「これは…?」
「次の標的だ」
酒場で二人。男達は酒を飲む。
「おいおい、一国の王女じゃねぇか」
「暗殺は不得意と聞いた。この資料を読んで、襲撃のチャンスを見つけてくれ」
「ご丁寧にどうも。国の王女となれば報酬も期待していいのか?」
「あぁ、普段の十倍になるな」
聞くと男はグラスを鳴らした。
「っはは!気前のいい話だ!乗ったぜこの話。俺が引き受ける」
「頼んだぞ。“
“賞金稼ぎ”は口を三日月に歪めた。
「上等」
・・・・・・
「う…うぅ…重、い〜!」
やっと届いた私の大きな荷物を持ちながら、自分の工房まで運んでいる。私はアニスフィア・ウィン・パレッティア。魔道具に必要な魔石がやっと魔法省から離してもらえたんだけど、量が量で重くて一人で運ぶのも一苦労だった。だから、こうして少し運んで休んでの繰り返し。
「イリアにも手伝ってもらえばよかったかな…台車も何も無いんだからさぁも〜、ユフィみたいに魔法でちょいちょい〜ってさ……あれ?」
と、私の荷物が宙に浮く。え?え?え?ついに私にも魔法が使えるように───!?
「そんなに重いなら言ってくれればいいのですよ。アニス」
「なぁんだ、ユフィか〜。びっくりした」
「何の話ですか?」
私の独り言に首を傾げるのは、ユフィリア・フェズ・パレッティア。私のとても大切な人。今日は王宮で篭もりきりのはずだけど、なんで離宮に戻ってきてるのかな?
「うぅん。なんでもないよ。それで、なんでこっちに来てるの?」
「はい。アニスにも参加して欲しい会議があります。それを伝えに来ました」
「会議?イリアから何も聞いてないんだけど…?」
私は聞きなれない言葉に首を傾げる。今日の朝にイリアからも予定の確認はしてもらったけど、会議なんて聞いてないし、私が出るような会議なんてそもそもないはずなのだけれど…?
「今日決まったことなので。言うなれば緊急の会議ですね」
「緊急…?」
そんな重大そうなものなのにユフィの顔はあっさりしてる。なんなんだろ。緊急の会議って。そう考えているとユフィから会議が始まる時間だけを伝えられて、私とユフィはそれぞれの仕事に戻った。
・・・・・・
「失礼しまーす…」
恐る恐るユフィに言われた場所に入るとそこには、緊急会議の名の通りの面々が揃っていた。
父上に母上、騎士団の関係者、魔法省の人達まで。皆して私の方を向いたからちょっとビックリしたけど、ユフィが出迎えてくれた。
「お疲れ様ですアニス。こちらへ」
「う、うん」
案内された椅子に座り、ユフィが席へ戻るとそのまま挨拶を始めた。
「それでは、全員揃いましたので始めます。お手元の資料の一頁目。ご覧下さい。今回の議題は近隣の国々で起きている、『魔法使い昏睡事件』についてです」
『魔法使い昏睡事件』。
それは、パレッティア王国よりも少し北の国と少し南の国で起きた事件。とある森で薬草採集をしていた魔法使いの一人が何者かに襲われた。襲われただけなら魔法使いなら迎撃出来るのだが、どうやらその襲ってきた人には魔法が通じなかったらしい。交戦はしたとの記録が記載されているが、魔法が弾かれた、もしくは、魔法が『使えなくなった』と書いてある。そして、襲われた魔法使いは一人は昏睡、一人は話せるがパニック状態でまともには生活出来ていないとの事。そして、その襲われた魔法使いにはある共通点があった。
「その国でも名のある魔法使いだったということです」
そう。その国々で一二を争う魔法使いだった。その魔法使い達が手も足も出なかったというのが今回の事件の一番の論点。もしかしたら、魔物なんて生易しいものではないのかもしれない。そう考えたユフィとグランツ公が直ぐにパレッティア王国でも対策を立てるべきと今回の会議を開いた。
