、国の長たる者がこんな様子ではこの国が滅ぶのも当然だなと」

「それ以上の侮辱は私が許しません…!」

 

アルカンシェルに手をかける。やはりこの男“知っている”アニスの事を。武装国アルカトラズ。やはり野放しには出来ない国だったか。

 

「私は尊敬しているのですよ。ユフィリア」

「っ………何をッ!!」

「これから滅ぶこの国の事を…ね」

「っ───!!!!!」

 

・・・・・・

 

ユフィリアは堪忍袋の緒が切れると同時にディナイアル卿へ向けてオーバーエッジを放つ。

だが、その魔力の刃が当たる直前に上から飛んできた剣がオーバーエッジを防ぎきる。

 

「っ!?」

 

何処からともなく飛んできた剣の投げた主を探すべく周りを見渡すと、部屋の至る所からディナイアル卿直属の騎士が部屋に入り込んでくる。窓から、扉から、至る所から。ざっと見て七人。しかもそれぞれ精鋭の騎士らしい雰囲気を漂わせ、ディナイアル卿の前に立ち塞がる。

 

「銃剣騎士団(バレットナイツ)…!?アニス!下がってください!」

「ユフィリア!なにこれ…どういうことですか!ディナイアル卿!」

「ディナイアル卿!パレッティア王国の王の間に土足の騎士団を踏み入れる事が貴方々の礼儀なのか!!」

 

ユフィリアがアルカンシェルを構えると、真ん中に立つ指揮官らしき女騎士が剣を掲げる。

 

「相手は国王だが恐れることは無い!見事あの女を討ち取って、家名を上げよ!!」

 

宣言と共に先槍の一人が迫り来る。ユフィリアは両刃の魔力刀身を生成し、迫り来る一人の斬撃を受け止める。ここは王の間、アニスフィアも戦えない状態で、大規模な魔法は使えない。数で勝っている相手の方が有利だ。などと、考える暇も与えてはくれない。次の一人が動き出した。ユフィリアの真横から来ている。

 

「ち…!」

 

とりあえず、目の前の騎士の剣を弾き、距離を取らせて続く第二撃の剣を受け止める。受け止めて直ぐにその騎士の腹部に蹴りを入れて窓際へ吹き飛ばす。と、同時に氷魔法を唱え、壁に固定する。同様に最初に来た騎士も氷魔法でその場に固定する。

 

「アニスフィア王女を狙え」

 

ディナイアル卿が指揮を執ると、騎士のそれぞれが魔力の光弾を撃ち放つ。

 

「っクソ!」

 

ユフィリアは絶え間ない攻撃の最中でアルカンシェルを振りかざすと、アニスフィアの前に漣の様な氷の盾を形成。アニスフィアをなんとか護る。

 

「レイニッ!イリアッ!」

 

呼んでも来ない。やられたのか…!?

ユフィリアに焦りが出る。だが、もっと不安なのはアニスフィアの方だ。忌々しそうにディナイアル卿を見やるとユフィリアはアルカンシェルを収める。

 

「っ愚かしい…!」

 

ユフィリアはアニスフィアを抱えると、王宮の正面玄関の方へ飛んだ。

 

「アニス!逃げますよ!」

「わ、わかった!」

 

扉を勢いよく蹴破り、そのまま飛行魔法で飛んで行く。

 

「逃がすな!追え!」

 

・・・・・・

 

「ユフィリア?なんで窓から逃げないの?」

「城内に防壁が張られています。恐らく離宮への道も閉ざされていると思われます。あそこでは狭すぎる。私にとっては戦いづらいのです」

 

そう言ってたどり着いた正面玄関。真正面の扉に触れるもユフィリアの予想通り魔力防壁。先は行き止まり、後ろからは敵。絶体絶命に追い込まれたが、ユフィリアはアニスフィアだけでも逃がそうと考える。

 

(“エクスプロージョン”で破れば…)

「見つけたぞ!」

 

アルカンシェルを構えると、丁度よく敵が追いついた。

アニスフィアを庇うように前に立ち塞がるとアニスフィアへ物陰に隠れるよう催促する。

 

「行け」

 

何処からともなく聞こえてきたディナイアル卿の声で五人の騎士が一斉にユフィリアへ襲いかかる。

 

「くっ…!」

 

まずは一人目。剣に炎を纏わせて、上から飛び上がりの勢いのつけた一撃。ユフィリアはそれを受け流し、“ウォーターブレイド”を生成し身構える。横薙ぎ、袈裟斬り、下から上への斜めの斬撃をいなして、剣の炎を消しさり、胸へ刺突その後腹を切り裂いて、戦闘不能にする。

続いて、二人目。剣を使わず、地面に手を叩きつけるとそこから水が飛び出てくる。槍のような蛇のような軌道でユフィリアへ迫るとアルカンシェルを握っている右手に絡み付く。振り払えず鬱陶しいスライムのような感触。だが直ぐにアルカンシェルから雷撃を放つ。たちまち、水を伝って二人目の騎士に感電、吐血しそのまま倒れる。

 

「よくも!!」

 

次いで、三人目。魔法は使わずただ前進してきた。だがスピードが恐ろしく早い。身体強化の類だ。ユフィリアも同様に身体強化を行い迎撃する。繰り出される斬撃は重たく、ユフィリアも1歩退いてしまう。だが逆にユフィリアは大きく1歩退き、相手の剣を地面にめり込ませるとそのままアルカンシェルで切り上げ足蹴りで首の骨を折る。

