5_
どれくらい彼女を受け止めていただろうか?
多分、そんなに長くない。
1分?2分?
それくらい。
互いに身動きしないので、身体が密着しててもなんとか下半身が大問題になる事は・・・まだ大丈夫。
時間の問題だけど。
「アナタって温かいのね。」
「ん?平熱はそんな高くないはず。ただ、マミ先輩がいるから。」
ようやく声を発したと思ったらこんな会話。
「ドキドキしてるね。」
「瞼を開けば美少女ですからね。」
写メに撮って待ち受けどころか、永久保存版にしたいくらい。
カチ合った視線が逸れたと思ったら、先輩の顔が僕の顔の横に沈んだ。
「私もドキドキしてる。」
「・・・解ります。」
僕の顔の真横で漏れる吐息が、耳元を撫でてくすぐったい。
うぉっ、下半身、ヤバいかも。
そろそろ素数の出番か?!
「ね?」
「なんでしょう?」
「近くの健康ランドの広いお風呂に入りに行くのと、狭いけどウチのお風呂に入るのと、どっちがいい?」
さっきまでと違って落ち着いた声。
女の子って切り替えが早いんだな。
しかし、とすると、これは冗談ではなくて本気で聞いてるってコトで・・・でも・・・。
「えと、それはどういう意味で・・・?」
解ってる。
確認する僕が大馬鹿なんだ。
女の子の口から言わせようとするなんて。
「・・・・・・泊まって・・・くれるよね?」
強要でもお願いでもなく、お伺い。
でも、そこには何かの切望が籠もってる。
先輩が顔を上げる事無く、視線も合わさないのが全てを物語っているから。
そんな彼女が愛しくて、僕はかかっていた金縛りを破って優しく抱擁する。
一瞬だけ、身体がビクリと反応したけど、それ以上抵抗はなかったから、そのまま頭を撫でた。
「うん。独りにしないよ。」
その一言だけで、僕の耳元で安堵の溜め息が漏れる。
「じゃあ、お湯張って、洗い物も済ませないとね。」
声はもう普段通りの先輩だった。
「うん。」
ちゅっ。
そんな音がして、何やら柔らかいモノが僕の頬に一瞬だけ押し付けられる。
「えっ?!」
い、い、今のって・・・?
アレですよね?アレしか考えられ・・・。
パニックを起こしかけている僕の頭をよそに先輩の身体が離れてゆく。
胸の柔らかい感触も重さも消えた。
何より・・・。
「ちょっと寒い。」
今までの体温と遮断されていた空気が無くなったからの感想。
「そうだね。」
どうやら互いに同じコトを考えていたのを気づいたみたいだ。
先輩はきょとんとした表情をした後、口に手をあてて笑う。
やっぱり先輩は笑顔がイチバンだ。
「頭を・・・撫でてもらうなんて久し振り・・・私、アナタの彼女にしてもらって良かった。」
「してもらってって、逆だよ。先輩の彼氏にしてもらったのは僕の方だもん。」
普通だったら、あんな偶然がなかったら、僕は先輩に憧れを抱いたまま、眺めるだけの日々を送っていたと思う。
少なくても、いや、絶対にこんな風にはなっていないと断言出来る。
月を眺めるスッポン、いや井戸の上を眺めるカエル?どっちでもいい。
「運命って不思議だね?」
運命?
その単語になんだか背中からビクリと震えが来る。
「もうアナタの彼女じゃない私なんて想像できないもの。」
それは・・・僕が告白しなかったマミ先輩。
告白しても振られていた僕。
今となっては、そんなもしもの・・・世界?
「どうしたの?」
「いや、ちょっと想像しちゃっただけ。」
そんな世界は絶望だけしかない。
でも、それは今、先輩が僕の彼女になっているからそう思うだけで・・・。
多分、そんな可能性を微塵も感じられていなかった頃の僕なら、絶望とまではいかない程度で、受け入れられたんだと思・・・う?
「ダメよ、そんなコト考えたら。私はもう彼女になっちゃったもの。今更、契約破棄は許さないから♪」
人差し指を立てて、左右に振る。
その白くて細い指を目で追いながら僕は苦笑した。
「契約ねぇ。ちょっとそう聞くと重いかも。」
「あ~、そういうのショック。デリカシーが足りないよ。」
「あはは、ゴメンナサイ。じゃ、契約書に判でも捺そうか?」
紙面に誓いを記して、
「ん~、考えとく♪でも、まずはお風呂、ね?」
鈍痛がしてきた頭を押さえながら、僕ははにかむ先輩に頷いて見せた。