残暑だというのに、真夏の気温って感じで涼しくなるのは何時になるのか気になって仕方ない作者です。
前回に続き、今回も頭に思い浮かんだものを全部書いたら一万時越えてしまいました。
それもこれも、エッチな明日香君が悪いんだ。
ここでお知らせですが、もう直ぐ作品に一区切りつく予定です。
具体的にはニ~三話くらい?
「あと少しで一区切りつく」
「一区切りつくとどうなる?」
「知らんのか――新しい物語が始まる」
はい、という訳で喜多ちゃんとぼっちが加わり、本格的にぼっち・ざ・ろっく!! が始まりますのでお楽しみに。
それと、感想でもいいましたが、これからも大人組は活躍(意味深)してもらう予定なのでご心配なく。
誤字脱字はご愛敬。
何時も誤字脱字報告してくれるニキネキありがとう!!
「......朝ご飯。作らないと」
リョウとの一件があったのは昨日の事。
結局、昼食を食べたその流れで夕方まで一緒に居たのだが――
「――ッ!!!」
その時のリョウを思い出し、上気させながら僕は隠れるように布団に潜り込んだ。
それから、柔軟剤の匂いに包まれながら感情の高ぶりが収まるのを待つ。
リョウの癖にっ! リョウの癖にっ! リョウの癖にっ! 何あの態度?
『面倒くさい』『やりたくない』『また今度』の
容姿は優れてるけど、それを入れても余りあるダメ人間なのに......。
それなのに......何で昨日は。
『ここは私が出す』とお昼ご飯を奢ってくれるなんて。
それだけじゃない、全体的に何か変わったような......そう、なんとなく優しくなった。
扉を開けてくれたり、車道側を歩いていたらさりげなく代わってくれたり。
何でかは分かっている。
でも、こんな急にこられたら――
「困るよぉ」
布団にくるまりながらモゾモゾ動き回る芋虫明日香。
暫くのたうち回り、ピタリと止まったと思ったら、勢いよくベッドの上で立ち上がる。
まだ若干赤い顔ですぅ~っと深く深呼吸。
「......よし」
小さく自身に喝を入れるとベッドから降り、新たな一日の準備の為に着替えを始めるのだった。
今日は日曜日。
夕方のアルバイトまでする事がない。
穏やかな日だ。
朝食が終わり、粗方家事を終わらせた後ゲームをする遊里を愛でながら洗濯した衣服を畳んでいると奥の方から大きな欠伸と共にきくりが現れた。
「おはよ~」
ベース片手に現れたボサボサ頭はもう直ぐ昼だというのに朝の挨拶をかましてきた。
「おはようきくりちゃん」
僕がいない間に二人はまた仲を深めたようで、前から呼び名が変わっているのに違和感を覚えつつも、だらしなく腹を掻く酒飲みにタオルを畳みながら笑顔を向けた。
「おはようございます。今日も随分とお早い目覚めで」
「え~そうかな~」
「嫌味です。もう十時ですよ。それに何でベース持ってるんです?」
「ん? あ、これ?」
「ジャジャーン!!」と仰々しく掲げ。
「私の相棒! ウルトラ酒呑童子EX改めスーパーウルトラ酒呑童子EXだ!」
そう言えばリョウが壊したベースずっと修理に出してたっけ......あれ?
自慢げに見せて来るベースを眺めていると、ふと疑問が浮かんでくる。
「壊れたの弦だけですよね?」
「そうだよ」
「修理終わるの遅くないですか?」
あれから結構な期間があくが、きくりが家に楽器を持って帰って来た事は一度もない。
それどころか『ベース借り過ぎて怒られちゃった~』と言ってたから修理が終わってなかったのは明白だ。
もしかして何かトラブルでも?
