サンサベリアさんからファンアート頂きました! https://d.kuku.lu/mnx88aspa
次、エチエチタイムに入ります。
誤字脱字はご愛敬。
数字が何度もでてくる為、今回に限り漢数字(一)から数字(1)に変更しました。
夜の帳が下りた頃。
寝静まった家、明かりのついた部屋の中。
「1枚......2枚......3枚............6枚足りないッ!」
地べたに座り込み、札を数える僕の姿があった。
『ゆーあれが欲しい!』その言葉から全てが始まった。
リビングで二人肩を並べソファに座っている時。
「60170円!!??」
「? お兄ちゃん?」
「ッ! 何でもない何でもない......」
最愛の妹に悟られまいと、身振り手振りで誤魔化す。
だが、口から洩れる笑い声は完全に乾いており、急激に肩を落ちる。
6万? 6万!? ゲーム機だけで6万!?
僕がゲームやってた時は2万円くらいだったのに!?
ゲームやらない間に何があったんだ、材質? スペック? それともかさまし!?
いやいやそんな事考えてる場合じゃない。
どうしよう、残り30170円。
日雇いのバイト探すか......僕のか細い人脈で探すのは無理。
じゃあ、貯金崩す? ............そ、それは最後の手段。1円でも多く残しておいて、将来ゆーに何かあった時の為に置いておかないと。
「後ゲームはこれね!」
「ゲーム?」
「? ソフトないとゲーム出来ないよ?」
遊里の突き出したチラシ。
そこに小さな指が刺さる先には『アーマードスフィア6』の名前と8690円。
瞳に飛び込んで来た強烈な数字の羅列に力が抜け落ち、遊里の膝に仰向けで頭をのせ横になる。
30170円+8690円=38860円。
アァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!
頭の中から飛んで行く、それらのお金で買えたであろう物達。
掴もうと天に手を伸ばすが、すり抜けてそのまま天上へと舞い上がっていってしまった。
『やっちゃえよ』
突然頭に響く僕に似た声。
『オメェにはまだ出来る事があんだろ?』
う、あるけど。あるけどもうあれは......。
『金が欲しいんだろ? ならやるしかねぇじゃねぇか』
うう......。
『諭吉だって使わない財布の中で眠ってるより、オメェみたいに金に汚ェ野郎の手で散財してもらった方が喜ぶぜ』
口汚いなもう一人の僕。
あの時の夜が脳裏に過ぎる。
イヤだと言っても何度もイカされ続け息が出来なくなった事。
恥ずかしい言葉を言わされた事。
お金と引き換えに自分の中の何かが消えていく。
あれは、あれだけはッ! ――
『他に道あんのか? ゆーの誕プレ買えてパーティー開けるそんな道がよ』
あ、ありましぇん......。
『ならやれ! 股を開け!!』
言い方!!
......でも確かにもうそれしか。
「お兄ちゃん? お顔真っ赤だよ?」
「やるしかない」
「やる? ――もしかしてお兄ちゃんもAS6やる!? じゃあ、コントローラーもう1個買おうよ!」
+6980円。
「もう許して!」
「やっぱり足りない。全然足りないッ」
嘆きながら勉強机の引き出し仕舞い鍵をかける。
45840円+パーティー費用で10000円。しめて55840円。
「1回で3万だから2回......」
魂の抜けた声。
ベッドに潜り込み、何とか売春をせずに切り抜けられないかという無理難題。
絶対に無理だと分かっているにも関わらず明け方まで無意味な堂々巡りを繰り返すのだった。
心を現したようなどんよりとした雨の日。
「もう一回やって上げても良いですよ?」
ちょっと偉そう。
「もう一回してくれませんか?」
下手にですぎ。
傘を差しながら下品なシミュレーションしていたら、気が付いたらスターリーへ着いてしまった。
「もう一回して下さい? して欲しい?」
そう呟きながら階段へ。
「あれは?」
取っ手に手をかけると目の前には階段を下りる女性の姿。
大き目の傘をさしていて全容は分からないが、背丈からPAさんか店長だと推察される。
あの傘から見える黒い袖。PAさんッ。
もう何でもいいから言うしかない。二人になれる機会なんて通勤の時ぐらいなんだから。
暴れる感情を押し留め、声を出す。
「あの!」
女は振り向こうと降りる足を止める。
顔を見られた状態で言う自信はない、今、この瞬間だ。
言ってしまえ、遊里の為に!
