1.
淫猥な物音のしている辺りを、優子は五メートルほどの距離を保ちつつ息をひそめて見つめている。暗闇に目が慣れるにつれ、
ソファーの上で、若い男女が騎乗位で交わっていた。男にまたがった女は、彼に背中を向け、脚を蹲踞の形にしていわゆる《杭打ち》の姿勢で腰を激しく上下に振っていた。そしてよく見ると、女の前にはもう一人男が立っていて、女の口許に腰をあてがっていた。どうやらフェラチオをさせているらしい――女の声がくぐもって聞こえたのは、口中に男のものを含んでいたためだった。
ペニスを咥えた口から快楽の声を洩らしながら、陰部でも激しくペニスを咥え込む淫らな若い女。彼女が身につけている白いTシャツに見覚えがある、と思った瞬間、その女がエリであることに優子は気付いて追い打ちの衝撃を受けた。
エリはブラジャーを外しているらしく、Tシャツの胸には乳首が固く透けていた。その胸が、腰の動きに応じて激しく揺れる。
「んっ……うぅん……」腰を振りながら喘ぐ声は、確かにしばらく前に聞いたエリのものであり、それと同時に性交に一心に耽る女のものであった。
眼前に繰り広げられる異様な光景にとらわれて、優子は足がすくんでいた。息を殺して、大机の陰からその淫らな交わりを見つめる。
エリは男の上でぬちゅっぬちゅっと腰を振りながら、もう一人の男の腰の辺りに手を添えて、ぐっぽぐっぽとフェラチオを施していた。口淫を受けている男の吐息が段々と荒くなり、そして、
「やばっ、そろそろイキそうだわ……」と囁いた。
「いいよ……
「うん、でも……ね、
ペニスから口を離したエリは、少し考え込むようにしていたが、やがて、
「うん、たぶん大丈夫」
と事もなげに言った。
「やった……じゃ、ええっと、エリちゃんはその体位のまま、ケンゴ君の方に向いてくれるかな」
「はぁい」エリは腰を上げて陰部からペニスを一度引き抜くと、体を180度回転させてケンゴの顔の方に向き直った。そしてケンゴのペニスを手にとると、ゆっくりと腰を下ろして再びそれを咥え込んだ。
「んっ……」
「じゃ、そのまま体を倒し目にしてみて」エリは言われるままに上体をケンゴの方に傾ける。
今、指示を出す男からはエリとケンゴの《結合部》がはっきりと見えているはずだった。そしてその上に見えるのは……。
「じゃ、行きま~す」男は軽い調子でそう言うと、ケンゴと繋がったままのエリに、ペニスを突き立てた。
「んはぁっ……!」エリが苦しげな声を上げる。
のぞき見る優子からは結合部は見えなかったが、体の角度からすると、男がペニスを挿入したのはエリのアナルに違いなかった。
つまり今、エリはいわゆる《二穴挿し》状態にあるのだった。
「がっつりフェラしてもらったおかげで、いいローションになってるよ」と楽しげに言いながら、男は腰の動きを段々速めていく。ケンゴはケンゴで、自らのものを下から突き上げている。エリは充分に勃起した二つのペニスの抽送を受け入れながら、徐々に嬌声を高めていった。
「ああっ、コレいいっ……もっとこすってぇ……!」、口が自由になったエリは、声を抑えながらも先程までより明瞭な声で喘ぎ出す。それを受けて二人の男は抽送のスピードを速めた。パンパンパン……というエリを攻め立てる音が二重になって薄闇に響いた。
めくるめく狂態を目の前にして、優子はほとんど物を考えることができないでいた。そしていま受けとめている強烈な性的刺激を外部に発散しようとでもするように、彼女の手は、無意識のうちに自らの陰部に伸びていた。パジャマのズボンに手を入れ、ショーツの上から
(これ以上ここにいたら、私、自分でも何をしでかすか分からないわ……)
自分が自分でなくなるような恐怖にとらわれた優子は、心を決めて後ずさりし、静かにその場から離れていった。性器のこすれあう音とエリが甘く鳴く声は、それでもしばらくの間優子の耳に残っていた。いつの間にかショーツのクロッチがぐしょぐしょに濡れているのを肌で感じた。
トイレに入り、ズボンとショーツを下ろして便座に腰掛けた優子。今は、身の内に渦巻く強烈な性欲を処理することしか考えられなかった。誰かに見せつけるかのように大きく股を開く。その中央で陰部がぬらぬらと濡れているのが、見なくても感覚で分かった。