「あ~うん。それはね、すっかり忘れちゃってたんだよね~あははは!」
「さっき相棒って「朝ご飯あるじゃん! うれしー。――いただきま~す」ッチ!」
人の話聞けよ。
相変わらず都合の良い言葉だけを通す耳のようで、のらりくらりと躱しながらテーブルにラップしてある朝食に飛びついた。
「あ~飲み明けの肝臓に味噌汁が染みるぅ」
「飲みすぎですよ。どんだけ飲んだんですか?」
ご飯を盛りつつ一日で消費したであろう空き瓶空き缶だらけのゴミ袋を一瞥する。
一人であれだけ飲めるのは最早才能、いや呪いか。
「なにぃ? 身体の心配してくれてんのぉ~? やっさし~」
「いいえ。家に納めて貰える家賃の心配をしてるんです」
「あはは。照屋さんだな明日香君は」
耳だけではなく頭までも都合の良いように書き換えれるようで、「もうこれ以上何を言っても無意味だな」と確信しつつ、きくりの対面の椅子に腰を下ろし横目でマイスウィートエンジェル遊里の姿を愛でる事に。
「
いや、あんた昨日夜吐きながら「もう絶対に飲まない!」って
......とは言わない。
言っても仕方ないしね。
「前はどれだけ不健康な生活してたんですか?」
モグモグ美味しそうに食べるきくりを一瞥し、話を返す。
「まぁそこそこかな?」
「......あ、そうですか」
この人が濁すって事は相当ヤバかったんだな......可哀そうに。
心の中できくりの両親に同情しつつも、画面と同じ方向に身体を動かしている遊里ににへら笑いを浮べていると、突然下半身に謎の感触が。
「ッ!?」
バッときくりの方を向き直す。
「どした?」
何時もの細目で椀片手に小首を傾げているきくり。
訝し気な視線を送りつつ、そのままテーブルの下に移動。
何もない。
「な、何かしました?」
「なにかってなにさぁ」
とぼけてる? それとも本当に何も知らない?
「いえ、何でもないです。忘れて下さい」
「そう? ――んん~美味い! おかわり!」
「はいはい」
味噌汁をよそい、ご飯を盛り、きくりの前に。
さわさわ。
「っ!?」
やっぱり何かしてる!
再度、テーブルの下を見るが、依然変わりない光景が見えるだけ。
「?」
きくりも不思議そうな顔で見てる。
「やっぱり何かしてるでしょ?」
「え~なんの事?」
ズズズと味噌汁を啜るきくり。
こいつ!
とぼけやがって。
さわさわ。
足に何かが這っている感触が、徐々に上に上がって来て遂に股間へ。
勿論、そんな蛮行見す見す受ける気はなく、姿勢と視線はそのままに次に気配を感じた瞬間、右手だけテーブルの下にもぐらせそれをガッシリと掴んだ。
「ふんっ!」
「あだぁ!」
掴んだそれを引っ張ると、案の定きくりの身体が少しテーブルの陰へと沈む。
遊里の手前声が出せない為、胡乱な視線を見せながら圧で攻撃する僕。
「......自分でお皿洗って下さいね?」
「............えへへへ」
「洗って下さいね?」
立ち上がり、携帯を手に見下ろすとやっと観念したのか肩を落としつつ。
「ごめんなさいぃ!」
と一言。
全身からごめんなさいオーラを出しながら落ち込むその姿は、まるで雨の中捨てられている犬を見るようで苛立ちよりも同情が勝ってしまう。
リョウといい、きくりといいベーシストは何でこうどうしようもないんだろう。
リョウ? りょ......う......ッ!?
