サキュバスと入れ替わった勇者が自分の肉体を殺し当ても無く彷徨う話 作:てぬてぬ@TSF
オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル
タグ:R-18 残酷な描写 性転換 TSF TS 入れ替わり 勇者 サキュバス
暗闇に包まれた洞窟の中。ランタンの明かりを頼りに、四人の人間がゆっくりと進んでいた。
「暗いわ湿っぽいわ狭いわで散々だな、こりゃ。本当にこんな所に魔王の側近がいるのかよ?」
先頭で愚痴を零すのは、傷だらけの体を皮鎧で包んだ歴戦の戦士だ。巨大な斧を片手で窮屈そうに構えながら、もう片手でランタンを掲げている。
「ま、魔導感知に引っかかったから間違い無いはずです、グレンさん。でもまさか、こんな地下迷宮みたいな洞窟だなんて・・・・・・」
戦士・・・・・・グレンに返事をしたのは、後ろから二番目に位置する少年と言っていい見た目の魔術師だ。魔術的な刺繍が施されたローブに身を包み、手に持っている杖は小柄な本人と同じくらいの長さがある。杖は薄ぼんやりとした光を発していて、ランタンで照らし切れない箇所をカバーしていた。
「・・・・・・ライの魔導感知は優秀だから、ここに絶対いるはず。でも、ここまで入り組んでるなんて。脳内でマッピングしてるけど、あと何時間か続いたら持たないかも。どうする、アルト?」
最後方、魔術師であるライの後ろで警戒をしているのは軽装姿の少女だ。被ったフードの下に犬の耳を生やしている彼女は獣人と人間のハーフであり、また優秀な斥候でもある。
「メリアが言うなら一旦引くのも手かな。地上に出てから、改めて対策を考えよう。みんな、それでいいか?」
残る一人、剣と盾を構え、サーコートと鎧を身に纏った青年が他の三人を見渡して言う。三人は頷き、元来た道を戻ることになった。
───この四人こそ、現在魔王の侵攻に晒されている人間界を救いうる唯一の希望。神託に選ばれし勇者である神官騎士アルト。最強の傭兵と名高い歴戦の戦士グレン。魔術学院創設以来の天才と称される魔術師ライ。過去にアルトを助けた凄腕の盗賊メリア。彼らは魔王を討伐するという使命を胸に、日々戦い続けている。
今勇者達がいる洞窟には、魔王直々に送り込まれた側近が潜んでいる・・・・・・らしい。ライによる広範囲の魔導探知が、地中奥深くの場所に生体魔力反応を見つけたのだ。メリアが集めた情報から考えるに、どうやらそれこそが魔王の側近だと推測したアルトは、仲間を連れて近くの場所まで向かう。そこにあったのは巨大かつ深い、迷宮と言っても差し支えの無い巨大洞窟だった。
光源が無い上に入り組んでおり、どれだけ潜ってもきりが無い。ライが探知した場所まではまだかなりあるということもあり、これ以上消耗する前に一旦撤退することに決めたアルト達は、メリアの脳内マッピングの通りに引き返すことにした。だが・・・・・・。
「・・・・・・待って。おかしい、洞窟自体の構造が変わってる」
先ほどとはフォーメーションを変え、先頭に立ち歩いていたメリアが足を止める。訝しげな表情で目を細め、光に照らされている部分を見渡した。
「どういうことだよ、メリア。お前が記憶違いなんざ、初めてじゃねえか?」
「そうじゃない、本当に変わってるの。もしかしたら、何かの魔術かもしれない」
「・・・・・・ライ。周辺を少し調べてほしい。魔力は足りているか?」
「は、はい!まだ余裕はあります」
アルトの言葉に、ライは頷いて杖を掲げ、目を閉じて呪文を唱える。柔らかい波動のようなものが周囲に放たれ、洞窟内を舐めるように進んでいった。しばらくして、ライは目を開いて言う。
「・・・・・・駄目です。魔力は感知出来ません。ですが、今僕達がいる場所から離れた場所で、大規模な移動を検知しました。洞窟自体が動いているんだと思います」
「魔力を介していないのに、どうやって・・・・・・いや、今はここから脱出することが先決だ。ライ、そのまま魔力の続く限り探知を続けてくれ。戦闘用の魔力も使って構わない。グレンにメリアはライの護衛を頼む」
「そいつはいいが、お前はどうするんだよ」
「恐らく、仕掛けてきているのは魔王の側近の可能性が高い。俺が一度、ここから離れて動いてみる。この洞窟を動かしている奴が、俺と君たちどちらを狙っているか確かめよう」
アルトの言葉を聞いた途端、メリアが噛みつくように叫んだ。
「囮になる気!?駄目だよそんなの!」
「相手が俺を狙うとは限らない。君たちの方を狙ってくる可能性も十分にある。狙われていない方がなんとかここを脱出して、近場の街に応援を頼む。ここで全員固まって動くよりも脱出の可能性は高いと思う。仮に両方とも狙って洞窟を動かす力が相手にあるなら、その時はその時だ」
「だからって、一人でアルトを行かせるなんで出来ない!私も一緒に行く!ライの護衛はグレンおじさん一人で十分でしょ!?」
感情的になっているのか、耳がピンと立たせフードがめくれたメリアに、グレンも同調する。
「そうだな、ここは二人ずつで別れた方がいいだろ。ライがいれば俺でもここから逃れられるだろうし、そっちもメリアがいりゃあなんとかなる。一人で突っ走るのは悪い癖だぜ、勇者様よ」
「ぼ、僕もそう思います。脱出の可能性を高めるというのなら、メリアさんを連れていくべきかと」
仲間たちが口を揃えて言ってくる様に、アルトは少し目を見開いた後苦笑する。いい仲間を持った。本心から思いながら、彼は返事をした。
「・・・・・・うん、そうだな。ごめん、また勝手に突っ込む所だった。じゃあ、メリアは俺についてきてくれ。みんなでこの危機を乗り越えよう」
三人が頷き、彼らは二手に分かれることを決める。ここから移動するアルトとメリア。留まるグレンとライ。緊急時に情報交換出来る様に魔術による通信方法を取り決めつつ、アルトのメリアは残った二人から離れ洞窟を進んでいく。
「メリア、何か感じるか?」
「うん。遠くから、微かに振動を感じる。グレンおじさん達の方までは分からないけど、多分私達を狙ってるんじゃないかな」
「そうか・・・・・・じゃあ、可能な限り遠くに向かってみよう。相手がこちらを狙ってるなら、脱出の可能性を探りつつグレン達から引き離した方がいい。メリアの感覚に頼ることになるけど、お願い出来るかな?」
「任せて。アルトのこと、絶対に私が守るから」
決意を秘めた表情で頷くメリア。アルトはランタンを掲げながら、彼女に頼もしさを覚えて微かに微笑んだ。そして、そのまま洞窟内を照らしながら慎重に進んでいく。入り組み歩きづらく、似通った光景の中歩いていると、メリアが手で合図をしてきた。
「どうした?」
「振動が止まった。理由は、分からないけど」
警戒を強めながら、メリアは耳をそばだてる。聞こえなくなった振動は、離れたというわけでは無く完全に停止しているようだ。それをアルトに伝え、指示を仰ぐ。
「どうする?」
「・・・・・・よし。このまま進もう。ひとまず、最後に振動があった所まで」
「分かった」
アルトの言葉に頷いて、メリアは一層慎重に進み始めた。が・・・・・・、
「っ、これは」
しばらくして、彼女は足を止めた。急激に嫌な予感が背筋に走り、瞬間叫ぶ。
「アルト、止まって!なんか、すごくやな感じがする・・・・・・!」
しかし、アルトの返事は無い。どころか、ランタンの明かりが叫ぶ直前に消え去っていた。振り向くと、そこには暗闇だけが広がっている。
「アルト・・・・・・!?一体どこに!?」
暗闇の中、目を凝らすメリアだがアルトを見つけることは出来ない。辛うじて彼の足跡は発見出来たが、それ以外の痕跡は影も形も無かった。
「アルト!返事をして、アルト!」
動揺と焦燥感に駆られながら、メリアは手当たり次第に周囲を捜索する。だが、煙のように消えたアルトを見つけることは出来なかった。
アルトは、気が付くと石造りの部屋の中に立ち尽くしていた。なんの予感も予兆も無い、まるで瞬間移動のような状況。ランタンを置いて盾を構えると、既に持っていた剣を握り直す。
(どうなっている・・・・・・?メリアは・・・・・・近くにはいないか)
冷静に現状を分析しつつ周囲の暗闇に視線を向ける。石を組み上げて造られたように見える床に、壁。かなり広いようで、ランタンの明かりでは全く照らし切れていない。と、蠱惑的な声が部屋に響く。
「流石ねぇ、困惑はしても一切隙は無い。魔王様が気にするわけだわ」
「誰だ!」
声の方向に剣を向け、アルトが叫ぶ。暗闇の中から、ゆっくりと歩きながら姿を現したのは、人に見えるが人ではないと確信出来るもの。二本の巻き角に青い肌、蝙蝠のものに近い羽根。黒く細長い尻尾を生やし、極端に露出度が高い衣装を身に纏っている。
「ふふふ、そう怒らないで頂戴な。折角私のお部屋に招待したのに、剣を向けるなんて作法がなっていないわよ?」
甘く蕩けるような声がアルトの耳を打つ。気を張っていなければ見惚れてしまいそうになることを自覚しながら、アルトは目の前の魔物の種族に思い至った。
「サキュバスか・・・・・・!」
サキュバス。インキュバスの対になる存在で、煽情的な格好や技術で人間の情欲を煽り、精気を啜る怪物だ。普段は離れた場所から魔力を飛ばすことで人間の夢に繋がり、死なない程度に精気を吸う。だが、実際に会った場合はそのフェロモンと手練手管で篭絡され、命を落とすまで貪られる、と。
アルトは祈りの言葉を呟き、己の身に淡く光るベールを纏った。魔力を軽減するそれは、サキュバスのフェロモンにも有効かは分からない。しかし、アルトはそのまま戦闘態勢を取り、ゆっくりと距離を詰めようとする。
「せっかちね。こっちは戦う気は無いのよ?無抵抗の魔物を殺す程、勇者様は偉いのかしら」
「ここに俺を転送したのはお前の仕業だろう。敵対の意志あり、と判断する」
「それは事実だけれど・・・・・・我ながら上手くいったわ。魔王様から与えられた、世界の理すら乱す禁術。知識や経験では見抜けないものだから、まんまと引っかかってくれた」
戦う気は無いと言いながらも挑発的な物言いをしてくるサキュバスに、アルトは僅かに違和感を感じた。まるで、こちらを誘っているようだ。サキュバスを睨みつつ、踏み出そうとした足を止める。
「何が、目的だ」
「あらあら、そこで我慢出来るなんて、やっぱり優秀。こっちの目的は、そうねぇ・・・・・・」
頬に手を当てて、サキュバスは考え込むような素振りを見せる。対するアルトは、決断を迷っていた。攻め込むべきか、あるいは待つべきか。相手の手のひらの上で転がされているような危機感が彼に警告してくるが、攻撃した場合なんらかの罠が仕掛けられているかもしれない。しかし、相手の目的が時間稼ぎだったら?思考を高速で巡らせて、アルトは最適解を導き出そうとする。
「まぁ、いいか。教えてあげるわ。私の目的は、ここに勇者様を招いて篭絡することよ。それなりに強いようだし、わざわざ戦うのも馬鹿らしいじゃない?ねぇ、もし私に従ってくれたら天上さえも霞む快楽を与えてあげるわ。どうかしら?」
「断るっ!」
言葉と共に、アルトは迷いと躊躇を振り切って一気に踏み込んだ。素早く祈りの言葉を唱えると、サキュバスの四肢に光の輪が絡みつき動きを拘束する。反応が遅れたサキュバスの心臓部分へと、神速の斬撃が放たれた。
「はぁぁぁっ!!」
ざっくりとした手応え。いかに魔物と言えど致命傷に違いない。しかしアルトは油断せず、返す刀でサキュバスの首を刎ねた。噴水のように血が噴き出し、頭部を失った体がどさりと倒れ込む。アルトは周囲を警戒したまま、じりじりと後ずさった。と、
「あはははっ!」
喜悦に満ちた笑い声が響き渡る。今斬り殺したはずのサキュバスの声が、暗闇の奥から聞こえてきた。
「凄いわねぇ、私じゃあ絶対に見切れない。身代わりを用意しておいてよかったわ」
「っ!」
アルトは床に置いてあるランタンを声の方向に掬うように蹴り込み、同時に突撃する。宙を舞うランタンが照らしたのは、さっきと全く同じ姿のサキュバスだ。彼女は嫣然と微笑みながら、突撃してくるアルトを見つめて呟く。
「無駄よ。ここに招かれてしまった時点で、貴方は終わっているの」
がくん。足の動きが止まった。視線を向けると、首無しのサキュバスの腕が足を掴んでいる。振り払おうとした瞬間、掴んでいる腕が膨れ上がった。
ドォォォーン!
