「とりあえず、学校に行こう。」
この傷が全身にあるのだとしたら、完全な虐待だ。
いや、全身になくても虐待だろう。
学校の保健室から、児童相談所と警察に連絡してもらおう。
それと病院にも・・・。
この火傷の跡は、綺麗に全て消す事は出来ないだろう・・・皮膚移植するにしても、どれだけ大変か。
移植しても毛根がない皮膚になると思うし・・・。
もし・・・と、そう思ったところで、額に手を当てると自然に力が入る。
「何を馬鹿な事をっ。」
今、一瞬だけ、一瞬だけど"魔法があれば"と思ってしまった。
・・・何て卑しいんだ、僕は。
「アニキどうした?」
「ううん、ゆまちゃん、髪乱れちゃったね。あとで僕が直してあげるからね。こう見えても杏子のヘアスタイリングだってしてるんだぞー。」
努めて明るい声を出してみたけれど、心の中はなんというか罪悪感で一杯だった。
「"まどか"くん?」
あぁ、一番聞きたかった声が僕を呼ぶ。
頭を振って、ようやく立ち上がる。
「おはようございます、"マミ先輩"。」
「おはよう。皆、どうしたの?」
「・・・実は・・・。」
説明はさやかがしてくれた。
その間の僕は、自分への情けなさとイライラを処理するのに必死だったからだ。
「・・・アニキ、ごめんな。」
「謝るな、杏子。僕は杏子のアニキだぞ。」
かろうじて杏子と彼女への言葉が僕を支え、突き動かす。
「そう。で、まどかくんはどうしたいの?」
事情を聞き終えた先輩は開口一番、僕の結論だけを聞いてきた。
「僕ですか?」
「そうよ?貴方の意思が大切よ?」
参ったなぁ、先輩は僕を1ミリだって疑ってないや。
「ゆまちゃん?」
事の成り行きと、僕達の顔を交互に見ながら、不安そうにしている少女。
僕に出来る事は・・・。
「僕は君が痛い思いをしないようにこれから行動する。でも、そうしたら、君は御両親に会えなくなる。それでもいい?」
事が明るみに出れば、良くて児童施設での監察・保護。
傷の程度によっては、恐らく・・・いや、きっと親は逮捕されるだろう。
「わたしは、キョーコのお兄ちゃんを信じる。」
「まどかくんはそれでいいの?」
いいのか?と聞かれたら、よく解らないけれど・・・僕はゆまちゃんの手を取る。
瞬間、ゾクリと背筋を駆け抜けるモノがあった。
と、同時にあぁ、そういう事かと思う。
彼女の小さな儚げな手を握って・・・。
「ゆまちゃん、きっと君にはこれから色んな事がある。多分、大半は厳しい現実ばかりだ。でもね、それは皆程度が違っても同じ。僕だって、杏子にだって、さやか、マミ先輩にも。」
そして、ほむらちゃんにも。
「でも、絶望に染まっちゃったらダメだ。それじゃあ、何時か本当に動けなくなる、何も出来なくなる。だから、一人でどうにもならなくなったら、今日の事を思い出して?今日みたく声と態度に出すんだ。」
そうすれば少なくとも、"あんなコト"にはならない。
誰かが絶望を糧にするというなら、絶望に変わる芽を刈り取る存在に僕はなりたい。
「・・・うん。」
頷くゆまちゃんに微笑むと、僕は彼女手を優しく引く。
「とにかく、学校だ。杏子もちゃんと学校行けよ?」
「へーい。」
・・・本当に行くんだろうな、全く。
呆れつつも、杏子を先頭にマミ先輩とゆまと僕で並んで歩き出す。
後ろからはさやかが続く。
「・・・・・・何かこうしてると親子みたいね?」
「そうですか?僕とゆまちゃん、そんなトシ離れてないと思うんですけど?」
少なくとも杏子の言ったように兄妹の範疇かと・・・。
「そうね、でもあと10年くらいしたら、こうなってるのね。」
そう言うとマミ先輩は自分の下腹部を擦る。
とても意味ありげに・・・?
固まる全員。
一瞬の静寂。
「い゛ぃっ?!」
か、身体中の毛穴が開いて、冷や汗がドバっと出た。
「まさかっ!先輩?!」
「ヲイヲイ、マジかよ!」
僕の反応より多少大人しめだが、充分な驚きでさやかと杏子が目を剥く。
「冗談よ。だといいなぁって、妄想♪」
勘弁してください・・・。
まだ少し早過ぎる。
・・・けど、ハラボテのマミ先輩か・・・・・・それはそれでエロいよな。
は?!いかんいかん、さっきから段々とアブノーマルに流されてる?
「マミがその気なら仕方ねぇなぁ。アニキ、あたしらも頑張るぞ?」
「何がだよ!」
「ナニをだよ。」
むっ、難しいぞ、日本語!
ん?後ろから袖が引っ張られる。
・・・後ろは、さやかだな。
「わ、わたしも、それなりに頑張る・・・カラ。」
「だから、何をだよ!」
「えと、ナニを?」
お~まぁ~え~らぁ~っ!
「・・・・・・一度、きちんと番号を振ろうかしら。」
マミ先輩まで意味不明なコトを・・・。
声を上げる気力も打ち砕かれた。
全く、ゆまちゃんの前で・・・。
「ゆまちゃん、こういう大人になっちゃダメだよ?」
このコだけは杏子に毒されないようにしなければ・・・。
「でも、ゆまちゃんみたいな可愛いコなら、欲しくなるわよね?」
にっこりと微笑みながら、マミ先輩がゆまちゃんの頭に手を伸ばす。
「巨乳は敵。」
「へ?」
今、なんか、予想外の鋭いツッコミと拒否反応が・・・。
その証拠に、マミ先輩は伸ばした手を空中で静止させたまま、固まっている。
「あっはっはっ。いいぞ、ゆま。そうだ巨乳は敵だ、ウシチチは滅べってな。」
す、既に手遅れかも知れない・・・。