「P、PAさん。ぼ、僕ともう一度シテ下さい!!!」
言えた!
喜んでいいのか悪いのか分からないが、これで僕が頑張れば30000円は手に入る。神様お願いします。30000円は頑張って稼ぎますから残りの半分はどうかお恵み下さい。
「もう一度? 何の事?」
目の前には大きな傘を傾け、大きな
神様、時間戻して下さい。
「おはようございます今日はいい天気ですねこれから開店準備させて貰いますねそれじゃ」
やったちゃった!!
マシンガンの如く文字の弾丸を飛ばすと、羞恥で燃え上がる身体に耐え脇目もふらず星歌の横を走り抜け、スターリーの中へと逃げ込む。
「こんちにはトイレの掃除してきます」
「あ! お疲れ――ってはや! 明日香君!?」
競歩を維持しながら最短でタイムカードをきり、荷物をロッカーへ収納。
唯一の聖域である男子トイレへと駆けこんだ。
途中、虹夏の声が聞こえたような気がしたが、今はこっちが優先。
後で謝らないと。
一番奥の個室に入り鍵をかけると、便座の蓋を開かずにそのまま腰を下ろす。
幸か不幸か、早めに到着したから幾分か時間的猶予がある。僕達の名誉の為にも、何とか星歌に言う言い訳を考えるしかない
左膝に右腕の肘をのせ、右手で頭を支える。
「僕とシテとしか言ってないしまだ大丈夫なはず。挽回できる」
僕として......二人でする事と言ったら......ゲーム? でも僕ゲームやらないし、もし店長さんに「どんなゲーム?」ってツッコまれたら切り抜けられる自信がない。
なら楽器......店長さん元バンドマンで詳しいだろうし100%バレる。
他には――
コンコン
ノック!? もしかしてもう開店時間? でもまだ時間は、いやそんな事より早く出ないと。
「い、今出ます!」
鍵を解除し、扉を開くとそこには右手を腰に当てた星歌がいた。
心臓の高鳴りが手足に伝わる。
何て言えばいい? 何て言えばいい? あぁもう――
「げ、ゲームの事......なん......で、す」
静謐の圧に耐えかね、意思に反して回り出す舌。
「まだ何も言ってないんだけど」
「な、なな、ななな何であんな恰好を?」
「濡れるの嫌だから」
「......あ、掃除しないと」
脇を抜け、脱出を図るが星歌の手が阻む。
「な、何か御用でしょうか?」
「あいつと何してんの?」
「だだ、だからゲームを」
眉に溝が出来ていく。
「どんなゲーム?」
「......アーマードスフィア6」
「ふーん――」
徐にポケットからスマホを取り出しタップ。一歩前に出て画面をこちらに突き出す。
「まだ発売してないけど?」
「あの、あのあの「この前さ、友達と飲みに行ったんだよね」......はい?」
更に一歩こちらに近づき、一枚の写真を見せに来る。
「あ」
終わった。
画面にはPAさんの背中に覆いかぶさった僕の姿が。
膝から崩れ落ちそうになるのを寸での所で堪えるが、心は大荒れ見通し立たず八方塞に。
更に前に近づいてくる。
見えない圧に気圧され、再び便座に腰を下ろし星歌を見上げる。
「正直に言え」
今までに自分に向けられたことのない明確な苛立ちの姿に無意識に謝罪の言葉を吐露す。
「ごめ、んなさいぃ......」
「......わかった。じゃあ、代わりにあいつに聞く「待って下さい!」......」
観念した僕は洗いざらい全てを白状した。
今までギリギリの生活をしていたこと。
妹の誕生日の為にお金が直ぐいること。
PAさんの事は、僕が間違って酒を飲んで酔った末の行為だと言っておいた。
これなら、大方の責は僕が覆う事になるだろう。
クビかな。次の職場探さないと。噂広まなければいいんだけど。
そんな事を考えながら、膝を揃え俯いていると予想外の反応が返って来る。
「え? 付き合ってるとかじゃなくて?」
「はい」
「え? お、お金欲しいから、そ、そう言うことしてたって事?」
「......はい」
先ほどの苛立ちは何処へやら、顔を紅潮させ、後ろに下がりトボトボとトイレの外へ出て行ってしまった。
「あれ、店長さん?」
「後で、店、終わるまで、待って」
「は、はい」
予期していた事態とは全く違う光景に、茫然自失。
「――あ、掃除しないと」
暫く考えたが分からなかった為、喉に小骨が刺さったような状態で開店準備を進めていくのだった。
リョウと虹夏に挨拶を済ませ、開店。
「明日香君。今日なんかお姉ちゃんの様子変なんだけど何か知ってる?」
二人でカウンターに立っていると、唐突に話題が降って来る。
「な、何も知らないよ」
内心ギクリと思いながら、はぐらかす。
すると、虹夏はどこか落ち着きのない様子で言葉を続けた。
「そう......あの、あのさ明日香君」
「はいッ」
店長の事で仕事に集中出来ない。
虹夏達にはバレてない、よね?