爆発。アルトは凄まじい勢いで吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。爆発の直前に盾を構えたおかげで致命傷では無いものの、掴まれていた足はひしゃげるように折れている。早く回復を。祈りの言葉を唱えようとした瞬間に、目の前にサキュバスが飛んできた。なんとか剣を向けようとするも、尻尾で絡めとられ奪われてしまう。
「はい、おしまい」
目を爛々と輝かせながら、サキュバスは顔を近付けアルトの唇に吸い付いた。甘い唾液が流し込まれ、吐き出そうとしても口内が痺れて受け入れてしまう。強烈な眠気と熱が全身に回り、意識が遠のいていく。
「く、そっ・・・・・・!」
「大丈夫、殺しはしないわ。ふふ、愉しみね」
嘲るようなサキュバスの声を聞きながら、決死の抵抗も空しくアルトは意識を失った。
「・・・・・・う・・・・・・」
頭に響く鈍痛。ガンガンとかき鳴らされるようなそれに、アルトはうっすらと目を開けた。
「あら、早いわね。先に準備しておいて良かったわ」
聞き慣れたような、知らないような男の声。瞬間、先ほどのことを思い出したアルトは飛び起きようとする。が、四肢が動かない。
「あぁ、無駄よ、無駄。貴方の力、本当に凄いのね。まともにやってたら、私に勝ち目は無かったでしょう」
男の声は女性的な喋り方をしていた。なんとか首だけを動かして声の方を見ようとすると、信じられない光景が目に入ってきた。
そこには、アルトが立っていた。凛々しい顔立ちに妖艶な笑みを浮かべ、アルト自身を見下している。
「なん、だと」
「あはは、流石に驚くわよね。でも、驚いている私の顔も素敵よ」
アルトに似た誰かは訳の分からないことを言いながら、ニヤニヤと嗤っている。状況が掴めないアルトが体を動かそうとするが、何かに縛り付けられたように動くことが出来なかった。自身の手に視線をやると、奇妙なものが映る。
「これは・・・・・・どういうことだ・・・・・・!?」
そこには、青い肌色の腕が見えた。腕も、指も、アルト自身のものとは思えない程細い。光の輪が絡みつき、動きを制限しているようだ。しかし、おかしい。この光輪は、魔物かそれに類する相手にしか効かないはず・・・・・・。
「このまま狼狽えてるのを見ててもいいけど・・・・・・折角だし教えてあげるわ。ほら、こっちを見なさいな」
その言葉に首を捩って目を向けると、装飾された鏡が空中に浮いているのが見えた。そこに映っているのは、先ほど戦っていたサキュバス。光輪で拘束された彼女は、怪訝な表情で鏡を見つめている。数瞬後、ハッとした顔でサキュバスはアルトに似た誰かを睨み、呟いた。
「まさか・・・・・・お前、サキュバスか」
「察しがいいのね。つまらないわぁ、もっと無様に動揺すると思ってたのに。そうよ、私と貴方の魂を入れ替えたの。魔王様から与えられた、特別な禁術でね。うふふ、今では私が勇者で、貴方は討伐されるべき魔物なのよ」
信じられない言葉を放ち、嘲るように微笑むサキュバス・・・・・・アルト。魔物の肉体に閉じ込められた元々のアルトは、自身の体を睨みながら叫んだ。
「俺は俺だ。魔王を討伐し、世界を救う勇者だ!体が魔物になったとしても、折れるものか!」
「あっははは!そうでなくちゃ。それでこそ、愉しみがいがあるってものよ。さて、と」
アルトが祈りの言葉を唱えると、本来のアルト・・・・・・サキュバスの肉体が一層キツく拘束されていく。もはや身じろぎすら出来ないサキュバスはされるがままになりながら、アルトが神聖なる祈りの言葉を唱えたことに驚愕していた。
「驚いてるわねぇ。私はアルト、勇者様なんだもの。これくらい出来て当然でしょ?」
くすくすと嗤いながら、アルトはサキュバスに覆いかぶさった。煽情的な肉体はしげしげと眺めつつ、目を見開いているサキュバスに言い放つ。
「それじゃあ、教えてあげるわ。今の貴方は、えっちで淫らなサキュバスなんだってことをね」
「何をっんむぅ!?」
何かを言いかけるサキュバスの口を、同じく口で塞ぐアルト。力強く抱き締めながら、無理やり接吻してサキュバスの口内に舌を侵入させた。ぬちゅぬちゅと淫靡な音が響き、成す術も無くサキュバスの口内は蹂躙されていく。
「んむっんんんんっ!?」
口内で蠢く元自分の舌。押し返そうとしても、結果的に舌を絡める結果になってしまう。さらに、全身が一気に熱くなる感覚にサキュバスは襲われた。未知の感覚が全身を駆け回り、下腹部の辺りが強く疼く。体の感覚に振り回されながら、目の前の自分の顔を睨むことしか出来ない。
「んむぅ・・・・・・ふふふ、私の唇、甘いわねぇ。流石はサキュバス」
「何をっ・・・・・・!俺は、っ人間だ!」
「虚勢を張っても駄目よ。キス一つでこんなに発情しちゃって、可愛いわぁ」
つい、とアルトが軽く指を振ると、浮いている鏡が再びサキュバスの姿を映した。頬が火照り、瞳は潤み。何より、その表情は蕩けたような笑みを浮かべている。完全に発情しているその姿にサキュバスは酷く動揺した。
「っ!?これ、は・・・・・・げ、幻覚だ!」
「あらそう。なら、これでどうかしら?」
「ひっあぁん!?」
アルトは否定しようとしたサキュバスの胸を掴み、激しく揉みしだく。痛みすら感じそうな程強く指をめり込ませ、豊満な胸がむにゅりむにゅりと形を変えていった。それと同時にサキュバスに流れ込んでくる、雷撃のような快感。口からは艶やかな喘ぎ声が漏れ、汗が噴き出す。
「やめっんああぁっ!くぅぅっあぁぁぁぁっ!!」
「ほら、気持ちいいでしょ?受け入れなさい、今の貴方はいやらしく男を誘うサキュバスだって」
「ふざっけっぐぅぅぅぅぅっ!!」
否定しようにも、胸を揉まれる快感で塗り潰されてしまう。今までに感じたことの無い快楽の津波が、サキュバスの、男だった頃の精神を押し流していった。
「んっぁぁぁぁぁっ!??」
一際鋭い喘ぎ声を上げ、サキュバスの股間から液体が噴き出した。透明なそれを浴びながら、アルトはうっとりとした表情を浮かべる。
「うふふ・・・・・・初心な私の体も素敵だわぁ。まぁ、精神的には処女のようなものだものね。それじゃあ、とどめを刺してあげる」
「はぁぁ・・・・・・なに、を・・・・・・」
息も絶え絶えなサキュバスを後目に、アルトはゆっくりと装備を解除していった。サーコートと鎧を外し、服を脱ぎ捨てる。均整の取れた筋肉質な肉体が露わになり、サキュバスの視線は体の一部に釘付けになった。
「あら、こっちの方はあまり期待していなかったけど・・・・・・ふふ、立派な剣を持っているじゃない」
自分の体だった下半身にそそり立つ、たくましいペニス。雄々しく勃起しているそれが目に入った瞬間、サキュバスはずくずくと重く甘い疼きに襲われる。下腹部から溢れ出すように伝わってくる疼きは、全身に広がって染み込んでいった。ペニスから目を逸らそうとしても何故か逸らせず、浮き出た血管一本一本さえも脳に焼き付けてしまう。
「っあ、あぁ」
「そんな欲しがりさんな顔をしちゃって。でも、気持ちは分かるわ。入れ替わってなかったら、私も存分に愉しみたかったけど・・・・・・」
ぐい、とサキュバスを両足を掴み左右に広げる。愛液を大量に滴らせ大洪水になっている股間が露わになり、ひやりとした空気が触れるだけでサキュバスはびくびくと体を痙攣させた。
「さぁ、味わいなさい。これが、貴女の体が望んでいるものよ」
足の間に押し入るように、アルトは腰を進める。膣の入り口に亀頭が触れた瞬間、胸を揉まれた時とは比べ物にならない快感が体を走り抜け、熱っぽい嬌声がサキュバスの口から漏れた。
「ひぁっんんんぅぅっっ!」
光輪に拘束されたまま全身を震わせるサキュバスを嗜虐的な笑みを浮かべて見つめながら、アルトは膣の中へとペニスを突き入れる。どろどろに溶けたような膣肉が亀頭でかき分けられ、容易く呑みこみながらもきゅうきゅうと搾り上げていく。
「なんっいあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?」
プシリ。結合部から潮を噴き、たった一突きでサキュバスは絶頂した。しかし、それで終わりでは無い。アルトは男の感覚を味わうように、ゆっくりと腰を前後させ始める。
「やぁっだめぇぇぇっいっぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「はしたない、わねぇ!私でもそんな簡単にイかないわよっ!?あぁ、でも本物のおちんぽはいいわぁ!尻尾でする疑似男性器とは感じ方が違うもの、ねっ!」
ごちゅごちゅと、アルトの剛直が子宮の入り口を荒々しくノックする。その度にサキュバスは絶頂し、彼女の視界で白い光がスパークし続けた。もう、何も考えられない。人間が一生かかっても味わえないであろう無限の快楽に、サキュバスは魂の奥底まで犯されていった。
「あぁぁぁっあくぅぅっだっがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「獣みたいに喘いじゃって、中身が勇者様とはとても思えないわねぇ!そうよ、貴女はサキュバス!男の精を啜って生き延びる魔物なのよ!」
興奮している口調で言葉を叩きつけながら、アルトは乱暴に腰を打ち付ける。更に一方の手で胸を握り潰すように揉み、もう一方の手でサキュバスの細首を絞め上げた。そんな暴力的な責めすらも、サキュバスの体は快楽に変換してしまう。
「─────っっっっ!!!!!」
「気持ちいいでしょう!?こんなことをされても今の貴女は快感として受け入れてしまう!元は男なのに、すっかりただのメスになってるの!!」
嘲るようなアルトの言葉も、サキュバスには届いていない。体も、脳も、魂も。全てが快楽で埋め尽くされ、それ以外のものを感じることが出来なくなっていた。
「あははははっ!さぁ、そろそろ私もイくわよっ!自分のものだった子種、存分に味わいなさいっ!」
子宮の入り口を抉るようにペニスが突き入れられる。ぶくっと膨れた亀頭を感じて、サキュバスは歓喜した。来る。来る。精子が、男の子種が胎内に放たれる。たまらない幸福感が体の奥から湧き上がり、サキュバスは無様でだらしない笑みを浮かべていた。
そして。煮えたぎり、濃厚な精液がサキュバスの膣内に放たれた。白濁した子種は子宮に叩きつけられるように噴出し、サキュバスの胎はそれを一滴残らず呑みこんでいく。喉を締め上げられながら、彼女は声にならない絶叫を上げた。
「あ゛ぇ゛っ──────っっ!!!!!」
どくり、どくり、どくり。精が注ぎ込まれる度に、全身が悦んでいるのが分かる。何もかもが満たされて、とても気持ちいい。幸せで、たまらない。サキュバスは自分が何者かも忘れて、本能が与えてくる快感に溺れていった。と、
「っぐぅぅぅぅっっ!!?」
突如、彼女の体がアルトによって持ち上げられる。アルトは下で繋がったまま易々と立ち上がり、サキュバスを抱き上げて腰を再び突き入れた。
「まだまだ終わりじゃないぞ、このサキュバスが!お前が完全に無力化するまで、責め続けてやるっ!」
男らしい口調でアルトが言い、容赦無くペニスで突き上げ串刺しにする。サキュバスは動かせない体をがくがくと揺らしながら、幼子か獣の様に声を上げ続けた。
「んあぁぁぁっ、ひぃっぐぅぅぅぅぅぅっっ!!!」
「いい様だよ、これが元の俺だなんて信じられないな!ようやく魂が体に馴染んだところだ、記憶も、能力も、完全に全て手に入れた!」
浴びせかけられる言葉の重大さを、今のサキュバスは理解出来ない。ただただ快楽に打ち震え、もっともっととせがむように膣を締め付ける。
「ふん、もう堕ちているか。いいだろう。せめてもの慈悲だ、完全にトドメを刺してやる!」
蔑むような表情を浮かべ、アルトは腰の動きをどんどん速めていった。もはや呼吸することも出来ないのか、サキュバスは鳥の雛のように口をパクパクとさせている。半分白目を剥いて意識を失いかけながら、流し込まれる快感でそれすら許されない。
もう何度、絶頂しただろうか。心も体もぐちゃぐちゃのどろどろにされたサキュバスは、周囲に体液をまき散らしながら青ざめた顔を快楽に歪ませている。アルトはそれを見て、責めを止めるどころかさらに激しくした。
「安心しろ、魔物は頑強だからな、死ぬことは無い!魔王城に持ち帰って飼ってやる!きっと、魔王様もお喜びになることだろう!ほら、二発目だ!」
呼吸もままならず半死半生の状態のサキュバスに、さらに精が放たれた。二度目だというのに量も濃さも変わらない精液がサキュバスの胎内を汚し、呑みこまれていく。ようやく満足したのか、アルトはサキュバスをどさりと地面に落としてゆっくりと息を吐いた。
「ふぅ・・・・・・ここまでやれば、もう自分が誰だかも思い出せまい。心配するな。これからは、俺が勇者アルトとして使命を全うしてやる。魔王様の為に、な」
邪悪な笑みを浮かべながら、サキュバスを見下して言うアルト。彼女は仰向けに倒れ込んだまま、なんの反応も見せない。意識を失っているのか、ぜいぜいと荒く呼吸をする以外はどのような動きも無かった。
「やれやれ、完全に意識がトんでいるのか。つまらないが、反応は魔王城で確認しても遅くは無い。っと、ん?」
呆れたように言っていたアルトだが、ふとその耳が何かの音を捉えた。どうやらこの部屋に近付いてきているそれは、岩が破砕するような音だ。
「勇者・・・・・・俺の仲間か。あれからなんとか合流して、助けにきたみたいだな。この感じは・・・・・・グレンの斧にかなり強力な付与魔術をかけて強引に掘削してきているのか。全く、無茶をする」
普段のようにアルトは苦笑する。しかし、その直後に豹変したように、邪悪な表情で呟いた。
「なら、転送魔術で先にこのサキュバスを送ってしまおう。下手なことを言われて俺が疑われるのも嫌だからな」
本来なら目の前のサキュバスが使っていたはずの術をアルトが行使すると、サキュバスの周囲に魔法陣が浮かび上がる。サキュバスの体を拘束していた光輪が砕け散り、魔力が渦巻いてサキュバスの体を包んでいった。
「それじゃあ、さようなら。君の仲間を皆殺しにして、世界が魔王様のものになった時にまた会おう」
別れの言葉と共に、アルトは魔力を魔法陣に注ぎ込み、そして、
ザクッ
「っが、は・・・・・・!」
胸に何かが突き刺さり、膝をついた。魔力を注ぎ、転送魔術を完成させる一瞬の隙。そこを突いて、誰かが攻撃してきたようだ。しかし、誰が?
