ブルアカえっちっちSPを満喫した作者です。
セイヤちゃんが来てくれると予想していたのですが、全く想像外のキャラが登場しましたね。
まぁ、それでもエッチッチなのは変わりないので引かせていただきました。
さて、感想欄でも言いましたが、今回のはちょっと長くなりすぎるので執筆中に考えた結果、前編後編に分けようと言う結果になりました。
後編は予想文字数5000字程なので、一つの話で投稿出来るっちゃ出来るのですけど流石にこれ以上待たせるのはなぁっという事で、このような形を取らせて貰う事にしました。
誤字脱字はご愛敬。
PAさんの家のリビング。
ソファに座り、携帯で最愛の妹と話している最中。
「ごめんね。お兄ちゃんこのままバイト行くから晩御飯は......うん、何でも食べていいよ」
『ホント!? 何でもいいの?』
可愛い。
声を聴くだけで癒される。
遊里のプリティーさは今は世間には気付かれていないが、発見されたが最後アイドルに女優にと世の男共を照らす太陽になるだろう。
でもそうはいかない遊里の可愛さは僕だけのモノだ。
......いいや、今はそんな事考えてる時じゃないか。
「いいよ。――じゃあ、きくりさんに代わってくれる?」
『うん! きくりおばちゃーん』
受話器の向こう側から「おばちゃんはやめてよ~」と何とも間抜けな声が聞こえたと思ったら、暫く経つと彼女の声が。
『――どうした?』
「晩御飯きくりさんが奢って下さいね」
『えぇ~なんでさ!』
「だまらっしゃい。昨日あれだけのことしておいてまさかお咎めなしで済むと思ってるんじゃないですよね?」
『いやそれはその~。あはは......』
声音から漂って来る薄情な空気に思わず眉を顰めそうになるが、PAさんの手前もあり寸での所で表情筋を働かせ無に徹した。
「いいですか? もし、ケチってゆーに我慢させたら今月から家賃三倍。逃げたら更に倍。嘘ついたら更に倍の上おじさんに報告します」
『......はい』
「それでは」と電話を切るとふぅと一度肺に溜まった空気を吐き切り気持ちを切り替え、目の前の泡の付いた皿に手を伸ばす。
PAさんは少し遅い昼食を済ませた後、「一時間だけ席を外しますから」と部屋に閉じこもってしまった。
なら帰って良いかと言うと「身体だけの関係みたいですね」と泣き始めたので諦め、今こうして掃除をしている最中という訳である。
「嘘泣き上手すぎでしょ」
洗った食器を乾燥機に入れ、スイッチを入れる。
さて、大方家事は済ませた。
次は何をしようか......。
手に付いた水気を拭きとると、リビングへと歩きながら時間を潰す術を考える。
何度かこのまま帰ってしまおうかと思ったが、先々の事を考え、あの人が何をやらかすか見当がつかない為やっぱりやめることに。
それから色々思案を巡らせたが。
「......家に居る時と変らない」
リビングでテレビを見る事に。
画面の向こうでは、ハンバーグを食べながらやや大げさなレポートをする芸人に対して、それを見ている僕の表情は以前変わりがない。
チャンネルを変える。
今度は芸能人の不倫を議題に何ともくだらない事を、真剣な面持ちで議論を交わしている。
「ふふ......」
シュールさに微笑してしまったが、またチャンネルを変えた。
今度はお金で恨み晴らす系の時代劇の再放送。
やや味のある画質と音声ではあるが、俳優の迫真の演技でそれらの古さも作品の一つとして楽しむことが出来る。
が、途中
リモコンを傍に置き、カーペットの上に寝そべるとゆっくりと目を閉じ、脳内の整理に努める事に。
本当なら遊里と遊んでいたのに。何でこんな事に......。
不毛な思考の波が押し寄せると、寝返りをうちそれらを霧散させる。
......今思えば、最近こんな風にゆったりする時間がなかったな。
壁掛け時計の針の音が鼓膜を揺らし、遠くから聞こえる人の声は子守歌と化し睡眠を促してくる。
ああ......寝れそう。
パチクリと瞼を開閉しながら、意識が微睡の中に入って行こうと言う時にふと頭の中に何かが降って来た。
「――シーツ、洗ってないや」
不意に思い出したそれを片付ける為にのっそり状態を起こし、ボサボサの髪のまま寝室へ。
「うっ。どんだけしたんだ僕。びちょびちょだよ」
バケツを零したのかと思えるほど、水気を持ったシーツに一瞬放って置こうかと思ったが、ここまで来たのだからと手をワシャワシャさせたのち、汚れたものをベッドから引き剥がした。
「ひぃ! ばっちぃ」
洗濯機は!?
