PAさんのいい二次創作がないため持参しました。
PAさん以外にも他のヒロインといちゃいちゃさせたいと思いますので、よろしくどうぞ。
「無理」
営業が終わり、掃除も済ませアルバイトの人達も帰った店内に響く声。
平坦で、感情が籠っていなさそうなその声音の持ち主は、ライブハウス『STARRY』の店長。
そして、言われているのは僕、
「......ですか」
「良く働いてくれるし、虹夏達とも仲良くしてくれてるから出して上げたいのは山々なんだけど――」
カウンターに座る彼女は、カタカタとキーボードを叩き画面を此方に向ける。
「これで三回目なんだよね」
「はい......」
自分でも小さいと自覚がある身体が更に小さく委縮させ、両手を前で組み、星歌の声に比例して視線が下に下がっていく。
自分が情けなく思え、どこかにまだある誇りが僕の羞恥心を擽るのだ。
「これ以上前借したら、きっと私にも明日香くんにも良くないと思う。だから、無理」
どことなくつんけんした言い方で、傍から見ればいびられているように見えなくもない光景。
しかし、星歌を知っている人から見れば、いびっているどころかこの上なく優しい思うだろう。
おそらく僕の
今まで給料の前借をさせてくれたのは奇跡と言って良いだろう。......いいや、星歌の優しさか。
「分かりました。すみません無理言って」
そう言って去ろうとすると「待って」と制止され、星歌が外へ出て行った。
扉を閉めずに出て行ったのを見ると、二階の自分の自宅へ行ったのだろうか?
しばらくして片手にタッパーの入った袋を携え、戻って来る。
「虹夏がまた作り過ぎたんだ。これ、上げる」
両手に持って中を覗き込むと、そこには肉じゃがが。
さりげない星歌の優しさに、頬が緩む。
「ありがとうございます」
「うん。――それと、良ければ来月からもうちょっと長く働いて欲しんだけど......」
「え?」
その申し出に、僕は驚いてしまった。
何故なら、この店はそれ程大きくなく、それ故に僕を含めて高校生のアルバイト三人で十分に回せるのだ。
そんな中で、金を払って長く働かせるのは無駄以外の何物でもない。
肉じゃがと突然の申し出のダブルパンチで、目頭が熱くなり、震えた声で「ありがとうございます」と礼を言う。
「いいから。外暗いから気を付けて帰りなよ」
「はい。お疲れ様でした」
深く礼を言うと、駆け足で店を後にした。
涙を誰かに見られたくないと、どこかに残っている意地がそうさせたのだ。
「ただいま」
純白の家、大きくもなく小さくもないごく普通の家が僕の自宅。
扉を開け、帰ったことを知らせると奥から軽い足音が聞こえて来る。
「お帰りお兄ちゃん!」
「ただいま、遊里。お腹空いたでしょ。直ぐご飯にするね」
「うん!」
靴を脱ぐと、妹に手を引かれながら家の中へと入って行く。
自分の子供の笑顔を見ると、仕事の疲れが吹き飛ぶとよく言うが、あれは本当のようだ。僕の場合は妹だが。
袋を遊里に渡し、先にリビングに行かせると、自分は和式の部屋にある仏間の前へ。
正座をし、鈴を鳴らすとそっと手を合わせた。
「ただいま。お父さん、お母さん」
両親が死んだのは僕が中学の時。
仲の良かった両親は、毎年結婚記念日には二人で出かける。あの時も何時ものように着飾って仲睦まじく出て行った。
それを、僕達は笑って見送った。毎年のイベントだと、どうせ夜には帰って来るのだと、そう思いながら......。
でも、帰ってこなかった。
交通事故。
残ったのは家と遺産、そして相手から支払われた賠償金。
だが、全部合わせても二人で生きていくには心もとない金額。
(悲しんでいる暇はない、二人の代わりに僕が遊里とこの家を守らないと)
今すぐ露頭に迷う程ではないにしろ、このご時世何があるか分からない。かと言って中卒で働きに出ても碌な職はない。
より安定的な職に就くには、やはり大学を卒業しなければいけない。
そうなって来ると、金が要る。
そこで働き出したのはあのライブハウスと言う訳だ。
だけど、ここ最近計算外の出費に合い、緊急時以外で両親の貯金を出す訳にはいかない為、前借をしなければいけない状況になってしまった。
