A.そして朝が来て、前へ進め。
11_
誰かが微笑んでる・・・気がした。
気がしたのは、それを確認していないからだ。
でも・・・。
【お願いね。】
「ん・・・。」
身体が重い・・・。
覚醒したてだからというより、寝覚めが悪い。
ただ何時も視る夢と違っていて、自分にしきりに何かを訴えている存在が何かが解らないのは相変わらずだ。
けど・・・。
「お願いね・・・か。」
何を?
とりあえず、目覚ましの上部を押してアラームを解除しておく。
樹の上に啄木鳥が止まっている目覚まし時計。
それにしても何で啄木鳥?
別に他の鳥でも、それこそ鶏でも構わないと思う。
何故、こんな事をぼんやりと考えているのかというと、AM8:00
ザ・遅刻。
"ザ"は特に意味はない。
ただの現実逃避だ。
それでも無駄な足掻きをしようとして、着替えを始める。
「ん?何だこれ?」
着替えている最中に、視界の隅に鏡が見えた。
鏡の中の自分の背中。
その背中のところどころに何かをえぐったような痕が。
どう考えても傷痕だ。
けど、全然痛くな・・・。
「ぁ・・・。」
マミ先輩とした時の傷・・・だけど、あれ?
僕はその後、どうやって自宅に帰ったんだろう?
それにこの傷痕は、既に治りかけている。
なんだか、時間経過があやふやになってる気が。
ぼんやりと考えながら、着替えを終え家を出る。
勿論、走る気なんてしない。
ある意味、ダメなコの僕。
「なぁんて。」
「遅刻だよぉーっ!!」
悲鳴がドップラーしてら。
「あ、おはよう。」
聞こえたかな?
首を傾げるていると、悲鳴がリターン。
薄い蒼色のショートヘアを靡かせた少女が僕の目の前で止まる。
丸顔のあどけない表情。
常に困ったような目をしているのが印象的で・・・て、それは僕の主観だと思うけど。
「止まらない。走れ、遅刻するぞ?」
「うぅ・・・なんか、あたしが走ってるのがバカみたい。」
実は弱気な彼女の言葉は、更に尻すぼみになっていく。
困ったな・・・彼女のこの目を見ると弱い。
「大丈夫。さやかは何時も一生懸命空回りだ。」
「・・・・・・空回りって。」
選択肢をミスったのは、彼女の眉が更にハの字になったのを見れば、一目瞭然だった。
「平常運転ってコト。さやかは何も悪くない。というより、考え過ぎだよ。」
さやかは本当に常に一生懸命だ。
しかし、それを評価される事は少ない。
よく気がつき、気を遣う彼女は・・・僕の?
「もぅ・・・"幼馴染"だからって何を言ってもいいってワケじゃないんだよ?あたしだって傷つくの。」
「知ってる。繊細過ぎるんだよな。」
僕は彼女より優しい女性に会った事がない?
何で疑問系?
まぁいいや。
「むぅ。」
「ただ結果は出てないかも。僕、遅刻しそうだし。」
彼女の気遣いに僕は既に触れている事に気づいた。
「そうだよ?あたしのプレゼントした目覚まし時計、ちゃんと使ってくれてるの?」
目覚まし・・・あか、そうだ、あの啄木鳥はさやかのセンス。
僕の誕生日に、朝に弱い僕の為に買ってくれたんだっけ。
「とりあえず、遅刻ギリギリには起きられるようになっ・・・。」
事実を冷静に述べようとする僕に対して、さやかがちょっぴり泣きそうになってるのに気づき、慌てて口をつぐむ。
「いや、うん、まだ遅刻したってワケじゃないな。」
仕方が無い。
別に僕が彼女を泣かしていい理由はないんだ。
「よし、走ろう。」
「え?あ、ちょ、ちょっと!」
僕の言動に完全に抵抗や反論の類いが出る前に、さやかの手を取って走り出す。
柔らかくて、そして何よりも・・・。
「ちっちゃいな、さやかの手。」
イメージしていたよりも小さくて、柔らかくて、あったかい。
彼女の優しさと同じで、何故かほっとしてしまうサイズ。
「は、恥ずかしいよ・・・。」
「校門の近くまでの辛抱だ。」
遅刻はしない程度の距離までと言ってもいい。
他にもう一つ、クラスメート、特にある人物に見られないようにする為だ。
ちなみにこうして走っている間にも、僕の背中に向かってさやかが何かを口走ってるのは解ったが、うまく聞き取れなかった。
というか、聞こえていてもスルーだ。