身体に張り付く不快感を顔に出しつつ、アメリカのアニメのように足音鳴らしながら右へ左へ目的のモノを探し出す。
最新式のドラム型が見た時、一瞬固まったが直ぐに蓋を開き、放り込――
「――もー」
洗濯した服が入れっぱなしな事に牛になりつつ、シーツを一旦床に置き、手近にある籠に洗濯機の中にある服を放り込み、シーツを投げ入れた。
それから、リビングへと向かい籠をひっくり返し、服を畳んで行く。
結局、家でやってることと変らないな。
頭の中でそう思いつつも、何処か安心している自分に気付き思わず頬が緩む。
「キ゛ャァァァァァッ!!」
「ッ!?」
跳ねる自分の身体。
この声はPAさんの!? 確か部屋にいるって。
尋常ならざる悲鳴に、自然と身体が動き部屋に向かう。
そして、勢いよく扉を開くとそこにはスウェット姿でパソコンの前で胡坐をかき、盛大な独り言を発し続けるPAさんの姿が。
予想だにしていなかった光景に、固まっているとPAさんもこちらに気付いたのか、僕と同じで大きな口をあけながら固まっていた。
「――きょ、今日はこれで終わり~。音戯アルトでしたぁ......」
マウスを操作し、パソコンの電源を切ると立ち上がる。
「ちょっと早いですけどそろそろ出ましょうか。さぁ仕事仕事」
何だか取り繕った様子のPAさんを見て、瞬間的に察した僕は好機とばかりに彼女に続きながら喉に刺さった小骨を抜く事に。
「......PAさん」
「............なんですか?」
「聞き忘れていたんですけど僕の写真消してくれました?」
珍しく、気持ちを表に出すPAさん。
ギクリと擬音が聞こえる程身体を跳ねさせ、それでもなお煙に巻こうと足掻く。
「着替えて来ますからちょっと待っててくださいね~」
大方、例の写真を材料にあわよくば......と考えていたであろう事実に心の中で刹那の間、苛立ちが燻る。
いい機会だ。今までの借りを返しても罰は当たらないだろう。
思い返せば今日まで押されっぱなしだった僕は、僅かな思案を介する事無く実行に移した。
「音戯アルトさん」
「っ」
また震えた。
分かりやすいな。
「仕方ありませんねー。アルトさんがこの様子じゃ僕も、つい口を滑らせてしまうかもしれません」
アルトと言う単語を強調し、彼女の前へ立ちはだかる。
その顔は表情には出さないが、確かに未だ見たことのない『焦り』を感じる事が出来た。
この調子だ。
正に水を得た魚と言った感じで舌に油に浸したのかと錯覚するほど次から次へチクチク言葉をPAさんに放つ。
「早くバイトに行きましょう。皆に話したい事がありますし。あれ~? どうしましたアルトさん。もしかして焦ってます~?」
「......」
「焦ってますよね? これで僕もPAさんと対等って事で――わぁ!」
