前の作品でもそうでしたが、今回もストーリーありで書いていきたいと思ってます。
また、基本PAさん、星歌さん、きくりの三人を中心でやっていこうと思いますが、予定は未定なので今後の反応次第で決めます。
次辺りでエチエチタイムに入りますので。
それではどうぞ。
「――うん......うん。じゃあお兄ちゃん今日は遅くなるから。ちゃんと歯磨いて戸締りお願いね。うん、うん、じゃ」
通話を切ると、型落ちの二つ折り携帯を閉じる。
「終わりましたか?」
「はい」
「じゃあ行きましょうか」
PAさんに気付かれぬように深呼吸。
今までバイト以外で夜の間外に出る事なんてなかった。
外食だって誕生日以外だと行かない。
初めての経験に、滅多に行けない外食。
得も言われぬ背徳感と高揚感に、高ぶる気持ちをバレぬようPAさんの後を追っていくのだった。
暗い星空の下、何時もと違う雰囲気と通行人に目を奪われながら、離れぬように歩速を調節し緊張を紛らわせる為に口を開く。
「PAさん、バイトってどんなバイト何ですか?」
「せっかちさんですね~」
速度を緩め、斜めから隣に移動してくると両手を後ろで組みながら笑う。
「いえ! 催促している訳ではっ。.......その、相談しておいてなんですが......ち、力仕事があまり得意ではないので」
罪悪の芽が花開き、自然と歩速がさがり首の力が弱くなっていく。
そんな僕に対して、一拍おいて笑い声が。
「そんな事気にしてたんですか! あはは」
隣へ来ると、励ますように僕の背中に右手を沿え、ポンポンと数度叩く。
それから左手で口を隠しながら、話が続く。
「大丈夫ですよ。
「僕にも勤まる――ぞ、臓器売買とか?」
「そんな訳ないじゃないですか。ちゃんと死なない仕事です――さ、着きました」
足が止まった所は僕が想像しているモノとは少しだけ違う場所。
自動ドアから見える店内は畳のテーブルが五個にカウンター。
出される食べ物は食事と言うよりおつまみのようなもので――
「居酒屋?」
「こういう店。入るの初めてですか?」
『嫌なら場所変えますけど』と言うPAさんに、バイトの手前ここで無理を言って店を変えるのも礼を欠く行為と思い、『大丈夫です』と返事をした。
「なら、入りましょ入りましょ」
僕の後ろへ。両肩に手を乗せ、そのまま店の中へ。
店員に案内され、靴を脱ぎ畳へ上がる。
仕事終わりで明日休みなのだろうサラリーマン達がジョッキ片手に楽しそうに話、女子三人組が今日いったライブの事で白熱した議論を交わしている。
食べ物屋さんでは味わえない少し違った大人の感覚。
何だか緊張して、トイレに行きたくなってきた。
ヤバい、結構危ない奴だ。
「僕ちょっとトイレ行ってきます」
「飲み物どうします?」
「任せます。あの、料理もゴーヤとピーマン以外なら何でも食べれるので」
「はーい」
そう言うと、若干急ぎ足でお手洗いへ。
「――ふぅ」
間に合った。
唐突な誘いで、考える暇がなかったから気付かなかったが、今日、高校生になって初めて誰かとどこかに出かけた。
相手が年上で、遊びに行く訳ではないが見方によってはこれも立派な高校生活の一部、青春と言えなくもない。
美味しい食べ物がタダで食べられて、上手くいけば割のいいアルバイトも手に入る。
あれ? そう思ったら楽しくなってきた。
そうだよ、これは神様が何時も頑張っている僕に送ってくれた贈り物なんだ。
うん、そう言う事にしよう。
「ふふ」
手を洗いながら、身だしなみを整えようと鏡に視線を向ける。
四捨五入でギリギリ百五十センチのナヨナヨな華奢な身体、傍から見れば眠たいのだろうかと思われるたれ目に女性的な顔の配置。
ただでさえ女子に間違われるのに、散髪に行くお金をケチった結果出来上がったクセッ毛ショートヘア―が合わさって、悲しい程男に見えない。
「偶には......いいよね?」
自身の心と折り合いをつけ、今夜はとことん楽しもうと意気込んで扉を開き、PAさんの元へ。
「――あ、飲み物来てますよー」
「すみません」
「いえいえ。はいどうぞ、駆け付け一杯」
そう言ってオレンジジュースの入ったグラスを差し出してくる。
「い、頂きます」
冷えて結露したそれを、両手で受けとり気遣いに感謝しながらグイっと呷った。
喉を伝い、胃に入って行く感覚を感じながら、心地の良い気分が身体全体に染みわたっていくのを味わい、グラスを目の前に。
「美味しいです」
