何分、語学は苦手なもので(トオイメ)
A.傍にいれば・・・。
世の中、そう簡単に願いは叶わない。
絶望は隣人のように存在する。
希望を持たなきゃ絶望もしないし、楽チンだ。
傷つくのは誰だって嫌だ。
じゃあ、希望を持たせる為に傷つくのは無駄な事なんだろうか?
それを守ろうとする事も?
『Vi ne estas sole・・・。』
「僕はそう思わない・・・。」
・・・朝から恥ずかしい事をしてしまった。
まさか、自分の寝言で起きるとは。
しかし、今朝の夢もチューニングが合った気が。
いや、離れたかな。
今日もまた何語だか解らない言語だった。
「・・・少なくとも英語じゃないよなぁ。」
セットしていた目覚まし時計が鳴り出す前に解除。
アナログの間抜け面した狸の時計。
「こんなものが可愛いとは、年頃の女の子は解らん。」
て、僕は中年の親父か。
「悪かったナ、センスが悪くて。」
「は?」
今・・・何処から声が?
「うぉっ?!」
気づくと掛け布団がこんもりと盛り上がっている。
「ヲイ。何時でも来ていいって言ったけど、布団に潜り込んでいいとは言ってないよ、杏子。」
嘆息しながら掛け布団をめくると、僕の腰の辺りで女の子が丸くなっていた。
深紅のロングヘアが絨毯ように広がってる。
「ママさんの許可は貰った。第一、あたしが潜り込んでも気づかねーじゃんか。」
ごもっともで。
全く気づかなかった。
「あぁ、僕が悪かったよ。それに杏子のセンスが悪いとは言ってないよ。」
理解出来ないだけで。
その言葉は言わないようにしておこう。
「にひっ。しっかし、アニキは無防備にも程があんナ。」
ずりずりと身体を芋虫のようにくねらせながら、杏子は僕の胸元にまで這い上がってくる。
「普通、自分の部屋ではくつろぐでしょ?それに寝てたら誰でもそうなるじゃん。」
「そ、その割にはあたしのお腹に当たってるのは臨戦態勢だゾ?」
イタズラっぽく笑う杏子は、ちょっぴり顔を赤くしながらもニヤニヤしている。
「・・・降りて。今すぐなぅ、はりーあっぷ。」
どうしたって朝の生理現象は止められない。
あぁ、あれって正確には真夜中に起きてる現象なんだっけ?
「いいのか?なんならあたしが・・・。」
「降りろ。」
「ちぇっ。」
僕のちょっとだけ強めの口調に、杏子はさっきと同じように芋虫のようにもぞもぞと這うと、背中向きにベットからずり落ちた。
そして、すぐさま立ち上がる。
「ま、一応、あたしのあげた目覚まし時計も使ってるって確認出来たし、許してやっか。」
何を許すんだか・・・。
「待て。」
「ん?」
「髪を結んであげるから、動かないで。」
ヤレヤレ、これじゃ親父じゃなくて、"お父さん"だな。
そんな事を思いながら、杏子の腰下まであるトレードマークの長い髪を、これまたトレードマークの黒いリボンで丁寧に結んでやる。
「さんきゅっ♪アニキも髪を結ぶの大分慣れてきたなぁ。」
くるりと一回転すると、杏子の長いポニーテールが一緒に舞う。
「そりゃ何回もやればね。次はサイドアップにでもチャレンジしてみせようか?」
「考えとく。」
「そっか。じゃ、僕は着替えるか。久々に余裕のある登校が出来そうだ。」
「おー。」
生返事しながら、部屋の机の上にあった鏡で自分の髪型をチェックして満足げに頷く杏子。
「・・・杏子。」
「あん?」
僕は無言で部屋の扉を指差す。
「なんだよ、減るもんじゃなしに。けぇち。」
そういう問題じゃない。