普段出来ない事に、思わず調子に乗ってしまった僕は加減も知らずに突き進んでしまい、結果墓穴を掘る事に。
押し倒され、そのまま馬乗りになり、僕の顔の横に手を付く。
「明日香のくせに生意気ですね。――まだ、少し時間があります。このまま二回戦と行きましょうか?」
焦りと苛立ちが仄かに見え始めた。
大丈夫、こっちだってまだ武器があるんだから。
そう言い聞かせ、気丈な態度を解く事はせずに対抗する。
「ッ! い、良いんですか! 言っちゃいますよ!」
小学生の「先生に言いつける」のようで若干自己嫌悪に陥ったが、しかしそんな事も言っている暇はなく。
どんな事を言っても止まらないPAさんの顔に次第に自身の態度にボロが出始める。
「言ってもいいですよ? 私も言いますから」
「そんなだって「考えてみてください」っ」
「私と明日香。バレたらどっちのダメージが大きいですか?」
やってしまった。
楽しくて周りが見えなくなっていた。
後悔してももう遅く、片手で僕の髪の毛を掴み顔を固定され動けぬままにPAさんの舌が僕の口元へ侵攻を開始。
寸での所で口を噤み、防衛線を築く事に成功するが髪を掴んだ手をグッと引かれ、チクリとする痛みで反射的に口蓋を晒してしまう。
「んれろ......ちゅ」
「んん! ごめんなしゃい、れろ......ごめんあ、ちゅれろ」
謝ってももう遅く、完全にスイッチが入ったPAさんの目は獲物を狩る獣へと変貌しており、そんな中の謝罪は彼女の情欲の炎を大きくする薪にしかならない。
何時もと違う、少しずつ絡めとるようなキスではない、暴力的なキス。
完全な自己中心的なその行為に対し最早なすすべなく戦線は壊滅、白旗を上げる。
だが、そんな事ではPAさんの高ぶりは収まる事はなく。
剥ぎ取るように僕の服を脱がせ、いいや脱がせるのも待てない様でそれが出来る状態まで服をずらしたらそのまま自身の中へと招き入れる。
否、引き摺り込む。
行為は発展し、次第に肉と肉が激しくぶつかり合う音がリビングに響いて暫く経つ。
「じゅる、これはお仕置きです。ちゃんと覚えておいて下さい。どっちが上なのか? ん!! 分かりました?!」
「ん、あ! ッ」
両手で僕の頭を掴み、自身の方へと顔を向かせる。
「わ・か・り・ま・し・た?」
「分かったぁ! 分かったからもうやめて!」
極短時間の間に許容量を遥かに超えた愛を詰め込まれ、最早爆発寸前。
今となっては、弱みを握り内心ほくそ笑んでいた自身を呪う。
「ぐッ! ダメです。 あん! 誠意が足りません!」
「誠意!? そんな事 んん!!」
腰の動きを止め、考えるPAさん。
「そうですね......では、店長にピアス見せるって言うのはどうでしょう?」
「え!?」
「私の付けたシルシが良く見えるように『似合ってますか?』って聞いてお腹見せて上げて下さい。それで、今回の件は不問にします」
恥ずかし過ぎる!