「そして襲撃を受けた魔法使いの人々はこの二人だけではなく、様々な国、様々な場所で、襲われています。例外無く襲われた魔法使いは再起不能にされている事から、襲撃者が何者なのかも特定出来ません」
いつになく重い内容の会議に私も少し体が強ばってしまう。周りを見渡せば、皆が皆あれやこれやと可能性の話をしている。ラングもグランツ公も皆の意見に耳を傾けて、その日の会議は幕を閉じた。
「アニス」
「ユフィ。どうしたの?」
会議が終わってちょっと手元の資料を改めて覗いているとユフィが声をかけてきた。
「お疲れの所申し訳ないのですが、アニスだけは残ってください。もう少し意見が欲しいんです」
「?…うん。わかった」
・・・・・・
「あら、アニス様も呼んだの?」
「ティルティ!?」
会議室から移動して隣の部屋。そこには呪いの収集家、ティルティが座って待っていた。よく見れば手元には私たちの会議の資料を持っている。
「なんでこっちの部屋にいるのさ。会議に参加しなかったの?」
「してたわよ。この部屋で盗み聞いてただけ」
「もしかしたら、内部にも今回の襲撃者と通じてるものがいるかもしれませんからね。念の為、渡した資料も、アニスと義父上と義母上、そしてお父様にだけは、私が作ったものを、あとは似たような物を作らせた偽物を送りました。後で、本物は送りますがね」
「ほえぇぇ〜」
なんだかんだで結構大きな話になってたんだ。これだけ周到に準備してたならもっと前からこの話をユフィとグランツ公は知っていたのかな。この二人なら秘密裏にこういう話を進めていてもおかしくない。そう感心しているとユフィに座るように促される。
「それで、早速ですがティルティの見解は?」
「まぁ、十中八九、『
「『
「え?まだいるの?そんな人達」
ユフィは首を傾げて、私は眉を寄せる。
「えぇ、意外と残ってるわよ」
私達の世界にギルドがあるように、非公式に魔物を狩りお金を稼いでいる人達。それが『
「まぁ、恐らくこの二人でしょうね」
そう言って机に置かれた名簿。その中にある印を引かれた二人の名前。『ディバイン』と『ベリト』と書かれている。
「これは…?」
「今一番騒がれている賞金稼ぎよ。噂だと、魔法使いを殺し回ってるとかなんとか」
「ティルティほんとこういうの知ってるよね」
「それは貴方も似たようなものでしょうアニス様。呪いを辿ればこんな話にも行き着くのよ」
「この二人の居場所はわかりますか?」
「そこまでは流石に分からないわ」
ティルティが首を振ると、ユフィも悩ましそうに顔を俯かせた。
「実際に被害にあった国へ行くのが一番早いでしょうね」
「うん。私もそう思う。危険だろうけどそれが一番わかりやすい」
「そうですね…まずは調査ですね」
・・・・・・
「って、護衛無しの調査ってのもあれなんじゃない?ユフィ」
「そうは言っても、大部隊を動かすわけにもいかないでしょう。ティルティから貰った資料によれば、これから行く街で『ハンター』は消息を絶っています。他国に近いですからアニスの言う“お忍び”ですよ」
そう言って、ユフィは帽子を被り直す。二人だけで馬車に揺られて数時間。報告にあった街へ行くために私達は移動中。この行動はグランツ公にも許可は申請済みで行っているからなんら問題はなかった。まぁ、それでも、何かあるとやばいから、セレスティアルとマナ・ブレイドは持ってきてる。ユフィだって、アルカンシェルを隠して持ってきている。
「あの街ですね」
見えてきた街そのものは王城の城下町より一回り大きいぐらい。街中に入れば、様々な商人や旅人が行き交っている。普通に街を練り歩く分には怪しい所なんてなさそうで。色々物が溢れていそうな街だった。
「着いた〜!」