出てきた四人目。周りに小さい氷の礫の様なものを浮かべ、それらを撃ちながら突撃してきた。ユフィリアは虹羽を広げて、一旦距離を取る。上へ飛び上がり、氷の礫をひたすらに避ける。ユフィリア自身のスピードに騎士が着いていけない事を確認すると、一気に騎士へ肉迫する。女騎士を無視して、氷の騎士の剣持つ腕を切り裂き、更に切り上げの斬撃で胸を割き、脳天から真っ二つにする。

 

「っ…!?」

 

ディナイアル卿が居ない。その事に気を取られている時間はなかった。指揮官らしき女騎士が次いでやってきた。双剣を携えてユフィリアへ剣を振るう。一撃目を受けて分かったのはこの女騎士が只者では無いこと。

 

「ユフィリア、分かるかお前には…」

「何を!?」

 

ディナイアル卿の声だけが脳に届く。女騎士の猛攻を捌きながらディナイアル卿を探す。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜……やだなぁ…」

 

パーティー用のドレスに身を包むアニスが項垂れる。ヘアスタイルのセットをしているイリアも釣られてため息を吐いてしまった。

 

「諦めてください。お嬢様。今日ばかりは仕方ありません」

「そうなんだけどさぁ〜」

 

今日は祝賀会。アニスの魔道具が他国に認められその量産と取引が成立した日。主に、魔道具の素晴らしさを伝える為の宴会だが、それは建前で国の上位層の酒飲み場になるのは確定的に明らかだった。そういうのも分かっているので、アニスはその祝賀会に出たがらない。王女としてはそういう訳にはいかず、オルファンスにも出席するように言われてしまった。

 

「あ〜ぁ、早く離宮に帰って寝たい…」

「今日は魔道具を提供した国の他にその魔道具を見に来た他国の方々もいらっしゃいます。祝賀会は最後まで抜け出せませんよ」

「ゔぇぇぇ〜………めんどくしゃ〜い」

 

椅子から転げ落ちそうな程に項垂れる。さっきまでとても丁寧に魔道具を説明していた王女の姿はどこへ行ったのか、今では仕事帰りのOLのようになっている。イリアもだいぶ慣れた様子で、ダラけたアニスの姿勢を治す。

 

「文句は終わってから聞きますから」

「んにゃ〜〜!!」

 

・・・・・・

 

「はぁ…」

 

それまた憂鬱なため息を吐く。扉の向こうの他国の人々の声が面倒臭い。今すぐ帰りたい。取り繕う表情はもう今日の活動限界を超えている。そう思いながらも一緒に着いてきてくれるユフィリアを待つ。

 

「ユフィ、遅いな〜」

 

なんて、窓の外を見る。綺麗な月が浮かんでいて今日は静かな夜なのに。今は酒池肉林のど真ん中。最悪だ。ユフィリアも同じタイミングで準備しているはずなのだか、どうもアニスより遅い。髪が長いし、身長も高いからドレスの着こなしはそれなりに大変なのだろう。

 

「アニス!」

 

なんて考えていたらユフィリアがやってきた。

 

「あ、ユフィ!遅かっ………っ!?」

 

やってきたユフィリアを見た瞬間、アニスは自分の目を疑った。

そこに居たユフィリアの姿はいつものドレスとは違う。凛々しいタキシードに身を包み、ご丁寧に手袋まで締めて、髪を一つに纏めた何とも美しい姿だった。その雰囲気はさながら執事のよう。アニスはあまりの美しさと意外な服装に固まってしまった。

 

「……えっと…アニス?」

「え?…あぁっ!ごめんごめん!あんまりにも……その……なんていうか……綺麗?……だったから……その……」

 

見惚れてたと言ったらまた何を言われるか分からないので精一杯誤魔化す。誤魔化しきれない事はアニスの赤面でユフィリアにはバレている。それはそれでいいのだが、ほぼ男装に近い自分に赤面をされるのも少し複雑な気分なのは内緒にするユフィリア。

 

「な、なんでドレスじゃないの?」

「はい。それが……」

 

・・・・・・

『え?タキシードで…出席?』

『うむ。今日の祝賀会もアニスの為に開かれてはいるのだが、あやつめ、ど〜〜せ、直ぐに逃げ出そうとするに決まっておる。何かよからぬ事を考えてアニスに寄ってくる男も居るだろうて、そこでユフィリア。お前にはタキシードで出席してもらう』

『はぁ…』

『なるべくアニスを一人にしないように、輩が近づいてきたら牽制程度でいい。アニスを守ってやってくれ。あと出来れば逃げないように無理矢理にでも会場に居させるのだ』

・・・・・・

 

「との事、でした」

「かっ〜〜〜!父上、そこまで私の事を……」

 

そこまで私の事を会場に留めて置きたいのか。

何処かで隙を見て逃げ出そうとしたが、それがオジャンになった事でアニスは小さく舌を打つ。

 

「アニス。姫がそんな顔をしてはいけません。今日は私がエスコートしますから」

 

言って、ユフィリアはそっとアニスの手をすくい上げ、手の甲に唇をほんの少しだけ当てる。それはまるで王子さながらの所作。凛々しいユフィリアの姿も相まってアニスは途端に顔を赤くする。

 

「ちょっ!」

「ですから、私の側から離れないように」

 

手の甲から見上げるユフィリアの表情は麗しき君。アニスはあからさまに赤面の顔を逸らし、キスを落とされた手を胸元で握る。

 