自身の痴女的行動を思い浮かべ、途方もない刺激が羞恥心を燻らせ頭がおかしくなりそうになる。
しかし、拒否する事が出来ず、八方塞がりに。
結局、交渉の余地なく半ば強引に納得させられ、お仕置きを受ける事になった。
分からせられた後、手早く支度を整え家を後に。今はスターリーに向かって二人肩を並べて歩いてる最中だ。
「腰痛い......」
「軟弱ですね」
何時も通りの黒い肩出しワンピースのPAさんは長い袖で口元を隠しそう言った。
「誰のせいでこんな事に」喉から出かかったそれをグッと押し込め、下腹部を撫でる。
何だか変な感じがしてまだ慣れない。
髪と耳の方、内側だから捲られない限り大丈夫。大丈夫......な筈。
お腹だけ見せればそれでいい。
......でもやっぱり恥ずかしい。
知り合いとは言え、行き成りお腹見せる何て。
「変態だ」
台風来て休みにならないかな。
「何を今さら」
「きゃ。いきなり耳元で話かけないで下さいよ」
「ふふ。それは失礼」
「何ですかその目」
「いや。何だか女の子っぽいなぁって」
なんやて。
「どこが!?」
僕の最後の砦である『男』としてのプライドに関わる事態。
何としても疑念は払拭しなければならない。
「う~ん。驚いた時の『きゃ』って泣き声とか~。あと、ベッドの時の――」
「ベッドは! ......ベッドはあれは......そう。あれはいきなり来たからああなった訳であって。ちゃんとよーいドンで始めれば、僕だって負けないし!」
「え~、そうなんですか?」
「そうです! ぼ、僕だって男なんですから、男らしい事もしますし! さっきの声だって偶々「ふぅ~」にゃ! ちょっとぉ!」
スターリーに着くまで如何に漢らしいか説き、印象を変えようと努力したが「明日香は漢って言うより男の娘ですよね」っと一蹴された。
「男の娘ぉ! 漢どころか男ですらないの?」
「でも男の娘ですよ。女の子じゃない分いいじゃないですか」
「それってもう崖っぷちじゃなくて、崖から落ちてるじゃん。ほぼ女の子って事じゃん!」
そうこうしている内に、スターリーの扉の前。
この先に進む事、それ即ち、PAさんとの約束を果たさなくてはいけない。
そう思うとさっきまでの勢いは何処へやら、口を重く閉じ、扉の前で足が止まってしまった。
だが、後方から僕の肩を押す手により、立ち止まる暇なく前かがみになりながらスターリーの中へ。
「ん? 明日香君? 今日ははや――」
カウンターで何時ものリンゴジュースを飲んでいた星歌が、顔を上げ此方を向くと途端に言葉を詰まらせてしまった。
視線は僕の後ろ、おそらくPAさんの所。
「お、おつかれさまです......」
「お疲れ様です店長」
「......どういう組み合わせだ?」
怪訝な面持ちで僕達を睨む。
気圧される僕とは裏腹に飄々とした感じのPAさんが、耳元でそっと「ほら」と呟く。
その言葉が何を指すのかは知っていた。知っていたが、どうしても身体が拒否反応を起こし、一縷の望みを頼りに踵を返し、彼女の顔を見上げ乞う。
「ほら、男らしさを見せて下さい」
微笑む彼女に再度、首を振り拒絶。
そこには男らしさの欠片もなく、女々しくも約束事を土壇場で拒否する身勝手で卑しい男の娘がいるだけだった。
火を吹き消した時のようにスッとPAさんの笑顔が引いてく。
「嘘つき」
「あ、ちょ、や、やめ――」
僕の肩を掴み無理やり星歌の方へ向かせると、片手で髪を、もう片手でシャツを掴み勢いよく捲り上げる。
「どうです店長、似合ってるでしょ?」
勝ち誇った顔で星歌を見るPAさん。
しかし、星歌の目にはPAさんは映っておらず、僕を貫くように見つめていた。
「じゃあ、私準備がありますので、後はお二人でごゆっくり」
風で捲れるスカートを押さえるように両手でシャツを押さえていると、PAさんは満足したのかポンっと優しく僕を星歌の方向へ押すし、鼻歌交じりに自身の定位置へと足を向けた。
「「......」」
名状し難い空気が店全体を支配する。
何と言って良いか分からない。
「そ、掃除に行ってきます」