街へ入れば、景色はより広がった。鮮やかな野菜に果物、新鮮な魚に肉。どこにでもあるごく普通の商業の街だった。人々が行き交い、交流し、賑わっている商店街のような街。所々に魔法を使っている所も見える。
「特に怪しい所なんてなさそうだけどね〜」
「手分けして探すというにも広すぎますね」
「もう少し人を連れてくるべきでしたね……あれは?」
「なに?」
ユフィの目線の先には重そうな荷物を抱えた老人がいた。歩き方がたどたどしく今にも転びそうな老人だ。
「大丈夫ですか?」
見かねたユフィが老人の荷物を魔法で浮かせる。すると老人は驚いた顔をしたがユフィへすぐに頭を下げた。
「ありがとう。悪いねぇ、中々他の人達も自分の準備で忙しそうだから頼めなくてね」
「いえ、これぐらいなら。ここでよろしいですか?」
「おぉ、そこに置いとくれ」
ユフィが荷物を置く。
「貴方は魔法使いさんかぃ?なら大道芸をしに?」
「いえ、たまたまこの街に流れ着いただけです」
「そうか。旅の者だったか。ここの街は魔法を大道芸に使う人もいてね。ほら、ちょうどアソコでやっているだろう?」
老人が指を指すと、ピエロのようなメイクをした芸人が様々な魔法を使って子供や大人の人達にまで拍手を貰っていた。
「あぁ、やって誰かを楽しませてくれたり、こうして私のような老人を助けてくれる魔法使いがいてくれるおかげでこの街は成り立っているんだよ。ありがたいことさ」
「確かに、皆笑顔ですね」
「でも、前に魔法使いが襲われる事件があったんだ。それのせいで、ああした大道芸人も少なくなってしまってねぇ。誰にでも魔法が使えるのならきっとああやって笑顔が絶えない世界になるんだろうねぇ」
老人はしみじみと呟いた。確かに、大道芸人の周りの人々は笑顔に溢れている。
魔法は確かに便利だ。誰にでも平等って訳じゃないけど、良い使い方をすれば分け隔てなく皆に笑顔を与えてくれる。そんな世界が当たり前の魔法使いの人達にとって魔法っていうのはどんなのだろう。元々魔法が使えない私には分からない。普段から息をするとの同じ感覚なのだろうか。歩く事と同じ感覚なのだろうか。私には分からない。だから、時々考えてしまう。ユフィがいつか魔法が使いなくなった時、私には何が出来るのか。慰めとか、同情とか、そんな程度しか出来ないんじゃないかって思う。そうしない為の、そうならない為の魔道具でもあるはずなのに。
『
「そうは言ってもな〜」
この街には何もなさそうだし、魔法そのものも受け入れられてるしそんな恨みがあるような人達もいないようにみえるんだよな〜…。どうしよう。
「すみません。魔法使いがよく使うお店などはありますか?」
「魔法使いがよく使う店かぃ?どうだろうねぇ」
ユフィの質問に老人は首を傾げる。すると思い出したように裏の路地を指さした。
「そういえば、最近そこら辺に魔法使いが住み着いたなんて話があるねぇ。でも、皆が近づかない所だからあんまりよく分からなくてねぇ」
老人が指す方向。裏路地みたいな暗い場所。明らかに人がいるような雰囲気ではないのだが、私とユフィが顔を見合せて頷くと、その路地へ入っていく。
・・・・・・
「ここ…ですかね?」
裏路地へ入り、歩くと直ぐに目の前には小屋が立っていた。物々しい雰囲気で確かに誰も近付こうとはしないだろう。人の気配もない。それでも、一応扉をノックする。
「ごめんくださ〜い…」
反応がない。今は留守にしているのか。本当に誰もいないらしい。扉を引くと、簡単に開いてしまった。
「入る?」
「こんな簡単に『ハンター』がいるような拠点が見つかるとは思いませんが…」
「まぁ、誰もいないっぽいし見つかんないように入ろうか」
「……はい」
ユフィはちょっと納得いってないけど、何もしなければ大丈夫。盗むものもないだろうし、問題なし!
