※この作品はR-18です。

ばいしゅん・ざ・ろっく!!   作:清姫

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 コミケじゃコミケじゃ! 祭りの始まりじゃぁぁッ!!
 ま、私は行きませんけどね。
 でも、好きな絵師の同人誌を予約しました。
 
 次回はエチエチタイムに入ります!?
 
 誤字脱字はご愛敬。


#18 新世紀のラブソング

 一週間が明け、また新たな一週間が始まる日。

 それ即ち、学校が始まる日。

  

「はぁ......つかれた」

 

 今日も今日とて学校が終わりスターリーに向かう。

 ここ最近、不用意な事態が散発し学業を疎かになってしまっていた。

 そんな日々を送り予習復習がままならない中で、せめて学校の間だけはしっかりと勉学に励もうと意気込み何時ものように家を出た。

 なのに。

 

「? 何?」

 

「......何でも」

 

 隣で歩いているリョウは僕の訝し気な視線を感じるとアイスを離し、スマホの画面からこちらに視線を移す。

 話を待っている青髪の彼女をしばらく見つめ、深くため息を漏らし疲労感を感じるままに、正面に向き直した。

 

 リョウと僕、通っている学校は別々。

 当たり前だが通る道も違う。

 それなのに、何を思ってかリョウが「送る」と言い出し断る僕を無視し学校までついてきたのだ。

 何故遠回りになるにも関わらず態々ついて来たのかはこの際どうでもいい。

 問題は、一緒に居るところをクラスの生徒に見られたことにある。

 前にも言ったと思うが、リョウは美人だ。

 それも凄く。

 そんな人と一緒に歩く所を見られればどうなるか?  

 

 『あの子誰?』とか『彼女?』とか『紹介して?』etcetc...................。

 

 碌に話した事がない奴まで交じり僕の机を包囲、ノートと教科書を開き『これから勉強しますよ』シールドを突き破り、質問攻撃と言う名のノイズを絶えず浴びせて来やがった。

 それも毎休憩毎休憩......一日中ずっと。

 授業中まで『連絡先教えてくれない?』と紙が回って来るものだから一日中集中出来ない状態が続いた。

 

「何で今日は早いの?」

 

「明日香と一緒に行きたかったから」

 

「......僕は一緒に行きたくない」

 

「何で?」

 

 リョウの答えに苛立ちを混ぜた言葉で返すと、足を止め聞き返して来る。

 相変わらず感情の読めない面持ち。

 

「今日はリョウのせいで大変だったんだから。一日中『あの子誰?』「明日香君の彼女?』『連絡先教えてくんね?』休憩中も移動中も授業中もぺちゃくちゃぺちゃくちゃ......。僕は好奇心を満たすための道具じゃないっての!!」

 

 待ってましたと言わんばかりに目を吊り上げ今までに起きた不平不満をぶちまける僕。

 それらの言葉を顔色一つ変えず聞き終わり、食べ終わったアイスの包装を自身のポケットにツッコむと淡々と一言。

 

「それって私のせい?」

 

「当たり前じゃん。山田さんが学校までついてこなかったらこんな事にならな「それってそいつらの責任で私関係ないじゃん」ッ」

 

 何時ものようにのらりくらりと流すと思いきや食い下がって来たリョウに驚愕し固まってしまう。

 そのまま、壁際に追い込むように距離を詰めてくるリョウ。

 

「私は明日香と一緒に行きたかったから付いて行っただけ。それなのに、そんなに言うなんてひどくない?」

 

「ま、まぁそれはそうだけど......でも――ッ!?」

 

 コンクリートの冷たさを背中に感じたと思ったら、片手を僕の顔の横の壁につく所謂『壁ドン』で見下ろす。

 平坦な声とは裏腹に、リョウの顔は悲しみの色がチラリと見えた。

 普段は見せない表情を前に、沸々と湧き上がる感情は鎮火され代わりに現れたのは『悪い事をした』と言う自責の念。

 

「ごめん。これからは明日香に近づかないようにするから」 

 

「え? そこまでしなくても......」

 

 言葉を聞くことなく先々歩き出すリョウ。

 離れていく背中を慌てて追いかけ、早歩きの彼女に追随しながら弁明する。

 

「ご、ごめん。ちょっと言い過ぎた」

 

「......」

 

「ごめんて言ってるじゃん」

 

「......」

 

 何で僕が謝ってるんだ?

