恋人の不知火を他人に抱かせる話 作:阿部
シンプルな内装の部屋だった。ビジネスホテルを多少広く豪華にした感じだ。ゆったりとしたベッド、手荷物なんかを入れるのに重宝しそうな小さなタンスと机、その横に冷蔵庫があり、さらにポールハンガーとハンガーラックが並んでいる。肘掛けの付いた椅子と丸テーブル、姿見、冷蔵庫の中には水とウイスキー、それから缶チューハイが入っていた。風呂とトイレは別れていて、ビジネスホテルと考えれば上等な部類だろう。トイレ自体は廊下にもあるのだが、それなりに距離があるし、なにより艦娘を扱う鎮守府のトイレは提督周辺と業者向けの入口付近以外はほぼ女子用だ。
お風呂で執拗なくらい身体の隅々まで洗い、ラフなシャツと短パンを着てしまうともうなにもやることが思い付かなくなった。読書やネットサーフィンという気にもなれず、ベッドに腰かけて考え事をしようとした。そして何かを思いつきそうになる度に、お尻を愛撫されて唇をきつく結んだ不知火や妖しく微笑んだ陽炎さんの顔が思い浮かび、思考を中断した。こんなの、先輩に連れられて夜のお店に初めて行った時以来だ。
コンコンとノックの音が響いて僕は飛び上がった。悶々としているうちに時間が来ていたようだ。
「お待たせしました~。本日ご指名頂きました陽炎ですっ」
扉を開けると茶目っ気を全開にしながら陽炎さんが敬礼をしていた。僕は苦笑した。
「なんですか、指名って」
「なんかそれっぽいかなぁって。義弟くん、そういうお店行ったことある?」
「先輩に連れられてなら」
「よーしその話はあとできっちり聞こう」
「念のため言っておきますけど、お互いまだ着任していない頃の話ですよ」
「それでも気になるもんなのよ~女の子ってのは」
部屋に入った陽炎さんは後ろ手で扉を閉め、鍵を掛けた。ガチャンという音が、この部屋が外から切り離されてしまったことも露骨に表現して、僕の鼓動は早くなった。
ちょっと意外だったのが、陽炎さんが陽炎型改二の制服を着ていることだった。漂うボディーソープの香りからは、彼女がしっかりと身を清めてきたことがわかる。そんな僕の疑問に気付いたのか、
「ああ、これ?私も本当はもうちょい別の格好で来るつもりだったんだけど」
と自分の服を指差しながら説明してくれた。もっとも、そこまで大層な理由はなかった。
「不知火ね、制服以外はすごい地味ーーな寝巻きしか持ってきてなくてさ。流石にそれはってことで制服で行くことになって、なら私もってね」
「不知火らしいな」
「ほんとよ、流れ次第ではこういうことになるってわかってたのに」
笑いながら陽炎さんがベッドに腰掛け、その横を手でぽんぽんと叩いた。彼女に従い、僕もベッドに腰を降ろす。陽炎さんがぐっと密着してきて、僕はたじろいだが、距離をあけるような真似はしなかった。
ボディーソープに隠れた陽炎さん自身の香りがこの距離だとはっきりと感じられ、くらくらとしそうになる。
浮き足だった頭の中で陽炎さんの感触がやけに鮮明で、この可憐な人が僕の隣にいてこれから淫らな行いを始めようとしている事実と、同じ屋根の下で不知火も別の男性に同じように触れあってるのかもしれないという想像に、僕は歪な興奮を得ていた。
「気になる?」
陽炎さんがそんな僕を見ながら言った。
「ふふっ、そんな心配しないでいいよ。うちの
「ほぐす?」
「そ。最初は時間をかけて、不知火の身体をちゃんと気持ちよくなれる身体にしちゃうって言ってた」
「不知火とは、その、それなりに経験していますけど」