「も、もう良いです」
掠れていた記憶が鮮明に思い起こされ、それに伴い再び体温が上昇。
可哀そうなきくりの姿+リョウの事でもう怒る気になれず、携帯を仕舞いダメ人間から離れ、最愛の妹の元へ。
それからたっぷり昼まで天使の姿を愛で英気を養い、お昼を食べるとあっという間に時間は一時になった。
「いってきます」
「いってらっしゃ~い」
「帰りお酒買って来てぇ~」
「未成年でお酒買える訳ないじゃないですか、ホントアホですね」
「ひどぉ!」
昼食までの間にきくりにされた悪事の事を思い出しながら、仕返しとばかりに毒を飛ばすと一応きくりにも「いってきます」と言い残し家を後にした。
「もう、折角ゆーと一緒なのに」
今朝の一件からきくりの事を見ると連想ゲームの如くリョウの顔が思い浮かんでしまう。
「きくりさんの顔見てると友達の顔思い浮かぶので出てってください」とは流石に言えず、悶々した気持ちのまま昼を乗り切り、最後に耐える事が出来ずにバイトだと嘘を付き家を出てしまった。
幸いにも今日のシフトは僕と虹夏だ。
リョウに出会う心配はないし、バイトをしていると気持ちを紛らわせる事も出来るだろう。
「割と早くに来てみんなと話してるって虹夏ちゃん言ってたし......大丈夫、だよね?」
最悪、伊地知家に上がり込む? ......流石にそれは図々しいしよね。
空いてなかったらどうしよう。
「PAさん
口に出した瞬間。
あの先割れの舌を口に捻じ込んでくるPAさんの加虐的な顔がふと浮かび上がり、思わず身震いしてしまった。
「そ、そそ、それは最後の手段」
正直、あの人から貞操を守り抜く自信がない。
最後の手段としても下の下だ。
起こるかもしれない可能性を考え、一喜一憂しているとあっという間にスターリーへと到着してしまった。
少し、歩速を緩め、お願いしますと願掛けしつつ階段を下りる。
一歩、確かめるように。
そして、ドアノブを掴み。
ガチャリ。
確かに回るドアノブに心の中で歓喜しながら、自身の小さな幸運に名もない神様に感謝をしつつ、そのまま扉を開いた。
ありがとう神様。
「ん? 明日香?」
ガチャンッ!!
......ん?
何でリョウがいるの?
気のせい?
勢いよく閉めた扉を今度は少しだけ開き、中を覗き込む。
すると、確かにそこにはスマホ片手にテーブルでだれている青い髪の少女の姿が。
再び、治まってきた感情のエンジンがブルルンと音を出しながら回転数を上げていく。
自然と顔が赤くなり、視界が定まらず、呼吸が乱れてしまう。
「何してんの?」
「ぴゃ! な、なんでも、りゃっ! リョウこそ何でスターリーに!?」
扉前でパニックを起こしていると追撃と言わんばかりに扉が開きリョウが目の前へ。
奇声を上げながら飛び上がり、噛み噛みでしゃべる姿は滑稽そのもので更に恥ずかしくなってしまった。
リョウの事を考えないようにってここに来たのに本人がいるなんて!
どうしよう、中には誰もいなさそうだしこのまま二人っきりなんて茹蛸になっちゃうよぉ。
「あ、ば、ば」
「?」
「いや、その」
出来るだけ自然な風を装うが、パントマイムのような可笑しな動きをしてしまい逆効果に。
もうどうしようもない。
そう思った時、突然救いの手が差し伸べられた。
「ん? 明日香君今日は早いんだね」
「虹夏ちゃん」
階段から降りて来る虹夏は太陽の光を背に、笑顔も相まってまるで天使のように見え得も言われぬ神々しさを感じる。
助かったぁ......。
安堵により微笑と共に胸を撫でおろし、虹夏の方へ身体を向けた。
「ちょっとね」
「じゃあ、久しぶりにお話ししようよ」
「うん。いいよ」
「私もいるんだけど」
虹夏と二人で話していると意識外から伸びて来た腕に手を掴まれ、そのまま店内へと連れて行かれる。
勿論、腕の主はリョウであり、顔には出てないがどことなく不満オーラを漂わせながら腕を組んでいた。
「ご、ごめん」
「ちょっと。そんな強く引っ張ったら怪我しちゃうでしょ?」
「ケガするほど強くしてない」
「それでも人を急に引っ張っちゃダメ!」
「メッ!」と子供をしつけるように人差し指を立て、腰に手をあてながらリョウを叱責。
しかし、本気で怒っている感じではなく、あくまでも『友人間での注意』といったようで。
空気が悪くなる事はなかった。
「ま、まぁまぁ。でリョウは何でスターリーに? 確か今日シフトじゃなかったよね?」