「〇日って暇?」
「○日......は妹の誕生日だからお祝いするんだ」
「じゃ、じゃあさ! その誕生日のお祝い私も行っても、かな?」
例の事じゃなさそう?
「うん、大丈夫だけど......山田さんも来る?」
「わ、私ひとり――じゃなくてうん! リョウも一緒で!(何ひよってんの私!)」
「? 分かった」
後ろの方の言葉が聞こえたが、気にする事無く了承。
結局、身構えていたが勤務終了まで星歌との会話はなく、掃除を済ませ帰り支度を終わらせる。
その頃には、各々店を出て虹夏も「夕飯の支度しなきゃ」と今さっき出て行ってしまい、スターリーはライブハウスとは思えない静寂に包まれていた。
よし。
僕とPAさんとの件が穏便に済んだと願いつつ、カウンター側の椅子に腰かけてパソコンを弄っている星歌に小さな声で挨拶をし、扉の取っ手を掴む。
「待って」
星歌の声に身体が反応する。
まるで身体が金縛りを起こしたかのように動けないでいると、「こっちに座って。話あるから」何時も通りのつっけんどんな声音が鼓膜を震わせた。
クビはイヤだ。クビはイヤだ。クビはイヤだ。
ありとあらゆる神々に心の中で祈りを捧げながら、振り返り戻ると星歌の隣の席へ腰を下ろした。
少しの間。タイピング音が聞こえたと思ったらパソコンを閉じる音と共に話が始まる。
「今回の件でクビにするとか警察に相談するとかしないから」
「ありがとうございます」
我ながらか細い声。
「君の事情は知ってるし仕方なくしたって明日香君の言葉も信じる」
「はい」
「したり顔で説教する気もないし、今すぐやめろとも......言えない。やめさせた所で家族でも恋人でもない君にそれだけの大金援助出来ないしね」
「......はい」
「だから――」
臀部のポケットから札束を出し、カウンターに置き滑らす様に僕に渡す。
刹那の間。
その行動に対し困惑したが、直ぐに察した。
察したから、また、困惑した。
「......え? こ、これ」
椅子ごと後ろに下がろうとする僕。
そんな僕を一瞥。目を瞑り、決心した顔で頬を薄赤に染めながら、その言葉を口にした。
「私が買う」
蘇る彼女との記憶。
快楽でドロドロに溶かされた僕の姿。
トラウマになってしまったそれらの行為、不可抗力とは言え自分自身が誘っておいて、星歌の手を払おうと模索する僕がいた。
だが、瞳はカウンターに載っている六枚の諭吉に釘付けだ。
そんな、したくはないけどお金は欲しいと言う酷く卑しい自分自身にどうしようもない嫌悪感を覚えた。
俯き、お金と星歌を交互に見る。
「あいつと何をしたのかは知らないけど、私は明日香君が嫌な事はさせない」
揺れる意思。
伸びる手。
一年に一度の誕生日。
きっと色んな物が欲しいはず、色んな所に行きたかった筈。
それなのに、まだ小学生なのに我慢して文句も言わず......。
だから、だから誕生日は、誕生日くらいはッ! ――
「......」
「じゃあ、また電話するから」
「............はい」
カウンターに肘をつき、顎を手で支えながらそっぽ向く耳の赤い星歌。
きっと見たことのない表情をしているのだろう。なんて考えは浮かばない。
今はただ、自分の意思で身体を売ってしまった事に対して葛藤する以外、余裕がなかったのだ。
次回『#6 Little Seika』見てくだしゃい!
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