※この作品はR-18です。

義母と息子の境界線   作:Scorcher

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エピローグです。非常に平和な離婚手続きのシーンから始まります。円満離婚という言葉が存在するのか定かではありませんが、あるとすればそれに該当するのかと思います。

後はほとんど修羅場です。札束で元夫の家族を黙らせて立ち去るパワー系ヒロインです。お金の出どころはあとがきで。

そしてゲストキャラとして真希の妹が登場しています。本当は典也とのアレなシーンも考えていたのですが、シナリオに不具合が出そうだったので、不憫なチョイ役になりました。彼女の活躍は陸上部のアイドルシリーズで(以下略)


13.清算の時

「本当に……これでいいんだね。」

「ええ、私にはもう……後悔も何もありませんから。」

 

机を挟んで座る俊也と真希。2人の間には夫婦関係を解消するための書類、離婚届が置かれており、真希は既に判を押して夫へと差し出していた。

 

「弘希が生まれた時から、こうなるということは薄々思っていたよ。ずいぶんと迷惑をかけてしまったね。」

「いえ、私のほうこそ……俊也さんには良い経験をさせていただきました。」

 

俊也もまた書類に判を押し、晴れて2人は赤の他人となる準備が整う。そして真希は、彼に向けてさらに言葉を続ける。

 

「これで私も、あなたと同じバツが付いた人間になりました。ずっとあなたと同じですよ、俊也さん。」

「うぅっ……そ、そういう言い方はさすがに。それに、私のほうが一つ多いからね。」

 

不仲ではないが故に、俊也と半ば同等の身分を得たことに喜びを滲ませる真希。俊也は自虐をしつつ、彼女に対する求めを口にする。

 

「典也のこと、よろしく頼む。もちろん、弘希のことも。」

「ええ、お任せください。」

「何か助けが必要になればすぐに言ってくれ。出来ることが何でもするから。」

「ふふっ。しばらくは大丈夫だと思います。それよりも、弘希の成長を楽しみにしていてください。きっと、あなたにも似ていると思いますから。」

 

他人となった俊也に対し、真希は妖しさに満ちた表情を向ける。そして彼は、そんな彼女に対して恐れを感じつつ言葉を返す。

 

「はぁ……まだ、お爺ちゃんと呼ばれたくはないんだけどね。」

「あら、私のお相手をしていただけないのでしたら、もうお若いとは言えない年頃ですよ?」

「君は典也で満足してしまったじゃないか。そう、私が満たせなかった妻を、あの子は満たせていた。情けない話だが、それでいいと思う自分がいたんだ。」

 

俊也は多くのことを理解しつつ真希との関係、そして実の息子である典也との関係を変える決意をしていた。そして、家族という存在から解放された彼は自嘲しつつも、伴侶であった真希に対して感謝をしているのであった。

 

「でも、これで終わりじゃありませんよ。これは俊也さんにとっても始まりなんですから。あなたの息子と、新しく出来る娘を見守る最初の一歩。」

 

自らを娘と称する真希に、呆れつつも笑みを浮かべる俊也。そして彼女もまた笑みを浮かべ、彼に別れの挨拶をする。

 

「これからもよろしくお願いしますね、お義父様。」

 

 

 

◇

 

 

 

屋敷の前には俊也の両親、そして彼の兄夫婦が待ち構えていた。彼女は門をくぐると、その家族たちの下へ一人で歩いてくる。

 

「あら、真希さん。典也くんはどうしたの?今日はあの子を預かる日なのだから、本人がいないと……」

 

典也を養子として引き取るつもりでいた俊也の家族。しかし、そこに現れたのは典也の義母である真希ただ一人。そして彼女は、誰も連れてはいない代わりに、その両手に重量を感じさせるドラムバッグを持っているのであった。

 

「本日は、ご報告のためにこちらに参りました。」

 

真希は以前と同じように会釈をすると、訝し気な表情を見せる家族たちに対して話を始める。

 

「私、橘真希は、橘俊也と離婚を致しました。」

「なっ……!?」

「な、なんでそんな急に……!?」

 

彼女の言葉に驚く俊也の兄夫婦。一方の両親は微かに反応を見せたものの、身勝手な嫁の行動以上のものではないと冷静であった。

 

「別に、あなたが俊也と別れることに私たちが口出しすることはありません。それよりも、典也はどうしたのですか?」

 

俊也の母、真希にとっての義理の母は、真希の身の振り方など眼中にないといった様子で、彼女に対して典也の居所を問い質す。それに対して真希は、自身と典也の関係を軽視した義母に対して宣言する。

 

