※この作品はR-18です。

ばいしゅん・ざ・ろっく!!   作:清姫

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 お久しぶりです。
 おかげ様で身体の方はだいぶ良くなってきました。
 これから引き続き、執筆活動を行っていきますので宜しくお願いします。

 kukutu.さんからファンアート頂きました! 
https://img.syosetu.org/img/user/198007/115291.jpg

 次回エチエチタイムに入ります。
 
 誤字脱字はご愛敬。


#11 JOVE JOVE

 味がしない......。

 

「これ美味しい。やっぱり明日香君料理上手だね!」

 

 淀んだ僕とは真逆の燦々笑顔の虹夏。

 声は殆ど右から左に抜け、僕の左に居るリョウへ直撃。

 遊里はそんな事も露知らず、目の前の料理に舌鼓を打っていた。可愛い。

 

「うん、美味しい」

 

 代わりに返事するリョウは「喰い貯めしないと」と遊里と同じ速度でバクバク食べ進める。

 つい先ほど、自身の行った蛮行も忘れたかのような態度に無性に腹立たしさを覚えてしまう。

 

 ここでイラつくのは大人気ない?

 いいや、大人気なくない! 

 おのれ山田。

 おのれベーシスト。

 虹夏のおかげで「お金は返す」と言質をとる事は出来たけど、結局修理費は僕が出す事になった。

 ただでさえカツカツの懐事情に次々と出費が増え、身体を売ってまで補填したのにまた三千円。

 今の僕は冗談抜きに三千円どころか三百円すら払えない

 なのに......なのにこいつッ! 

 

「美味しいですか山田さん」

 

「うん」

 

「ちゃんと払って下さいね?」

 

 スー。

 

 「ちゃ」の所で顔を背けるリョウ。

 

 これには虹夏も困惑げに笑うしかないようだ。

 

「山田さん」

 

 立ち上がり、リョウの視線の方向に立つ。

 

「......美味しい」

 

「山田さん」

 

「余ったら持って帰ってもいいかな?」

 

「リョウさん?」

 

 上に下に、斜めに前に逃げ回るリョウの顔を両手で掴み強制的に固定する。

 触った時にフワッと香った香水の匂いだなとか、凄くサラサラな髪だなとか感じてる暇はない。

 今は目の前のダメ人間に何か言ってやらないと気が済まないのだ。

 

「山田リョウさん?」

 

「......ちゃんと返します」

 

「何時?」

 

「......」

 

「あ、明日香君。ちゃんと給料日に払わせるからね。ほら、ご飯食べよ? あーん」

 

 自暴自棄になりながら虹夏から突き出された唐揚げを齧り付き、座り直す。

 

「本当に食べちゃったッ」

 

 まさか食べると思っていなかったのか、紅潮しながらフォークを見つめ握った手を震わせている。

 

「ごめん。交換するから」

 

「だ! いじょうぶだよ! ははは――もぐ」

 

 新品に変えようと手を伸ばすが、その前に虹夏は速度を上げながら適当な料理を突き刺し口に放り込んだ。

 それから、暫くフォークを咥え俯き。

 

「美味しい......」

 

 一言漏らし静かになる。

 

「?」

 

「罪作りな奴」

 

ぼそりと呟く声に、僕は反射的に胡乱気な目で。

 

「ちゃんと返してよ」

 

「......はい」

 

 事態が落ち着き収束の方向へと進む中、それらの一連の光景を眺めていた遊里が何の気なしに放った爆弾が空気の波をかき回した。

 

「お兄ちゃんもしかして彼女出来た?」

 

 カタン。

 フォークが落ちる音。

 それも、一つではない。

 

「な、何でそう思うの?」

 

 まさか、見られた!?

 それとも、気取られた?

 もしそうならこの状況で暴露されるのはマズい......。

 

 脳内にアラートが鳴り響き、リラックス状態だった思考を無理やり切り替え事に当たる。

 

「何だか雰囲気? 変わったような気が」

 

 可愛らしく小首を傾げ、大変可愛いかぎりなのだが今は愛でている余裕はない。

 たった一本の糸ですら、露呈したくないのだ。

 

「気のせいじゃない? それよりほら、ケーキ! ケーキ食べよ! ね!?」

 

「ケーキ! 食べる」

 

 よし、このまま――

 

「明日香君。いないのなら何でそんなに焦っているの?」

 

 なっ!?