 疑問が浮かぶが取り敢えず許して貰おうが勝ってしまい、再び沈み露と消える。

 

「ねぇ。ねぇって」

 

「......」

 

 肩を掴むがやんわりと振り払われる。

 前に立つが、横をすり抜けられる。

 思い浮かぶ限りのあらゆる行動をとり、それでもダメだった僕は、「またか」と思いつつも先々の事を考えながら一瞬顔を伏せ、早期解決を果たす為切り札を切る事に。

 

「――何でも言う事聞くからもう許してよ」

 

 両手でリョウの手を包み込むように掴み、言う。

 今度は振り払われずに足を止める。

 僕を見るその顔は元の平坦なモノへと戻っており、コンビニの方を指さす。

 

「肉まん奢って」

 

 言葉を聞いた瞬間、理解した。

 

「ッ!? また騙した!」

 

「明日香は騙しやすい」

 

「行くよもう!」

 

 踵を返し、再びスターリーへ。

 喜怒哀楽の感情を振り回され、働く前から疲れる僕に容赦のない攻撃が襲う。

 

「でも、少し傷ついたのは本当だよ」

 

「......それは」

 

「この傷ついた心は明日香の名前呼びでしか癒せない」

 

 そう言えば、昨日の夜リョウに名前呼びにしてって言われたような......眠たかったからすっかり忘れてた。

 いざ面と向かって言うのは何だか恥ずかしい。

 顔を右往左往させながら、頬を桜色に染め。

 

「......ごめんね、リョウ」

 

 ポツリとこぼすように言った。

 

「いいよ。明日香」 

 

 やりにくい。

 ため息を吐きつつ、これからの事を考えつつ、スターリーに到着するまでの間リョウの接し方に対して苦慮するのだった。

 

 

 

 

 

 

 店に着き扉を開くと、そこには机に突っ伏し誰かを待っている様子の虹夏の姿が。

 

「ッ! 明日香く――リョウ?」

 

 僕の顔を見て、パッと笑顔で立ち上がる。

 が、一緒に来たリョウの顔を見て直ぐに困惑げな表情に。

 

「お疲れさま」

 

「お疲れ」

 

「え? あ、うんお疲れ様......じゃなくて、リョウ! 学校終わって何処にもいないと思ったら何で明日香君と一緒に?」

 

「別に」

 

「別にって......」

 

 横目にタイムカードを切り、荷物を置くと何時も通り開店前の掃除をする為にロッカーへ向かう僕達。

 

「明日香君」

 

 あ、これ僕に矛先が向く奴だ。

 声により足を止められ、表情で『こっちに座れ』の念により、連行される。

 

「どう言う事?」

 

 悪い事した時の言い方だよそれ。

 言葉が思い浮かぶが、声には出さない。

 何故なら、虹夏の顔が見たことない程曇っているからだ。

 

「えっと......」

 

 これはどういうのが正解なんだろう。

 瞬時に脳内会議が開幕。

 あらゆる明日香が、激論を交わし結論を出す。

 

『正直に今までの事を言うべきだ!』

 

『そんな事言ってみろ、今の虹夏なら何をするか分からないぞ!?』

 

『この弱腰明日香が!』

 

『何だと!』

 

 ちょっと喧嘩しないでよ......。

 

『無難に偶々会ったからで良いのでは?』

 

『『『『『......』』』』』

 

 その間僅か数秒である。

 

「本当だよ。偶々一緒になっただけ」

 

「そうなんだ。じゃあ、何もないって事?」

 

 何もない? 別にやましい事は何もして......るけど、別に下心もないし。

 ま、何もないと言えば何もないよね。

 

「うん、山田さんと僕は何もないよ「嘘」え!?」

 

 穏便に済まそうと奔走している中、思わぬ伏兵。

 バッと振り返ると、そこにはどこか不満げなリョウが立っていた。

 

「何でぇ!?」

 

 思わず声に出る。

 さっきまではぐらかそうとしてたのに!? 

 

「え? それ、どういう意味なの......」

 

 僕を挟んで二人が対峙する。

 折角、緩んで来た空気がここに来て再びピンっと張り詰めだした。

 その張り具合ときたら、何時切れてもおかしくない程でその糸が切れたが最後、爆弾が爆発し、辺り一帯が焼け野原になるだろう。

 

 これは......マズい。

 何がと言われれば分からないけど、何かがすっごくマズい。

 頬から汗が滴り落ちる。

 

「そのままの意味。私と明日香は一緒に(・・・)ここに来た」

 

 糸が更に張っていく。

 

「じゃあ何で最初はぐらかしたの?」

 

「――それは」

 

 何でこっち見る。そして、何で顔赤らめてる?

