思い詰めて噴き出すのは仕方ない、悩むとそんなもん。
終わり良ければすべて良し、過程なんか流れでどうにかしてしまおう。
愛さえあれば、……多分まあ大体は……上手くいくから。
物事には順序というものがある、それは分かっている。分かっていても、抑えは効かないのが世の常。後悔は先に立たない、事が起こらなければ何も始まらないのだ。私だけじゃない、みんな同じこと。
だからって、さすがにこれは無いだろう。ここまで強引な連中しか周りにいないなんて、全く世も末だ。いやまあ、類友と言われてしまえばそれまでだけど。
振り回される側は気の毒だ、と散々振り回している側が言うのもおかしいな。
でも私なんて優しい方だろう、一応気は遣ってあげてるつもりだし。
何て言うか、全ては大喜のせい。大喜が可愛すぎるから、揃いも揃って理性を無くしちゃうんだ。そう、私は何も悪くない。……その筈だけど、うん。少しだけ罪悪感はあるかな、少しだけ。
まあ今さらって感じではあるし、もう考えても仕方ないじゃないか。ここから切り換えていこう、そうしよう。
窓の外には名残りの雪が舞う、三月中旬。もうじき新しい生活が始まる頃合いだけど、私は過ぎ去った騒がしくも愛しい日々を思い返してみる。
あの秋合宿から色々あったけど、全てが輝く想い出だ。……その筈だけど、うん。うーん………………どうかな……。
紆余曲折はあっても、最後はうまくいくと思っていた。私の人生だ、主役はこの私。ぶつかって傷付いて、それでも私が負ける事はない。ヒロインは、私なんだから。
それが単なる思い上がり、取るに足らない錯覚に過ぎないと突きつけられて尚、私は退くことが出来ない。
付き合えないと言われて込み上げて来たのは、暴力的な衝動。こんな事は有り得ない、有ってはいけない。これじゃ私はただの――端役じゃないか。窓の外から射し込むキャンプファイアーの焔光は、まるで私を煽るかのよう。
……ふざけるな。こんな終わり方があってたまるか。
今はまだ私を好きにならなくて良い、それで構わない。なんなら暫く千夏先輩と付き合ったって良いんだ、最終的に私を選びさえすれば。必ずそうなると思っているから、このまま心地良い停滞に微睡んでいたいのに。
背を向けて歩き去ろうとする大喜に、私は全力で飛び掛かっていた。
暗がりの中で取っ組み合い、吼えるように想いを叩き込んで。気が付けば大喜に跨がり、マウントポジションになっている。ひきつった顔で私を見上げる大喜は、なぜかやたらと――可愛く見えた。
ああ、そうか。私は大喜を、こうしたかったんだ。制圧し従えたかったんだ。そう自覚すると臍の奥辺りが熱くなり、それが身体を染め上げていく。狂暴な雌の部分が目覚める、そんな激しい衝動が噴き上がるのが分かった。
どうしてもっと早く、こうしなかったんだろう。力尽くで組み倒して、モノにすれば良かったんだ。千夏先輩に遠慮なんかしないで、襲ってしまえば済んだんだ。
――襲う。その発想が現れた直後、ショーツの中に湿り気が涌く。胸の先がチクチクと痛痒く疼き、全身が興奮に包まれて体温は急上昇。
そうだ、してしまえ。このまま大喜と、最後まで。恋人同士ですることを、してしまえ。そうすれば大喜は、私だけのモノだ。
「――っ」
モゾモゾと服の下をまさぐり、大喜のそれ――オトコノコを手に掴む。勿論生まれてはじめて触れる、男の子の生殖器。硬く張り詰めた、肉の槍。
これを、私の中に受け入れる。それでもう、話は終わるんだ。責任をとれ、と被害者ぶって大喜を完全に支配してしまえ。私の身体はもう、それ以外考えられない昂っている。
