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『お菓子貰えるからって、誰にでもついて言っちゃめーよ?』
昼休みの間中、マミ先輩にそう注意され続けた。
一体、今現在の僕の立ち位置は・・・と、突っ込みたくなったけれど、聞くのはちょっと怖くなってヤめた。
「じゃ、わたし部活行くからね?道草しないで帰るんだよ?」
放課後になって、さやかにまでこう言われると、ある意味打ちひしがれた気分に。
それでも僕に手を振って教室を出て行くさやかの姿を見ると、何故だか無性に嬉しくなる。
「頑張ってな。」
毎日のように病院に通ったり、失恋のショックを受けていたさやかにはなかったモノだ。
それを喜ばずにはいられない。
幼馴染の面目躍如というヤツかも知れない。
「・・・お役御免、とも言うのかな。」
それはそれで少し寂しい気もするけど、僕のこのカッコ悪い気持ちと、一時期のさやかのソレと比べれば、本当、比べるべくもないのは解ってる。
「・・・カッコ悪・・・。」
まさか、こんなに自分がダサいとは思ってなかった。
今すぐにでも家に帰って不貞寝したい気分。
「・・・あ、暁美・・・さん?」
溜め息をついて帰ろうとする僕の視界の先、下駄箱の前に彼女は佇んでいた。
いや、ただ立ってるだけなんだけど、そんな雰囲気というか、表現が彼女にはよく似合う。
「い、今から帰りなの?」
あぁ、自分の声が上ずっているのが解る。
そこでふと、僕は思う。
僕はこの人の事が苦手なんだろうか、と。
目の前でこっくりと彼女は頷いている。
何で教室で名前呼び出来たのか解らないくらいの、この緊張感・・・。
「そっか。部活とか入ってないんだね?」
「・・・そんな暇、ないから。」
どうやら、彼女は忙しい身らしい。
家の事情か、はたまた習い事か・・・まぁ、そんなとこなんだろうか。
これ以上広がりそうもない話題な気がしたので、僕も靴へと履き替えて彼女と一緒に玄関口を出る・・・て、しまったぁっ?!
これじゃ、一緒に下校するハメになってしまう!!
彼女が僕の帰る道と逆方向なのを祈りつつ、気まずい雰囲気のまま校門を目指すしかない。
「あー、えと・・・。」
ただでさえ女性と会話する機会がほとんどなかった僕だ。
小粋なジョークどころか、話題が急に湧いて出てくるはずもない。
あ、1つだけあったな。
「その、クッキーありがとう。美味しかったよ。」
「ッ?!」
その時の彼女の驚いた顔ったらなかった。
目を見開いて、瞳が零れ落ちるかと思ったくらいだ。
確かに、あのクッキーは致命的なアレがあって、その、とても個性的はあるけど。
あれ?
でも、このリアクションて・・・あれってワザとそういう味なのか?
塩キャラメルとかが流行る時代だ、アリっちゃアリ・・・というしょっぱさじゃなかったよな・・・。
ともかくだ、そういう意味で美味しいか、そうでないかの二択なら、男の僕がどっちを取るかなんて簡単な事だ。
「そ、そう・・・。」
僕がそんな事を思っているうちに、彼女はすぐに表情を戻して俯く。
「うん。何で僕にくれたのか解らないけど、美味しく頂きました。」
ちなみに近い味は塩煎餅の強烈なヤツ。
米か小麦かの違いで。
そしてまた、この微妙な空気と緊張と距離。
ちなみに距離は物理的・精神的の両方を含めてだ。
「・・・・・・食べて・・・。」
「ん?」
「食べてもらいたかったから・・・アナタに・・・。」
ぽつりとそう漏らした彼女は、仄かに頬を赤く染めている。
クッキーをくれた理由も、彼女の今の反応も全く意味が解らない。
食べてもらいたかったってのは、じゃあ何でそう思ったの?という疑問を呼ぶ。
でも、こうやって見ると、彼女も普通の女の子だ。
「まぁ・・・うん、よく解らないけど、今度何かお返しするね?」
それでも頂いて、しかも食べたんだから、お礼はしたい。
味は別として、きちんと受け取ったわけだし。
「そ、それなら・・・。」
「ん?何かリクエストある?」
何かあるなら、それに越した事はない。
だって、女の子が喜ぶような物なんて解んないし。
「し、下の、な、な、名前で呼んで・・・。」
ん?下の名前?
そういえば、朝は確かに僕、名前で呼んだよな。
「あ~、え~と、ほむら・・・ちゃん?」
ばっ!っと先程よりも更に大きく目を見張って彼女は僕を見る。
顔は全体的にというか、首まで真っ赤だ。
茹ダコ?
「これでいいのかな?ほむらちゃん?」
「ッ?!」
2度目・・・いや、今朝を入れたら3度目か。
僕がそう呼ぶと彼女は、突然走り出した。
「あっ・・・。」
止める暇も呼びかける暇もなく、彼女は校門を出てそのまま走り去ってしまった。
・・・やっぱり僕には一生、そう一生だ、女心なんて解らないに違いない。