「なんとなく。暇だったから」
「とかなんとか言って。ちゃっかりお昼ご飯の時に来たんだから」
「ん。虹夏の料理はどれもおいしい」
「褒めても何も出ないよ」
と言いつつも「何か飲む?」とカウンターの方へ。
「じゃあコーラで」
「私も」
「はいはい」
飲み物を入れてくれている間に荷物をロッカーに入れ、リョウの座るテーブルの所へ。
「――ん? 明日香君」
「お疲れ様です。星歌さん」
「おう。今日は早いね」
カウンターに座る星歌。
ノートパソコンを開こうとするが、途中何かを思い出したかのように「あ」と短い言葉と共に一瞬止まり、椅子を回転させ、僕を見た。
「そうだったアルバイト。決まったよ」
「え?」
腰を下ろそうとした時に予想してなかった事に中腰のまま星歌の方に顔を向けた。
「前言ってただろ?」
「はい。......え? 面接とかは」
遠慮気味に言いながら、立ち上がり小走りで星歌の所へ。
「『先輩の推薦なら必要ないですよ』だとさ』」
「はぁ」
「やったじゃん明日香。コネ採用で」
「言い方! ――でもほんとに良かったね!」
まさかの出来事に気の抜けた声を漏らす僕にテーブルに座りながら他意のない言葉を飛ばして来るリョウ。
それに反応してカウンターの陰から半身を飛び出して注意する虹夏。
忘れてたわけじゃない......けど、もう少し先だと思ってた。
それに面接もいらないなんて、星歌って一体......。
「そんな訳だから、仕事終わりに取り敢えず求人票渡して、気に入ったら私からまた話付けておくから」
「あ、え......色々とありがとうございます」
「いいよこれくらい」
何と言えばいいか分からず、もじもじしながら礼を言う僕に「ただし」と付け加える。
「ここでも働いて、向こうでも......ってなったら身体が心配だから。『入れても週に一日二日』それいじょうはダメだぞ?」
元々、急な出費が続き、もう少し収入を増やそうと言い出したこの話。
結局
だから、元々それ程シフトに入る気はなかったから困るどころか願ったりかなったりなのだ。
遊里と会える時間が減るのは嫌だしね。
「はい。分かりました」
星歌から提示された条件に二つ返事で了承。
「よし。じゃあこの話はこれでお終い」
「本当にありがとうございました。何て礼をすればいいか」
「そんなに苦労してないし――あぁでもまぁそこまで言うならまたカレー作って欲しいな」
「それくらいな「お姉ちゃん明日香君の料理食べた事あるの!?」」
カウンター越しに僕へ飲み物を渡しながら驚く虹夏。
「あ、あるけど......」
「ずるーい!」
「ずるくねぇって。ギターの練習のお礼って事で作って貰ったんだし。な?」
「ギターの練習......ッ! は、はいはいそうですそうです!」
危ない。
思わず「何の事ですかそれ?」って言いかけた。
グッチョブ自分!
思わず冷汗をかいてしまい、それを隠す為にパッと受け取った飲み物を喉をならしながら飲む。
「――あ、それ私が飲んだやつ」
「え? ごめん」
「いいよいいよ。私こっち飲むから!」
「そう? じゃあ」
「明日香。私のもちょっと飲んで」
「え? 何で?」
「いいから」
慣れたのかさっきみたいに取り乱さなくなったが、今度は良く分からない要求に困惑。
だが、直ぐに『まぁそれくらいなら』と深く考えずに突き出されたストローを口に含み一口飲んだ。
「じゃあ、私も」
紙パックのジュースを
「せ、星歌さんも? いいですけど」
チュー。
「あ、明日香君! 私も!!」
僕と同じコーラを。
「え! うん」
チュー。
それを各々どこか満足気に口に含み、チューチュー。
「......何これ?」
純度百%の心の声であった。
暫くしてから落ち着きを取り戻すと、三人でテーブルを囲み何時も通り、他愛のない話に華を咲かせる。
「ごくごく......ぷはぁ! ――そう言えばさ、リョウが暇だからここに来るのって珍しいよね」
「え?」
口に含んだストローを離すと顔を上げるリョウ。
「だっていっつも仕事終わったらバンド練習に行くじゃん」
「あ、うん」
マズい。
この感じ、虹夏に事情を話してない。
「それにベースも「虹夏ちゃん!」うぉ、びっくりした」
バッと立ち上がり、テーブルに手を置くとギリギリまで虹夏に近づく。
場当たりでやっちゃった!