「・・・・・・・舐め、るな、よ・・・・・・・サキュバス!」
突き刺さっていたのは、サキュバスの尻尾だ。鋭角に変化した先端を引き抜いて、倒れていたサキュバスが立ち上がる。
「な、何故!?お前は、完全に女体の快楽に呑まれていたはず、ぐぁっ!」
尻尾がアルトの首に絡まり、キツく締め上げた。これでは、祈りの言葉を唱えることも出来ない。
「お前が、俺の記憶と能力を手に入れても魔王に忠誠を誓っていたように・・・・・・この体に馴染んだとしても、俺には果たすべき使命と、約束がある。人間の意志の力を、舐めるな!」
「が、あ」
尻尾は首に食い込み、空気と血液を遮断する。屈強な体を持つアルトもこれには耐えられず、朦朧としながら藻掻くことしか出来ない。
「ここで、死ね。お前と仲間を、会わすわけにはいかない」
「ま゛、で・・・・・・もどずがら・・・・・・!」
体を戻すことを提案してくるアルトを冷たく見つめながら、サキュバスは言い放つ。まるで、決別のように。
「俺は、お前を信用しない。さらばだ、魔王の側近よ」
ごきり。首の骨が折れる音とともに、アルトの全身から力が抜けた。ありえない方向に首が曲がっているアルトの体を確認し、サキュバスは力尽きたように倒れ込む。精神力を振り絞って抑えていた全身の疼きが噴き出し、情欲が際限無く精神を蝕んできた。魔法陣の周囲に魔力が渦巻く中、サキュバスは本能が訴えてくる吸精の欲望に突き動かされアルトの場所まで這いずっていく。と、
ドゴォン!!
凄まじい音と共に、部屋の天井が崩れる。落ちてくる岩に紛れてなだれ込んできたのは、アルトの仲間である三人だった。
「アルト!大丈夫、助けに来たよ!」
メリアが叫びながら着地し、鋭い視線が部屋の中を確認した。部屋の中央、尻尾を巻き付けられ首をへし折られたアルト。そして、そこに近付く魔物、サキュバスを。
「・・・・・・え?」
驚愕の表情。続いて降りてきたグレンとライも、その惨状を目の当たりにする。
「そ、そんな・・・・・・」
「ってめぇよくもアルトを!ぶっ殺してやる!」
呆然とするライと、状況を把握した途端即座に激昂し突っ込むグレン。青色の魔力を纏った斧がサキュバスに迫る中、ハッとしたライが叫んだ。
「だ、駄目です!近付いては!魔術に巻き込まれます!」
「っ!!」
魔力渦巻く魔法陣の直前で踏み止まったグレンは、腰に差してある一本の投げ斧を投擲する。回転しながら飛翔するそれは、魔力の渦で勢いを削がれながらもサキュバスの肩に直撃した。
「ぐぅっ・・・・・・!」
激痛が走り、サキュバスは正気を取り戻す。眼前には、勇者アルトの仲間たち。自身を助けに来たであろう彼らに、サキュバスは思わず泣きそうになった。しかし、彼らからしてみればアルトを殺した張本人だ。どうにか説明しようとするも、激痛と疼きで口が回らない。
「あ、ぐ・・・・・・みん、な」
「よくも、よくもぉ!」
呆然としていたメリアが、突如叫ぶ。ありったけの短剣を投擲するが、怒りのままに放たれたそれは魔力の渦で軌道を変えられサキュバスには当たらない。今にも渦の中へ突っ込もうとするメリアを、羽交い絞めで押さえてライが言う。
「駄目です、一緒にどこかに飛ばされますよ!」
「離してっ!!許さない、殺してやるっ!アルトを殺した報いを受けさせてやるっ!」
怒り狂い、殺意をサキュバスに叩きつけながら叫ぶメリア。ここに来るまでに魔力を使い切ったライにはどうすることも出来ない。そして。
ゴォォッ!
魔力の渦がひと際大きくなり、魔法陣が怪しく輝いた。同時に、サキュバスとアルトの死体の輪郭がぼやけ、霧のように霧散していく。
「クソがっ!ライ、どうにかならんのか!」
「無理です、もう魔力がっ!アルトさんっ・・・・・・!」
「アルト、アルトぉっ!!駄目、行かないでっ!!!」
悲痛な三人の声に、サキュバスは答えることが出来ない。辛うじて手を伸ばそうとするが、その直前でメリア達の姿はかき消えてしまう。
「あ、あ」
魔力の渦に巻き込まれながら、サキュバスは伸ばしかけた手を力無く下ろす。絶望の声すら上げることも出来ず、どこかへと転送されながらサキュバスは意識を失った。
サキュバスが気が付くと、そこはどことも知れない森の中だった。途中まで発動していた転送魔術が暴走した結果、魔王城では無く別の場所へと飛ばされたらしい。サキュバスの近くにはアルトの死体も転がっており、ありえない方向に首が曲がったままだった。
「ここ、は・・・・・・」
全身の疼きと肩口の激痛に耐えながら辺りを見渡す。鬱蒼と茂った森はどこまでも広がり、果てが見えない。僅かに地面が傾斜していることから、どうやら山の一角のようだ。
「ぐ、ぅ」
苦しそうに呻きながら、肩口の傷を見やる。サキュバスの生命力の為せる業か、深く抉れているというのに既に血は止まりかけていた。このままでも命に別状は無いと判断し、彼女は木を背にもたれかかり息を吐いた。
「ふぅ・・・・・・」
徐々に、現状への実感が湧いてくる。禁術によってサキュバスと魂を入れ替えられ、ぐちゃぐちゃに犯されたこと。元自分の肉体を、自ら殺してしまったこと。仲間たちに敵意と殺意を向けられ、誤解を解けぬまま転送されたこと。
「・・・・・・」
無言で上を見上げる。夜だというのに、空を覆い隠している枝葉がくっきりと確認出来た。サキュバスは夜目が利くのだろう。
「俺が、サキュバスか」
自嘲気味に呟き、目をつぶる。木にもたれかかっている背中から、普段はしない感触が伝わってきた。蝙蝠のような羽根が木に擦れる感覚と、臀部から伸びる長い尻尾の感覚。側頭部からは角の感覚も伝わってきて、自分の肉体が完全に人のものではないという事実が突きつけられる。
「メリア達は、無事だろうか」
命を預けられる仲間達は、アルトが殺された事実に怒り狂っていた。あの状態で、地下洞窟から無事に抜け出せたのだろうか。勇者が死んだという事実を、どう受け止めるのだろうか。
「・・・・・・クソ・・・・・・」
全ては自分のミスだ。焦って無理に仕掛けてしまった、自分のミス。悔やんだところで過去は変えられない。しかし、どうしても思ってしまう。取り返しのつかない状況で、サキュバスは呟いた。
「頼む、無事でいてくれ」
仲間達のことを頭に思い浮かべながら、ゆっくりと意識が遠のいていく。限界まで犯され、ダメージを受けた体以上に消耗した精神が休息を求めているのだ。サキュバスは抗いきれず、後悔と共に意識を手放した。
それから、サキュバスになってしまった彼女の孤独な旅が始まった。まずは元自分の体を埋葬し、次に自身のいる場所を確認する為に辺りを捜索する。人気は無く、野生動物も少ない。ひとまず山を下りてみたが、集落や村のような人間が暮らしている痕跡は影も形も無い。サキュバスは当ても無く周囲を彷徨うことになり、結果的に分かったのは、今いる場所は魔物が跋扈する魔王の領土だということだった。
様々な魔物が生息している地で、サキュバスは身を潜めながら流離う。時には野生動物を狩り、時には木の根を齧ってでも腹を満たし、他の魔物との接触を避けて進んでいく。幸いサキュバスは人間に比べて頑健な為、少ない食料でも生き延びることが出来た。しかし・・・・・・。
「っく、うぅぅ・・・・・・」
ある日の夜。サキュバスはボロ布にくるまりながら、全身を襲う疼きに耐え続けている。魂を入れ替えられてから数十日、彼女の渇きは限界に達していた。サキュバスの食事の仕方が脳内に浮かび、魔力を用いた淫夢を見せる魔術、魅了の魔術などが魂に刻まれていく。これを使えば、人間から精を奪うのは容易いだろう。
「耐え、ろ・・・・・・耐えるんだ・・・・・・!」
欲しい。人間の精が、熱くどろりと粘ついた精液が欲しい。サキュバスの肉体が訴える本能が、脳を侵蝕していく。うずくまって丸まりながら、彼女は呻くように呟いた。
「俺、は・・・・・・人間、人間だ・・・・・・!絶対に、屈するものか・・・・・・!」
しかし、どれだけ耐えようとも疼きが去ることは無い。かつて勇者であった魂は絶え間無いサキュバスの本能に苛まれ、他者との交流も無いことから限界に達している。それでも、彼女は歩み続けた。それは使命感からか、あるいはかけがえの無い仲間達との再会を思ってか。サキュバスになってから三か月程が経過する頃、彼女は開拓村のような場所に辿り着いた。
その場所は、どうやら多数の人間たちが奴隷として使役されているようだった。オーガ・・・・・・角の生えた魔物達が人間たちを虐げ、要塞のようなものを建設しようとしているようだ。
「きりきりと働け、非力な人間ども!死にたくなければノルマを達成しろ!」
傲岸なダミ声が、サキュバスの隠れている茂みにまで聞こえてくる。防衛施設を建設しているということは、ここは魔物と人間の争う最前線なのかもしれない。実際、奴隷である人間の他にも魔物は相当数いるようだ。雄しかいないのは、彼らが軍隊だからだろうか。と、
「そこ、何を倒れてるんだ!」
オーガが喚き、人間の一団に割って入る。腹を押さえてうずくまる初老の男の元まで行き、持っている棍棒を近くの地面へと叩きつけた。地面が大きく抉れ、うずくまっていた男が吹き飛ばされる。
「いいか、十数える内に立て!立てないならば下級の魔物どもの餌になるだけだ!」
オーガの言葉に、男はなんとか立ち上がろうと藻掻く。だが、その度に咳き込み顔を上げることすらままならない。オーガは容赦なくカウントを進めていく。このままでは、彼は殺されてしまうだろう。
「・・・・・・っ!」
あのオーガ以外にも、魔物はあちこちに見える。無策で突っ込めば、返り討ちにされるのが当然だ。だが、時間が無い。サキュバスは歯を食いしばり、僅かな時間で思考を回し続ける。何か、何か無いか。彼らを助ける手段は。
「やるしか、ない・・・・・・!」
覚悟を決めたサキュバスは、ばさりと翼を広げ、魔力を全身に行き渡らせる。この体になってから苛まれ続けた疼きに否応無く教えられた、サキュバスの力を解放した。
「がぁっ、ん、んん?」
突如、オーガが放心したように武器を落とす。頬は紅潮し、どこかぼんやりとした表情を浮かべていた。それは周囲にいた他の魔物も同様で、茫洋とした様子である一点に視線を向けている。何が起きたか分からない人間たちがつられてそちらを見ると、ボロ布に身を包み、目を怪しげに光らせた魔物が立っていた。
「今の内だ、逃げろっ!」
サキュバスは叫びながら、魅了魔術をかけ続ける。幸い肉体のスペックは非常に高いらしく、かなり広範囲かつ対象を魔物に限定して魅了をかけることが出来ているようだ。ずくりずくりと下腹部が疼いて溢れそうになるのを堪えながら、魔物達を自身の場所へと誘引する。
「そうだ、こっちにこい、こっちに・・・・・・!」
片膝を付きながら呟く。人間達は混乱しながらも、どうにか一団となって逃げ出し始めているようだ。数十、いや、数百はいる魔物達は逃げ出す人間を気にもせず、ふらふらとサキュバスの方向に向かってくる。涎を垂らし、発情期の獣のように瞳をギラつかせながら。
「ぐぅぅぅぅっ・・・・・・!」
サキュバスの力を使ったからか、凄まじい衝動が彼女の体の中を暴れ回っている。男の、猛り狂う肉棒が欲しい。いっそ、逃げ出している人間達を食べ尽くしてやろうか。そうだ、そうしよう。
「黙、れぇ!」
魂そのものを染め上げていくような衝動に抗いながら、サキュバスは魔力を放ち続ける。種族としての食事、すなわち吸精をしていない影響か魔力は枯渇し始めていた。だが、決して魅了の魔術を解くことは無い。
そして。人間達が一人残らず逃げ出した後。サキュバスは力尽き、倒れ込んだ。周りは魅了が解けた状態の魔物達に囲まれ、彼らは混乱しながらも口々に喚く。
「貴様、サキュバスか!?一体何故こんなことをした!人間共が脱走したじゃないか!」
「魔王様へ叛逆するつもりかよ、えぇ!?これは落とし前付けてもらわないとなぁ、おい!」
「女、女だ、きひひっ!ちょっと前に全員食っちまったからなぁ、久しぶりだなぁ!」
魅了が解けても肉体の興奮は治まっていないのか、どの魔物も下半身の肉棒がいきり立っている。それでいい、とサキュバスは自嘲気味に思った。こいつらが欲情して自分に群がり続けるのなら、逃げた人間達に追手がかかる時間が少しでも遅くなる。
「おらっ、弁えない淫乱が!ありがたくしゃぶりな!」
眼前に、歪な形のペニスが突き出された。亀頭のカリが反り返り、根本まで太いオーガのペニスは、痴垢とカウパーでドロドロに汚れている。強烈な臭気が、鼻から脳に抜けてじゅくじゅくと股間が濡れていった。