中指と薬指を揃えて伸ばし、陰部に宛がう。表面を二、三度撫でるだけで愛液がたっぷりと指に絡む。優子は躊躇なく二本の指を膣内に挿入した。奥までとろとろに濡れた女陰をぬぷっ、ぬぷっと刺激すると、一突きごとに声が出そうなほどの快感が襲う……いや、すでに声は出てしまっていた。快感のために自然と口が開いてしまっているのだ。あっ、あっ、あっ……最低限に抑えた声を洩らしながら、優子は目を閉じて自慰に耽溺している。もう片方の手をパジャマの上衣にしのばせ、乳房を直に揉みしだく。乳首はビンと勃起していた。
脳裏にはさきほどの光景がありありと映っている。
ペニスを騎乗位で咥え込みながら、もう一人の男のペニスをフェラチオするエリ。彼女が口を離すと、ビンと突き上がったペニスが露わになり……そしてそれは、エリのアナルへと挿入される。エリに挿入された二本の太いペニス……ぬちっぬちっと交互に突き立てられ、エリはよがり声を抑えることができない……。
目を閉じてその光景を反芻しながら、優子は夢中でオナニーに耽る。
(私っ……こんなこと……共用のトイレで……高橋さんも待ってるのに……)
そう自責すればするほど、全身の性的快感はぎゅんぎゅんと高まっていく。優子は両膝を立て、改めて股を開くと、片手で膣内を、もう片方の手でクリトリスを鋭くこすり上げた。近付くオーガズムに、彼女の体が小さく震え出す。
「あっ……イクっ……イっちゃう……あっ!」
消え入りそうな声でそう喘ぐと、便座の上で優子の体がビクン!と大きく跳ねた。
絶頂の余韻は、しばらく消えそうにない。優子はハァ、ハァと荒い息をつきながら、それを一心に味わっている。
2.
優子が部屋に帰ってきた。後ろ手にドアを閉める。
ベッドに腰掛けていた高橋が、優子の顔を見上げて何かを察したように声を掛けた。「やはり、合部屋は気兼ねされますか?」
「……えっ?」質問の意味をはかりかねて、優子は問い返す。
「いや……どことなく、落ち着かない表情をされているから」
「ああ……いえ、そうじゃないんです、これは……」と言うものの、しかし二の句を継げずに、優子は口をつぐんだ。
まさか、ついさっき若者たちのセックスを、それも三人がかりのを見てきたからだ、なんてこの人に言えやしない。そして男二人の相手をして肉欲に身を震わせていたのが、さっき自分たちと和やかな会話をした、あのエリだなんて……その話を高橋にしたいという気持ちも強くあったが、しかしやはり優子には切り出すことができなかった。
ましてや、それに興奮してトイレでオナニーしてしまった、だなんて……。
言うべき言葉が見つからず所在なく視線を落とす優子に、高橋がまた声を掛ける。
「なんにせよ、お疲れでしょう、長い一日でしたから……このベッドじゃゆったりというわけにはいかないかも知れませんけど、ま、明日に備えて休みましょう」
そう言ってくれる高橋を見ると、不意に優子は、今日一日、この人と苦心して山道を歩み抜けてきたのだということを強く思い出した。
優子は高橋の隣に腰かけて、穏やかな表情で彼の目を見つめた。そして、
「今日は……ホントに大変でしたね」と言った。高橋はギクリとする。
「僕の不甲斐なさのせいで……いや本当に、どうお詫びしてよいやら」手を両膝の上に置いて、高橋はぐいっと頭を下げた。優子は目を丸くして、
「いえっ、そういう意味で言ったんじゃないんです……!」と手を振りながら言った。
「そうじゃなくって……もちろん、疲れはしたし不安もあったんですけど、でもなんて言うんだろう、一蓮托生って言うか、高橋さんと一日、二人でああだこうだ協力して、道を切り開いていくっていうのが、なんか楽しくって。『これが人生ってもんだよなぁ』なーんて思ったりして……だから、ホント大変だったけど、その大変だったのが良かったって思ってるんです。今日こうして大変だったことを、忘れたくないなって……」優子は噛みしめるようにそう話した。高橋はそんな彼女をじっと見ている。
(そんなふうに思ってくれていたのか……)
彼は、静かに心打たれた。そしてぽつりと呟いた。
「……僕は、歩きながら、これじゃダメだダメだとばかり思っていましたが、そう言われてみると……なんだか良い思い出のような気がしてきました」
「でしょう?」と、いたずらっぽく笑いながら優子は言った。
3.