「ユフィ…そういうの狡いよ…」

「普段出来ないことですから。それに、この扉を開けたら、夜は最後までお預けですからね。今の内にアニスの可愛い表情を見ておきたいと思いまして」

「むぅ……」

 

嬉しいし、悔しいし、狡いし、恥ずかしい。

納得いかないと頬を膨らませながらもアニスはその頼りがいのある恋人と腕を組み、祝賀会へ続く扉を開いた。

 

 

 

 

『精霊契約者は例外無く無に帰る。でも、その人との思い出は愛する人が遺してくれる』

 

『本当にリュミの事が好きだったのですね。私も、同じように愛さてるのでしょうか』

 

『無に帰る時が迫ってる。それは貴方の望んだことでしょう?』

 

『考え直しなさい!ユフィリア様!!』

 

『あの子を止めたいのなら、私を倒しなさい』

 

『どうしてその生き方しか知らないの!リュミ!!』

 

『私の力を貴方に託すわ。それが今私のできる最善だから』

 

『リュミの力なんて要らない!』

 

『ユフィ!!私は、君とそんなことを望んでない!!!』

 

届け。

 

『聞き分けのない子ね。アニス』

 

これが私の『魔法(しゅくふく)』だよ。

 

『意地っ張りでいい!わからず屋でもいい!!それでもっ……君だけは永遠に愛してみせる!!!」

 

手を伸ばして、憧れていた。

 

『邪魔しないでもらえますかぁ?あの二人の最後を見届けるのはこの私ですから』

 

届くはずのない光でも。

 

『二人で作る未来があるんだよ。ユフィ』

 

こんな世界でも。

 

『私は違う!貴方とは違う!!』

 

答えを探しに行こう。

 

『転生王女と天才令嬢の魔法革命』

 

『ユフィはここに居ていいんだよ』

 

『精霊化強制執行編』

 

 

『私はユフィと居るの好きだよ』

 

『私はアニスと居るのが怖いです』

 

 

『現時刻をもってこの議案を可決します』

 

これは全てが終わりまた始まる少しだけ間の話。

 

『私にはまだ、やれる事があるんだ』

 

『アニスはもう、人では無くなったのですから』

 

『これからもずっと夢を追えるんだ。こんなに幸せなことはないよ』

 

『私も、そろそろ目的を作らないといけないわね』

 

『アニス様の為、って言い訳をしないで!本当に心が消えてるの!?貴方は!』

 

『ティルティに何が分かると言うのですか!私は目の前であの人を失いかけた!もうそれを繰り返したくない!』

 

吸血鬼の女王が消えた、少しだけ先の話。

 

『私が一緒に考えるよ…っ…未来の事っ…生きる事っ……だからユフィ……泣かないでっ…』

 

少女達の葛藤が

 

『私はもっとゆっくり、大人になるんだろうな〜って考えてたんだ』

 

『大きな出来事が終わったんです。この平和が長く続けば私達のしたい事もゆっくり叶えられますよ』

 

竜と成った少女と人を捨て人と成った少女の一時の話。

 

『もし生まれ変わったら、また会おう。ライラナ』

 

『あの二人は放っておけないんだから、私達で見守っていかないと、でしょ?』

 

『お嬢様したい事なら私も応援します』

 

『アニス達はもう立派な大人だ。ただ自分達だけでいつそれに気がつけるかが、問題だがな』

 

精霊を想う竜の少女。

竜を想う精霊の少女。

 

『私の事気にしなくていいんだよ?ユフィ。私はユフィと居られるから幸せだもん』

 

『無理はしなくていいのよ。ユフィリア様』

 

『無理なんてしてません。アニスがそう望むなら私もそう望みます』

 

『明日はどんな世界になるんだろう。そう考えてる自分が居て、ちょっとビックリしてるんだ。ねぇ、ユフィはどう思う?』

 

『私も考えます。アニスのように』

 

『楽しみだね。私達の未来がどんな風になるのか』

 

『こんな日が来るとは思いませんでした』

 

転生王女と天才令嬢の魔法革命

『未来と思いの道標』

 

 

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!」

 

一際大きく響き渡るアニスの悲鳴。工房にある鏡で自分の姿を確認した所、アニスにはネコのような耳と尻尾が生えていた。信じられない!と、アニスは触って確認するが、自分の体にある本物のネコミミと尻尾だった。

 

「なんでっ…!?なんでネコミミ?」

 

こんなものが付くようになった事に身に覚えがないアニスは頭の中にフルに回転させて考えた。でも分からない。なんでネコミミが付いているのか。なぁ〜んにも分からなかった。

 

「うぅ〜これ治るのかな〜?」

 

ふにふにと触ってみるも取れそうにないし、外せそうにもない。『前世の記憶』ではこういうコスプレもあったが、今はファンタジーな世界なのでこういう事も起きる。

 

「まさか本当にネコミミが生える日が来るとは……」

 

感慨深そうに頷いていると、ユフィリアとイリアとレイニがさっきの悲鳴でやって来た。

 

「アニス?今の声はなんですか?」

「ご無事ですか?アニス様」

「失礼します。アニス様」

 

部屋に入ってくるなり、アニスの姿を見た三人は固まった。

 

「あ……え、と…」

「アニスフィア様…いくらなんでもそういうのは…」

「わ、私は可愛いと思いますよ?」

「アニス…やはり王としての自覚がまだ…」

「誰か私を助けようとはしないのぉぉぉ!!?」

 

・・・・・・

 

「それで、たまたま離宮にやって来た猫とお昼寝をして起きたらそうなっていた…と?」

「うん…そうなの…」

 