 何で虹夏がこの話題に喰いつくの!。

 

「あ、せってないよぉ......」

 

「何で目逸らすのかな?」

 

 先ほどの僕とリョウと同じように、今度は僕がリョウの立場になってしまった。

 無意識に目を逸らしてしまったと、後悔した時にはもう遅く。

 感情が読み取れない名状しがたい表情を僕に向ける。

 

「......逸らしてないよ」

 

「ううん。逸らしたよ」

 

「そら「逸らしたよ」......」

 

「で、彼女......いるの?」

 

 近い......。

 兎に角、気を逸らさせないと。

 

 瞬間、天啓に似たアイデアが天から降って来る。

 

「......虹夏と」

 

「ん?」

 

「虹夏と友達になったからかも」

 

「え?」

 

 虚を突かれ、口が開き放心状態の虹夏。

 

「ほら、遊ぶ友達っていないから......嬉しくてそれで」

 

「......そう、なんだ」

 

 効いた! ありがとう神様!

 

奇跡的上手くいったと安堵した思ったら、伏兵から一撃が。

 

「そんな感じじゃないけど」

 

 このクソボケベーシストォッ!

 

「そうなの?」

 

 折角穏便に事が収まりそうだったのに、こんな所で挫かれてたまるかッ!

 

 困惑気の虹夏の手を取り、顔を見つめ。

 

「虹夏と友達になれて良かった。今は無理だけど、今度どこかに遊びに行こう」

 

 もう、自分でも何を言っているのか分からない。

 

「ッ!! ......うん、いいよ。あ、ロインの、は携帯じゃ無理か。なら電話番号交換しよ!」

 

 頬をポッと桜色に染めながら、疑いそっちの気でポッケから取り出した黄色のスマホを此方に突き出してきた。

 別に、意識して連絡先を交換しなかった訳ではないしそれでうまくいくのならと、充電器に繋いであった携帯電話を持ってきて、交換する。

 

「リョウさんも交換しましょう」

 

 怒りの籠った敬語。

 

「え?」

 

「期日までに返済出来なかった場合、取り立ての電話をしますので」

 

「うっ」

 

 渋るリョウの胸ポケットからスマホを取り上げ、虹夏に渡し連絡先をゲット。

 これで、バックレられる心配もないだろう。

 

 

 

 

 

 それから、一頻りパーティーを楽しむと解散になり二人は帰る事に。

 その頃には、外も夜で。

 道は薄暗く、人も疎ら。

 高校生とは言え、夜道を二人で帰す訳にもいかないので二人を言えの近くまで見送る事にした。

 

 そして今はリョウを駅へ送り、虹夏と二人スターリーへと向かっている最中。

 

「......」

 

「......」

 

 何時もは元気に良くしゃべる虹夏も、疲れたのか異様に口数が少ない。

 がしかし――

 

「虹夏ちゃん」

 

「さっきみたいに虹夏って呼んでくれないの?」

 

「うっ。あ、あの時は無意識に」

 

「へ~……無意識にって事は心の中では虹夏って呼んでるんだ」

 

「ッ」

 

 話が進まない所か、何故か僕が圧され始めた。

 

「ねぇ明日香(・・・)

 

 そう言いながら更に一歩、僕の方による。

 

「あすッ! って、なんか近くない?」

 

 近いって言おうとしたら何故かもっと近くなってしまった。

 肩と肩が当たるのではないかという超至近距離に、むず痒くなってしまう。

 

「そんなことないよ」

 

 そう言われたらもう何も言い返せない。

 まぁ、でももう直ぐスターリーだし、いいかな?