本来、サキュバスは魔物から精を吸っても、人間から吸った時の一割程にしかならない。だが、空腹に耐えかねている彼女にとって、目の前の汚れたペニスはまるでご馳走の様に思えた。むしゃぶりつこうと口を開いて、ゆっくりと顔を近付ける。そんな焦らすような様子に、オーガはサキュバスの角を掴み、無理やりペニスを口内にねじ込んだ。
「んぶっぅぅぅ!!?」
「ちんたらしてんじゃねぇ!」
喉奥まで突っ込まれた巨大なペニスは、容赦無く口内を蹂躙していく。えずいて吐き出そうとしても、オーガの腰の動きは決して止まらない。胃から溢れる吐瀉物を潤滑油に、ひたすらにペニスが突き込まれる。
「ぐむっんんんんんんんん!!」
さらに、腰を持ち上げられると同時に膣にペニスが挿入された。荒々しく膣内を抉られ、サキュバスは悶え狂う。尻穴にもペニスがねじ込まれ、胸は潰されるように揉まれ、手足や髪の毛さえも魔物の慰みものになっていく。次々に白濁の精が放たれ、サキュバスは喜悦の表情で絶頂し続けた。
もっと、もっと、もっと。際限無く続く地獄の中で、彼女は衝動と本能が満たされていくのを感じていた。そうだ、これがサキュバスの生き方。他者に犯されながら、魂までも搾り尽くす。とても、しっくりくる。
──────どれだけの時間が過ぎただろう。気が付くと、辺りにはむせ返るような淫臭が漂い、あちこちに誰のものかも判別出来ない体液がまき散らされている。のそりと上半身を起こすと、周囲の異常な光景が目に入ってきた。
「これ、は」
魔物達が、全員倒れている。ある者は幸せそうに、ある者は恐怖に顔を歪めて、ある者は快楽に囚われて。百に届こうかという数の魔物達は、一匹の例外も無く絶命していた。
「・・・・・・俺が、やったのか」
ぞくり。言いようもない恐怖と、幸福な満腹感を同時に感じる。サキュバスの力を使い、いとも容易くこれだけの命を奪った恐怖。久方ぶりに、心ゆくまで精を味わえた満腹感。サキュバスは、辺り一面に広がっている屍の中心で、自分の体を抱き締めた。
「う、うぅぅ」
何よりも恐ろしいのは。今、自分が幸せを感じていることだ。これこそが自分の生き方だと、納得しかけてしまっていることだ。
「俺、は」
もう、言い逃れは出来ない。魔物相手とはいえ、これだけの雄を吸い殺してしまった。間違い無く、今の彼女はサキュバスだ。それも、凄まじく強力な。
「人間、人間のはずだ。こんな体になっても、心だけは」
自分に言い聞かせるように呟く。目の前の惨状が、その言葉を否定しているというのに。と、
ワァァァァァ・・・・・・
集落の方から喚声が聞こえた。虚ろな表情で目を向けると、武装した人間達が作りかけの要塞へと突撃する姿が見える。装備が整っていることから、国の正規軍のようだ。と、
「───っっっ!!!??」
一軍から分かれ、こちらに向かってくる者達がいる。懐かしい、見知った者達。メリア、ライ、グレンの三人だ。
「ひ、ぃっ」
か細い声を上げて、サキュバスは翼を広げた。精を吸う前までは飛べなかったはずのそれを羽ばたかせ、逃げるように空へと舞い上がる。
「あぁ、うぁぁっ・・・・・・!」
怖い。怖い。怖くて仕方がない。仲間に殺されることでも、堕ちた自分に気付かれることでも無く。何よりも、人間の群れを、向かってくる仲間を食料と認識してしまったその事実に、サキュバスは恐怖した。
「あぁあぁ、あぁぁぁぁああぁぁ」
赤子のように泣き喚きながら、彼女は逃げ出した。ライの魔術がサキュバスの体を襲い、体や翼に衝撃が走り火炎に焼かれる。落雷が直撃し、全身に凄まじいダメージが蓄積していく。しかし、そんなものは痛くない。ただ、恐ろしい。自分のことが恐ろしくて恐ろしくて、サキュバスは一度も振り返ることが出来なかった。
ボロボロの体をふらつかせ、サキュバスは人気の無い荒野へと墜落した。死んでいないのが不思議な程に傷だらけの体のまま、荒野に一人這いつくばる。
「・・・・・・」
虚ろな瞳には、なんの感情も映っていない。さっき大量に吸った精のおかげか、体へのダメージが徐々に修復していく。だが、サキュバスはなんの反応も見せなかった。
三日三晩、彼女はそのまま倒れたままだった。ぴくりとも動かず、死んでいるような有様。だが、傷は着々と回復していき、サキュバスがゆっくりと立ち上がる頃には全て完治していた。
「俺、は」
呻く。こんな状況でも煽情的な声色に侮蔑しながらも、サキュバスは嘔吐するように呟いた。
「俺は、勇者だ。勇者、アルトだ・・・・・・!」
殆ど壊れかけの心に言い聞かせるように呟きながら、彼女はふらふらと歩き出す。痛々しいその様を見る者は、誰もいなかった。
どれだけの日数が経過しただろうか。あれから、サキュバスは魔王の領土を彷徨いながら襲ってくる魔物を返り討ちにする日々を過ごしていた。精は、吸っていない。あの時に感じた恐怖を心に刻み、決死の想いで吸精の誘惑を耐えているのだ。
彼女は、一人孤独に戦い続ける。それだけが、己に残された最後の砦だとでもいうように。こうして魔物と戦うことが、勇者の証明だとでもいうように。どんどん手強くなっていく魔物の追手を殺しながら、その精神は限界を超えて擦り切れていった。
季節が一巡する頃、サキュバスは浅い洞穴に潜んで身を休めていた。薄汚れ、乞食のような身なりでも、体の女性的な魅力は損なわれていない。彼女は茫洋とした表情で、洞穴の外に降っている雨を眺めている。
「・・・・・・」
精を求める餓えに渇きが常態化し、本能と衝動が脳内を暴れ回っているが、サキュバスはそれを面には出していない。この一年、ずっとサキュバスの性と戦い続けてきたのだ。慣れるというよりは、諦めてしまっていた。
「あ・・・・・・」
雨宿りに来たのだろうか、一匹の野犬が洞穴を覗き込んでくる。しかし、サキュバスが視線を向けた途端、雨の中を逃げていってしまった。伸ばしかけた手を力なく下ろし、再び雨模様の空を見上げる。その後、彼女は微動だにせずに夜を迎え、朝になった。
雨が上がり、ぬかるんだ地面を踏みしめながらサキュバスは歩いていく。空を飛ぶことは可能だが、他の魔物にバレてしまう為自重していた。覚束ない足取りで荒れた街道沿いの林を進んでいくと、遠くに巨大な人影が見える。
「あれ、は」
赤黒い肌に、巨岩を削って作られたような筋骨隆々の巨体。背丈に見合う大剣を持ったその魔物は、トロールの上位種、ブラッドトロールだった。鋭い視線がサキュバスの視線とかち合い、ブラッドトロールは凄まじい勢いでこちらに突っ込んでくる。
「っ、あぁぁっ!」
翼を広げて飛び立つ直前、ブラッドトロールが咆哮と共に口から何かを放った。魔術と呼べるものでも無い、しかし強大な魔力の塊。サキュバスは身を翻すが、避け切ることが出来ず片方の翼に直撃した。
「っぐ、ぅぅぅっ!」
右の翼が千切れ飛び、飛び立つことが出来ない。咄嗟に魅了魔術をブラッドトロールにかけようとするが、高い耐性を持つのか効いている様子は無かった。そのままサキュバスに肉薄し、突撃の勢いそのままに構えた大剣を振り下ろす。
死ぬ。あの大剣は、このままだと確実にサキュバスを両断する。きっと、それは救いなのだろう。無間地獄とも言える今を生き続けるサキュバスにとって、死んでしまえば解放されるのだから。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
だからこそ。だからこそ、ここで死ぬわけにはいかない。決死の表情で斬撃をかわし、前に出る。ブラッドトロールの真横を、脇腹を伸ばした爪で切り裂きながら駆け抜けた。
「はぁっ、はぁっ」
荒い息を吐きながら、振り向いたブラッドトロールと正対する。脇腹の傷を気にする素振りも見せず、ブラッドトロールは大剣を構え直した。そして、言う。
「噂は本当のようだ。今の動き、覚悟、勇猛さ。快楽に耽溺する軟弱なサキュバスとは到底思えん。貴様、勇者だな?」
「っ!だったら、どうだというんだ」
動揺を即座に抑え込み、サキュバスは低く構えて迎撃の体勢を取った。その対応にニヤリと笑みを浮かべ、ブラッドトロールが続ける。
「魔王様直々の命でな。サキュバスと入れ替わって尚、一人気を吐く勇者を討伐しろとの仰せだ」
完全に、こちらの事情を悟られている。恐怖と悪寒を感じながらも、しかしサキュバスは微かな安堵感を覚えていた。敵対する魔物とはいえ、自身を勇者扱いしてくることへの安堵。だが、今はそれを味わう余裕は無い。無理やり振り払い、尻尾をサソリのように頭上へ伸ばす。ブラッドトロールは、元の体であったとしても勝てるか分からない程の怪物だ。サキュバスの心臓が死への恐怖で脈動し、汗がじわりと噴き出した。
「・・・・・・無駄だとは思うが、一つ聞こう。貴様の力、魔王様の為に使う気は無いか?元より肉体は魔物なのだ、裏切りとは呼べん。どうだ?」
「断る。かかってこい、魔物よ」
未だ疼きに苛まれながらも毅然とした返答に、ブラッドトロールが満足気な笑みを浮かべる。大剣を大上段に構え、力を込めた。瞬間、巨体が爆発的な速度で踏み込んでくる。
「オォォォォォォォォッッ!!!」
大地を震わせる咆哮を上げ、ブラッドトロールがサキュバス目掛けて大剣を振り下ろす。神速の域に近い斬撃は、しかし空を切った。迎撃の体勢を取っていたサキュバスが、巨体の突撃とほぼ同時に後ろに飛びのいたのだ。
「っそこだぁ!」
飛びのいたサキュバスは、まだ体が宙を舞っている状態のまま尻尾を槍のように突き出す。狙うは喉。鍛えようの無い、生物の急所。だが、
「温いわぁっ!」
空を切り、地面を抉るはずの大剣が、凄まじい膂力によって跳ね上がった。向かってきた尻尾を容易く斬り落とし、ブラッドトロールは間髪入れずに再び踏み込む。サキュバスは着地と同時に再び飛びのこうとするが、僅かに遅れてしまった。
ぞぶっ
刃が肉を斬るおぞましい音が響く。サキュバスの右腕は斬り飛ばされ、宙を舞ってぼとりと落ちた。足元に転がる腕には目もくれず、ブラッドトロールは再度大上段に剣を構え直す。
「っぐ、ぅぅぅぅぅっっ!」
絶叫を噛み殺し、右腕を犠牲に距離を取ったサキュバスはふらつきながらもブラッドトロールを睨みつけた。その様子を目の当たりにして、ブラッドトロールは心底楽しそうな笑い声を上げる。
「ははははははっ、見事!その体でよくやるものだ!嬉しいぞ、勇者!」
朦朧とする意識の中、サキュバスのその声を聞いていた。右腕に、右の翼。尻尾すら失い、勝機は完全に潰えたかに見える。しかし、それでも。諦めるわけにはいかない。何故ならば、彼女は、まだ勇者であることを辞めてはいないのだから。
「無駄口を叩いている暇があったら・・・・・・さっさと来い・・・・・・!」
満身創痍の体で絞り出すように言いながら、サキュバスは一つだけ勝利し得る策を組み立てていた。あまりにも不完全で、穴だらけな策。しかし、彼女はそれに全てを賭ける。
「いいだろう!その首、頂くぞぉっ!」
ブラッドトロールが踏み込む、その瞬間。足元に転がっていた右腕が、膨れ上がり爆発した。かつて自身が喰らった、サキュバスの魔術。ブラッドトロール自身にダメージは殆ど無いものの、爆発によって抉れた地面を踏みしめたことで体勢を僅かに崩す。と、
ざくっ
何かが、肉に突き刺さる音が響いた。
「ぐごっ!?」
鋭く尖ったサキュバスの爪が、ブラッドトロールの喉に突き立てられている。爆発と同時に突撃したサキュバスは、かつて自身が喰らった肉体を爆発させる魔術によって、ブラッドトロールに僅かな隙が生まれることに賭けた。狙うのは、再び喉。残り少ない体力を振り絞って放たれた渾身の一撃は、巨体の喉を深々と抉っていた。が、
「ぐぶぅっおぉぉぉぉぁぁぁぁぁっっ!!」
喉と口から血を噴き出しながらも、ブラッドトロールは強引にサキュバスを振り払う。この程度では、高い生命力を持つトロール種を殺すことは出来ないようだ。吹き飛ばされ、地面を転がるサキュバス。何もかもを賭けた攻撃を凌がれ、最早成す術は無い。
「っ・・・・・・ま、だ・・・・・・!」
それでも、彼女は立ち上がった。力の入らない体を無理やりに動かし、血を噴き出しながらも膝をつかない巨体を見据える。
「ゼェー、ゼェー・・・・・往ぐぞぉぉぉっぉぉぉぉぉぉ!!!!」
喉を片手で押さえながら、ブラッドトロールがもう片方の手で大剣を振りかざす。先ほどに比べれば鈍いが、十分に速い動き。しかし、サキュバスは臆する事無く突っ込んだ。
