恋人の不知火を他人に抱かせる話 作:阿部
食事はいつも通り、執務室の一角にある応接スペースにテーブルと椅子を運び込んでのものだった。僕と先輩はラフな格好だが、女性2人は陽炎型改二の制服のままだ。
一応の建前としては両提督と秘書艦で食事をしながらの演習振り返りである。もっとも、他の艦娘たちもこれが友人同士と姉妹によるただの親睦の場であることはわかっているようで、食器を下げに来た子も僕達がくだらない雑談を交わしているのを見て微笑ましそうに、そして邪魔をしないようにと遠慮深く仕事を果たしていった。テーブルクロスの上にはアルコールと水だけが残されていて、これは執務室の冷蔵庫に仕舞うだけで済む。つまりは、他人がこの部屋にやってくる理由はもう無いということだ。そしてここの艦娘たちは、理由もなく親睦の場に乱入するような無粋な子ではない。
陽炎さんが笑いながら、不知火は不満を表明するようにつんと唇を尖らせながら、お互いの席を交換する。陽炎さんは僕の隣へ、そして不知火は先輩の隣へ。この状態でしばらく雑談(セクハラ混じり)をかわしてから部屋へ移動するのがいつもの流れだ。
陽炎さんが肩同士が触れあうぐらい身体を寄せてくるのと同時に、先輩が不知火へ軽いボディタッチを繰り返していた。不知火は一応そっけなくしていたが、手を振り払ったりはしないし頬は羞恥に赤く染まっていた。
本人にそのつもりはないだろうけど、その姿は男の嗜虐心をこれでもかと駆り立てるもので。
本当は不知火も先輩に触れられるのを望んでいるのではないか、なんて妄想が僕の血をどくどくと加速させていく。
「あーもー可愛いなぁ~私の妹は」
そんな陽炎さんの呟きに不知火はキッと目を細めたが、横の僕が大真面目に頷いているのを見て恥ずかしそうに顔を逸らした。
「まったくもう……」
「いやいや、陽炎の言う通りだと俺も思うよ」
「提督さんには訊いてません」
「つれないなぁ。何度もベッドで過ごした仲じゃないか」
「…………別に、恋仲として過ごした訳ではありませんし」
「確かに。ただ気持ちよくなるためだけだもんな」
閉口した不知火の腰を先輩の腕がくるりと滑っていく。不知火はそっぽを向いたまま、しかしされるがままに先輩を受け入れていた。
「思い出したら勃ってきたよ」
「……いちいち言わないでください、そんなこと」
「じゃあ言わなくても俺が何をして欲しがってるかわかる?」
「…………どうせ変なことでしょう?」
「当たり。フェラチオをして欲しくなってね」
不知火はちょっと先輩を睨んで、それから僕の(恐らく興奮と期待に満ちた)顔を見ると、不承不承という感じで立ち上がろうとした。しかしその動きは、腰を引き寄せた先輩の腕によって中断された。
「っちょっと」
「どこか行くのかい?」
「何を言っているのですか、そっちがその、アレをしろって」
「別に部屋に移動しなくてもできるよ」
そう言って、先輩はテーブルクロスをめくり上げて机の下を、自分の足元を指差した。
その意味を理解したらしい不知火の顔が真っ赤に染まり、先輩と僕へ交互に目を向けた。
先輩はニコニコと微笑んだままテーブルクロスを掴んでいる。僕は何かを言わなければいけない気がしたけど、しかしカラカラに渇いた僕の喉は静止の言葉をひねり出す力なんてなくて、ごくりと唾を飲み込むので精一杯だった。その唾に期待が込められていることなんて、その場の全員にバレバレだっただろう。
「……本当に、ですか?」
「勿論さ。頼むよ、
その先輩の言葉に不知火は一瞬身体を硬直させてから、どこか諦めを伴った弛緩とともにゆっくりとしゃがみこんだ。
ちゃん付けで呼んだ時は先輩のセフレになる。先輩と不知火の間でそういう取り決めがあったことを僕は陽炎さんの盗撮、もとい防犯カメラで知っている。でも僕が知っていることを2人は、特に不知火は認識していないはずだ。
話が変に拗れる前に先輩の言葉に従ったのは、セフレ扱いされていることを僕に知られたくないからだろう。それは後ろめたさというよりは羞恥心からくる行動だったのだろうが、それでも不知火が隠し事をしている事実に僕の心臓は早鐘を打った。
