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流石に途中からお姫様抱っこは恥ずかしいのでやめる事にした。
ただ、ラクチンな移動方法だと気づいたのか、杏子は僕の背にいた。
所謂、おんぶ。
「いやー、ラクチンだね、こいつは。」
細身で小さい杏子は、何度も言うけど軽いので、特に苦にはならないから、別にいいんだけど。
「悪いな、アニキ。アニキが楽しめるようなムネとかなくて。」
相変わらず過激な冗談だ。
「ハナから期待してないよ。」
「ひでぇ。」
5歳児のように僕の背ではしゃぐ杏子は、足をジタバタさせながらけらけらと笑っている。
「その分、太ももでも楽しむかな。」
丈の短いショートパンツを愛用している杏子は、基本的にナマ足むき出しなので、触り放題だ。
「アニキのエロ。そんなんじゃ彼女に嫌われんゾ?」
「杏子にしかしないよ。まぁ、マミ先輩にしてフラれても困るし。」
女の子に対して、何が逆鱗に触れるのかなんて、僕にはいまいち解らないから。
「まぁ、いっか。今はあたしがアニキを独り占めだ♪」
完全にご機嫌だな。
杏子相手だとこんな軽口が叩ける。
それは互いが互いによく知らなくて、踏み込もうとしていないからなんだろうか?
だから、どう言っても嫌われたらそれまでというか・・・。
「なー、アニキ?」
「んー?」
「アニキって夢って・・・ある?」
「ウメ?」
「夢だよ!ユ・メ・!」
「ムキにならないでよ、ちょっとボケただけだろ?夢、夢ねぇ・・・。」
将来なりたいもの・・・そんなものが僕にあっただろうか?
今じゃなくてもいい、もっと幼い頃に願ったものとか・・・。
「夢はないな。夢はないけど、理想はある。なりたい自分ってヤツが。」
それは夢とはちょっと違うし、あまりに漠然とし過ぎていて・・・意外と僕って不自由な生活してないのかな?甘ちゃん?
「それってナニ?」
「・・・出会った全ての人に、出会って良かったなって思われる人間になりたいな。そりゃ、世の中、好き嫌い・合う合わないってのはどうしたってあるから、全部が全部そうなれるとは限らないけど。」
「アニキは甘ちゃんだな。」
「あ、やっぱり?」
まぁ、理想だ。
出来たら戦争だって起きやしない。
「でも・・・。」
杏子がぎゅぅっと、僕の背に身体を密着させてくる。
その部分が温かい。
「あたしは、アニキと出会えて良かったぜ?・・・・・・多分。」
「多分かよ。」
「にししっ♪」
恐らく、杏子は白い歯を見せて笑っているんだろうな。
手にとるように解る。
「あたしは・・・"家族"が欲しいかな。」
「ん?」
「自分の、自分だけの家族。」
杏子の吐息が首筋にあたってくすぐったい。
「自分の家族か・・・。」
わざわざ"自分の"ってつけるぐらいだから、親とかじゃなくて、伴侶とか子供って意味かな?
「なんにしても、壊れない、離れない家族。」
別にそれだったら、血の繋がった家族じゃなくてもいいんだろうか?
精神的なコミュニティ?
あ、どのみち伴侶は基本的に血が繋がってないか。
ただ、この言葉に杏子の背景が少し垣間見えた気がした。
「・・・いいな、ソレ。」
良い面もあれば、悪い面もあるかも知れないけど、否定だけはしないでおく。
「な、あのさ、アニキ?アニキさえ良かったらさ・・・・。」 「あれ?さやか?」
自宅の前の通りに来た時に、杏子が何か言った気したけれど、僕は家の前にぽつんと一人でいるさやかを見かけて、思わず声を上げた。