とりあえず、第二の悲鳴を上げて皆に慰めてもらい、アニスは話を聞いてもらった。だが、三人共不思議そうな顔をしてままだった。

 

「信じられませんね…治るのでしょうかこのネコミミ」

 

と、ユフィリアがアニスのネコミミに触れる。

 

「ひにゃっ!?」

「えっ」

 

アニスは思わず出た声に赤面し、口を自分の手で塞ぐ。

 

「本当に感覚が通っているのですね」

「いきなり触んないでよビックリするな〜」

「ごめんなさい。なんだから可愛いので」

「むぅ……」

 

恥ずかしさと嬉しさに挟まれたアニスはなんとも言えない顔をした。対してユフィリアは相変わらずアニスに笑顔を向ける。その余裕そうな表情にアニスはやっぱり不満だった。

 

「まぁまぁ、明日にもティルティを呼んで解決策を探しましょう、ね?アニス」

「ぅにゃん!?」

「あぁ、尻尾も本物なんですね」

「ちょ、だからいきなり触んないでってばぁ!」

 

・・・・・・

 

「ふふっ、本当にもふもふになりましたね」

「うう……なんでこんなことに…」

 

その日の夜、いつものようにアニスはユフィリアに弄ばれていた。頭を撫でられ、顎を撫でられ、耳をモフられ、尻尾を撫でられ、全身を撫でられる。それはまるで本物の猫のように。

 

「可愛いですよ。アニス」

「さっきからそれしか言ってないよユフィ」

「本当の事なんですもの。当然ですよ」

 

不機嫌そうに顔を逸らすも尻尾は正直でユフィリアの手に絡みつく。だから、ユフィリアも笑顔のままなのだ。そんな素直じゃないアニスに対してユフィリアも少し『いぢめ』たくなってきた。と、ユフィリアは少し強く尻尾を握る。

 

「んにゃっ!?」

 

ビクリ、と体を大きく弾ませて顔を赤くしてユフィリアの方を睨む。

 

「ユフィ〜?」

「はいはい♪可愛いですよ」

「ちょっと話を……んにゃぁ……」

 

まるで聞いちゃいない。終いには尻尾の付け根を撫でてきた。ゆっくり舐めるように撫で回されるとアニスの体も自然と力が抜けていく。

 

 

 

「ふっ…んっ♡まっ、てユフィ…!♡これ…やだぁ…目隠し外してよォっ…!♡」

「そんな事言ってちーくーび、勃っちゃってますよ?♡」

「ひぃっ…♡ちくびぃ…くりくりしないでぇ…♡」

「だめなんですよぉ♡目隠しされて、裸にされて、好き放題にされてるのに、なんでこんなにぐちゅぐちゅに濡れてるんですか?アニス♡」

「はぁっ…ぁ♡やだぁぁ♡おまんこ、触っちゃやだぁぁ♡♡」

「えぇ?ならどうして私の手にそんなに腰を振って押し付けてくるんですか?アニス♡ほぉら、すりすりすり♡」

「あぁぁん♡なんでぇ♡なんでこんなに気持ちいいのぉぉ…!♡♡♡♡」

「おまんことおっぱいどっちが気持ちいいですか?♡」

「ほぉっっぉっ♡そんなっ、どっちも弄るの無しぃぃ…!♡りょうほういぢめないでぇ…!♡♡♡♡」

 

 

「……そうですね」

「イリア…」

「『お嬢様』は──」

「っ!」

「嘘を仰るのが苦手なのです。かと言って誰かに傷付いて欲しい訳でもない。ただ真っ直ぐに誰かを思うのがあの人なんです。ユフィリア様にそれを知らせないのは『お嬢様』がユフィリア様を思うが故、あの人は向き合う事に矛盾が生じると、途端にヘタレになってしまいます。伝えて共に立ち上がるか、伝えずに自分で閉じ込めるか。そのどちらか、しか答えを作れないのです」

 

 

 

 

 

『だからっ……ひっ……ぐすっ……嫌いに…ならないでぇ…ユフィ……私っ…頑張るからァ…!ユフィの事…もっと…っ…好きになるからぁっ…!』

 

 

第1部 【七色褪せる】

『この世から魔法を消し去る』

 

『近隣の国々に起きている事件です。我々も対策を摂るべきかと』

 

『貴方が“魔法を奪う”犯人ね!』

 

『精霊契約者。お前を消す』

 

『どうして…応えてっ!アルカンシェルッ!』

 

第2部【虹、再び】

『精霊が…見えない…』

 

『魔法が使えない精霊契約者など、何の価値もない』

 

『また…守れない…』

 

『ユフィが今感じてる事、私も昔から感じてた。だから、謝らないでユフィ。その為の魔道具だもん』

 

『そうですね。アニスが居るから私はまだ戦える』

 

『───アルカンシェル』

 

 

 

 

「魔物討伐…?」

「はい。大変情けない話なのですが…」

 

ハルフィス達と王宮での執務中。予定していたグランツ公との面会はいつもの硬い雰囲気とは一変してよどんだ空気となっていた。

なんでも、最近現れるようになった家畜荒らしの魔物を討伐して欲しいとの事。ホントならそういうのは騎士団の皆の役目なんだけど、魔物の足取りが追えなくて更には今は遠征中の人達もいるから騎士団は人手不足。手分けして魔物を探してはいるけれど、進捗がイマイチだとか。

 

「それで、私達にも…ですか?」

「えぇ…元冒険者であるアニスフィア王姉殿下にもその知識と是非ともお力添えをと思いまして…」

 

