「いったい、いつの間にそんな展開になったんだよ!聞いてないぞっ!」
仏頂面の純が陸樹に猛抗議している。
今日は真琴のオンラインライブ
実は、純の妹の瑠美も急遽、キーボードで参加する事になったのだ。
瑠美は、元々、クラシックピアノを習っていたが、もっと自由に弾きたいと、キーボードでクラシックやジャズ、R&Bなどをカバーして弾いている。留学も海外で様々な音楽を体感したいという理由だった。
今回の真琴のライブの話を陸樹から聞き、ぜひ手伝いたいと申し出てくれた。生演奏が入ると迫力が違うので、数曲だけでもやろうと翔と真琴が乗り気で手配した。
純は、中継に必要なパソコンやオーディオ等の手配や接続は関わっていたので、キーボードが入るという話は聞いていたが、誰が弾くかは聞いてなかった。駿の友達あたりかと思っていたのだ。
陸樹と翔は、事前に話して反対されても困るし、純が怒っても玲音がなだめてくれるだろうと考えて黙っていた。
だが、玲音が仕事の都合で急遽間に合わなくなった。玲音自身は準備に関わってないので、何も運営上問題は無いはずだが、純が怒ってリハが進まない。
陸樹と翔が手を焼いているところへ駿が慌ててやって来た。
「遅くなってゴメン!すぐにリハーサルしたいんだけど、いけそう?あ、J!瑠美ちゃんのピアノすごいね!ホント、感謝してる!今日はよろしくね!」
さっきまで文句を言っていた純だったが、駿の勢いに押され、渋々自分の持ち場に戻り、中継を繋いだ。
壁に等身大の真琴が映される。
「J、うまく繋がってる?」
「あぁ、問題ない。音声もOKだよ!」
「今日は色々ありがとう!妹さんまで参加してくれて。Jもなんか楽器やってたの?」
「え?俺?昔、ギターは弾いたことあるけど…」
「え!一緒にやってくれればいいのに!」
「いや、昔の話だし…」
「あ、時間ない!また後でね!じゃ、合わせよう!」
純は、真琴からも感謝され、瑠美のピアノで役に立つなら悪くないという気持ちになってきた。妹が褒められるのは、単純に嬉しい。ただし、陸樹に対しては、後で覚えてろよ、と根にもっていた。
「もうお客さん、結構並んでますよ。開場してもいいですか?」
龍介の開場の言葉で一気にお客さんが入って、賑やかになった。
ステージ衣装に着替えた瑠美が現れると観客のボルテージが上がった。瑠美は顔立ちは純とあまり似ていないが、スラっとした細身の美人だ。女性が加わると華やかさが違う。
アメリカからの中継による真琴の歌と駿のダンスに瑠美のピアノでライブはとても盛況だった。駿はダンサーとしての出演という条件で事務所の許可をもらえたのだ。
最後は真琴のYoutubeチャンネルの紹介と駿のグルーブのライブの宣伝をして、ライブは幕を閉じた。
ライブの終盤には、玲音もなんとか間に合った。玲音の到着を人知れず喜んだのは陸樹だった。
真琴と駿から絶賛され、瑠美は顔を紅潮させて喜んでいた。こういうライブで弾くのは初めての経験で興奮が冷めない。
「瑠美ちゃんが出るなんて聞いてなかったよ!サプライズ出演?あー、最初から見たかったなぁ」
玲音が悔しがる横で、純は苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。瑠美が活き活きとしている姿は素直に応援したいが、ナイショにされていたことに納得がいかない。そもそも、何で、そんな展開になったんだ?陸樹を問い詰めないと気が済まない。
「おい、陸樹!どういう事か説明してもらおうか」
純が陸樹に詰め寄ると、瑠美が割って入ってきた。
「ちょっと、待って!私が陸樹さんにお願いして、出演させてもらっただけなんだから、兄貴には関係無いでしょ!」
「お前が出演した事自体は別にいい!俺が聞きたいのは、陸樹が俺にナイショでコソコソ瑠美と会ってたことだ!」
「ええっ?!!」
急に大声を出した玲音にみんなビックリした。
純と瑠美も、玲音がそこまで驚いた顔をするのは予想外だった。
しかも、陸樹まで「いや、待て待て、それは誤解だって!」と、何故か純に対してというより、玲音に向かって言い訳し始めた。
純がむっすーとした顔で、陸樹に詰め寄った。
「何だ、その反応は?おかしいだろ!だいたい、親友だからって、妹に手を出すのは認めてないぞっ!」
「いや、だから、英会話の勉強の手伝いをしてるだけで…」
「私が誰とデートしようが、兄貴には関係ないでしょ!!兄貴だって、自分の好きな人と家族に隠れて付き合ってるじゃない!」
「そ、それは、」純が口籠る。
玲音にも、ようやく状況が飲み込めてきた。
陸樹は純と玲音に黙って、瑠美と英会話の練習兼デートをしていたらしい。
そこで今回のライブの話が出たんだろう。
それにしても、陸樹に新しい出会いが訪れればいいと願っていたが、よりによって、純の妹とは…。思わず、驚いて大声を出してしまった。
陸樹が純に片思いをしていた事は、唯一、玲音が純にしている隠し事だった。こうなると瑠美に対しても、隠し事をする事になってしまう。もし、2人の耳に入ったら、これまでとは違う意味で修羅場になるんじゃないかと思うと気が重い。
これも運命なんだろうか?
陸樹が目で助けを求めているのはわかっていたが、遠い目になってしまう玲音だった。
厨房では、翔と龍介が片付けをしながら事の成り行きを見守っていた。
「陸樹さんにも、新しい出会いがあったんですね。まさか、Jさんの妹さんとは、予想外でした」
「まったく、一筋縄じゃいかないな、運命ってやつはww」
「玲音さんも、気苦労が絶えないですねww」
結局、瑠美もいい大人なんだからと、玲音が仲裁に入った。
純は、陸樹にコソコソするな!とだけ注文した。事後報告されるのが気に入らないだけで交際に反対してるわけじゃないと言われて、陸樹は、ホントにまだ交際とかいう関係じゃないからと困り顔で弁明した。瑠美はそれを聞いて不満気だったが、それ以上文句が言えないようだった。
4人の喧騒が落ち着いてきたところで、翔が「打ち上げするぞー!」と声をかけた。真琴とライブの反省会をしていた駿が「お腹空いた〜、めし〜!」と叫んで、みんなの顔に笑顔が戻った。
兎にも角にも、新しい試みのライブは成功し、仲間が増えた夜だった。
END