玲音の日課は、朝シャワーを浴びる事だったが、純と新婚生活が始まってからは、日課が増えた。
朝、目が覚めると、横で寝ている純に小声でおはようと囁いて、軽くキスをする。
シャワーを浴びる。
朝食と昼のお弁当を作る。お弁当は純の分も用意する。
出かける前に、もう一度、純の顔を見に行って「純、行ってくるね、愛してるよ」と言って、寝ている純にキスをする。
最近は、純も寝ぼけながらも目を覚まして「玲音、おはよう、愛してる、行ってらっしゃい」と言ってくれるようになった。
純が会社へ行く時は、純も起きるので、純から「行ってらっしゃい」のキスをしてくれる。そういう時は、ちょっと離れ難くなってしまう。
お昼休憩では、今日は何時頃帰れそうか、夕飯をどうするか等をSNSで連絡する。わずかなやり取りでも、連絡をする事がモチベーションにつながる。
帰ったら、手洗いうがいをして、最初に純をギュっと抱き締めて、しっかり顔を見て笑顔で「ただいま」のキスをする。
共同生活を始めた頃は、気恥ずかしくて、毎朝キスをするとかはできなかった、というより、言いだせなかった。今では、そういう遠慮をする必要はないので、ついスキンシップしがちだ。
基本的なルールが変わったわけではないが、意識が変わっただけで、なんだか全然違うように感じるのは不思議だったが、本当に結婚してるみたいだなと感じる。
職場でも、雰囲気が変わったと言われた。以前は頑張り過ぎの感があったが、今は落ち着いているというか、心が満たされているせいで、穏やかでいられているらしい。
ただ、誰かと同棲を始めたという事が知られ、結婚する予定なのか聞かれるようになった。自分達の中では結婚してる気持ちだが、世間一般としては違うとわかってるので、説明がめんどくさい。
純の会社でも同様らしい。純の場合は、急に純が色っぽくなったとかで、恋人ができたんだろうと評判になっていた。純は何も変わっていないのに、周りがうるさいと怒っていた。
次の問題は、家族へどう紹介するかだ。
これは、結構頭が痛い。
玲音の兄夫婦には紹介したが、純の家族にはまだ何も言っていない。純は妹と両親の4人家族で、長男なわけなので、余計に言い出しにくい。
とは言え、友達としてでも、一度はちゃんと挨拶しておきたいと思っていた。
これって、どういう心境でのぞめばいいんだろうな
相変わらず、複雑な状況に苦心しつつ、好きな人の家族を大切にしたいと思う。自分達が付き合っている事で家族との仲が悪くなったり疎遠になったりして欲しくない。
不安は感じるが、日々の小さな幸せが支えてくれる気がする。
玲音は今日も、日課を行いながら幸せを噛み締めて1日を頑張るのだった。
一方、純は珍しく、会社の顧客先へ訪問に行った帰り、普段行ったことのない神社が目に留まった。
初詣をしていなかったなと立ち寄ってみると、数少ない参拝客の中で、背の高い少年が何か祈っている後ろ姿に見覚えを感じた。
「龍介?」
振り返った龍介はビックリした様子で声を上げた。
「Jさん?!なんで、ここに?」
「会社訪問の帰りに、たまたま立ち寄っただけなんだけど、龍介の家、この辺だっけ?」
龍介は、ちょっとモジモジと、はにかんだ様子をした。
「翔さんにはナイショにして欲しいんですけど、ここの神社が安産の神様だって聞いて、先生の安産祈願に来てるんです。出産って、大変だっていうから」
龍介は、家庭教師だった翔の奥さんにとても懐いていたらしい。
(わざわざ、足をのばして、安産祈願に来るなんて、優しいな)
純は、龍介を弟のように可愛いく思っているので、龍介のいじらしい姿に感銘を受けていた。
(翔にナイショっていうところが龍介らしい)
何故か龍介は翔に反抗的な態度を取る事が多い。それでいて、とても信頼しているようでもあるのが純には不思議だった。
龍介にちょっと待ってもらって、お参りをしてから、一緒に帰ることにした。
「Jさんは、何をお祈りしたんですか?」
「いや、特別なことは…」
「玲音さんとの将来についてとかじゃないんですか?」
「そ、それは…まぁ。」(将来とかじゃなくて、普通に今の幸せが続きますようになんだけど。恥ずかしいな)
「僕も出会いがあるといいなと思って、実は部活を始めたんです!」
「え!どこに入ったの?」
「演劇部です。前から誘われてて。人手が足りないから大道具や小道具も自分達で作ったりしてる部活なんですけど、物を作ったりするのも好きなんで、楽しいです」
「龍介は手先が器用だもんな」
龍介が学生らしい楽しみを見つけて活き活きとしてる様子に純はほっこりと幸せな気持ちになった。
(龍介はちょっと大人と一緒にいることが多いせいで、背伸びしてるところがあったから、学生ならではの経験を楽しんで欲しいな)
「たくさんの人と出会える機会が増えるといいね。応援してるよ」
「はい!Jさんと玲音さん、陸樹さんみたいな素敵な恋人や友達を見つけたいです!」
龍介の無邪気な言葉にちょっと照れながら、純は龍介を心から可愛いと思っていた。
実は、純は今度、実家に玲音を連れて遊びに行くかどうかで、少し悩んでいた。
しばらく実家に顔を見せていなかったので、親からたまには顔を見せにくるように言われていた。ちょうど、母親の誕生日も近い。この機会に玲音を紹介したいと思ってはいるが、ちょっと不安もあった。
新しい事に挑戦しようとしている龍介を見ていると、勇気をもらえた気持ちになった。
すぐに理解してもらうのは難しいかもしれないけど、諦める前に、挑戦してみようと思う。
「龍介、ありがとう」
「?何がですか?」
不思議そうな顔の龍介に、「何でもない」と笑って誤魔化す純だった。
END