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全速力で走る最中に一度だけ電話をかけた。
さやかの自宅へ。
電話に出たさやかの母親の声は留守電で聞いたはずなのに、酷く新鮮な気がした。
自分もさやかを探す事を伝えて、その後は再び全速力。
小高い丘の外灯の下。
僕はそこを目指す。
何かある度に僕はそこでさやかの話を聞いていた・・・はず。
はずなんだ。
だから・・・果たして彼女はそこにいた。
傘もささず、髪や服はぐっしょりと濡れ、前髪から雫となって垂れている。
表情は俯いていて解らない。
ただ、家を出た時の憤りや怒りは何処かへ飛んでしまった。
「はぁ・・・。」
安堵の溜め息をついて、自分の存在感をアピールすると、はっとした顔をしたさやかが僕を見る。
ここなら見つからないと思ったのか、それとも見つかった事がバツが悪かったのか。
迷子の子供のような目。
ゆっくりとさやかに近づいてから。
「・・・帰るぞ。」
結局、その一言が言いたかったんだと自分でそこで初めて気づいた。
「さやかが自分チに帰るのが嫌なら、僕んチでもいい。このままじゃ風邪を引いちゃうよ?」
こうなる予感はずっとしていた。
でも、幼馴染ってのは実は凄く曖昧な立ち位置で、友人とかとはまた別のモノで、でも突き詰めると他人ってとこには変わりがない。
でも、でも、だからってさやかをこのままにしておくってのは絶対に違うと思うし、あり得ない。
「・・・。」
さやかは僕の声に何の反応もしない。
「参ったな・・・。」
それでも拒絶される事を覚悟で、さやかの手を取った。
彼女の手は完全に冷え切ってる。
「一体、何時間こうしてたんだ?」
答えを求めてたわけじゃない。
だから彼女の答えを待つ事もせずに、そのまま手を引き寄せて無理矢理立たせる。
さやかも駄々っ子のような事はしないで、すんなりと立った。
未だに俯いたままだったけど・・・。
毎日、笑顔でフル回転のさやか。
そんなさやかは微塵もない。
でも、今のこのさやかもさやかで、その一部だ。
「帰るよ?んで、お風呂に入ってさっぱりしよう。うん、それがいい。」
言うだけ言って、彼女の手を引っ張る。
「あぁ、僕もさやかとお揃いでズブ濡れだなぁ。」
一人で喋ってると空しくなるね。
途中で返事も相槌もないと独り言と同じ・・・というより、それよりも酷い。
僕の声は耳に入っているだろうけど。
やっぱり何かしらのリアクションが欲しいなって思うのは、不謹慎だろうか?
「さやかが、お風呂に入ってる間に僕が風邪引きそうだ、これは。う~ん・・・面倒だし、なんなら一緒に入っちゃおうか?」
勿論、幼馴染にこんな権利はない。
でも、苦笑や呆れだったり、嫌悪感でもいいから、ね?
僕、頑張ってボケたんだよ?
このままだと段々と居た堪れなくなっちゃうよ?
せめて、突っ込みをと思ったのだけど、ダメだ耐えらんない。
「なぁ~んて・・・。」 「いいよ。」
へ?
何が・・・いいって?
えぇと、僕は確か面倒だからという理由を以って、一緒にお風呂に入ろうという冗談を・・・。
あれ?冗談だよ?
どっちが?
どっちがって両方がでしょ!
以上、セルフボケとセルフツッコミ終了。
「アタシって・・・面倒なコだもんね。」
別に僕は一言もそんな事は言ってない。
さやか本人が面倒なんて・・・いや、心の何処かでそう思ってて、諦観していて、関わりたくないという
だから、余計にカチンとキタんだと思う。
それは自分にも向けて。
「バカヤロウ!」
びくっと身を竦ませたさやかの手を逃さないようにぎゅぅっと強く、痛いくらいに握る。
「面倒だなんて思ったら、雨の中こんなになってまで探すかよ!僕はさやかを探しに来たんだ!」
「そう思うんだったら、一緒にお風呂入ってよ!」
「なっ・・・。」
まさか、そう返ってくるとは思ってもみなくて絶句してしまった。
「ほら・・・やっぱり・・・。」
引いている僕にそう呟いたさやかの顔を見るのが辛くて、僕は彼女の手を引いて無言で自宅へ向かった。