「がぁぁぁぁぁぁっ!!!」
絶叫と共に振り下ろされた大剣を掻い潜り、再度肉薄する。尻尾を切断された時のように強引な膂力で大剣が跳ね上がるが、その動きを予測していたサキュバスは跳ね上がる勢いに合わせて跳んだ。足裏を抉られながら、大剣の速度が合わさりサキュバスの肉体は加速する。
「そこっだぁぁぁぁぁ!!」
斬撃の勢いを利用して放たれた手刀が、血の噴き出す喉に再び突き込まれた。ブラッドトロール自身の膂力が上乗せされた一撃はさらに深く喉を抉り取り、その先にある脊椎まで辿り着く。突きの勢いが失われた中、サキュバスは脊椎を手で掴んだ。全霊の力を込めて、握り潰す。
「っが、ごぉっ!!!」
ブラッドトロールがサキュバスを引き剥がそうとするが、彼女は手を離さない。引き延ばされた左腕が軋み、悲鳴を上げる。そのまま引き千切られる寸前、
ごきり
骨がひしゃげ、折れる音が響いた。ブラッドトロールの肉体は力を失い、崩れ落ちる。血まみれの左腕を引き抜いたサキュバスは、同じく地へと倒れ込んだ。もう、指一本も動かせない。
「・・・・・・う・・・・・・」
霞む瞳に、ブラッドトロールの顔が映った。血に塗れ、凄惨な様子だというのに、その表情はどこか満足そうに見える。
「・・・・・・・・・・・・っ」
羨ましい。サキュバスは、遠のいていく意識の中、ふと思った。自分は、また死に損なったのだ。
慌ただしいような喧騒が微かに聞こえてくる。切羽詰まった響きのそれは、しかしどこか懐かしさを覚えるものだった。
「消毒液と包帯足りないぞ!どうするんだ!?」
「傷口を松明で焼いて服を包帯代わりにしろ!ポーションの在庫はどれくらいある!?」
「残り二十本切りました!このままだと・・・・・・!」
サキュバスは立ち上がろうとして、体が動かせないことに気付く。うっすらと目を開けて確認しようとするが、首を動かすことすらままならない。
「こ、こ、は」
吐息を漏らすように、微かに呟いた。と、近くに待機していたのか誰かの声が聞こえた。
「目を覚ましたんですか!?よかった・・・・・・!」
覗き込んでくる顔。無精髭を生やし、深い皴をたたえたその顔は、どこかで見たような気がする。緩慢に記憶を漁るが、中々思い出すことが出来ない。
「う・・・・・・」
「だ、駄目です!無理に動かないでください!今でこそ傷は塞がっていますが、いつ死んでもおかしくない重傷だったんですよ!?待っていてください、今水を持ってきますから!」
身じろぎするサキュバスに言い、男は早足でどこかに歩いていった。人間。そう、人間だ。人間に話しかけられたのは、いつ振りだろう。
「・・・・・・」
限界まで目を動かし、周囲を確認する。粗末な布で貼られた、小さなテントのようだ。意識が覚醒していくと共に伝わってくる全身の激痛を味わいながら、彼女は考える。どうして人間がここに?さっきの男は、何故自分を怖がらないのだろう。そもそも、ここはどこなんだ。
「お待たせしました。少し、失礼しますね」
男が戻ってきて、手に持っている吸い飲みを口に当ててくる。僅かに湿らせる程度の速度で、ゆっくりと水が口の中へと入ってくる。痛む喉を動かして、少しずつ飲み込んでいった。美味しい。
「それにしても、本当に良かった・・・・・!恩人を、助けることが出来て」
男の言葉に、サキュバスはふと思い出した。どこかで見た様な男。彼は、あの時オーガに殺されかけていた男性だ。
「しかし、貴女様は・・・・・・いえ、なんでもありません。戦場近くではありますが、ゆっくりと休んでください」
「ん、ぐ・・・・・・」
聞きたいことはいくらでもある。だが、声もろくに出せない状況では難しいだろう。大人しく水を啜りながら、彼女はもどかしいながらも休むことにした。
半日後。サキュバスの生命力故か、あるいは執念の力か。上半身を起こすことくらいなら出来るようになっていた。だが、ブラッドトロールに切断された右の翼に腕、尻尾は再生していない。精気を摂れば治ると本能が訴えかけてきたが、心の奥へと封じ込めた。たどたどしい言葉で男に現状を訊ねると、想像もしていない答えが返ってくる。
曰く、現在人間の軍隊が魔物の領域へと大規模に侵攻しているということ。この場所は戦場の後方で、負傷者の治療に当たっているということ。サキュバスが意識を失ってから、三日が経過しているということ。斥候を出した時に彼女を見つけ、保護したこと。と、
「何故、俺を助けた?」
「・・・・・・ここの部隊の人間の多くは、あの時貴女様が助けてくれた集落の者なのです。反対も多かったのですが、どうしても放っておくことが出来ず・・・・・・」
その返答に、サキュバスは胸が詰まるような感覚を覚える。あの時の、人間達。自身が助けた者達が、今度は助けてくれたのか。この身は、死にかけの魔物だというのに。
「それに、噂もありましたから。魔王の領土で、魔物相手に戦い続けているサキュバスがいると。もしかしたら貴女様かと思っていたのですが・・・・・・」
伺うような男の視線に、彼女は曖昧に頷いた。話を逸らすように訊ねる。
「・・・・・・戦況は?」
「詳しくは分かりませんが・・・・・・一進一退といったところの様です。幸い、最前線にはグレン様たちがいますから。あぁ、グレン様というのは勇者一行のメンバーの一人で・・・・・・」
「っ!」
その名前を聞いた瞬間、サキュバスは目を見開いた。彼らが、戦場にいる。かつて仲間だった、かけがえの無い戦友の彼らが。
「あっ、待ってください!まだ立ち上がっては・・・・・・!」
激痛を無視して、サキュバスは立ち上がった。男を押しのけるように粗末なテントを出て、周囲を見渡す。慌ただしく人間達が動き、負傷した兵士達を治療している。精を求める衝動が、凄まじい勢いで湧き上がってきた。
「黙っていろ」
呟いて、彼女は衝動を抑え込む。狂おしく暴れる本能を無視して、男に訊ねた。
「戦場の方向は?」
「まさか、向かうつもりですか!?止めてください、死んでしまいますよ!?」
「いいから、教えてくれ」
鬼気迫る様子の彼女に、男は気圧される。殺気に似た気配に震えながら、しかし毅然と言い返した。
「だ、駄目です!その体で行っても死ぬだけです!どうか、考え直してください・・・・・・!」
悲痛な表情で懇願する男。確かに、彼の言うことは事実だろう。むしろ、魔物である彼女が戦場に向かったところで混乱の種になりかねない。しかし。それでも。
「頼む。教えてくれ。俺は、これ以上仲間を失いたくないんだ」
深々と頭を下げ、頼み込む。事情の知らない男は、悲痛にも見えるその姿に何も言えなくなってしまった。と、
ワァァァァァ・・・・・・
遠くから、風に乗って微かな喚声が聞こえてきた。大軍と大軍がぶつかる時の、鬨の声。
「あちらかっ・・・・・・!」
「ま、待ってください!」
男の引き留めようとする言葉を背に受けながら、サキュバスは走り出した。人間として。勇者として。何より、彼らの戦友として。使命を、果たす為に。
戦場と思われる場所から大きく迂回して、サキュバスは走り続けた。そのまま突っ込むのは混乱を生み出すだけだ。可能ならば、魔物の軍勢の側面に回りたい。癒え切らず、未だに満身創痍の体を疾駆させながら彼女は思考を回していく。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・」
四肢が鉛のように重い。ずっと精を取っていなかった餓えと渇きが、久方振りに人間と会ったことからぶり返している。何もかもが最悪だ。
「ぐぅっ・・・・・・!」
全身の激痛が、より酷くなる。息をする喉も、肺も、限界を訴えてくる。視界が霞み、意識が遠のく。それでも、彼女は走り続けた。
「っあぁぁぁぁぁっ!」
叫びを上げ、無理やり意識を引き戻す。魔物に気付かれるかもしれないが、構うことは無い。遠くから聞こえる喚声の方向へと、彼女は全力疾走した。
視界に軍勢が映った辺りで、サキュバスは地に伏せて息を整える。霞む目を強引に凝らして戦況を伺うと、どうやら人間の軍がやや押しているようだ。魔王軍の前衛を重装の騎士達が突き崩し、そこから歩兵がなだれ込もうとする。しかし魔王軍もすぐに陣形を立て直し、再び膠着状態に陥っていた。こうして、ジリジリとした押し合いを繰り返しているのだろう。
「ふぅぅぅ・・・・・・」
深呼吸をして、限界をとっくに超えている体を少しでも休める。同時に、ただでさえ優秀なサキュバスの視力で、多少霞んだ視界でも状況を把握していった。
「メリア達は・・・・・・駄目だ、見つからない」
現状、人間軍も魔王軍も正攻法でぶつかり合っている。この状況では何か出来ることは無い、と判断し、サキュバスは地に伏せたまま這いずって、前方にある岩陰へと移動した。岩陰に身を隠すと、少しだけ緊張を解いてぐったりと岩にもたれかかる。
「杞憂なら、それに越したことは無いんだ」
呟いて、何も起きないことを祈りながら休息を取り始めた。
僅かな時間微睡んだサキュバスは、戦場からの音に目を開け、岩陰からそろりと覗く。魔王軍が巨大な魔物達の群れを前線に投入したようで、騎士達がそれを食い止めている。援護すべきか。そう考えていると、太陽の光を何がが覆い隠した。
「っあれは・・・・・・!?」
見上げた先にあるもの。それは、雄大な翼と頑健な四肢、たくましく伸びた首を持つ魔物だった。ドラゴン。魔物の中でも、最上級に位置する存在。人間の数十倍はあるであろう体躯で、人間の敷いている陣へと降りてくる。
「不味いっ!」
人間軍は、パニックになりかけながらも持ちこたえようとしている。だが、地上に降りるだけで数百の兵士を踏み潰すようなドラゴンには敵わない。サキュバスが飛び出そうとした所で、ドラゴンの頭に輝かしい雷光が放たれた。怯んだ隙に、前足を巨大な斧が斬りつける。更には、ドラゴンの体を駆け上がり目に短剣を突き立てた。ライに、グレン、メリアだ。
「っ!」
咄嗟に、サキュバスは思考を巡らせた。人間の軍は総崩れになり、撤退を開始している。メリア達はドラゴンと戦っているが、勝利できるかは分からない。仮に、メリア達がドラゴンを食い止めたとしても、他の魔物に追撃されれば人間軍はひとたまりもない。夥しい数の死者が生じるだろう。すなわち、サキュバスの取れる選択肢は二つ。メリア達に加勢するか、人間達を追撃する魔王軍を迎撃するか。
僅かな時間、彼女は迷う。その間にも状況は進んでいき、ドラゴンが火炎を吐き出した。ライの魔力障壁に防がれ被害は無いようだが、魔力が途切れれば蹂躙されるだけだろう。さらに、ドラゴンとメリア達を迂回して魔王軍が撤退する人間軍を追撃し始めている。このままでは。しかし、どうすれば。
「・・・・・・クソッ!」
サキュバスは、追撃の為縦長に伸びた魔王軍の横に突っ込んだ。魔力を纏わせた手刀で、ゴブリンやオーク、ボガードの胸を切り裂き、首を刈り取っていく。陣形が乱れると同時に、サキュバスは声の限り叫んだ。
「お前たちの相手はこの俺だ!!裏切者の首が欲しいのなら、かかってこい!!!」
見え透いた挑発をしながら、魅了魔術を広域にかける。少しでも追撃の手を緩めさせる為に、あらんかぎりの魔力を注ぎ込んだ。と、
「がぁぁっ!」
石柱の様な槍を振り回し、牛頭の怪物・・・・・・ミノタウロスがサキュバスに襲い掛かった。魅了の掛かりが浅いのか、あるいは効き過ぎたのか。ふらつく体で薙ぎ払いをかわし、間髪入れず腹部に手刀を叩きこむ。分厚く強靭な筋肉を貫通した手で内臓を引きずり出し、反撃される前に後ろに飛びのく。ミノタウロスは何歩か追ってきたものの、力尽きて倒れ込んだ。
周囲の魔物達がざわめき、やがて怒号となる。正気を保っている魔物達は、満身創痍のサキュバスに殺到した。体がバラバラになりそうな感覚の中、サキュバスは煽るように叫ぶ。
「そうだ、いくらでも来い!まとめて相手になってやる!」
一体でも多く、引き付ける。魅了にかかった魔物と、サキュバスに襲い掛かる魔物。追撃に出たはずの魔王軍は混乱に陥り、その隙に人間の軍がなんとか離脱していった。その代償として、彼女は一人、敵陣の中で魔物に囲まれている。
次々に襲い掛かってくる魔物の攻勢を、サキュバスは辛うじて凌ぎ続けた。魅了にかかっていない魔物の多くは手練れであり、攻撃を避け切れない彼女の体に浅い傷が無数に付けられていく。
「うぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉっっ!!」