 もしかしてリョウも僕が好きとか? ......いやいやないない。

 虹夏と違ってリョウとこうやって話すようになったのはここ最近だし、それに思い返しても好きになられるような事はしてない。

 

 そうこうしている内に視線を感じる。

 

「......え? 僕?」

 

「あ、明日香君。嘘だよね?」

 

「な、何が? 何の話?」

 

 リョウの態度、話の流れ、その中に虹夏の今にも泣きそうな顔が合わさって今の僕の頭は混沌を極めている。

 分かっているのは良く分からない状況で良く分からない中、話の行く末がかかっているという事だけ。

 もう何だか分からず目をグルグルしていると、そこにまた新たな人の影が。

 

「お疲れ様で~す」

 

「P、PAさん......」

 

 どうしようもないと判断した僕は、虹夏と同じような顔でPAさんの方を見る。

 タ・ス・ケ・テ!!

 必死に送るアイコンタクト。

 「あぁ」と合点が言った顔で近づいてくるPAさん。

 お願いPAさん、もう貴方だけが頼りなんです。

 

「じゃ~ん! どうです? 似合ってるでしょ?」

 

 明らかに雰囲気に即してない声と同時に僕の横髪が掴み上げられインナーカラーが外気に晒される。

 

「......あ」

 

 染め直すの忘れてた!

 

「.......」

 

 青ざめる僕を見て、小首を傾げるリョウ。

 そして――

 

「............――!!!」

 

 虹夏のダムが決壊した。

 大きな声は店内に響き渡り。

 

「誰が泣かしたぁ!?」

 

 光の速さで星歌が現れ、鬼の形相で僕達を睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

「ぐす、すん......」

 

 あれから、何とか誤解は解け伊地知姉妹を宥める事が出来た。

 しかし、星歌の余りの気迫に耐えられなかった僕は 

 

「うぐ、え......すん」

 

 泣いてしまった。

 何アレ? 何あれ?? 何あれ!?

 怖い! 怖すぎる!

 前にあったクレーマーが子犬に思えるレベルで怖いよ。

 二人とも何で平気でいられるの? 

 て、手の震えが止まらないぃぃ。

 

「......ごめんね明日香君。このハンカチ使って」

 

「うう。うん」

 

 すっかり泣き止んだ虹夏は僕の座る椅子の前にしゃがむと手にハンカチを握らせてくれ、それを僕は未だ震える手で涙を拭った。

 恥ずかしい!

 人前で、それも大勢の知っている人の前で泣くなんて。

 高校生なのに。

 情けない! 生きていけないよ!

 

「お姉ちゃん」

 

 立ち上がった虹夏。

 隣に気まずそうに突っ伏している星歌を小突く。

 

「――あぁ、あの......ご、ごめんな明日香君――お前らも謝れ!」

 

「「ごめんなさい」」

 

 頭に大きなたんこぶを作り、申し訳なさ全開で頭を下げるPAさんとリョウ。

 二人は悪くない......とは言い難いが虹夏の本心を見抜けなかった自分自身に大きな非がある。

 今回の結果を招いたのは僕が鈍感だったせいだ。

 そんな不甲斐なさが、二人の謝罪によって再認識させられ更に涙が溢れ出した。

 

「ごめんね......ごめ、ん」

 

「――と、取り敢えずもう開店だから。リョウはチケット虹夏はドリンク。明日香君はドリンクの裏で座ってな」

 

 「やった。明日香君と二人」と小さな声で言いつつ、リョウに勝ち誇った顔で一瞥し僕の手を握る。

 

「立てる? 泣き止むまで座ってていいからね」

 

「うん。......ごめんね。虹夏ちゃん」

 

「(泣き顔の明日香君、可愛い!!)ううん。気にしないで、全部リョウ(・・・)が悪いんだから」

 

「私もドリンクが良いんだけど」

 

 拳大(こぶしだい)のたんこぶを撫でながらリョウは言う。

 

「目元腫らしたのと泣いてるのに接客させるのはきついだろう。ってかお前のせいでこうなってるんだからな反省しろ」

 

「......申し訳ございません」

 

「ほら、もう開店だから持ち場に付け」

 

 そう言うと星歌は残った仕事をやりに奥へと引っ込む。

 

