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『きっかけは些細な事なの。』
僕が眠りにつくまで、マミ先輩は訥々と語ってくれた。
その声は、少し高くてほんわかしてて、とても心地良かった。
音の絨毯が敷かれているような・・・。
『でも、同じ時間を積み重ねていく度にそれがどんどん大きくなって、何時しかかけがえ無くなるの。』
だから、きっと"思い出"って言うんだろうなと僕は漠然と、そんな風に思っていた。
『だから、アナタは私に、ううん、"私達に"沢山のモノをくれる一番の人になるのよ?』
声を聞きながら僕は眠りについていった。
それと同時に悔しいなと思ったんだ。
「そうか・・・悔しかったのか、僕は。」
ここまで来てそんな感情に気づくなんて、僕はどんだけ鈍感なんだ?
自分が自分で情けない。
何とか登校出来た放課後の教室を出て、階段を上りながら苦笑する。
何度も皆で昼を食べた屋上へと続く階段。
「ましてあれが"最後"とか・・・。」
まぁ、ある意味で僕らしいっちゃあ、僕らしいか。
妙に納得しながら行き止まりでもあり、目的地でもある屋上の扉のノブを回して開け放つ。
昨夜から全く回復していない身体を引きずりながら屋上に出ると、そこに僕の望んでいた人影がいた。
「やぁ。」
努めて明るく気さくに。
夢の中に出て来るあのコへかける言葉のような口調で。
"
あれは何で見たんだっけか・・・あぁ、聖書だったかな?
まぁ、僕にしてみればそんなの『ダウト!』と叫びたい気分だった事だけを覚えている。
「来てくれて嬉しいよ、ほむらちゃん。」
人生の6割・・・あれ?7割だっけかな?
ま、とにかく大抵は悪い事だって誰かが言っていたっけ。
じゃあ、何で人間は生きるんだろう?
楽しいという快楽が中毒患者のように染み付いてるから?それとも良い事があると信じているから?
「あ、用事って言ってもそんなにたいした事じゃないんだ。」
僕は思うんだ。
それは"今がドン底か絶頂なんて誰にも断言できないから"なんじゃないかなって。
希望ってそういうもんだよね・・・。
だから、僕はここで無理矢理でも答え合わせをしようとしている。
終始俯き顔の暁美 ほむらに対して。
「用事って?」
「うん、この前のクッキーのお礼。本当はデートの一つもとか思ったんだけど、はい、コレ。」
彼女の主張を無視して、細長い長方形のケースを取り出す。
「そんなつもりじゃ・・・。」
「いいからいいから。」
恐縮してしまう彼女の眼前にケースを無理矢理突き出すと、恐る恐る手が伸びてきた。
と、同時に何故だか僕は泣きたくなる。
「開けても?」
「どーぞ。」
微かに震えているとひと目で解る彼女の手が、ケースを開くと身体ごとビクリと痙攣する。
「・・・こ、これ・・・。」
「着けてみてよ。」
ケースから取り出そうとして、震える手からカチャカチャと音がする。
泣きそうな表情のまま、無言で彼女はそれを律儀に身につけてくれた。
"紅いセルフレームの眼鏡"を。
「うん、やっぱりほむらちゃんには、それがないと。よく似合ってるよ。」
"混乱"
その二文字を顔に浮かべる少女を見ていると罪悪感で潰されそうになる。
それでも言わなければならない事をなけなしの勇気を持って!
「で、"本当のほむらちゃん"は何処にいるの?」
ほむら編って、どうしてこんな欝になるんだろう・・・。