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『一緒に学校行かないの?』
夜明け前に自宅へと帰るさやかの問いに僕は首を横に振る。
別に一緒に登校しても問題はないんだけれど、妙に照れくさい。
けど、直接的な原因はそれじゃない。
ちょっとした用事があったからだ。
その用事を済ませてから学校に向かうには、どうしたって午前の授業の大半をサボらなければいけなかった。
あぁ、サボリさ。
制服姿は目立つけれど、用事さえ済ませればすぐに学校へ帰るので、言い訳は出来るだろう。
「あれ?アニキ?」
近所の商店街で杏子と出会ったのには驚いたけれど・・・。
というか、何で彼女は補導されたりしないんだ?
「こんなトコで何してんだよ?」
菓子パン片手にプラプラと僕に寄って来る。
「サボリか?いかんぞ、若者。」
「杏子が言うなよ、全く。ちょっと買い物を済ませて、これから学校に行くんだよ。」
サボリではなく、あくまでも遅刻だと主張すると杏子は首を竦める。
「んじゃ、途中まで付き合ってやるよ。」
そういえば杏子の普段の生活を僕はまだ知らないままだったなぁと考えながら、二人で並んで歩く。
「なぁ、杏子?」
「んー?」
菓子パンを齧り付いている杏子の口元についたパンクズを指で拭いながら、ふと思った事を口に出してみたくなった。
「僕が・・・僕が、その、いなくなったら、どうする?」
「は?!はひ?」
パンを頬張ったままで声を上げる杏子。
その可愛さに思わず微笑む。
「ほら、さ、なんていうか、その・・・。」
「んぐっ。せ、説教する!」
「は?」
慌てて飲み込んだ後の開口一番で、僕を睨みつけながら杏子はきっぱりと言い放つ。
睨むくらいだから、これは怒ってんだろうな。
「何処に行っても、何処までも追いかけて説教してヤルっ!」
息巻く杏子を見て、杏子らしいなぁと思う。
彼女だったらやりかねない。
いや、やる。
「何処までも?」
「おぅ!何処までもだ!」
胸を張る杏子。
彼女のこの揺らぎない意思と自信には、ほとほと頭が下がる・・・たまに呆れる時もあるけど。
いや、大半だな。
「・・・そっか。」
杏子は人は独りではなかなかうまく生きてはいけないんだって事を良く解ってる。
少なくとも、僕はそう思う。
「なぁ、アニキ?その、この前の事、怒ってんのか?」
だからどんなに自信があったとしても、傍にいる人間に確認したくなるんだろう。
手段・方法は別としても。
「杏子、僕は少なくとも君に会えて良かったと思ってるし、それに対して後悔した事なんて1ミリもないよ?だから大丈夫。」
「・・・・・・。」
長い沈黙。
杏子のしかめっ面というか困り顔のまま固まってる。
いや、考えてるのか。
「アニキ、あのさ・・・。」
「うん?」
「今度でいいから、相談に乗って欲しい事があるんだ。」
何でも自分で決めてきた杏子が、他人にアドバイスを求める。
とても不思議な事だったけれど、僕の答えは決まっている。
「勿論、喜んで。」
僕の答えに充分満足したのか、破顔する杏子。
あぁ、これも約束になるのか。
「さっすが、アニキ。愛してるぜ、コンチクショウ。」
「・・・褒められてる気がしない。」
ま、いっか。
この時にはそれくらいにしか思っていなかったけれど、杏子のこの相談が僕にとって大事な選択を迫られる事になろうとは、まだ思ってもみなかった。
つ【伏線】