「まさか私にも拳骨落とすなんて」

 

 「いたた」両手で頭を押さえながらPAとして仕事を果たすべくブースへ向かう。

 同じくリョウもトボトボと入口にある受付へと歩き出す。

 

 虹夏が忙しなく動くカウンターの影でシクシクなく僕。

 大方の客が掃け、ライブが始まろうとした時にやっと落ち着くことが出来た。

 

 ヤバいよ。一番働かないといけない時に僕何も出来てない......。

 

「に、虹夏ちゃんごめん」

 

「ううん。元はと言えば誤解させるようなこと言ったリョウが悪いんだし。......それに、誤解した私も悪いし」

 

「え?」

 

「何でもない! 何でもない!」

 

 最後の方に何か小声で言ったような気がしたが......気のせい?

 椅子を片付け、虹夏の隣に立つ。

 ステージに目を向け、両手でモジモジしながら何を話せばいいかを思案する。

 名前も分からないバンドの音が、僕の鼓膜を酷く揺らし思考を乱す中。タイミングを見計らい、口を開いた。

 

「「――明日香君(虹夏ちゃん)」」

 

 ほぼ同時。

 

「虹夏ちゃんから」

 

「明日香君から言って」

 

 声から漂う固い意思に「じゃあ」と僕は話を続けた。

 

「本当にごめん。仕事させて貰ってるのに......忙しい時に何も出来なかった。虹夏ちゃんに負担をかけさせちゃったよね」

 

「もう、さっきも言ったでしょ? あれはリョウが悪いんだって。仕方ないよ。明日香君は悪くない」

 

 すっかり腫れた目は治っており、僕の方を向き人差し指を立てながら「しつこいよ?」とワザとらしく怒っているような表情を見せる。

 その子供っぽい表情は何処かおかしく、くすりと笑ってしまった。

 

「――うん。あ、ありがとう。虹夏ちゃん」

 

 虹夏に励まされると、安心する......。

 彼女の方を向き、目を見ながら礼を言う。

 目端に着いた雫を指で拭い、ポケットからハンカチを出す。

 

「これもありがとね。洗ってから「それは大丈夫」――」

 

 僕の手からハンカチが消えたと思ったら、虹夏が持っていた。

 

「で、でも悪いよ。汗も拭いちゃったし」

 

「別にこれくらい平気だよ?」

 

 ハンカチを一瞥し、丁寧に畳み大事そうにポケットに収めると「それより」と話題を切り替る。

 

「明日香君。髪の毛染めたんだ」

 

 ギクリッ!

 

 分かりやすく身体をはねさせる僕。

 喧騒は嘘みたいに遠のき、恋人でもないのに気持ちはさながら浮気をした旦那のよう。

 何でこんなに緊張してるんだ僕。別に恋人でも何でもないじゃないか。

 でも、でもでも虹夏は僕の事を好きだ、し。

 恋人になれないにしても、好きな人には嫌われたくない訳で......。

 

「自分で入れたの? それ?」

 

「――え!? あ、うん!」

 

 目をグルグルさせていると咄嗟に反応出来ず生返事をしてしまう。

 虹夏の眉は一ミリ狭まった。

 

「へ~。見てもいいよね?」

 

「それはその――きゃ!」

 

 否とは言わせない気迫に押され、カウンターの陰に追い込まれる。

 限界まで下がり、客から見えない所。さっきに座っていた椅子に倒れるように座り、虹夏を見上げた。

 

 手が伸び、僕の横髪を上げる。

 

「――可愛いね」

 

 何時もの笑顔だ。良かった。

 

「ありが「PAさんかな?」ッ!?」

 

 息を引き込むような小さな悲鳴が口から洩れる。

 僅かな狼狽え。

 それを逃す虹夏ではない。

 

「何かあったんだ......」

 

 虹夏の眉がまた一ミリ狭まった。

 

「何もない! 何もないよ!」

 

「何もないのに同じ色に染める訳なくない?」

 

 インナーカラーを撫でながら、声音はそのままに淡々と言い放つ。

 

「あ、あ、な、何にもない「だから何にもない訳ないでしょ?」......」

 

 『何度も言わせるな』の念を言葉に乗せ、ゆっくりと話す。

 

「リョウとも何かあったみたいだし」

 

「何でそんなッ......べ、別にリョウとは「何もないならいきなり呼び捨てには、ならないでしょ?」ッ!?」

 