 

 距離を取るのを諦め、通行の邪魔にならないように端を通る。

 

「そう言えばさ、そのチョーカーお姉ちゃんから?」

 

「え? あぁ、うん。星歌さんに......貰ったんだ」

 

「ふーん......名前呼びなんだ」

 

 え? 何その反応。

 もう、疑い晴れたじゃん。

 そんなジト目で見つめないでよ。

 

「そ、そうなんだ。ギター教えて貰ってたら自然と、ね」

 

 そう言うと「そっか」と不満げな顔を正し、正面に向き直す。

 

「ギターするの?」

 

「ううん。やりたいけど......時間ないし」

 

「勿体ない。明日香ならきっと良いギタリストになるのに。そしたら――」

 

 一拍おいて赤面になり「何でもない!」と首をブンブン振り回し邪気を飛ばしていた。

 

 僕だって出来るのならギターをしてみたい。

 これはお世辞なんかじゃなく本心だ。

 ......だけど、今の自分に経済的にも時間的にも余裕はない。仮にあったとしても、それらは遊里にあてたいから結局どうあっても僕はギターを握る事はないだろう。

 

 仮の自分自身を想像するが、直ぐに虚しいだけだと霧散させ意識を現実に戻す。

 

「ギターならお姉ちゃんのお古貸してくれるし、教えてくれると思うよ?」

 

「ごめん。今はゆーと家の事で一杯だから」

 

「そっか......うん、だったら仕方ない。ごめんね、しつこくしちゃって」

 

「ううん。こっちこそ誘ってくれたのに」

 

 ジメっとした空気の中、見知った道に到着。

 

「ここでいいよ」

 

「え? うん分かった」

 

 小走りでスターリーへ。と思ったら、途中立ち止まり言う。

 

「ねぇ! あの話嘘じゃないよね?」

 

「あの話?」

 

「ほら! 遊びに行くって話」

 

「......うん」

 

 今日最大の笑顔を見せ、僕の前から去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

「......」

 

 帰りは一人、トボトボ歩きながら虹夏の事に考えた。

 意識を内層に向け、幽体離脱したような錯覚に陥る程深く、深く考える......。

 

 幾ら鈍感でも気付く。

 少なくとも虹夏は、僕に対して友達以上の何かを感じているのは確かだ。

 

「一体どこでそんな......」

 

 好意を寄せられるような事をしたかどうか思案を巡らせるが、直ぐにそれはないと元に戻った。

 

 嬉しい。

 女々しい自分が、異性に好かれると思っていなかったから......うん......嬉しい。

 虹夏は僕から告白したいくらい異性として完成されてる。

 本当ならこのまま虹夏の所に戻って告白したいくらいだが。

 でも、今の自分が彼女をつくった所で相手をしてあげる暇なんて......。

 

 徐々に首の力が弱まり、地面に視線が移る。

 

 身体を売ってるような人だって虹夏は知らない。知ればきっと嫌われる、下手したら――。

 

 ピーポーピーポー。

 

 星歌さんと揃って御用になるかも! ......なんて。

 

 首を振りつつ、消極的な思考にシフトしてしまい色々考えてしまう。

 付き合ったら? 売春をしていたことがバレたら? 星歌との関係が露呈したら?

 考えれば考える程、そこのない沼に落ちていくような感じがしてどうしようもなく不安になってしまうのだ。

 

「断ろう」

 

 それがいい。

 否、それしかない。

 両親が生きているのなら――いいや、そんな事考えるのは不毛だ。

 

「......肩重い」

 

「あれ~? あずかぐ~ん?」

 

 意識が引き戻される。

 

「きくりさん?」

 

 振り返るとそこには真っ赤な顔で千鳥足のきくりが立っていた。

 

 家で飲むって言ってたのに。

 言った事と違うと、ッムとなるが直ぐにベースの事を思い出し顔を正す。

 

「今から帰りですか?」

 

 我ながら歯切れの悪い喋り方。

 

「うぇ? あ~......うん。よし、私も帰ろう」

 

「その言い方。もしかして梯子する気でした?」

 

「なわけないじゃん! ほら、帰ろ帰ろ」

 

「うっ、酒臭い!」

 

 嫌味を一匙加えたような物言いに全く動じることなく、僕の肩を抱き歩き始めた。

 

「べ、ベースなくて大丈夫でした?」

 

「大丈夫大丈夫、人の借りたから!」

 

「そうですか」

 

 いつ切り出そう。

 きくりさん怒るかな......。

 こういう人程起こると怖いんだよな~。

 

 おどおどしながら一緒に歩いていると、コンビニが見えた所で。

 

「あ!」

 

「ひぃ! 何!?」

 

「家にお酒ないよね!? 帰りに買わないと晩酌出来ないじゃん」

 

「まだ飲むんですか?」

 