己を奮い立たせるように咆哮を上げ、戦い続けるサキュバス。魔力も、気力も、全てを搾り尽くし魔物を倒し続ける。だが、それも長くは続かなかった。津波のように押し寄せる魔物達に抗いきれなくなった彼女は、圧倒的な数の力で組み伏せられ、首筋に剣を構えられる。
「気狂いが暴れおって!死ね、死んでしまえっ!」
オークが叫び、剣を振り上げた。数人の魔物に取り押さえられているサキュバスには抗いようも無い。それでもオークを睨む彼女は、最後まで勇者であることを貫いた。そして。
「させんぞ、雑魚共がぁっ!」
雄叫びが響き渡り、サキュバスを取り囲んでいた魔物達が薙ぎ払われる。巨大な斧が旋風のように振り回され、あっという間に魔物の群れを蹴散らしてしまった。豪快かつ流麗なこの動きを、サキュバスは知っている。
「グレ、ン・・・・・・」
さらに、彼女の体が抱え上げられた。グレンが薙ぎ払った魔物の上を駆け抜けたメリアが、サキュバスを担いで戦線から離脱する。ドラゴンの返り血だろうか、血塗れのメリアの顔をサキュバスはぼんやりと見上げた。
「メリア・・・・・・なんで・・・・・・」
「話は後!舌噛むよ、口閉じて!」
複雑そうな表情を浮かべながらメリアが叫ぶ。行き先を遮る魔物達に、ライが放った水で出来た流星が降り注ぎ道を開いた。何故、メリア達が自身を助けるのだろう。疑問に、困惑。何も分からないまま運ばれているサキュバスの目に、遠くに倒れ首をもがれているドラゴンが映る。どうやら、三人はサキュバスの記憶以上に強くなっているらしい。
グレンの足止めにライの支援もあり、サキュバスは無事に戦場を離脱することが出来た。人間の軍隊も魔物の追撃による被害は最小限だったらしく、後方で立て直し防御の陣を敷いている。サキュバスはメリアによる治療を受けながら、無理を押し通したせいで動かない体のまま横たわっていた。
何を言えばいいのか分からない。メリア達にとって、自身は勇者を殺した怨敵のはずだ。何故、魔物である自分を助けたのか考えようとしても、疲労と消耗のせいで頭が回らない。
「よし。とりあえずは、これで大丈夫」
包帯でぐるぐる巻きにされながら、サキュバスはメリアに向けて呟いた。
「メリア。君は、どうして」
たどたどしい言葉に、メリアは微妙な表情を浮かべる。何を思っているのか、今のサキュバスには想像すら出来ない。
「・・・・・・分からない。お前は、アルトを殺した奴のはずなのに。助けなきゃって思ったの」
ボソボソと呟き、メリアは立ち上がった。睨むような視線で見下しながら言う。
「今は休んでて。殺すかどうかは、後で決めるから」
「待って、ゴホ、ゴホッ!」
上半身を起こし引き留めようとするが、血の混ざった咳を吐き動きを止めてしまう。メリアは複雑そうに顔をしかめながら、懐から小瓶を取り出した。
「お前には、必要無いと思うけど・・・・・・好きにして」
サキュバスに小瓶・・・・・・回復用のポーションを放って、メリアは背を向けて歩いていってしまう。咳き込みながらポーションを受け取ると、彼女は呆然と離れていくメリアの背を眺める。一体、どういうことなのだろう。メリアは、サキュバスの中身に気付いてるわけでは無いようだが・・・・・・。
今のサキュバスにはメリアを追う気力も無く、仕方なく手元に残されたポーションの小瓶を眺める。恐らく、これを必要とする人は他にも沢山いるだろう。気持ちだけ受け取ることにして、サキュバスは横に小瓶を置いて横になった。敷かれているボロ布の感触を感じながら、回らない頭で考えようとする、が、
「っ・・・・・・」
疲労にダメージ、消耗が押し寄せ、眠気となってサキュバスを襲う。まともに現状について思考することも出来ないまま、彼女は泥のように眠りについた。
次にサキュバスが目覚めた時、そこはどうやら馬車の中だった。絶え間無い揺れを感じながら、彼女はゆっくりと上半身を起こす。左手には鉄製の手枷をはめられて、柱か何かに括りつけられていた。
「ん、ぐ・・・・・・」
右腕と、右翼の両方が痛む。魔力や精気が足りないのか、再生はしていないようだ。馬車の中には武具や矢が積まれている。と、
「おう、目が覚めたか。もうちっと大人しくしてろよ」
御者台の方から声が聞こえた。酒焼けした低い声に、サキュバスは覚えがある。
「グレン、か?」
「はっ、俺のことを知ってるのか。光栄だな、まったく」
グレンは皮肉げに言い、御者台からちらりと振り返る。小窓越しに視線が合うが、サキュバスは何を言えば分からない。
「まぁ、今しばらくは大人しくしておけよ。もうすぐ前線基地に着く。そこで、てめぇの事情はしっかり聞かせてもらうさ」
グレンの言葉に、サキュバスは口をつぐんだ。今ここで事実を説明しても、グレンにしか伝わらないし信用される可能性も薄い。ならば、後でまとめて説明した方が混乱は少ないだろう。
「・・・・・・分かった」
返事をしつつ、サキュバスは自身の体を確認する。傷は、ブラッドトロールに斬り飛ばされた右腕に翼、尻尾以外は癒えているようだ。そして、サキュバスとしての衝動は変わらない。今会話をした、新鮮でたくましい雄の精気が欲しいと訴えかけてくる。
「うるさい、静かにしていろ」
呟いて、己の体を抱き締めた。渇いて渇いて仕方の無い本能は、未だに体の中で暴れ回っている。しかし、それを鋼の意志で抑え込み、彼女は訊ねる。
「前線基地に着くのは、後どれくらいだ?」
「日が落ちるまでには到着する。なんだ、何か不都合があるのか?」
「・・・・・・いや。大丈夫だ」
小窓から差す日差しを見る感じ、今は夕方だろう。それならば、耐えられる。サキュバスと入れ替わってから長い間付き合うことになった体、その本能や衝動を勘案しながら、サキュバスは人知れず頷いた。自分は、今更どうなろうと構わない。しかし、守るべき人間に迷惑をかけてはいけない、と。
「そうかい。それならいいんだがな・・・・・・」
こちらを訝しんでいるのか歯切れ悪く呟くグレンに、サキュバスは何も言わなかった。今の彼らにとっては彼女は敵なのだ。今事実を言ったとしても、混乱させるだけだろう。歯痒い思いを抱きながら、サキュバスは思う。真実を話したとして、彼らは信じてくれるだろうか?
「・・・・・・」
無理だ。魂が入れ替わる魔術など、信じられるわけが無い。サキュバス本人ですら、自身のことが無ければ信用することなど出来ないだろう。疼く体で、彼女は馬車の揺れに身を任せた。この後、仲間達に殺されるのも悪くはないだろう。魔物に殺され、慰み者になるよりは幾分かマシだ。
しかし。それでも、もし。もし、信じてくれたのなら。あの頃に、戻れるだろうか。使命を胸に、共に旅を続けていたあの日々に。都合のいい未来を夢想しながら、サキュバスは再び目を閉じる。前線基地に着くまでの短い間、彼女は抜けない疲労を少しでも回復させようと微睡んだ。
程なくして前線基地に到着した。馬車を下ろされたサキュバスは、メリア達に監視されながら石造りの小部屋へと通される。粗末な椅子に座らされ、こじんまりとしたテーブル越しに三人と向かい合った。
「お前の知ってること、全部話して。なんで、あんなことをしたのかも」
固い声でメリアが言う。その目つきは厳しく、殆ど睨みつけているようだ。サキュバスは、痛み疼く体のまま、ゆっくりと話し始めた。到底信じられない、作り話のような出来事を。
長い、長い間サキュバスは語っていく。荒唐無稽な話に激昂したメリアをグレンが押さえつけ、ライがしてくる質問にも可能な限り詳細に答えた。喉がかすれ咳き込んだ時には、差し出された水で湿らせながら、入れ替わった時のことから今までのことを全てさらけ出していく。
「───これで、全部だ。ゴホッ・・・・・・。信じてもらえなくても構わない。俺だって、こんなことを聞かされたら魔物の狂言だと警戒するから」
話し終えた後。サキュバスは、どこか清々しい気分で椅子の背もたれに体を預けた。自分に出来るのは、ここまでだ。後は、仲間が下す判断に従う。
「・・・・・・信じられるわけ、無い。そんな、おとぎ話みたいなこと・・・・・・」
俯いたまま、メリアはぼそぼそと呟いている。怒りや驚愕、縋るような希望の混ざった表情だ。
「ライ。お前の見解はどうだ」
「・・・・・・魂の入れ替わりは、理論的には可能です。ただ、現代の魔術で再現することは・・・・・・うーん・・・・・・」
「そうか・・・・・・だが、うむ。俺は信じたいな」
グレンの言葉に、メリアとサキュバス双方が顔を上げ彼を見た。こめかみの辺りを指でごりごりと掻きながら、グレンは続けて言う。
「可能かどうかは置いといて、辻褄は合う。それに何より、アルトならこうするだろってことしかしてないからな、こいつ。他の奴らが言ってる通り、こいつはかなり長い間魔物相手に戦い続けてる。それもたった一人で。他の魔物やこいつと会った人間に聞き取りをした通り、人間の為に死にかけながらも進み続けてる。救いのねえ無限の苦しみの中、それでも自分を曲げないのはアルトそのものだろ」
サキュバスを正面から見据えて、グレンは珍しく流暢に話した。涙がじわりと溢れ出し、サキュバスは手で顔を覆おうとする。しかし、片手では覆いきれない。零れ落ちる涙は、頬を滑り落ち際限無く流れていく。
「・・・・・・僕も。不思議、だったんです。この方と喋っていると、まるでアルトさんと喋っているみたいで。雰囲気もそっくりですし・・・・・・信じても、いいんですか?」
おずおずと言いながら、ライもサキュバスを見つめる。嬉しい。何故か分からないが、二人はサキュバスをアルトだと認めてくれているようだ。かつてない安堵感に襲われながらも、サキュバスは嗚咽混じりに呟いた。
「・・・・・・そんな、簡単に信じるの、ひっく、騙されても知らないぞ。魔物には、記憶と見た目を真似する奴もいるんだ」
「はっ。そういう奴は、もっと卑屈な雰囲気を漂わせてるもんだ。大体、さっきだってお前がいなきゃあヤバかったしな。仮に騙すっつっても手が込み過ぎてるってことは、俺にでも分かるぜ、アルト」
「アルトさんが長い間魔王の領土で誘引してくれたおかげで、ここ一年の人間への被害はかなり抑えられているんです。ずっと、人間の為に戦い続けてくれていたんですよね、アルトさん」
「───っっ!!!ぐ、ぅぅぅぅっ・・・・・・!」
呻き声を漏らしながら、サキュバス・・・・・・アルトは俯いた。涙が溢れて、止まらない。感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、わけも分からずアルトは号泣した。
「・・・・・・そんな。二人とも、信じるっていうの?こいつは、アルトを殺したのに」
ただ一人。メリアは納得していないという様子で首を振る。
「だって、アルトは死んだんだ。こいつが、殺した。絶対に許さない、復讐してやるって、今まで・・・・・・!」
「少し落ち着け、メリア。確かに疑うならいくらでも疑えるけどよ、だが」
「うるさい!そんな、そんなこと、分かってる!でも、どうして、そんな」
支離滅裂になりながら、メリアは号泣しているアルトに目をやった。片方が千切れた翼、途中で斬られた尻尾、隠すことは不可能な巻き角。異性を誑かすであろう美麗で淫靡な顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。それだけでなく、彼女の体のあちこちに古傷が見える。失われた右腕だけではなく、戦い続けてきたからこその大小様々な傷。癒えたとはいえ、サキュバスの瑞々しい肌には似合わない傷は、アルトが歩んできた道のりをこれ以上無く表していた。と、
「めり、あ」
酷い顔で、アルトがメリアを見る。弱々しく、女々しい表情。アルトらしくないその様子に、メリアはふと思い出した。初めて彼と会った、あの時のことを。
大規模な流行り病で沢山の死者が出た年。スラム街の一角で、彼は泣いていた。彼はスラム街を必死に駆け回り、流行り病に罹った者の治療をしていたのだ。当初、スラム街の住人達の反応は冷ややかで、どうせ偽善か、あるいは何かに利用しようとしているのだろうと思う者が大半だった。しかし、昼夜を問わず奔走し続けるアルトの姿に、徐々に彼らの認識も変わっていく。この青年は、本当に自分たちを救おうとしていると。
アルトの尽力もあり、スラム街の死者は大幅に抑えられた。住人から感謝されたアルトは、しかし浮かない顔だった。深夜、人目のつかない時間に集団墓地を訪れ、彼は涙を流す。救えなかった、大勢の人たちを思いながら。
