表面上は嫁姑関係の延長線にある問題ですが、本作においては義母と息子の関係性の味付けに過ぎません。ヒロインが抱えていた悩みが、姑の一言で噴出したという感じです。
酒浸り展開は趣味の極致です。酒に溺れる女と汚い叫び声を上げる女が大好きだというもの。特に後者は最近YouTubeで見放題聞き放題ですね……
次回は開幕セックス。若干違和感のあるシーンとなりますが、そちらは次々回で明らかになっていく予定です。
平穏は突如として打ち破られた。俊也が疎遠となっていた実家へと呼ばれ、家に関する重要な話があるとして呼び出される。
「放っておくことは、出来ないんですね。」
「そうだね。私もそうしたいのだが、今回は関してそうもいかないようなんだ。」
俊也の実家である橘家は富に恵まれており、彼自身も経済的には余裕を持つ人間であった。しかし、その実家とは折り合いが悪く、彼は若くして早々に独り立ちして、一人で財を成して家庭を持ったという経緯があった。
「私もあなたに甘えてしまって、ご家族への挨拶をしてませんでしたからね。」
「いや、それは別にいいんだ。一応、実家や兄弟が私と真希が再婚したということは知っているのだから。」
不義理を働いているのではないかと後ろめたさを感じる真希。俊也はそれを否定しつつ、彼女に対して言葉を続ける。
「ただおそらく、今回呼ばれたのは実家の問題……いや、勝手な都合なのだろうから。」
「俊也さん?」
いつになく暗い顔を見せる俊也。仕事を終えて疲れている時は異なる、深刻さを帯びた表情に真希もまた不安を抱く。
「すまない真希……迷惑をかけてしまうと思うから、あらかじめ謝っておく。」
「そんな……!俊也さんが私に謝ることなんて何も……!むしろ、私のほうこそあなたには……」
「君だけじゃない。きっと典也にも、弘希にも……家族に迷惑が掛かると思うから、せめて……」
今日は既に寝床へと就いていた典也のことを考え、真希は俊也に対する罪悪感を吐露しそうになる。しかし、彼がそれを気にする様子はなく、むしろ彼女だけではなく典也、さらには弘希に対する詫びの言葉を口にする。
「……家族という関係に、囚われているんですね。」
「そうだね……私はずっと、真希と会う前から……いや、家を出た時からずっと、そんなもの縛られているよ。」
俊也が『そんなもの』と呼ぶ彼の家族たち。真希は妻として夫に憐れみを感じつつも、彼の過去に立ち会うのであった。
◇
帰省当日。広大な敷地に建築された大きな屋敷を前に、俊也と真希、そして彼女が抱き抱えた弘希は辿り着いていた。
「緊張しているんですか?」
「いや、そうでもないかな。まぁ……ここへ帰ってくるのは久しぶりなんだけど。」
腹を括った様子の俊也。一方で彼は夫として、真希を気遣う言葉を口にする。
「君のほうこそ大丈夫かな。こういった場所は、あまり慣れていないと思うのだけど。」
「私も、平気ですよ。ただ……少し、胸の辺りが苦しい感じがして……物理的に。」
「そ、そうか……」
抱き抱えていた典也を産んだことで、彼女の乳房はより膨らみを増しており、それに対する窮屈さだけを訴えるのであった。
◇
屋敷内で仮初の歓待を受け、俊也と真希は本題を語るための広間へと通される。そこには既に、俊也の両親、そして彼の兄夫婦が待ち構えていた。
初対面である俊也の家族に会釈をしつつ、広間の席へと入る真希。しかし彼女は、その者たちが自らへ向ける視線に、限りなく不快感に近い違和感を抱く。
「初めまして、俊也さんの妻の真希です。」
「あらぁ、あなたがこの子の……話には聞いていたけれど、やっぱりずいぶんとお若いのねぇ。」
高貴さを隠すどころか、惜しみなく露わとしていた和装の母親。表面上は歓迎している様子であったものの、やはり真希はその応対に影を感じていた。
「まぁ、とりあえずは座ってください。俊也も……そこへ。」
「あ、ああ……」
真希への応対が客人へのものらしい一方、夫である俊也に対するものは素気ないどころか、刺々しささえも滲み出るものであった。