「典也は私の息子です。あの子は私が育てていきます。もちろん、私が産んだ弘希と一緒に。」

「なっ……何を言っているのあなたは!?典也とあなたは赤の他人で……あの子は私たちの世継ぎに……!」

「申し訳ありませんが、お断りします。あなた方に典也をお渡しすることは出来ません。」

 

俊也の両親、そして兄夫婦に典也を預けることを拒絶した真希。その態度を明確な敵対行為であると認識した家族たちは、彼女に対して激しい剣幕で詰め寄ってくる。

 

「ふ、ふざけるな!俊也に親権が残るならともかく、どうしてあんたに親権が……」

「俊也さんは認めてくれましたよ。私と、典也と弘希が一緒に暮らすことを。」

「どういうことよ……!?大体、女一人で2人の子供を育てることなんて……!」

「心配しないでください。お金はもちろん、それ以外のことも当面は問題ありませんから。」

 

狼狽えた様子で声を荒げる兄夫婦。それに対して真希は、挑発的な笑みを浮かべながら、彼らを窘めつつも煽り立てる。

 

「っ……!あ、あんたなんかの心配をしているわけじゃなくて……!」

「そんな身勝手なことが許されると思って……!」

 

憤怒の形相で真希に対して食って掛かろうとする兄夫婦。2人に対して真希は、両手に持っていたドラムバッグを振りかざすと、その側面を夫婦の顔面へと叩きつけるのであった。

 

「ぐぶぅっ!?」

「ふぶぅぅっ!?」

 

それぞれが一撃で伸される夫婦。それと同時に、真希が振りかざしたドラムバッグの中からは、無数の紙幣が飛び散り、倒れた2人へと降りかかるのであった。

 

「そのために本日は、こうして手土産を携えて参りました。ふふっ……俊也さんからは伺っていましたよ。ご実家のお金を相続するために、典也を養子にしたいのだと。」

 

満面の笑みで怒気に満ちた言葉を吐き捨てる真希。そして彼女は倒れた2人の人間の上に札束の詰まったドラムバッグを一つ投げ捨てると、恐れ戦く俊也の両親へと目を向ける。

 

「こ、こんな……金で全てを解決しようとするなんて……!」

「お金を巡って醜い争いをしていたのは、あなたたちなのでは?少なくとも私は、これほどの額を持ってくれば納得していただけると思ったのですが……まだ、足りないでしょうか?」

 

もう一方の手に携えたドラムバッグを振り回しながら、真希は笑顔のまま義理の両親だった夫婦、そして今後は義理の祖父母になるであろう者たちへと迫る。

 

笑顔の中に滲ませる純然たる狂気。金銭と暴力で全てを支配し、血の繋がりしかない者たちを蹂躙する彼女の所業の原動力は、我が子を守ろうとする母性であった。

 

「あ、あの子が……あの子がうちに来なかったら……我が家は一体どうすれば……!典也の義理の母であるあなたが、どうしてこんな……!」

「……さぁ?私には関係のないことです。典也と私は親子ではなく、赤の他人ですから。」

 

憎悪の眼差しを向ける義母、そして絶望に顔を歪ませる義父。悍ましい意志の上に幸福を築こうとした2人の人間に向けて、真希は抱えていたドラムバッグを渾身の力で投げつける。

 

「っ!!!!?」

「ぎゃっ……!」

 

激突の衝撃で夫婦は吹き飛ばされ、兄夫婦と同様に地へと伏せる。寸刻のあいだ宙へと浮いたドラムバッグの中からは、無数の札束が解けたことによって大量の紙幣が舞い続けるのであった。

 

「どうか皆様はお幸せに。私は……私の子供たちと一緒に、とても不幸な道を進みますので。」

 

両手に携えていた札束入りのドラムバッグを投げ捨て、真希は何一つ持たぬ者となる。そして、その空いた手を彼女は自らの腹部へと優しく当てる。

 

地に伏した家族たちと、風に煽られ舞い続ける大量の紙幣。真希は自らの作り上げた所業の残骸に背を向け、再び門をくぐるのであった。

 

 

 

◇

 

 

 

真希が橘家の実家を訪れてから月日が流れたある日。彼女の周囲には喧騒が響き渡り、それに対して母親の眼差しを向けていた。

 

「うぅっ……ヒロくん重いよぉ……!ちょっと前までは簡単に持ち上げることが出来たのにぃ……!」

「み、未希お姉ちゃん……大丈夫?」

 

典也が不安そうに見つめる中、未だ幼い弘希を抱きかかえる女。真希の妹である未希は、実家の近所へと移り住んだ姉、そして子供たちの住居へ頻繁に足を運んでいた。

 