どうしよう、何か話題を逸らせる方法は!? 虹夏が好きそうな話題はぁ!!
乏しい知恵を絞った結果。
「星歌さんのお礼!!」
「お礼?」
これしかない!
幸い、今日は晩御飯は作って来たし、きくりも酷い二日酔いで一日寝てるって言ってたから家の事は大丈夫。
「ほら! ご飯作るってやつ」
「ッ!? え? 良いの?」
「うん。今日はバイト終わったら暇だから」
予想通り食い付いてきた虹夏。
良かった。
これで、取り合えず今日はリョウのバンドの件は大丈夫だろう。
全く、世話がかかるんだから。
貸一つだからね。
ホッと安堵の息を漏らしながら、リョウを見ると。
「......」
何故か不満げな目で僕を見ていた。
何でぇ!? 助けて上げたのに何で怒ってるの?
「え~じゃあ何作って貰おっかな~」
困惑する僕を他所に、ご機嫌な虹夏は身体を揺らしながらこれからの事に対して想いを馳せ、真逆に不機嫌なリョウは容器に残っているコーラを飲み干し、立ち上がる。
「......帰る」
「え? どうしたの突然」
「用事思い出した」
「そうなんだ。じゃあ、また明日学校でね!」
「うん」
何も知らない虹夏は少し不思議がっていたが何時も通り元気な声で挨拶を交わす。
「またあしーー」
バタン。
挨拶を無視された。
何で僕助けただけじゃん。
愁色の表情を浮べていると、破顔した虹夏が隣に座ってきた。
「えっと明日香君......夕ご飯なんだけど」
虹夏の声に意識を戻す。
こんな気持ちで料理したらダメだ。
今日はリョウの事を忘れて、虹夏に集中しよう。
「どうしたの?」
「バイト終わり買い物しながら考えない? あ! 時間ないなら家にあるモノで済ませるけど」
『時間ないなら』の辺りで渋々声になるあたり、一緒に買い物に行きたいんだなと推察。
別段断る理由がない為了承した。
「いいよ」
「そう!? ありがと! じゃあ楽しみにしてるね?」
「うん」
それからバイトをこなし、あっという間に夜へ。
「掃除良し。タイムカードも......よし」
「虹夏ちゃん」
「明日香君! 家に電話出来た?」
「うん」
指差し呼称で最終確認を行うと、サイドテールを揺らしながら駆け寄って来る虹夏。
バイトが終わる少し前に消えたと思ったら、いつの間にか私服姿に。
「変じゃないかな?」
「うん。似合ってるよ」
思った事をそのまま口にする。
「へへへ。そうかな」と後頭部をかきながら照れる姿は可愛らしく、くすりと笑ってしまう。
「何で笑ったの?」
「可愛いなって」
「へっ!?」
「――あ! 違う! 変な意味はないから!!」
「う、うん! 分かってるよ! それより早く行こ」
「うん」
頭の触角をブンブン回しながら、無理やり話しを切り上げ、僕の手を掴むとスターリーを後に。
「♪~」
行くのは近くにあるスーパー。
徒歩でもそう時間がかからない距離にある。
それなのに、虹夏はまるで遊園地へ向かう子供のように傍から見ても上機嫌だ。
凄く嬉しそう......スーパーに行くんだよね?
あまりの機嫌の良さに、目的地に疑問を抱く程で、思わず口に出てしまう。
「行くところってスーパーであってる?」
「うん! 近くのね!」
大丈夫。
目的地はあってる。
ならなんでこんなに嬉しそうなんだろう?
彼女の顔を横目に、考えていると直ぐに答えは分かった。否、思い出した。
......そうだ。虹夏ちゃん僕の事。
ここ最近のリョウの怒涛の勢いに飲まれ、すっかり記憶の片隅にやっていた。
ごめん虹夏ちゃん! 忘れてた訳じゃないんだよ!? ただ、周りの人は思った事を直ぐに行動に移す人達ばかりだから気にする暇がなかったって言うかぁ、記憶が薄まってしまったって言うかぁっ!