「慣れっていうのとはちょっと違うからさ、司令、その辺上手いからねー」
陽炎さんはちょっと声を潜めて、内緒話でもするように続けた。
「私も経験者だから言うけど、司令に開発されちゃうとほんと変わっちゃうからね。すぐ気持ちよくなっちゃうし、そうなったらもう司令に逆らえないっていうか」
「逆らえないって……」
「言葉通りだよ。ふふっ、今でもたまに我慢勝負するんだけどね。いっつもすぐ降参させられて、司令の言いなりになっちゃうの」
「言いなりってそれは、ど、どんなことを?」
「そりゃもう、恥ずかしいことさせられたり、とんでもないこと言わされたりとか」
僕の脳内で、先輩の前に蹲りあられもない姿を晒している陽炎さんの姿が浮かび上がった。筋肉質で上背もあり、短髪とうっすら焼けた肌がいかにも屈強な海の男という外見の先輩と、小柄でいてしなやかな肉付きをした健康的な少女然とした陽炎さん、そんな二人が一見不健全にも見える閉めきられた一室で絡み合う姿。女を責めたてて快楽へと屈服させてしまう姿。自制もなにもかも押し流されて男の欲望のままに身体を使い言葉を紡ぐ姿。妄想の陽炎さんは、さして時間をおかず不知火の姿に変わった。
「もしかしたら今日で不知火も、司令に逆らえない女にされちゃうかもね?」
挑発的な笑顔でそう言うと、陽炎さんは優しく僕をベッドへ押し倒した。端正でいて意思の強さを感じる、それでもまだ幼いといっていい顔が迫ってくる。互いの唇が触れるかというところで、陽炎さんは動きを止めた。
「浮気キス、する?」
浮気、という単語が僕の理性をガツンと殴った。
「これは私と司令のスタンスの話なんだけど、スワッピングって浮気を楽しむものだと思ってるの。ほら、見て?」
距離は離さないまま、陽炎さんが左手を2人の間に差し込んだ。薬指に指輪が嵌まっている。それがケッコンカッコカリのものではないことに僕は気付いた。
「あはっ。これ、司令に貰った指輪なのよ。性能を上げるものじゃなくて、2人の関係を証明するものとしてね。あとで邪魔になったりしたら外すけど、スワッピングの時は最初絶対指輪付けたままにするの」
それはつまり、
「私は今、人妻としてここに来てるってこと。ね、義弟くん。人妻の唇、奪ってみたくない?」
陽炎さんがちょっと唇を前に出す。もう僕がほんのちょっと動くだけで触れてしまうような距離だ。これが彼女たちの楽しみかたなのだ。そしてそれは、先輩の楽しみかたということでもあった。
「浮気キス、しよ?」
僕は観念したように、すべてを投げ出すように陽炎さんと口付けした。間髪を入れずに陽炎さんが舌を差し込んできて、僕は心の隅で不知火の姿を重ねたままそれに応じた。ただ、彼女のキスは不知火よりずっと精巧で、ねちっこく、貪欲だった。舌と舌を絡ませていたはずがいつの間にか僕は置いてきぼりにされ、彼女の舌先だけが口内を蹂躙していた。2人が口を離した時、僕は息も絶え絶えに圧倒されていて、逆に陽炎さんは舌なめずりさえしていた。
「あはっ♡流石に虐め甲斐があるなぁ。ねね、浮気キスどうだった?」
「はっ、はっ、は…………その、凄かったです……」
「義弟くんのも結構良かったよ」
そうやって評する裏に、陽炎さんは明らかに先輩の気配を匂わせていた。誰と比べてそこそこの評価を与えたのかがわかるように。結構、という言葉には言外に上位者の存在を表していた。
陽炎さんはまた口付けをすると同時に、僕の身体に手を這わせた。