跨がったまま僅かに腰を浮かせ、粘液に汚れたショーツを脱ぎ捨て息を呑む私。あとはもう腰を落とすだけで、大喜と私は特別な関係になる。
それで良いのかと囀ずる理性を脳の深くに封じ、これで良いんだと私は腰をゆっくりと沈めていく。どのみちもう、私たちは友達になんか戻れない。赤の他人になるか、それとも力尽くで関係を強要するか。もう私には、その選択肢しかない。
グチリと押し当たった粘膜同士が僅かに抵抗を示すも、重力を借りた縦ベクトルの移動力には意味をなさないまま。
「あ"、入……った、あぁ……」
身体の中を押し広げられる、今までにない感覚。小さな痛みはすぐに溶けて消え、やって来るのは焼けるような快感と満足感。大喜と繋がった、その事実がもう狂おしい程に気持ちいい。
ゾワゾワと背筋を昇ってくる甘い悦楽に身を任せ、意識するより先にズンズンと腰を動かしてしまう。その一瞬一瞬毎に瞼の裏へ電流が流れ、意識を刈り取られそうになる。こんなに気持ちいいのか、セックスって。オナニーはよくするけど、こうも違うものなのか。
いや、そうじゃない。大喜だから、だ。大喜としているから、こんなにも凄まじいんだ。
「ぅぁ、あぅ、やめ……出……っ」
暴れる気力さえ無くしたのかされるがままだった大喜、その口から絞り出された抵抗の言葉。
それは私にとって、むしろ興奮を煽るスパイスでしかない。
もっともっと追い詰めたい、もっともっと
頬を伝う涙を指先で弄んで、そう思った時だった。
ドクンと一際強い拍動が身体の芯へと向けて弾ぜ、大喜の身体からはフッと力が抜け落ちる。
それがなんなのか、私はそれを思考ではなく本能で理解する。射精した、ということ。大喜を最後まで、堕としきった。
心地良い充足感に浸ろうとした私はでも、次の瞬間に固まってしまうことになる。大喜が口にした、その言葉で。
「どうして、……こんな事するんだよぉ……っ。先輩も守屋マネも、みんな……みんな何で……俺にこんな事……っ」
いや、いやいや。いやいやいやいや、待て。なんだと、おい。
先輩、は千夏先輩だし守屋マネは菖蒲だわな。あいつらが「こんな事」……つまりは今の私みたいに跨がった、とでも言うんだろうか。
千夏先輩と大喜は同じ家にいるんだし、やろうと思えば不可能じゃないだろう。菖蒲は百戦錬磨のビッチギャル(死語)だから、そりゃあまあ慣れてるかもしれない。でも、だ。だからってまさか先越されてるなんて。
それになんだ、「みんな」って。他にもいるのか、大喜を押し倒した女子。……いや男子もいるかもしれない、なにしろ大喜可愛いから。バド部の針生って先輩さんとか、大喜とやたら距離近いし。あとは匡も匡で大喜大好きだからなぁ……うん。
どうしよう、容疑者が多すぎる。て言うか大喜の言い分が正しいなら、何度も何度もあちこちから襲われていることになるんだけど。大喜は公衆トイレじゃないんだけどなあ。しかし菖蒲ってば、どの面下げて応援するとか言ってたんだあんにゃろう。あとで締め上げてやる。
とりあえず、だ。
「……ゴメン。ホントにゴメン、でも今は泣き止もう? ね?」
涙を脱ぐってあげたり着衣を整えたり、私は事後処理に尽力する事となった。
色々と問題が山積みだけど、今はこれ以上踏み込めそうも無い。合宿先というのは込み入った話が出来る環境では無さすぎる、動くとしても明後日以降帰ってからだ。
大喜をなだめながらも、私の気持ちは安らがない。ああ、果たすべきタスクが多すぎる。
「可愛いからつい襲った、反省はしてない」