良くないサイクルに入りつつある。星歌さんが来月からシフトを増やしてくれると言っていたが、それでもまだ少し心もとない。
遊里はまだ小学生になったばかり、まだまだお金が必要になってくる。
「アルバイト増やすしかないのかな......」
本当はそんなことしたくない。
勉強する時間が減るし、なにより遊里を一人にしてしまう。
亡き両親の前で金のことを考えながら、意を決す。
「よし」
次の日、学校が終わってスターリーで相談する事にした。
「で、どこかいい仕事先がないかって? 明日香君も大変だね〜。ね、リョウ」
「うん、バイトの掛け持ちなんてわたしじゃ絶対出来ない」
最初に話したのは、頭の三角形のアホ毛と大きなリボンなトレードマークの伊地知虹夏とクールでどこか気だるけな山田リョウ。
「うーん......私達あんまり、そういう話詳しくないからなー。ほら、スターリーあるから働く場所探す必要なかったし」
リョウも虹夏に頷く。
「そう、なんだ。ありがとう。後で店長にも聞いてみるよ」
「それが良いよ。お姉ちゃん、知り合い多いからアルバイト先もきっと知ってると思うし、明日香君なら太鼓判押して紹介できるしね」
「明日香が頑張ってくれるおかげでバイト中に寝る事が出来る」
「ちょっと」とツッコミを入れる虹夏達に礼を言うと、モップを手に掃除を再開する。
床掃除が終わり、最後にテーブルの上を拭いていると最後の従業員であるPAさんが現れた。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様ですPAさん」
間延びした挨拶に返事をすると、視線を僕に、手提げバックを下ろさずスススとこちらに近づいてくる。
「明日香君は今日も真面目に働いてますね」
「ふふ。何ですかそれ」
長い袖で口元を隠すと、「褒めてるんですよ」と一言。ゆっくりとゆっくりと距離を詰め、僕の肩越しにテーブルを見下ろした。
まるで、虹夏達が女子トイレの掃除に行ったのを見計らったかのような行動。しかし、そんな事に気付いていない僕は、ちょっと掃除しにくいな。と思いつつも、全てのテーブルを終わらせる。
「PAさん。ここの近くで新しくバイトしようと思ってるんですけど、どこかいい所知りませんか?」
バケツでふきんを濡らし、ゴミを絞りだしながらテーブルに座っているPAさんに声をかける。
「バイト? ですか?」
心なしか声が低くなったような気がした。
「もう少しお金稼ごうと思いまして。スターリーの休みの日にどこかで働こうかと」
「......あ、ああ。そう言う事ですか。――そうですね。私に聞くより店長に聞く方がいいと思いますよ」
「分かりました。そうしてみます」
礼を言うとバケツとふきんを持って、流しへ向かう。
やはり、星歌に聞くのが一番らしい。
彼女はああ見えて人脈が広く、下北沢だけでも結構知り合いが多い。
前に、スターリーに来る人達が店長の所に行くのを見て、虹夏に聞いた事がある。
「お姉ちゃん昔バンドやってたから、それで結構知り合い多いんだよ。ほら、楽器屋さんとか音楽関係の人とか、あれで結構人気あったらしいからね」
と、言っていた。
「気が引けるな......」
流しに置いたバケツに張った水に映し出された自身の顔は、罪悪感と申し訳なさそうな表情を見せていた。
あの人に頼ってばかりで何も返す事が出来ない。
そろそろ何か恩を返して置かないと、バチが当たる気がする。でも、お金がかかる事は出来ないし......。............ここ最近お金の事しか考えてないな。
そんなことを考えてると、不意に視線を感じ身体を向けると、そこにはレジ袋を持った星歌が。
何時ものように紙パックのアップルジュースを飲みながら、カウンターに座り、ノートパソコンを開く。
「ん? どうした?」
「あ、あの肉じゃが美味しかったです」
「虹夏喜んでただろ」
「良かった。じゃあまた作るね!」礼を言った時の虹夏の笑顔を思い出し、つられて自分も頬を緩む。
「はい、また作るって」
「それはよかった」そう言って、顔をパソコンの画面に。
「あ――」