心の中で垂れ流す謝罪と言い訳。
折角好きになってくれたのに、一時であってもその行為に対して忘れてしまうという愚行を犯してしまった事に対してどうしようもなく申し訳ない気持ちでいっぱいに。
「今日は何でも作るからね」
「え? うん。ありがとね」
うぅ~つらい。
何も言えないのがしんどい。
そうこうしている内にスーパーの前に。
「カートつくね」
「お願い」
カゴをカートにのせ、二人並んで店内に。
あ、ここ人参が安い......あれ、キャベツ一個でこれくらい、お得かも。
お惣菜が半額!? 閉店前だから?
「夜のスーパー凄い」
「早くいこうよ明日香君」
「あ、うん」
普段日中に買い物を済ませる僕にとって、夜のスーパーは新鮮で閉店間近なのもあって、半額の商品も多数あり、衝撃を受けるには十分なラインナップ。
顎に手をあて、陳列されている商品を吟味していると虹夏に苦笑いと共に軽く諫められた。
「......ごめんなさい」
「夜にスーパー来るの初めてだもんね。仕方ないよ。でも、今日は晩御飯の買い物だからね?」
「うん」
優しく怒られシュンとしてしまう僕。
献立はハンバーグに決まったのもあって、虹夏はテンポよく材料を揃えたいようだ。
「ミンチに玉ねぎ......は家にあるから」
「虹夏ちゃん。家に味噌ってある?」
「お味噌ならあるけど。味噌汁もするの?」
「ううん。ハンバーグに入れるんだ」
「へ~。そうなんだ」
最初の躓き以外は順調に進み、十数分でレジ袋片手にスーパーを後にした。
帰り道、スーパーで買ったコーヒー牛乳を美味しそうに飲む虹夏に。
「美味し?」
「うん! 明日香君も一口飲む?」
「え?」
飲んで良いのかな? ......リョウの時は飲んだけど。
まぁ本人が飲んで良いっていってるし。
「じゃ、じゃあ一口」
差し出されたストローにそっと口を付ける。
はらりと揺れる髪を優しく折り曲げた指でかき上げる仕草は、長い間理髪店に行かない故に板についてしまい無意識に表に出てしまった。
だからか、
「......んく。ありがと」
「う、うん。どういたしまして......」
? 何で顔赤くなってるんだろう?
「虹夏ちゃん?」
「何でもないよ。――それより髪切りに行かないよね(私より可愛い)」
最後の方がよく聞こえなかった。
「うん。そうだね。次行く時は思い切って短く「それはダメ」え?」
急に声のトーンが下がり真剣モードの虹夏。
頭のドリトスをピンと立てながら、隣で歩く僕との距離を狭くする。
「美容室行く時は行って。私の行ってる所紹介するから」
「で、でも僕今行ってる所「ダメだよ」」
取り付く島がない。
「でもでも「ダメ」話を「ダメ」」
虹夏の通ってる所って合間にジュースとか出してくれそう、......待って、そんな高い所自分の髪の毛の為に通えないよ!
再度交渉を試みるがダメダメ攻撃で言葉を封殺され、強制的に理髪店を変えられそうになり「はぁ」と項垂れる。
気が付くとスターリーに到着しており、伊地知家へと続く上向きの階段に足をかけた時虹夏が重々しい雰囲気を漂わせながら言った。
「ごめんね。でも、私ダメになっていくの見てる訳には行かないから」
「え?」
「友達が悪い事しようとしてるなら。私は絶対に止めるよ。例え、それで嫌われてもね」
言い残すと、鍵を開け、家の中へ。
「......髪の毛切るだけなのに」
家の前で言ったその言葉は、虚しくも空気へと消えていった。
「虹夏ちゃん。髪留めるゴムあるかな?」
「うん。――はいこれ」
「ありがと」
日頃男らしくなりたいと思っている僕だが、経済的な問題には抗えず気が付けばゴムでくくらなければ支障が出るくらい育ってしまった。
短くしたいな......。