グランツ公と一緒に来た騎士団員が頭を下げる。家畜荒らしかぁ…。被害の報告は度々あったけど、あんまり気にするようなものじゃないって放ったらかしにしてたもんなぁ。

 

「魔物ってことは確定なんですか?」

「はい。牛や豚を狙った被害が多いです。とても人が行えるような仕業では無いです」

「誰かその魔物を見たって人は?」

「空を飛ぶ魔物だと聞きました。目にも止まらぬ速さで家畜をさらわれたと…」

「空飛ぶ魔物…」

 

ドラゴンな訳ないしなぁ…。餌としても家畜ですら小さいし、ゴブリン系統な気もするけど空飛ぶってなると違うもんなぁ。ドラゴンの別種かなぁ。図鑑見ないと分かんないや。と、そこでハルフィスが閃いた、と私を見る。

 

「それってワイバーンじゃないですか?」

「あぁ!ドラゴンの小型のやつか!魔物さえ分かれば対策出来るね。グランツ公!」

「は、はい」

「後は私達に任せてください」

 

・・・・・・

 

「ダメです!」

 

その後、離宮に戻ってからユフィとグランツ公からの依頼を話し合った。と、いっても一方的にユフィにダメ出し貰っただけなんだけど…。

 

「なぁんでさ!」

「騎士団が出動できない上に相手の魔物の数も分かっていません。報告では一体のようですがワイバーンは群れを成すという話もあります。ですので、ちゃんとした戦力が整うまでは了承出来ません」

 

さっきからず〜っと、この調子。私とユフィだけで間に合うなんて言ってもず〜っとこの調子。王女になってからちょっと厳しくなりすぎじゃないかな。父上みたい。いやでもちょっと魔石は欲しいしここは意地でもユフィを落とすしかない…!

 

「お願いユフィ!私達だけでもなんとかしようよぉ…」

「っ…」

 

そう。私はここでユフィにそっと抱き着いた。私はユフィに甘々にお願いするしかないのだ。この手の私にはユフィは手も足も出ない。昼間はね。夜は別だけど。けれどここでユフィの気迫に押し負ける訳にはいかない!

ユフィに甘える時はこう!腹の底から抉るように!できれば羞恥の心を捨てて!

 

「お願いユフィ〜。これからユフィの言うこと全部きくからぁ」

「……っ……」

 

ちょっとねっとり目に言って上目遣いでユフィを見る。ふふふっ、揺らいでる揺らいでる。こういう時は私の方が得意だもんねーだ。これならもう一押しだね。

よしっ!喰らえ!ユフィ!!

 

「ねぇ……だめ?」

「っっっ!!!」

 

ユフィの顔が完全に揺らいだ。

私の勝ちだね。計画通りッ…!

 

「そんな顔をしてもダメです(仕方ないですね貴方は)」

「ユフィリア様」

「王女としての自覚を持ちましょう(可愛いアニスのお願いですから)」

「ユフィリア様」

「はっ!?私は今なにをっ…!?」

「もう何もかも最悪の結果です。ユフィリア様」

 

そうして私達の『魔物討伐』の日が始まった。

 

・・・・・・

 

「で、あんな紐にお肉を吊るしただけのあからさまな罠に魔物が掛かるのでしょうか?」

 

頭に枝を括り付けたユフィリアが物陰から頭をひょこっと出してアニスフィアの仕掛けた罠を見る。

 

「何を言うのさユフィ。魔物は本能で動いているのよ。食べたいものを見つけたら食べる。それが魔物だよ」

「はぁ…」(よく分かってない)

「それにあのお肉には魔石も練り込んである。魔物には絶品の餌なのさ!」

「はぁ…」(よく分かってない)

 

その下からアニスフィアが頭を出してユフィリアと一緒に罠を見張る。

 

「っていうかなんで私までいるのよ。この手の話は専門外よ」

 

と、今度はアニスフィアの下からティルティが顔を覗かせる。

 

「いいじゃんどうせ暇でしょ?」

「貴方、私の事なんだと思ってるのよ。私が魔法使い続けると、どうなるかわかってるわよね?」

「戦力は一人でも多い方がいいの!今日討伐する魔物分かってる?」

「ワイバーンでしょう?ドラゴンの小型種。危ないじゃないのよ」

「体内の魔石を好きにできるって言われてんだから文句言わないの。今は騎士団の方も人手不足で動けないんだから」

「だからってわざわざ私を駆り出す意味が分からないわ。あ〜ぁ、イリア達の方に行けば良かった…あっちなら見張ってるだけでいいのに…」

「魔物討伐は根暗呪いオタクにはちょ〜っとキツかったかにゃ〜?」

「奇天烈ネコ王女にだけは言われたくないわよ。首のキスマーク(ソレ)少しは隠す気ないの?」

「ふぇ!?」

「あぁ…そこならバレないと思ったのですが…」

「ちょっと待って!?ユフィ!いつ付けたの!?昨日は無かったよね!?」

「今朝ですよ。アニスが寝てる間に」

「ちょっとぉ〜!」

 

木の影でだんご三兄弟みたいにもみくちゃしている三人を見て、対角に隠れているイリアは呆れ顔、レイニは苦笑を浮かべていた。

 

「まったく、あの方達は…」

「あ、はは………、あ!アニス様!」

「え?あ!来たかも!皆隠れて!」

 