だから、僕は逃げる事にした。
「どこ行くの?」
「え? だから「座って」でも「座って」......はい」
やっぱり逃げれなかった。
どんな言い訳をしようか考えながら彼女の隣に座りと、それと同時に後頭部に手を回され、唇を塞がれる。
「ん! れろ、ちゅ」
「ちゅ、じゅる.......」
急な出来事で反応出来ずに舌は口内へ、侵入したそれは何時もとは違い、更に奥へと進んで行き喉奥まで到達した。
離れなれない。
それどころか、更に奥へ行こうと後頭部を押さえる手の力は強まり、空いた片手で腰に手を回し、離れようと星歌の身体を押す力の数倍の力で身体を抑えつけられた。
息がッ! ......。
抱き寄せられた反動で倒れそうになる椅子。
激しい水音がスターリーの中に響き渡る。
「......ぷはぁ!」
「ちゅ。次は私の番だよな?」
「あ、あのあの。もうこういう事は」
「あいつとはした癖に」
拗ねた声で言うと、二人の間に隙間が出来る程度に力を抜き、片手で僕の髪を掻き上げる。
「あいつの方が良いのか?」
不安そうなその顔が僕の心を揺らす。
「そう言う訳じゃ。......ただ、もうこう言う事はしない方がいいかなと」
「......」
僕の言葉に途端に顔を正し刃のような切れ長な瞳を差し向ける。
何を探るようにジッと見つめ。
「じゃあ、もうしないんだな?」
「はい」
「......そうか。分かった」
パソコンの閉じ、椅子から立ち上がると、前屈みで僕の耳元に顔寄せ。
「その言葉忘れんなよ」
「ッ!?」
その言葉からは僅かではあるが、確かに重々しい何かが感じ取れた。
怒り? 苛立ち? それとも嫉妬? 分からない。どれでもあり、どれでもない感情の残滓。
ない知識でどういう意図か考えている僕の首元、とり具体的にはチョーカーを撫で、トイレへと消えて行った。
それに代わるように入って来る青い髪の少女。
「早いね」
「山田さん」
荷物をカウンター裏に放り投げ、僕の隣に来ると。
「何かあった?」
小首を傾げながらそう言う。
「な、何で?」
突然の強襲に、取り繕う暇もなく受け言葉に買い言葉をしてしまった。
マズい。
大人なら兎に角、同世代の人間にこのことがバレるのは本当にマズい。
高校生なんて面白い話を知れば即つぶやき、即ロイン。
その速度は文字通り高速であり、一度広まった情報を消すなんて不可能に近い。
そうでなくても、最悪人生が終了する可能性がある情報だ。
脅迫される......何てことも。リョウなら十分にあり得る。
『明日香。バラされたくなかったら分かるよね?』
下衆顔のリョウが鮮明に思い浮かぶ。
クソ! 借金してるくせにッ。 借金してる癖に!
「ん~。何となく?」
タイムカードを切り、僕の隣の席に腰かけ足を組むリョウ。
スレンダーで長い脚、容姿端麗と言って差し支えない容姿。
傍から見れば美人だが、中身は残念な事を知っているので心の波を立たせる心配がないのが唯一の救い。
これで、ドキドキしてたら絶対にバレてた。
良かったリョウが残念で。
「あ、あれ~? そう言えば虹夏ちゃんは~?」
「ワザとらしく移したな」
カウンターに肘を置き、手で頭を支えながら僕を見つめる。
そして、徐にもう片手の僕の横髪に沿え、捲り上げた。
その間僅か一秒。
「あ゛!」
「......」
一瞬の隙を付かれた。
ば、バレた? どうしたら。
「ここここ、ここここれはイメチェンで、オシャレで、やましい事はなくて!」
「何も言ってないけど」
「だから、やましい事はないですから!」
「そう」
目をグルグルさせながら、あわあわと何とか言い繕おうと涙ぐましい努力実らず、反応のないリョウに耳たぶを触られるのをただじっと待つしかなかった。
フニフニ。
「......」
ぷにぷに。
「.......あの、何か言って頂けると」
「似合ってるね」
「それはどうもありがとう。――じゃなくて、そのこれは」
「ん?」
「虹夏ちゃんには......」
「ん?」
「だから、虹夏ちゃんには......その」
「ん?」
こいつ!