 咄嗟に口を塞ぐ僕を見た虹夏は「うん、よし」と呟き、後ろへと距離をとる。

 

「は、はい!」

 

「今日、ドリンク私一人でしたよね?」

 

「え? う、うん」

 

「つまり、明日香君は私に借り(・・)がある。そう言う事だよね?」

 

「そ、うだね」

 

 話が見えてこない。

 虹夏の事だからリョウみたいに無茶苦茶な事を言わないと思うけど......。

 でも、今怒ってるみたいだし、無理な事言われたらどうしよう。 

 

「風邪治ったらどっか行こうって言ってくれたの覚えてる?」

 

「うん。リョウと三人「それ二人で行かない?」......え?」

 

 それって。

 

「デート......しよっか?」

 

 瞬間、どう断ろうか、身体を売っている事をバレないようにするには? デートプランは? 一瞬にしてあらゆる事柄が頭の中でひしめき合い真っ白になってしまった。

 

「あ、え、あの......」

 

 断る口実が見つからない、逃げる道が存在しない。

 何より――

 

「ん? どうしたの明日香君?」

 

 異様な雰囲気に包まれた虹夏を一瞥し、決心した。

 ここで断ったとしても、何時かはその時はやって来る。

 男なら、告白を受けた上で返事を出さないとダメだ。

 

「うん。分かった」

 

「ッ!? 楽しみにしてるね!」

 

 その言葉に虹夏が纏っていた雰囲気は何処かに消え去り、何時も通りの彼女へ。

 

「すみません。ビール下さい」

 

「はーい!」

 

 ちょうど演奏の間に入ったのか、疎らに人がカウンターへと入り始めだした。

 色々な人達の注文を、虹夏はさっきまで冷えた面持ちだったのが嘘のような快活な良い声で、さばいていった。

 そんな中、あまりの感情の乖離に呆けていると件の彼女から喝が入る。

 

「明日香君手伝って!」

 

「......え? は、はい!」

 

 直ぐに自身の状況を思い出し、さっきまでの分を取り戻す勢いでドリンクを注ぎ虹夏に渡す。

 氷を入れる、注ぐ、渡す。

 それを繰り返している内に、自然と考えていた悩みが薄れ、終わった時には心地の良い疲労感のみが残っているだけだった。

 

「色々あったけどお疲れ様!」

 

「お疲れ様」

 

 久しぶりの平和な閉店作業だ。

 PAさんと店長とで閉店後に行われる僕をかけた争奪戦。

 ここ最近、シフトの関係かリョウとばかり一緒だった為、ほぼ毎日それらの戦いに身を投じる事になったのだ。

 気を抜けば矛先が此方に向く緊張感が無駄な疲労を蓄積し、正直うんざりしていた所。

 唯一二人を止められる虹夏をどれだけ待ち望んだ事か......。

 順調に仕事を終わらせ、虹夏と話していると何か違和感を感じ視線を机の方へ。 

 

「ん? 今日はリョウもいるんだ」

 

 気付いたらいないでお馴染みなのに、珍し。

 

「偶にはゆっくりしようかなって思って」

 

「――なら私ももう少しいようかな」

 

 僕の言葉に椅子に座ったリョウがスマホから顔を上げ反応し、それに加わる形で虹夏も話の話に入る。

 

「虹夏は帰った方がいいんじゃない? 家の事あるでしょ?」

 

 ......ん?

 

「晩の支度終わらせてきてるし、大丈夫。リョウこそ今日は家でベースの練習したいっていってなかった? 早く帰ったら?」

 

 .......ん??

 

「虹夏こそ――」

 

「リョウだって――」

 

 今まで通りの他愛のない雑談。

 その筈なのに、端々に棘のある言葉が挟まれている。

 リョウは虹夏に、虹夏はリョウに。

 二人とも怒っている訳でもない、なのに二人ともどっちかを帰らせようしているのだ。

 これ、どっかで見た気が......。

 

 何かを察知し後ずさり。

 PAさんと星歌のと同じじゃ――

 

「僕、帰――」

 

「「明日香(君)は帰っちゃダメ!!」」

 

「えぇ......」

 

 慌ただしくも温かいこの場所で、ずっと働けるとこの時の僕はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 ある雨の日の事。

 それは唐突に起った。

 

「♪~」

 

 片手には傘、もう片手にはレジ袋。

 平穏な時が続き、経済的危機を脱した僕はスターリーと学校の休みが重なったのもあり、珍しく無駄遣いをしてしまった。

 