そうして私達は部屋の中へ入った。
「お邪魔しま〜す…?」
軋む扉を開いて、中を覗き込む。そこは何の変哲もないただの部屋。机に台所、調理器具に家具。普通の家って感じの中身。
「ん?」
勉強机のような所に色々紙が画鋲で止めてある。薄暗くてよく見えない。人の顔のような張り紙に名簿の様な張り紙。近づいて埃を払いよく見ると、
「なっ…!?」
そこには王宮の会議で出てきた『ハンター』に襲われた魔法使いの名前だった。他にも名簿を見ると、名前に線が引かれている。各人の名前の隣にはお金の金額が書いてあった。
「ユフィ!あったよ!これ!」
「これは…」
ユフィが自分のメモを取り出して名簿を目で追っていく。そして、その瞳から悲しさが滲み出てきた。ユフィの名簿と壁の名簿を見るとそこには襲われた魔法使い達の名前が記されていた。
「間違いありません。ここに『ハンター』が居たのでしょう」
「なら、まだこの街に…?」
「分かりませんが、潜伏している可能性は高いですね」
「俺がなんだって?」
「「っ!?」」
気配を感じ私達は武器を構えて振り向いた。声をかけられるまで気づかなかった。ずっと警戒していたのに。そこに居た男は一人。ティルティの話なら二人のはずだけど、そこには一人の男が立っていた。
「んだよ、人様の家に上がり込んで何やってんだよお前ら。正規ギルドの連中か……お?」
男はユフィの顔を見ると張り紙と見比べるように視線を動かした。
「っはは!マジか!マジで!?」
「何を笑っているのです?」
「うわマジだ!おいおい。わざわざ賞金首からやって来てくれたのか?」
「賞金首?」
私達が男の言うことに首を傾げているのにも関わらず、男は勝手に話を進めていく。
賞金首ってユフィの事だよね?もしかしてユフィもいつか襲われる事が確定してたって事なの?
男は笑みを浮かべると、体に魔力を纏わせる。
「ちょっと入り組んでるがここで殺り合うのもいいな」
ゴギ、と威嚇のように腕を鳴らす。その圧に一気に緊張が走る。目を少しでも背ければ首を持っていかれるような感覚。そして、ユフィがアルカンシェルに魔力を込めた瞬間───
「っおらぁ!!」
「っ!?」
「ぐっ!」
男が腕を突き出すと、私とユフィは扉ごと吹き飛ばされた。風魔法じゃない。魔力を使った衝撃波。街中だろうと関係ない。男は臨戦態勢だ。多分使える魔法はティルティと同じ、『闇魔法』でも、こんなのは見た事ない。
「さぁ、“魔女狩り”だ」
・・・・・・
「うわぁぁぁ!」
「きゃぁぁっ!」
街から吹き飛ばされた!?こんな闇魔法知らないよ!
壁外から森へ吹き飛ばされた私達は受身を取り体勢を立て直す。前を向けば、そこにヤツはいる。
確か相手は二人居るはずなんだけど、今は一人だけ、ならここで一人は確保する!