こうも簡潔に堂々と言い切る千夏先輩を前にすると、なんだか自分が間違っている気がしてくる。いや絶対千夏先輩がおかしいんだけどさ、具体的には千夏先輩の頭が。そんなカジュアルに人の好きな相手を襲わないでほしい、て言うかそもそも襲うな。なんなんだ、この人は。
そして更に頭が痛いのが千夏先輩以外にも、私たちの周囲には頭おかしい連中が揃っているという事実。菖蒲を詰問したら大喜が言った通りだったし、他も千夏先輩の友達とかそういう人たちに「摘まみ食い」されてるのは事実っぽい。なんだこの学校、アバズレしかいないのか。まあ私だって思い詰めて跨がったけどさ、これはほら純愛だし。私悪くないし。
とは言えどうしたもんだろう。
「えー……つまり千夏先輩も……いや千夏先輩
どうしたもこうしたも、私はそれをハッキリさせるしかない。傷口を自ら抉るに等しい行為だけど、曖昧にしてはおけない。真っ直ぐに正面から戦う為に、これ以上事態を拗れさせない為に。この人が単なる性欲任せで動くとは思えない、強い感情がある筈だ。私のように。他はともかくこの人をライバルとして扱うのは厳しいけど、こうなれば腹を括って戦うしかない。
そう覚悟を決めて見据えた千夏先輩は、でも。
まるで何でもない事かのように、いつも通りぽややんとした顔を崩さない。
その口から出る言葉もしかり、まるで緊迫する感じがないままぽややんとしていた。
「んー……
いや待て、待て待て待てコラ。喉まで出かかったその声を強引に押し込め、私は唖然としたままテーブルに突っ伏した。
なんだこれ、なんだこれは。この人なんなんだ、何をほざいているんだ。まさか、まさか。そうなのか、もしかしてそうなのか。
呻き声を漏らしながら思考をフル回転させ、ようやく絞り出した答えは――。
「ああ……千夏先輩、バカでしょ……」
確信した、この人壮絶なバカなんだ。器が大きいんじゃなくて底が抜けてる、モノを考えない人。張り合うだけ損だ、こういう手合いは。
私バカじゃないよーと私の頭をぽふぽふと叩いてくる千夏先輩の手を払い、考えを巡らせながら対峙する。
とりあえず必要なのは、勝つことじゃない。理解することでもない、受け止めることだ。
「じゃあ、……じゃあ。私と大喜が
「うん、持っていかれちゃうのは嫌だけどね。でも大喜くんも蝶野さんも良い子だし、みんな仲良しなのが一番平和だよね」
きっと千夏先輩はこっちの気持ちなんか分かっていないんだろうな、と思えど言質を取れたのは大きな進展だ。
私が大喜を独占しようとしない限り、千夏先輩は強く出ない。こっちもこっちで強く出られないけど、それでも血を見る必要はなくなった。
後は菖蒲か、でもあの子はそもそもの時点でお尻が水素より軽い蛸足配線女だからなぁ。本当にただなんとなく襲っただけで、別に大喜を好きとかは無いかもしれない。昆虫採集気分で男子引っ掛けてるらしいからね、あれは。バド部男子コンプリート、とか狙ってそう。
私がどうにか大喜を護らないといけないなあ、本当に。
全く変な使命感なんか出すもんじゃない。あれから何度、そう思ったことか。
可愛い可愛いと大喜に手を出そうとする連中をどうにか退けたり譲歩したり、由紀子おばさんと丁々発止でやりあったり。何で私がこんなに苦労しないといけないんだろ、とか考えたりもしたけれど。
でも、まあ。今こうして二人でいられるのは、日々頑張ってるお陰だろう。大喜の気持ちも段々と私へ向くようになり、どうにか告白も受け入れさせたし。
そして今日は大喜と二人きり、邪魔は入らないし入れさせない。卒業後もちょっかい出しに来る千夏先輩たちも、そして菖蒲たちも今日は来ない筈。そういう約束だ、約束はまもり合わないとね。