レイニが指を指すと向こうから影が一つ歩み寄ってくる。アニスフィア達は隠れ直してその影を待つ。

足音が次第に罠に近くなる。ワイバーンと言われるとなんだか足音が小さい事に疑問を抱くが、こんな森深くに居るのだから魔物であることは明らかだ。

そして、罠に近づいてきた瞬間───

 

「よぉし!引っかかったわね魔物め!はぁぁぁぁぁ!!…………はうえぇ………?」

 

そこに居たのは一応念の為様子を見に来たシルフィーヌだった。

 

「は、母上…?何故ここに…?」

「へぇ…心配して様子を見に来てみれば、貴方も随分見境なく攻撃するようになったわね……」

「ひっ!」

 

つい突き立ててしまった鋒を見てシルフィーヌは顔に青筋を浮かべていた。

そこから、アニスフィア達の壮絶な時間が始まった。

 

「まったく!貴方は王女としての自覚が抜ける時があります!いつまでも子供じゃないんだから───」

「すいません……すいません……」

 

シルフィーヌには説教を食らい。

 

「こぉらぁ〜!それはお前達の餌じゃな〜〜い!」

 

小型の魔物達が餌を目当てに群がってきた。

 

「食べちゃダメ!あっち行け!シッ!シッ!…痛っ痛っ痛っ痛っ痛っ!!私は餌じゃないから噛むな!…やめっ…痛っ痛っ痛っ!」

 

魔物の群れを追い払う頃にはアニスフィアは噛み傷まみれ、羽まみれ、泥まみれのぐっちゃぐちゃのドロッドロになって泣き崩れていた。

見かねたティルティはアニスフィアの頭を小突いて再び物陰に引っ張り込む。

 

「うっ…ううっ……やだよ…もうやだ……まぢむり……転生したい……」

「馬鹿な事言ってないで隠れなさいよ」

「イテッ」

 

それを見たイリアはまたため息を吐く。

 

「これは…まだまだ指導しないといけないことがありそうですね」

「ま、まぁここは一旦…」

 

 

 

【褪せる七色】

 

『その首、魔女の代わりに貰い受ける』

 

『魔法使い狩り…ですか?』

 

『ユフィを見てると、やっぱり私にも魔法が使えたらなって思うんだ』

 

『見つけたぞ。王女共』

 

『どうして…応えてっ!?アルカンシェル!!』

 

『ユフィ───ッ!!』

 

 

【浮かぶ七色】

 

『精霊が…見えない…』

 

『精霊も従えない精霊契約者などただの生き物だ』

 

『ユフィの感じてる事、私もずっと感じてた。だから、謝らないで。ユフィ』

 

『そうですね。貴方が居るから私はずっと戦える』

 

『さぁ、貴方の終わりを定義します』

 

 

 

 

 

テレビに映っていた魔法少女アニメを見て実はまだ魔法が使えるんじゃないかって思ってペンを持って、『キュアッ○ラパ○!私よ、宙に浮け!』と唱えるユフィリアさん23歳。

 

それを絶妙なタイミングで部屋に帰ってきたアニスフィア26歳に見られるユフィリアさん23歳。

 

後ろで絶句してるティルティさん26歳。

 

そしてあまりの恥ずかしさに『死にます。ありがとうございました。』と連呼しながらベランダから飛び降りようとするユフィリアさん23歳。を全力で止めるアニスフィアさんとティルティさん26歳。

 

 

 

「はい。アニス。ハッピーバレンタインです」

「えぇ〜!ありがとう!ごめんね、私忙しくて用意出来てなくて…(もぐもぐ)」

「どうですか?」

「おいひ〜!手作り?(もぐもぐ)」

「もちろんです。頑張ったんですから」

「うんうん。すっごく美味しい。私の好み分かってるね。愛の味がする〜なんてね★(もぐもぐ)」

「それなら良かったです。『媚薬入り』なので」

「(ごくん)…………え?」

 

「まっ…まってユフィ…あっ♡も、もうだめぇ、それだめぇぇ♡♡ナカっ、指止めてぇぇ♡♡♡♡♡♡♡」

「まだチョコは残っていますよアニス?溶かしてあげますから召し上がってくださいな♡」

「んぅっ、んちゅ、じゅる…れ、る…んくっ……ふぁぁぁ♡なにこれぇっ、しゅ、ごいぃぃぃぃい♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

「ふふっ、気に入っていただけて何よりです♡」

「体ぁっ、おかしくなっちゃってるぅぅ♡♡なんでこんなに気持ちいいのぉぉっ!♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

(本当は媚薬なんて入ってないのですけど可愛いですねアニス♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡)

 

 

「っ!?……あぅっ!」

 

「下手な真似はしない方が見のためですよ。アニスフィア王妃。貴方の魔道具の知識を手に入れた私達は躊躇いなく貴女を殺す事が出来る。王国を滅ぼす事もね」

 

「っ…!!ぐっ…!!」

 

「何故否定するのですか。貴方々がこの歪な国の変革にすら手間取っている。それは、きっと心のどこかで貴方達もこの変革にまだ疑問を持っているからではないのかな?」

 

確かにそうだ。私もユフィも、国を、いずれは世界を変える革命を起こそうとしているのかもしれない。でも、私達は否定しているわけじゃない。在り方を変えようとしている訳でもない。この世界の可能性を広げたいだけなんだ。

 

「魔道具と精霊契約。それらを使って革命を起こすというのなら、それは邪魔存在を排除するしかない。古い考えを持つものを否定し、新たな時代を切り拓くのが革命だ。国ひとつ変えられないあなた達に何が出来る。貴方は魔道具を使って何を変えられるというのです?」