「もう! 分かってやってるでしょ!」
そう言うと、口の端が僅かに上がった。
「大丈夫。言わないよ」
「ふぅ」
「だからお金貸して」
「アホ」
「ひどい」
「どの口が。まだ、ベースのお金も返してもらってないんですけど」
「あれは事故だからノーカンって事にならなかった?」
きくりと言いベーシストはこんな人達ばかりなのだろうか......。
恐るべしベーシスト。
「何都合の良い事言ってるの。そんな事誰も言ってないから、虹夏ちゃんだって――そう言えば虹夏ちゃんは?」
もう直ぐ開店だと言うのに、未だ現れない虹夏。
何時もなら早めに来て店の雑用を片付けているのに、今日は何時もギリギリのリョウより遅いなんて。
「あれ、聞いてなかった? 今日は虹夏風邪で休みだけど」
「え? そうなんだ......」
珍しい。
今まで風邪なんて引いた事なかったのに。
突然の知らせに、心配を胸に何かあったのか考えていると不意に後ろから気配が。
「ご歓談中の所悪いが――」
「「あ」」
「もう開店してるんだけど」
「「ごめんなさい」」
仕事しないと。
初めて小言を言われた以外は何時もと同じく順調で、虹夏の抜けた穴も手すきになったPAさんが変わりに回ってくれている為、通常運転で回す事が出来た。
因みに、リョウは小言だけではすまず、小さく積み重ねていた遅刻貯金が爆発し、拳骨をお見舞いされていた。
涙目のリョウはちょっと面白かった。
「ひどい」
「日頃の行いを見ればあれくらい可愛いものじゃない?」
一頻りし仕事を終えた僕とリョウは、カウンターで二人来ないであろう客を待ちながら談笑をしている最中。
というのもライブが始まれば、僕達のやる事はほとんどない。
あってもドリンクくらいで、それも十数分に一人あるかないかくらい。
何故なら、大体の人達はライブが始まる前に注文を済ませるからだ。
つまり、これから閉店の時間までやることがほとんどない。有体に言えば暇なのである。
やることがない時間が出来れば自然と会話が生まれるもので、人見知りで友達が少ない僕でも二人と友達になれたのはこう言った隙間時間が起因してるに違いないと僕は思っている。
「ものじゃない。虹夏がいれば注意だけで済んだのに」
「こりないな~」
揺れる髪が邪魔で、無意識に横髪を耳にかける。
が、直ぐにピアスしている事を思い出し、赤面しながら元に戻す。
寄りにもよってインナーカラーした方、しかもまたリョウに見られたし。
モジモジしていると不思議そうな顔でリョウが言った。
「何で隠すの。ロックなのに」
「......恥ずかしいからに決まってるじゃん」
「? 恥ずかしいなら何でいれたの? それにその色PAさ「あぁもう! この話終わり!」......」
雑に切ってしまった為か、無言の間が生まれてしまう。
「虹夏喜んでた」
「何で?」
「明日香と出掛けれるって」
「......そうなんだ」
「なにか最近張り詰めてた感じだった。それがなくなった反動で熱出したんだと思う」
星歌との誤解(誤解じゃないけど)で落ち込んでたのを思い出す。
それって、全部僕のせいなんじゃ。
「だから――」
ライブの音量で声が掻き消された。
「え?」
首を傾げ、聞こえないとジェスチャーを送ると、今度は身体を近づけ耳元で。
「ありがとう」
と一言。
突然の事で、耳を手で覆いながらリョウから距離を取る。
お礼何て言わないでよ。
心が。ただでさえ小心者の心が壊れるぅ。
て言うか顔近!