それは彼から事前に聞いていた、親子仲の悪さを考えれば当然のことだと真希は思う。しかし、それでも真希は未だ気付かずにいた。この家族が抱える悍ましい感情の恐ろしさを。それが、彼女自身を過酷な道へと向かわせることも、まだ理解していないのであった。
◇
俊也と真希が実家へと呼ばれた理由。それは、橘家の後継者問題であった。
「お話の意図が、いまいち分からないのですが……」
「あら、真希さんだったら、分かってくれると思ったのだけど。」
俊也の兄夫婦は子宝に恵まれず、このままでは長男に家を継がせることが出来ない、それが両親の考えであった。
「いまさらどうすることも出来ないというもの。」
「2人とも、私たちとは仲良くしてくださっているのだけどねぇ。」
俊也に対する当てつけのように、兄夫婦を褒めちぎる母親。しかし、それでも跡継ぎの問題が消えることはなく、そのために呼び出されたのが弟の俊也であった。
俊也には2人の子供がいた。一人は前妻との間に生まれた典也。そして、真希との間に生まれ、いま彼女が抱き抱える弘希。2人の男児がいるという事実は、跡継ぎに悩む実家にとっては非常の魅力的なものであった。
「赤ちゃんが生まれて、典也くんも肩身の狭いんじゃないかしら。真希さんも、大きな子がいては色々大変でしょ。」
「いえ、私はそんな……」
「いい加減にしてくれ……!典也は私たちの息子だ!弘希と一緒に、真希と私の大切な……」
両親と兄夫婦の要求はただ一つ、典也を兄夫婦の養子へと出すこと。そのために、不仲であったはずの俊也を実家へと呼び戻し、後妻となっていた真希に対しても典也を差し出すよう促しているのであった。
「典也は、私の息子です。例えこの子が、弘希がいても……あの子は……!」
弘希の親であると共に、典也の母親であることを言葉で示そうとする真希。だが、そんな真希に向けて俊也の母親は無慈悲に言葉を返す。
「でも、本当の子供じゃないわよね。典也くんはあなたの夫、俊也が前妻との間に作った子供なのですから。」
その瞬間、俊也の母が放ったその一言が、母親としての真希を殺した。
心身を引き裂かれるような感覚へと陥り、自らを否定された果てに全てを失う。色を失った真希の代わりに、俊也は声を荒げようとする。
「それは……!」
「俊也、お前が息子と上手くいっていなかったことは知っている。前妻である彼女との間に出来てしまった子だ。母さんの言う通り、いまはそうでなくとも、いずれ家には居づらくなるだろう。」
身勝手極まりない価値基準を俊也へと押し付ける両親。さらには、それまで沈黙を続けていた兄夫婦の夫が口を開く。
「俊也、親父とお袋がどれだけ大変な思いをしているかは分かっているだろ。それに、あまり言いたくはないが、お前が出ていったしわ寄せは、全部俺のほうに来ていたのだし。」
「そんなことを……今更になって……!」
甘い言葉で家族への孝行を促す者たち。それに対して俊也もまた、親しき者を顧みずにいた後ろめたさから、言い返す言葉を失ってしまう。
「まずはこの家で一時的に預かり、慣れたら正式な養子となってもらう。心配するな、みんな幸せになるのが一番なのだから。」
ものを言わなくなった真希の隣で、俊也は自らと血を分けた者たちに憎悪の眼差しを向ける。美辞麗句を並べた悪意に晒される夫婦に、為す術はないのであった。
◇
真希は一人、典也が帰宅をする前に家路へとつく。赤子を抱き抱えたまま、両手には多くの荷物を抱えたまま彼女は覚束ない足取りで室内へと入っていく。
「あらあら、今日は賑やかなところにいたから、疲れちゃったのかしらね。」
抱っこ紐の中で静かな寝息を立てる弘希の頭を撫でる真希。起こさぬよう慎重に乳児用ベッドへ弘希を寝かせると、彼女は着替えるために自室へと向かう。
「…………」
一人となった真希は、赤子をあやしていた顔とは打って変わり、目からは生気が失われ、虚無感の溢れ出た雰囲気のまま衣服を脱ぎ捨てる。
『でも、本当の子供じゃないわよね。』