「っ…!……皆の…為に…!」

「?」

「皆の為に使う…!平民も貴族も、自国も他国も、関係ないっ…!皆が平等になるのなら、私はその為に…!私の夢を…!革命を起こすっ…!」

 

そう言って彼は呆れたようにため息を吐く。

 

「貴方の言う、皆とはどれだけ多くの人かお分かりか?一人の人間が全ての意志の代弁者になる事は出来ません。人である事を捨てない限り。だが、それはユフィリア王女の様に精霊契約を行い、人である事を捨て、更にその先を見据える力を持つものだけだ。ですが───」

「…?」

「貴方にはそれ以上のモノがある!」

「え…」

「龍の刻印を体に刻み、虐げられる苦しみを知り、自分の為に他人すらも利用出来る貴方は、もはや人では無い!その影響力を示してしまった以上、もう貴方は自分の知る人ではない。誰かと交わる事も出来ない。いつか、私と同じ絶望に突き当たる事になる!!」

 

 

 

「私に賛同しない人を殺し回るなんて、そんなのっ…ライラナと同じになっちゃうよッッ!」

「ッ私とあの女を一緒にするな!!」

 

 

 

「ユフィリア様?いつも思うのですがあんなに派手に動いていて、その…スカートの中が見えたりしないんですか?」

「いえ、結構見えてしまってると思います。ですが、ご安心を。アニスから対策を聞いていますので見えていても大丈夫な下着を履いているのです」

「そうなんですね。確かにアニス様もはね回っているとイリア様からよくお聞きになりますから…」

「そうですね…アニスの突飛な行動には困ります。アニスの下着を見ていいのも私だけですしね」

「そうですね……………え?」

 

 

・・・・・・

 

「女性同士でもそういう事は出来るんですよ?」

「え───」

 

飲んだお酒の勢いか。それとも二人きりの空間だったからか。その一言からまるで魔法にでもかかったように。ユフィリアの顔が酷く艶やかに見えた。急に意識し出すとさっきまで普通に見れていたはずの顔が、見れなくなり、目線がずっと胸や足、股下の方へと向いていく。見ないように見ないように。すればする程、目は泳ぐ。目線は向かう。沈黙の時間が長ければ長いほど、意識したと見なされる。そういう気分になったと思われる。今から犯されるという感覚よりも自分がそう言わせてしまったという感覚で体が熱くなる。恥ずかしい訳では無い。焦りや動悸のせいで。

 

「な、何言ってるのユフィ。私は別に───」

「したくないんですか?今、明らかに動揺しましたよね?」

「い、や……ち……がく、て…」

 

ユフィリアが近づく音。布が擦れてカーペットが揺れる。匂いを確かめるような狼の瞳。指で絡み取られたアニスの髪にゾクゾクと背筋に何かが走る。

 

「───、───」

 

今一言。

後一言。

何か言葉を発した瞬間。自分はこの人に全てを晒されてしまう。それを機に考えるのは今の自分の下着の色と陰毛の処理具合。そして明日の予定。手に持った酒缶の銘柄なんて見えなくて、視界の端にいる怪しく微笑むユフィリアの唇がアニスの瞳に焼き付いて。当たる吐息がアニスの心を溶かしていく。瞳が垂れて、眠気が来る。体の熱と眠くない眠気。酒缶をスルリ、と取られて机に置かれる。絡めた二人の指がアニスの膝に降りてきた。確かめるように指をなぞり、わざとユフィリアはアニスの視界に入らない。耳元でゆっくりと息をするだけ。

 

「っ……」

 

ユフィリアは待っている。アニスが蕩けて崩れてしまうその瞬間を。ほんの少しでもユフィリアの方へ体を傾けたらアニスはこれからユフィリアのものになってしまう。

 

「わ、たし、は……」

 

酒の匂い。甘ったるい女の香り。ユフィリアの香水。酒と唾液の匂いが混じった吐息。顔を伏せているアニスはどんどん心の中で何かが膨れ上がってきた。

もじもじと足をすり合わせ何かを隠している。

絡み繋いだ二人の手。

アニスはもう逃げられない。

ユフィリアはもう逃がさない。

自身の肩に添えられたもう片方の腕。ゆっくり下に降りてきて、アニスの胸元へ近付いてきた。まだ触れない。最後の一歩はアニスから。

 

「ダメ…だよ…ユフィ…」

 

胸元にある手を止める。

 

「何故?」

 

今度は顎をすくわれる。

 

「こんなの…だめだよ…」

「ダメなら…ちゃんと抵抗してください」

 

そう言って、視線をユフィリアのへ向けたアニスはゆっくりと組み伏せられた。

 

・・・・・

 

「んっ…っ…は…あ…ん…んぅっ……っっっ……」

 

抑えた口から零れる声と排熱する吐息。見つめ合えばキスで塞がれ、離れればユフィリアの指がアニスの体を伝っている。脇腹、腹部、下腹部、胸、鎖骨と頬。アニスにとって『久しぶり』の感覚。初めてでは無い。前にどこかで感じてる。だから受け入れられた。拒むことは無かった。抵抗もしない。ユフィリアなら自分を大切にしてくれる。そういう風に『分かって』いたからだ。

首筋にやってくる舌がくすぐったい。

押し付けがましいキスも、得意げな下触りも、慣れてそうな掬い上げも、アニスは『前から前から知っている』。

 

「アニス───」

 