その時だ。盗賊ギルドからの任務で近くを通りかかったメリアが、アルトを出会ったのは。スラム街で治療の為に駆けずり回っている変わり者。彼のことはそう思っていたメリアだったが、とてもそうとは思えない、子供の様な泣き顔を見てしまった。一人にしたら、火にくべた氷のように消えてしまう。そう思ったメリアは、咄嗟に泣きじゃくるアルトを抱き締めた。彼の行いを、肯定するかのように。
同じだ。あの時と、同じだ。縋りつくような、弱く脆い視線。抱き締めねば消えてしまいそうな、不安に溢れた表情。ここでメリアがアルトのことを信じなければ、目の前の彼女はかき消えてしまうかもしれない。メリアは立ち上がり、泣き続けるサキュバスの体を、アルトを抱き締めた。
「あ・・・・・・」
「あぁ、もう!アルトは、いつもそう!一人で勝手に抱え込んで、潰れそうになって・・・・・・!そんな顔を知ってるのは、私達だけだから!」
腕に力を込めて、強く強く抱き着く。分かった。魂が、分かってしまった。彼女は、このサキュバスは、アルトなのだと。
「メリア、なんで」
「なんでも何も無い!馬鹿、馬鹿馬鹿!うぅぅぅぅぅ・・・・・・!」
ぼろぼろと、メリアも涙を零し始める。抱き合いながら、二人はみっともなく泣き続けた。離れていた時間を、種族の断絶を、致命的なはずだった溝を埋めるかのように。
「で、結局どうするんだ?俺らはともかく、周りにも説明するのか?」
ベッドが並ぶ部屋。あてがわれた宿舎の中で、グレンは言った。ベッドの一つにはアルトが寝かされている。泣き疲れ、眠った彼女をここまで運んできたのだ。
「僕達は、アルトさんのことをよく知っていたので信じることが出来ましたけど・・・・・・他の方々にそれを求めるのは、酷かもしれません」
「私も、最初は信じられなかったから。やっぱり、無理なのかな」
ライの言葉に頷いて、メリアは暗い表情で言う。恐らく、アルトが前の様に勇者として認知されるのは不可能だろう。それ以前に、人間達に受け入れられることすら難しいかもしれない。
「ま、他の奴らから認められなくても大丈夫だろ。アルトはそういうの気にするタチじゃあないしな。俺らが一緒にいたら、お偉いさんも納得するしかない。というかさせる」
「それは、そうかもしれませんけど・・・・・・今のアルトさんを、旅に連れていっていいのかな、って」
ライが、悲しげな視線を眠っているアルトへ向ける。満身創痍、その言葉が相応しい程に傷ついている彼女。複数の部位が欠損までしているというのに、まだ戦わせるのか。
「・・・・・・辛いけど。それでも、アルトはきっと戦えない方が苦しいと思う。起きたら、本人に聞いて、相談しよう」
メリアの言葉に、残りの二人は頷いた。と、眠っていたアルトが呻く。
「ぅ、ん・・・・・・ぐ、ぅぅぅ・・・・・・!」
「っ、おい、どうした、大丈夫か?」
「ま、待ってください!」
悶え苦しみ始めたアルトの肩を揺すろうとするグレンだが、ライに止められる。
「どういうこと!?ライ、何か知ってるの!?」
「い、今のアルトさんはサキュバスです。ずっと、種としての本能を抑え込んで生きてきた。もしかしたら、僕達に正体を明かせたことで、安心しちゃって堪えきれなくなってるのかも・・・・・・」
話している内にも、アルトは全身をびくびくと震わせ始めている。尋常では無い量の汗をかき、甘い匂いが部屋を満たしていった。生き物を発情させる、魅惑の香気。
「だったらどうすりゃいい!アルトを満足させろってか!?」
「今、精神安定の魔術をかけます!それで駄目だったら、ど、どうしよう!?」
「落ち着いて!私は外の人払いをしてくるから、持ちこたえて!」
メリアは部屋を飛び出し、周囲に人を近付かせないように追い払う。ライは精神安定の魔術をアルトに重ね掛けしていくが、効果は感じられない。やがて、彼女は上半身を起こしながら目を開いた。
「おい、アルト!正気か、それとも本能に呑まれてるのか!」
グレンの問いかけに、アルトはゆっくりと彼の方を向く。爛々と光る瞳に、喜悦の笑み。魅了魔術が部屋全体に放たれ、グレンとライに襲い掛かった。
「いけないっ!」
ライが魔力の障壁を作り出し、辛うじて魅了魔術を防ぐ。どうやらアルトの魔力は枯渇しかかっているようで、魅了はその一度だけだった。アルトはハッと意識を取り戻すと、苦しそうに胸を押さえる。そして、
「すま、ない・・・・・・!二人とも、離れてくれっ・・・・・・!」
息も絶え絶えに呟き、うずくまる様に自身の体を抱き締めた。
「そんな状態のお前を一人にしろってか、おい!?」
「今の、俺に、男性は獲物にしか映らない・・・・・・はぁっ、俺が堪えてる内に早くっ!」
どうすることも出来ずに立ち尽くすグレン。ライは辛そうな表情を浮かべながら、とある魔術を行使する。
「リ・グ・トゥレアンっ!すみません、アルトさん!」
初級の睡眠魔術。本来、魔術に対して耐性の高いサキュバスの体は、しかしライの高い魔力と技量を以て、眠りへと導かれていった。ゆっくりとベッドに倒れ込み、意識を失うアルト。と、ほぼ同時にメリアが戻ってくる。
「大丈夫!?」
「は、はい・・・・・・辛そうだったので、魔術で眠らせました」
そう言いながら、ライは眠り込んだアルトを悲しげに見つめた。
「もっと、僕に力があれば。アルトさんの苦しみを癒すことが出来るのに・・・・・・ごめんなさい」
「そう言わんでくれ、ライ。俺なんざ突っ立てるだけだった。クソッ・・・・・・」
「・・・・・・」
重苦しい空気が三人を包む。メリアは唇を噛んで、絞り出すように呟いた。
「・・・・・・ねぇ、二人とも。相談が、あるんだけど」
視線を向けてくる二人に、メリアは続けて言う。
「きっと、アルトは精を吸いたくない。でも、私はアルトを助けてあげたい。私が、男ならいくらでも精気をあげられるけど、そうじゃないから。二人に、頼むしかない」
「俺たちが、アルトに精を与えろってか?しかし、サキュバスの本能が増しちまうんじゃ」
「その可能性はある。でも、アルトの話だと精を吸ってなくてもどんどん本能が強くなっていたみたいだから。それなら、いっそ・・・・・・」
表情を苦しげに歪めながら、メリアが囁くように話す。痛々しい様子に、ライが言葉を遮った。
「メリアさん、大丈夫です。それがアルトさんを救う手段なら、覚悟は出来てます。でも、その前に魔物の捕虜だった人たちとかに聞き込みをしましょう。僕達の知らないサキュバスの習性を、知っている方がいるかもしれません」
「・・・・・・そうだな。アルトの為ならいくらでも構わねえが、先に確かめた方がいい。前線基地にゃあ兵士や指揮官、学者や魔術師もいる。情報を集めて、そこから考えるとしようや」
そう言ってきてくれるグレンとライに、メリアは心底申し訳なくなった。やはり、自分は冷静では無いのだろう。深々と頭を下げて、謝罪する。
「ごめん。先走り過ぎた」
「気にすんな、俺も似たようなもんだ。まぁ今日はもう遅い。早めに寝て、朝一で聞き込むか」
「はい、そうしましょう。僕達にも休息は必要です。・・・・・・それと心苦しいですが、アルトさんには情報が集まるまで眠っていてもらった方が、お互いの為だと思うんですが」
また衝動が暴走すれば、三人だけではなく、何よりもアルト自身が心を痛めるだろう。それが分かっているグレンとメリアは頷き、今日のところは休息を取ることにした。
「・・・・・・ん・・・・・・」
体がだるい。ぐわんぐわんと頭が回るようで、寝ているはずなのに浮遊感に包まれる。
原因は分かっている。サキュバスの本能、男の精を求める激しい衝動が暴れているのだ。この一年、何度もこういうことはあった。その度に己を戒め、心の奥へと情欲と食欲を押し込めてきた。だが、今回のこれは前の比では無い。かけがえの無い仲間達に信じてもらえて、気が緩んでしまったのだろうか。
「ぅ、ん・・・・・・」
艶めかしい吐息。自分が出しているものだと自覚して、嫌になる。アルトはゆっくりと目を開き、周囲を確認しようとした。確か、サキュバスの本能が抑えがたく湧き上がり、グレンとライに襲い掛かろうとして・・・・・・。
「あれ・・・・・・」
そこは、宿舎の部屋では無かった。野営地の様な場所で、彼女は焚き火の近くに寝かされている。夜空には星が瞬き、月の光が野営地を照らしていた。戸惑いながら体を起こすと、焚き火に小枝を放り込んでいたグレンが気付く。
「お、目が覚めたか。気分はどうだ、アルト」
「グレン・・・・・・今は、大丈夫だ。ここは?」
「前線基地近くの野営地だ。話を通して貸し切りにしてもらってる」
グレンの言う言葉の意味は分かるが、理由が分からない。胸の内から湧き上がる微かに疼きを抑え付けながら、アルトは訊ねる。
「・・・・・・何故、こんなところに?魔物が攻めてくる兆候でもあったのか?」
「いや。前回の決戦で魔物側も相当消耗したろうからな、斥候からの連絡じゃ、俺らと同じように守りを固めてるだけみたいだぜ」
「そう、か。なら、なんで・・・・・・?」
疑問が解消されないまま、さらに問いかけようとしたところでライとメリアが帰ってくる。二人は体に付いた葉や汚れを落としながら、焚き火の周りに座り込んだ。
「人避けの結界、貼り終わりました。あ、アルトさん。起きたんですね」
「アルト、調子はどう?苦しくない?」
「あ、あぁ。今の所、落ち着いてるみたいだ」
「よかった・・・・・・あの、ごめんなさい。ここ三日間程、僕の魔術で眠ってもらっていたんです。細心の注意を払いましたが、何か異常があったらすぐに伝えてください」
ライが頭を下げる。状況は理解したアルトだが、事情の方は全く分からない。三人を見回しながら言う。
「ライが謝る必要は無いよ。俺を鎮める為にやってくれたのは分かっている。それで、だ。なんで、わざわざ野営地に来たんだ?」
「あぁ、まぁ、そいつはな。俺らも俺らで、色々考えたんだよ。アルトのその、肉体の衝動をどうにか出来ないかってさ」
「他の方に聞き込みをして、色々とサキュバスのことを深く知ることが出来ました。だから、えっと・・・・・・」
グレンとライはどこか落ち着かない様子で言うが、いつもより声量が小さい。その様子を見て、メリアが軽く肩をすくめて言った。
「実はね。アルトに、私達の精を吸ってほしいんだ」
「っ、いや、それは・・・・・・」
目を見開き、動揺するアルト。確かに、サキュバスの体は既に限界を超えている。人間の精を吸わなければ、このまま衰弱していくばかりだろう。だが、しかし。人間を、仲間を、戦友を食料として扱う訳には・・・・・・。
「分かってる。ずっと、ずっと耐えてきたってことは。でも、私達も調べたの。サキュバスの習性や、性質を」
「そ、そうです。えっと、まず、サキュバスの吸精は人間の食事とは少し違って、言ってしまえば豪華な料理みたいな位置付けみたいなんです。普通の食べ物では栄養の吸収が人間に比べて悪いみたいで、逆に精気を吸えば普通の食事はいらない、といった感じで」
「だが、精を吸わないってのは耐えがたい苦痛を伴う。逆に、精を吸ったところで衝動が増していくってことは無いみたいでな。三人で話し合ったんだが、俺らはこれ以上、アルトが苦しむ姿は見たくないって結論が出た」
三人の言葉に、アルトは目を白黒させる。サキュバスの体になりながら、訴えかけてくる本能以外ではこの体を知りようが無かった。三人が話す情報は、殆どが未知のものだ。
「それに、ね。少し効率は落ちるけど、同性の精気も吸えるらしいの。美味しいかは、分からないけど」
三人は、自分の為に餌になろうとしているのか。
「だ、駄目だ・・・・・・!俺は、君たちを食べたくは、っ!」
ぎゅっ。メリアがアルトに抱き着く。潤んだ瞳を向けながら、耳元で囁いた。
「私達が、食べてほしいんだ。これ以上、アルトに苦しんでほしくない。お願い・・・・・・私達の精を吸って」
「う、ぅ・・・・・・!」
アルトは助けを求めるようにグレンとライを見るが、二人も覚悟が決まっている表情で頷いている。どうやら、彼らの意志は固いようだ。
「で、でも、俺は人間で、勇者で」
「関係無い。サキュバスの体でも、アルトはアルトだから。私達と一緒に戦ってきた、頼れる仲間なんだから。助け合うのは、当然でしょ?」
その言葉が、トドメになった。こんないやらしい、穢れた体だというのに三人は受け入れてくれている。アルトをアルトとして扱った上で、手を差し伸べてくれている。限界をとうに超えていた精神と肉体が決壊し、アルトはメリアの唇に吸い付いた。