義理の母から放たれた無慈悲な一言。真希は彼女の言葉を否定出来なかった。真希自身、それは誰よりも理解している事でもあった。
そして何よりも、それが事実であるからこそ、彼女は典也との爛れた関係を持ち続けていた。血の繋がりが無い義理の親子という関係。だがその事実を指摘され、自らの存在を否定されることを彼女は何よりも恐れていた。
「そうよ……本当の親子なんかじゃないのよ。私と典也は、親子なんかじゃ……」
事実を受け容れ、肯定し、自嘲する真希。それは彼女に、何よりも耐えがたい屈辱と苦痛、そして喪失感を与えるのであった。
「私は弘希のお母さんだけど、あの子の……典也のお母さんじゃ……!」
だが、自らを母と呼び慕う典也を思い出し、彼女は再び心身を引き裂かれるような感情に襲われる。それに耐えかねた身体をベッドへと放り投げ、真希は顔を埋めて溢れ出る涙をベッドシーツへと染み渡らせる。
「イヤッ……もうイヤっ……こんなの私……!私は……私はあの子の……!あぁっ、あぁぁぁぁっ!!!!!」
締め切った部屋に響き渡る、人間とも思えぬような慟哭。その咆哮というに相応しい叫び声を、自らを母親であると思い込んでいた女は、声が枯れるまで絶望の叫びを放ち続けるのであった。
◇
「ただいまー」
両親から帰りが遅くなると聞いていた典也。学び舎から帰宅した彼は、合鍵を使って玄関のドアを開けると、無造作に履き捨てられていた母親の靴を見つける。
「あれ、お母さんは帰ってきているんだ。」
特にそれを疑問に思うことなく、典也もまた靴を脱ぐと家の中へ足を踏み入れる。少し遅めとはいえ、いつも通りに帰宅を果たし、普段と同じく洗面所で手洗いうがいを済ませ、彼はリビングへと向かう。
「お母さんだけ先に帰ってきて……お父さんはまだ……」
リビングにいるであろう母に声を上げながら、閉じられていたドアを開ける典也。しかし、彼はその室内に広がっていた光景にわが目を疑うのであった。
「お、お母さんっ!?」
「………」
物言うことなく、リビングのテーブルに突っ伏して微動だにしない母親。自らを出迎えることはおろか、声を上げることもない彼女の姿に典也は戸惑いと驚きを隠せずにいた。
「お母さん……一体何が……うぅぅっ!?」
そして、そのまま室内へと足を踏み入れた瞬間。典也は鼻から脳を刺激する強烈な刺激臭に顔を歪める。幼くとも彼にはそれが、成人した人間が嗜むアルコール類であることを感じ取るのであった。
「凄い匂い……!こんなにお酒の匂いがするなんて……どうして……!」
室内に充満した酒気に思わず口と鼻を手で塞ぎながら、母が突っ伏すテーブルへ目を向ける。そこには既に飲み干して、空になったと思われる無数の酒缶が転がっていた。
「んんっ……んんぅ?んぁぁ……あぁ、お帰りなさい典也。遅かったわね。」
「お、遅かったって……今日帰りが遅くなるっていったのはお母さんたちじゃ……」
リビングに入ってきた典也が声を上げることで、ようやく目を覚ました真希。だが、その上げた顔の目は虚ろであり、彼女が彼を息子として認識しているかも定かではなかった。
「そう……だったかしら?でも、どっちでもいいわぁ。んんぅぅ……あぁぁ……そうだ。弘希にお乳を上げないと……」
虚ろな様子のまま、おもむろに椅子から立ち上がろうとする真希。しかし、2本の足で立ち上がった瞬間、彼女は即座によろめき始め、若干の千鳥足を見せた後に床へとへたり込んでしまうのであった。
「大丈夫なの!?」
「え、ええ……だいじょうぶ……よぉ。私、ちょっと酔って動けないだけだからぁ。」
決して大丈夫でないことは、子供である典也が見ても明白であった。そして駆け寄ってきた彼に対して、真希は母親としての仕事を彼に頼む。
「ごめんね。今日は弘希にお乳上げられないから、お酒と一緒に買ってきたミルクを飲ませてあげないと……」
「うん、わかった。オレが弘希に上げるから。お母さんは休んでて。」
「ええ……ありがとう典也。やっぱり、もう立派なお兄ちゃんに……」