「司令、あの」
「な、なに?」
「その……できればあまり意識しないようにして頂きたいのですが」
「…………ごめん、ちょっと無理かな」
「…………ばか」
潤んだ上目遣いにそう言った不知火は、僕から目を切ると這うように机の下へと潜り込んで行った。その身体が全て収まったのを見て、先輩がテーブルクロスを離す。質の良さそうなテーブルクロスは光に透けることもなくて、不知火の姿はその向こうへと完璧に消えてしまった。
もし今、他の艦娘がこの部屋を訪れたとしても何も疑問には思わないだろう。ここはただの歓談の場で、不知火はお手洗いにでも立っているとしか思わないはずだ。
不知火が机の下で先輩の股の間に蹲っていて、これから倒錯と背徳に満ちた行為が始まるだなんて。そんなこと、誰も考えるはずがない。
ごそごそと、机の下から物音がする。できるだけ音を立てないようにしようという配慮が感じられるささやかな音量。でも僕の耳はその音を一つも聞き漏らすまいと集中して、一挙一動すら逃さないぐらい敏感になっていた。
先輩が腰を浮かせ、しばらくしてから降ろした。その意味なんて見えていなくてもわかる。ズボンを、そして恐らくは下着を脱がすための行動だろう。
「……はぁ、本当に大きくなってる……あの、提督さん」
「なにかな?」
「何か、話しでもしていて欲しいのですが」
「いいよ。じゃあ、不知火ちゃんが今何してるか実況してあげようか」
「……頼んだ不知火が馬鹿でした」
そんな軽口のやり取りと、意志を固めるような長い深呼吸が一度あって。
「……………………ちゅ、ぱ」
という艶かしい音が静かな執務室に響き渡った。
ガツンと頭が殴られたような衝撃が僕を襲った。姿は見えないけれど。それでも間違いなく、僕の恋人である不知火が今、僕のすぐ傍で、別の男のペニスにその可憐な唇を当てている。
「ちゅく、ちゅく、ちゅく、ちゅっぱ、ちゅ、ぢゅ、ぢゅ」
「ああ良いよ、不知火ちゃん」
「ちゅっちゅ、ちゅく、んっちゅく、ちゅく、ちゅ」
「次、付け根のとこまでやってみて」
「んむ…………ちゅ、ぢゅく、ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぱ」
「次は、先っぽにキスしてよ」
「んっ、ちゅ」
「もっと気持ちを込めてさ。恋人にするような感じで」
「……ん…………………………ちゅ」
「いいね。今の、めちゃくちゃ良かったよ」
くらくらとした。目の前で起こっていることは現実なのだろうか。僕の興奮が見せた幻じゃないのか。そんなことを考えて、でも耳は間違いなく現実の音を拾っていて。
ふわふわとした非現実感の中で、僕の股間だけは痛いほどに怒張していた。今すぐにでも恋人を取り返し挿入しろと主張していた。でも、僕の歪んだ性癖はそんな雄の本能すら抑え込んでしまっている。このまま恋人の不貞を楽しむことを優先してしまっているのだ。
「んふふ、義弟くん顔すごいよ」
「え、っと」
「あはは、喉枯れてるじゃない」
陽炎さんはそう笑うと、僕のグラスへとお酒を注いだ。
「ほら、飲んで?」
「あの、水で」
「だーめ。ちゃんと酔わなきゃ。ね?酔って頭の中すっきりさせちゃお?気持ちいいこと、興奮することをそのまま受け入れてもっと楽しもう?」
そうやって小悪魔風に笑いながら、まんま悪魔の誘いみたいなことを言ってくる陽炎さん。
心地よさそうに表情を綻ばせながら、時折こちらからは見えないようにテーブルクロスをめくりあげているやり取りをかわしている先輩。
そして、絶え間なく続く水音。その発生源となっているであろう僕の愛しい人。
僕はグラスを持ち上げ、一息でその中身を飲み干した。味なんてわからなかったけど、今まで飲んだどんなお酒よりもそれは僕を潤してくれた。そしてたぶん、理性の箍を弛めただろう。
「もう一杯、いただけますか」
「どーぞ。でももうイッキ飲みは禁止ね。危ないから」
「……陽炎さんってたまにまともですよね」