「んむ、んんんぅぅっ・・・・・・!」
舌を入れながら、唾液を啜る。メリアは口内に入ってきたアルトの舌と自分の舌を絡め合わせながら、そっと彼女を押し倒した。愛おしげに頭を撫でながら、濃厚な接吻を繰り返す。
「むぅっんんんんっ!」
熱い。全身が、悦びに打ち震えている。ずぅっと望んでいたものが与えられ、視界が白む程の疼きが下腹部に溜まっていった。
「よぉし!やるか、ライ!」
「は、はい!僕、こういうのは初めてなので・・・・・・」
グレンとライが近付いてきた。いつの間にか、二人は下半身をさらけ出している。女性の腕程の太さがありそうなグレンの剛直と、見た目通りに可愛らしいライの一物。視界の隅にそれが入った途端、アルトの視線は釘付けになってしまう。
「んっむぅ。ぷはっ!ちょっとグレン、大き過ぎ。本当に挿入るの、それ?」
「今まで散々女を泣かせてきたからなぁ・・・・・・話によりゃ、サキュバスの体はどんなデカさのもんでも受け入れるらしいが」
「・・・・・・最低」
「いや、その冷たい視線やめてくれ。萎えちまうよ」
いつも通りに二人が会話する。きっと、アルトの不安を和らげようとしてくれているのだろう。煽情的な表情に、僅かに優しげな笑みを浮かべてアルトは言った。
「・・・・・・大丈夫だ。うん、大丈夫。来てくれ、グレン」
誘うように足を広げると、既にぐしょぐしょに濡れている股間が姿を現した。女性器はてらてらと輝き、膣の肉が待ちわびるように蠢いている。その様子に、ライは顔を真っ赤にしてしまっていた。
「癪だけど、一番経験あるのはグレンだから。ライと私は、一旦見てよう」
「は、はい!」
「つっても、ここしばらくはご無沙汰だからな。たっぷりと食わせてやるよ、アルト」
「あぁ。頼む」
グレンの、筋肉と古傷でごつごつした体を引き寄せるように片手と両足を絡めるアルト。共に戦場を乗り越えた時に感じるものとは違うたくましさに、子宮が悦んでいるのが分かる。
「いくぞ、痛かったら言ってくれ、んっ!」
「ん、あぁっ!」
ずぶり。グレンのペニスが、挿入ってくる。太すぎるように見えたそれを、アルトの膣は柔軟に広がって受け入れていく。膣内の肉と亀頭が触れ合い、互いにとてつもない快感に襲われた。
「あっあぁぁぁぁぁっくぅぅぅぅぅぅっっ!!?」
「うぉっ、こいつは、ヤバッっ・・・・・・!!」
あまりの快感に腰を止めてしまうグレン。しかし、腰に絡みついた足が逃がさないとばかりに引き寄せた。ずぶずぶと、根本まで無理やりに吞み込んでいく。
「ふぅっはぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんっ!!!」
「なっ吸ってくるっぐぅぅぅぅぅぅっ!!?」
亀頭が子宮に触れた途端、その入り口がまるで生き物のようにぱくりと吸い付いてきた。ただでさえ限界だったところに与えられる刺激で、グレンは堪えきれずに射精してしまう。数か月以上熟成されたチーズの様な精液が膣内にぶちまけられ、子宮に流れ込んでいく。
「これっあぁぁぁぁこれぇっぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
来た、来た、来た!ついに、求め続けてきたものが全身に染み渡る。アルトは脳に直接すり込まれるような快感に痙攣しながら、グレンの精を心ゆくまで味わった。と、
「ひぁっ!?」
「悪いな、挿れただけで出しちまって。まだまだ、満足させてやるからなっ!」
凄まじい量の精を放ったにも関わらず、固さを保ったペニスが動き始めた。愛液と精液でドロドロの膣内を、力強く前後に動いていく。
「あっぐ、うぅぅぅぅんんんんんんん!!!」
「クッソ、名器過ぎるっ!二発目も長く持たんぞこりゃ!」
細い腰を掴み、グレンはアルトの膣内へと突き入れる。一擦りするだけでつま先から頭頂部まで快感が鋭く走り抜け、気を抜くだけですぐに出てしまいそうだ。アルトの表情は快楽に染まり切り、絶叫の様な喘ぎ声を漏らしながらも強請るように腰をくねらせる。下腹部はグレンのペニスでぽっこりと膨れ上がり、突き上げられる度にうねっている。
「ぐれっんっグレンっもっと、もっとぉっ!!!!」
「ぐぅっ!?絞めやがってこのっ、出してやるよアルトぉ!!」
サキュバスの肉体、その快楽に振り回されながら、アルトはグレンに抱き着く。戦友のモノで身悶えし、精を求めて膣で搾り上げる。こんなこと、本当はいけないのに。一年以上抑え続けてきた情欲は、完全に制御が利かなくなっていた。
「そらぁっ!二発目だ、遠慮無く受け取れぇっ!」
子宮の中にまで亀頭が入り込み、再び膨張する。二度目とは思えない量と濃さの、灼熱の精液が子宮に直接叩きつけられた。
「あぁぁっあっぁぁぁぁっぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!」
全てを焼き尽くすような快楽と共に、アルトは絶頂した。精を子宮が呑み込み、全身に染み渡っていく。気持ちよさと満足感、何よりも幸福な感情に包まれて、彼女はグレンを味わい尽くした。
しばらくして。五度目の射精を終えたグレンは、限界とばかりにへたりこんだ。アルトは体液塗れになりながら、敷かれた布の上で大の字になっている。うっとりとした表情で、意識が半分トんでいるようだ。
「げ、限界だ・・・・・・。アルト、満足出来たか?」
「あ、ぅ・・・・・・」
疲労を滲ませたグレンの言葉に、微かに呻いて返事をするアルト。どうにか息を整えた後、呟いた。
「す、ごかった・・・・・・初めてだ、こんなの・・・・・・」
「そうかい、そいつは良かった。張り切った甲斐があるってもんだ」
あぐらをかいて腰を拳で叩きながらグレンは言う。と、
「・・・・・・ちょっと。ライが大変」
「はわ、はわわわわ・・・・・・!」
童貞のライには一連の行為は激し過ぎたのか、茹でたタコのように真っ赤になっていた。ぐるぐると目を回しながら、メリアに支えられている。対するメリアは、多少頬が紅潮しているものの平気そうに見えた。
「ご、ごめん。俺が、あれだけ乱れたせいで」
「アルトは悪くない。それで、どうする?グレンは、限界みたいだけど」
その問いに、アルトはもう十分だと答えようとした。実際、グレンの精気を吸ったことで魔力が漲り、倦怠感や焦燥感、堪えきれない程の衝動は治まっている。それに、こんな状態のライに無理をさせるわけにはいかない。
「ぼ、僕にも出来ます!」
返事をしようとしたところで、ライが叫んだ。明らかにいっぱいいっぱいな様子で、それでもアルトを見つめて言う。
「あ、アルトさんが体を入れ替えられてしまったのは、あの時探知し切れなかった僕にも原因があるんです!せめて、せめて役に立たせてください!」
自責の念で苦しんでいるのは、ここにいる全員が一緒だった。ここでライの申し出を断れば、彼の心に傷が付いてしまうだろう。アルトは頷いて、ゆっくりと立ち上がる。
「それじゃあ、うん。ライにも、お願いしようかな」
優しく言いながら、ライへと歩み寄った。傍から見れば、サキュバスが年端もいかない少年を襲っているという構図。しかしライは安心したようにはにかんで、アルトへと抱き着いた。
「ありがとうございます。僕のわがままを聞いてくれて」
「元々、俺の為にライは頑張ってくれていたから。これくらい、わがままの内には入らないよ。それに・・・・・・うん。まだ、満足は出来ていないから、さ」
少し恥ずかしそうに笑って、彼女は胸元のライをそっと抱き締める。慈しむような表情を浮かべながら、呟いた。
「ありがとう。こうなる前も、なってからも、俺はライを信頼してる。グレンも、メリアも。本当に、ありがとう」
「そ、そんな、むぐっ」
豊満なアルトの胸にライが埋まり、苦しそうにじたばたする。しかし、下半身の小さな肉棒はピンとそり立ち、存在を主張していた。アルトの下腹部に触れ、我慢汁を擦り付ける。
「あっ、すまない。・・・・・・えぇと、それじゃあ、しようか」
「あっうわっ・・・・・・!?」
幼いながら懸命に震えるライのペニスを見て、アルトは優しくライを押し倒した。捕食者の笑みと、愛おしげな笑み。それらが混ざり合いながら、彼女はライにのしかかる。ライのペニスを細い指先で弄びつつ、腰を上げて狙いを定めた。
「いい、かな?ライ」
「は、はいっ!大丈夫です、僕を食べてくださいっ!」
顔を真っ赤にしてライが返答する。情欲や食欲だけではない、庇護欲のような感情を抱きながら、アルトは腰を下ろしていった。
「んっ、うぅぅ・・・・・・!」
「あつっ・・・・・・ぬるぬる、してるぅ・・・・・・!」
ライのペニスを膣肉で優しく包み込み、皮を剥いていく。ピンク色の綺麗な亀頭が、アルトの胎内で姿を現した。それにむしゃぶりつくように膣内が蠢く。
「はぁぁぁっ・・・・・・!ライ、大丈夫?」
「なっなんか、変なっうあぁぁっ!?」
情けない悲鳴を上げて、ライが体を震わせた。少量の精液が噴き出し、涙目でぐったりと力が抜ける。
「ご、ごめんなさい・・・・・・出ちゃった、みたいです」
若く、新鮮な精。甘美な味のそれが体に染み込んでいくのを感じて、アルトはうっとりと微笑んだ。もっと、もっと欲しい。しかし、ライは初めてなのだ。無理をさせるわけにはいかないと、彼の頬を撫でながら問いかける。
「謝らないでくれ。ほら、まだ出来るか?」
アルトが膣を絞めると、ライのペニスはピクピクと敏感に反応する。上気が上がりそうな程に顔を真っ赤にしているライは、アルトの下で悶えながら頷いた。
「やっ、やれます!僕は、大丈夫ですからっ!」
健気に言ってくるライの姿に、アルトは胸がキュンキュンと締め付けられるような気分に陥った。それがなんなのか分からないまま、再び腰を動かそうとする。と、
「アルト。私も、お願い」
いつの間にか横まで来ていたメリアが、アルトの両頬を手で挟んで自分の方に向けた。返事も聞かぬままに唇を重ね、舌を絡ませる。
「んんっむぅ・・・・・・!」
下でライのペニスを咥え込みながら、メリアと濃厚なキスを交わす。今までで考えたことも無かった状況にくらくらとしながら、アルトはゆっくり腰を動かし始めた。
「くぅぅぅっ・・・・・・!」
ライの堪えるような声を聞きながら、口内で舌が絡み合う音が脳裏に反響する。残っていた男の本能か、メリアの小ぶりな胸に手を伸ばし掴むと、メリアの方もアルトの豊満な胸をぐにりと揉んできた。互いに胸を揉み合いながら、唾液を交換する。
「んむっ・・・・・・アルト、ズルい。こんなに大きいなんて」
「あっんっ!そう、なのかな。俺にはよく分からないけど」
拗ねたような表情で言うメリアに、アルトは戸惑いながら答えた。不意に拗ねた表情を崩して、嬉しそうに微笑むメリア。
「ふふ、冗談。どんな胸でも、体でも。アルトはアルトだから。好き」
驚いたアルトが何かを言う前に、メリアは彼女の唇を塞ぐ。熱烈なキスをする二人に、腰の動きがどんどん速くなっていく。
「あっアルトさっごめんなさい!また出るぅっ!」
焦り声と共に、ライが必死に腰を突き上げた。小さな肉棒が懸命に膣内を抉り、ぷくりと膨れ上がる。
「んんむぅぅぅっっ!ライっ出してくれぇっ!!」
キスの合間にアルトが叫び、全てを飲み込むように腰を下ろす。隙間も無い程に二人の腰が密着し、ライのペニスは再度射精した。先ほどよりも多少勢いの増したそれが、アルトの胎内を白く、優しく穢していく。
「あぁぁぁっんんんんんんんっっ!!!」
魂の底まで満たされるような感覚。同時にメリアに乳首をつままれ、体がびくびくと跳ねる。アルトは縋るようにメリアに抱き着き、控えめな胸元に顔を埋めた。
「は、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・!」
ゆっくりと息を吐く。あぁ、気持ちいい。幸せだ。それ以上に、安らいでいる。サキュバスになってしまった自分を、三人は受け入れてくれた。体を張って、示してくれた。こんなに嬉しいことは無い。
「あり、がとう・・・・・・」
呟いて、アルトはゆっくりと意識を手放す。ずっと感じることの無かった、穏やかで暖かな眠気で満たされながら、アルトは笑みを浮かべて眠りについた。
────数年後。人間達の尽力により魔王は討伐され、世界に平穏が訪れる。強大な魔王を討ち果たした勇者は、義手を付け、三人の仲間を連れたサキュバスだったと当時の文献には記されているが、真実は定かではない。