 その言葉はもうきくりの耳には届いておらず「おっさけ! おっさけ!」とステップを踏みながらコンビニに消え、一息入れる瞬間にはもう両手に袋を持ちながら戻って来たのだった。

 

「はや」

 

 思わず言ってしまい手で口を追おうが、相手が相手だからいいかと再び足を言えに向け歩き始める。

 

「へへへ。そうでしょ~。――はいこれ」

 

「肉まん?」

 

 差し出されたそれを、無意識的に受け取ると一拍おいて。

 

「あ、あのこれ......」

 

「――ぷはぁ! うっめぇ!!」と身体で表現した後。僕をじっと見て唐突に。

 

「明日香君何か悩んでるでしょ?」

 

「え?」

 

 「食べな」スト虚無で肉まんをさしながら、そう言う。

 

「いただきます......」

 

 パクリと一口。

 久しく食べてなかったそれは、口に入った瞬間何故か安心感を感じさせる味で、空腹でもないのに自然と食が進んだ。

 そんな僕を見て「良い食べっぷりだね」と極太サラミを齧り、スト虚無で流し込む。

 それから、空を見上げ言う。

 

「恋かな?」

 

「ッ!?」

 

 声にも、顔にも出してない筈。

 何で。

 

 狼狽える僕を一瞥し、一笑。

 

「当たった? いや~私勘良いんだよ~」

 

 勘で当てられるモノなのか?

 胡乱気な視線を送りつつ、パクリと食べた。

 

「良いんです。自分でどうするか決めてるので」

 

 余計なお世話。喉から出かかったが、空気が悪くなるのを予期してグッと抑える。

 

「ゴクゴク......カァーッ! まぁ、人生の先輩から一言言わせて貰うなら『後悔のないようにやりな』ってことだね」

 

 一瞬、足が止まりかけるが意識して歩みを進め、きくりの後ろにつける。

 

「......そんなありきたりなアドバイス。後悔しないように何て出来ませんよ」

 

「うぇ?」

 

「どんな選択をしても、良いことなんて一つもありません。なら、出来るだけ人の傷つかないようにって」

 

「......それは明日香君がしたい事なの?」

 

「違います、けど。今はそんなことしてる余裕なんて」

 

 きくりの背中から目を背けながら歯切れ悪くそう言うと、不意に潰れる音が鼓膜を刺す。

 それが、言葉を遮られたような気がして何故かイライラした。

 

 お金の事、家の事、妹の事、人間関係.......グルグル回り混ざり合い、固まった事柄が心の中でゴロゴロ石のように転がり、不快な音が頭に鳴り響く。

 今までの苛立ちが溜まり、許容量を超えてしまった結果。

 眉を顰め、地面を睥睨しながらあえて癪に障るような言動をとってしまった。

 

「――何時もお酒に逃げてるきくりさんには分かりません」

 

 ハッ、我に返った時には目の前に目を開いたきくりの姿が。

 

 怒られる。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 急いで謝るが、反応がない。

 何やってるんだ僕は。

 

 目を見れずにいると、不意にきくりが僕の手を握り自身の横に来させると、そのまま手を繋ぎながら歩き始めた。

 

「いいよいいよ~事実だしね」

 

「......」

 

「でもね、自分がやりたいと思った事は絶対に諦めないよ私は」

 

 何時もは見せない、瞳に夜空を移しながらそう言う。

 その言葉に僕は何も言い返せないかった。

 

「こう見えて私、昔は良い子ちゃんだったんだ~」

 

「え?」

 

「見えないでしょ? 学校では先生の言う事聞いて......勉強してテストではそれなりにいい点取って、恋も青春も知らない、何もない日常で平々凡々な波風立たない学生生活送ってたんだ。でもある時さ、『このまま私はこんな人生を過ごすのかな~』って思ったんだ」

 

 スト虚無を開け、グビッと飲む。

 

「それからしたい事見つけて、やりたい事やってさ......したらそれがチョー面白いの! もう最高だよ!! ......でも偶に思うんだよねー。『もっと前にしとけば良かった』って」

 

 車の音。

 きくりが道路側を歩いている僕と自分の位置を入れ替え、スト虚無を持ち直すとまた手を繋いで話し出す。

 

「そしたら、私の人生もっと面白くなったかもしれないじゃない? だからさ、明日香君も少しでもしたいと思った事があったらやった方が良いよ?」

 