「失礼な。私はいつだってまともよ。ちょっと欲望に正直なだけで」
「ちょっと?」
「お~生意気。もう酔っちゃった?」
「……少し」
「ふふ、いいよ。酔っちゃえ」
お酒を飲む。今度はゆっくりと、身体に染み込ませるように。きっと普段僕を守っているであろう理性を遠ざけるように。
僕の頭がぽやぽやとしてきた頃、水音が止んだ。
「ん、ちゅ。……これ、いつまで続けるんですか?」
「俺が射精するまでだけど」
「……冗談でしょう?」
「本当だよ。それまではみんなこの部屋に居ることになるね」
「でもこれ、全然」
「すぐ
「…………やです。知りません」
「じゃ、朝までフェラする?」
「それは、でも…………」
「別に俺はいいよ?これも気持ちいいしね」
会話がよく呑み込めなくて、僕は戸惑ってしまう。先輩がただ無理難題を言っているのかと思ったけど、不知火の歯切れの悪さはどこかおかしかった。彼女は、理不尽には毅然と対応する子だ。でも今の不知火には、そういった一本気なところはなかった。むしろ後ろめたさを滲ませているような、不安定な対応だ。
種明かしは先輩がしてくれた。
「不知火ちゃん、本当はもっとフェラチオ上手いんだよ。俺がめちゃくちゃ教え込んだしね。今は恥ずかしがって隠してるけど」
「や!提督さん、ちょっと」
「何か違ったかな?」
「違うというか…………でも」
「でも?」
「できません……だって」
「じゃ、朝までコースだね」
「…………性格悪いですよ」
「そうかな。喜ぶと思うけど」
2人だけの会話が続く中で、僕にも多少状況がわかってきた。不知火のテクニックはほんとはもっと凄くて、でも不知火はそれを隠したがっていて、そして先輩はそれを晒そうとしているのだ。
僕は口を挟もうかと考え、やっぱり止めた。僕はきっと観客でいた方がいいのだ。僕の存在を意識してしまうことが、不知火にとっては一番の躊躇いの原因だろうから。
結果としてこの判断は正解だった。
先輩と不知火のやり取りが続く。そして結局、この場で不知火の勝ち筋なんてなかった。このスワッピングは根本的に僕のために行われていることで、そして僕は不知火の全てを知りたいと思っているのだから。
「…………司令、その。…………聞かないでください」
諦めたように不知火がそう言う。僕は返事をしなかった。聞こえなかった振りをしたのだ。たぶん、何の意味もないけれど。
それから始まった行為は、聞こえない振りなんてしようがなかった。
「じゅっぽ!じゅぽ!じゅぽ!じゅぽ!じゅぽ!じゅ、じゅ、じゅ!じゅっぽ!」
「良いよ不知火ちゃん。最高」
「んっじゅ、じゅ、じゅ、ちゅっちゅっじゅ、じゅ、じゅ、じゅぽ!」
その音の激しさを、恋人であるはずの自分は全く知らなかった。不知火がペニスを咥え込み、こんな下品な音を立てながら奉仕するなんて考えたこともなかったのだ。
勿論、理屈はわかる。この激しい水音はディープスロートから発せられるもので、僕のペニスではこんな淫らな音を掻き鳴らすような行為をするにはまったく足りないのだろうと。 別に、不知火が僕との性交に手を抜いていた訳ではないだろうと。
それがわかっていても、僕の心には自分を棚に上げたような嫉妬心がメラメラと沸き上がった。
「じゅ、じゅ、じゅるるる、ぢゅ、ぢゅ、じゅる、じゅ、じゅ」
知らなかった。不知火が、こんな激しいフェラチオをできるようになっているなんて知らなかった。こんなに露骨に男根に奉仕できるなんて知らなかった。そして、先輩は知っていた。そのことが僕の嫉妬と、そして興奮を駆り立てる。
「あはっ、激しいね不知火」
そう笑った陽炎さんは、机の上の食器類を端にどけるとずいっと僕の方へ顔を寄せてきた。
「あの、陽炎さん?」
「し~、静かに。不知火には内緒ね♡」
そう言った陽炎さんは目を合わせてさわやかに微笑むと、いきなり顔を近付けてきた。そして「ちゅっ」という音とともに、僕と接吻をかわした。
足元では不知火の激しい口淫が続いている。僕の視界一杯には陽炎さんの顔が、そこで行われている不貞の所作が浮き彫りになっている。