嗚呼。『知っている』。

その瞳も、顔も、息遣いも、全部知っている。

体をなぞる手の動きも、キスマークを刻むその唇の切なさも、濡れているその瞳も、全部『知っている』。

 

「ユ、フィ…」

 

見下ろされて、蕩けていく。自分の体とユフィリアの微熱で溶かされていく。服の中に入る手が自分を犯そうと迫ってくる。

『知っている』感覚が、アニスを溶かしていく。ずっと忘れないようにしていたものを思い出させてくれる。今目の前にいるのが自分の大切な人で、一生を約束した人で。確か、そうだった気がする。頭の中で思い浮かべようとしてもノイズが走り、上手く思い出せない。それでも、ふわふわと浮かんでくる。目の前の人の記憶。曖昧なピースが組み合わさっていく感覚。

 

「ユフィ…?」

「はい。アニス?」

 

そして、見慣れてるはずの部屋が見慣れない違和感の景色になる。

 

「ここ…何処?王宮じゃ……ない、よね?」

 

ユフィリアの顔付きが変わった。普段のアニスから絶対に出てこないセリフが出てきた。ユフィリアは自分の顔を見せないようにアニスを目を塞ぎ、アニスの隙間に指を這わせる。

 

「んぁっ!…ちょ、ユフィ…そんないきなり…っ……ひぃん!」

 

指を膣に入れて掻き乱す。アニスの声が部屋中に響き渡る。アニスの水音もずっと大きく聞こえるようにユフィリアは指を掻く。目を塞ぎ、体を舐め、自分の好きな人を貪る。何も考えられないように。何も思い出させないように。この記憶は自分だけが持っていればいい。アニスにはもう不安な世界へは行かせない。ただ幸せに生きて欲しいから。

 

「あっ…!ま、まってユフィ!ほんとにっ…ぃ…激しいのっ…だめっ、だからぁぁ…!!」

 

言葉で抵抗するがヘコヘコ腰を浮かせている。指が膣を掻く度に腰が浮く。舌をだらしなく垂らして犬のように息をする。

 

「すごぃぃ…っ!ユフィの指、気持ちいいよぉ……!!!」

 

もう躊躇いがなくなった。

 

 

 

 

 

「まゆ?」

 

すみれさんが呼んでいたのでまゆの部屋まで呼びに来てみたら、そこにはまゆはいなかった。

お手洗いかしら?部屋に入って辺りを見回すと、ふと目に入ってきたのはまゆの机の上にあった1冊のノート。本当はいけないんだろうけれど、何ともなしにそのノートを開いてしまった。

そこに書かれていたものは───

 

・・・・・

 

『だ…ダメだよ…悟くん…っ』

幼い微熱を下げられないまま。

甘い匂いに誘われた僕は。

『犬飼…さん…っ』

嗚呼、昂った気持ちだけで。

 

・・・・・

 

「うっっっっっっわ」

 

心の底から声が出た。

びっくりした。

え、あの子やっぱりここまで妄想してたの?

確かにあの二人を見てる時の顔は普通じゃなかったけれど、ここまで来てたの?

いやいやいやいや。こんなことある?

なんでaikoとスピッツなの?あの子いくつよ。

 

・・・・・

 

『やっぱりダメだよ!』

押しのけられた思いと僕は、深く深く青ざめる。

『私達は…友達…だから…』

その言葉はきっと崩してはならないもの。

僕と犬飼さんの大切な繋がり。

 

・・・・・

 

この子拗らせてるとは思ってたけどまさかここまでとはね。いやホントにまゆってこの二人でここまで妄想してるとは思わなかったわ。っていうか、このノートよく見たら机の上に5冊ぐらい並んでるんだけどどういう事?全部こんなな内容なの?

 

・・・・・

 

『ごめん…僕はその友達の関係を壊したいんだ…っ』

『ぁ…』

遂に僕は君に触れてしまった。そんな強引に肩を掴む気なんてなかったのに。これじゃあ、汚い男と変わらない。僕の気持ちは真っ直ぐだと伝えても君は分かってくれるのだろうか。

『壊してでも…君を…っ!』

『さとる…くん…っ』

 

・・・・・*

 

中々焦れったいわね。いやまぁ、確かにこうして見てるとまゆの気持ちも分からなくもない。だからってスピッツとかaikoに走るのはどうかと思う。いやいや、そんなことよりまゆを探しに……

 

「あ」

「あ」

 

部屋に戻ってきたまゆと目が合った。

 

「(え、ユキ。それもしかして覗いたの?もしかしなくても覗いた?え?見た?私の妄想ノート覗いちゃった?ごめんね。ユキ。私ずっと二人が早くくっついちゃえばいいのにってずっと思ってたの。でも、二人の仲を引き裂くようなことは絶対にしたくないからこういう殴り書きで妄想するしかなかったの。でも、わかって欲しいの。ユキ。私だって一人の女の子。綺麗な恋愛を望むし、恋する人が身近にいたら応援したくなっちゃうの。だからいっぱい恋愛ソング聞いたんだ。aikoとかスピッツとかSCANDALとかうたかた花火とかポラリスとかも聞いたんだ。でもやっぱりカブトムシが一番かなって、あの曲やっぱり季節的にもピッタリで私あの二人見てるとずっと頭の中で流れるの。だから歌詞もそのまま乗せてしまうの。テトラポット登ってる方も良いかと思ったんだけど、危ないかなって。あ、でもユキにこんなに話したって分からないよね。だから最初は聞いてみようか。)カブトムシ!!??」

「えぇ。乗ってるわね。歌詞が」

 

 

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