服の上から乳首を2本の指で挟み僕の反応を誘った彼女は、しばらく上半身のポイントを探るとそのままもう一方の手を僕の下腹部へと伸ばし、そしてそこで、ちょっと首を傾げた。
「うん?私、方向性間違えた?」
そう言いながら陽炎さんの左手が僕の下半身をまさぐっている。
彼女が戸惑っている意味が、僕には悲しいほどにわかった。それを自分の口から言い出すことは、陽炎さんに僕の性癖のすべてを知られることに近く、下手をしたらもう一生陽炎さんに勝てなくなってしまうことに繋がるかもしれない。それでも僕は、想定外に混乱している陽炎さんのその姿が、僕にも興奮を与えようとしてくれているその姿が信じられるものだと思ったから、下着ごと短パンを一気にずりさげた。
一瞬目を丸くした陽炎さんの表情に、すぐに理解の色が浸透し、その色を上塗りするかのように瞳に嗜虐の焔が灯った。
「な♡る♡ほ♡ど♡ねぇ~♡。義弟くん、そういうタイプか」
指貫のグローブに包まれた小さな手のひら。それが僕の身体を這い、股の間にたどり着くと僕のモノを覆い隠した。既に勃起しきっている僕のペニスは、ほんのわずか先っぽが陽炎さんの手首の下に覗いているだけだ。
「私の手でもほとんど隠れちゃう……あはっ、――――ちっちゃいね、義弟くんのオチンチン♡」
不意に、中学校の記憶が甦った。いや、陽炎さんと重なっていた。
「もしかして興奮してないのかと思って不安になっちゃったじゃない。小さいなら小さいってちゃんと言わなきゃ、ほら♡」
彼氏のサイズが小さいことを小バカにしながら猥談を交わしていた、同級生の女子生徒たち。彼女たちが指先で表現して嘲笑っていた中学生彼氏のサイズと、とっくに成人を越えた僕のサイズはほとんど変わりがなかった。いや、もしかしたら僕の方がいくらか小さいかったかもしれない。
「ね、小さいよね?」
「…………はい」
「はいじゃダメ。ちゃんと、僕のオチンチンは小さいですって言わなきゃ」
「……僕の、その、オチンチンは、小さい、です」
「ほんとよ。いろんな人とスワッピングしたけど、一番小さいかも。もう勃起してるのよね?」
「……はい」
「も~失敗しちゃったかなって不安だったんだから。ほら、謝って」
流石に僕は口を閉ざしたが、陽炎さんは許してくれそうになかった。加虐的な気配を口元に滲ませたまま、僕のことをじっと見ている。喉がカラカラと乾いて、声が掠れそうだった。絞り出すように、声を出した。
「オチンチン小さくて、勃起判りづらくて……ごめんなさい」
「いーよ♡特別に許してあげる」
笑った陽炎さんが、僕の陰茎をしごき始めた。もっとも、握るというより指先で摘まんでいるような掴みかただった。大人のペニスとして扱ってもらえないのだと思うと、震えるほどの屈辱と、視界がチカチカするほどの快楽が僕を襲った。
「小さいけど、すっごい固い……私に興奮してくれてるのかな?それとも、ちっちゃいオチンチン馬鹿にされながら指先だけでしごかれてるこの状況?」
陽炎さんが実に愉しげに指を上下させる。
「それとも」
一気に動きを加速させた陽炎さんは、そのままぎゅっと根元を握った。
「不知火がおっきいチンポに寝取られちゃうことに興奮してるのかな?」
「あぁっ」
「だーめ。まだ出しちゃだめ」
「そん、なっ」
「せっかくなんだから全部曝けだそうよ。義弟くんのイケナイ性癖、私に教えて?私にぜーんぶ委ねて?そうしてからザーメンぴゅっぴゅしたら、きっとすごく気持ちいいよ♡」
「は、っぁは……はぁ……」
