※この作品はR-18です。

エスペラント→キミが視る夢。   作:鵜飼 ひよこ。

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A.その鼓動の何分の1を。

 49_

 

 家を出て学校に行き着くまでには、精神的に持ち直して、気力も最低限回復させる事が出来て良かったと思う。

いや、本当に。

全く、何て爛れた学校生活なんだと溜め息をつきながら教室の席に着く。

着いてすぐ様、その光景に首を傾げた。

 

「ねぇ、さやか?」

 

 丁度、近くの席を通りかかったさやかの制服の袖を思わず掴んで引く。

 

「何?ちょっと、袖伸びちゃうでしょ?」

 

「あぁ、悪い。ちょっと聞いたいんだけどいいかな?」

 

 僕は自分の前の席の上にある鞄を指差す。

 

「あそこの席って、誰も使ってなかったよね?」

 

「はぁ?」

 

 アンタ、バカ?と今にも言いたそうな目で見下ろされた・・・。

 

「あそこはずっと暁美さんの席じゃない。何それ?新手のイジメ?ヤメなよ、そういうの。」

 

 暁美・・・さん?

 

「そんなはずは・・・。」

 

 ない。

僕の前の席はずっと空席だったんだ、ずっと・・・。

なのに、なのに、"暁美"という名を聞いて、何処か・・・心の何処かがザワついているのが解る。

あぁ、そうかの一言で済ませればいいのに、その言葉が口から出せない、出てこない。

 

「全く、朝から馬鹿なコト言わないでよ。あ、ほら、暁美さん来たよ?」

 

 さやかがそう言うと一人の女子生徒がしずしずとこっちに向かって歩いて来る。

三つ編みのツインテールおさげの女の子・・・何処か俯きがちで、瞳も伏し目がちだ。

何処かで見た事があるよな、そうでないような。

それでいて、決定的な何かが足りないような・・・。

 

「ほ、ほむらちゃん・・・?」

 

 その少女が僕の目の前の椅子に座るか座らないかの瞬間、口からこぼれ出た言葉に自分自身が驚いた。

知らない。

こんな子、知らない・・・。

知らないはずなのに・・・。

 

「なにか?」

 

 余り感情が表に出ない顔で彼女に言い返された時、僕は正直しまったと思った。

これ以上の話題の発展がない。

探したところで、僕が知っている彼女に関することは名前と外見の情報だけ。

 

「え~と・・・。」

 

 いや、何でもないと一言で済みそうな時間が経過してしまったのを悔やむ。

 

「あれ?何か香水つけてたり・・・する?」

 

 別に僕の鼻がいいわけじゃない。

ただ、仄かに花の香りがしている気がする。

花の香りと思ったのも、なんとなくだ。

 

「え?・・・あぁ、少し。」

 

「いい匂いだね。何の匂いなの?」

 

 何故だか、彼女が露骨に眉を顰めた。

マズい。

女性の身体の匂いに反応というのはアレだっただろうか?

いや、だとしたら、隣で露骨にくんかくんかしては首を傾げてるさやかは、もっと酷い反応を受けるはずだ。

 

「スミレの・・・花。」

 

「スミレ?スミレってこんな匂いだっけ?う~ん・・・。」

 

 流石にこれ以上匂いを嗅いだりしたら、変態さんになってしまうのでヤメざるをえない。

 

「普通の・・・じゃなくて、三色スミレっていいの。」

 

「さ、さん?」

 

 全く想像がつかない。

これだから男というヤツは。

 

「スミレ好きなの?」

 

 とりあえず、紫とか白とかそういう色の花だよな?

3色っていうくらいだから、もう1色あるのかな?

う~ん・・・。

 

「似てるから・・・。」

 

「へ?」

 

 何が似てるの?と、話を続けようとしたところで、担任の先生が教室に入ってきてHRが始まってしまう。

なんとなくしきりしないモヤモヤ感を持ったまま、僕は席に着いた彼女の背中を見つめる。

窓から射し込む陽の光に晒された彼女の髪が綺麗だなと、ぼんやり眺め続けるだけだった。

 

 

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