「じゅ、じゅ、じゅぽ、じゅっぽ」
そんな、不知火の立てる音とともに。
僕は陽炎さんと密かに、隠れるように口付けをかわしていた。僕は思わず先輩の表情を窺ったけど、薄く微笑む顔からは気にしているような感じは読み取れなかった。
陽炎さんが唇を割り、舌を捩じ込んでくる。そうなると僕も余裕なんてなくなって、ちゅっちゅと陽炎さんと口付けをかわすことに夢中になってしまう。
机の下で恋人が立てる不貞の音を聞きながら。
机の上では、背徳の口付けをかわしながら。
「じゅぽ、じゅぽ、じゅ、じゅ、じゅ」
「ん、ちゅ。ほーら、ちゃんと足は前に向けてて。不知火にバレちゃう。ちゅ、ちゅ」
「じゅっぽ!じゅっぽ!じゅ、じゅぽ、じゅぽ」
「んふっ、美味しい?」
陽炎さんが普通の、不知火にも聞こえるような声量で訊ねてきた。いかにもさっき飲んだアルコールのことと取れるような言い方で。
キスが良かったのだと、正直に返答することもできる。でも僕は、この空間を支配する背徳に流されるように口を開いていた。不知火にバレないように。何も知らないまま、先輩への口淫を続けてくれるように。
「……美味しかったです」
「良かった。もっと飲みたい?」
「……はい」
「じゃ、注いであげる。もっと欲しかったら言ってね。義弟くんが満足するまでいくらでも注いじゃうから」
そう言いながら再び顔を寄せてきた陽炎さんを、僕はなすすべなく受け入れた。
「ちゅ、ちゅ。ふふっ、恋人に内緒のキス、興奮しちゃうね?」
「……はい」
「いつでもしたげるから、したくなったら言ってね。ん~ちゅ」
「いつでも、ですか?」
「いつでも、よ。んふ、次は
小声でのやり取りだったので、この挑発的な言葉は先輩には聞こえなかっただろうけど。
聞こえていたかのようなタイミングで、先輩も限界に達しようとしていた。
「そろそろ
「んっじゅ、じゅ、じゅ……はやくしてください……じゅぽ、じゅぽ、じゅぽ」
「最後に激しくしてほしいな」
「…………じゅっぽ!じゅっぽ!じゅ!っぱ、じゅ、じゅ、じゅっぽ!じゅっぽ!」
「くっ、
先輩が両手を机の下へ差し込む。その手が不知火の頭を抑え込んで、ただ快楽のためだけに自分の股間へと密着させている様を僕は想像してしまう。不知火の口内へ、その最奥までペニスを押し込み男の身勝手な欲望を受け止めさせている光景がどうしようもなく浮かんでくる。
それがただの妄想なのかそれとも真実なのか、僕に知る術はなかった。先輩と不知火だけが共有する秘密が無数にある気がして、僕は甘えるように陽炎さんの唇を舌でなぞった。微笑んだ陽炎さんが最後に強く口を吸って、舌を触れ合わせてくる。
離れ際にかかった唾液のアーチは、ゆっくりと垂れて僕と陽炎さんの服を僅かに汚した。2人の唾液が混ざりあった小さな染みは、もう一生落ちないもののように思われた。
「気付いてないかもしれないけど義弟くん、キス上手になってるよ」
「そう、ですか?」
「うん、私の教育の成果かな。あは、2人揃って私たち夫婦に調教されちゃったね?」
「調教って」
「もっと上手にしてあげる。不知火もこれからもっと上手になっていっちゃうだろうしね。色々と」
不穏な予言を残してから、陽炎さんが立ち上がった。それが部屋へ移動する合図だと気付いて、僕も続いた。背後に先輩と不知火の会話を聞きながら。
「んっく、
「慣れてるだろう?あいつも凄い量だって陽炎が言ってたよ」
「……提督さんは奥で
「でもこぼれてないよね」
「……こぼしたら罰とか言い出すじゃないですか」
「今回はご褒美だな。立ちバックでやろうか、このままここで」
「ご褒美になっていませんよ、それ…………あの」
「ああ、もう2人は出るよ」
「そうですか」
陽炎さんについて執務室を出ながら、僕は思った。
先輩が口内へ射精した精子は、いったいどうしたのだろう。床へこぼさなかったということは、手のひらにでも吐き出したのだろうか。
それとも不知火はそれを、自分の体内まで導いたのだろうか。そんなことを考えながら。