純の実家に挨拶へ行って、ホッとしたのも束の間、玲音の実家からも呼び出しが来てしまった。
(こういうのって重なるんだな)
玲音は既に観念している部分もあった。以前、義姉が来たのも母が心配していたからだったので、その内呼ばれるだろうと思っていたのだ。
兄夫婦には、一緒に住んでる純が"男"であり、"付き合ってる"事を告白していたが、両親には、伝わっていない。兄夫婦としても、地雷を自ら踏みに行くような真似はできなかったらしく、「友達と元気に暮らしている」と報告したらしかった。
玲音は、弟ということもあり、これまで自由にさせてもらっていた。人の道に外れたことさえしなければ、自分の好きなように生きていいと言われている。
ただ、割と昔気質の父が"男同士で交際している"という事実を受け入れてくれるか、正直自信がない。
(ケンカはしたくないんだけどな)
玲音には、先日、純の両親に会った時みたいに友達として紹介するだけじゃすまないだろうという予感があった。家族とケンカしても、純を守るつもりだが、できれば穏便にすませたい。結局、ケンカになれば、純が傷つく事になる。自分の家のイザコザに純を巻き込みたくない。でも、無関係ではいられないことだとわかっている。
純の家へ行った時とは違う緊張感があった。
玲音の家は下町にあり、昔からの商店街や工場などが立ち並ぶ中にある古い一軒家だ。純には、できるだけ都会っぽくないカジュアルな格好をして欲しいと頼んでいた。長身でスラッとして、モデルみたいな色白の純は、この町では恐ろしく目立つ。本人は全く無自覚なので、玲音の注文に首を傾げていた。
「こんにちは。純といいます。はじめまして」
緊張した面持ちの純が実家の玄関で挨拶する様子は、すごく場違いな感じがした。
「あ、い、いらっしゃい。こんなむさ苦しい場所へ、わざわざ来て頂いて…」
落ち着いている純とは対象的に、純を見てオロオロと取り乱してる両親の反応に玲音は、やっぱりな、と思っていた。両親には、ルームメイトを連れて行くとだけ言ってあった。まさか、こんな綺麗な人を連れてくるとは予想してなかったに違いない。
父が嫁入り前の妙齢の女性と同棲するなんて何事だと憤慨してしまい、家に入るなり早々に怒鳴り始めた。
「玲音!お前、どういうつもりで結婚前のお嬢さんと同棲しているんだ?!ちゃんと結婚するつもりなんだろうな?相手の親御さんには挨拶したのか?!」
「・・・父さん、たぶん、誤解してると思うけど、純は男だよ」
「ええっ?!!」
両親のあからさまな驚き様に、純が赤面してしまった。純の今日の格好は、黒っぽいニットに普通のデニムでいたって普通なんだが、それでも、相当美人に見える。
(絶対、こうなると思った…)
予想はしていたが、この状況で付き合ってる事まで否定したら嘘をつく事になってしまう。こうなったら、全て正直に言うしかないと覚悟を決めた。
「でも、父さんの勘違いは半分は間違ってない」
「どういう意味だ?」
「純は男だけど、俺の恋人で結婚したいと思ってる人だから」
「な、何だって?!!」
「あと、誤解が無いように言っておくけど、純は正真正銘、普通の男だから!心が女の子とか、そういうんじゃなくて、見た目は中性的で綺麗だけど、いたって普通の男だよ。それでも、何故かはわかんないけど、俺達はお互いが必要で愛し合ってる!その事をちゃんと自覚できるようになるまで、いっぱい悩んだし、考えたけど、自分の心に正直に生きたいんだ。嘘をつきたくない。だから、今日、連れて来たんだよ。わかってもらえないかもしれないけど…」
玲音は一気にまくしたてた。
純が横で赤い顔のまま、いたたまれない表情をしている。
「純君、君はどうなんだ?」
「はい。俺は玲音と一緒に生きていきたいです。ご両親には申し訳無い気持ちですが、俺にとって玲音は太陽で、なくてはならない存在です。ごめんなさい…自分を偽ることはできません…」
純の目に涙がにじんでいた。
「・・・そうか…じゃあ、もう好きにしなさい」
「え?認めてくれるの?」
「俺には理解できない世界だが、本気だってことはわかった。反対したって、どうにもならんだろう。ただ、世間はそんなに甘くはないかもしれん。自分たちの意見を通す事も大事だが、もし、間違ったと思ったら引き返すのも勇気だと思う。」
「わかりました。もし、玲音が普通に女性を好きになるような事があったら、潔く身を引きます。」
「純?!」
「でも、それまでは、玲音の横にいさせてください!俺には玲音が必要なんです…」
「俺だって、純が他に好きな人ができたらしょうがないって思うかもしれないけど…今は、そんなこと考えられない!純が大事で必要な存在だから、ずっと傍にいて欲しい…」
「もういい、わかった…!お互いに相手を大事に思ってるんだな?茨の道かもしれんが、覚悟はできてるんだな?なら、もう言うことはない。娘ができると思ったんだが、まさか、息子が増えるとはな!」
急に笑い出した父に唖然としたが、玲音は一気に力が抜けた。泣きそうな顔をしていた純もようやく、ホッとした顔をしている。玲音は、両親の前だったが、純の頭を抱き寄せて、ポンポンとねぎらった。
「もう!お父さんが大きな声出すから、泣きそうじゃない!ごめんなさいね、うちはガサツな男しかいなくて。こんな可愛い子が男の子だなんて、信じられないわww」
母さんの言葉で純が再び赤面した。
「い、いえ、俺もガサツなんで…」
照れてしどろもどろな純は、確かに普通の女の子より可愛いくらいだが、本当は全然もっと男らしい。普段の天然マイペースな純の素が出せるようになるのは、まだしばらく先になりそうだ。
結局、盛大にカミングアウトしてしまったので、長居せず、早々に退散する事にした。純を早く解放してやりたかった。
帰り道、普段、飄々としている純も、さすがにぐったりしていた。
「・・・寿命が縮んだ」
「何か、ホントごめんな」
「恥ずかしくて、当分会いに行けそうにない…」
「言わなきゃいけない事は、もう全部言ったから大丈夫だよ」
「俺って、何か変だったかな?」
「変?」
「だって、何か不思議なものを見るような目で見られてた気がする」
「あー、それは純みたいに綺麗な子を見たことがないからだよ。だから、地味な格好した方がいいって言ったろ?」
「え?!あれって、そういう意味だったの?」
純がビックリした顔をする。全然自覚が無い天然な純の反応を愛しく思う。
「純を見て、男友達だと思ってくれたら、ルームメイトとして紹介するつもりだったけど、姉さんの時みたいに綺麗な女性だと勘違いする可能性が高いと思ってたんだよ。その時は付き合ってる事を告白する覚悟はしてた。」
「え、そんな事考えてたの?先に言ってよ!心の準備ができないだろ!」
「ごめん。余計に緊張するかと思って…」
「それはそうだけど…マンションに帰ったら目一杯甘えさせてもらうからな!覚悟しとけよ!」
威勢よく可愛い事を言ってくる純を今すぐにでも、甘やかしてやりたいと思う玲音だった。
END