「玲音は陸樹と瑠美の事、どう思う?」
打ち上げが終わり、マンションに戻ってきた純は、まだモヤモヤする思いを抱いていた。
「そういう純は、どこが引っかかってるの?もしかして、ヤキモチを妬いてるとか?」
「陸樹に?そこまでシスコンじゃないと思ってるけど…。なんで、何も言わなかったのかが、やっぱり引っかかるんだよ」
玲音は、陸樹が純に言えなかった気持ちは容易に想像できた。今でこそ吹っ切れてるはずだが、陸樹は元々、純が好きだったのだ。
「うーん…でも、やっぱり瑠美に対してなのかな?急に俺が大事にしてるテリトリーにズカズカと立ち入って来られた気がして…俺と玲音のことを確かめるだけじゃなくて、俺の親友にまで近づこうとしてるって思ったのかも?」
玲音は、純に隠し事をしている罪悪感で居心地が悪くて仕方なかった。
「もう、この話はよくない?まだ付き合うって決まってないし。2人とも大人なんだから」
気持ちを誤魔化すように、純を抱き締めて強引にキスをした。
"玲音らしくない"
純の胸が妙にザワつく。
前にもあったけど、何で陸樹が絡むとそんなに不安そうになるんだろう?玲音がヤキモチを妬く要素なんて無さそうなのに…陸樹も玲音に嫉妬するって言ってたし、これじゃ、まるで、三角関係…
"三角関係"?
急に脳裏に浮かんだワードに、ドキッとする。
「純?」
急に俯いて考え込む純に、玲音が心配して声をかけるが、純の耳には入ってこない。
男同士なのに?友達なのに?
いや、でも、俺と玲音だって同じだ…
今までの出来事が次々と蘇ってきて、これまで不思議に思っていた言動の数々の辻褄が合っていく。
今まで、冗談だと思っていた言葉が本心だったってこと?
玲音も知ってた?俺だけが気付かずに?
色んなことが頭の中でグルグルして感情が追いつかない…
「純!!」
玲音に大声で呼ばれ、我にかえる。
「いつから知ってた?陸樹のこと?」
青ざめた純の言葉に玲音が愕然とする。その表情で、純は確信した。
「やっぱり、知ってたんだな…陸樹の気持ち、俺だけが何もわかってなかった…」
陸樹はどんな気持ちで、ずっと傍にいたんだろう
玲音は、俺が気が付かないせいで、どれだけ余計な心配をしたんだろう
動悸で頭がガンガンして、吐きそうになる。
玲音はフラつく純をソファに座らせて、そっとハグしながら背中をさすった。
「もう、終わったことだよ。ちゃんと陸樹は吹っ切れてるはずだから」
「玲音はずっと、俺の代わりに陸樹の気持ちに寄り添ってくれてたんだな…大変な役回りを押し付けて、ゴメン…」
純は玲音の胸に顔を埋めて、堪えきれず嗚咽をもらした。
陸樹が背中を押してくれたから、玲音に自分の気持ちを伝えることができた
陸樹がいつも純の気持ちを優先してくれてたことが痛いくらいわかった
それなのに、何で何もわかってあげれなかったんだろう
「俺、陸樹とこれから、どう接したらいいんだろう…」
「今までと変わらなくていいんじゃない?」
「でも…」
「陸樹は、純の親友として傍にいるために、今まで黙ってたんだから、純に変わって欲しくないと思う。陸樹も純への気持ちには踏ん切りをつけてるはずだし、フラットな気持ちで陸樹と瑠美ちゃんを見守ってあげればいいんじゃないかな?」
玲音の優しい声がすーっと心に沁み込んでくる。
玲音は今までも俺の不安な気持ちに寄り添ってくれていたけど、陸樹と俺のことまで気にかけてくれてたんだな。自分が不安になることも多かったはずなのに…
「陸樹は俺のこと許してくれるかな…」
「許すも何も、俺も陸樹も、純が純だから好きになっただけだよ。その気持ちは、たぶん、変わらないから、純がいつもの純でいてくれる方が嬉しいはずだよ」
「俺が鈍感なせいで、2人ともすごく苦しい思いをしたはずなのに、何で…」
「純は鈍感なわけじゃないよ。気が付かないで欲しい事と気が付いて欲しい事が、不思議とわかってる」
「そんなわけないだろ…」
「ホントだよ!今までは陸樹の気持ちに気が付かないで欲しいって思ってた。でも、陸樹が吹っ切れてから、純に隠し事をしてるのが苦しくなってきてたんだ。瑠美ちゃんの話を聞いて、余計純に隠したままでいいのかってすごくザワザワしてた。まさか、このタイミングで、本当に気が付くとは思ってなかったけど、何でわかったの?」
「玲音のキスが何かを誤魔化そうとしてるみたいで、玲音らしくないって思えて…俺達の関係が三角関係みたいだなって気付いたんだよ。そしたら、急に何もかも、ピースがうまくハマるみたいに符合していった…」
「そっか」
玲音は、幼子にするように、大きな手で何度も純の頭を優しく撫でた。純の顔色が戻ってくる。
玲音のおかげで、落ち着いてきた純は、陸樹が吹っ切れたというのは、随分最近の事だと気が付く。
「陸樹が吹っ切れたみたいだって玲音が感じたのは、やっぱり、陸樹が病気から回復して店で会った時?」
「そうだよ」
「・・ちょっと待て。この話って、翔も知ってたって事?」
龍介の代わりに陸樹の見舞いに行ってくれと言われた事を思い出す。玲音が苦笑いをしている。
「ま、まさか、みんな知ってて、ホントに俺だけ知らなかった?」
「いや、確実に知ってたのは翔だけだよ。龍介は勘がいいし、店にいるから気づいてるかもしれないけど…」
翔や龍介まで知っていた事に目眩を覚える。
「俺、どんだけ鈍感なやつだと思われてたんだろ」
(鈍感っていうより、天然なんだけどな) 玲音は内心苦笑した。
「なんかもう、容量オーバーだ、寝る…」
「いいけど、その前に、今度はちゃんと俺の気持ちを受け取って欲しいな」
玲音が何かを誤魔化すためじゃなくて、純への想いを込めてキスをする。
純は、玲音の溢れる愛情を胸いっぱいに感じながら、今だけは玲音のことだけ考えていたいと願った。
「ばか…寝られなくなっただろ。責任取れよ…」
2人の長い夜はまだしばらく終わらないのだった。
END