バイトの件を相談しようと声を出そうとするが、昨日の今日でまた頼るのはどこか忍びなく、喉から外へと出なかった。
水を流し、ふきんを片付け、開店準備を全て済ませ、バンドの人達が続々と現れるなか、虹夏達と話しながらドギマギしながら星歌の前でモジモジしていると思わぬ助け船が。
「バイト、いいとこ聞けましたか?」
「明日香君まだ話してなかったの」
「え? 何の話?」
「え、あ、その」
突然の事。
星歌と視線が合って、上手く言葉が出てこず固まってしまう。
オドオドする僕を見ながら、袋から新たなジュースを取り出し、ストローに刺すと。
「職種は何でもいい?」
「は、はい」
特に何か聞かれることなく、話は進み、最終的には探してくれる事になった。
星歌に礼を言うと、PAさんの所へ。
「あの、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、機材から手を離し袖を振りながら。
「いえいえ。ところでそんなにバイトして何か欲しいものでもあるんですか?」
「えっと......」
「言いたくないなら言わなくていいですよ。事情は人それぞれですからね」
「はは。ごめんなさい」
「何で謝るんですか」と笑いながら自身の作業に戻るPAさん。
よし、これで問題は解決。
と、思ったのだが、開店してしばらくたった時。
「――あ゛!!」
「なになになに!」
突然の声に隣で一緒にドリンクの接客していた虹夏が飛び跳ねた。
もう直ぐ遊里の誕生日があるのをすっかり忘れていた。
森沢家では、毎年誕生日になると料理を作り、ケーキを買って小さなパーティーをする。それは、両親が死んだ後でも変わらない。
問題は、ここから。
料理やケーキ、それに、誕生日なのだから当然プレゼントも必要だ。
そして、それには決して少なくないお金がかかる。
身体中から冷汗が噴き出し、新たな問題が降って来た。
「明日香君? おーい」
遊里に我慢してもらう? あり得ない、それなら貯金を下ろす。
でも、出来れば通帳には手を付けたくない。
リミットは一週間。
星歌から紹介してもらったバイトがどれだけ早く入っても給料が入って来るのは月末。それじゃあ間に合わない。
「に、虹夏さん」
「大丈夫?」
「内臓で売ってもいい部位ってどこですか?」
「ないよ! そんな所!」
放心状態のまま、何とかバイトを終わらせると、心配する虹夏を宥め帰路に着いた。
「バイト、やっぱり一週間くらいかかるみたいだし。日給で貰える仕事......じゃないよね。はぁ、どうしよう」
視線を下に、トボトボ歩いていると後ろから駆け足で近づいてくる人の気配が。
「PAさん?」
「はぁはぁ......」
「あの? どうしたんですか?」
「はぁ......はぁ......」
店からここまでそう離れていない筈なのに、マラソンを完走した人のように満身創痍なPAさん。
息も何処かかすれており、今にも膝から崩れそうな勢いだ。
「よ、良かったらこれ、飲みかけで――」
「あり、はぁ、がとう......ございま――」
最後まで言い切る事無く、僕の言葉を聞く前にペットポトルを受け取り、その中の水を飲み干す。
「助かりました」
口紅で僅かに赤くなった飲み口を見て赤面し、捨てる為に受け取ろうとした手を引っ込め、空気を変えようと口を開く。
「どうしたんですか?」
「ご飯、食べに行きませんか?」
「はあ。ご飯ですか?」
少し考え、新たな問題でとても楽しく食べに行く、と言う気になれず断ろうするが。
「奢りますよ」
外食なんていつぶりだろうか......。今日は金曜日、晩御飯は作って来たから帰ってもやる事はない。予定は空いている。
それに、お金を出してもらえるって事は何を食べてもタダ。
揺れる心を、自制心が止める。
僕だけ、食べに行くのは遊里に悪いし、やっぱりここは断ろう。
「すみませ「お金欲しいんですよね」......ん」
「わたしと一緒に食べに行ったら、もれなく短期間高給料のアルバイトを教えて上げます」
「行きます」
天国のお母さんお父さん、僕は卑しい人間になってしまいました。
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