 違うんです。

 きくりさんが思ってるような事で悩んでいる訳じゃ......。

 僕だって恋人は欲しい。

 でも色んな人に身体を売って、星歌さんとも......。こんな僕じゃ、虹夏ちゃんの隣に立つ事なんて出来ない。

 

「ありがとうございます」

 

 必死に作った笑顔を貼り付け、安心させようときくりに礼を言う。が――

 

「......」

 

 腑に落ちてなさそうな顔。

 

「解決しました。大丈夫です」

 

 依然顔に変化のないきくり、缶の中に入っていた酒を一気に呷り「よし」と気の抜けた声で言うと。

 

「明日香君がもし、どうしようもなくなったらゆーちゃんと二人まとめて私が面倒見て上げる」

 

「え!?」

 

「大丈夫大丈夫。私こう見えてバンドで結構稼いでるんだから! 一人や二人頑張れば養えるって」

 

 本気と嘘、どっちともとれる語調に思わず眉を顰めると同時に、真の悩みに気付いているのではないかと言う危機感を感じた。

 

「でも借金あるって」

 

「返すよ」

 

「無茶苦茶です」

 

「ロックに生きてるからね――......だから、元気出しな」

 

「え?」

 

「ゆーちゃんは気付いてなかったけど、何だかずっと無理して頑張ってる感じだったぞ」 

 

 思わず足を止め、聞き直す。

 

「無理してましたか?」

 

「昔と全然違って驚いたよ。前会った時はもっと笑ってたじゃん」

 

「......」

 

 昔の自分。

 そう言えば心の底から笑ったのっていつだっけ?

 考えが過ぎった途端目端から雫が頬伝い流れ落ちた。

 

「――すみません」

 

 必死に取り繕い、手の甲で涙を拭くがポロポロと流れる勢いは止められない。

 自分でも分からない感情の爆発。

 そんな中でもきくりに迷惑が掛かる、早く帰らないとゆーが寂しがる、など考えが浮かびそれが感情と混ざり合い自身でも何が何だか分からない状態に陥った。

 

 しゃがみ込み「ごめんなさい」と呟きながら情けない顔を見せまいと俯く。

 

「ずっと頑張って来たんだね」

 

 同じように、隣にしゃがみ込み空に向け背中をそっと摩るきくり。

 

 これじゃまるで星歌さんの時の――。

 

 その気遣いが、僕の心を抉っている。そう、言えない言える筈がなかった。

 今日ほど、親切を無碍にすることが出来ない性分を恨んだ事がない。

 言いたいのに言えない......何も言えない。

 

「もっと周りの人頼って良いんだよ?」

 

 そんな事出来ない。

 迷惑が掛かってしまうから。

 

 何かを察したのか、それからきくりは何も言わず僕の頭を撫でながら夜空を肴にスト虚無を呷るのだった。

 

 

 

 

 

 一体どれだけ、泣いていたのだろう。

 次第に涙は枯れ、それと同時に久しく感じた事が無かった清涼感が身体の内から感じた。

 

「泣いてスッキリしたでしょ?」

 

「......はい」

 

 目を閉じ、逡巡するきくり。

 下駄を鳴らしながら立ち上がると。

 

「――帰ろっか」

 

「はい」

 

 ゆっくりと膝を伸ばし、抱え込んでいたモノを吐き出したか後だからかクリアな思考状態でこれからの事を考える。

 考えた上で、答えを出す。

 

「きくりさん」

 

「ん?」

 

「..................もうちょっと頑張ってみます」

 

「頑張る事は良いことだ」

 

 「帰ろー!」再び陽気なきくりの声に、気の抜けた笑顔で残りの肉まんを一気に口に放り込み――

 

「――ぐっ!!」

 

 喉に!!!

 嘘!? ここで!?

 

 初めて食べ物で喉を詰まらせパニックになり、きくりのスト虚無を半ば奪い取る形で掴み一気に喉に流し込む。

 

「んぐ.....ぷはぁ! 死ぬかと思った」

 

「あ、明日香君それ結構強い......けど」

 

「え? あ」

 

 そこから僕は暫くの間おかしくなってしまった。

 きくりさんとあんなことをしてしまう位に......。

 

 

 

 

 

 

 

 次回『#11 怒喜怒気』みでくだはい~。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 




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