感謝の言葉を伝えながら、思わず典也の顔を目にした真希。義理の息子が見せた不安げな顔を見た瞬間、彼女の中に再び感情の渦が逆巻き始めてしまう。
「お母さん、本当に大丈夫?」
「え、ええ……大丈夫よ。私は……お母さんは本当に……お母さんは……私は……うぅっ、えぐっ、あぁぁぁぁぁっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
典也の前で自らを母と称した時、真希の目から大粒の涙が零れ始める。そして、彼が心配して見守る中、彼女は声を上げて泣き始めるのであった。
「ごめんなさいっ!典也……本当に、ごめんなさいっ……!私、わたしっ……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ちょっ……お母さん、絶対に大丈夫なんかじゃ……あぁぁっ!?」
真希の泣き叫ぶ声に弘希が目を覚まし、安眠を妨げられたであろう赤子は母親と共に泣き声を上げ始める。
「弘希まで……!ああもうっ!とにかくミルクを上げて弘希だけでも大人しくさせないと……!」
真希に何があったのかを理解せずにいた典也。しかし、自身よりも遥かに幼い赤子を放っておくことは出来ず、彼は母親の代わりに弘希の世話を始めるようとしていた。
◇
典也が弘希にミルクを飲ませ、さらに酔いが醒めつつあった真希がおむつを取り替え、2人はようやく話が出来る環境を整える。
「さっきはごめんなさい。わたし、あなたにあんな姿を見せてしまって……」
「ううん……別にオレは気にしてないから。」
リビングで寝かし付けた弘希を起こさぬように、真希の部屋で話を続ける2人。彼女のあられもない姿を目の当たりにして典也は、その言葉に反して母親に対する興味を抱いていた。
「お母さん、お酒を飲む人だったんだ。」
「そうね。でもほとんど飲まないし、あまり強くもないから。俊也さんと一緒になってからは、一度も飲まなかったわ。」
さらには弘希を妊娠したことで、飲酒が与える影響を考慮して、真希は酒類の一切を飲まなくなっていたと語る。その彼女がなぜ、醜態を晒すほどに酒に溺れたかを典也は疑問に思っていた。
「お父さんの家に行って……何かあったの?」
「………」
典也の核心を突いた問いに、真希の顔が曇る。しかし、彼もまたそれを承知の上で、彼女に対してその問いをぶつけていたのであった。
「ねぇ典也……あなたは、自分を産んだお母さんの顔を覚えてはいないのよね。」
「えっ?う、うん……」
話は真希と典也が出会うよりも前、彼の父である俊也と前妻である女性が出会い別れた時まで遡る。典也に物心がつく前に俊也は彼女と別れ、彼は母親の顔を知らずに育ってきていた。
「本当のお母さんに……会ってみたいと思う?」
「えっ……?うーん……よく分からないけど、別に……そうでもない、かな?」
卑怯な質問であった。母親というものを知らない彼に対し、実母の存在を問い、真希は母親という存在が誰であるかを確かめようとしていた。そして、典也は彼女の期待通りの言葉を口にする。
「オレにとってのお母さんは、いまここにいるお母さんだけだよ。でもたぶん……その、普通のお母さんと子供の関係とは、ちょっと違うんだと思うけど……」
「ふふっ……!そうね、ちょっとじゃなくて、本当はすごくおかしいんだけどね。」
どれほど歪な関係になろうとも、典也の父である俊也の妻となった真希は、彼の母親に変わりはなかった。それを確かめることが出来た彼女は、微かに安堵の表情を息子に向ける。
「典也、これから私が話すことは、とても大切なこと。今はよく分からないかもしれないけど、絶対あなたの将来に関わることなる大切なことよ。お願いだから、よく聞いてちょうだい。」
「う、うん……わかった。」
ベッドに2人で寄り添い座っていた真希。彼女はおもむろに立ち上がると、典也の前に膝をついてしゃがみ、彼の両肩に手を当てる。そして、彼の目を真っ直ぐに見つめ、真剣な眼差しで話し始めるのであった。