まつ毛長い。
肌が白い。
リョウってこんな顔してたんだ。
綺麗だ。感情が浮かび上がる前に首を振り雑念を霧散させると、「別に礼をされる事じゃ」とはぐらかす。
普段のリョウではないリョウに思わず顔を赤らめてしまい。それを隠す為に彼女からそっぽ向き見られないように。
「虹夏は大切な友達。ちゃんとしたお礼言いたかったんだ。だから――」
目の前に一枚の紙を差し出された。
「これは?」
「チケット。私のバンドの」
受け取ったそれを見ながら、言葉に耳を傾ける。
「聴きに来て」
「......」
彼女の真剣な眼差し。
何時もの飄々としたそれではなく真に芯の入った瞳で、それはとても美しく魅力的に見えた。
鼓動の高鳴りを感じながら、チケットからリョウの顔、そしてチケットへ。
何でリョウなんかにドキドキしてるんだろう。
お金を返さないリョウなんかに。
リョウなんかに。
「何か失礼な事考えてない?」
水蒸気を出しながら、顔を真っ赤にしている僕を見つめ言う。
その顔は何時も通り、感情を表に出さない平坦な表情。
それが、何処か自分が敗北した感じがして、何故か少し腹立たしくなった。
「これで借金はチャラ何て言わないよね?」
内心、礼を欠いた言動だと思いながらも、感情の波に押されるように声が出てしまった。
言ってしまってから、悪い事を言ったと後悔し、「ごめんなさい」の言葉を発しようと再び口を開くが。
ビクッ!
肩を震わせるリョウを見て、喉の所で止まってしまった。
「......」
「......え?」
「......」
「まさか、本当に狙ってたんですか?」
「今は仕事中。私語は慎むべき」
「最低」
心からの声。
ここで、ちょうど次のバンドの演奏が始まり、室内は爆音と共に再び震え出した。
それにつられ、ステージの方に顔を向けるリョウ。
ここだ。
隙を見逃さず、さっと彼女に近づくと手癖で横髪を耳にかけながら――。
「――でも、ありがとう」
お返しとばかりに耳元でそっと呟く。
「ッ!?」
先ほどの自分と同じ反応。
顔は少し赤みがかったように見て取れる。
難攻不落のリョウの表情筋を破った事に、つられて此方もつられて口端が緩む。
「......虹夏の気持ち分かった気がする」
「え? 何か言った?」
「何でもない」
「カシオレ一つ下さい」
「はいただいま!」
客に阻まれ、リョウの真意を知る事が出来なかったが。
「山田さん?」
「......」
知らないリョウの顔を見る事が出来て、少しだけ心が晴れた気がした。
バイト終わり。
掃除をしていると、どさくさに紛れて尻を触ろうとするPAさん。
それを阻止しようとする星歌との決闘を尻目に、細々とした作業を済ませる。
因みに、リョウはさっさと自分の仕事を終わらせ帰ってしまった。
「お前何セクハラしようとしてんだよ」
「店長だって仕事前、目ウルウルさせてたじゃないですか~」
「ッ。お前見てたのか!?」
「墓穴掘りましたね」
「こいつ!」
「......お疲れ様です」
二人に捕まらないよう、若干声を小さくしながら言うと、そそくさとタイムカードを切り脱出。
コンビニ寄って、戻って来たら二人の決闘終わってるよね。
えっと、ポカリとプリンとアイス、それから――
扉を開けた瞬間、頭に水が降り注ぐ。
「......何これ?」
それを見上げると、大粒の雨が顔中を濡らす。
「早くコンビニに行かないと!」
幸い、走って行けば直ぐに所にある。このまま濡れる覚悟で行けば!
「ありがとうございました!」
「こんな時に限って傘が売り切れだなんて......」
自動ドアの前、曇天で怒り模様の空を見上げ。お見舞いの入った袋を両手で抱えるように持つと、大きく息を吸う。
「よし」
次回『#16 ラストダンスは悲しみに乗せて 後編』見て下さいッ!
感想、評価貰えれば執筆速度UPします。