「不知火が堕とされちゃうとこ、想像してたんでしょ?チンポの大きさっていう自分じゃどうしようもない点で負けちゃって、取り戻せなくなっちゃうこと想像してオチンチン勃起させちゃったんでしょ?」
陽炎さんの香りと陰茎に伝わる緩い刺激で僕の頭のなかはもう溶けきっていて、訳がわからなくなりそうで、でも陽炎さんの言葉だけはしっかりと意味を持って耳に届いていた。善悪とか外面とかはもう浮かばず、欲望だけがガソリンになって僕を動かしている。気付けば、口を開いていた。
「はっ……はっ……はい」
「不知火のおまんこ拡げられちゃって、義弟くんのオチンチンじゃイけないようになっちゃうのに、興奮しちゃったの?」
「はいっ……」
「寝取られマゾよね。しかも、子どもみたいな短小オチンチン。いくら不知火が精神強いっていっても、このオチンチンしか知らないところにいきなりおっきいチンポ挿れられちゃったらほんとに堕ちちゃうかも?♡」
「そん、な」
「それは嫌なの?」
「い、やです、それだけは……」
「ふふっ、欲張り。寝取られマゾの性癖満たしながら、不知火は離さないんだ」
陽炎さんはちょっと微笑んだように見えた。それは幻かと思うくらい一瞬で、すぐに淫蕩な笑みを浮かべた。
「でも義弟くんのここは、性癖に忠実みたいだけど、寝取られマゾさん?オチンチン、すっごい苦しそうですよー?」
「はっ……はっ、か、陽炎さんっ」
「もう限界かな?じゃ、最後に良いこと教えてあげるね」
陽炎さんは僕の肉棒をしっかりと握り直してから、耳元に口を寄せた。
「晩御飯の時にしてた話だけど、実はちょっと嘘があるの」
「……っは……え?」
「相手の人がゴム忘れたって言ったじゃない?あれ、嘘」
「え……なぜ?」
「ほんとはゴム持ってきてたんだけどね。相手の人がうっかりしてたのは、普通のサイズを買っちゃったってこと」
「それは……」
「わかっちゃった?そ。うちの司令ね、ふふふっ、すーーーごくチンポ大きいの」
陽炎さんが手を上下させ始めた。射精に導くことだけを考えた、普段ならちょっと痛いぐらいのしごきかただ。
「向こうの奥さんが生でやろうとしたのもね、ゴム忘れた罪悪感とかじゃないのよ。どうしても司令のチンポが欲しかったから、旦那さんが見てるのも構わずにおまんこ差し出しちゃったの♡不知火もきっとそうなっちゃうよっ?」
「あああ、射精るっ」
「司令のチンポ覚えさせられて、挿れてもらうためだったら何でもしちゃう雌に♡義弟くんの前だろうとゴムがなかろうと司令のチンポ欲しがっちゃう女にされちゃってるかもよ?」
「もうっ、ああっ」
「あはっ、イっちゃえっ♡」
途方もない快感に腰を浮かせながら、僕は射精した。
「すっご。噴水みたい」
僕の精液を、陽炎さんは指輪を付けた左手の手のひらで受け止めていた。白濁がそれを汚す光景を見ながら、僕はまた吐精した。飛ぶというより溢れてくる精液を、陽炎さんは欠片も溢さず救い上げた。
そしてそれを顔に近づけると、僕にちょっと目配せしてから、躊躇なくすすり上げた。精液の水溜まりが干され、不貞の海から顔を出した指輪が淫靡に光を放った。
「多いし、めっちゃ濃い……ザーメンは司令より上かも♡」
そう言った陽炎さんは僕のペニスを口に含むと、下品な音をたてながら吸引した。浮気を楽しむ、と彼女は言っていた。吸い上げて僕の鈴口に口付けをかわす彼女の姿は、確かに浮気に溺れる人妻だった。
人妻のお掃除フェラを味わいながら、僕は彼女のパートナーのことを考え、そして彼と過ごしているであろう不知火のことを思い浮かべていた。