「ちょっとくらい......いいよね? うん、何時も頑張ってるんだし」

 

 自身に言い聞かせながら、袋の隙間からアイスを一瞥し足取り軽く帰路に着く。

 

「――? あれって」

 

 少し歩いた後、ふと視線の端に見知った人物が。

 傘も差さずトボトボ歩くその人影は何処か危なっかしく、考える前に身体が動き後を追う。

 

「リョウ!」

 

「......明日香?」

 

 直ぐに声に覇気がないのが分かった。

 華麗に着こなした服もビショビショで、何時見ても持っていた楽器ケースの姿が見当たらない。

 何かあったのは明白だ。

 

「どうしたの傘も差さずに」

 

「......なんでも」

 

「何でもって......取り敢えず家来て。そのままじゃ風邪ひくから」

 

 レジ袋を手首に移動し、動く気配のないリョウの手を掴み強制的に連れて行く。

 手冷た。

 直ぐに家に帰ってお風呂入れないと。

 それから何があったか聞いて......場合によっては虹夏に電話も――

 

「......明日香」

 

「何?」

 

 予定を立ててる所をリョウの声に遮断される。

 

「チケット持ってる? 私のバンドの......」

 

「え? うん、まぁ」

 

「渡して」

 

 何で今と疑問は生まれつつも、財布から取り出したチケットを地面を見ながら歩くリョウに渡す。

 すると。

 

「何してるの!?」

 

「もう......いい」

 

 ビリビリに破り出した。

 慌てて、止めようとした時にはもう遅く、紙くずとなったそれはリョウの手から地面に落ち、雨水で溜まった水により、それがチケットと分からない程になってしまう。

 

 思いのほか、重大な事が起こっている。

 そう確信した僕は家に着くのを待たずにリョウに問いかけた。

 出来るだけ慎重に、誤解のないように。

 

 ふやけた紙屑にチラッと見ると、楽器ケースを持っていない事を思い出す。

 もしや。

 

「本当にどうしたの? ――もしかしてバンドで何かあった?」

 

「......」

 

「喧嘩した?」

 

「......」

 

 反応はない。

 だが、十中八九バンド関係の事なのは確かだ。

 ならこの問題はリョウのかなり深い所にある。

 何をしてもダルそうにしてるリョウが唯一生き生きとしている事なのだから。

 

「もういい」

 

「え?」

 

「ここでいい。帰るから」

 

「絶対帰らないでしょ? そんな恰好ではいそうですかっていう訳ないじゃん。いいから行くよ」

 

 このまま離すと何をするか分からない。

 

「明日香には関係ない」

 

 手を振り払い、踵を返し歩き出すリョウ。

 

「関係なくない! 友達でしょ!?」

 

 負けじと再度、リョウの手首を掴み今度は力を籠め引き摺る気で引っ張る。

 

「友達?」

 

「そう友達! 友達なら困った時助けて上げたいって思うモノだろ!?」

 

「そういうのいいから」

 

 冷めた声で再度振り払われる。

 力は向こうの方が上で、本気を出されると手も足もでない。

 だけど負けない。

 

「絶対に家に連れて帰るからな!」

 

 雨の中、始まる綱引き。

 傘を放り投げ、袋をその場に捨てるように置くと濡れるのも厭わずリョウを引っ張る。

 それでも、ゆっくりと引き摺られるが諦めず力を籠める。

 そうこうしていると、次第にリョウの顔には苛立ちが見え始め。

 遂に。

 

「――本当に? 助けてくれるの?」

 

「ッ!? うん、うん! 助ける! 絶対に!」

 

 動きを止めるリョウ。

 やっと分かってくれた。

 そう思った僕は振り返り、急いで傘と袋を拾い上げると手を差し伸べながら振り返る。

 

 

 

 

 

「......え?」

 

 

 

 

 

「友達なら助けてくれるんでしょ? 助けてよ、明日香」

 

 僕と同じように差し出す様に突き出された腕。

 僕と違う点はその手に()が握られているかいないかの差だけ。

 

「......そ、それ」

 

「言わなくても分かるでしょ? ばいしゅん、してるんでしょ? ロックだね」

 

 唖然とした僕は、ただ差し出された札を見る事しか出来ず。

 その万札は、あの時......PAさんと初めて身体を売った時に貰った、手汗でふやけた万札のようだった。

 

 

 

 

 

 次回『#19 山田ハートブレイク』............。

 




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