すいっと顔を寄せてキスを一つ、そしてそのまま大喜を抱き締めながら身体を背中側へと倒していく。たまには受け身になるのも良いからね、それに――あんまり激しく動きたくない理由もあるから。
普段いつもいつも乗られてるからだろう、少しだけ大喜は戸惑い顔。ああ、可愛いなあ。
交わすキスは熱く優しい、いつだって大喜はそうだ。気遣いばかりで、自分からはなかなか動けない。これはこれで気持ちいいけどね、うん。
だけどやっぱり、それだけじゃ満足は出来ない。
私との間で押し潰されている大喜のオトコノコを指でなぞり、その感触を確かめながら。私は自分自身にも指を這わせる。大喜以外の誰も知らない、その場所に。……大喜はいろんな子のを知っているわけなんだよね、私としては少し不本意な話ではあるけど。まあ、誰がどう気持ちいいとかそんなのは一度も口にしていない。気を遣っているのか、それとも個体差なんてそんなに強いもんじゃないのか。
別に良いんだけど、さ。
力を抜いて身体を委ねる、されるがままになる。これが意外と難しいんだな、余計なことばかり考えてしまう。集中集中、ってそれも変か。
密着する箇所は少しずつ動き、やがてようやく
僅かな硬直を経て、大喜が私の中へずにゅりと音を立てて入って来た。のし掛かるのとはベクトルが逆だからか、内側を抉る感覚はいつもとは大きく違っている。でも悪くない、というか結構好きかもしれないな。優しくゆっくりと私の中を染めていく、じんわりとした快楽。もし最初にこれを知っていたら、とも思ったり。あんなドタバタしなかったろうし、大喜も泣かせずに済んだのにな。
まあ文字通り、済んだことだけど。
「大喜、動ける? あんま無理しなくても良いけどさ、好きなようにして良いからね」
「ぇあ、……うん。頑張る」
ホントに可愛いな、なにこの小動物。必死で腰を振る姿もまた可愛い、いつもみたく上からするのも好きだけどこっちも良いな。
おっかなびっくりの動きはやがて、ゴリゴリと内壁を削るようなピストンへと移り変わっていく。調子が出てきたようで、何よりだ。
お腹の奥で何かが迸って尚、腰のグラインドは止まらない。射精しながらもまだ大喜は私を悦ばせようと頑張ってくれている、それが堪らない。
きっと私の粘膜は、大喜の色に染まっている事だろう。
ああ、ああ――幸せだな。
何度も何度も精液を放ち続けたせいだろう、いつの間にか大喜は崩れるように眠ってしまった。
こっちも一眠りしようかとベッドに転がって、目を閉じかけた所で私は思い出す。言うべき事を言っていない、と。
「あー……忘れてた」
サイドボードに置きっぱなしなバッグから手探りで取りい出したりまするは、先日交付された小さな手帳。それもただの手帳じゃない、所謂母子手帳と呼ばれるものだ。ちゃんとした名前は母子健康手帳なんだけど、長いからね。
まあ、あれだ。こんだけ高頻度でガンガンやりまくってれば、こうなるのは当然だろう。千夏先輩たちももしかしたら当たっているかもしれないけど、私が知る限り大喜にそういう話をした人はいない。私が先を越した形だし、これを盾にしてどうにか法的にくっついてしまおう。
そうすれば大喜は正式に私の配偶者になる、これで一応の勝者は決まるわけだ。まあでも、あの連中が大人しく諦めるとも思えない。これからも大喜を巡って、どったんばったん大騒ぎする日々が続くかも。そもそも大喜がどう出るかだな、ホントにこの小動物は可愛いだけで打たれ弱い子なんだもの。
どうなろうとそれはそれで、楽しいだろうけどさ。
賑やかで無作法で、支離滅裂で。そんな私たちの毎日は終わらない、きっとずっと。