多分もう無理だろう淡い期待を胸に、ゴムを口に咥えながら両手で後ろ髪を束ねる。
「――ん? 何?」
「ううん! 何でもない!! あはは」
「?」
虹夏から視線を感じるが、今は料理に専念しよう。
「楽しみにしてるぞ~」
プシュっ! っと缶ビールを開け、僕達を肴に飲む星歌に「は~い」と一度返事をするとキッチンの前に立った。
「僕だけで出来るから星歌さんと一緒に待ってていいんだよ?」
「えっと......一緒にしたいんだけど。ダメかな?」
何で? とは聞かない。
「いいよ。一緒にやろ」
「っ! うん!」
星歌の「んふ」と言う笑い声を耳にしつつ、ミンチをタッパーから取り出し、ボールに入れる。
「虹夏ちゃん玉ねぎみじん切りにして炒めてくれる?」
「分かった。どれくらいすればいいかな?」
「あめ色になるまででいいよ」
玉ねぎが出来るまでに、ミンチと一緒にマヨネーズ、味噌、パン粉、卵、ナツメグ、塩コショウを入れ、その他にサラダを盛る。
「出来たよ」
「ありがと。次、ご飯セットしておいて」
「分かった」
タネの中に玉ねぎを入れ、こねる。
そして、白くなったら薄く小判型に。
それが出来たら最後、油を引いたフライパンを熱し、整えたタネを入れ両面に焼き目が付くまで焼き。
「焦げ目がついたら――星歌さん。白ワインありましたよね?」
「ん? あぁ、うん。確かここに」
「明日香君私の家の買い置き事情よく知ってるね」
「え? あ、うん......あはは」
ちょっと星歌。
あからさまに目を泳がせないでよ。
バレるでしょ。
ジト目虹夏から逃れ、ワインを受け取った僕は焦げ目がついたタネに最後白ワインを回し入れ、蓋をし蒸す。
「何かこうしてると夫婦、みたいだね」
「ぶぅ!!」
虹夏の爆弾発言にワインを吹き出す星歌。
「え? え? 虹夏まさか......」と呟いた言葉は辛うじて僕の鼓膜に届くがモジモジと僕とフライパンに視線を往復している虹夏には聞こえていなかった。
「う、うん。そうだね」
こういう時なんていったら正解なんだろう?
下手なこと言ったら悪いし......だからって期待持たせる事を言っても......。
いや、僕だって虹夏ちゃんは好きだけど。
でもライクよりのラブであって......だけどもし身体を売ってなかったら......。
キッチンの前で茹だる二人。
それを信じられないと言う様子で見比べる星歌。
ピピピピ!!
「っ。で、出来たみたい」
「う、うん! お皿準備するね」
「わ、私はご飯準備する」
三者三様の慌てよう。
全員が全員、腫れ物を扱うような態度で配膳を済ませ、名状し難い雰囲気のなか各々席に着く。
「......おほん! じゃあ、食べようか」
星歌の一言に、各々顔を見合わせオドオドしながらも。
「「「いただきます」」」
箸を持った。
「美味しい」
「うん、いけるなこれ」
「ありがと」
ジューシーで味わい深い風味を持つハンバーグは一口食べれば、暗雲立ち込める雰囲気を晴らし、何時もの明るい食卓へと変える。
それにつられて、口数も多くなり食べ個終わる頃には自然と会話は弾んでいた。
「ふがぁ......」
「ほらお姉ちゃん! 寝るなら自分の部屋で」
「虹夏~行かないでくれ~」
「何言ってるの?」
すっかり酔いが回った星歌の腕を貸し、介抱している虹夏を横目に洗い物を済ませる。
と言っても、ここ伊地知家には自動食洗器なるモノがある為、僕の仕事と言ったら汚れた食器を軽く水で洗いながし、食洗器にセットするだけ。
後は機械が全てやってくれると言うのだから文明の利器とは本当に恐ろしいものだ。
「欲しいこれ」
生ごみを片付け、洗われていく食器を眺めながら欲望の声が漏れ出てしまう。
いくらするんだろう?
五万......くらい?