「うん、大丈夫。私も結婚したら赤ちゃん欲しいし。その練習にもなると思うから。」

「その前に、あなたはしっかりと相手を決めないとね、未希。」

 

そう声を上げつつ椅子に腰を掛け、自らの身体を労わる真希。彼女が擦る自らの腹部は、再び大きく膨らみ始めているのであった。

 

「もう……本当はそうしたいけど、慧がもう少ししっかりしてくれてないと、一緒になるのも難しいんだよ。」

「そうね……そういうことにしておきましょうか。」

 

奔放な妹に対し彼女は呆れた笑みを浮かべる。しかし、我が子を抱きかかえ、子を持つに未来に心を躍らせる彼女の姿に、真希は姉として安堵もしていた。

 

「うーん……ヒロくんは、お姉ちゃんに似ているのかな?典也にも似ている気がするけど……」

 

弘希の顔を覗き込む未希は、その顔が誰に似ているのかを考えこむ。無邪気に笑う幼子に自らの姉の面影を感じつつも、彼女は典也に似た雰囲気を感じる。

 

「ねぇ、典也はヒロくんがどっち似ていると思う?お父さん?それともお母さんかな?」

「えっ……ええっと……それは……うーん……」

 

典也は半ば事実を把握していた。未希が抱えている弘希が俊也と真希の間に出来た子供ではなく、自身と真希の間に生まれた子供であると。未希はそれを知らずに、ただ直感的に弘希に真希と典也の姿を感じているのであった。

 

「俊也さんと似ているに決まっているでしょ。その子は私が産んだ子だけど、典也の弟なのよ。」

「そ、そうだよお姉ちゃん。弘希は俺の弟なんだから。」

「えっ?ヒロくんのお父さんって、典也でしょ?」

「なっ……!?」

 

未希が何食わぬ顔で放った言葉に、典也は狼狽えて声を詰まらせる。一方の真希は天然気味な妹に対し、呆れた様子で言葉を返す。

 

「まったくもう……典也をあまり揶揄わないでくれるかしら。弘希の父親がどっちかなんて、今となってはどうでもいいことなんだから。」

 

俊也か典也か、そのどちらであっても自らが産んだ子に変わりなく、弘希を典也と共に育てていくことを決意していた真希。そして彼女は、自らの身体に宿った新たな命に対しても弘希、そして典也と同じように愛情を注ぐつもりでいた。

 

「えへへ……それじゃあ、ヒロくんをお風呂に入れてくる。ほら、典也も一緒に入ろ。」

「えっ!?お、オレも……!?」

 

未希に誘われ、弘希と共に風呂へ入ることを求めてくる未希。彼女には一切の疚しさが伺ない一方で、典也はさらに彼女に対する焦りを露わとする。

 

「で、でも……その……」

「別に恥ずかしがることなんかないでしょ。でも……ついでに典也がどれくらいオトナになったか確かめちゃおうかな。」

「うぅっ……!」

 

典也とは一回りも離れていない真希の妹である未希。肉感に溢れる真希とは異なり、その身体は見事な引き締まりを見せている一方、姉よりも控え目ではあるものの豊満といっても差し支えない乳房に対し、典也は女を感じてしまっていた。

 

「はぁ……未希、あなたに一つ、いいことを教えて上げる。」

「んっ?何?」

「典也はあなたのことを姉と慕っているけど、私は既に子を持つ親。そしてあなたと弘希は甥と姪という関係。つまり……」

 

奔放かつ傍若無人な振る舞いを見せようとする妹に対し、真希は痛烈なたった一言の事実を突き付ける。

 

「あなたはお姉ちゃんじゃなくて、叔母さんなのよ。」

「わ、私が……お、叔母さん……?で、でもまだ私20代だし、そんな風に言われる歳じゃ……」

 

自らに同意を求めようと、先程まで揶揄っていた典也の顔へ目を向ける未希。しかし彼は、弘希を抱きかかえる叔母に対し、ただ一言だけを口にするのであった。

 

「……ごめん。」

 

僅かな沈黙の後、未希は白目を剥き、ぽっかりと開いた口からは白い魂魄が排出され宙へと舞う。そんな彼女が弘希を抱えるのは危険と判断し、典也が丁寧に幼子を受け取り風呂場へと向かう。

 

「ほら未希、典也一人じゃ大変なんだから、手伝ってあげて。私も食事の支度をするから、それまでに上がってきてね。」

「わ、わた……わたしが……お、おば……オバサン……」

 

真希の妹がその事実にようやく気付き、それを受け容れるまでにはもうしばらくの時間を要するのであった。

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