心地よい沈黙。
なんだか、図らずも良い雰囲気になってしまった。ここで一つ、気の利いたことでも言えたらいいんだが……と高橋が考えていると、その思考を邪魔するかのように、どこからか妙な物音が聞こえてくることに気が付いた。優子の方を見ると、やはり気になるのか、音の出所を探るように視線を泳がせている。
「……隣の部屋ですかね?」と高橋は水を向けた。
「そうみたい……じゃあ人の声かな?」
最初は小さくて何とも判然が付かなかったが、しばらくすると声が大きくなったのか、あるいは声の主が壁際へと移動したのか、割合はっきりと聞き取れるようになってきた。それはやはり人の声だった。と言って、普通の会話でもない。
それは、男と女が交わっている声だった。
思わず目を見合わせる壮年の二人。
(あ、はあっ……う、いい……!)喘ぎ声は男のものである。それに重なるように若い女の声が、
(こうすると気持ちいいんだ? ほらほら、どう?)
(うん……ああっ、ああっ……!)
(すごいエロい顔してるよ……ねえ、じゃあこっちは?)
(ああっ!)
(いいんだ?)
(めっちゃイイ……!)
(両方されると、感じちゃうんだ? 可愛い……このままピュッピュしてもいいよ?)
高橋と優子はまた目を見合わせたが、お互いどんな表情をしていいものやら分からない。
「凄いですね……」と高橋。
「若いですね……」と優子。二人とも、無意識のうちに声を潜めていた。二人の耳は依然としてしっかりと隣室の声を捉えていた。
(じゃ、今度はサトシが舐めてよ、ほらぁ、ここ……)今度は男の方が攻める番らしい。
やや間があって、
(あン、そう、そこ、いいよ、もっとして……あぁんっ! いいよ、おまんこ気持ちいい……上手だよサトシ……あっあっ、すぐなのにイっちゃいそう……ね、イっていい? あぁん、イ……イクぅっ!)
あられもない嬌声が、前戯の進行を如実に伝えていた。
そのまましばらく、二人の大人は黙って耳を澄ませていた。
この予想外の公開性交に、当然のことながら高橋のペニスは強く反応していた。脚を組んだり手を股間の前に置いたりして、どうにかその膨らみを目立たせまいとしたのだが、上手くいかなかったらしい――優子は、
仕方なく、照れ隠しにぎこちなく笑いながら、「いやあ、すいませんお見苦しくって。男ってのは困ります……」と高橋は自嘲した。女も小さく笑って、
「そうですよね、大変ですよね男の人は……体のおもてにくっきり表れちゃうんですから。もし私が男の人だったら、今なんか大変ですわ……」
「はは……」
会話が途切れ、室内に沈黙が訪れた。隣室の嬌声もいつの間にか止んでいた。(もう終わったのかな……)と高橋はぼんやり考えた。隣に座る優子も同じことを考えているような気がした。木々を吹き抜ける風が、窓をカタカタと揺らした。何をするでもなく黙りこむ二人。
高橋は無為に正面の壁を見つめていたが、優子が控えめな視線で自分の方を見つめているのを、感じ取っていた。
不意に、優子が高橋の手に自分の手を重ねた。そして、
「私も……抱かれたいです」
と言った。
【つづく】