「ユフィ、ここで仕留めるよ!」
「はいっ!」
私は
「“フレイム・テンペスト!”」
「ぁ?」
男がたちまち炎の竜巻に包まれる。これで視界を断つ。そしてセレスティアルへ魔力を送り、刀身を生成。できるだけ長い刀身にして竜巻の中へ突っ込む。
「もらったぁ!」
そして、セレスティアルを振り抜く瞬間。
「っ!?あ…れ?」
硬い。振り抜き切れない。竜巻が晴れると、そこにはセレスティアルの刀身を素手で掴んだヤツの姿があった。
「なっ!?」
「なるほどな、2人組ならでわだなっ!」
「うぁっ!」
私はそのまま投げ飛ばされ、男はユフィの方を向く。それを察知したユフィは再度、魔法を展開。アルカンシェルを天に指す。
「“ファイアーボール!”」
幾つか円状に展開される炎の弾は男へ向かって射出される。
「っ───!!」
男はそれも構わず突っ込んでいく。ユフィの魔法を正面から受ける気だ。そんな事をして無事では済まないハズなのだが、あの顔は違う。
「あぁぁ!」
男が炎の弾に触れると、たちまちそれは爆発した。
あれで無事じゃないハズだから、今のうちに体勢を立て直───
「っははぁ!」
「なっ!」
「うそっ!?」
男は何事もなかったかのように、ユフィへ直進。速度と威力の乗った殴打をユフィはマナ・シールドを展開して受け止める。凄まじい轟音と火花が散る。掘削するかのように男の拳は止まらない。そして、そのシールドも直ぐにヒビが入る。威力がおかしい。身体強化だけで出せる威力じゃない。多分ユフィもそれに気づいてる。
「“アイシクル・スピアッ…!”」
「ッッ!」
咄嗟に男の後ろに氷の槍を出現させ、射出。男はそれすらも察知して、マナ・シールドからの跳ね返りを利用して急速旋回。氷の槍を掴み、ユフィの方へぶん回した。
「っ…がっ、は…!」
ヒビの入ったシールドごとユフィは叩きつけられて、樹木に吹き飛ばれる。
うそでしょ…!ユフィがやられるなんて…そんなことあるの!?
「ユフィ……っ!?」
そして、ユフィの元へ駆けつけようとした瞬間私の前に一体の魔物が現れる。
「魔物!なんでッ…!」
「お〜いベリト。楽しそうだね」
「ん?来たのか、ディバイン」
奥からやってきたのは笛を持った男、何あれ。あれもしかして『魔道具』?私以外に魔道具を作ってる人がいるの?いや、それより、この人達の名前。
「あなた達が、ディバインとベリト…そうなのね?」
セレスティアルの鋒を向けると、笛を持った男、ディバインが頷いた。
「そうだよ。何か御用ですか?お姫様」
「俺らを仕留めに来たんだと」
「あぁ、だから、ベリトが襲われてたのか。でも困るんだよね〜。僕らはこれで食ってるからさ〜」
そう言いながら能天気に笑うディバイン。その手に持っている『笛』。あれはなんだ。『魔道具』なのか。ユフィを助けに行きたいけど、この人が目の前に立ち塞がっているせいで迂闊に前に出れない。それにこの魔物。なんでなんで私達だけを襲ってくるの。やっぱりあの『笛』の効果なのかな。
「おいディバイン。アレ持ってきたのか?」
「ん?あぁ、そうだった。はい」
ベリトが手を上げると、ディバインは何かを投げた。ベリトはそれを受け取ると、腕へ取り付ける。それは何か『篭手』のようなものだった。魔力を帯びている。やっぱりこの二人が持ってるの『魔道具』…?
私以外に『魔道具』を作っている人間なんて存在するの?
「まぁ、そういう事だ。だからお前達には死んでもらう」
装着した篭手に魔力が込められていく。やっぱり使ってる魔法は闇魔法だ。けれど、それがわかったからって何か出来るわけじゃない。ユフィもまだ寝そべったまま起き上がってないし、目の前の魔物も邪魔だし、この人達の力量もほとんど分かってない。私一人で何とか出来る状況じゃない。幸い、街から離れてるから大出力の魔法が使える。それさえ出来れば何とか撤退する手段も取れるのに。
「ッ…クソッ…!」
ベリトがユフィへ向かって歩き始めた。まだユフィも起き上がってない。ダメージがデカイんだ。まずは、ユフィを助けるッ!
「そこを通してッ!」
とにかく私は目の前の敵へ踏み込んだ。
「ダメだよ」
「はぁぁぁッ!……っ!?」
抵抗虚しく、目の前の魔物が私のセレスティアルを受け止める。押し込んでもこれ以上切り込めない。普通の魔物よりも強化されてる感じがする。それもあの笛の力か!