乾燥機能もついてるみたいだしそれくらいは。
「ふぅ~。疲れた。あれ? 明日香君何してるの?」
額に滴る汗を拭いながら戻って来る虹夏に、どうしても気になって値段を聞いてしまう。
「これ何円くらいだろうって思って」
「え~と。七万くらいかな? 本当は八万近くあったんだけどお姉ちゃんが値切って――明日香君?」
「八、八、八、八? ひゃちマン?」
高い。
流石、最新機器。
予想の遥か上をいく高額。
仮に八万円稼ごうと思ったら......いやいや、もうあれはやめたじゃないか何考えてるんだ僕。
やめてから暫く経つが、時折考えてしまう時がある。
『すればこれが買える』と。
それはまるで中毒性のある薬物のように、思考を無意識の中で強制的に捻じ曲げる効力を持っている恐ろしいモノだ。
気付けば冷汗が頬を伝う。
「明日香君?」
「あ、な、何でもないよ。あはは......」
しかし、今は虹夏の前。
気取られないように無理やり思考を遮断し。平然と構え直した。
「ぼーっとしてたけど大丈夫?」
「大丈夫だよ」
優しい。
僕の周りの大人は――きくり『ダメ人間』、PAさん『気を抜けば食べられる、後ダメ人間』、星歌『甘えん坊、意外とダメ人間』、同級生でも......うん。
だからこういう純粋に優しい人は貴重存在であり、虹夏は僕にとってかけがえのない人なのだ。
「ほんと?」
「うん」
だから、出来れば今の関係を壊したくないんだけどな。
「リョウと何かあったみたいだけど?」
......ヤバ。
瞬間、部屋の気温がガクンと下がる。
「っ!? な、んのこと?」
後ろに下がりながら心から漏れた言葉を言うと、僕は少しずつ後ろに下がった。
「いやいや。二人の感じみてたら何かあったって分かるよ」
何時も通りの明るい虹夏のまま、一歩......一歩と僕に近づく。
星歌は寝ている。
今、居るのは僕と虹夏だけ。
マズい気がする。
「そんなことない」
背中に冷たい感触。
これ以上下がれない。
だが、目の前には虹夏が。
「あるよ。――忘れてないよね? デートの事」
目の前。
顔を動かせば当たるくらいの紙一重の距離。
緊張で声の出せない僕は小刻みに顔を揺らし意思を示す。
「良かった。じゃ、次の休みの日に行こっか」
行く日を提案しているように見せて、確定情報を話している虹夏は、『絶対に断らせない』と言う強い覇気を出しつつ、話を続けた。
「場所は――よみ瓜ランドでどうかな?」
「は、はひぃ」
「よし。じゃあ、この話は終わり」の一言で安堵の息を漏らす。
が、離れると思った虹夏の身体はバッとそのまま僕の顔の横に手を付け。
「リョウと何があったか知らない......けど絶対
見開いた目で自身に言い聞かせるように呟くと、不器用に顔を近づけ......否、唇を近づける。
「に、虹夏ちゃ――ん!?」
ぷっくりと瑞々しいそれを感じる前に、瞳に写った虹夏の顔は踏ん切りがついていない状態で行動に移ってしまった。そんな、焦っている様子。
「ん......ちゅ......ちゅる」
唇を合わせるだけの清い口づけ。
相手の事を思いながらも、愛を確かめる優しいキス。
僕の両手、指の間に指を通し、所謂『恋人繋ぎ』で手を拘束しながら、動物の求愛のように言葉ではなく行動で愛を伝えた。
「虹夏......ちゅ......ちゃぁん......」
「――ちゅ」
短い時間の逢瀬。
それでも僕の腰を砕くには十分で、背中を壁に付けたままストンっとその場で尻もちを付いた。
......僕、された?
気持ち良さと困惑が交じり合い不思議な感覚のまま彼女を見上げると。
「ごめん!」
と、今までの相手のどれとも当てはまらない反応を示し「でも!! ......本気だから!!」きっと勇気を振り絞ったであろう一言を残しキッチンを後に。
「......」
キッチンに残された僕は一人、力の抜けた身体のまま半ば放心状態で虹夏が去った場所を見つめた。
彼女の行動、その先にある心情を考える。
食器洗浄機の音が虚しく響く静かなキッチンで、考える。
「......」
熟考すればするほど、彼女の純粋な心に惹かれてしまう。
その、温かな気持ちに離れ難くなる。
それと同時に、そんな彼女の想いに答える事が出来ないどうしようもない罪悪感でいっぱいになるのだ。
次回『#21 真夜中と真昼の夢』「「見て下さい!」」。
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