「それは良かった」と同じようにビールの入ったジョッキを傾けた。
その姿は何か品のようなものを感じ、普段見ない姿も相まってどこか妖艶な雰囲気を醸し出している。
そう言えば何頼んだんだろう。
裏返した伝票を手に取り、注文した物を見ると......。
ジュース五百円!! 唐揚げ七百円!? 二人の飲み物と唐揚げだけで一週間分の食材が買える。
刺身盛り合わせ、フライドポテト、サイコロステーキ。
最終的には我が家の一ヵ月分の食費がチャリンチャリンと頭の中で、お金が伝票の中へと消えていく。
だ、ダメだ。値段ばっかり見ていると、失礼じゃないか。
手に持った伝票から視線を引き剥がすと、出来るだけ遠くに置き。
一回二回と、煩悩をオレンジジュースと共に飲み込んだ。
「......」
チビリチビリと飲む。
「......」
意味もなくお手拭きで手を拭き、畳んで端に退ける。
「......」
「......」
き、気まずい。
普段、スターリー以外じゃ話なんてしないし、スターリーでも別々で働いているから会話は開店前と閉店後の数十分。
思い返してみれば、一緒にご飯に行く間柄でもなかった。
どうしよう、話す事ないよ。
アルバイトの事聞いてみようか......ダメダメ、まだ早い。今聞いたら、それこそアルバイト目当てでご飯なんて二の次みたいじゃないか。
何か話さないと、話題振らないと。
明日香脳の中に保管している、数少ない知識をひっくり返し、話題を探すが結局――
「普段飲むんですか?」
ありきたりな質問になってしまった。
「うーん、家でゲームじ......作業やる日以外は結構飲みますねー」
「スト虚無最高です」と何やらよく分からないことを言いながら、ジョッキをこっちにむけてくる。
ん? ......あ。
その意味を察し、僕もグラスを掲げる。
「か「カンパーイ」」
スターリーでは見たことのない活気付いたPAさんは三分の二程残っている飲み物を、ゴクゴクと飲み干し「プハァ―!」と顔を顰め、店員にお代わりを頼むとテーブルの端に寄せる。
「ゲームじ「明日香君は家で普段なにしてるんですか?」」
あ、はぐらされた。
「普通ですよ。家事して妹の世話して、勉強してって感じです」
「お母さんみたいですね」
言葉が身体を貫く。
「おかっ......確かに、言われてみれば............」
何気ない一言が胸の中に侵入し、強制的に思考の海へと突き落とされた。
バイトと買い物以外は家の事。
ゲームもしなければ、友達と遊びにもいかない、と言うか遊ぶ友達がいない。
瞬間、お手洗いでの「青春」に付いて再び考えを巡らせる。
もしかして、高校生活ずっとこのまま? 誰とも関わらず、スターリーとスーパーと高校と家を移動する日々。
嫌な訳じゃない遊里の事は好きだし、家事だって趣味の延長線上だと思えば苦じゃない。
アルバイトだってそれなりに楽しい。
......でも、なんだか......何かが足りない気がする。
このまま単調な生活を送っていていいのだろうか。
このまま――
このま――
この――
......。
「明日香君? おーい」
「このまま......このまま」
幽鬼のような顔で呟く僕を見て、グラスに入った残りのお酒を飲み干すと、お代わりを頼み僕の隣へ移動してくると耳元でふっと息を吹きかける。
「ひぁ!」
力が抜けるような、そんな感じたことのない未知の快感に意識を戻された。
耳を手で覆い、距離を離すと、上気する顔をPAさんに見えないようにそっぽ向けた。
「悩みがあるのなら、大人の私に相談してみてください」
かなりの量のアルコールを摂取しているのにも関わらず、以前と顔色が変わらない。
そんな、余裕のある佇まいに大人の余裕を感じ、自然と胸の内を口にしていた。
「――なるほど......分かりました」
そう言って、人差し指を僕に向け。
「ずばり、明日香君が求めているのは刺激です」
とさも名探偵のような動作で、言い切った。
「し、げき?」
「そうですね。例えば、今日突然外食が決まった時どうおもいましたか?」
どうしよう。
「ただ飯貰える上に割のいいアルバイト紹介してくれるなんてラッキー」と本性をそのままいうべき? それとも一歩引いて「少し驚いたけど、嬉しい」と上品に取り繕うべき?
「ただ飯貰える上に割のいいアルバイト紹介してくれるなんてラッキー。とか?」
「え、エスパー!?」
ななな何で何で分かったぁ!?