「ベリトの邪魔はさせないさ」
ディバインが笛を吹く。黒い音色に誘われて、魔物の魔力が上がる。それに合わせて魔物の形態も変化した。爪も牙もより禍々しく凶悪に。
「なっ…にこれ…」
「行け!」
「───!!!」
魔物の咆哮と共にその凶悪な爪が振り下ろされる。受け止めるのが精一杯でユフィの元へ駆けつけられない。これほんとに普通の魔物より強くなってる。こんな『道具』も『魔道具』も聞いた事ないし、見た事がない。この人達は本当に何者なの!?
「ぐっ…ユフィ!起きて!ユフィッ!」
「気絶してる内に首でもへし折ってやればいいか」
あの『篭手』みたいなのに魔力が集まってる。さっきの闇魔法が増幅されてるみたいで、爆発寸前の魔力のような。
「ユフィ!!」
「終わりだ」
「ッ!!」
その時、ユフィが咄嗟にアルカンシェルの鋒をベリトへ向けた。
「なっ!?」
「“エクスプロージョン!!”」
大爆発の大火炎。ベリトを丸ごと包む爆炎がアルカンシェルから炸裂した。そうかずっとチャンスを伺ったのか。本当に気絶したのかと思ったよもう!流石ユフィ!
「なるほどな」
「!?」
だが、ベリトには効果が無かった。
嘘でしょ…。ユフィの“エクスプロージョン”をまともに受けて無傷なの!?いや、違う…!
「やっぱり先に魔力を消しておくべきだったな」
あの『篭手』に魔力が吸われてる…?
私の知らない事象ばかり起きている。これが『ハンター』なの!?
「やってくれたな。精霊女」
「“ウィンド”……がっ!」
間髪入れずに魔法を構えたが、ベリトの方が早かった。ユフィは首を掴まれて持ち上げられる。
「ぁ…がっ…!」
「お前の魔力を消してやるッ…!」
そう言ってまた篭手が妖しく光り出す。
そして、その腕はユフィの体を『刺し貫いた』。
「ユフィ───ッッ!」
全身に力を入れて、魔物を真っ二つして地面がえぐれるまで踏み込んだ。私の斬撃に合わせてベリトは指した腕を引き抜いて、セレスティアルを篭手でガードする。次いでマナ・ブレイドを取り出して二度目の斬撃。ベリトはユフィを離してもう片方の腕でマナ・ブレイドも防ぐ。がら空きになった胴体に身体強化の蹴りを食らわせ、ベリトを吹き飛ばした。
「ユフィ!?大丈夫!?」
「ア…ニ、ス?」
「っ!?」
ユフィの元へ駆けつけると苦しそうな声を出す。
おかしい。ユフィの体に異常が無い。確かにベリトの腕はユフィを『貫いていた』。それなのに、穴も空いてない、出血もしてない。一体何故なのか。頭を巡らせるが何も思い当たるものが無い。
「私の体から何か…抜き取られて…」
「え…」
そう言われて指を指す方を向く。するとベリトが何か持っている。
虹色の魔力の…塊みたいな…。まさか…!?
「間に合わなかったみたいだな。王女様」
「私の…魔力が…っ…」
「っ、それを返せ!!」
「遅せぇよ」
私が踏み込んでも間に合わず。それはベリトによって握り潰された。
「っあ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ!!!!」
「なっ…う…そ…っ!……ユフィ!!」
砕け散った欠片は地面へ溶けて無くなった。ベリトは私達を見ると呆れたようにため息を吐いた。
「こんなもんか。賞金の割には呆気ないな」
「二人組でどうなるかと思ったけど、なんとかなるもんだね」
「あ〜ぁ、つまんね。帰るぞ」
「え?冗談でしょ?」
「もう殺す価値もねぇよ。魔法が使えない魔法使いなんて人以下だ」
去りゆくベリト達に目もくれず、私はユフィを見つめていた。何もかもが呆気なさすぎて頭の理解が追いつかない。何がどうなって何が起きてるのか。全く分からない。
「ユフィ…………?」
「っ……ぁ……二、ス……ごめん…なさい…」
「やだ…やだよ!ユフィ!!起きてよ!!!ユフィ───!!!!」
続く………。