驚きを全身で表している僕をよそに話を続ける。
「人間は感情がある生物ですからねー。負であれ正であれ、揺れ動かないとぼけぇっとなっちゃうんです。そういう時に必要になってくるのは、刺激。例えば――」
ちょうど、運んで来た酒を受け取り僕の目の前に。
「お酒。手っ取り早く刺激を得る事が出来ます。後はゲームとか、映画、それから友達と......は無理でしたね」
「う、はい」
座りながら僕の隣に移動し、酒を一口飲み、肩に手を回してくる。
近い、匂いが......女の人の匂いが......。
唐突な異性の接近、逃げようにも拘束されている為八方塞がりで既にパンク寸前。
目をグルグル回しながら、身体を縮こまり気持ちを落ち着かせていると更に追い打ちが。
――飲んでみます?
「それ、お酒じゃ」
水が滴るグラスに入ったカクテル。
それを、顔の前まで持ってくるPAさん。
「大人の飲み物です」
「だ、ダメです! 二十歳までお酒は飲んじゃいけません」
「そうですか? 無理には勧めませんけど。確かに、
「え?」
挑発的な言動に、正論で言い返そうと口を開くがその後から続く言葉が鼓膜を震わせると声が引っ込んでしまった。
代わりに出たのは短い困惑の文字だけ。
グルグル回る思考。
遊里の誕生日、お金、プレゼント、貯金。
気が付けば、手はPAさんのグラスへ。
「......ちょっとからかい過ぎましたね――って! あ! そんなに一気に飲んじゃ。あららら」
ゴクリを合図に、意識が浮遊。
「プハァ!
ダメだ呂律が。
「あー」
「
理性のたがが壊れ、思った事が脳を介さずそのまま垂れ流しで出ていく。
「そこですか」
「だいじな
「はいはい。明日香君は大人ですねー。だから、これはもうやめましょう」
手からグラスを奪われた。
「あー! まだ
取り返そうと手を伸ばすが、その前に飲ませまいと全て飲み干してしまうPAさんに「へへへーかん
その眼は、まるで捕食者が獲物を捕らえる時に放つ眼光のような物を感じた。
そんな事に気が付かない僕は、顔を上気させながらポワポワ陽気で上半身を揺らしながら、虚ろな瞳で隣に居る彼女を見上げた。
「あれぇ? 怒っちゃいました?」
「怒ってませんよ――さて、帰りましょうか」
「え? 今何時れす?」
不可思議な雰囲気が漂う。
立ち上がろうとするが、酔いからか、足が覚束なくしていると「会計済ませてくるので座っていてください」とPAさんに言われ、座敷の縁に座り彼女の帰りを待っていた。
そして、お金を払うと此方に向かってきて、腰を下ろし背中をこっちに向ける。
「おんぶれすか?」
「このままじゃ歩けないですよね?」
顔だけこちらに向け、そう言う。
普段の自分なら絶対に断る。
だって、他人に迷惑かけたくないし。
しかし、今の僕はさながら解き放たれた野獣。
理性なんてものはない。
「しっつれいしまーす!」
「私の家近いので、一旦そっちに行って休みましょう」
「はーい」
店から出る。
星の下、夜を掻き消すひかりの街を歩き出す二人。
身体を密着している為、PAさんの体温が伝わって来る。
こうやっておぶられるのは何時ぶりだろうか......。
あれ? 酔いが......。
ん? 今、自分はどこに――。
身体は動いていない筈なのに、景色が横に移動していく。
辺りを見渡し、正面を見るとPAさんの後頭部が。
綺麗な髪だなーとか、いい匂いするーとか、考えていると右肩上がりに意識がハッキリとしていく。
「あ」
――やっちゃった。
「あ、あ、ああ、あわあわあわわわわわッ!!!! し、失礼を! 失礼しました! す、直ぐにおりまゅので」
噛み噛みのパニック状態で、降りようとする。しかし、身体を下から支えているPAさんの腕がガッチリと僕の太ももを挟み込み降りるに降りれなくなっていた。
「失礼なんて。私は楽しかったですよ」
「降ります。降りまーす!」
周囲の目を気にする事無く、顔を青くしながらPAさんの背中を押し藻掻く僕。
「大丈夫ですよー」
「ごめんなさい!」
「いいですよー」
結局、PAさんの家まで押し問答は続き、一度も地面に足を付ける事は無かった。
次回『#3 ヨルノケモノ』見て下さい!
感想、評価くれれば執筆速度上がります。
!!飲酒は二十歳になってから!!